Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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ミカとアリウスの接触、後編です


File107.ET-17~Pater(父なる神)の乙女はかく語りき②~

~『カタコンベ』 第二境界門防衛陣地~

side-ミカ

 

「――この辺りからは構造が固定されている。ここまで来たらもうすぐだ」

「...廃墟、遺構ではあるけど、この辺りは整備されてるね。見たところ防衛設備?」

「うん、その通り。――さっきみたいな侵入者が来る可能性があるから、防衛設備を整えているんだ。...ここまで侵攻されることはあって欲しくないけどね」

 

―――サオリ達の案内でカタコンベを進んでいると、使い込まれた電灯や遮蔽として積まれた土嚢、何か詰めていそうな木箱...明らかに今も人が居る痕跡が目立つ空間に入り、私の言葉にアツコはそう答えて目を伏せる。

 

「えへへ...この辺りからは私達の領域ですから。ここの防衛線が突破されちゃったら、後はもう自治区内が滅茶苦茶になっちゃうんです。ですからそうなっちゃう前に色々やりたいことをやっておかなきゃなんです...」

「...とりあえず、今のところはここまで侵入された事例はない。でも、あいつらもマッピングしてるのか、待ち伏せポイントを迂回されたり、こっちが知らない構造変化を利用したりするから私達の迎撃も不安定なんだ」

 

 ヒヨリがニヘラと笑って補足し、ミサキも眉をひそめて迎撃事情を明かす。―――あの三人も何度も侵入していた様な物言いをしていたし、実際三人の持ち物にはメモ書きの地図もあって、実際にマッピングしながら進んでいるみたいだ。

 

「不定形な構造変化は私達での探索でも被害が出かねないからな。できる限り侵入を早期に見付けて迎撃するしかない...っと、この先だ」

 

 会話を交わして居ると木造の大きく重厚そうな両開きの門扉が見え、その下には白いコートを着て防弾ベストを身に付けた娘が二人門番の様に立っている。

 

「――!止まれ!...サオリ、誰だそいつは?その制服はどう見ても...!」

「――その反応は当然だ。だが...彼女は、攻撃ではなく話し合うことを求めている。"()()()"が望んでいた、『トリニティ』が私達を攻撃している理由を知るチャンスになるだろうと判断して連れて来た」

「――『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"、"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』。貴女達を攻撃するつもりはないよ。貴女達を知る為に、サオリ達に案内してもらったの」

「...本当か?ソイツに脅されて連れて来たんじゃないのか?」

 

 門番の娘が私達に気付いて呼び止め、私を見て敵意を宿した眼差しを向ける。サオリが事情を説明し、自己紹介して補足するけど二人は警戒は解かない。

 

「――大丈夫だ。聖園ミカの銃はこの通り預かっている。銃なしで私達の自治区で暴れるのは無謀だ。ましてや土地勘は私達に圧倒的に有利だしな」

「さっき通信圏内に入ったから、"()()()()"達にも連絡は入れてるよ。貴女達にも伝わっている頃合いだと思うけど...」

「そんな連絡は――!ちょっと失礼。...こちら『第二境界門』。...!は、はい...ちょうど"アリウススクワッド"が、件の『トリニティ』の人間を連れて到着していまして...

 

―――サオリが私から預かった[Quis ut Deus(愛銃)]を見せ、アツコの言葉に対して尚疑念を向ける門番の娘がおもむろに左耳のインカム――『トリニティ』では全然見た事が無い、見た目からして結構旧い型式だ――に触れ、誰かと通信を交わし始める。タイミング的に、アツコが連絡したという"()()()()"なる人物から情報が共有されたのだろう。

 

はい...わ、分かりました..."()()()()"が言ったなら...情報が共有された。お母s..."()()"が是非とも会いたいそうだ。道中は急がず、自治区を見せてあげろとも伝えられた」

「..."()()()()"、乗り気だね。――案内は任せて。勿論、ミカが何かしでかさないように見張りも怠らないから」

 

 門番の娘が通信を終え、自治区に入る許可が伝えられてアツコが嬉しそうに微笑みを浮かべる。"校長"も前後の言葉から考えれば"()()()()"なる人物の別呼称だろう。

 『トリニティ』には居ないけど、キヴォトス全体で見ればポツポツ居るらしい教職―――私達生徒に対して教鞭を取る大人の存在に対する呼称の一つ。ここまで見聞きした事から明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()場所なのに、この娘達の上にはそういう大人が居るみたいだ。

