Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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夜はまだまだ続く...


File104.ET-14~トリニティの長い夜④~

~ナギサのセーフハウス 寝室~

side-ナギサ

 

「...ん...」

 

―――ふと目が覚め、上体を起こしてサイドテールのスマートフォンを手に取って時間を見れば、就寝から一時間も経っていないと分かる。

 

「...駄目ですね。どうしても寝付けません」

 

―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それまでこうしてこのセーフハウスに籠っているだけでいいのに、心中の不安は全く治まっていない。

 

―――"補習授業部"の三回目の試験に対して仕組んだ謀略は機能している筈だ。"正義実現委員会"を自治区境界の封鎖に回して『ゲヘナ』内の公園へと変えた会場へ移動出来ない様に封じた。それだけでも妨害としては効果的だけれど、尚も不安だった私は更に謀略を仕込んだ。

 『ゲヘナ』をあまり忌避していない人を遣って公園内に試験用紙を隠して、万が一私の謀略に勘付かれたとしても『受験出来る体制は整えていた』と取り繕える様に仕込み、更に境界の封鎖を万が一突破した場合を想定し、"温泉開発部"に対して"『会場内に源泉が湧く可能性がある』と情報を流して会場を妨害する様に仕向けた。

―――少しでも謀略が破綻する可能性があるならば、その要素は出来る限り排除しなければならない。私自身では効果的で、露見しにくい謀略を講ずる事が出来た自負はある。しかし、それでも不安は拭えていない。これ以上どの様な対策を―――

 

 

タタタ...!ズゥゥン...!>

「...?!」

 

―――外から微かに銃声と爆発音らしき音が聞こえ、ベッド傍の窓へと向かってカーテンを開ける。音が聞こえる方角を見回せば、このセーフハウスの近くにある礼拝堂の方から音が聞こえ、発砲炎、或いは爆炎らしき光の明滅が見える。

 

「い、一体何が...?巡回は、"警務室"と"ソーサーナイツ"は何を――」

 

 

ドンドンドン...!>

「ひっ...?!」

『――な、ナギサ様...()()()()()を受け取りました...じ、情報の重大性から、()()()()()ご報告申し上げたいのですが』>

 

―――突如寝室のドアが少し荒くノックされ、音に驚いて変な声を零すと、部屋の外で私の護衛に就いているフィリウス分派(身内)の方の()()()()()()声が聞こえて来て安心する。

 

「――分かりました。...今出ます」

 

 そう答えて寝間着の上にショールを羽織り、ポケットに[ロイヤルブレンド]を入れてドアに向かう。

―――私が自治区内外に多くのセーフハウスを抱えていることは周知の事実だけれど、このセーフハウスについては私自身と、今護衛に付いている方の他には片手に収まるだけの、派閥内でも特に信頼出来る付き人しか知らない。一人で思索したい時や、謀略や政争の重圧、疲れを吐き出す為の秘密のセーフハウス。私の弱さ、弱みを晒さない為の場として秘匿を徹底しているからこそ、()()()()()()()()()()()()がこのセーフハウスに居る筈が無いのだ。

 

「...(しかし、緊急の報告とは一体...今も聞こえている銃声や爆発音が関わっているのでしょうが...)」

 

 緊急報告とは何か考えながらドアに仕込んだ覗き窓を開けてドアの向こうを確認する。ちゃんと護衛の方が立っていて、私の応対を待っている事を確認してドアを開ける―――

 

 

 

パンッ...

「うっ...」

「――え...?」

 

―――ドアを開けた瞬間、一発の銃声と共に目の前で護衛役のヘイローが消えて(が気絶して)倒れる。

 

「――疑心暗鬼を拗らせている割には油断が多いみたいね、ナギサ様?」

「あ、貴女は...?!何者――」

 

―――紫のリボンを飾った白い帽子を被った金髪、紫のカラーに同色のリボンタイを締めた白いセーラー服とスカートを纏い、ブーツを履いた、明らかに"ティーパーティー"の人間ですらない生徒が[Webley Revolver Mk VI(リボルバー)]を、護衛を撃ったのであろうそれを右手に持って糸目で微笑んでいて、驚きと困惑で頭が真っ白になりつつも咄嗟に[ロイヤルブレンド]を抜こうと右腰のポケットに右手を入れ―――

 

 

ガシッ...!

