Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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ということでクーデター後後日談、ミカとアリウスの出会いについてです。


File107.ET-17~Pater(父なる神)の乙女はかく語りき①~

~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~

side-ミカ

 

「...頃合いかな」

 

―――ポットでの蒸らしを終え、()()使()()()()()()()()()ティーカップに紅茶を注ぐ。茶葉も()()()()()()()()()()()で、湯気と共に鼻をくすぐる香りも全然安っぽいけど少しマシにはなった気がする。

 

「...うん。やり方自体は合ってるかな。()()()みたいにはいかないかぁ...」

 

 一口飲めば薄い香りが鼻をくすぐり、若干の渋みが混ざった甘さが喉を通る。

 

―――『...美味しい...香りも味も安っぽい感じはあるけど...あの茶葉からこんなに美味しい紅茶になるなんて』

―――『ふふ、口に合ったみたいでよかったわ。トリニティ(貴女の学校)で飲んでいるものと比べれば、質は悪いのは事実。でも、完全には補えないけど低品質でも美味しく淹れる方法はあるのよ』

 

―――()()()。シンキ先生が()()()()()()紅茶は、目に見えて安っぽい低品質な茶葉から淹れたとは思えない程に美味しかった。何となく興味を持って淹れ方を教えてもらったけど、まさかこうして淹れ方を実践する機会が来るとは思ってもみなかった。

 

「「()()()()()()()を許すなー!」」>

「トリニティから出て行けー!」>

「厳正な処罰をー!」>

 

「...朝から()()()娘達だなぁ。確かに私は処罰されるべきだけど、時期が悪すぎるじゃんね」

 

―――鉄格子が嵌められた窓越しに"ティーパーティー"内の()()()()()()の娘達による()()の声が聞こえ、その中にはパテル分派(身内)の娘数人の声も混ざっていて、()()()()()()()()()()()()()と思いつつ紅茶を啜る。

 

―――昨夜、私が起こしたクーデターは失敗に終わった。『アリウス』の娘達が"シスターフッド"の攻撃を止めている間にテンちゃんを撃破して、その勢いで"シスターフッド"の包囲を突破―――ナギちゃんのセーフハウスに突入して()()()()()()()()()()()()

 そんな計画はしぶとく、互角に渡り合うテンちゃん。いつの間にか"シスターフッド"の救援に来ていたツルギちゃん達"正義実現委員会"。そして、騒ぎを聞き付けたのか現場に来ていたナギちゃんと―――()()()()()()()()()()()()()()()()。予想外の事態で完全に破綻した。

 私はこうして"ティーパーティー"で管理している特別監獄に、制圧された『アリウス』の娘達は"正義実現委員会"の重営倉に収監されている筈だ。

 クーデターの失敗を悟った時は、ルイズちゃんに支援させて『アリウス』の娘達を()()()()()()()()()()()()()備えも講じていたけど、彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女は今、何処で何を―――

 

 

ガチャ...キィィ...>

「――!」

 

―――ふと、私が収監されている監獄――というには窓や扉の鉄格子以外は少し安物だけど、貴賓向けに整えられた豪華な調度品や広さの個室だけど――の出入口が開く音が聞こえる。はしたないけど紅茶を一気に飲み干してカップを置き、音が聞こえた方―――監獄内の面会室に向かう。鎮圧されて収監された時には夜が明け始めていた。だとしたら監獄(ここ)に来るのは―――

 

 

「――おはよう、三人共。そろそろ来るかなって思ってた」

「...おはようございます、ミカさん」

「――おはよう、ミカ」

「おはよう、ミカ」

 

―――鉄格子で部屋の真ん中を仕切られた面会室。ドアを開けて中に入り、鉄格子の向こう側で肩を並べているナギちゃん、テンちゃん、セイアちゃんと挨拶を交わしながら椅子に座る。

 

「――この監獄に"ティーパーティー"の人間が収監されるのは何時振りだろうね。無理を言って大急ぎで準備をさせたんだが...不自由していないかい?」

「あはは、収監って行為そのものが自由を奪ってるのにそんなこと聞くんだ?...まぁ、ちょっと狭いのと、窓が悉く鉄格子で補強されてる点以外は不自由ないよ。お茶も食事も調度品も、普段使いしてるものと比べたらちょっと質は落ちてるけど――私は罪人だからね。その位は甘んじて受け入れるよ」

