Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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エデン条約編一区切りです


File108.ET-18~拭えぬ不安~

~『ティーパーティー会館』 首長(ホスト)専用テラス~

side-"先生"

 

「――記入が終わりました。ご確認ください」

「"ありがとう"」

 

―――会館内、首長(ホスト)専用テラス。付き人を経て『シャーレ』の依頼遂行報告書と、昨夜のクーデターに際する『シャーレ』介入の宣言書を受け取り、ナギサのサインが記入されている事を確認して鞄にしまう。

 

「"――確認したよ。これで、"補習授業部"顧問としての補習授業指導とサポートは晴れて完了だ。君達"ティーパーティー"のサポートに心から感謝を"」

 

 依頼―――"補習授業部"への指導とサポートの完了を宣言して謝意を伝えると、ナギサは申し訳無さそうな表情を浮かべる。

 

「サポート等と...私が"補習授業部"を立ち上げた目的は、既に"先生"もご存知かと思いますが」

「"そうだね。――裏切り者を見付けようとして、無実の者を巻き込んでまで謀略を講じたことに思う所はある。だけど...それは悪意ではなく、『トリニティ』を、大切なものを守ろうとした善意から取った行動。だから私から叱ることはない。――謀略の甘さでどうなったかは君自身が痛感しているだろうからね"」

「...そうですね。――身近だからこそ、背後で動いているなんて露程にも疑っていませんでしたから。..."先生"。私が講じた謀略を跳ね除け、依頼を遂行して頂き、心より感謝いたします。目的を明かしたあの時に"先生"がおっしゃられた通り、仮に謀略が成功していたら私は()()()()()()()()()()()()を負っていたでしょうから」

 

 私の言葉にナギサは頷き、謝意を述べる。謀略が―――"補習授業部"の試験を妨害して退学に追い込む事が成功していたら、無実の娘達を理不尽に退学させた結果が残っていただろう。

 事実、裏切り者は"補習授業部"には居らず――一応、セイア襲撃を目論み、彼女の説得で協力したアズサが居たけど――、ナギサが疑っていなかったミカがその裏切り―――ナギサへのクーデターを目論んいたのだから。そのミカは―――

 

「"――"ティーパーティー"として、ミカにどう処分を下すつもりかな?"」

「"ホストリーダー"に対するクーデターは『トリニティ』としても、キヴォトスにおいても重罪。...退()()処分も視野に入る。しかし――処分を下すには情報も足りないし、時期も状況も悪い」

 

―――ミカの処分について尋ねると、セイアがそう答えて目を伏せる。

 

「...ミカさんのクーデターに協力していた生徒は、『トリニティ』の生徒ではありませんでした。所持していた学生証が偽造だったのです。では何処の生徒なのか。それを詳しく調べる為に"正義実現委員会"の下で重営倉に収監していたのですが...」

「...本部に何者かが侵入。警備を無力化して収監されていた娘達を解放して逃走したの。今も経路や手段を調査中よ」

「"道中で本部が騒がしい様子を見かけたけど、そんな事態があったんだね..."」

 

 ナギサとテンシの説明を受けて道中で見かけた"正義実現委員会"本部での騒ぎが何だったのか納得する。礼拝堂でミカと共に立て籠もっていた達は"ティーパーティー"の制服を着ていたけど、変装だった様だ。

 しかし、その正体を明らかにする前に何者かが彼女達を逃がした。情報を白状される事が都合が悪いのは当然の感情ではあるけど、今日―――クーデターが鎮圧されてそれ程時間が経っていない、警戒も厳しい状況下で、正義実現委員会(治安維持組織)の下から脱走させるとは。

 

「――しかし、私達が今朝ミカさんから得た情報と、"先生"が来訪される前に"正義実現委員会"から共有された途中経過の情報から、ミカさんの下に居た協力者の素性は明らかになっています」