チャッ...

「っ...?!」

「――そのまま真っすぐ後ろに下がって部屋に戻りなさい。...護衛と同じ目に遭って戻りたいならそれでもいいけれど」

 

―――一瞬だった。右腕を掴まれ、[Webley Revolver Mk VI(リボルバー)]の銃口が至近距離で私の眉間に突きつけられ、糸目が開かれて金色の瞳が私を見据えてそう指示を出される。[ロイヤルブレンド(得物)]を抜けないのでは今の私には抵抗する術が無い。驚きと困惑で混乱しながら、ゆっくりと後ろに下がって部屋に戻る。

 侵入者は[Webley Revolver Mk VI(リボルバー)]をしっかり私に向けたまま、気絶した護衛の方の襟を左手で掴んで引き摺って部屋に入れてからドアを閉めて施錠する。

 

「――素直でいい娘ね。...こんな形で対面したのは残念だけれど、こちらも時間がないの。ごめんなさい」

「...あ...貴女は一体何者ですか...?!どうしてこのセーフハウスに?!」

「矢継ぎ早の質問は相手を辟易させるわよ?...混乱しているでしょうから仕方ないけれど。でも、ヒントを与えるとしたら――どちらも、()()()()()()()()()()()()が絡んでいるわ」

 

 私の問に彼女は答えではなくヒントの様な言葉を返す。私の大切な幼馴染の親友はセイアさん、テンシさん、そしてミカさん―――

 

―――『...また転入、ですか?』

―――『そう!...()()()()()()()()()がまだ全然解決してない状況で持ち込んじゃったのは申し訳ないんだけどさ。ヴァンダル分校(向こう)の”自治委員会"から是非ともってお願いされたの。名前は――――』

 

「――ルイズ、さん...『旅籠ルイズ』さん...ですか?ミカさんの推薦で『ヴァンダル分校』から転入した...」

「――一つ正解。ふふ、『エデン条約』締結だったり、()()()の捜査なりで色々忙しかったでしょうにしっかり覚えていたみたいね」

 

―――ルイズさんは正解だと頷いて微笑む。

 裏切りの容疑者を掛けて"補習授業部"に入れたアズサさんと同様、()()()()()()()()『ヴァンダル分校』"自治委員会"の推薦を受け入れて転入させた生徒である『旅籠ルイズ』さん。アズサさんの様な()()()()()()()は聞いておらず、せいぜいが旅行、歩き回るのが好きなのか『トリニティ』中で姿を見かけるという噂位のもので一切マークしていなかった。まさかこの様な行動を取るとは...!

 しかし、前者はまだいい。問題は後者―――このセーフハウスに()()()()()()()()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()というならば、このセーフハウスの存在を()()()()()()()()()()()()()()という事だ。彼女に対してもバレないように秘匿を徹底していた筈なのに何故?

 

「...聡い貴女なら、後者の質問についての答えも察してるんじゃないかしら?だから、もう一歩踏み込んで、答えに至るヒントをあげる。――幼馴染の親友という大切な存在を想い、守ろうとする優しさ、献身の精神は素晴らしいものよ。でも...謀略を巡らすなら、そう言った感情を抜きにしなければ穴が生じるものよ。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()りしたり、ね」

「そ、それはどういう――」

 

―――このセーフハウスの存在を知ったのはミカさん。彼女は"パテル分派"首長(ホスト)であり、"パテル分派"は"ティーパーティー"諸分派の中でも屈指のゲヘナ嫌いを組織風土として持っている。故に『エデン条約』が提案された当初からミカさんは声高に反対していたし、私やセイアさん、テンシさんで何とか彼女と"パテル分派"を説得し、"ティーパーティー"の総意として条約締結推進を決定した。

 

「...いえ...まさか、そんな筈が...(でも、締結推進を手伝う一方でミカさんは()()()()()()()だった。あの時は"パテル分派"の組織風土を考えれば不満は当然だと流していた...そして、締結に向けて動いていた最中に――()()()()()()()()()()()()()())」

 

―――セイアさんが何者かに襲われ、一命を取り留めたもののすぐに"救護騎士団"の下から失踪した。あの事件以降からだった―――()()()()()()()()()()()()()()()()()のは。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()だと思い込んでいる様に。

