Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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反撃開始です。


File121.ET-26~調印式典⑤~

~『T-G境界検問』 『ゲヘナ』側検問所~

side-サクヤ

 

「...あぁもう!いつになったら委員長の救援に行けるんですか!向こうから連絡は?!」

「...先程の報告通り、委員長からは待機を命じられています」

「それは分かっています!いつ私達が『トリニティ』に入れるかを聞いているんです!」

「――落ち着きなさい、アコ。吼えた所で状況は変わらないわ」

 

―――『トリニティ』と『ゲヘナ』の自治区境界、『ゲヘナ』側の自治区境界検問所の駐車場。ちょうど二分振りに通信手へ催促と圧力を掛けるアコを窘める。

 

「サクヤは何故そうも落ち着いているんです?!委員長が大変な状況に遭っているんですよ?!」

「そういう状況だからこそよ。いつ命令が下りてもいいように。どんな命令が下りてもいいように落ち着いて備えておく。今はそうするしかないわ」

 

 アコを諭しながら、胸中に渦巻く不安を抑える様に『トリニティ』側検問所の方に目を向ける。―――私も本音では今すぐにでもレミリア"副議長"、お嬢様を助けに行きたい。調印式典を襲った見た事が無い制服の武装集団。恐らく彼女達が件の『アリウス』なる学校の者達なのだろう。彼女達にお嬢様が害される前にお傍に馳せ参じたい。

 しかし『クロノス』のライブ映像では、会場である『通功の古聖堂』を包囲している"ティーパーティー"や"正義実現委員会"、そして"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"の部隊が映っていて、当のお嬢様は"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"の指揮で走り回っている。その配置は『トリニティ』、『ゲヘナ』でハッキリと分かれていて、人員が少ない『ゲヘナ』側の輪が目に見えて薄い為、そのフォローに回っているのだろう。こんな配置になっているのはやはり―――

 

「――調印を行う直前で襲撃されたのが不味かったわね。それさえ出来ていれば、私達も堂々『トリニティ』に入れたのだけれど」

「全く酷い連中です!私達の努力を、委員長の晴れ舞台のハイライトを邪魔するなどと...!」

「委員長はあくまで列席者の一人。主役は議長だけど...ハイライトでタイミングよく介入できた辺り、聞き耳でも立てていたのかしらね」

 

 私の愚痴に追従するアコの言葉にそうツッコむ。―――こちらとしてはタイミングが最悪だ。原本にサインを記入し、原本を取り交わす。この行動によって『エデン条約』は初めて発効される。その前に会場を襲った事、あの出現方法を見るに式典の様子を把握出来る手段、方法を持っていたのだろう。

―――だけど、そんな悪辣なタイミングで襲撃し、議長やお嬢様達を制圧してまで行ったのは『トリニティ』が隠していたという、学校成立時の本当の歴史の糾弾だった。加えて『ゲヘナ』に対しては理不尽に巻き込んでしまったと謝罪まで行った姿には困惑した。

 しかし、声明を発信していた『アリウス』の校長、『魔創シンキ』なる大人の女性が何者かに撃たれてしまい、その目的はハッキリ分かっていない。『トリニティ』が隠してきた歴史を糾弾したその狙いは一体―――

 

<~♪

「――!...もしもし、サクヤでございます」

 

―――ポケットのスマホから着信音と共にバイブレーションの振動を感じ取り、取り出して画面を見て、すぐに通話を繋ぐ。

 

『――レミリアよ。サクヤ、事態は把握しているわね?』

「勿論でございます。――ご連絡されたということは、事態解決に向けた進展が?」

「...!総員、出撃準備!

 

 通話の相手はお嬢様で、そう答えながら空いている左手を動かし、アコにハンドサインで出撃準備を伝える。サインに気付いたアコが驚きながらも事情を察して力強く頷き、私とお嬢様の通話を邪魔しない小声で指示を出す。

 

『えぇ。反撃の策をマコト達が思いついたの。もう少し時間は掛かるけど、いつでもトリニティに入れるようにしておいて』

「承知いたしました。――具体的に、何かしら合図になる手段等はございますか?」

『クロノスの"文々。新聞"と"花果子念報"のモモッターアカウントに注目しておいて。作戦が上手く進めば――――』

 


~『ティーパーティー会館』への道中~

side-ミヤコ

 

ダダダダ...!