「――『アリウス分校』。どうやらこの『トリニティ』の地下に広がっている『カタコンベ』を抜けた先にある学校らしいわ。

 "正義実現委員会"の下から脱走させたのは、この『アリウス』の生徒――昨夜のクーデターでナギサに接触したという『旅籠ルイズ』の可能性が高い。"正義実現委員会"本部の営倉棟にあった『カタコンベ』の出入口から侵入し、警備を無力化して営倉から解放。同じ出入口から逃走したらしいわ」

「"『アリウス分校』、『旅籠ルイズ』..."補習授業部"でアズサも言及していたね"」

 

 ナギサに続いてテンシがそう説明し、アズサが"補習授業部"で本当の素性を明かした時に聞いた名前だと気付く。

 

「――アズサにも話を聞く必要がありそうだね。とは言え、あまり厳しく追及したくはないが...」

「"アズサは『"ティーパーティー"が尋問を求めたら答えられることは答える』と言っていた。君達が情報を求めるなら応えてくれる筈だよ"」

 

 申し訳無さそうに目を伏せるセイアにそう補足する。

 

―――『私の素性は、今の"ティーパーティー"にとって垂涎の情報だと思う。だから...求められたら応えるつもりだ。とは言っても、一番欲しいであろうアリウスに入れる道については答えられない。...私が来た時とは、カタコンベの構造が大きく変わっているだろうから』

 

―――今朝、"補習授業部"の教室でアズサが約束を果たすべく明かした『アリウス』についての情報は驚くべき内容ばかりだった。『トリニティ』の地下に広がっているという地下構造『カタコンベ』を抜けた先にある学校であり、アズサはミカの手引きでトリニティ(ここ)に来たという。

 しかし、ルイズなる生徒については話さなかった。恐らくこちらから聞けば答えてくれたかもしれないけれど―――彼女が『アリウス』について話せる事を話し終え、"補習授業部"を解散してからヒフミと一緒に『モモフレンズ』グッズを買い集めるべく繰り出している。折角楽しんでいる所に水を差したくはない。

 

「――それなら、折を見て聞いてみるとしよう。勿論、無理に答えを引き出すつもりはないさ。...私の隠匿に協力してくれたし、昨夜のクーデターでは鎮圧に協力する側に付いていたからね」

「"...そうだ、隠匿と言えば。セイアは正式に"ホストリーダー"に復帰するのかな?"」

「...そのつもりだ。間違いなく隠れていた理由の追求は来るだろう。だが――()()()()()()()()覚悟は決めた。"先生"、君と...幼馴染の親友のおかげでね」

 

 セイアの言葉で彼女の進退が気になって尋ねてみれば、彼女はそう答えて私とテンシに目を向ける。私の言葉だけでなく、テンシの説得が大きかった様だ。

 

「セイアさんに全てを押し付けるつもりは毛頭ありませんが...それでもこれから私達がやるべきことは多く、大変なものになるでしょう」

「――『エデン条約』調印式典の準備、ミカの処罰、『アリウス』の調査...式典の準備は兎も角、後者の二件は一筋縄ではいかないわ」

 

 セイアのフォローを宣言したナギサに続いてテンシがそう答えて目を伏せる。セイアがテラスを見回して払う様に手を振ると、テラス内の側役の娘達がテラスから退出していく。

 

「――この話はできる限り内密にしてくれると助かる。...先程言った通り、ミカのクーデターそのものは退学もあり得る重罪だ。だが、"先生"も知っての通り――この『トリニティ』は権謀術数渦巻く場所。今、ミカをそのまま処罰すると厄介なことになる」

「"パテル分派"は屈指の実力主義的な組織風土を持っています。ミカさんが首長(ホスト)に就いていたのも分派内で最も実力があったからです。――その実力の持ち主が居なくなった今、"パテル分派"内は後継の選定で揉めています」

「ミカがその辺りに無頓着だったこともあるけど――そもそも、ミカの後を引き継ぎ得る人材が分派内に居ないのよねぇ」

 