―――困惑、混乱は未だ治まっていないのに、私の思考はどんどん冴えていく。

 

「...アズサさん...そして目の前のルイズさん...二人はどちらもミカさんが...」

 

―――アズサさんは『エデン条約』締結推進を決定したすぐ後に。ルイズさんはセイアさんが襲われ、失踪した事件の後にミカさんが転入を持ち込んで来た。そして、前述のミカさんの雰囲気と振る舞い。

 そんなミカさんらしくない塞ぎ込みに不安を覚え、セイアさんを襲った何者か―――()()()()()()()()()()()()()を炙り出す為に"補習授業部"を利用し、『シャーレ』も巻き込んで退学させる(排除する)事を目論んだ。この謀略は()()()()()()()()()()で、朝になれば"補習授業部"の退()()()()()し、紛れ込んでいる筈の()()()()()()()()()()。その筈なのに―――

 

タタタ...!ズゥゥン...!>

 

―――今も背後の窓越しに聞こえている銃声や爆発音。そして目の前のルイズさんは―――"補習授業部"に居るアズサさんと同じ、ミカさんの手引きで転入した生徒であり―――私が存在を疑っていた()()()()()()()()()()()()()。そして、その裏切りは二人を手引きした―――

 

「...嘘...嘘です...あり得ません...!」

「――残念だけれど、貴女の中で構築されているであろう推測の通りよ。貴女がすっかり信用し、守ろうと前に立っていたからこそ...()()()()()()のよ――()()()()()でね」

 

―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先程のルイズさんの言葉も合わせて脳内に構築される推測を否定しようと頭を振るけど、ルイズさんが無情に私の推測が正解だと告げる。

 

「...そんな...どうして...」

 

―――彼女の天真爛漫な笑顔。悪戯やちょっかいを掛ける時の無邪気な笑顔。お仕置きでロールケーキをぶち込んだ時の困惑した顔。脳裏に次々と大切な幼馴染の親友の表情が過っていき―――

 

 

『――ナギちゃんが悪いんだよ?幼馴染の親友だからって、無条件に信じちゃってさ。ま、今回はそのナギちゃんの優しさに助けられたよ。ありがとう、ナギちゃん――私の反抗に気付かないでいてくれて』

「...私は...ずっと、大きな勘違いを...」

 

―――()()()()()()()()()言葉の幻聴が脳裏に響く中。"補習授業部"に仕組んだ策謀に殆ど意味が無かった事に、ヒフミさん(大切な人)をも切る覚悟を持ってまで裏切り者を炙り出し、排除する意味が無かった事に気付かされて膝を付く。

 

「――そういうことよ。私は彼女の――『聖園ミカ』の()()()。アズサに裏切りの容疑を掛けたのは的外れではなかったけれど...謀略を講じるには優しすぎたのが悪手だったわね。

 でも...こうして貴女と対面したのはこんなネタばらしが目的ではない。()()の為に、こうして貴女を精神的に弱らせることは狙いだったけれど」

「...な、何を言って...?」

 

―――ルイズさんが片膝を付いて私に目線を合わせ、()()()()()()()()()()()()()を告げる事が真の目的ではないと告げ、私は困惑を隠さず顔を上げる。金色の瞳が私を見つめ―――

 

 

「――貴女には、()()聞きたいことがあるの。これは『聖園ミカ』から私に頼まれたことではないけれど...私には、私の故郷に居る()()()にとっては必要だから。こうして貴女と対面できる局面はそう簡単に狙えるものではないし、ね」

「...私に、何を聞きたいのですか?」

「まず、一つ――」

 

 

「――貴女は『アリウス』について、何か知っている?」

「...アリ、ウス...?」

 

―――ルイズさんから掛けられた問に再び困惑する。『アリウス』...恐らく土地の名前か学校名だろう。しかし、この『トリニティ』で『アリウス』という名前の分校は()()()()()()()し、土地の名前でも見聞きした事は無い。しかし、心の中に小さな違和感が芽生える感覚を感じ―――

 

「...そう。やっぱり、トリニティ(ここ)では()()()()()()になっているのね...知らないならそれでも構わないわ。二つ目は――」

 

 

「――『カタコンベ』に生徒を侵入させているのは、貴女?それとも()()()()?」

「...え...?」

 

―――二つ目の問に対して再び困惑する。『カタコンベ』は侵入する度に内部構造が変化する不安定な環境であり、過去の調査ではその特異性による行方不明者や怪我人を多く出した事により、危険地帯として侵入路は全て封鎖し、今現在も追加で発見されても封鎖を徹底している。しかし、最近は―――

 

「...『カタコンベ』は危険なので、私よりずっと前の世代から進入路は封鎖しています。それなのに無断侵入を図って、トラップにでも引っかかったのか気絶して侵入路の傍で倒れている所を発見される事件は度々起きていましたが...」

「...そう。恐らく彼女は、()()()()()()()...つまり元凶は別に...?

