Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~
side-ミカ
「...頃合いかな」
―――ポットでの蒸らしを終え、
「...うん。やり方自体は合ってるかな。
一口飲めば薄い香りが鼻をくすぐり、若干の渋みが混ざった甘さが喉を通る。
―――『...美味しい...香りも味も安っぽい感じはあるけど...あの茶葉からこんなに美味しい紅茶になるなんて』
―――『ふふ、口に合ったみたいでよかったわ。
―――
「...朝から
―――鉄格子が嵌められた窓越しに"ティーパーティー"内の
―――昨夜、私が起こしたクーデターは失敗に終わった。『アリウス』の娘達が"シスターフッド"の攻撃を止めている間にテンちゃんを撃破して、その勢いで"シスターフッド"の包囲を突破―――ナギちゃんのセーフハウスに突入して
そんな計画はしぶとく、互角に渡り合うテンちゃん。いつの間にか"シスターフッド"の救援に来ていたツルギちゃん達"正義実現委員会"。そして、騒ぎを聞き付けたのか現場に来ていたナギちゃんと―――
私はこうして"ティーパーティー"で管理している特別監獄に、制圧された『アリウス』の娘達は"正義実現委員会"の重営倉に収監されている筈だ。
クーデターの失敗を悟った時は、ルイズちゃんに支援させて『アリウス』の娘達を
「――!」
―――ふと、私が収監されている監獄――というには窓や扉の鉄格子以外は少し安物だけど、貴賓向けに整えられた豪華な調度品や広さの個室だけど――の出入口が開く音が聞こえる。はしたないけど紅茶を一気に飲み干してカップを置き、音が聞こえた方―――監獄内の面会室に向かう。鎮圧されて収監された時には夜が明け始めていた。だとしたら
「――おはよう、三人共。そろそろ来るかなって思ってた」
「...おはようございます、ミカさん」
「――おはよう、ミカ」
「おはよう、ミカ」
―――鉄格子で部屋の真ん中を仕切られた面会室。ドアを開けて中に入り、鉄格子の向こう側で肩を並べているナギちゃん、テンちゃん、セイアちゃんと挨拶を交わしながら椅子に座る。
「――この監獄に"ティーパーティー"の人間が収監されるのは何時振りだろうね。無理を言って大急ぎで準備をさせたんだが...不自由していないかい?」
「あはは、収監って行為そのものが自由を奪ってるのにそんなこと聞くんだ?...まぁ、ちょっと狭いのと、窓が悉く鉄格子で補強されてる点以外は不自由ないよ。お茶も食事も調度品も、普段使いしてるものと比べたらちょっと質は落ちてるけど――私は罪人だからね。その位は甘んじて受け入れるよ」
セイアちゃんの問に皮肉を交えながらそう答える。―――この特別監獄は『トリニティ』成立初期、"ティーパーティー"内で重大な校則違反を犯した娘を収監する為に作られた、歴史ある施設だ。所属している娘の実家が大きかったり高い家格を持っている場合もあるから、罪人と言えどもそれ相応の待遇を整えていると聞いていたけど...まさか私が利用することになるとは思ってもみなかった。
―――閑話休題。
「――それで、朝から私を訪ねてきたってことは...クーデターのことを聞きたいのかな?それは調査官の役目の筈だけど」
―――ナギちゃん達の面会の目的は察しているけど敢えて尋ねる。
「確かに、クーデターの動機、動員人数や関係者の有無を調べるのは"正義実現委員会"、"ティーパーティー"から選出される調査官の役目です。ですから――この面会は個人的な、幼馴染の親友としての面会です」
「――幼馴染の親友。気を許せる相手だからこそ話せることもあると思うの。...それでも黙秘するなら、その意思を尊重するわ」
「...ううん、ちゃんと話すよテンちゃん。私がどうやって『アリウス』を知って、あの娘達を救おうと思ったのか――」
椅子に座り直し、三人の顔を見回す―――
~『トリニティ』聖堂街地区~
side-ミカ
「あ~あ。本当に条約締結を目指すことになっちゃった...仮に締結できたとしても、『ゲヘナ』がまともに条約を守れるとは思えないじゃんね」
―――聖堂街地区を歩きながら、午前中の"ティーパーティー"総会での決定を思い返して愚痴を零す。今は付き人も従えず一人だから窘める言葉も、共感する言葉も返って来ない。
『エデン条約』―――"連邦生徒会長"が提案した、"
確かに、『トリニティ』と『ゲヘナ』の境界で不良の暴動を鎮圧し、