 セイアに続いてナギサ、テンシが"パテル分派"の現状についてそう説明する。ミカが首長(ホスト)に就けない状況に陥ったものの、その後を引き継ぐことが出来る人材が分派内に居らず、その後継を巡って揉めている。ナギサの"フィリウス分派"、セイアの"サンクトゥス分派"と共に"ティーパーティー"を主導する三大分派の一角が行動不能になるという事は、『トリニティ』を動かす力を持つ権力の座に空席が生じる事を意味する。それは―――

 

「"――三大派閥の一角が崩れたとなれば、主導権がない他の分派が後釜に座るべく動き出しそうだね"」

「えぇ。...実際、他分派や没落した分派の娘は既に動き出しているわ。今朝も、ミカを収監している特別監獄の傍でそういう娘達が()()()()()()()声をあげていたわ。...今までコソコソ陰口で潜めていた癖に、クーデターという重罪が明らかになって、それを盾に()()()()()をあげるのはやり過ぎよ、全く...何が"()()()()()()()"よ。仮にクーデターが成功していたら、逆にミカを持て囃して追従していたのが目に見えるわ。そしてナギサが...」

 

 私の言葉にテンシは頷き、ミカと面会した時に見かけたらしい出来事を明かして目を伏せ、拳を握り締める。―――ミカがクーデターを起こした事は紛れもない、覆しようが無い事実だ。しかし批判糾弾はともかく、ナギサへのクーデター(ミカが犯した罪)は罵倒を許す免罪符にはならない。幼馴染の親友(大切な者)を罵倒されていて穏やかでは居られないのだろう。

 

「――だが、ミカへの処分は先程も言った通り()()()()()()()()()。それを分かっているからこそ、表向きは処分を催促する声をあげ、その裏で()()()()()()()()に備えて()()()()を進めているに留まっているようだ」

「――『エデン条約』調印式典の遂行が最優先になります。決行日が目前で、身内の不始末で延期、最悪中断など...私達の名に傷が付くのはまだしも、これまで積み上げた『ゲヘナ』との改善、繋がりを無に帰すのはデメリットしかない。それはあの方々も理解している筈です。

...ですが、それでも催促の声は下火にはならないでしょう。弱体、没落した分派からすれば奇跡に近い、復権、逆転のチャンスですから」

「...だが、『エデン条約』調印式典遂行までの期間、今朝の"正義実現委員会"からのクーデター協力者達の脱走は()()()()()()()()になる。...罵倒に晒されるミカと、容疑者をゴッソリ逃がした"正義実現委員会"には申し訳ないがね」

 

 セイアは一度言葉を切り、紅茶を一口啜って喉を潤す。

 

「――『アリウス分校』。何故この『トリニティ』の地下に存在しているのか?何故そのような状況になったのか?...ミカはクーデターの動機として、こう言っていたそうだ..."()()()()()()()()"、と。

...これは、『アリウス』が()()()()()にあること。そして――()()()()()()()()()()()()()()()可能性を示している」

 

 セイアはミカがクーデターを起こした動機について明かし、テンシを一瞥して彼女が頷いた事を確認してから私に目を向け直し、そう推測を挙げる。

 

「"...それは、ミカが()()()()()()()()()()ということかな?"」

「はい。――今朝、特別監獄でミカさんから()()聞きました。『アリウス』との接触の経緯と、動機を抱いた理由を」

「"...それは、私が聞いていいものかな?...既にミカの処分についての方針を聞いた以上は絶対に黙っておくけど"」

 

 私の問にそう返したナギサに対して確認する様に尋ねる。ミカへの処分は本来、シャーレ(超法規的部活動)顧問と言えどあくまで部外者である私が聞いていいものでは無い。話の流れで聞いてしまった以上、それを他者に漏らすつもりは毛頭無いけど、更にミカが明かしたという『アリウス』についての情報を知るとなれば―――『トリニティ』の()()()()()()()()()()()事になる。故に慎重にならざるを得ない。

 

「――"先生"だからこそ、知って欲しいのです。貴方程の、とことん生徒を想い、悩みや問題を解決する無私の献身を貫こうとする方だからこその知見や見方を知りたいのです」

