Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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山海経イベント解禁されたので初投稿です。教育観や恋愛コメディ、ギャグと全体的に面白いイベントだった。新キャラも出たしこれからが楽しみ。雛鳥組は実装するのかな?某二人と違って純然たる園児は流石に厳しそうだけど。

さて、調印式典が襲撃された続きです。


File114.ET-24~調印式典③~

―――会場襲撃から少し時を遡る―――

 

~『トリニティ』自治区内 特別警備本部~

side-メグム

 

『――こちらA-1班イチカ!武装集団の奇襲を受け交戦中!数は六人!座標はA1の9-4っす!』

「了解。――付近にB-3班が居る。厳しければそちらへ増援を求めろ」

『了解――あ!逃げた?!こ、こちらイチカ!武装集団が離脱を開始したっす!』

「無理に追うな。次の襲撃に備えろ」

『り、了解っす...』

 

―――イチカからの報告を受け、目の前に広げている自治区内全体の地図の一角に敵を示す赤いピンを差しながら対応を指示する。

 

「ふむ...戦術は予測通りだ。――自治区内各所にある『カタコンベ』の出入口から展開して同時多発的に警備を襲う。尚且つ、不利と判断すれば裏路地や横道へと逃げ込み、『カタコンベ』の出入口に隠れて、時間を置いてまた襲撃する。

――間違いなく『アリウス』なる勢力の者達だな。しかし、これだけ広域に展開しているとどうしてもタイムラグが生じる筈だが...一撃離脱の徹底と言い、よく訓練されている」

 

 地図上にマーキングした襲撃者の位置を見回しながら言ちる。―――赤いピンは自治区内各所に広く分散して差されていて、会場である『通功の古聖堂』の近辺にはまだ確認されていない。その状況から敵勢力の狙いがよく分かる。

 

―――三十分程前。調印式典が始まった時から、『アリウス』と思われる武装集団が各所に姿を現し始めている。戦力を分散させる為に広域で同時多発的に行動を起こす事は想定済であり、我が"正義実現委員会"と"トリニティ自警団"を総動員して鎮圧、迎撃を迅速に行える様に体制を構築した。

 小規模な部隊を()()()()()()各所の『カタコンベ』出入口付近に配置し、敵勢力の出現を確認次第迅速に迎撃出来る体制に加え、増援用の遊撃部隊も幾つか配置している。

―――だが、先述の通り敵勢力、『アリウス』の者達は『カタコンベ』の出入口を活用して神出鬼没に、一撃離脱を徹底して襲撃を繰り返している。トリニティ(我々)が発見()()()()()()()()出入口も利用している様で、迎撃を受けて離脱した所を追ってもすぐ見失う為、敵勢力出現に合わせての迎撃に留めている。

 

「できる限り『カタコンベ』の出入口は探したが...やはり人手が足りないな。『カタコンベ』の把握度合はアリウス(向こう)が上。だからこその一撃離脱か...問題は、いつ本命を――『通功の古聖堂』を狙うか、だ」

 

『――――さて、本条約は前任の"連邦生徒会長"により提案されたものでしたが、当初は我が"連邦生徒会"内でも反対派の意見が優勢でした。歴史として積み上げてきた対立関係の改善など無謀――そんな意見が多かったものです。かく言う私も懐疑的でしたが、前"連邦生徒会長"の熱意に押され、やるだけはやってみようと両校へ提案を持ち込むに至りました。その結果は――――』

 

 テレビに映している式典のライブ映像を見る。今は八雲"連邦生徒会長"の挨拶が始まっていて、式典は今の所順調に進んでいる様に見える。

―――広く分散して襲撃を仕掛けるという事は、警備戦力をその場に釘付けにして、増援としての動きを阻止する意図があり、それは即ち『通功の古聖堂』に戦力を増派させない事が狙いだろう。

 古聖堂には式典への列席者としてツルギが会場内に。古聖堂周辺はハスミと委員会内の精鋭を配置している。()()()があっても()()()()()()()()体制だが―――それでも不安は拭えない。

 