―――だからと言って、両校の治安維持組織の活動が円滑化するだけで『ゲヘナ』の野蛮さ、暴力性が和らぐ訳じゃない。『トリニティ』では勿論、キヴォトス中で活動している"温泉開発部"とか"美食研究会"とかの様な娘達は治安維持組織の即応性、柔軟性が強化された所で止まらないだろうし、そもそも組織間で銃撃戦になりかける"正義実現委員会"と"風紀委員会"が仲良く動けるかも怪しい。現世代だと副委員長のハスミちゃんも、『ゲヘナ』産の茶葉と聞いただけで淹れられた紅茶を捨てる位に『ゲヘナ』嫌いで有名だし尚更だ。でも―――
「...私のゲヘナ嫌いが学校としての決定には関係ないのは分かってるけど...うーん...やっぱり、納得できないなぁ..."ホストリーダー"をセイアちゃんから私に変えられれば覆せるかもしれないけど――」
「...ん?」
―――ふと、左の横道から小さく会話を交わす声が聞こえて来て、チラリと目を向ければ三人の生徒が集まっている様子が見えた。それぞれ"シスターフッド"、"ティーパーティー"、一般生徒の制服を着ていて、傍から見れば単なる友人なり知り合いなりでの集まりに見える。
―――集まっている場所、顔を寄せ合ってヒソヒソと会話している様子と、"ティーパーティー"の娘が過去の派閥争いで負けて没落した所の娘である事を除けば、だけど。
「なんだろう...?ヒソヒソ話なら誰しもやることだけど...」
ヒソヒソ話という行動自体はよくある事だけど、私の感覚が違和感を感じ取り、その感覚に任せてフラリと路地に入り、足音静かに、少し先に置かれた大きなゴミ集積ボックスの陰に片膝を付いて隠れ、翼をできる限り小さく畳んで聞き耳を立てる。
―――会話が終わり、三人の足音はより路地の奥へと遠ざかっていく。静かに顔を出して覗けば、路地の奥へ歩いて行く三人の背中が見える。
「...怪し過ぎる。行動次第ではセイアちゃん達に報告かな」
そう呟き、[
―――幸いバレる事無く尾行を続けていると、水が枯れて落ち葉や枝が溜まった小さな噴水とベンチしか無いこぢんまりとした公園らしき空間に入る。
私は傍の石柱に隠れて覗き見る。三人は噴水の一角に集まって何かを探す様に噴水やタイルを触り始め、"シスターフッド"の娘が一枚のタイルに触れ、持ち上げる―――
「――!」
―――すると、噴水そのものがゆっくりと動き始め、地下に降りる階段らしき開口部が現れる。
三人はそんな会話を交わし、ポーチや肩掛け鞄から各々懐中電灯を取り出して点灯させて開口部に入っていく。
「...うん、『カタコンベ』の出入口だね。まさかこんな所にもあったなんて...」
三人の姿が消えた様子を確認してから物陰から出て、本来の位置からずれた噴水と、陽の光で照らされた古臭く急勾配の螺旋階段で埃が漂う開口部を見下ろして呟く。
―――『カタコンベ』。『トリニティ』成立以前、今の諸分派が一学校として独立していた時代から存在していたという、未だに全容、実態が殆ど解明されていない地下空間。過去には何度か調査が行われていた記録が遺っているけど、その悉くが『カタコンベ』の特異性―――入る度に、酷いと探索中も不定形に変わる構造によって怪我人や
―――三人が入っていったこの出入口も、今まで見付からなかったそれなのだろう。そこそこ人通りが多い聖堂地区だけど、横道を入ったこんな奥まった場所では人も少ないし、『カタコンベ』の出入口は目の前の噴水みたいに既設の設備やモニュメントに偽装、隠蔽されているからそう簡単に見付からないだろう。だからこそ―――
「――確認しなきゃ。あの三人がなんで出入口の存在を通報していないのか。...何度も侵入しているっぽいし、明らかに怖いもの見たさのそれじゃない」
―――[
「――!...時限式だったんだ。古い物なのによくできてる...」
―――私の背後で何かが動き、差し込んでいた陽の光が消えてしまってスマホのライトがまだ下に伸び続けて暗闇に消えている石の螺旋階段を照らす。どうやら噴水が元の位置に戻ったみたいだ。足を止めて振り向いて出入口があった方向をライトで照らして回れば、レバーらしき鉄の棒とスリットが見える。
「...ちゃんとこっちから開ける手段もあるんだ。もし一方通行だったら、私なら破壊できる自信があるけど、あの娘達だと爆薬でもなかったら昔の記録みたいなことになるよね...いや、何度か使っているみたいだし、ここが一方通行じゃないことは知ってたからこそ、かな」