「"...分かった。そこまで期待される程できた人間じゃないけれど、私なんかの意見が欲しいなら、心して聞くよ"」

「...謙遜も過ぎると不審や不快感に繋がるのだがね。まぁいい。では、私達がミカから得られた『アリウス』についての情報を語るとしよう――――」

 

 


~『大聖堂』書庫最奥~

side-サリエル

 

「...そうか。まさか本部中心部の営倉棟から逃げおおせるとはね」

「――私が得た情報では、営倉棟中庭に『カタコンベ』の出入口が隠されていたようで、そこから侵入し、脱走後もそこから逃走した可能性が高いとのことです」

 

―――書庫最奥。今朝方"正義実現委員会"本部で起きた騒動についての報告をシスター――キクリとは違う、我が派閥所属の者だ――から受ける。

 

「なるほど...かの者達の結束はかなり高く、それを実現できる程に『カタコンベ』を熟知しているということか。ますます取り逃がしたことが惜しい」

「...いかがいたしましょうか。『カタコンベ』を抜ける道を把握できれば()()()()()()()()()遂行できたと思われますが」

「逃がしたものは取り戻せない。今まで通り侵入と調査を続けるように。『エデン条約』調印式典までには()()()()()所だが...()()()()()()も厳しいままだ。計画通りと行かずとも、その時はその時だ」

「承知いたしました。サリエル様の仰せの通りに」

 

 シスターは深々と頭を下げて踵を返し、書庫の出入口に向かう背中を見送る。

 

「...さて...」

 

 ドアが閉まる音を確認し、目の前の書棚に並ぶ写本の一つに触れ、軽く押し込む。

 

―――ズズズ...

 

―――仕掛けが作動して書棚が動いて隠し部屋への入口が露わになり、中に入って部屋側の壁に偽装して据えたボタンを押して書棚を閉める。

 書庫より遥かに小さく狭い石造りの部屋。古く年季が入った書棚には同様に古いが手入れされて可読状態を保たれている本が並んでいる。

 

「...聖園ミカのクーデターは想定外だったが、まさか『アリウス』の者を戦力として連れ込んでいたとはね。戦力を供出される程に関係を深化させていたとは意外だ。是非とも情報を得たかったが...まさか脱走されるとはな。『カタコンベ』の調査進展の遅さが裏目に出たな。我々の調査の妨害、今回の脱走...『アリウス』のこの結束の固さ...やはり、記録の通り()()が居るということか」

 

 書棚から特に新しい一冊の本――を模したバインダーを取り出し、開きながら言ちる。

 

―――『トリニティ』()()()()から今まで試みられてきた謀略はあまり進展が無かった。主な要因は『カタコンベ』の不定形、不安定な構造変化により犠牲が多く早晩頓挫していた事だったが、()()()()()()()()()辺りから少しずつの調査で構造をマッピングしてパターンを把握していく方法を取り始めた。おかげで歩みは遅くとも安定したルート構築と探索を実現出来たが―――()()()()()()()()()、即ち『アリウス』の者達による襲撃によりこれまでは推測の域を出なかった()()が確実なものと化した。それを受け―――

 

「...全く、手紙ですら口うるさい連中だ。既に舞台から降りたというのにさも指導者のように振る舞うのは、そうまでして()()()()()()にしたいのか、それが"ティーパーティー"、世間に明らかになることが怖いのか...後者については既に知る所だが」

 

 バインダーに()()()()()を収め、閉じて書棚に戻す。

 

―――桐藤ナギサと百合園セイアが朝方特別監獄を訪ねた事は"ティーパーティー"内の()()()()()から聞いている。その目的は間違い無く聖園ミカから()を聞く事だった筈だ。

―――一方、()()()()()()()()()()OG達も()()()情報網なり人脈なりでクーデターに関する情報を得たのだろう。今朝方()()()()を通して渡されたこの手紙からは()()が見えていた。尤も、催促された所で一気に事を進められるだけの情報も無いし―――()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