 

 セイアちゃんの問に皮肉を交えながらそう答える。―――この特別監獄は『トリニティ』成立初期、"ティーパーティー"内で重大な校則違反を犯した娘を収監する為に作られた、歴史ある施設だ。所属している娘の実家が大きかったり高い家格を持っている場合もあるから、罪人と言えどもそれ相応の待遇を整えていると聞いていたけど...まさか私が利用することになるとは思ってもみなかった。

―――閑話休題。

 

「――それで、朝から私を訪ねてきたってことは...クーデターのことを聞きたいのかな?それは調査官の役目の筈だけど」

 

―――ナギちゃん達の面会の目的は察しているけど敢えて尋ねる。

 

「確かに、クーデターの動機、動員人数や関係者の有無を調べるのは"正義実現委員会"、"ティーパーティー"から選出される調査官の役目です。ですから――この面会は個人的な、幼馴染の親友としての面会です」

「――幼馴染の親友。気を許せる相手だからこそ話せることもあると思うの。...それでも黙秘するなら、その意思を尊重するわ」

「...ううん、ちゃんと話すよテンちゃん。私がどうやって『アリウス』を知って、あの娘達を救おうと思ったのか――」

 

 椅子に座り直し、三人の顔を見回す―――

 

 

「――あれは、『エデン条約』締結推進が決定してすぐだったかな」

 

 

―――時を遡る―――

~『トリニティ』聖堂街地区~

side-ミカ

 

「あ~あ。本当に条約締結を目指すことになっちゃった...仮に締結できたとしても、『ゲヘナ』がまともに条約を守れるとは思えないじゃんね」

 

―――聖堂街地区を歩きながら、午前中の"ティーパーティー"総会での決定を思い返して愚痴を零す。今は付き人も従えず一人だから窘める言葉も、共感する言葉も返って来ない。

 『エデン条約』―――"連邦生徒会長"が提案した、"ETO(エデン条約機構)"を設置して『トリニティ』と『ゲヘナ』間で治安維持組織協力を行う為の条約。

 確かに、『トリニティ』と『ゲヘナ』の境界で不良の暴動を鎮圧し、()()()()()()()暴動を働いたかで"正義実現委員会"と"風紀委員会"が揉めて銃撃戦になりかけたなんて報告を聞いたことがあるし、"ティーパーティー"――というよりはナギちゃんやセイアちゃんが主にだけど――も"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"との交渉や折衝に動かざるを得ないから、『エデン条約』が成立すればその面倒は無くなるだろう。

 

―――だからと言って、両校の治安維持組織の活動が円滑化するだけで『ゲヘナ』の野蛮さ、暴力性が和らぐ訳じゃない。『トリニティ』では勿論、キヴォトス中で活動している"温泉開発部"とか"美食研究会"とかの様な娘達は治安維持組織の即応性、柔軟性が強化された所で止まらないだろうし、そもそも組織間で銃撃戦になりかける"正義実現委員会"と"風紀委員会"が仲良く動けるかも怪しい。現世代だと副委員長のハスミちゃんも、『ゲヘナ』産の茶葉と聞いただけで淹れられた紅茶を捨てる位に『ゲヘナ』嫌いで有名だし尚更だ。でも―――

 

「...私のゲヘナ嫌いが学校としての決定には関係ないのは分かってるけど...うーん...やっぱり、納得できないなぁ..."ホストリーダー"をセイアちゃんから私に変えられれば覆せるかもしれないけど――」

 

 

「――遅かったですわね」>

「――申し訳ございません。友人と出会してしまいまして...」>

 

「...ん?」

 

―――ふと、左の横道から小さく会話を交わす声が聞こえて来て、チラリと目を向ければ三人の生徒が集まっている様子が見えた。それぞれ"シスターフッド"、"ティーパーティー"、一般生徒の制服を着ていて、傍から見れば単なる友人なり知り合いなりでの集まりに見える。