レバーを見上げながら三人がこの出入口を何度か利用しているのは間違い無いと確信し、再度階段を照らす。
「――バレないようにしなきゃだけど、それでも急がないと」
気配を探れば少し遠いけど三人の気配を感じられて、後を追うべく足早に階段を降りて行く―――
~『カタコンベ』~
―――三人の会話が止まり、足音が回廊に響き始める。それを確認して私も柱の陰に隠れながら彼女達に気取られない様に距離を保ちながらついて行く。
『カタコンベ』に侵入してから一時間位は経っている。
「...!(やっぱり...何度も侵入してるんだ。しかも他にも居るの...?)」
―――三人の会話が聞こえ、新たな事実に驚く。どうやらこの三人は何度も侵入していて、しかも三人以外にも同様の事をやってる娘が居るみたいだ。『トリニティ』には色々な派閥があるけど、あの三人みたいに異なる派閥同士で集まる派閥は見た事が無い。
単なる友達同士で、
「――?!」
―――突如回廊に響く重厚な狙撃音。"ティーパーティー"の娘が頭に銃弾をもらったのか仰け反りながら
―――間髪入れずに、三人の前方の横道からコートの白いフードを被り、ポーチ付きのベストを身に付けた淡い紫色の髪を太いおさげ二本で結い上げた娘が飛び出して[
―――お腹を晒したタートルネックのインナーにハーネスを装備し、タイトなパンツにベルトとホルスターを装備し、白いロングコートを羽織り、インナーが青い長い黒髪に帽子を被り、半面マスクを付けた娘が回廊上部の梁から飛び降りて"シスターフッド"の娘を蹴り倒し、[
「...あの娘達は一体...?」
―――淡い紫色の髪の娘が出て来た横道から、黒のパーカーの上に二人と同じ白いコートを羽織り、大きく破れた黒いパンツとブーツを履いた、暗いショートヘアの茶髪の娘が気だるげな表情で姿を現し、気絶した三人を見回しながらコートのポケットからロープを取り出し、しゃがんで三人が持っている銃を回収していく。
―――見た事が無い制服。見た事が無い生徒らしき娘達。不安定で不定形に構造が変わる『カタコンベ』に、まさか
「...(ナギちゃん達に報告しないと。まさか『カタコンベ』に
「あっ...やば...!」
―――驚きと戸惑いで、足元転がっていた小石に気付かなかった。元来た道を戻ろうと足を動かした瞬間、靴の爪先がその小石を回廊、生徒らしき娘達の方へと蹴り出して音が回廊に響く。
「「――!」」
「――誰だッ?!」
「――ま、待って待って!撃たないで!」
―――ここで撃ち合いは悪手。咄嗟にそう判断して[
「そのまま銃を地面に置いて手を後頭部で組め!」
<「...あの制服...この娘と同じ"ティーパーティー"みたいだね」
<「だね。――ヒヨリ、一応狙撃狙撃体勢取っておいて」
[
「――所属と氏名を名乗れ」
「...『トリニティ総合学園』三年生。"ティーパーティー"、"パテル分派"
「...やはり"ティーパーティー"の人間だったか。それも――
指示に従って名乗ると、彼女は青い瞳に
「――ミサキ、ボディチェックを頼む!...ヒヨリはどうしている?」
「了解。...ヒヨリは合流中だったけど、一応狙撃体勢を取らせてる」
「そうか。...聖園ミカ、そのまま動くなよ」
「――ベタベタ触ることになるけど、少し我慢して」
ミサキと呼ばれた娘が指示を受けて歩み寄って来て、そう断って私の身体や制服を触り始める。
「――並行して尋問を始める。貴様はあの三人の仲間か?」
「...所属は同じ『トリニティ』だけど、三人の行動とは関係ないよ。寧ろ...行動次第では止めようと思ってた」
「...何だと?あの白い制服は"ティーパーティー"だろう」
半面マスクの娘は私の答えに対して怪訝そうに眉を顰め、ロープで拘束される"ティーパーティー"の娘に目を向ける。
「確かにそうだよ。でもその娘は過去に派閥争いで負けて没落した派閥の娘だから、私の"パテル分派"はあまり関わりがないの」
「派閥争いか...むむ...コイツは関係ないのか...?なら誰が...貴様があの三人と関わりがないのは一応理解した。ならば――どうやってここまで来た?」
「
「...本当に、今この状況になるまで何も知らなかったんだな」
半面マスクの娘の問にそう答えると、彼女は戸惑った表情を浮かべる。
「...
「――は...?な、何を言っているんだ
「...
―――ふと、三人の拘束を終えたらしい淡い紫色の髪の娘が私達の下に歩み寄ってそんな提案を挙げ、
「"
「確かにそう言っていたが...