「――『アリウス』側が()()()()()()()か。今は知る術がないが...この『トリニティ』が()()()()()()()は話している筈だ。でなければクーデターを助ける為の戦力など出す筈もないからな。

 問題は、支援したクーデターが失敗した『アリウス』がどうするか。自分達の意向を汲んで動ける者は今や身動きが取れない状況にある。そうなれば、後は()()()()()()()()しかないが...」

 

 書棚を見回しながら『アリウス』が次はどう動くか考える。"ホストリーダー"を狙ったクーデターが失敗した以上、同じ手は使わないだろう。しかし、他に使える()()()()手はかなり限られる。特に―――

 

「――目前の『エデン条約』調印式典。この日は()()警戒した方がいいか。()()()()()()()()()()に出る可能性は否定できない。後は...白洲アズサだな。キクリが何かしら情報を得ているといいのだが」

 

 この『トリニティ』に現在居る『アリウス』の人間を思い起こし、補習授業部(同じ部活動)で肩を並べて活動さていた腹心の()()に思いを馳せる。朝に受け取った『モモトーク』での報告通りなら、今頃は"補習授業部"の者達と()()()()()()()楽しんでいる筈だ。

 

「――献身が過ぎてプライベートすら捧げていたあのキクリが友人を得て、()()()()()()()()()()()()とは。...送り込んだ甲斐があったと言うものだ」

 

―――『趣味ですか?...主への祈り、献身、サリエル様の補佐以外に必要なものがありましょうか』

 

 趣味を尋ねてもそんな答えを返した程の敬虔過ぎる腹心の変化を思うと笑みが零れそうになる。上がりそうになる口角を抑えながらボタンを押して隠し部屋を出て、書棚を戻す。

 

「――あぁ、やはりここに居ましたかシスターサリエル」

「――おや、ご機嫌ようシスターサクラコ。何か用事でも?」

 

―――書庫の出入口に向けて歩き出すと、その方向から歩いて来ていたらしいサクラコと出会し、挨拶と共に用件を尋ねる。

 

「いえ、特に用事という程のことはありません。...買い出しに出ていたシスターマリーが、お会計特典の抽選で[ミラクル5000]を二つも獲得されたのです。

 私は固辞したのですが...是非にと私に二つ全て譲って下さったのです。なので...折角ですから、シスターサリエルも一緒にどうかと思い立ちまして」

 

 サクラコはそう答えて自分には勿体ない事だと言いたげな表情を浮かべる。...サクラコには悪いが、恐らく[ミラクル5000]を羨んだ表情が()()()()()()で、マリーは()()()()間違った解釈を取って渡してしまったのだろう。

 本当なら彼女自身で食べたかっただろうに...折を見てフォローしなければ。

 

「ほう、一つ買うにも苦労するものを二つもか。今日は主がシスターマリーに微笑みたもうたのだろう。一人で二つ全ては少々重いだろう。折角の誘い、ありがたく受け入れよう」

「シスターサリエルならそう言って下さると思っていました。談話室でお茶を用意させていますので、行きましょう」

「あぁ、行こうか」

 

 嬉しそうに微笑むサクラコに頷き、彼女に続いて歩き出す。―――普段は()()()()()()()()()()()()表情を浮かべてばかりだが、気を許せる者の前故か私の前では()()()()()()()表情を浮かべる我が幼馴染の親友。だが...

 

「...(つくづく()()()だな、私は。これ程気を許しているというのに、私は()()()()()()()()()()()()()()()のだから。だが――彼女に()()()を背負わせる訳には行かない――)」

 

 

 

 

「(――()()()()()()()()()()()()()()()為に、()()()()()()()()()()()()()()。そう決めたのだから)」

 


~『トリニティ』自治区内 商業区~

side-アズサ

 

「アズサちゃん見てください!『モモフレンズ』の皆さんが勢揃いしたTシャツですよ!」

「おぉ、これは凄いな...!」

 

