Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『ティーパーティー会館』 執務室~
side-セイア
「――――セイアさん、サインをお願いします」
「あぁ、確認しよう。...ふむ...確かに、これは却下すべきか」
―――静かな空間に書類を捲る音、ペンを走らせる音が響く執務室。上座にある
「――
嘆願書の差出人の名前から内容を察し、却下印の押印とサインを添えてレターボックスに入れる。
―――ミカの収監からあまり日は経っていないが、彼女の処分決定を催促する声が"ティーパーティー"内の小規模分派や没落した分派から上がり続けている。
普通の嘆願書程度なら部下に裁可を任せる所だが、差出人が影響力が殆ど無い小さな分派とは言え、それを率いる"
―――意見を容れるつもりが無くとも、意見を聞いている
―――閑話休題。
「――セイアさん。確認をお願いします」
「あぁ。――どれ...」
―――ナギサが再び上覧を求め、付き人を介して受け取って内容を見る。様式は『トリニティ』内の部活動の予算申請書で、部活動は―――
「...ん?――ナギサ、もう一度
「...え?どこか間違っていましたか?」
―――不備を見付け、ナギサに声を掛けて申請書を彼女に返す。ナギサは戸惑った表情を浮かべて確認する。
「...あ...わ、私としたことが押印欄を間違えるなんて...!」
「――些か面倒になったね。我が『トリニティ』の規則では
恥ずかしそうに頬を少し赤らめ、自身が押し間違えた押印欄を見つめるナギサの横顔を見る。
―――
「...彼女達にお願いしなければなりませんね」
「あぁ、そうするしかない。――折角だ。
「...ミスの責任を取って申請書の書き直しをお願いしにいきますが、そのような時間は――」
「――『通功の古聖堂』の花壇や式典で飾る花。式典を彩る花々についての協議もまだだろう。"ティーパーティー"内では、君以上に庭弄りが得意な者は居ないからね」
―――予想通り私の提案に躊躇いを示した為、
庭の手入れを趣味とし、この会館敷地内の庭園整備を
「...分かりました。――では、しばらく執務の取り纏めはお任せします」
「あぁ、任された」
「――"園芸部"の拠点に向かいます。私一人で出向くので、"ソーサーナイツ"で手空きの者に共をするように伝達を」
「承知いたしました。...もしもし、○○でございます。ナギサ様が外出されるので、護衛を一名派出していただきたいのですが――――」
ナギサは頷いて立ち上がり、書き直し用の申請書数枚と共にファイルケースにしまい込み、付き人に渡しながら行き先を伝えると、彼女達も素直に頷いてスマホを取り出して"ソーサーナイツ"の待機室に連絡を行う。
「――――承知いたしました。...ナギサ様、永江"副長"が随行致します。玄関ホールにて合流するとのことです」
「分かりました。――では、しばらくセイアさんと皆さんにお任せしますね」
護衛の選定も終わり、私達に頭を下げてナギサが執務室を出ていく後ろ姿を見送る。
「...さて、
―――ナギサが退室して執務室のドアが閉まる様子を見届け、ポツリと呟く。"園芸部"部長である
~『トリニティ中央庭園』 "園芸部"温室内~
side-ナギサ
「――これはナギサ様。ご機嫌麗しゅう」
「――ご機嫌よう、『エリー』さん。突然の訪問、申し訳ございません」
―――『トリニティ』内で特に大きな庭園である『トリニティ中央庭園』。その一角にある大きな温室内の"園芸部"事務所に入ると、カールした金髪のショートヘアの上に赤いリボンを飾った白い帽子を被り、頭上に赤いヘイローを浮かべ、白いセイラ―カラーに赤いリボンタイを留めた赤のワンピース型の制服の上に白い上着を羽織り、茶色のブーツを履いた
「謝る必要はございません。
「...この予算申請書なのですが...こちらのミスで無効化してしまったので、書き直していただきたいのです」
私の言葉に合わせてイクさんがファイルケースから申請書を取り出してエリーさんに差し出す。
「拝見いたします。――あぁ、成程。押印を間違えたのですね。そのついでに、我々"園芸部"で息抜きでもされるようにと周囲から押された...といった所でしょうか」
「...!そこまで気付けますか...」
「直近の状況を考えれば充分推察は可能でございます。挙行が近い調印式典の準備に加え、さきの
申請書と私を見ただけでここに来た経緯を察した彼女に驚くと、そう理由を挙げてその位は察せると返す。―――普段通りであれば、心労を隠してやり取りも出来た。しかし、それすら出来ない程に心労が溜まっていたのだと実感する。セイアさんもそれに気付いていて、こうして申請書の再提出のお願いに賛意を示して送り出したのだろう。
「――しかし、今回の来訪は我々としても都合がいい点もあります。今回提出した予算は『通功の古聖堂』の花壇再建や整備に必要なものですが――花壇、式典会場で活ける花の選定ではナギサ様の知見が必要だと考えていたので、近々協議の場を設けたいと考えていたのです。それに――」
エリーさんは言葉を切って温室の方に目を向ける。窓越しに様々な種類の草花が育てられている膨大な数のプランターが並ぶ温室が見え、その中を歩く生徒らしき姿―――スナイパーライフルを仕込んだ日傘を差し、癖のある緑色のショートヘアと赤いチェック柄の上着、ロングスカートの後ろ姿も見える。
「――!...