『――八雲"連邦生徒会長"、ありがとうございました。続きまして、条約調印に移ります』

『さぁ、遂に式典のハイライトです!長きに渡る対立の歴史が大きく変わります!』

 

「――む、いよいよか。条約の内容は双方合意済だが、その再確認と調印文書を取り交わして初めて『エデン条約』は効力を持つ」

 

―――ライブ映像では式典のハイライト、調印式へと映っていて、演台が増えて原本と筆記具が恭しく安置される様子が映っている。

 

『――こちらA-1班イチカ!また武装集団が襲撃してきたっす!数は十名!座標はA1の7-8!現在迎撃中!』

「――了解。先程と同様、深追いはするな。式典もハイライトを、調印式を迎えている。仕掛けるとしたらこの辺りだ。――何が起きても動けるように身構えておけ」

『了解っす!』

 

―――銃声を背景にしたイチカの報告にそう返し、ピンを差し変える。

 

「さて...いつ仕掛けてくる?どう仕掛けて――」

 

 

 

 

『バゴンッ...!』

 

―――演台の目の前の床が()()()()して開口部が開く。瓦礫の隙間からは()()()()()()()が見えて―――

 

『カラカラ...』

 

『ボシュゥッ...!』

 

『え、煙幕――ゲホッ...!こ、これは...まさか催涙ガス...?!ゲホッゲホッ...!

 

―――()()()()()()()()()()が聞こえた瞬間。白煙が一気に聖堂内に充満してカメラの映像も白煙に覆われ、リポーターの咳き込んだ苦しそうな声が催涙ガスだと告げる。

 

「――来たか...!だが催涙ガスで奇襲とは...会場の警備が厳重であることは当然ながら予測済か。となれば、次は――」

 

 

ダダダダ...!

『全員動くなッ!!』

 

―――店内のテレビも私のスマホと同様に式典のライブ映像を映していて、それを見ていたヒフミさん達が他の客と共に困惑している中、冷静に、しかし困惑しながらアズサさんが呟いた推察を遮る様に、白煙の中から銃声と凛とした声が聞こえる。

 

サァァァ...

 

 

『こ、これは一体...?!』

 

―――催涙ガスの白煙が晴れると、そこには()()()()()()が広がっていた。

 

『いいか、動くなよ!抵抗の素振りを見せれば、この要人達は()()()()()()ことになる!』

『『『『っ...』』』』

 

―――催涙ガス対策か、ガスマスクを装備した、白いコートやジャケットを纏い、武装した()()()()()()()が、要人達を()()()()()()()()()()()、銃口を向ける様子。そして―――

 

 

『"っ...!"』

 

『た、大変です!百合園"ホストリーダー"や羽沼"議長"、そして――シャーレの"先生"までもが制圧されています...!あの武装集団は一体...?!』

 

「――なっ...?!」

 

―――"先生"まで『アリウス』の者達に制圧されている姿は予想外で、ライブ映像を食い入る様に注目する。

 催涙ガスがばら撒かれた事は納得出来る。調印の瞬間に誰もが注目して警戒に死角が生まれ、そこを突いて一気に場を制圧するのは中々よく出来た戦術だ。

―――しかし、"先生"の()()()()()姿()()が今回は悪手になった。"RABBIT小隊"が直衛に付いていた筈だが、"ホストリーダー"達が危険な状況に直面していて居ても立ってもいられなかったのだろう。

 

―――我々生徒()()ならまだ良かった。催涙ガスの効果さえ薄れれば反撃のチャンスも生まれる。その瞬間まで耐え忍べばいい。

―――だが、"先生"が人質となった状況は最悪だ。『シッテムの箱』の守りがあれど、彼は我々より遥かに脆い()の人間。押さえ付けられ、至近距離で銃口を突き付けられていては()()()()()も十分有り得る。

 

「...全く、彼のおかげでとんだ()()()()だ。これではツルギの火力が()()になる。『アリウス』の連中、まさか"先生"のことまで――」

 

 

『――こちらR-3班、マシロ。車輌のハイジャックを目撃しました』

「――ハイジャック?アリウス、件の武装集団か?」

『いえ、それが――』

 


~『トリニティ』自治区内~

side-ハナコ

 

「――後方、"正義実現委員会"の装甲車二台追跡中!」

「――ヒフミ、そこの左側の横道に!」

「は、はい...!」

 

ギャリリリ...!