―――ショッピングモール内の片隅に構えられた『モモフレンズ』グッズを取り扱っているお店の中。ヒフミが見付けたTシャツを見る。確かに『ペロロ様』を中心としてフレンズが勢ぞろいしていて、私が好きな『スカルマン』もよく目立っている。

 

「しかもちょうど残り二着ですよ!サイズも良い感じですし...もうこれは買うしかありません!」

「そうだな。これは買うしかない...!」

 

 Tシャツとしてはそこそこ値が張るが、『モモフレンズ』グッズはその人気振りで流通は安定しているとは言えない。もしかしたらこの二着で品切れの可能性もある。ヒフミと比べれば持っているグッズは遥かに少ないし、ヒフミとお揃いのグッズになるならこれは買っておくべきだ。ヒフミの言葉に頷いてTシャツを一着手に取る。

 

「じゃあ、そろそろお会計に行きましょうか。アズサちゃんは他に買いたいものはありませんか?」

「いや、このTシャツだけで大丈夫だ。...ヒフミこそそんなに買って大丈夫か?」

「"補習授業部"に居た間にリリースされたグッズは()()買っておかないとですから。...()()()()懐は寂しくなりますが」

 

 ヒフミとそんな会話を交わしながらレジへと向かう―――

 

「――おや、お二人もお会計に来ましたか」

「キクリちゃんもお買い物が終わったんですか?」

「はい。ヒフミさんから教えて頂いた時から気になっていた『Mr.ニコライ』の著書『善悪の彼方』があったのでそちらを」

 

―――レジに着くと、ちょうど会計を終えたらしいキクリと出会し、ヒフミの問にそう答えて手に持っていた紙袋を私達に見せる。

 

「わぁ、いいですね!私は哲学分野は全然詳しくありませんが、その分野の著書としてもよくできていると言われているので、きっとキクリちゃんも楽しめると思いますよ!」

「私も哲学が専門ということはありませんが..."シスターフッド"では聖書読み合わせや研究も行っているので、その一助になればいいですね。

――では、私は書店の方に向かいます。...ハナコさんとコハルさんもそろそろ買い物が終わるでしょうから」

 

 ヒフミの言葉に対してそう答え、キクリはそう断って店を出る。

 

―――"先生"の宣言で"補習授業部"は解散となったが、それがヒフミ達との交流や繋がりの終わりを示すものではない。『補習授業で買えなかったグッズを全部買いに行きます!』というヒフミの宣言にハナコが『折角ですから皆でお買い物にでも行きましょうか♡』と提案し、私含め皆が賛成した事でこうして自治区内のショッピングモールに繰り出している。

 私とヒフミ、キクリでこうして『モモフレンズ』グッズを買い集める一方で、今のところ『モモフレンズ』に興味が薄いハナコとコハルはモール内の書店に向かった。...ハナコの()()を抑えられる者が居ない状態は不安だが、買い物を終えたキクリが向かったから、コハルが弄られっぱなしにはならないだろう。

 

「――じゃあ、私達は先にフードコートに行きましょう。よっと...!」

「...ヒフミ、大丈夫か?辛いなら一つ私が持つぞ」

「だ、大丈夫です...!これくらいなら、こうして肩に...!」

 

―――ヒフミが会計を終え、大きな袋二つを両手に提げるが結構重いのか一瞬よろめく。一つ持とうかと提案してみたが、ヒフミは大丈夫だと言って袋の把手穴に肩を通して袋を両肩に提げる。

 

「ふぅ...では、行きましょう」

「あぁ。...重かったら我慢せず言ってくれ」

 

 ヒフミの言葉に頷き、ショップを出て階下のフードコートを目指して歩き出す。

 

「帰ったら楽しみですね!ずっと寮の部屋に戻っていなかったので、そのグッズの整理もしないと...!」

「...ヒフミは本当に『モモフレンズ』が、『ペロロ様』が好きなんだな」

「当然です!『ペロロ様』が独特であることは分かっていますが、いつかは『ペロロ様』を好きだと言ってくれる人が増えることを願って布教用にも集めていますから!アズサちゃんの故郷――『アリウス』にも『ペロロ様』を好きだと言ってくれる人が居るかもしれませんし!」