「あの時は遠出していたので...草花が絡むならば、"部長"が動かない理由はありません」
予算や活動の交渉等、政治が絡む事もある運営、実務はエリーさんが全面的に受け持っている一方、草花や、それを映えさせる花壇、庭園の整備等の知見は"部長"である
―――庭の手入れは趣味の一つ。その延長線とも言える『通功の古聖堂』の花壇整備や式典で活ける草花の選定...
「――そうですね。私も
「申請書の再作成はすぐです。――どうぞ、心ゆくまで"部長"と交流なさいますよう。"部長"もナギサ様との交流は楽しいようですから」
「私は
私の言葉にエリーさんとイクさんが揃って微笑む。
「...分かりました。――では、申請書はお願いします」
「承知いたしました」
「ナギサ様、ごゆるりと」
エリーさんにそう断り、事務所内の温室出入口の扉を開けて温室へ入る。―――外気温より少し高い恒温の空間に種々の花のそれらが混ざった香しい匂いが鼻を擽る。嗅ぎ慣れた、しかし政務や執務の心労を癒す様な香りを吸い込んで深呼吸していると―――
「――あら、来ていたのね」
「――御機嫌よう、『
「えぇ。――御機嫌よう、ナギサ」
―――左手に赤い如雨露を持ち、右手にスナイパーライフルを仕込んだ日傘を差した後ろ姿が私に振り向き、頭上に黄色いヘイローを浮かべ、白いセーラー服に黄色いリボンタイを締め、赤いチェック柄の袖なしベストを羽織り、赤いチェック柄のロングスカートと茶色のブーツを履いた生徒―――"園芸部"部長『
side-イク
「――どうぞ」
「――ありがとうございます」
―――事務所内の一角、種々の草花が育成されている温室を一望できる大窓を設けた休憩スペース。そこに設けられたティーテーブルに座り、エリーさんが淹れた紅茶を受け取る。ダージリンの香りが、事務所内で装飾を兼ねて育成されている花々の香りと混ざってより引き立つ。
「――花の香りとダージリンはよく合いますね。香りがこうも豊かになるとは。確か、『トリニティ』内で流通する茶葉の一部は"園芸部"産でしたか」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。――左様でございます。最終的には加工するとはいえ、育成することそのものは草花と同じですから。積極的に売り出すことはしませんが..."部長"――
私の感想に対してエリーさんは微笑みながらそう答え、私の前で申請書をサラサラと書き進めていく。―――紅茶が基本であるこの『トリニティ』に於いて、"ティーパーティー"
"園芸部"が管轄する施設は庭園や花壇に加え、茶葉等一部の畑も含まれている。規模は大きく数も膨大。その数に比して部員数が少ないにも関わらず、整備や育成をミスなく熟せているのは、風見"部長"の
―――風見家と花門家が代々主従関係で繋がっているとは言え、エリーさんの側役としての働きは歴代屈指だろう。
―――閑話休題。
「――『通功の古聖堂』の花壇、庭園整備の状況はいかがでしょうか」
「――順調...とまでは言えませんが、ある程度計画は纏まっております。活ける花々が決まり次第、腕利きを投じて一気呵成に進めるつもりです。――今回のナギサ様の来訪はこちらとしてもちょうどいい機会でした」
エリーさんはそう答えて大窓に目を向ける。―――日傘を閉じ、ナギサ様と肩を並べて歩く風見"部長"の顔には和やかな微笑みが浮かんでいて、ナギサ様の表情は見えないものの、代わりに背中の翼が上機嫌振りを示している。
「...ナギサ様、本当に嬉しそうですね」
「えぇ、左様で。
――好きなこと、趣味の話で心が落ち着くのは何者にも言えることですが、最近のナギサ様のご多忙振りを考えればその効果は一入でしょう。...少しでも心を安らがせる一助になればいいのですが」