 

「――接敵(コンタクト)!」

 

―――前方、左の横道から『アリウス』の部隊四人が姿を現して銃撃を浴びせて来て、咄嗟に傍の移動屋台の陰に飛び込んで隠れながら接敵を報告する。

 

「"RABBIT2"、制圧射撃開始!」

 

 私の向かい側で横道に隠れたサキが[RABBIT-26式機関銃(マシンガン)]を構えて身を乗り出して弾幕を張り、『アリウス』側が身を隠したのか銃火が途絶える。

 

「こちら"RABBIT1"!『アリウス』の部隊と接敵!数は四!」

『"了解!突破は出来そうかい?"』

「すぐには厳しいと思います。私達"RABBIT小隊"で食い止めますので、"先生"達は迂回して会館へ!」

『"分かった。――もうすぐ"便利屋68"がそちらに合流する。君達はそのまま私達の周辺で警戒しながら会館を目指すんだ"』

「了解しました!」

「――"RABBIT2"、弾切れだ!」

「了解。"RABBIT1"、制圧射撃開始!」

 

 "先生"の指示に了解を返し、マガジン交換に入ったサキに代わって[RABBIT-31式短機関銃(愛銃)]を構えて半身を乗り出して射撃を行う。

 反撃を企図して身を乗り出していた『アリウス』の面々は[9mm弾]の新たな弾幕に晒されかけてまた身体を引っ込める。

 

「――装填完了!"RABBIT1"!」

「――了解!」

 

っターン...!

――"RABBIT4"。目標一名(Tango1)撃破(Down)...!

 

 私達の後方、三階建ての建物の屋上にモエと共に狙撃ポイントを構えているミユからの報告がインカムに入る。サキとの交代の隙を突こうとして動き出したのか、ミユの照準に捉えられて一人が撃破された様だ。

 

「流石です、"RABBIT4"。これであちらはそう軽々と動けない筈です」

「なら、私達の撃破が容易じゃないと判断すれば、次に取る動きは――」

 

カララ...

ボシュゥゥ...!

 

「――スモーク!」

「各員警戒!」

 

―――グレネードが転がる音が微かに聞こえた瞬間、白い煙幕が路地に充満する。煙幕展張は予想通りだ。問題は―――

 

「...来ないな」

『こちら"RABBIT3"。こっちの視界じゃ動きは何にも見えないよ』

「――まだ油断はできません。退いたと思わせて隙を晒した私達を攻撃する可能性があります」

 

 サキとモエの言葉にそう返しながら[RABBIT-31式短機関銃(愛銃)]のマガジンを交換し、敵の接近、攻撃にいつでも対応出来る様に構える。路地に漂う白煙は少しずつ晴れていき―――

 

「――煙幕が消えた。...動きは確認出来ず」

「――敵出現地点の確認を行います。"RABBIT3"、"RABBIT4"。いつでも撃てるように構えてください」

了解(りょーかい)。観測は任せて』

了解...!

「――"RABBIT2"、行きますよ」

「――了解」

 

―――煙幕が無くなり、敵『アリウス』の動きが無い事を確認して、モエとミユに狙撃体勢を取らせつつ出現地点の確認を指示してサキと共に前身する。

 

「――こちら"RABBIT1"。敵部隊出現地点に到着。...敵影無し」

「――空薬莢が沢山転がっているから、確かにここに居たみたいだな」

 

―――出現地点の横道に入ると、そこには空薬莢が沢山転がっているだけで、『アリウス』の姿は一人も見当たらない。空薬莢を一つ適当に摘んでみると、微かに温かさを感じる。加えて硝煙の臭いも強く、ここで射撃を行っていたのだと解る。

 

「――敵部隊は現地点から離脱したと判断します。"RABBIT小隊"、"便利屋68"と合流した後『ティーパーティー会館』への前進を再開します。"RABBIT3"と"RABBIT4"は"便利屋68"社員の誰かしらの姿を確認次第報告をお願いします」

了解(りょーかい)。...って、ちょうど着いたみたいだね。"便利屋68"の六人がそっちに向かってるよ』

 

「――あぁ、居た居た!"RABBIT小隊"の皆、先日の"当番"以来ね!」

「さっきまで銃声が聞こえてたけど、見た感じもう終わっちゃったっぽいね~」

「――合流感謝します、"便利屋68"の皆さん」

 