 

「――では、自治区に入ろう。聖園ミカに出会った時に侵入者を迎撃している。もしかしたらここまで辿り着く可能性もあるから、警戒は怠るな」

「分かってる。――『聖園ミカ』、だったな。...妙なことはするなよ」

「はいはい、分かってるよ」

 

 門番の娘の警告に頷き、もう一人の門番の娘によって門扉に据えられたくぐり戸が開けられる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 アツコが先にくぐり戸を通り、私もそれに続く。通りぬけた先は百メートル程の長さの回廊で、ここにも防衛陣地が構築されている。その間を通り抜けて行き―――

 

 

「...わーお...すごい場所...」

「――ようこそ。私達の自治区、私達のかけがえのない故郷...『アリウス』へ」

 

―――地下空間の筈なのに曇天のような灰色の空が広がる広大な空間。眼下には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、倒壊や崩落ばかりで無事なものが全く見当たらない建物が並ぶ街並みが広がっている。

 見た事が無い光景に圧倒されていると、隣でアツコが微笑みながら自治区の名前を告げる―――

 


~"補習授業部"合宿所 教室~

side-ヒフミ

 

「――それで、『アリウス』はどんな自治区なんですか?」

「――私が生まれた時は...なんて言うべきか...うん、そうだ。()()()()()()()。物資は乏しく、その日を生き抜くだけで精一杯だったんだ」

「...何故その様な状況に?言葉から考えれば、『ゲヘナ』とは違う意味で治安が悪いみたいですが...」

「...それは()()()()()()()()()()。ただ...『アリウス』は()()()()()()()()()ずっと荒れていた。でも――私達が中学生位の年齢の時に状況が変わったんだ――――」

 


~『アリウス分校』自治区~

side-ミカ

 

「...門の所からでもボロボロに見えたけど、こうして間近で見ても酷い状態だね」

 

―――灰色の空の下、『アリウス』自治区の街並みを見回しながら呟くとサオリがそう答える。今歩いている通りがメインストリートなのだろうけど、何処を見ても崩落、倒壊した建物ばかりで、今歩いている()()()()()()石畳の舗装路も()()()()()()()()()穴だらけで歩きにくい。

 そんな建物の軒下には、鉄パイプや少し曲がった単管の柱に穴が多い布を屋根代わりに張った間に合わせのテントが沢山並んでいて、門番の娘達と同様に白いコートに防弾ベストやハーネスを身に付けた娘がドラム缶で焚いている焚火の周りに集まり、缶詰らしきものを食べていたり、装備を点検していたり、談笑したりしている。しかし、皆一様に私に警戒―――というよりは()()()宿()()()眼差しを向けている。

 

「...警戒されてるね。トリニティ(ウチ)の娘達が貴女達を攻撃していたなら当然の反応だろうけど」

「それだけではない。――私達が生まれるより遥か昔から争い...内戦を続けていたからな。だが、その理由、経緯を明らかにする為の調査も始まったばかりで私達もよく知らない。だからお前を自治区に潜んでいる敵と見ている者も居るだろう」

「内戦...それならこんなにボロボロなのも納得だね」

「...これでも内戦が終わった直後の数年前よりはマシになってる。ここらの本校舎周りの中心地は()()()安全だけど...自治区全体の復興はどれだけかかるやら」

 

 私の言葉にサオリとミサキが『アリウス』の事情についてそう説明する。内戦―――戦争を行っていたなら自治区全体がこれだけボロボロになっている事も、『アリウス』の娘達が私に敵意を向ける事も頷ける。それに加えて『トリニティ』の娘達による侵入と攻撃...私への敵意も尚更強くなるだろう。

 

「少し遠出すると地雷原や陣地で塞がれてたり、まだ内戦が続いていると勘違いして隠れている方々が襲ってくるんですよね..."()()()()"も必要ならあちこちに自ら出向いて内戦の終結を伝えたり説得してるんですけど...」

「...その"()()()()"はすごい人なんだね」

「――すごいなんて言葉で片付けられない人だ。私達の人生に――()()()()()()()()だと思っていた人生に希望を見せてくれた、偉大な恩人だ」

 

 私の言葉に対してサオリがバカにするなと言わんばかりに真剣な表情を浮かべてそう答える。―――彼女達に何があったのか分からないけど、"()()()()"サオリ達にとって大きな存在みたいだ。門番の娘達もサオリの言葉に対して尚警戒していたのに、"()()()()"からであろう指示には素直に従っていた。