 

―――砲塔のハッチから周囲を確認するキクリちゃんの通報、機銃塔のキューポラから顔を出したアズサちゃんからの合図を受けたヒフミちゃんによる()()()()()()()()レバー、クラッチ操作で履帯が軋み、[Crusader Mk.I]が曲がる急動作に耐える。

 

「――装甲車の追跡なし。こちらが左折するとは思わなかったようです」

「よし、このまま道なりに進もう!できる限り近道を...!」

 

 アズサちゃんは焦った声色で指示を出し、[Crusader Mk.I]は車幅ギリギリの路地を疾走していく。

 

―――『アズサちゃん!徒歩、走りでこの辺りから古聖堂までは時間が掛かります![Crusader Mk.I(この子)]を()()()したので、これで行きましょう!』

―――『ヒフミ...!ありがとう!』

 

―――ファミレスを出てアズサちゃんを追いかけ始めた時、ヒフミちゃんが徐に周囲を見回して『三人はアズサちゃんを追いかけて下さい!』と言い置いてアズサちゃんとは反対方向に駆け出した時はその意図が読めなかった。

 しかし、私達がアズサちゃんに追いついたタイミングでヒフミちゃんが、今私達が乗っている[Crusader Mk.I]を持ってきた事で意図を察した。

 

―――ここ『トリニティ』では最近の治安悪化を受け、各クラスに一個小隊相当、三輌の()()()戦車が()()されている。"正義実現委員会"や"ティーパーティー"での装備更新によりお役御免となった旧式車輛とは言え、戦車は戦車。『トリニティ』生を狙った誘拐や強盗への自衛としてはこの上なく効果的だった。

 車体、砲塔側面には配備先を示すヒフミちゃんのクラスのナンバーがペイントされていて、恐らく整備終わりで回送でもしていたのだろう。ヒフミちゃんはそれを見かけて、私達の足として()()()事を思いついた様だ。

 とは言え、戦車はあくまで()()()()()()であり、各クラスの学級委員会が権限を持つ為個人の意思で勝手に使う事は出来ない。ヒフミちゃんはナギサさんと()()()()()()()けれど、そもそもクラスの備品を口頭で()()()と言って済む事ではない。常日頃から()()()()()だと言っているけど、状況が状況とは言えこうして校則違反も躊躇いなく犯す行動力は、偶に聞こえてくる()と合わせてヒフミちゃんが持つ才能を―――

 

「ど、どうしてこんなことに...!もうすぐ()()()復帰できるって話だったのにこんなことしてたら...!」

「今回は仕方ありませんよ、コハルちゃん。友達――アズサちゃんの為ですから。...しかし、状況は少しまずいです。アズサちゃんを迅速に古聖堂に送り届けなければなりませんが、こうして回り道を強いられては――」

 

<~♪

「――?!...も、もしもし...」

 

―――装填手席に座るコハルちゃんの泣きそうな声色の言葉にそう返し、現状への懸念を零しているとコハルちゃんからスマホの着信音が鳴る。

 彼女がポケットからスマホを取り出して画面を見ると泣きそうな表情は()()()()()()()()土気色に落ち込み、コハルちゃんは震えた声で通話を繋ぐ。

 

「はい......そうです...ご、ごめんなさい先輩...私...!――ふえ...?......は、はい――――」

 

 どうやら通話先は"正義実現委員会"の先輩の様で、絶望した様な涙声でコハルちゃんは謝る。しかし、何か言われたのか驚いた様な、戸惑った様な表情に変わり、相槌を打って向こうからの話を聞いている。

 

「――――わ、分かりました。()()にはよく言っておきます...で、では失礼します...!――メグム先輩、委員会の"参謀"からで、まず――『戦車の無許可使用は、()()()()()()()()()()()()』とのことよ」