―――モエの報告を受けたと共に、私達の下に駆け寄って来る"便利屋68"の皆さんの姿を確認して出迎える。

 

―――『"便利屋68"を周辺警戒に?』

―――『"念の為にね。アヤとハタテも居るけど、万が一に備えておきたいんだ"』

 

―――"先生"が昨日"便利屋68"に依頼を出し、現地で合流して会場付近で周辺警戒の役目を与えていた。"便利屋68"を動員する念押しには少し懐疑的だったけど、『アリウス』の襲撃を受けた今は結果的に備えとして効果的に働いたと実感している。

 

「それで、『ティーパーティー会館』を目指すって話だったわね?」

「はい。――『エデン条約』締結を示す為に必要なものが会館内にあるので、『アリウス』の襲撃を退けながら進んでいます。各校それぞれ精鋭の護衛を付けて分散して前進中で、"先生"は"連邦生徒会"の方々と共に進行中です」

「...条約締結ができれば境界地区に居るらしい『ゲヘナ』の戦力を堂々と動員できる。何をするつもりか分からないけど、"先生"からの依頼、指示だからね。協力するよ」

 

 アル社長の確認に頷いて説明し、カヨコ課長が納得した様に頷く。

 

「やることは把握したけど、目的地の状況は分かってるの?」

「先行偵察として先輩方――"Кролик小隊"が会館に向かっています。時間的にそろそろ報告が――」

 

『――こちら"Кролик1"!現在会館内にて、比那名居総長と共にアリウスの部隊と交戦中!敵部隊は()()()()()と思われる!』

「...?!イナバ先輩...!――どうやら会館内に敵の精鋭が居るようです。救援に向かいましょう!」

「何だか急いだほうが良さそうね!皆、行くわよ!」

 

―――インカムに銃声を背景にしたイナバ先輩からの急報が入り、"便利屋68"の皆さんと共に会館の方角へ走り出す。

 


~『ティーパーティー会館』 玄関ホール~

side-イナバ

 

「――!」

 

―――半面マスクで顔を覆った長い黒髪の生徒が私の銃撃を躱し、片手で[SIG516 Patrol(アサルトライフル)]でカウンター射撃を浴びせて来る。

 

「っち...!」

 

 射撃を躱して傍の柱を遮蔽として隠れ―――

 

『――"Кролик1"!』

「――ッ!」

 

―――ッダァァン!

 

―――セイランが私に吼えた声がインカムに入ったと同時に柱の陰から飛び退いた瞬間、[NTW-20(対物ライフル)]の重厚な狙撃音と共に柱の一部が大きく抉れて破片が飛び散る。

 

『っこの...!対物ライフル(デカい得物)を持ってる癖にすばしっこい...!』

 

 セイランのカウンターが失敗したのか悔しそうな声がインカムに入り、視界の端でホール二階を移動して揺れる緑のサイドテールが見える。

 

「しぃッ...!」

「っく...!」

 

 体勢を立て直して[インヴィジブル・ラビット(相棒)]を構えた先では、私に代わって比那名居総長が吶喊して[緋想の剣]を振り薙ぎ、黒髪の生徒はコートを翻して軽やかな身のこなしで躱す。

 

―――『やはりアリウスが...って、貴女は――比那名居総長?!』

―――『...!アビドス以来ね、"Кролик小隊"。全く、ちょうどいいタイミングね...!お互い話すべきことは後で共有しましょう。今は――アリウスの迎撃を手伝って』

 

―――八雲会長から作戦を共有されると共にここ『ティーパーティー会館』の先行偵察を命じられ、道中『アリウス』の襲撃を避けながら迅速に進んで会館に着けば、敷地内から聞こえた銃撃戦の音。

 既に『アリウス』の魔手が及んでいたかと歯噛みし、状況把握すべく潜入した所で、あちこちで銃撃により気絶した(倒れた)"ティーパーティー"メンバーを見かけ、そんな中で明らかに動きが違う()()の『アリウス』生が混ざった部隊と単身交戦する比那名居総長と出会して救援すべく参戦して今に至っている。

―――閑話休題。

 

「――銃社会の中で剣を使うとはな。それも炎の刃なんて特異な代物を...『トリニティ』にも数寄者が居たんだな」

「それにしては、貴女も近接戦闘に対して()()()()()()()()わね」

「貴様のように剣を使う人間がこちらにも居るのでな。...身内だろうと容赦無くしごかれたものだ」

 