 

 問にそう答えると、ルイズさんは顎に手を添えて考え込む様にぶつぶつと呟く。問の目的が分からず困惑しながら見守っていると―――

 

 

チカッ...チカチカッ...

 

―――彼女の背後、私から見て左に据えている姿見。外から聞こえる銃声や爆発音を確認するべくカーテンを開けてそのままにしていた窓の外の景色が映っている。月明かりがこのセーフハウスの向かい側にある建物のシルエットを浮かび上がらせていて―――その屋上に()()()()()()()()()が見え、そこからチカチカとライトが明滅する光が見える。それは一定のパターン―――発光信号のそれに見えて―――

 

「...!(S、H、O、O、T...Shoot(狙撃)...?!...誰かは分かりませんが...ありがたい支援です...!)」

 

―――信号のパターンを読み取った結果に驚くけど、それをルイズさんに悟られない様に表情の変化を抑える。灯りも点けていない為、護衛も無力化されている今の状況は外部に気付かれないと思っていたけれど、誰かしらが異変に気付いた様だ。今、ルイズさんは片膝を付いてしゃがんでいて、私と目線を合わせている。つまりは射線が重なっている状態であり、このままルイズさんが()()()()()()()()()()()()射線が―――

 

...とりあえずは"お母様"に報告ね。――答えてくれてありがとう。聞きたいことは以上よ。じゃあ、私はこれで...っと、その前に――」

 

 

 

 

ガシッ...グイッ...!

「きゃっ...?!」

 

―――突然だった。何か結論が付いたのかお暇を宣言したルイズさんが私の寝間着の襟を掴んで無理矢理立ち上がらせ、グルリと私を窓に向けて左腕で私の腰を抱いて固定し、右手の[Webley Revolver Mk VI(リボルバー)]が私の右側頭部に突きつけられる冷たい感覚を感じ取る。

 

「――そろそろ、誰かしらが気付いて貴女を助け出しにくると思っていたわ。他が閉められている中で一か所だけカーテンが開いていれば、何かあると違和感を感じるのは当然。その窓の向かい側の建物...そこに狙撃手でも居るのでしょう?私もSR(狙撃銃)を使うから、何処からなら狙えるかは分かるわ。だからこそ――」

 

 ルイズさんはそう言って向かい側の建物に居るであろう救援に気付いていたと宣言し、右側頭部に当たっていた銃口の感覚が消え―――

 

 

 

 

「――改めて。さようなら、『桐藤ナギサ』」

 

ポスッ...!

「っ...!?」

 

 ()()()()()()帽子らしきものが突如被せられて視界が暗くなり―――

 

ピンッ...

 

カッ...!

「きゃっ...?!」

 

―――ピンが抜かれた音が聞こえた数秒後に閃光弾らしき炸裂音が響き、帽子で顔を覆われているけど咄嗟に目を閉じて耳を塞いでしゃがみ込む―――

 

 

 

 

「...様......サ様...!」

パッ...!

「うっ...!」

 

―――耳鳴りの中で誰かが私に呼び掛ける声が聞こえ、顔を覆っていた帽子が外されたのか視界に光が戻って一瞬白飛びする。

 

「――ナギサ様、ご無事ですか?!」

「っ...い、イクさん...?」

 

―――視界と耳鳴りが回復すると、目の前には"ソーサーナイツ"副長であるイクさんが普段の物静かで落ち着いた表情に焦りを浮かべて私を覗き込んでいた。その手には()()()()()()()()()()()帽子が握られている。彼女の後ろにはまだ気絶している護衛役が仰向けに寝かされていて、よく見れば応急処置の跡が見える。

 何故彼女がここに居るのかと戸惑うけど、先程狙撃の合図を秘密裏に送って来た人影を思い出して合点する。

 