 

「..."()()()()"が居なかったら、私達はもっと苦しい状況になっていたと思う。...だからこそ、もっと私達を頼って欲しいんだけど

「...何か言った?」

「ううん。何でもない。...トリニティ(そっち)で、地上で大人がどういう存在で、どんな印象を持たれているかは分からないけど――"()()()()"に会ってみれば驚くと思うよ」

「ふぅん...それは楽しみだね」

 

 アツコがサオリの言葉を肯定する様に頷き、何か小さく呟くけど私の問に対してそうはぐらかし、微笑みながら期待させるような言葉を続ける―――

 

 

~『アリウス』本校舎敷地 正門~

 

キィィ...

 

「――着いたね。ここが『アリウス』本校舎。自治区の中心だよ」

「...他の建物よりはマシだけど、それでも所々崩れてるね」

 

―――鉄柵が所々曲がっている門扉を開け、アツコが指差した先には、トリニティでは()()()()()()()()大きな建物が聳えていて、所々にシートが覆い被せられていたり、修繕中なのか足場が組まれたりしている。

 

「...中心だからこそ最優先で直したいんだけどね。インフラの復旧もまだまだだし、"皆の環境を先に整えて欲しい"って"()()()"の意向もあるから」

「"()()()()"は貴女達のことを大事にしてるんだね」

「..."()()()"から沢山のものを貰ってばかりで、私達からは何も返せていないのがもどかしい位だ。"()()()"の為なら、私達は――」

 

 

「――お疲れ様、皆」

「皆、お疲れ様」

「サオリ、皆お疲れー」

「...ん」

 

―――私達の目の前で本校舎の正面玄関の扉が開き、四人の生徒らしき娘達が姿を現す。

ピンクのショートヘアの上に同色のヘイローを浮かべ、赤いワンピース風の制服にハーネスとマグポーチを身に付け、襟元に白いマフラーを巻き、サオリ達と同様の白いコートを羽織った快活そうな娘。

―――ウェーブを帯びた金髪のショートヘアの毛先を短く結い、紫色のリボンを飾った帽子の上には黄色いヘイローを浮かべ、紫色のリボンを襟元に巻いた白いツーピースの制服の上に白いコートを羽織り、糸目でどこか思わせぶりな微笑みを浮かべた娘。

―――金髪のショートヘアに白いリボンを巻いた黒い帽子を被り、赤いヘイローを浮かべ、白いブラウスの上に黒いベストを重ね、白いコートを羽織り、黒いスカートのベルトにマグポーチを巻いた、金色の瞳に勝気な眼差しを宿した娘。

―――そして、青いショートヘアに白いリボンを飾り、白いワンピース風の制服の上に白いコートを羽織り、背中には私よりも大きくハスミちゃんのそれに迫る白い一対の翼を伸ばした口数が少なく表情が薄い娘。

 

―――そんなサオリ達とは別のチームらしき娘達が私達の前に立つ。

 

「"アナテマスクワッド"の皆もお疲れ様。...スバル先輩はまだ戻ってないんだね」

「東部はまだ隠れた残党が多いから仕方ないわ。"()()()"も心配していたけど、スバル先輩が、"ニコメディアトゥループ"が何も連絡を寄越さないなら大丈夫なのでしょう」

 

 アツコの言葉に糸目の娘がそう答える。どうやら彼女達―――"アナテマスクワッド"と、サオリ達"アリウススクワッド"とは別のグループも居て、遠征か何かに出向いている様だ。

 

「――それで、貴女が件の...」

「――『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"は"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』。...トリニティ(ウチ)の生徒が貴女達を攻撃していること、そして――貴女達『アリウス』そのものを知る機会を作ってくれてありがとう」

 

―――ピンク髪の娘が私に目を向け、自己紹介して謝意を述べる。

 

「ご丁寧に自己紹介どーも。"アナテマスクワッド"、『緋野(ひの)ユキ』。一応スクワッドのリーダーやってるよ。隣は『氷川(ひかわ)マイ』」

「...ん」

「――同じく"アナテマスクワッド"、『旅籠ルイズ』よ。よろしくね」

「...『門守サラ』よ。スクワッドのサブリーダーも務めてるわ」

「――"アナテマスクワッド"は自治区の防衛と、"()()()()"の近辺警護を受け持ってるの。"()()()()"は"私なんかに護衛は要らない"ってよく言うんだけど...私達にはまだまだ必要で、かけがえのない大事な存在だから」