 距離を取った黒髪の生徒は比那名居総長が持つ剣を見て感心した様に瞳を細め、総長の言葉にそう答えて懐かしむ表情を浮かべる。しかし、[SIG516 Patrol(アサルトライフル)]の銃口は油断無く比那名居総長と、私が動いた時に迎撃出来る様に構えられている。

 

『こちら"Кролик3"!()()()()()アリウスのヤツと交戦中!コイツもだけど、取り巻きもやたらやる気だよ!何かV()I()P()()()()感じだね...!』

『――こちら"Кролик4"。()()()()()()()()()生徒と交戦中。撹乱によりそちらへの増援は阻止できていますが...指揮統制が優秀で、油断すると突破されそうです』

 

 インカムにリンゴ、レイセンからの状況報告が入る。―――会館内には、精鋭と思しき四人の生徒の他に『アリウス』生が歩兵一個小隊相当侵入している。

 こちらの作戦が看破された様な動きは確認されていないけど、古聖堂で『魔創シンキ』校長が狙撃されて以降、自治区各所で『アリウス』の襲撃は激化傾向にある。まるで狙撃した下手人を探す様に。――『トリニティ』へ()()()()かの様に。彼女達もそんな行動の一環なのだろう。

 

「あら、近接戦闘、同じ剣の使い手なんて少し興味が湧くわ。是非とも手合わせしてみたいものね」

「――()()()が貴様らに会うことはない。私達の手で倒されることになるからな。だが...打ち倒す前に確認しておきたい」

 

 比那名居総長の言葉に対して彼女はキッと眼差しを鋭くして拒否を返し、眼差しを変えずに私達を見据える。

 

「――母s...校長を狙撃した、或いはそうするように仕向けたのは貴様らか?」

「...私達を襲った勢力、集団の首魁が姿を現した。そんな状況は迎撃する側としては逃したくないチャンスね」

 

 『だけど――』と、比那名居総長の答えに対して私でも感じ取れる程にカッと()()を俄に強めた反応を掣肘する様に言葉を続ける。

 

「――()()()()()()()()狙撃を差し向けてはいない。寧ろ、あの狙撃にはこちらも驚いている位よ。こちらも狙撃の下手人を知りたいわ」

「...そうか...()()()()()()しか返せないだろうな」

「貴女達からすれば私達の言葉はそう簡単に信用できないでしょうね。貴女達の大切な存在を害した下手人が紛れているかもしれないし。――だけど、こちらも下手人ではないし、差し向けてもいないとしか言えない。それを信じられず、こちらを尚も攻撃するなら――」

 

 比那名居総長は黒髪の生徒の反応を見て[緋想の剣]の切っ先を彼女に向ける。

 

「――こちらも全力で抵抗するわ。私達が、『トリニティ』が貴女達『アリウス』に対して何を犯したのかを知る為にも、ここで倒れる訳にはいかない」

『"――こちら"先生"、各部隊は隠し道を使用して会館敷地内に潜入した。一部の部隊を会館への増援に回し、これより大書庫を目指して移動する"』

 

 比那名居総長の宣言とほぼ同時に"先生"から通信が入る。

 

「そうか。...私達の大切な存在を害した報いは必ず受けさせる。尚も白を切るなら、無理矢理吐かせるまでだ...!」

 

 黒髪の生徒は眼差しを鋭くして[SIG516 Patrol(アサルトライフル)]を構えなおす。

―――幸い、『アリウス』の部隊は大書庫付近までは展開していない。この会館内に居た"ティーパーティー"の者達への報復や、下手人探しを優先していた様だ。このまま会館内で釘付けにして作戦を妨害されないようにする。看破される事を防ぐ為に返答は出来ないけど、小隊の三人もすべき事は解っている筈だ。

 

「――比那名居総長、このまま『アリウス』の部隊を会館内に押し留めましょう。アリウス(相手)は生徒への報復、尋問を主目的に動いている。拡散させる訳にはいかない。...会長方も何かしら反撃手段を講じて動いている筈」

「えぇ、そうね」

 

 比那名居総長は私の言葉に頷き、[緋想の剣]とサブマシンガンを構える―――

 