「銃を預かっておけば大丈夫でしょう?それに、反故にして自治区で暴れられたとしても...その時はその時だよ、サッちゃん。"
姫と呼ばれた娘はサッちゃんの反論にそう返す。私が
「――お話できるなら、私も是非色々聞きたいな」
「...そうやって私達から情報を聞き出して、"ティーパーティー"に報告でもするのか?」
「学校運営を預かる生徒会の人間だからね。それが然るべき対応だろうけど――貴女達がどんなことを教えてくれるか。それ次第かな。自治区内に知らない学校の生徒が居るかもしれないからこそ、対応を決める為に情報が必要だし」
「ほら、この人も乗り気だし。――もしかしたら、私達を攻撃する理由も併せて分かるかもしれないよ」
「...うーむ...」
私の意見に便乗する様に
「――分かった。確かに、これは動機を知るチャンスなのかもしれない。だが...もし私達を、故郷を害する素振りが見えたら、その時は――あの三人と同じになるからな」
十数秒程悩んだサッちゃんはため息を吐き、私と
「――分かった。貴女達を害することはしないよ」
警告に頷き、地面に置いた[
「...分かった。今はその宣言を信じよう。――綺麗な銃だな。あの三人もそうだが、
「銃は相棒、自身の半身。個性を出す為に飾るのは普通のことだよ。...そういうのに無頓着、無関心な娘はそうでもないけど」
[
「――では、私達の自治区に案内を...その前に、あの三人を
「先にそっちの方がいいね。ヒヨリも呼んでおく...こちらミサキ。ヒヨリ、見えてたと思うけど......うん。リーダーと
「それはいいけど...その三人と私が来た道は結構遠いよ?」
「
「へぇ...」
サッちゃんは私の懸念に対してそう答える。―――全てではなくとも出入口を知っている。それは
「――一応、自己紹介はしておこうか。私は『秤アツコ』」
「――ッ?!
「――ここから自治区は少し遠いし、もしかしたら
淡い紫色の髪の娘―――アツコが自己紹介してサッちゃんが驚いた声をあげるけどアツコは澄ました表情で理由を挙げる。確かに、いちいち特徴的な部分を示す呼び方では意思疎通が面倒だ。サッちゃんは自分達の情報を開示する事で不利になる懸念を持っているみたいだけど、名前から何か察せるなんて出来ないだろう。...未来予知が出来るセイアちゃんはどうだろうか。もしかしたら―――
「...名前から何もかも知れるなんてないだろうしね。...私はミサキ。『戒野ミサキ』」
「...確かに意思疎通を考えれば...分かった。――私は『錠前サオリ』だ、短い間だがよろしく頼む」
「後は、今合流中の娘が『槌永ヒヨリ』。この四人でチームを組んでいるの」
「アツコ、ミサキ、サオリ、ヒヨリだね。――さっき名乗ったけど改めて。『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"所属、"パテル分派"
アツコの反論に頷いたミサキ、一応納得したらしいサオリ、そして合流中――多分、あの重厚な狙撃音の主だろう――だというヒヨリという娘。名前を覚えて頷き、改めて自己紹介する。
「――では、ヒヨリの合流を待とう。この回廊は狙撃に向くが結構広いからな...」
「道中で何か拾い物をしてたりしてね。この回廊構造は私達も初めてだし」
「...ヒヨリならあり得るね」
サオリはそう言って回廊の奥に目を向け、そんな会話が交わされる―――
~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~
side-ミカ
「――まさか、危険だからと封鎖していた『カタコンベ』が...確か、ミカさんが話した時期にも『カタコンベ』の侵入路近辺で気絶した生徒が見付かった事件があった筈です。あれらはそういうことだったのですね...」
「...それを知っていながら、
―――回想の語りを一度切る。ナギちゃんとセイアちゃんが悩まし気に眉をひそめる。『カタコンベ』の侵入路の封鎖徹底は十数年前からで、それ以前はどうだったのかは記録を遡らないと分からないけど―――構造変化のある程度のパターンの把握、そしてサオリ達『アリウス』の娘達の存在を知っていながら"ティーパーティー"にその報告が挙がってきた記憶は無い。
特に『アリウス』―――自治区内に別の学校が存在していることはとんでもない事実だ。ナギちゃんも、テンちゃんも知らなかった学校。だけど『アリウス』の娘達は―――
「...『カタコンベ』、『アリウス』を知っている者、派閥の捜索も必要だね。――だが、今はミカから『アリウス』について知らなければ」
「――そうですね。...ミカさん、続きを話してくれますか?」
「うん――」
「――三人を地上に転がしてから、私は案内を受けて『カタコンベ』の奥に向かったの。あそこは――――」
ということで、ミカとアリウス接触回は次回に続きます。一話で収まらんかった...
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