「成程ね...ユキ、マイ、ルイズ、サラだね。四人共よろしく」

 

 "アナテマスクワッド"の四人も自己紹介を返し、名前を覚えて頷く。―――"()()()()"の意向を押し切ってまで護衛を付けるなんて、アツコ達『アリウス』の娘達にとって本当に大きく大切な存在なのだろうとより実感する。

 

「――それで、"()()()()"は居る?」

「えぇ、彼女を待ちかねているわ。そろそろ来るだろうと思ったからこうして出迎えに来たの」

 

 アツコの問にルイズがそう答えながら私を見て、本校舎の二階の一角に視線を変えて見上げる。あちこちボロボロの建物の中では比較的損傷が少ない、修繕もされている場所で、目を凝らせば窓の一つに人影が一つ見える。あれがきっと―――

 

「――なら、"()()()"の下に案内するか」

「そうだね。――サラ達はどうするの?」

「"ニコメディア"の動向次第だけど、校舎の修繕でもやろっかなって。せめて屋根と窓位はいい加減直したいしさ」

 

 サオリの言葉にアツコが頷き、ユキが"アナテマスクワッド"の動きについてそう答える。

 

「そっか。一応本校舎全体の修繕進捗も折り返し地点だし、ミカと"()()()()"のお話が終わって、手すきになったら手伝うよ」

「ありがとね、アツコ。――"()()()"はいつもの部屋に居るよ。"生徒会長()()"が居るからすぐ分かるだろうけど」

()()()()()は"()()()()"の最側近、()()だからね。いつもで何処でも、どんな状況でも傍に居るもの」

 

 アツコとユキはそんな会話を交わす。どうやらアツコには姉が居るみたいだ。

 

「じゃあ、行こっか」

「うん。案内よろしくね」

「じゃあ、そちらは任せるわ。――"()()()"との対話が実りあるものになることを祈っているわ」

 

 アツコ言葉に頷き、正面玄関の扉を大きく開けて私達を迎え入れるルイズの言葉を背に受けて校舎内に入る―――

 

 

「――お待ちしておりました、『聖園ミカ』様。『アリウス分校』三年生、"生徒会長()()"を務めております――『秤ユメコ』と申します」

 

―――二階右手の奥。一つのドア――他と比べて明らかに優先的に、しっかり修理されている――の前にスラリとした長身の娘―――セミロングの金髪にメイドプリムを飾り、赤いワンピースの上に白いメイドエプロンを重ね、マグポーチ付きハーネスを胴に締め、右にホルスター、左に鞘に収まったショートソードを佩いた黒いベルトを締め、白いコート――よく見れば腰のそれと同じものが何本も縫い付けられている――を羽織った娘が私達に気付いてカーテシーで私に向けて挨拶する。恐らくアツコが送った連絡で既に把握していたのだろう。

 

「...()()?」

「...()()()()()()()()があってね。年長で、"()()()()"の信も篤いお姉ちゃんが暫定的に生徒会長なんだ」

「...成程ね。――『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"、"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』だよ。よろしくね」

 

 ユメコが名乗った肩書に違和感を覚えて首を傾げるとアツコがそう補足し、頷きながら自己紹介を返す。―――()()()()()()()()とぼかしてる事が気になるけど、私と『アリウス』は接触したばかりだ。()()()()()()()()を詮索するのは警戒させるだけだろう。

 

「よろしくお願いいたします。..."校長"、お客様――『聖園ミカ』様が到着されました

『ご苦労様、ユメコちゃん。中に入れてあげて』>

 

 ユメコが頷いてドアをノックして用件を伝えると、中から声が聞こえてくる。その声の主が―――

 

「――許可が下りました。...事前に"校長"より、"二人きりでお話したい"と求められていますので、お一人でお入りくださいませ」

「...いいの?...要人と二人っきりなんて状況、ひょっとしたら私が()()()()()()をする可能性は考えないの?」

「..."校長"は貴女様のことを信じておられるようなので。ですが――そのような兆候、気配を感じた時点で即座に()()致します」

「――ユメコ姉さんはこの『アリウス』でも()()()()()()()強い。妙な気は起こさないことだ」

 

 ユメコの言葉に対して冗談めかして警戒の緩さを指摘してみれば、彼女は黄色い瞳を細めて左腰の剣の柄に手を添え、サオリがそう補足する。

 