「...うーん、どうだろうな...」

 

 期待した様に瞳を輝かせるヒフミの言葉が()()()()()()()()()()()痛みを感じるけど、それを誤魔化す事もかねてはぐらかす。痛みの理由は分かっているが―――

 

「――ヒフミ、トイレに行っていいか?」

「いいですよ!私は先にフードコートに行きますね」

「あぁ、すぐ合流する」

 

―――視界にトイレの案内板を見付け、そう断ってヒフミと別れてトイレに入る。幸い個室の空きは多く、奥の個室に入ってスマホを取り出す―――

 

―――今日―――

 

トラベラー

 アズサ 

 クーデターに参加した子達  

 は私が回収したわ。  

 きっと貴女にも追及が来る 

 ことでしょう。  

 貴女が何を話してたとしても、  

 口を噤んだとしても、  

 その選択を責めはしないわ。  

 貴女は貴女の道を進みなさい。  

 恐らく次に会えるのは少し先  

 になるでしょう。  

 その時、貴女が覚悟を決めて  

 いることを願うわ。  

 

アズサ

 ルイズ? 

 何をやったんだ? 

 返事をしてくれ 

 


 

「...やっぱり、既読は付いていないか」

 

―――ルイズとの『モモトーク』に既読が付いていない事を確認し、ため息を漏らす。昨夜のクーデターの後、"補習授業部"合宿所の部屋に戻った時に彼女に連絡を試みたが一切繋がらず、今朝『モモトーク』に通知が来たがその時は"先生"、ヒフミ達に『アリウス』について話していた事で後回しにしていて、まさかルイズからのメッセージだとは思わなかった。

 聖園ミカのクーデターに加わっていた者達は"ティーパーティー"の制服を着ていたが、全く偽装していなかったその顔は()()()()()『アリウス』で顔を合わせ、時には一緒に危機を乗り越え、馴染みある仲間達だった。クーデターが失敗し、一緒に捕まった皆をどうするか話し合うべく、昨夜の電話でルイズと連絡を試みたが前述の通り繋がらず―――まるで()()()()()()()()()()()様な動きを彼女は()()()取っていたと知って驚いた。

 流石ルイズだと思う反面―――私が蚊帳の外にされている様な寂しさ、疎外感も同時に感じてしまう。ルイズの本心、真意を知りたくとも、私からの連絡に一切答えてくれないから尚更その感情は強くなっている。

 

「...私が『トリニティ』に来たのは、『アリウス』を救うと言ってくれた聖園ミカに協力する為。その為に百合園セイアを()()()しようとして、逆に彼女の隠匿に協力することになって...結果的に聖園ミカはクーデターを起こしたけど失敗。...私は、これからどうしたらいいんだろう」

 

 ルイズが残した『モモトーク』のメッセージを見ながらそんな言葉を漏らす。―――"貴女は貴女の道を進みなさい"。"()()()"が常に私達に言って聞かせていた事と似た意味―――()()()()()()()()()()言葉。荒廃した『アリウス』の環境にも関わらず、"()()()"は私達の選択を受け止め、惜しみなく、時には()()()()()()()()()()()()手助けしてくれた。その愛情にどれだけ助けられただろうか。だからこそ、その愛情への恩返しの為に私達は一丸となって"()()()"の為に()()を手伝って来た。

 

―――だけど、蚊帳の外も同然の今この状況。最悪の事態―――"補習授業部"に仕組まれた退()()を免れる事は出来たけど、"()()()"が狙っていたであろう聖園ミカのクーデターは失敗した以上は()()()を講じている筈だ。

 私はそれを手伝う事が出来ない。何をすべきか聞きたくても、その窓口でもあったルイズと連絡を取る事も出来ない。『カタコンベ』も間違い無く以前、『トリニティ』に入る時に通った道は使えないだろう。

 

「..."私は私の道を進め"。...私は、『アリウス』の――"()()()"の為に何ができる?」

 