 

―――コハルちゃんが通話を終えてスマホを下ろし、内容を私達に共有する。

 

「――恐らくヒフミさんが()()()時に通報でもされたのでしょう。クラス備品は原則、"学級委員会"の許可の下使用するものですから。先程まで"正義実現委員会"に追われていたのがその証左です」

「そ、そんな...私は『()()()()()()()』と言って持ってきただけですよ?!」

「――()()()()()()は取りましたか?せめてそれ位はしておくべきでしたね。私達にとっても緊急事態ですが、"正義実現委員会"も今現在、式典会場――古聖堂で起きている事態に迅速に対応しなければなりません。そんな中で『戦車が()()()()()』とでも通報されれば、襲撃者によるものだと誤認されてもおかしくありません」

 

 ハッチから覗かせていた頭を下げたキクリちゃんが呆れたため息を吐き、操縦手席で[Crusader Mk.I]を操るヒフミちゃんを見下ろしてそう指摘する。

 対するヒフミちゃんは器用にも操縦の手は止めずにキクリちゃんを見上げて反論するも、彼女はピシャリと反論を封じる。―――ファミレスを出てすぐの所に居たとしても、ヒフミちゃんが[Crusader Mk.I(戦車)]を持って来たのは()()()()()()と思っていた。キクリちゃんの言葉通り、()()()()()()()()()()乗り込んでそのまま私達の下まで乗って来たのだろう。

 

「あぅ...あ、アズサちゃんの為にと急いでいて...ご、ごめんなさい」

「謝るのは私達にではなく、クラスの方々にです。――今回の場合はその()()()に助けられましたから。コハルさん、飯綱丸"参謀"からは他に何か申し付けられましたか?」

 

 反論出来ず観念して挙げた謝罪をそう言って受け取らず、キクリちゃんはコハルちゃんに顔を向けて尋ねる。

 

「えっと...『古聖堂までの道中で警備部隊に出会しても、通れるようにしておく』って。後は言伝が二つ。一つはヒフミになんだけど...()()()()()()()()()()()()()()だから省くわね。もう一つは――アズサに」

「...私に?」

 

 コハルちゃんがそう答えると、無線機を弄るアズサちゃんが顔を上げて怪訝そうに首を傾げる。

 

「うん。――『お前と友人達が()()()()()()になるやもしれない。お前はお前のすべきことの為に突き進め』...だって」

「まぁ♡委員会所属でもないと言うのに、すっかり信頼しているようですね」

「...本来なら鎮圧するべき事態ですが、今現在起きている緊急事態を治める為に許容し、利用する。――流石飯綱丸"参謀"ですね」

 

 コハルちゃんの言伝を受けてキクリちゃんと共にメグム"参謀"の柔軟性に感心する。―――"補習授業部"の活動中に"美食研究会"捕縛を手伝った時と同様、委員会の人間ではない者やその提案を活用して作戦を組み上げる柔軟性は、派閥争いが日常的故に他勢力、派閥に頼る事を躊躇うようなこの『トリニティ』では珍しいものだ。彼女自身が委員会屈指の政治力を持っているとは言え、利用出来るものは躊躇いなく利用する姿勢は、作戦立案を行う"参謀"としては素晴らしい素養だ。

―――閑話休題。

 

「――と、兎に角![Crusader Mk.I(この戦車)]が追われることはないわ!回り道はしないで真っ直ぐ古聖堂に向かうべきよ!」

「そうですね。――念のため、車長席をコハルさんと交代しましょう。コハルさんの姿を視認できれば、委員会の方々も飯綱丸"参謀"が許可した車輛だと気付けるでしょう」

「それがいいですね。では、私は一度車内に下がりますね。よいしょっと...♡」

 

 キクリちゃんの提案に頷き、砲手席から車内へと降りる。―――二人と比べると()()()為、決して広いとは言えない砲塔内で席を移動するには邪魔だろう。砲塔直下、ヒフミちゃんとアズサちゃんの後ろのスペースに身を滑り込ませる。

 