~『ティーパーティー会館』 大書庫~

side-"先生"

 

「――クリア!」

「――クリア!」>

 

―――"RABBIT小隊"と"FOX小隊"による大書庫のクリアリングが済み、書庫内に入ると広大な空間に整然と大きな書架が並ぶ光景が私達を出迎える。

 

「――『アリウス』がここまで来ていないのは僥倖。ツカサ、頼むよ」

「承知致しました」

 

 セイアの指示を受けてツカサが淀みない足取りで一つの書架に向かって歩き出す。書庫の管理を担うだけあって、文書を保管している場所は分かる様だ。

 

「ハタテ、私達は配信の準備を」

「えぇ。良さげな場所は...あそこがいい感じね。会長方はこっちに!」

 

 アヤとハタテは配信の準備を始め、セイア、マコト達を撮影場所に誘導する。

 

『――こちら"便利屋68"、アル!会館内で"Кролик小隊"、比那名居テンシと合流して交戦中!本当に精鋭みたいね...!道中の部隊と比べても動きが全然違うわ!でも、アリウスの部隊は会館内で食い止められている!だから、今の内にやることをやっちゃって!』

「"了解。アル達も気を付けて!"」

「既に『アリウス』が侵入していた時は苦戦を覚悟していましたが、食い止められているのは僥倖ですね。...テンシさんが会館に先んじて向かっていたことに感謝しなければ」

「"状況を考えれば、恐らくミカを気にしていたんだろうね...その行動が迎撃に繋がったのは幸運だった"」

 

 会館近くで合流し、イナバ達の下に増援として送った"便利屋68"のアルから会館内での戦闘について報告が入り、ナギサの安堵の言葉に頷く。『アリウス』の協力を受けてクーデターを起こしたミカに『アリウス』が接触を図る可能性はあった。テンシはその可能性に真っ先に気付いて単独行動を取っていたみたいだ。

 『アリウス』の部隊が既に会館(目的地)に侵入していたと聞いた時は交戦を覚悟していたけど、食い止められている今がチャンスだ。―――恐らく配信に気付けば『アリウス』は阻止しようと動くだろうから。

 

「――見付かりました。こちらが条約内容合意の際の『トリニティ』側議事録でございました」

「ありがとうございます、ツカサさん。確認します」

 

―――ツカサが一冊のファイルバインダーを抱えて戻って来て、ナギサが受け取って確認する。

 

「――間違いありません。条約内容合意の際の記録です」

 

 十数秒してナギサは顔を上げて頷き、私にもページを見せる。会議参加者の所属校、組織、役職を連ねた名簿の下に進行と発言者の名前が並んでいる。各条項の内容の確認とその修正、合意確認は丁寧に一つ一つ進められていて、条約締結の証明には充分使えそうだと私でも感じられる。

 

「――"先生"、配信の準備完了です!」

「"よし。――必要なものは揃った。時間が惜しい。早速調印の配信を始めよう"」

「了解よ!――桐藤"首長(ホスト)"もこっちに、百合園"ホストリーダー"の隣で介添役を!それから"先生"もこっち、"連邦生徒会"側に!」

「承知しました」

「"分かった"」

 

 アヤの報告に頷き、ハタテの言葉に従ってナギサはバインダーを抱えてセイアの傍に付き、私は(ユカリ)の隣に付く。

 

「配置よし、画角よし、音声よし...開始五秒前!...三...二...一...配信開始!」

「――配信をご覧の皆さん。『クロノス』"新聞部"所属、"文々。新聞"記者の『射命丸アヤ』です。突然ですが、『トリニティ』は『ティーパーティー会館』にて、同部活動"花果子念報"記者『姫海棠ハタテ』と合同で緊急配信を始めています」

『――配信開始を確認!状態は全て良好です!』

 

 ハタテが合図を出して配信が始まり、ポケットにしまっている『シッテムの箱』からアロナが配信状態の確認結果を報告し、後ろ手のハンドサインで画角の外のツカサを経由して開幕の進行を進める二人に状態良好だと伝える。

 

「――配信をご覧の皆様の中には、『トリニティ』で今現在何が起きているか把握している方も多いかと思われます。簡潔に説明すれば――『エデン条約』調印式典の最中に、『アリウス』なる勢力が襲撃し、式典は中断。自治区内各所では同時多発的に襲撃が頻発し、"正義実現委員会"や"トリニティ自警団"、"ティーパーティー"は必死に迎撃を続けているのが現状です」