「あはは、冗談だよ冗談。会話も初めて、初対面でいきなり要人暗殺なんて危険過ぎるじゃんね。...善悪、敵味方を判断する情報も足りないのに初手攻撃は悪手だよ」

「...であればいいのですが。――兎も角、どうぞお入りくださいませ」

 

 ユメコは私の言葉に目を伏せ、ドアを開ける。心を落ち着ける為に深呼吸してから中に入り、背後でドアが閉まる―――

 

 

「――ようこそ、『聖園ミカ』。『アリウス分校』"校長"、『魔創シンキ』よ」

「――『トリニティ総合学園』三年生、"ティーパーティー"、"パテル分派"首長(ホスト)『聖園ミカ』。よろしくね」

 

―――長い銀髪の左側頭部にサイドテールを結い上げ、頭上に赤いヘイローを浮かべ、白いノースリーブのタートルネックのインナーの上に白く縁取った赤いコートを羽織り、同様のデザインのロングスカートとブーツを履いた、大人のそれと分かる雰囲気を纏った女性―――『魔創シンキ』"校長"と挨拶を交わす。

 


~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~

side-ミカ

 

「...『魔創シンキ』...」

「――教師、大人か。『シャーレ』の"先生"が来る以前から、キヴォトスには自発的に教職に就いて教鞭を取る者は居たが...キヴォトスの社会から隔離されているのであろう『アリウス』ですら、教師を置いているのか」

トリニティ(ここ)じゃ派閥争いとか政争に利用されかねないから置けないもんね。――私もシンキ先生と対面した時は驚いたよ」

 

―――セイアちゃんの言葉に頷く。"連邦生徒会公認専属教師"の制定以前からキヴォトス中でポツポツと存在していた大人の教師。トリニティ(ここ)でも過去に教職の招聘が議論されたけど、制度として生徒会への介入を禁じたとしても、権謀術数渦巻く『トリニティ』では裏側で政治的に利用しようとする可能性が否定出来ないということで却下された過去がある。だからこそ、『アリウス』でシンキ先生と対面した時は驚いた。『トリニティ』には居ない大人の教師という存在。そして―――

 

「――ミカの話から考えれば、()()()()で見えていた、『通功の古聖堂』を襲う武装した者達は『アリウス』の者達か。ミカ、君は『アリウス』の者達からそう言った計画の一端でも聞いていないかい?」

「...『アリウス』側が何か計画を考えている感じは、()()()()なかったかな。アズサちゃん、ルイズちゃんの動きを知って初めて『アリウス』独自の思惑があることに気付いたから。シンキ先生と対面した時は――――」

 


~『アリウス』本校舎 "校長"執務室~

side-ミカ

 

「――どうぞ。トリニティ(そちら)の茶葉と比べれば質は数段落ちたものだけれど」

「――ありがとう、"校長"先生」

「そんな堅苦しく呼ばなくていいわ。そうね..."先生"、とでも呼んでくれると嬉しいわ」

「...分かったよ、シンキ先生」

 

―――シンキ"校長"...否、先生が手ずから淹れた紅茶が満たされたティーカップを受け取って湯気に混ざる香りを嗅ぐ。確かに私が普段飲んでいるものと比べれば香りは薄い。だけど―――

 

「...美味しい...香りも味も安っぽい感じはあるけど...こんなに美味しい紅茶になるなんて」

「ふふ、口に合ったみたいでよかったわ。トリニティ(貴女の学校)で飲んでいるものと比べれば、質は悪いのは事実。でも、完全には補えないけど低品質でも美味しく淹れる方法はあるのよ」

 

―――そんな私の感想に対してシンキ先生は嬉しそうに微笑む。安っぽいものでも、それをできる限り美味しくする方法。そして―――そうしてもてなすシンキ先生の思いやり。これが大人、生徒(私達)より多くの経験を持っているからこそなのだろうと実感しながらパウンドケーキをフォークで一口サイズに切って口に入れると、口内で生地がホロホロと溶けるように崩れて紅茶の味によく合う甘味が広がる。

 

「...ん...このパウンドケーキも美味しいね。自治区はあんなにボロボロなのに、小麦とか砂糖、卵...よく揃えられたね」

「元々サオリ達向けに作っていたものだけど、口に合ってよかったわ。...この味を美味しいと言ってくれた...間違いなくこの子は...――衣食住。人として生きるには必要なもの。特に食はお腹を満たすだけではない。――誰かと一緒に作り、食べることで心の栄養補給にもなる。だから、食はできる限り充実させてるわ。...まだまだ皆をお腹いっぱいにするには足りないけどね」

