Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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増援を得て反撃です


File122.ET-27~調印式典⑥~

~『トリニティ』自治区内~

side-イチカ

 

タタタ...!

 

「きゃっ?!――ま、また『アリウス』の部隊です!」

「そこのベンチを倒して遮蔽に!応戦するっすよ!」

 

―――喫茶店が立ち並ぶ地区の一角。横道から『アリウス』生五人が躍り出て銃撃をこちらに浴びせ、攻撃に怯んだ娘の肩を掴んですぐ傍のベンチの陰に投げ込む様に送り込む。

 

「さっきの襲撃から十分も経たずに..."参謀"の指示で弾薬は多めに携行していたおかげで助かったっすけど、補給は相変わらず邪魔されるし、このままじゃジリ貧っすね...」

 

 私自身は[レッドドラゴン(愛銃)]を構えて制圧射撃で応射しながら現状を言ちる。―――古聖堂で『魔創シンキ』が何者かに狙撃され、その報復を行う様に『アリウス』の襲撃が激化してしばらく経った。

 横道。通り過ぎた背後から。こちらの死角を突くいやらしい襲撃にひたすら対応し続けたおかげで、私も、麾下の娘達も弾薬が心許ない。

 襲撃であちらこちらに出現している中で正実(私達)の補給拠点の位置も把握したのか、こちらが補給拠点に近付こうとする度に狙った様に襲撃を仕掛けて補給を妨害して来ていて、他部隊も私達と同じ様に補給を妨害されていると共有されている。メグム"参謀"からはもう少し持ち堪えろと言われているけど、一体何を―――

 

 

ッチュゥン...!

「っと...!今は迎撃に専念して――」

 

 

―――タタタ...!

「は、背後から敵?!」>

「に、逃げよう!」>

 

「――?!アリウス(敵部隊)の背後から攻撃?!」

 

―――突然だった。アリウス(敵部隊)の背後から銃撃音が聞こえ、アリウス(敵部隊)も予想していなかったのか陣形が乱れ、泡を食った様に横道へと逃げ込む。

 

 

「――逃げた敵部隊を追撃。途中で見失ってもそれはそれで構わないわ。――お疲れ様、イチカ。つい先日の"補習授業部"の一件以来ね」

「さ、サクヤさん?!ど、どうしてトリニティ(ここ)に?!」

 

 数人の『ゲヘナ』風紀委員が後を追う様に横道へと入り、白い軍服風の制服と制帽、コートを纏う『ゲヘナ』生―――"風紀委員会"のサクヤさんが姿を現し、驚きを隠さず声をあげる。

 

「あら、正実(そっち)の"参謀"から話は聞いてないの?...いえ、ずっと『アリウス』の襲撃に対処し、警戒していれば見る暇もなかったでしょうね。

――無理矢理ではあるけど、『エデン条約』は締結されたわ。その条項が発効されて私達は援軍としてここに来たの。証拠は『キヴォチューブ』の"文々。新聞"、"花果子念報"公式チャンネルに配信のアーカイブが残っているわ。今の内に目を通しておくといいわ」

「り、了解っす...」

 

 私の反応に対して不思議そうに首を傾げるけど、私達の今までの状況を察してトリニティ(ここ)に居る理由をそう挙げる。戸惑いは解消されず、取り敢えず言われたままにスマホで『キヴォチューブ』でチャンネルを調べてみる―――

 

「――確かに結構無理矢理っすね...でも、両校のトップが合意した姿を見せているからいいんすかね。――兎も角、経緯は理解したっす。援軍は本当にありがたいっす」

 

―――アーカイブのタイムスタンプで条約締結のシーンを確認し、苦笑する。議事録を合意した条約内容の根拠にするなんて結構無理矢理だ。だけど、『トリニティ』の戦力は払底状態で現状維持、悪化阻止が精一杯だったから『ゲヘナ』の援軍は素直にありがたい。

 

「理解できたならそれでいいわ。――メグム"参謀"から状況は聞いている。弾薬も心許ないでしょう?持ってきたから補給するといいわ」

 

 サクヤさんは微笑みながら頷き、随行している風紀委員の一人に目を向けると、彼女は背中のバックパックを下して中身を―――補給拠点から持ってきたらしい弾薬箱を取り出す。