「――ですが、"中断された調印式を執り行いたい"。両校トップからその意思意向を受け、私達はそれに応えて急拵えながら調印式の場を設け、こうして配信しています」

 

 アヤとハタテはそう経緯を説明し、画角の端へと移動し、それに合わせてセイア、マコト達がカメラの前に並ぶ―――

 

 

~特別監獄~

 

『――配信をご覧の皆様。トリニティ生徒会"ティーパーティー"首班、"ホストリーダー"百合園セイアだ。まず、我々の急な要望に応えてくれたクロノスの記者二名。そして――条約締結を諦めなかったゲヘナ、連邦生徒会、シャーレの皆様に心より感謝を申し上げる。

 さて――既に説明された通り、古聖堂にて執り行われていた調印式典は襲撃により中断され、自治区各所で同様の襲撃が頻発し、治安維持組織が全力で対処に当たっている。あのような襲撃を許してしまったのは我が"ティーパーティー"の不手際だ。この場を借りて謝罪する。

――襲撃への対処、事態の鎮圧は急務だ。だが...その為にはエデン条約が必要だ。先述の状況は、我がトリニティ単体では事態の悪化阻止が精一杯であり、鎮圧に移るにはまず人手が足りないからだ。...次は羽沼議長に譲ろう』

 

「...配信の場所って大書庫じゃん...しかも調印式の続きをやろうだなんて...」

 

 

~『通功の古聖堂』付近 『ゲヘナ』側臨時指揮所~

 

『――配信を見ている皆様方。ゲヘナ学園生徒会"万魔殿(パンデモニウム·ソサエティー)"現議長、羽沼マコトだ。この場を設けたクロノスの新聞記者二名。そして、私の意思に応えてくれたトリニティ、連邦生徒会、シャーレに心より感謝申し上げる。

――さて、百合園ホストリーダーが説明した通り、事態解決の為にはまず人手が必要だ。だが、トリニティは既に戦力が払底状態。参列している連邦生徒会、シャーレの人員も同様だ。となれば、我がゲヘナから救援を出す他ない訳だ。しかし、これもまたトリニティの感情、更に他校自治区への侵入の懸念からそう簡単にできないことだ。――今までであれば、だが』

 

「...マコト達は一体どうやって条約締結を行なうつもりなの?」

「さてね...これからやることを見ているしかないわ。――配信は私が見ておく。ヒナは古聖堂側の動きを注視しておいて。...視聴者数は凄まじいうなぎ登り。『アリウス』、後はもしかしたら『トリニティ』側で条約締結を阻止する動きが出てくるかもしれないわ」

「了解。――怪しい動きがあれば即時鎮圧。いつもとそう変わらない」

 

~正義実現委員会本部~

 

『――エデン条約は両校間の迅速、且つ柔軟な治安維持対応を主目的とした条約だ。その為に両校生徒会、治安維持組織の人員、戦力が増援、救援として自治区侵入を認める条項が整備されている。――今現在の状況と合わせて、何故条約の締結が必要であるのかご理解していただけるだろう。では、八雲生徒会長――仲介役として音頭をお願いする』

『――配信をご覧の皆様。"連邦生徒会"、現生徒会長八雲(ユカリ)です。大変な事態に見舞われましたが、今現在も解決に向けて各人が弛まぬ努力を続けております。しかし、解決を導くには後一手が足りない。――急拵えの場ではありますが、条約締結の場を仲介できることに心より感謝申し上げます。...こちらが、条約締結の根拠となる文書。条約内容合意の際の議事録です』

 

「――成程...その時点の議事録ならば、条約内容の確認には充分利用できる。内容への合意を示し、それを取り交わすという行動そのものが重要だからな」

『メグム"参謀"!こちらイチカっす!自治区各所でアリウスの襲撃が一気に激化してるっす!』

『――こちらマシロ。()()()()()()()を確認、狙撃により鎮圧しました』

「...学内も、か。『アリウス』の襲撃で望外に条約締結が中止となって安堵していた過激な反対派が激発した、という所か。――できる限り抑え込め。もうすぐ増援が来る」

 

~大書庫~

side-"先生"

 