「...何とか、無事です。――狙撃を試みたのは貴女だったんですね、イクさん」

「――左様でございます。礼拝堂にて今現在発生している銃撃戦以外にも、他の場所で同様の事態が発生する可能性を鑑みて周辺を捜索していたのですが...そこで偶然、こちらでナギサ様が何者かに銃を突き付けてられていた場面を目にしまして。

――ですが、下手人――『旅籠ルイズ』は貴女を盾にした上で閃光弾を炸裂させました。狙撃体勢を取ってスコープを覗いていた私の視界も寸刻なれど無力化されてしまい...その間に取り逃がしてしまいました。――"ソーサーナイツ"、首長(ホスト)を守る騎士としての役目を果たせず、誠に申し訳ございません」

「...謝る必要はありません。イクさんは最善を尽くしたのですから。そもそも、護衛も最低限の一人で、誰も知らないこのセーフハウスに一人で籠り、警戒を緩めてルイズさんを招き入れてしまった私にこそ非があるのです」

 

―――私の危機的状況に気付いた経緯を語り、畏まって片膝を付いて頭を深々と下げて救出の遅れと下手人(ルイズさん)を取り逃した事を謝罪するイクさんに謝る必要は無いと返す。

 そう、悪いのは私だ。このセーフハウスの存在を徹底的に秘匿していたが故に、まさか私が居る事を嗅ぎつける事は有り得ないと油断していたのだから。

 

―――その油断を()()はどの様に見つけ出して突いたのか―――知らなければならない。その結果が()()()()()になろうとも。

 

「...イクさん。一つ、お願いがあります」

「――何なりとお申し付けください」

 

 頭を下げたまま私のお願いを聞き入れる体勢を取ったイクさんを見つめ―――

 

 

 

 

「――私を、今も銃撃や爆発の音が聞こえる礼拝堂の方へ。――()()()()()()()連れて行ってくれませんか?もちろん、危険なことは承知の上です。...危険を犯してでも直接、確かめたいのです」

「...!――承知致しました。...ナギサ様が御自らそうされたいと仰られるのであれば」

 

―――私のお願いを受けてイクさんは数秒沈黙するけど、改めて頭を下げてお願いを受け入れる。

 

―――ミカさん。私の大切な幼馴染の親友の一人。彼女が何故クーデターを起こしたのか。彼女はアズサさんやルイズさんについても本来の素性を知っている筈だ。確かめなければ―――

 

 


~『トリニティ』自治区境界付近 上空~

side-"先生"

 

『――こちらアヤ!現場上空で監視中!戦闘は"シスターフッド"側が不利!礼拝堂から追い出され、礼拝堂を包囲しつつ中への再侵入を図って交戦中です!』

「"分かった!まだ介入はしないで監視に努めるんだ!――アロナ、現場付近の監視カメラをハッキングできるかい?"」

『お任せください!――ハッキング完了!映像を投影します!』

 

―――『トリニティ』自治区境界へ近付きつつある[CH-53A Sea Stallion("風紀委員会"のヘリ)]の機内。高速飛行能力を活かして先行して『トリニティ』へ戻ったアヤからの報告を受けて監視継続を指示し、アロナに現場付近のカメラのハッキングが可能か尋ねると彼女はすぐにハッキングを行い、仮想画面が『シッテムの箱』から投影される。

 

―――ステンドグラスや窓が割れ、そこから煙が立ちのぼる礼拝堂。割れた窓から銃撃やグレネードランチャー(GL)らしき砲撃が繰り出され、礼拝堂を包囲している"シスターフッド"の娘達が近くの店舗の看板や屋外のテーブル等で間に合わせのバリケードを構築して防ぎながら応戦している様子が映る。

 

「これは...辛うじて包囲は維持できていますが、"シスターフッド"側の陣形が不安定です。礼拝堂内――()()()()()()の攻撃を防ぐ手段に乏しいのは仕方ありませんが...このままでは包囲に綻びが生じてそこから突破される可能性があります」

「――"シスターフッド"は"正義実現委員会"と違って()()は専門外。私達のように、一般教養としての技能しか持ち合わせていない方が多い筈ですから。ギリギリとはいえ、包囲を維持できているのは偏にサクラコさん...いえ、サリエルさんの尽力でしょう」