 

「皆弾薬僅少だったのでありがたいっす。皆、補給するっすよー」

 

 サクヤさんに謝意を伝え、補給を呼びかける―――

 


~『通功の古聖堂』付近 野戦病院~

side-ミネ

 

「――軽傷患者は右へ!重傷患者はそのまま真っ直ぐ奥へ!」

 

―――救急車両の後部から下ろされる"正義実現委員会"や"トリニティ自警団"、"ティーパーティー"の負傷者に付けられた負傷度合いの識別を確認しながら搬送先を振り分けていき、団員達の誘導、担架運搬で運ばれていく。

 

「なんで態々搬送なんて...この位の傷なら適当に包帯を巻いて――」

「――聞き捨てなりませんね。その負傷は放置していれば失血による気絶も有り得ます。()()されたいのですか?」

「み、ミネ団長...?!な、何でもないです!」

 

 軽傷者の中の正実委員の一人の不満の言葉を偶然耳に入れ、歩み寄って[救護の証明]を納めたホルスターに手を添えて咎めれば、彼女は顔を青ざめさせて大人しく軽傷者の治療場所へと誘導されていく。

 

「今治療を受ける時間と、症状悪化で倒れた時の時間のどちらが長いかなど一目瞭然でしょうに。...早く前線に戻りたいという焦りは理解しますが」

 

 背中を見送りながらポツリと言ちる。―――無理矢理なれど『エデン条約』締結が成されたおかげで『ゲヘナ学園』からの援軍が『トリニティ』に来た。これで現状維持、事態の悪化阻止で精一杯だった現状を鎮圧へと移行出来るとは言え、騎士団(こちら)に聞こえてくる『アリウス』の動向は激化したままであり、幸い要人が襲われ負傷したという情報は聞こえて来ないものの、まだ予断を許さないのが現状だ。現に負傷者も重軽問わず、一回の搬送数は少ないものの搬送頻度が多く、『アリウス』の攻撃が如何に苛烈であり、神出鬼没であるかを物語っている。

 

「――団長、宜しいでしょうか」

「――何かありましたか、メディスン?」

「――『ゲヘナ学園』からの増援に随行していた"救急医学部"の氷室部長が、団長に軽くご挨拶したいと面会を求めております」

 

―――いつの間にか背後から近付いて来たメディスンに声を掛けられ、振り向いて用件を尋ねれば彼女はそう答える。確かに彼女の背後には"救急医学部"制服を纏った生徒が二人立っている。

 

「――ミネ団長、お忙しい中失礼致します。『氷室セナ』以下、"救急医学部"三十名。野戦病院及び現場での医療活動の支援に参りました。活動に入る前に一言ご挨拶をと思いまして」

 

 一人はナースプリムを被った白い髪から小さな黒い角を覗かせた『氷室セナ』部長。

 そして―――黒いリボンで留めた三つ編みを二本垂らした赤い髪の頭上に黒い猫耳を伸ばし、白いナースプリムを被り、黒寄りの色合いの制服の背後で二本の黒猫の尻尾を揺らす見知らぬ生徒が彼女の隣に立っている。いや、この特徴を持つ生徒については以前セナ部長から聞いている。確か―――

 

「――ミネ団長は直接お会いするのは初めてでしたか。彼女は『火焔猫(かえんびょう)(リン)』。私の右腕的人材です」

「――『ゲヘナ学園』二年生。"救急医学部"『火焔猫(かえんびょう)(リン)』。部長とか仲がいい人からは"お(リン)"って呼ばれてるよ。

 死t...おっと失礼。患者が大量に出るってことで部長の手伝いでついて来たんだ。よろしくね、ミネ団長」

「――(リン)さん、ですね。セナ部長共々、救援感謝致します」

 

 セナ部長からの紹介に続いて(リン)さんが自己紹介する。咄嗟に言葉を変えたものの、()()()()()()()()()()を出しかけた事から彼女の()()を察する。しかし、今は人手が必要だから口には出さない。

 