「――では、只今より調印式を執り行います。まずは、"トリニティ総合学園"側から条約内容の確認をお願い致します。合意の意思があれば、サイン記名を以て示してください」

 

 (ユカリ)の手で演台代わりの小さなテーブルに議事録が乗せられ、数歩下がった彼女の音頭を受けてセイアがテーブルの前に立ち、議事録を見下ろしてページを捲って条約内容を確認していく。

 

『――こちら"Кролик1"!現在もアリウスの部隊と交戦中!撃破から突破へ戦術を変えてきたものの、阻止行動は継続中!』

『――こちら"便利屋68"、カヨコ。"ティーパーティー"や一般生徒らしき娘達が会館敷地内に侵入。銃を携えて大書庫を目指している。...多分、トリニティ内の条約締結反対派だと思う。今ムツキ、ジョオン、ハルカ、シオンの四人が迎撃に出向いているけど、もしかしたら撃ち漏らすかもしれない』

『――了解しました。"RABBIT小隊"、大書庫出入口の警戒に移ります。出入口は一か所のみ。締結が成されるまでは何とか乱入を阻止して見せます』

 

 インカムにイナバとカヨコの報告が入り、後者の報告を受けてミヤコが三人を連れて出入口の方へと移動する様子を横目に確認する。その間にセイアが議事録の先頭ページの上部の余白にサインを記入する。

 

「――続きまして、"ゲヘナ学園"側から条約内容の確認をお願い致します。合意の意思があれば、サイン記名を以て示してください」

 

 セイア、『トリニティ』側の合意が示され、セイア横に退いた事を確認した(ユカリ)の音頭を受けてマコトがテーブルの前に立ってセイアと同様に内容を確認していき、確認を終えると淀む事無くサインを記入する。

 

「――では、両校生徒会長のサイン記名を確認致します」

 

タタタ...!>

 

 サインを記入し終えたマコトが右横へと退き、(ユカリ)が近付いてサインを確認する一方で、微かに銃声が聞こえ始める。カヨコが報告していた『トリニティ』内の反対派生徒だろうか。

 

「――確認ができました。では、こちらの締結の証明を皆様へ示しましょう。介添役の"ティーパーティー"、桐藤首長(ホスト)。"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"、丹花議員はこちらの文書の掲示をお願い致します。百合園"ホストリーダー"、羽沼"議長"はこちらで握手をお願い致します」

「はーい!」

「――承知致しました」

「キキッ。いよいよだな」

「――締め括りといこうか」

 

 確認を終えた(ユカリ)の音頭を受けてナギサとイブキが彼女からバインダーを受け取り、ナギサがイブキの背丈に合わせて片膝を付いて左右から保持して議事録をカメラに向けて掲示し、その後ろでマコトとセイアが左右から歩み寄り―――

 

 

「――『トリニティ』と『ゲヘナ』の宥和、協調の第一歩となることを祈って」

「――両校協調の嚆矢となることを願って」

 

―――二人がお互いに差し伸べた手を握り、『エデン条約』が締結される。

 

『――こちら"RABBIT1"!大書庫に侵入したトリニティ生の集団が撤退を開始!』

『――こちら"Кролик1"!アリウスの部隊が撤退に移行!これより追撃を開始する!』

 

 締結が示された直後、ミヤコとイナバから報告が入る。トリニティ生達もアリウスも、締結阻止を成せないと判断して逃げに移った様だ。

 

「――では、早速本条約に働いてもらうとしよう。『エデン条約』第三条に基づき、我が『トリニティ』単独での対処が困難な事態の解決の為――"ホストリーダー"『百合園セイア』の名に於いて、『ゲヘナ学園』に対し救援を要請する」

「――"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"議長『羽沼マコト』の名に於いて、『トリニティ総合学園』からの救援要請を受領する。迅速に救援部隊を『トリニティ』内に送り込む。――合わせて、『通功の古聖堂』で対応中の"風紀委員会"、"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"の部隊は『トリニティ』側部隊との協働を許可する」

 

 カメラに向き直ったセイアとマコトが、早速条約を利用して『ゲヘナ』からの増援と協働を指示する。

 

「――では、配信はこれにて終了とします。アーカイブはしばらく残しておきますので、締結を確認したい方は"文々。新聞"、"花果子念報"の公式チャンネルをご確認ください。それでは!」