「ふぅ...アズサちゃん、ちょっといいですか?」

「...どうしたハナコ?」

 

 無線機で成果が得られなかったのか、スマホで式典会場のライブ映像を一心に見ているアズサちゃんに声を掛ける。―――古聖堂に着く前に、彼女に確認しておきたい事がある。

 

「一つ、聞きたいことがあります。ライブ映像に出ていた、あの大人の方は――」

 


~『通功の古聖堂』 聖堂内~

side-ナギサ

 

「――我々『アリウス』は遠い昔、この『トリニティ』がまだバラバラだった時から既に一独立校として存在していました。あの当時、宗教観、思想の違いが大きな対立を生み、互いに争いあっていました。『アリウス』もその例に漏れず、他校に攻め込まれたり、攻めたりしていました」

 

―――『アリウス』の生徒達に取り押さえられて身動きが取れない中、『魔創シンキ』と名乗った大人の女性がセイアさんが立っていた演台に立って言葉を紡いでいく。傍聴席も含めれば、数ではこちらが上回っている。しかし、私とセイアさん、羽沼"議長"とレミリア"副議長"。そして"先生"までもが取り押さえられて銃口を向けられていては迂闊に動けず、彼女の話を聞くしかない。

 

「――しかし、ある時声が挙がりました。『争い合うのは止めて一つになろう』、と。その声に誘われたように、各校の生徒会長がお茶会(ティーパーティー)を通して話し合い、統合への機運が生まれていったのです。――その発起人となったのが、当時『フィリウス神学校』の生徒会長を務めていた『桐藤イスラ*1』でした」

 

「...!」

 

 彼女の言葉に思わず声をあげそうになり、グッと抑える。―――『桐藤イスラ』。我が桐藤家の先祖であり、『トリニティ』成立の立役者として()()"ホストリーダー"を務めた方。桐藤家(実家)では当然、校史の授業でもその名前は出てくる。

 現存している肖像画で見ればその容姿は私とよく似ていて、髪型や目付きは少し違うものの顔立ちや雰囲気は私によく似ていると私自身でも感じている。

 

―――しかし、違和感がある。シンキ校長が語っているのは『トリニティ』生なら()()()()()()()()()()()()知っている歴史だ。何故『アリウス』が、『トリニティ』成立に()()()()()()()()学校の人間がそれについて知っているのか。

 

「そんな彼女、イスラ主導の下統一に向けた交渉、折衝は数えきれない程に行われ、宗教観、思想も統一が進められて行きました」

 

 『しかし――』とシンキ校長は言葉を切って目を伏せる。

 

「――『トリニティ』の領域に自治区と校舎を構えていた全ての学校が、()()()()()()()()()()()()()()()。幾度となく交渉し、折衝を重ねても――()()()()()()()()()()()()()()学校は僅かながらに存在していました。その中には我が『アリウス』も名を連ねていました。

 そんな学校に対し、イスラは『彼女達の意思を尊重し、()()()()()()』と宣言しました。――『トリニティ』に加わらず、袂を分かつことを認めたのです」

 

「...っ...?!」

 

―――シンキ校長が続けた言葉に咄嗟に反論しそうになって口を開きかけ、しかし今の自分自身の状況を思い出して喉から飛び出しかけた言葉を飲み込む。

 そんな反応を見たのか否か、シンキ校長は一瞬私に視線を向け、()()()()()()()を浮かべた様に見えたけど、すぐに正面に向き直る。

 

「――そうした()()()()()()()()()()もありながら、遂に意思、思想信条の統一を成し遂げ、ここ『通功の古聖堂』にて『第一回公会議』が催され、『トリニティ総合学園』は成立しました。

――皆さん。特に『トリニティ』の方々からすれば、()()()()()点もあることでしょう。しかし、これまで申し上げたことに加え――()()()()()()()()は、我が『アリウス』に()()()()()()です」

 

 シンキ校長はまるで私が言いかけた事を()()()()()かのようにそう宣言し、青い瞳を少し細める。

 