エリーさんはペンを走らせる手を止め、仲睦まじく語らうお二方を見て目を伏せる。―――ミカ様のクーデターについては、
「そうですね。...幼馴染の親友としてできる限り弁護、減刑はしたい。しかし生徒会へ対するクーデターはキヴォトスとしても
しかし、周囲からすればミカ様が
「...私も
「...やはり、来ていましたか」
エリーさんの愚痴る様な言葉からその言わんとしている事を察して尋ねれば彼女は頷く。
―――従者の家である花門家は兎も角、風見家は
そして風見"部長"は草花への知見だけでなく、その身の
「――役職持ちが大勢で詰めかけ、我々の事情もお構い無しに
「"パテル分派"からすれば主導権を失いかねない事態。追い詰められた人間はどんな手を使おうとも事態の打開、解決を目指すものとはいえ...相手が悪すぎましたね」
ため息を零すエリーさんに頷いて思わず眉を顰める。―――風見"部長"が入学早々に"パテル分派"参画資格の放棄を宣言した事は知っていた筈だ。それにも関わらず彼女の参画を求めたという事は、分派内にはミカ様の後を継げるだけの人材が居ない事実に益々確信を抱く。
「我々の意思が変わらないと察する頭はあったのか、あの時以来"パテル分派"の接触はありませんが...油断はできません。――
「――流石風見"部長"というべきか、
エリーさんの言葉に苦笑する。―――風見"部長"は人間を基本的に
尤も、言い方を変えれば―――
―――閑話休題。
「――兎も角、"園芸部"の独力で対応し切れない場合は我々も手を差し伸べましょう。――ナギサ様が
「...お気持ちだけいただいておきましょう。――花々が持つ生、美しさを理解できない者は遠ざけ、如何なる理由であろうと
エリーさんは援助の提案を断り、そう返して自身の傍に立て掛けた、草刈りや枝の剪定に使うには
side-ナギサ
「――――やはり、式典会場には我が『トリニティ』と『ゲヘナ』を象徴するような花を活けるべきでしょうか。我が『トリニティ』からは[テューダー・ローズ*2]をメインに出そうと思っているのですが...」
「双方の歩み寄りを演出したいならそれも一つの手ね。――貴女もそう考えると思って、
「――流石
―――温室をゆっくり歩きながら『エデン条約』調印式典で飾る花や飾り方についての話し合いがトントン拍子に進んでいき、彼女が持つ草花への知見の深さに改めて感心する。
「――政治に興味はないけれど、今まで誰も考えもしなかった『トリニティ』と『ゲヘナ』の協調という歴史的偉業。それを成し遂げる場を飾らないのも味気ないしね。...貴女が私の知恵を求めに来なければ、そもそも気を向けることもなかったでしょうけど」
「――本当に、草花
「――怒るつもりはないわ。私の
「...!」
しかし
「ナギサ。貴女は数少ない、私と
政治に興味はないし、
「...ミカさんが起こしたクーデターは裁かなければなりません。"ティーパーティー"――学校運営を預かる生徒会として、
―――特別監獄に収監され、その外から"ティーパーティー"の者達が自分達の権力、影響力拡大の為に糾弾し、処罰の催促を求める声に晒され続けるミカさんの姿を脳裏に思い浮かべる。面会した時は外の声や、自身が犯した罪の重さを理解してどんな罰でも受けると言っていた。だけど―――
「――ミカさんが『トリニティ』から
"ティーパーティー"はこの『トリニティ』内でも一際権謀術数が渦巻く環境です。自らを、自らの派閥を上に持ち上げる為に他者を踏み台にすることをも躊躇わない。――だからミカさんが、大切な幼馴染の親友が、政争の道具に、踏み台にされようとしているのが心苦しいのです」