「――カメラオフ。配信終了よ!」

「...ふぅ。何とか締結できたね」

「キキッ。これで肩の荷が一つ下りたぞ」

「マコト先輩、かっこよかったよ!」

「――お疲れ様でした、セイアさん」

 

―――アヤとハタテがカメラを切って配信終了を宣言すると、場に安堵の雰囲気が漂い始める。

 

「"――締結は強引な形になったけど、これで『ゲヘナ』の戦力を正当な理由で動員できる。ここからが正念場だね"」

「あぁ。――人手が増えても、それらを有効に活用できなければ混乱を大きくするだけだ」

「増援部隊にはアコとサクヤが居る。二人共充分に優秀であることはマコト様が保証しよう。――条約締結は向こうも確認している筈だ。条約締結についての共有、伝達で多少タイムラグはあるだろうが、今頃は『トリニティ』入りすべく動き出しているだろう」

 

 引き締める様にこれからの行動について挙げると、セイアとマコトがそう答える。

 

「――反撃に移る為にも、臨時本部である『大聖堂』に戻りましょう。問題は、会館方面での『アリウス』部隊ですが...」

「"『アリウス』の部隊も撤退に移ったと、さっきイナバ達"Кролик小隊"から報告があった。油断大敵だけど――会館内の直近の脅威は無くなったと見ていいと思う」

「――だが、魔創シンキ(自校の首魁)を撃った下手人も分からず、条約締結も阻止できなかった『アリウス』がどう動くか不透明だ。追い込まれた者は得てしてなりふり構わない行動を取りやすくなる。横合いから襲撃などされないよう警戒しながら戻るとしよう」

 

 セイアの言葉に頷き、各人が動き出す。私もミヤコ達に『大聖堂』への帰還について伝えるべく通信を―――

 

『――せ、"先生"!ある人物からメールが届いています!』

「"...メール?その位なら後で...いや、態々報告するなら単なるメールじゃなさそうだね。誰からかな?"」

『それが――』

 

 


~『トリニティ』自治区付近 上空~

side-??

 

「――『トリニティ』管制より許可が下りました。これより自治区内に入ります!」

 

 『雨雲一号』を駆る"エルフメガネ"がこちらに顔を向けて報告を挙げる。

 

「...あちこちで銃撃戦が起きてる。リーダーのメッセージ通りだね」

「まさかあのような襲撃が起きたことも予想外でしたが、リーダーがいきなり救援要請を送ってきたことも驚きでしたね~。この状況を見れば理由は分かりますが」

 

 双眼鏡で眼下の自治区の街並みを見回す"ゴートーオオカミ"と"クリスティーナ"が呟く。

 

「やることは分かったけど...私達は具体的にどう動くべきなのかな?」

「リーダーから具体的な方針は送られていない。...こんな状況だから考える暇がないか、それとも――()()()()()()つもりなのかな~?」

 

 私の前に座る"ドリーマー"と"リトルバード"がリーダーが私達に課した方針についてそんな推測を挙げる。

 

 

「...ね、ねぇ皆。私達、これから『トリニティ』なんかで何をするの...?」

「いきなりこんな覆面を渡されて、アタシらに"ウォーターシーフ"、"ツンツンキャット"、"グレイブキーパー"なんて変なコードネームまで一方的に付けて...」

「眼下の状況を見れば、何となく察しは付くけれど...」

 

―――そして、()()()この姿での活動に加わった三人が戸惑いを隠せない表情で私達に尋ねる。

 

「――シャーr..."Mr.S"からメッセージを受け取りました!"大聖堂付近のヘリポートで着陸し、合流せよ"、とのことです!」

「分かった、その通りにしろ。――いきなりお前らを巻き込んでこうして出張ることになったのはすまなかった。...『シャーレ』にでも頼めばこんなことをする必要はないんだがな。

 『シャーレ』に要請する時間も惜しいと、リーダーは判断したんだろう。『シャーレ』、"先生"達も巻き込まれているしな」

 

 "エルフメガネ"の報告にそう返し、三人に向き直って理由を挙げ、『それに――』と続ける。

 

 

 

「我らがリーダー"ファウスト"からの()()()だ。この場に居るのは『アビドス』じゃない。『覆面水着団』だ。この『トリニティ』で起きている事態の解決を()()()するぞ」

 

―――to be continued―――

 

 




ということで反撃です。

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