「――『トリニティ総合学園』が成立し、当時の"連邦生徒会"からも連邦構成校として承認を受けた、記念すべき日から二週間程経った頃。

 我が『アリウス』も、一構成校として独立すべく粛々と準備を進めていました。学校としては独立すると決めましたが、一方で生徒達の中には『トリニティ』に加わりたいと願う者も少なからず存在していました。そうした者達が『トリニティ』へ転入することを認め、その支援も進めていました。しかし――」

 

 シンキ校長はそこで言葉を切って目を伏せ、まるで()()()()()()()()かのように眉を顰め―――

 

 

 

 

「――突然のことでした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。

――『トリニティ』の名の下に統一を拒絶した、()()()()()()()』だと謳いながら」

 

ざわっ...

 

「静まれッ!母s――"校長"がまだ話している!」

 

―――意を決した様に目を開いて告げた()()()()()()()()()()()()に場が俄に騒めき、帽子を被った長い黒髪の生徒が淡い青色の瞳に怒気を宿して静かにしろと吼える。

 

「――攻撃は突然のことであり、防衛態勢を取ることもままならず、我々は『カタコンベ』を奥へ奥へと下がって自治区へと逃げました。...その道中、多くの生徒が成立したばかりの『トリニティ』生に捕らわれて囲まれ、()()()()()を受けました。

 今でも思い出せます。――謝っても、"何故"と問うても。返ってくるのは『()()()めが!』という罵倒と、銃弾や拳、蹴り...あらん限りの()()。...()()()()()()()()()()()()ことでしょう」

 

 続いた言葉に対しては、先程とは正反対に()()()()()()が会場を支配する。

―――()()()()()を受け、()()()()()()()()()()()()。その言葉が意味する事は『トリニティ』、ひいてはキヴォトスに於いて()()()()()()()()

 

「...しかし、幸いにも『カタコンベ』の複雑、不定形な構造により『トリニティ』の()()は『アリウス』自治区まで届きませんでした。その前に『トリニティ』側の被害が拡大し、体力が尽きたのでしょう。

 しかし...その代償に『カタコンベ』以外の外部と繋がるルートは崩壊し、『アリウス』は外部との繋がりを絶たれたも同然となりました。――しかし、それでも『アリウス』はこうして、今日まで存続しています」

 

 『ですが――』とシンキ校長は続け、眼差しをより鋭くする。これまでも驚くべき情報ばかりだと言うのに、まだ何か明かす事があるのだろうか。

 

「――数年前から、『カタコンベ』にトリニティ生が侵入している事態を『アリウス』では確認しています。それも偶然出入口を見付けたようなものではなく――『アリウス』自治区を目指すような探索としての動きです。数百年前。成立したばかりの時に仕掛けた攻撃が失敗したことを示すような行動。

 当然、我々『アリウス』としてはこの様な行動を認めることはできません。何故我々が、初代"ホストリーダー"から独立を認められていた『アリウス』が攻撃されるのか。――このような手荒な手段を取ったのは、今の『アリウス』には外部との繋がりは皆無であること。そして――『アリウス』が知っている歴史と貴女方『トリニティ』、()()キヴォトスが知っている歴史の相違を確かめ、我々の要求を伝える為です。

――『ゲヘナ学園』の方々から見れば『トリニティ』が抱える問題に理不尽に巻き込まれた形となり、その点については心より謝意を表します。言い訳になりますが、今仕掛けなければ我々の自治区が脅かされる可能性があったのです」

 

 シンキ校長は私達を襲った理由をそう説明し、『ゲヘナ』の方々の方に目を向けて謝意を伝える。そして、コートの裏に手を入れ、()()()()()様に見える一枚の紙を取り出して演台に置く。

 

「――我々『アリウス』が求めることは一つ。『アリウスへの一方的な攻撃を止め、独立を認める』こと。先程申し上げた通り、我々は初代"ホストリーダー"より独立を認められています。"連邦生徒会"への独立承認を要請する前に攻撃されてしまった為、正式な承認は成されないまま攻撃を受け、辛くも生き延びて今日を迎えていますが...ここに、初代"ホストリーダー"が『アリウス』に贈った承認文書が――」

 

 

 

 

―――パリンッ...!