―――自身の胸の内を吐露し、無意識に手を握り締めていたのか、爪が掌に食い込む痛みでハッとして手を開く。
「――
「...はい。クーデターの首謀者である以上、裁かなければならない。しかし、ミカさんが居なくなってしまうと"パテル分派"の
――三頭政治の一角が崩れると見て既に
「...え...?」
―――私の言葉を遮って投げかけられた問に呆けると、
「――クーデターなんて予想外の事態での混乱、困惑を抜きにしても
『だけど――』と
「――さっき、
「...!」
「私は一人でやるのが好きだから、大体のことは一人で熟すけど――普通、
組織を運営するのは一人ではない。組織の長に必要なのは最終判断に責任を持つ覚悟と――
――貴女には居るでしょう?政治にとんと興味がない私なんかより、
「――そうですね。...申し訳ありません、
「謝るのは私にじゃなく、貴女の
いや、草花を
「――ありがとうございます、
「えぇ、そうしなさいな。――とは言え、
「...また、すぐに出立ですか?」
「そうしたい所だけど――『通功の古聖堂』の準備と、調印式典は見届けていくわ。歴史的偉業の花道位は飾ってあげなきゃ、ね」
「そうですか...ならば、私も頑張らなければなりませんね」
「あまり気負わないことよ。過度な緊張は
会話を交わしながら事務所へと揃って足を向ける―――
~"園芸部"温室 事務所玄関~
side-エリー
「――申請書の再作成、ありがとうございました。もとより承認予定でしたので、明日にでも承認される筈です」
「なら、すぐにでも準備を進められそうね」
「ありがとうございます。――これで、調印式典も彩り豊かになるでしょう」
―――事務所玄関前。
「いよいよ挙行間近とは言え、準備はできる限り完璧にしたい所。"園芸部"の活動の範疇で追加で必要な作業、提案があったらいつでも来なさい。温室の方でも言ったけど、調印式典までは
「重ね重ね、ありがとうございます。――式典を成功させる為にも、今少しの間ご協力をお願い致します」
「――では、会館に戻りましょう。改めて、こちらのミスにも関わらず再作成していただきありがとうございました」
「――"園芸部"の皆様、失礼いたしましす」
頭を上げたナギサ様の言葉にイクさんが頷き、カーテシーで私達に挨拶して踵を返して庭園正門に向けて歩き出し、
「――
「――有意義だったわ。彼女が
お二方の姿が見えなくなり、
「――予算の承認、納金を確認次第、古聖堂での準備を加速させます。花壇、庭園の再建は既に完了。後は草花を植えていくだけです」
「明日にでも『ゲヘナ』から取り寄せた
「承知いたしました。――しかし、珍しいですね。
―――だからこそ、今回
「...歴史的偉業を成し遂げる場を"園芸部"の総力を挙げて飾るのだから、それを見届けたっていいでしょう?...ただ、少し
「
「――聖園ミカが起こしたクーデターについては、私もある程度情報は把握している。クーデターには協力者が多く居たけど――
「――『エデン条約』調印式典。この場で
―――一陣の風が吹き、
ということでフラワーマスターとエリーの登場です。トリニティなら庭園も多いだろうし、草花と言えばとキャスティングしてみました。エリーは旧作幻想郷繋がりでのキャスティングです。
さて次回―――調印式典、始まります。
感想、評価、お気に入り、栞、ここすきは大歓迎です。作者が喜びでわっぴ~します。
~登場生徒紹介~
名前:
所属校:トリニティ総合学園
学年:三年生
部活動:園芸部 部長
装備:SP(
名前:
所属校:トリニティ総合学園
学年:三年生
部活動:園芸部 副部長
装備:大鎌+SMG(