―――集まっている場所、顔を寄せ合ってヒソヒソと会話している様子と、"ティーパーティー"の娘が過去の派閥争いで負けて没落した所の娘である事を除けば、だけど。

 

「なんだろう...?ヒソヒソ話なら誰しもやることだけど...」

 

 ヒソヒソ話という行動自体はよくある事だけど、私の感覚が違和感を感じ取り、その感覚に任せてフラリと路地に入り、足音静かに、少し先に置かれた大きなゴミ集積ボックスの陰に片膝を付いて隠れ、翼をできる限り小さく畳んで聞き耳を立てる。

 

「さて...装備の不備、弾薬も不足ありませんね?」>

「えぇ、準備は万端ですわ。...今回こそは、()()()を見つけましょう」>

「えぇ。――()()()のご期待に応えられれば、没落した私達の復権も夢ではありません。今回こそは...」>

 

―――会話が終わり、三人の足音はより路地の奥へと遠ざかっていく。静かに顔を出して覗けば、路地の奥へ歩いて行く三人の背中が見える。

 

「...怪し過ぎる。行動次第ではセイアちゃん達に報告かな」

 

 そう呟き、[Quis ut Deus(愛銃)]のコッキングレバーを引いてチャンバーに弾を装填し、ボックスの陰から出て足音静かに距離を保ち、すぐに物陰や横道に隠れられる様に位置取りを維持しながら尾行を始める。―――興味、関心を抱かない物事は適当に流す性分の自覚はあるけど、目の前で何かしら怪しい行動を見せられては、その目的を知って質したいと思う正義感は私にもある。

 

「――着きましたね」>

「さて...()()()()()装置は...」>

「あぁ、そのタイルだった筈です」>

「これですね。っと...!」>

 

―――幸いバレる事無く尾行を続けていると、水が枯れて落ち葉や枝が溜まった小さな噴水とベンチしか無いこぢんまりとした公園らしき空間に入る。

 私は傍の石柱に隠れて覗き見る。三人は噴水の一角に集まって何かを探す様に噴水やタイルを触り始め、"シスターフッド"の娘が一枚のタイルに触れ、持ち上げる―――

 

―――ガコッ...

ゴゴゴ...!

 

「――!」

 

―――すると、噴水そのものがゆっくりと動き始め、地下に降りる階段らしき開口部が現れる。

 

「――では、行きましょうか」>

「地図はありますわね?」>

「えぇ、ここに」>

 

 三人はそんな会話を交わし、ポーチや肩掛け鞄から各々懐中電灯を取り出して点灯させて開口部に入っていく。

 

「...うん、『カタコンベ』の出入口だね。まさかこんな所にもあったなんて...」

 

 三人の姿が消えた様子を確認してから物陰から出て、本来の位置からずれた噴水と、陽の光で照らされた古臭く急勾配の螺旋階段で埃が漂う開口部を見下ろして呟く。

―――『カタコンベ』。『トリニティ』成立以前、今の諸分派が一学校として独立していた時代から存在していたという、未だに全容、実態が殆ど解明されていない地下空間。過去には何度か調査が行われていた記録が遺っているけど、その悉くが『カタコンベ』の特異性―――入る度に、酷いと探索中も不定形に変わる構造によって怪我人や()()()()()を大勢出して早晩中止に終わっていて、十数年前から"ティーパーティー"の命令によって侵入が禁止されている。加えて、侵入禁止措置を取った後も自治区のあちこちで偶に新たな出入口が発見されていて、その通報がある度に"ティーパーティー"が真偽の確認と封鎖措置を行っている。

 

―――三人が入っていったこの出入口も、今まで見付からなかったそれなのだろう。そこそこ人通りが多い聖堂地区だけど、横道を入ったこんな奥まった場所では人も少ないし、『カタコンベ』の出入口は目の前の噴水みたいに既設の設備やモニュメントに偽装、隠蔽されているからそう簡単に見付からないだろう。だからこそ―――

 

「――確認しなきゃ。あの三人がなんで出入口の存在を通報していないのか。...何度も侵入しているっぽいし、明らかに怖いもの見たさのそれじゃない」

 

―――[Quis ut Deus(愛銃)]のコンディションを確認し、スマホのライトを点灯させて階段を降り始め―――

 

ゴゴゴ...