 ポツリと漏らした問への答えはトイレの天井に消えて返って来ない―――

 

 


~『アリウス』本校舎 "校長"執務室~

side-シンキ

 

「――――報告は以上よ。想定外の事態もあったけど、それをカバーできるように私達の力が及ばなかったことも一因。――ごめんなさい、"()()()"」

「謝る必要はないわ、ルイズ。貴女達は最大限の努力を尽くした。努力の果ての失敗を詰る理由が何処にあると言うの?――貴女達はよく頑張ったわ」

 

―――ミカのクーデターに協力したものの、失敗して捕らえられた子達を脱走させてアリウス(ここ)まで連れ帰って来たルイズの報告を聞き終え、彼女の謝罪を断って労う。

 

「...だけど、クーデターで聖園ミカを"ホストリーダー"に据えることは失敗したことは事実。――これからどうするの?」

「厳しい状況だけれど、次の手は考えているわ。それに備えて、貴女達はしっかり英気を養いなさい。"アナテマスクワッド"の三人とも久しぶりに語らうといいわ」

「えぇ、そうするわ。..."()()()"――」

 

 ルイズが踵を返してドアに向かい―――ふと背を向けたまま足を止める。

 

「――私達はいつでも、これからも"()()()"の為に全力を尽くすわ。それが...()()()()()()()ことになろうとも、ね」

 

 そう言い残したルイズが部屋を出て行く背中を見送る。

 

「――本当に、いい子達に育ったわね。だからこそ...あの子達を()()()()に付き合わせるのは忍びない」

 

―――執務室の窓に足を向け、本校舎二階から一望できる『アリウス』自治区の廃墟だらけの市街地を眺める。修繕が進んでいるとは言えない建物に人は居らず、軒下でテントや屋根を張った間に合わせの家で子供達は過ごしている。

―――()()()とは比べるべくも無い程に荒廃しているからこそ、子供達が安全に住める様にせめてこの自治区中心の建物を直したかった。しかし()()()()()()()長く続いていた内戦が終わったばかりで、その内戦を終わらせた()()()が恐怖と暴力で子供達を虐げていた事もあり、物資は何もかもが今も尚足りない。

 食については最優先で改善して辛うじて安定供給が実現したけど、それ以外はあちこちの廃墟から使えるものを取り出して転用している有様。故に本格的な復興は『アリウス』単体ではかなり厳しい。だけど―――

 

「――『トリニティ』には、『アリウス』の存続に気付いた者達...私達を()()()()()()()()勢力が居る。――()()()()()()秘密裏に動いている辺り、()()()()()は公にしたくはないらしい。それが罪悪感か...或いは()()()()()()()()()()()()()()によるものかはまだ分からないけど」

 

―――復興を阻害する、『トリニティ』による秘密裏の攻撃。幸い子供達が優秀であったおかげでこの自治区までは及んでいないけれど、慎重ながらもトリニティ(向こう)の調査、侵入深度は深まりつつあり、『カタコンベ』という要害は攻略されつつある。だから、攻略されて自治区に()()が及ぶ前に―――

 

「――幸いなのは、ミカのような何も知らない者も居ることだけど...まさか桐藤の子まで知らなかったとはね。やっぱり、()()()は...」

 

 ルイズから聞いた報告に含まれていた、『トリニティ』の現"ホストリーダー"代行である『桐藤ナギサ』に聞いた事を思い返す。

 

―――『シンキ先生。――私には夢があります。幼馴染二人からすら"無謀"、"非現実的"だと否定されていますが...それでも、実現したいのです』

 

―――あの子との最初の出会いで彼女が語った()。それに賛成し、実現の為に多く支えて来た果てに()()()()()()。しかし―――

 

 

 

 

「――実現したけど、()()()()()()()貴女の夢。直してみせるわ」

 

―――To be Continued―――

 




ということで補習授業部編は終わり。ストーリーに沿った閑話をいくつか挟んだ後に、いよいよ後半調印式典です
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