 

 私の言葉に対して()()()()()()小さく何か呟いた後に食事情についてそう答え、まだまだだと言いたげに苦笑する。―――サオリ達『アリウス』の娘を本当に大事に想っているみたいだ。この在り方が大人の全てではないのだろうけど、初対面の私でも警戒を緩めてしまいそうになる優しさは彼女の為人だと実感する。

 

「――さて。お互いに聞きたいこと、知りたいことがあるわね。...貴女がどうやってアリウス(ここ)に来たのかはアツコから聞いているわ。――私達へ攻撃していることは、貴女は何も知らなかった。これは事実ね?」

「うん。侵入した三人を見付けて、危ないことをしているなら止めようって尾行して...三人を迎撃したサオリ達と出会したの」

 

 微笑みから一転、真剣な表情を浮かべたシンキ先生の問に頷く。

 

「ふむ...そして、貴女は『アリウス』についてすら、何も知らないのね?」

「うん。――『カタコンベ』の奥に、まさかこんな自治区があったなんて知らなかった。...トリニティ(私の学校)の娘がアリウス(ここ)を目指して侵入しているのはいつから?」

「侵入そのものは六年くらい前から。頻度が明らかに上がったのは...三年前からね」

「...私が中等部に入った時から、高等部に入った時には頻度が上がった...」

 

 シンキ先生の答えを反芻して考える。―――私が中等部に入った時から始まっていたらしい、『トリニティ』の娘達の侵入。

 私が高等部に進学した頃に頻度が上がったということは、その時点で()()()()()()()()()()()()()()()()()()があったということだ。その時の"ティーパーティー"の体制を思い返してみるけど―――

 

「――うーん...私はそういう、()()()()()()()()娘は見たことがないなぁ。策謀が得意な娘は居るけど、『アリウス』――自分の自治区の地下に別の学校が存在していることを隠すことはしない筈だから」

 

―――『トリニティ』と『アリウス』の関係云々以前に、自分の自治区の中に別の、()()()()他校自治区を抱えている状況を隠すなんてデメリットしかない。もし外部に―――特に"連邦生徒会"に気付かれたら『トリニティ』の運営能力に疑念を持たれかねない。

 私ならすぐに調()()して、その結果次第で『トリニティ』に組み込むなり、独立校として自立させるなりの交渉を行う。見付けた初手から問答無用で()()()()なんて、まるでトリニティ(こちら)にとって()()()()()()()()()()()()()()()みたいで―――

 

「――もしかして...『アリウス』の存在が()()()()()って思っている誰か、或いは――()()が居るのかな。

 私はこれでも"ティーパーティー"首長(ホスト)を輩出している歴史ある名家の子なの。でも...『アリウス』のアの字すら聞いたことも、見たこともない」

「...やっぱり、そちらでは――『トリニティ』では()()()()()()にされているのね」

「え...?」

 

―――脳裏に浮かんだ推測に戸惑っていると、シンキ先生は()()()()()()様な、でも()()()()()表情を浮かべて言葉を漏らす。まるで―――『トリニティ』が()()()『アリウス』を()()()()()みたいな言葉だ。この人は、大人は一体何を知って―――

 

「――これから私が話すことは、きっと貴女にとっては()()()()()()()でしょう。それでも...聞く覚悟はある?」

「――うん、聞くよ。その為に...()()、『トリニティ』も()()()()()()()()()()()来たんだから」

 

―――シンキ先生の確認の言葉に頷き、先生の青い瞳を見つめる。彼女の話は聞くべきだと、()()()()が反応している。どんな事実、真実であろうと、それは()()()()()だなんて不思議な確信がある。

 

「――分かったわ。貴女の決意に敬意を示しましょう。...単刀直入に言えば――」

 

 

 

 

 

 

「――私達『アリウス』は、貴女達『トリニティ』から()()()()()()()()()()()()()()学校なの」

 

 


~"ティーパーティー"敷地内 特別監獄~

side-ミカ

 

...いえ...そんな記録は...なら、この違和感は...?