―――ガコン...

 

「――!...時限式だったんだ。古い物なのによくできてる...」

 

―――私の背後で何かが動き、差し込んでいた陽の光が消えてしまってスマホのライトがまだ下に伸び続けて暗闇に消えている石の螺旋階段を照らす。どうやら噴水が元の位置に戻ったみたいだ。足を止めて振り向いて出入口があった方向をライトで照らして回れば、レバーらしき鉄の棒とスリットが見える。

 

「...ちゃんとこっちから開ける手段もあるんだ。もし一方通行だったら、私なら破壊できる自信があるけど、あの娘達だと爆薬でもなかったら昔の記録みたいなことになるよね...いや、何度か使っているみたいだし、ここが一方通行じゃないことは知ってたからこそ、かな」

 

 レバーを見上げながら三人がこの出入口を何度か利用しているのは間違い無いと確信し、再度階段を照らす。

 

「――バレないようにしなきゃだけど、それでも急がないと」

 

 気配を探れば少し遠いけど三人の気配を感じられて、後を追うべく足早に階段を降りて行く―――

 

 

~『カタコンベ』~

 

「――この回廊は...」>

「...あぁ、このパターンですわね。でしたらこちら、このまままっすぐです」>

「幸い、今のところは新しい構造、変化はないみたいですね...」>

 

―――三人の会話が止まり、足音が回廊に響き始める。それを確認して私も柱の陰に隠れながら彼女達に気取られない様に距離を保ちながらついて行く。

 『カタコンベ』に侵入してから一時間位は経っている。()()()()()()()()()礼拝堂らしき空間や墓所、そして今歩いている回廊...その中で不思議なのは、地下空間なのに窓から月明かりみたいなぼんやりとした光が差し込んでいる事だ。おかげでスマホのライトに頼り切る必要は無いけど、それでも視界は悪い方だ。

 

「しかし...本当に居るのでしょうか」>

「それを確かめる為にこうして()()()侵入、探索しているのでしょう?」>

「――最近は他の同志達も()()()()()()()()()気絶させられ、地上に戻されている事件が増えつつあります。...()()()()()()でしょう」>

 

「...!(やっぱり...何度も侵入してるんだ。しかも他にも居るの...?)」

 

―――三人の会話が聞こえ、新たな事実に驚く。どうやらこの三人は何度も侵入していて、しかも三人以外にも同様の事をやってる娘が居るみたいだ。『トリニティ』には色々な派閥があるけど、あの三人みたいに異なる派閥同士で集まる派閥は見た事が無い。

 単なる友達同士で、ティーパーティー(生徒会)が侵入を禁じている場所に入ろうとする怖いもの見たさで挑戦している娘の可能性もあるけど...三人がこれまで交わしていた会話から推測すれば明らかに―――

 

 

―――ダァンッ!

「がッ...?!」>

「――?!」

 

―――突如回廊に響く重厚な狙撃音。"ティーパーティー"の娘が頭に銃弾をもらったのか仰け反りながらヘイローが消えて(気絶して)倒れる。

 

―――バッ...!

タタタタ...!

「きゃッ...?!」>

 

―――間髪入れずに、三人の前方の横道からコートの白いフードを被り、ポーチ付きのベストを身に付けた淡い紫色の髪を太いおさげ二本で結い上げた娘が飛び出して[Scorpion EVO3 Pistol(サブマシンガン)]で一般生徒の娘を撃ち倒し。

 

―――バッ...!

ガッ...!

「ッ...?!」>

タタタタ...!