「...サリエル様は"シスターフッド"のNo.2であると同時に、慈善活動や自治区内の管轄施設の巡視等の現場での活動を行っていますから。その指揮能力は"正義実現委員会"には劣るでしょうが、()()を行わざるを得ない事態も凌げる力となっています」

 

 映像を見てミヤコが挙げた分析に対してハナコが"シスターフッド"の努力を擁護する意見を挙げ、キクリがサリエルの指揮能力について補足する。どうやら現場によく出向くおかげで()()が比較的得意なサリエルの指揮能力によって包囲の破綻は辛うじて防げている様だ。

 

「......了解っす。――"先生"!メグム先輩、"参謀"から"先生"と話がしたいと。回線チャンネルを繋いでほしいっす!」

「"分かった。――よし、接続できた"」

 

 インカムでメグムと話していたらしいイチカの言葉に頷いてインカムを弄って回線を繋ぐ―――

 

『――こちらメグム。"先生"、聞こえているか?』

「"――こちら"先生"。通信良好だよ、メグム"」

『よし...イチカからゲヘナ"風紀委員会"のヘリでトリニティ(こちら)に戻っていることは聞いている。手続きは済ませているから、そのまま自治区内に進入して構わん。それで――"補習授業部"の試験の首尾はどうだったかな?』

「"採点はまだだけど――私が解答と照らし合わせてみたら、()()()()()()()()()()()よ。..."ティーパーティー"が採点の処理をしないならシャーレ(こちら)で採点して合格判定を出すつもりだけどね"」

『おぉ、そうか。少なくとも、将来有望な後輩を失う結果は避けられるか。――心より感謝する、"先生"』

「"補習授業部の皆が全員合格できるようにサポートするのが依頼だからね。その遂行に協力してくれたメグム達にこそ感謝したいよ"」

 

 メグムと通信を繋ぎ、"補習授業部"の試験結果についてそう答えると安心した声色でお礼を伝えられ、私からもお礼を返す。"正義実現委員会"の協力がなければ『ゲヘナ』への移動にはより時間が掛かっていただろう。メグム達の協力も"補習授業部"の試験合格に寄与している。

 

『ふむ...直接会って色々とお礼をしたい所だが――今、トリニティで起きている事態は"先生"も知っているな?』

「"...本当に、ミカがクーデターを?"」

『あぁ。...残念なことにな』

 

 メグムは私の確認にそう返す。

 

―――『せ、"先生"!緊急報告っす!さっきメグム先輩から電話があって――――』

 

―――試験が終わり、五人の解答を確認していた時にイチカから持ち込まれた報告には驚かされた。以前、ミカがお忍びで私に会いに来た時に聞かれた問の目的が現"ホストリーダー"代行、()()()()()()()()()()()()の為だったとは思わなかった。

 動機や理由は分からないけど、クーデターはすぐに止めなければならない事態。ミカのクーデターについて"風紀委員会"に、サクヤとイオリにも共有し、こうしてヘリを出して貰っている。

―――閑話休題。

 

『――だが、"シスターフッド"が鎮圧に動いたのは僥倖だ。どうやら"ソーサーナイツ"総長、比那名居テンシが()()()()()()ようだが...シャーレ(そちら)が先行させて送り込んだ射命丸アヤ(空の目)による状況報告の通り、我々"正義実現委員会"と比べて荒事は不得手だ。このままでは礼拝堂に立て籠もっているクーデター勢力を逃がしてしまう可能性が高い。そこで――"先生"、シャーレの力を借りたい』

「"――勿論、『シャーレ』はできる限り協力するよ"」

『...即答か。頼もしくもあり、不安でもあるが...それは兎も角。――難しいことは頼まない。単に、我々"正義実現委員会"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ど、どういうことっすかメグム先輩?!」

 

 メグムが『シャーレ』への頼みを明かすと、回線を共有しているイチカが驚いた様に声をあげる。

 

『落ち着けイチカ。――現在、我々は"ティーパーティー"の()()によって自治区境界の封鎖を行っている。クーデターという緊急事態に対して、当然治安維持組織たる我々は動くべきだが...このトリニティでは命令違反を突かれて後からどんな批判を、政治的介入を受けるか分かったものではない。