「...とんでもない情報ね」

「...バカな...彼女の、シンキなる大人の言葉を事実とするなら――"第一回公会議"で、現構成校()()()()()()()()ことによる『トリニティ総合学園』成立という歴史的事実を...『トリニティ』の成立過程を()()()しなければならない事実だぞ?!」

 

―――ナギちゃんが何か考え込む様に俯いて何か呟いている一方、セイアちゃんが普段は変えない表情を驚愕に染めて、瞳をワナワナ震わせて声をあげる。

 

「...私も最初は信じられなかった。セイアちゃんが言った通りの歴史を授業で習ったし、聖園家(実家)でもそう教えられたしね。でも――シンキ先生の言葉は真実だと感じた」

「...口ではどうとでも言える。記録、文献...目に見える証拠がなければ確定できないだろう」

「その通りだね。――だから、"ホストリーダー"の座を狙ったんだ。トリニティ(ここ)()()()()()()()を明らかにして、『アリウス』を助ける為に」

 

 セイアちゃんの言葉に頷いて改めてクーデターの動機を明かす。―――『トリニティ』と『アリウス』が過去に関わりを持っていた。それが事実なら、何故『トリニティ』が『アリウス』を統合しなかったのか。独立を許さず攻撃したのか。"ホストリーダー"の地位、権限なら『トリニティ』が()()()()()()()を明かせる。...そうして起こした行動は裏目に出て、こうして収監されちゃったけど。

 

「...しかし、気になる点がある。『トリニティ』成立を決定した"第一回公会議"は数百年も前のことだ。『アリウス』にその記録、証拠がある可能性もあるが...シンキ先生の物言いはまるで――」

 

 

―――ガチャン...!

「ナギサ様!セイア様!緊急事態です!」

 

―――突然面会室の扉が荒々しく開かれ、全力疾走だったのか息を荒く吐く"ティーパーティー"の娘が姿を現す。

 

っ?!...落ち着いてください。何があったのですか?」

「――少し息を整えたまえ」

「落ち着きなさい。...携帯の連絡もしないのは余程ね」

 

 ナギちゃんが我に返ってビクッと一瞬肩を震わせ、落ち着いた声で窘め、セイアちゃんとテンちゃんも続いて窘める。

 

はぁ...はぁ...も、申し訳ございません...せ、"正義実現委員会"本部で――――」

 


~"正義実現委員会"本部~

side-ハスミ

 

<「留置場には居ません!」

<「ちゃんと探したのか?!」

「"ティーパーティー"への報告は?!」>

「既に通報しています!」>

 

『――外部に接続された全ての出入口の封鎖、完了っす!』

「そのまま監視を徹底してください」

 

―――本部敷地を囲う塀に併設された各門へ人員を配置し終えたイチカに封鎖と監視の徹底を指示する。そんな私の背後では委員の娘達の喧騒が響いている。

 

「...昨日逮捕して重営倉に収監したというのに、一体どうやって...」

 

 一息吐くも、喧騒の原因である事態が何故起きたのか分からず眉を顰める。

 

―――昨夜、ミカ様がナギサ様に対して起こしたクーデター。彼女に協力していた"ティーパーティー"メンバーも合わせて逮捕したものの―――所持していた学生証が軒並み()()()()だった事で対応が変わった。

 そのまま"ティーパーティー"、パテル分派(ミカ様の身内)であれば政治的な折衝が必要だっただろう。面倒ではあるけど、度々やって来た事だ。しかし、『トリニティ』生ではない、外部の者が協力していたとなれば明確な外観誘致。退()()すらあり得る重罪だ。

 パテル分派(ミカ様の身内)に扮した者達が何者なのか。ミカ様への聴取と合わせて情報を得るべく、私達"正義実現委員会"で身柄を拘束して重営倉に収監していた。そして、今日から聴取を行う予定だったのだが―――

 

「――重営倉がある営倉棟へ繋がるルートは本部棟と繋がる渡り廊下一本だけ。窓も全て鉄格子や防爆ガラスで補強して封じている。その状況でどうやって...」

 

―――取調室の準備を進めていた最中に本部内に緊急事態を知らせるベルが鳴り響き、ベルが鳴った重営倉区画に駆け付ければ、警備の班員()()()()()していて、営倉内のクーデター協力者()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()状態に―――()()()()()()に出会した。

 事態を受けて大至急本部敷地を封鎖。本部内では今も潜伏を疑って棚や備品、調度品もひっくり返して捜索を行って痕跡や証拠を探している。

 