「がッ、ぐぁ...?!」>

 

―――お腹を晒したタートルネックのインナーにハーネスを装備し、タイトなパンツにベルトとホルスターを装備し、白いロングコートを羽織り、インナーが青い長い黒髪に帽子を被り、半面マスクを付けた娘が回廊上部の梁から飛び降りて"シスターフッド"の娘を蹴り倒し、[SIG M400 ENHANCED(アサルトライフル)]の銃口を眉間に押し付ける様にしてゼロ距離で撃って気絶させる。

 

「...あの娘達は一体...?」

 

「――制圧完了。()()()、こっちに来てくれ」>

()()()三人みたいだね。――()()()、出てきていいよ」>

「...昨日に続いてだね。()()()()()拘束しておくよ」>

 

―――淡い紫色の髪の娘が出て来た横道から、黒のパーカーの上に二人と同じ白いコートを羽織り、大きく破れた黒いパンツとブーツを履いた、暗いショートヘアの茶髪の娘が気だるげな表情で姿を現し、気絶した三人を見回しながらコートのポケットからロープを取り出し、しゃがんで三人が持っている銃を回収していく。

―――見た事が無い制服。見た事が無い生徒らしき娘達。不安定で不定形に構造が変わる『カタコンベ』に、まさか生徒()が、それも―――キヴォトスの生徒(私達)と同様の特徴を持った存在が居るなんて。これは―――

 

「...(ナギちゃん達に報告しないと。まさか『カタコンベ』に()()()()()()()()()生徒らしき娘が――)」

 

 

―――コツン...

「あっ...やば...!」

 

―――驚きと戸惑いで、足元転がっていた小石に気付かなかった。元来た道を戻ろうと足を動かした瞬間、靴の爪先がその小石を回廊、生徒らしき娘達の方へと蹴り出して音が回廊に響く。

 

「「――!」」

「――誰だッ?!」

「――ま、待って待って!撃たないで!」

 

―――ここで撃ち合いは悪手。咄嗟にそう判断して[Quis ut Deus(愛銃)]の引き金から手を離して左手と共に右手で掲げて戦うつもりはないと宣言しながら姿を現す。

 

「そのまま銃を地面に置いて手を後頭部で組め!」

<「...あの制服...この娘と同じ"ティーパーティー"みたいだね」

<「だね。――ヒヨリ、一応狙撃狙撃体勢取っておいて」

 

 [SIG M400 ENHANCED(アサルトライフル)]を構えたまま淡い青の瞳を鋭く細めた半面マスクの娘の指示に従って、[Quis ut Deus(愛銃)]を足元に置いて手を後頭部で組む。彼女の背後では二人が小声で何か会話を交わしている。

 

「――所属と氏名を名乗れ」

「...『トリニティ総合学園』三年生。"ティーパーティー"、"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』」

「...やはり"ティーパーティー"の人間だったか。それも――首長(ホスト)ということはトップ層だな」

 

 指示に従って名乗ると、彼女は青い瞳に()()()宿()()()()()眼光を宿す。

 

「――ミサキ、ボディチェックを頼む!...ヒヨリはどうしている?」

「了解。...ヒヨリは合流中だったけど、一応狙撃体勢を取らせてる」

「そうか。...聖園ミカ、そのまま動くなよ」

「――ベタベタ触ることになるけど、少し我慢して」

 

 ミサキと呼ばれた娘が指示を受けて歩み寄って来て、そう断って私の身体や制服を触り始める。

 

「――並行して尋問を始める。貴様はあの三人の仲間か?」

「...所属は同じ『トリニティ』だけど、三人の行動とは関係ないよ。寧ろ...行動次第では止めようと思ってた」

「...何だと?あの白い制服は"ティーパーティー"だろう」

 

 半面マスクの娘は私の答えに対して怪訝そうに眉を顰め、ロープで拘束される"ティーパーティー"の娘に目を向ける。

 

「確かにそうだよ。でもその娘は過去に派閥争いで負けて没落した派閥の娘だから、私の"パテル分派"はあまり関わりがないの」

「派閥争いか...むむ...コイツは関係ないのか...?なら誰が...貴様があの三人と関わりがないのは一応理解した。ならば――どうやってここまで来た?」

地上(うえ)であの三人を見かけてさ。何回か侵入してたみたいだし、気付かれないように尾行してここまで来たの。"ティーパーティー"――生徒会としては、良からぬことをやっているなら見逃せないじゃん?――それは貴女達についても、だけど」

「...本当に、今この状況になるまで何も知らなかったんだな」

 

 半面マスクの娘の問にそう答えると、彼女は戸惑った表情を浮かべる。

 

―――スッ...