 そこで――シャーレが持つ介入権と、生徒雇用権を利用したい。クーデター鎮圧の迅速化、円滑化の為にシャーレが介入し、"正義実現委員会"の全生徒を指揮下に置く...ということだ。シャーレの権限は生徒会――"ティーパーティー"であろうと拒否できない。シャーレを利用したことは後から後ろ指を差されるだろうが、その対応は私が引き受けよう。――"先生"、引き受けてくれるか?』

「"――分かった。現時刻を以て、『シャーレ』は『トリニティ』内で発生したクーデターの迅速な鎮圧の為に捜査介入権を行使する。また、"正義実現委員会"所属の全生徒を対象として、生徒雇用権を以て『シャーレ』指揮下に置く"」

『――命令書の作成、完了です!』

「"...よし。これで"正義実現委員会"は『シャーレ』指揮下として動けるよ!"」

 

 メグムがイチカを宥める様に『シャーレ』を利用する目的を明かし、彼女の確認に対して頷いて『シャーレ』の介入を宣言し、アロナが命令書を『シッテムの箱』内で作成し、画面に指を走らせてサインする。

 

『――感謝する、"先生"。"ティーパーティー"の窓口は()()()沈黙しているが、命令書があれば後から提出しても納得せざるを得ないだろう。では――早速動くとしよう。イチカはそのままシャーレ、"補習授業部"の傍に付け。伝令役が必要だからな。では、一旦失礼する』

 

 メグムは謝意を述べ、イチカに指示を出して"正義実現委員会"を動かすべく通信を切る。

 

「...ど、どういうことっすか?『シャーレ』は分かるっすけど、"補習授業部"の皆さんは試験も終えて無事に全員合格っす。自分は"補習授業部"を合宿所に送り届けてから委員会に合流しようと考えてたんすけど...」

 

―――通信を終えたイチカが困惑しながらヒフミ達"補習授業部"の面々に目を向ける。確かに、"補習授業部"は全員合格が確定して退学を避ける事が出来た。イチカの言う通り、他にすべき事は無いけれど―――

 

「――私達の目の前でまさかの事態が起きて、その対処に追われているのに見て見ぬフリはできません!」

「ヒフミの言う通りだ。聞いていると、明らかに"正義実現委員会"が自治区内に居ない隙を突いた緊急事態だ。――治安維持組織でなくとも、手伝えることはある筈だ」

「"正義実現委員会"の皆さんは、私達を『ゲヘナ』の会場へ送り届ける支援をしてくれました。どこまで返せるか分かりませんが...恩返しをするのは当然です♡そう、■■が■■に入れば■■を出すようn「エッチなのはダメ!死刑!まだ復帰してないけど、"正義実現委員会"所属の身でクーデターなんて見過ごせないわ!相手がミカ様、首長(ホスト)相手でも止めるわ!」...ふふ、流石コハルちゃんですね♡」

「――コハルさんと同様、まだ正式に復帰していませんが、"シスターフッド"は今もクーデター勢力と交戦しているのです。――不慣れな方が多い()()なれど、クーデターを阻止しようと努力している皆様を無視する程薄情にはなれません」

 

―――五人それぞれ言葉や理由は違うけど、試験受験の為に支援してくれた事への恩返しをしたい。クーデター発生を無視できないという意思は共通している。

 

「"――そういうことだね。"補習授業部"は私が直接指揮する。君はメグムからの指示通り、伝令役をお願いするよ"」

「...了解っす。あまり人手が多すぎても場が混乱するだけっすけど、『シャーレ』が、"先生"が居るなら大丈夫と信じるっすよ」

「"――ありがとう、イチカ"」

 

 イチカは納得した様に頷いて"補習授業部"の支援を受け入れ、私はお礼を言う。

 

「――『トリニティ』自治区内に入りました。当機は何処に降りればいいでしょうか?」

「あ、ちょっと待ってくださいっす。...現場に近すぎても混乱する可能性もあるし、ここは...」

 

―――イチカがパイロットの"風紀委員会"の娘からの質問に答えるべく席を立ち、スマホで地図を開いて着陸地点を話し合う。その背中を確認しながら仮想画面に目を向ける―――

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで、ミカのクーデター決行カミングアウトでナギサ様脳破壊です。多分ヒフミのあはは...より効果大だと思う。

さて、次回で多分クーデターは決着する...筈。
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