―――しかし漏らした呟きの通り、重営倉がある営倉棟への進入路は構造上一つしか無く、窓も扉も脱走防止措置を徹底している。棟内への潜入を試みるならば、事態発生時の警備班の誰かに()()()交代に合わせて潜入する位しか無いけれど――気絶した班員に()()()()()()()と報告を受けている。

 

「...気絶していた娘達から状況を聞ければ、下手人や潜入手段を解明する手掛かりになりますが――」

 

 

『――こちらメグム。ハスミ、営倉棟の()()に来てくれ。できればツルギも一緒に連れて来い。...()()()()()()()()()が見付かったぞ』

「――分かりました。すぐ向かいます」

 

―――インカムにメグム――捜査の指揮で営倉棟に向かっていた――からの連絡が入り、そう答えて通信を切る。下手人、潜入手段の手掛かりを見付けたのだろうけど...そねにしては声色が()()()()()()だった。一体何を見付けたのか気を揉みながらツルギに向けて通信を繋ぐ―――

 

 

~営倉棟 中庭~

 

「――来たか」

「...何を見付けたんだ、メグム?」

「...態々ツルギも合わせて連れてくるようにと言ったのです。――()()()()()()()()程なら余程の情報でしょう」

 

―――水が枯れた、かなり古い噴水が中央に据えられた、営倉棟の建物が四方を囲う中庭。

 普段は営倉棟の警備な巡回で時々通り抜けるだけで閑散としている空間だけど、今は捜査を行う委員達が右往左往していて騒がしい。

 そんな中、噴水の傍にメグムが立っていて、中庭に入った私とツルギに気付いて手を挙げる。

 

「本題に入る前に...二人はこの営倉棟の警備、監視体制の現状を把握しているな?」

「...その問に何の意味が?そのような問答にかまけている暇は――」

「...まぁ落ち着け、ハスミ。――メグム、お前の交渉のおかげで監視カメラを最近配備したが...予算不足で全体に満遍なくとは行かず、この中庭には配備できていなかったな」

 

 見定める様に瞳を細めるメグムの問に、捜査に関わりそうに無い無駄な問に対してそう詰るけど、ツルギが窘めて答える。

 

「うむ、その通りだ。...全く、何が『歴史ある建物の景観を損なう』だ。人の目ではどうしても限界があるというのにな。それはさておき――その穴を補う形で巡回ルートも構築した訳だが...今回の重営倉に入れていた連中の()()は、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある」

「...カメラの監視があれば防げいた?営倉棟への進入路は一つだけです。脱走を手助けするにしてもどうやって――」

 

 

ガコン...

 

―――ニヤリと笑ったメグムがおもむろに噴水の縁に等間隔で並ぶ石造りの装飾の突起の一つに触れて()()()()()()

 

 

ゴゴゴ...!

 

―――二、三秒の間を置いて噴水が小刻みに震えて私達から見て右へと()()()()

 

 

 

 

―――ズズン...!

 

「こ...これは一体...?!」

「...石段の埃に()()()()()()()()()()があるな。...成程、これは完全に盲点だな」

 

―――噴水の移動が止まり、ズレた箇所に口を開けた開口部を見れば、ツルギの指摘通り()()()()()()()()出来たであろう足跡が見える。メグムは開口部―――

 

 

 

 

「――いやはや...よもや『カタコンベ』の出入口がこんな所にもあったとはな。連中の逃げた先は分かったが――新たな疑問も生じた訳だ。聖園ミカに協力していたあの者達は()()()()()――()()()()()()()()()()?」

 

―――『カタコンベ』の出入口を見下ろして不敵に笑いながらそう告げる。

 

 

―――To be Continued―――

 

 

 




ということでミカとアリウスの接触でした。―――既に察せたかと思いますが、アリウスには怪綺談ボスキャラ組がキャスティングされています。理由についてはエデン条約編投了後に...さて次回、エデン条約前半の一区切りです。


~生徒紹介~
名前:門守(かどもり) サラ
所属校:アリウス分校
学年:二年生
部活動:"アナテマスクワッド" サブリーダー
装備:SG(FABARM STF/12(ゲート・オブ・アビス))+折り畳み式シールド

名前:緋野(ひの) ユキ
所属校:アリウス分校
学年:二年生
部活動:"アナテマスクワッド" リーダー
装備:AR(SIG SG550(クリムゾン・レイジ))

前:氷川(ひかわ) マイ
所属校:アリウス分校
学年:二年生
部活動:"アナテマスクワッド" ポイントマン
装備:SMG(SIG MPX(アズール・フロスト))
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