「...()()()()()。"()()()()"の所に連れて行ってみよう」

「――は...?な、何を言っているんだ()?!」

「...()、本気で言ってるの?」

 

―――ふと、三人の拘束を終えたらしい淡い紫色の髪の娘が私達の下に歩み寄ってそんな提案を挙げ、()()()()()と愛称らしき呼び名を呼ばれた半面マスクの娘は驚いた様に声をあげ。ボディチェックで丁度スカートの裏から[Quis ut Deus(愛銃)]の予備マガジンを取り出したミサキと呼ばれた娘も驚いているのか少し目を見開いて顔を上げる。

 

「"()()()()"も言ってたでしょ?"可能なら『トリニティ』の娘と話したい"って。今までトリニティ(向こう)は問答無用で私達を撃破しようとしてきたけど...今回は『トリニティ』側の事情、動機を知れるチャンスかもしれない」

「確かにそう言っていたが...聖園ミカ(コイツ)が無知を装って自治区に潜入して攻撃する可能性もあるだろう!」

「銃を預かっておけば大丈夫でしょう?それに、反故にして自治区で暴れられたとしても...その時はその時だよ、サッちゃん。"()()()()"に鍛えられた私達なら、そんな事態になっても大丈夫」

 

 姫と呼ばれた娘はサッちゃんの反論にそう返す。私がカタコンベ(この場所)についても、目の前の娘達についてすら何も知らないのは確かな事実だけれど、それを素直に信じられないのは拘束された三人やその同志達なる娘達がこの娘達を何度も攻撃しているからみたいだ。だからこそ―――

 

「――お話できるなら、私も是非色々聞きたいな」

「...そうやって私達から情報を聞き出して、"ティーパーティー"に報告でもするのか?」

「学校運営を預かる生徒会の人間だからね。それが然るべき対応だろうけど――貴女達がどんなことを教えてくれるか。それ次第かな。自治区内に知らない学校の生徒が居るかもしれないからこそ、対応を決める為に情報が必要だし」

「ほら、この人も乗り気だし。――もしかしたら、私達を攻撃する理由も併せて分かるかもしれないよ」

「...うーむ...」

 

 私の意見に便乗する様に()と呼ばれた娘が賛意を示し、サッちゃんは悩まし気に唸る。―――『トリニティ』の娘が、首長(ホスト)の一人である私でも把握していない何らかの派閥、それに類する集団がこの娘達を攻撃している。だから、この娘達から情報を得ても私じゃ対価は出せないけど―――

 

「――分かった。確かに、これは動機を知るチャンスなのかもしれない。だが...もし私達を、故郷を害する素振りが見えたら、その時は――あの三人と同じになるからな」

 

 十数秒程悩んだサッちゃんはため息を吐き、私と()と呼ばれた娘の意見を受け入れ、私をキッと睨み、ロープで後ろ手に手を拘束されて転がされている三人を一瞥する。

 

「――分かった。貴女達を害することはしないよ」

 

 警告に頷き、地面に置いた[Quis ut Deus(愛銃)]を手に取ってコッキングレバーを引いてチャンバー内の銃弾を排出しながら宣言し、[Quis ut Deus(愛銃)]をサッちゃんに差し出す。人並み以上にフィジカルも強靭である自負はあるけど、流石に徒手空拳で銃を持ったこの娘達相手は厳しい。

 

「...分かった。今はその宣言を信じよう。――綺麗な銃だな。あの三人もそうだが、地上(うえ)ではこうして飾るんだな」

「銃は相棒、自身の半身。個性を出す為に飾るのは普通のことだよ。...そういうのに無頓着、無関心な娘はそうでもないけど」

 

 [Quis ut Deus(愛銃)]を受けとったサッちゃんはしげしげと不思議そうに眺め、そう答える。―――サッちゃん達が持っている[SIG M400 ENHANCED(アサルトライフル)]はラインペイントが数本と何か文言を描いているだけで、殆どペイントも装飾も施されていない、元の銃器そのままの色だ。少なくとも私は見た事が無いけど、こういう大してペイントも装飾もしないまま携行している娘も居ると聞いた事はある。この娘達もそういう性格なのだろうか。

 