 

「ッぐぅ...?!」

「――"母さん"ッ?!」

「――"お母様"?!」

「「「「――"お母さん"?!」」」」

 

―――突然だった。シンキ校長が演台に置いた紙を持ち上げて掲示しようとした瞬間、微かに()()()()()()()()が聞こえた。それとほぼ同時に、シンキ校長は左肩を抑えて痛そうに、苦しそうに顔を歪ませて演台の傍に倒れ、武装集団、『アリウス』の方々が揃って顔面蒼白で彼女の下に駆け寄る。

 

「――今がチャンス...!各員、要人達を守って退避ッ!ナギサ、手荒くなるけど我慢して!」

「きゃっ...?!」

「――セイア様、失礼致します...!」

「おわっ...?!」

 

―――それと同時にテンシさんが聖堂内に響く大きな声でそう指示を出し、その勢いで私を左肩に担ぐように抱え上げ、隣ではイクさんがセイアさんを抱え上げる。

 

「マコト、大丈夫?!」>

「何とかな...!今は安全な場所に逃げるとしよう!」

「殿は私が受け持つ!二人は兎に角逃げて...!」

 

<「"連邦生徒会長"、ご無事ですか?!」

<「えぇ、五体満足で無事よ。...色々気になることはあるけど、今は逃げることが最優先ね」

 

<「"先生"、ご無事ですか?!」

<「"な、何とか..."」

<「ご無事なら何よりです!"RABBIT小隊"が離脱を援護します!さぁ、早く逃げましょう!」

<「"待って!『アリウス』に、撃たれた彼女を――"」

<「今は兎に角逃げるぞ!相変わらず突発的にとんだ無茶をするな"先生"は!」

 

「ッ?!勝手に――」

「キェェェ!やらせねぇ!!」

「やらせない...!」





 聖堂内からの離脱を図る私達の背後で、私達の逃走に気付いた『アリウス』の動きを止めるようなツルギ委員長の叫声、空崎委員長の冷たくも怒りを孕んだ声が聞こえる。

 

「"お母様"...!」>

「大丈夫...傷は深くないわ...それより今は声を、『アリウス』を救うために真実を、要求を伝えないと...!」

()()()()()より今は"母さん"の安全確保だ!」>

 

「――色々気になることはあるでしょうけど、今は自分の身の安全を最優先に考えて、ナギサ」

「...っ...えぇ、分かっています...」

 

 演台の方から聞こえるやり取りを気にしているとテンシさんがそう釘を刺す。―――シンキ校長が語った()()()()()()。それによる『トリニティ』に向けた要求。そして―――

 

「...(あの音と、シンキ校長の負傷...恐らく狙撃でしょう。しかし、誰が、何処から...)」

 


~『聖堂街』 丘の礼拝堂の鐘楼~

side-サリエル

 

「――高難易度、且つ()()()()()()だったが、上々の結果だ」

 

―――[M40(スナイパーライフル)]のボルトを操作して飛び出た薬莢を回収して服のポケットにしまう。

 タイミングを測るためにスマホに映していた式典のライブ映像が、ターゲット―――『アリウス』の()()である『魔創シンキ』が()()()()で倒れ、『アリウス』の者達が制圧や威圧を忘れて寄り集まる様子を確認して画面を閉じて懐にしまい、狙撃ポイントを綺麗にして梯で鐘楼を降りる。私の翼なら飛び降りてもいいが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「...この辺りでいいか」

 

 礼拝堂の裏手に回り、ゴミ捨て場の籠に[M40(スナイパーライフル)]と薬莢を捨てる様に隠し、丘を降りて『大聖堂』に足を向ける。

 

―――『アリウス』に対する妨害と、()()()()()()()()介入。『通功の古聖堂』は宗教施設である故に"シスターフッド"の管轄にあり、会場設営の機会を利用して構造や会場設備の位置は把握していた。

 当初は『アリウス』が会場を襲撃し、膠着した際に()()()()()()べく適当に狙撃して場を混乱させる程度の目論見だったが、『魔創シンキ』が姿を現した事で方針を変え―――彼女を狙撃して状況を動かす事にした。