「――では、私達の自治区に案内を...その前に、あの三人を地上(うえ)に送り返そう」

「先にそっちの方がいいね。ヒヨリも呼んでおく...こちらミサキ。ヒヨリ、見えてたと思うけど......うん。リーダーと()が決めたから従うしかないでしょ。......じゃあ、合流お願い

「それはいいけど...その三人と私が来た道は結構遠いよ?」

トリニティ(そっち)のあちこちに出入口は沢山あるからな。私達も全て知っている訳ではないが、ある程度使える出入口は知っている」

「へぇ...」

 

 サッちゃんは私の懸念に対してそう答える。―――全てではなくとも出入口を知っている。それはトリニティ(私達)よりも『カタコンベ』の事をよく知っているという事。それは即ち―――

 

「――一応、自己紹介はしておこうか。私は『秤アツコ』」

「――ッ?!()、あくまで"()()()"にも話を聞いてもらうだけで、そこまで気を許した訳では――」

「――ここから自治区は少し遠いし、もしかしたら()()()()()()()()()()()かもしれない。流石に道中で何か事故があった時に迅速に意思疎通できないのはマズいよ。だから、名前くらいならいいと思う」

 

 淡い紫色の髪の娘―――アツコが自己紹介してサッちゃんが驚いた声をあげるけどアツコは澄ました表情で理由を挙げる。確かに、いちいち特徴的な部分を示す呼び方では意思疎通が面倒だ。サッちゃんは自分達の情報を開示する事で不利になる懸念を持っているみたいだけど、名前から何か察せるなんて出来ないだろう。...未来予知が出来るセイアちゃんはどうだろうか。もしかしたら―――

 

「...名前から何もかも知れるなんてないだろうしね。...私はミサキ。『戒野ミサキ』」

「...確かに意思疎通を考えれば...分かった。――私は『錠前サオリ』だ、短い間だがよろしく頼む」

「後は、今合流中の娘が『槌永ヒヨリ』。この四人でチームを組んでいるの」

「アツコ、ミサキ、サオリ、ヒヨリだね。――さっき名乗ったけど改めて。『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"所属、"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』だよ。よろしくね」

 

 アツコの反論に頷いたミサキ、一応納得したらしいサオリ、そして合流中――多分、あの重厚な狙撃音の主だろう――だというヒヨリという娘。名前を覚えて頷き、改めて自己紹介する。

 

「――では、ヒヨリの合流を待とう。この回廊は狙撃に向くが結構広いからな...」

「道中で何か拾い物をしてたりしてね。この回廊構造は私達も初めてだし」

「...ヒヨリならあり得るね」

 

 サオリはそう言って回廊の奥に目を向け、そんな会話が交わされる―――

 


~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~

side-ミカ

 

「――まさか、危険だからと封鎖していた『カタコンベ』が...確か、ミカさんが話した時期にも『カタコンベ』の侵入路近辺で気絶した生徒が見付かった事件があった筈です。あれらはそういうことだったのですね...」

「...それを知っていながら、ティーパーティー(こちら)に共有しなかったことも気になるね。一体どこの派閥が...」

 

―――回想の語りを一度切る。ナギちゃんとセイアちゃんが悩まし気に眉をひそめる。『カタコンベ』の侵入路の封鎖徹底は十数年前からで、それ以前はどうだったのかは記録を遡らないと分からないけど―――構造変化のある程度のパターンの把握、そしてサオリ達『アリウス』の娘達の存在を知っていながら"ティーパーティー"にその報告が挙がってきた記憶は無い。

 特に『アリウス』―――自治区内に別の学校が存在していることはとんでもない事実だ。ナギちゃんも、テンちゃんも知らなかった学校。だけど『アリウス』の娘達は―――

 

「...『カタコンベ』、『アリウス』を知っている者、派閥の捜索も必要だね。――だが、今はミカから『アリウス』について知らなければ」

「――そうですね。...ミカさん、続きを話してくれますか?」

「うん――」

 

「――三人を地上に転がしてから、私は案内を受けて『カタコンベ』の奥に向かったの。あそこは――――」

 

 

―――to be continued―――

 




ということで、ミカとアリウス接触回は次回に続きます。一話で収まらんかった...

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