 しかし、位置関係は把握しているとは言えステンドグラス越しで長距離狙撃を行うのは初めての試みだった。当たらずとも、『アリウス』に"魔創シンキ(首魁)が撃たれた"と認識させる事が目的であった為気負う事は無かったが、結果は『魔創シンキ』の負傷というより効果的な介入の一手になった。これで状況は―――

 

<~♪

「――もしもし、天城だ」

『マリーです!シスターサリエル、聖堂付近でも武装集団の攻撃が確認されています!サクラコ様からは無事の連絡を受けていますが...()()()に備える為にも大聖堂へ戻れますか?!』

「――ちょうど()()が終わった所だ。すぐに戻る。その間にできる限りの備えを進めてくれ」

『承知致しました!』

「...早いな。既に魔創シンキ(首魁)が撃たれて倒れたことが伝わったか。――より自治区内は()()()ことになるだろう。()()()()だ」

 

 マリーからの連絡にそう返し、通話を切って言ちる。

 

―――『アリウス』が聖園ミカのクーデターの支援を行ったが失敗し、次はどの様な手を打って来るか思案し、調印式典を狙って何か仕掛けてくる可能性を考えて動いていたが、まさか()()襲撃して来るとは大胆な手段を取ったものだと改めて感心する。しかも―――

 

「――生徒に任せず、自分自身が出張る...とことん"先生"そっくりな姿勢だ。今回はそのおかげで助かったが」

 

―――仮に『アリウス』が生徒達だけで襲撃を仕掛けていたとしても()()に支障は無かったが、『魔創シンキ』が自ら姿を現したのは僥倖だった。演説で()()()()()()()()()()()()()の一端が明かされてしまったが、『アリウス』の襲撃による混乱が治まるまでは追及、詮索する暇は無いだろう。

 そして―――魔創シンキ(首魁)の負傷を受けてのあの反応。『アリウス』の者達にとって魔創シンキ(彼女)はやはり()()()()()である様だ。そんな人物が負傷した。その場合取り得る策は―――

 

「――『アリウス』が()()()()()()()()()()()()もよし。負傷した魔創シンキ(大切な人物)()()()()退()()もよし。どう動こうが、()()()の行動は変わらない――」

 

 

バッ...

 

「――?!

「ゆ、ユスt...いや、『トリニティ』だと()は"シスターフッド"...!」

「ど、どうするの?!」

「どうもこうもない!"お母さん"を撃った奴らに対してやることは一つだけ!」

 

ダダダダ...!

 

「おっと...!――感情に任せた報復を選んだ者も居るか。魔創シンキ(首魁)が復帰するまでに混乱はより広まりそうだな」

 

―――前方左側の路地から『アリウス』の者達四人が姿を現し、私を見て一瞬戸惑うが、"シスターフッド"、『トリニティ』の生徒(人間)だと気付くと[スコーピオンEVO3 Pistol(サブマシンガン)]を構えて銃撃を浴びせて来る。

 対する私はすぐ傍の路地に飛び込んで銃撃を避け、[Angelus Mortis(愛銃)]を手に取ってコンディションを確認しながら言ちる。

 

―――予想通り、魔創シンキ(首魁)が狙撃されて負傷した事態は早期に共有された様だ。襲撃を仕掛けている全員があの四人の様に感情的ではないだろうが、理性的な者達が抑えようとして指揮系統は混乱するだろう。その間に、トリニティ(こちら)側も態勢を立て直せる。

 

「...しかし、あの四人は運がいい。証拠は残さない様に処理したが、魔創シンキ(大切な存在)を撃った下手人を目の前にしている。討てれば知らずの内に報復は成されるだろう。尤も――こんな所で倒れるつもりは毛頭ない。私には使()()がある――」

 

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()使命がな」

 

 

―――to be continued―――

 

 

*1
元ネタ:イスラーフィール。イスラム教におけるラファエルと同一視されている天使




ということで、状況はより混乱していきます。

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