「お(リン)の医療知識は勿論、それ以上に車両運転技能は確かです。()()()()()死t...負傷者を回収、搬送できることでしょう」

「...分かりました。負傷者の搬送を高回転で行えれば、その分前線に復帰させられる時間も短くなります。――では、今回はよろしくお願い致します」

 

 セナ部長の言葉にいよいよ私の予測が事実だと分かって咎めたくなるものの、その言葉を飲み込んで頭を下げる。

 

「承知しました。――ですが、お(リン)を出すに当たって"救護騎士団"から一名、道案内を付けて欲しいのです。当然ですが、現状我々には『トリニティ』の土地勘などありませんので」

「承知しました。そうですね...では、『朝顔ハナエ』という一年生の団員を――」

 

 

「団長〜!大変です〜!」

 

―――セナ部長からの要望にそう答えていると、その指名したハナエにの焦った様な声が聞こえる。声が聞こえた方に振り向けば、慌てた表情を浮かべた彼女がこちらに駆け寄って来る姿が見える。

 

「落ち着いてください、ハナエ。患者にぶつかって怪我をさせたら大変ですよ」

「はぁ...はぁ...ご、ごめんなさい団長...!その、今すぐ団長に報告したいことがあって...!」

「――こちらを。息を整えてから報告をお願いします」

 

 全力疾走により肩を上下させて息を荒く吐くハナエに対しセナ部長がポーチから取り出したペットボトルの水を差し出し、ハナエは受け取って水をゴクゴクと飲む。

 

ね、ねぇ...あの人って...>

嘘...?!どうしてここに...>

 

「...ぷはっ。――あ、ありがとうございます~セナ部長...って、どうしてここに?!」

「どういたしまして。『エデン条約』発効による援軍に便乗して、"救護騎士団"の皆様の支援に参りました。――それで、ミネ団長に早急に報告したいこととは?死t...負傷者絡みで何か?」

「そ、そうです!たった今ここに――」

 

 出入口の方で何か騒めきが聞こえてくるけど、今はハナエからの報告が最優先だ。セナ部長に促されたハナエは思い出した様に慌てた表情を浮かべ―――

 

 

 

 

「――忙しい中、失礼するわ。...あら、セナも居たのね」

「――?!」

「あ、貴女は...!」

 


~『通功の古聖堂』広場 合同指揮所~

side-レミリア

 

タタタ...!

ドォォン!

ドドド...!

 

「――お疲れ様、レミリア。補給ついでに様子を見に来たわ」

「――お疲れ様、ヒナ。包囲の状況は?」

 

―――銃声や爆発音が響く中。"ティーパーティー"や"正義実現委員会"、"風紀委員会"や"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"の娘達が入り混じって慌ただしく動き回る合同指揮所のテントの中。包囲の前線に出ていたヒナが指揮卓の下にやって来る。

 

「条約発効と...いの一番に()()援軍に来たアコのおかげで『トリニティ』側と堂々歩調を合わせられるから、薄かった箇所は補強できたわ。聖堂内、『アリウス』からの迎撃火力は変わらず強力だけど...少し()()()があった」

「ふむ...どんな違和感?」

「――定型的...『アリウス』側の戦術、命令に()()()()()ように感じるの。

 『魔創シンキ』が撃たれてからの『アリウス』は、下手人探しや『トリニティ』への報復を行なうように自治区のあちこちで襲撃を激化させている。でも、ここではそういう過激な行動はせず、こちらの反撃を阻止する迎撃に留まっている。

――私の推測だけど、多分聖堂内には()()『魔創シンキ』が留まっているかもしれない」

「――唐突に撃たれて負傷したというのに?要人が撃たれ、あまつさえ負傷したなら普通は護衛を密にして退避するものよ。実は『魔創シンキ』は既に退避している可能性はないかしら?」

 

 ヒナの返答に首を傾げながら反論する。敢えて聞いてみたけど、私もヒナの推測には同意している。何せ、この反論が仮に事実なら―――

 

「――だったら、『アリウス』が古聖堂に拘る意味がない。要人が退いたなら、その場に居た人員もそこから別に転用させる筈。その場に留まり続けて包囲から反撃に移行させない迎撃を行う意味がないわ」

「えぇ、その通りね。...『魔創シンキ』がまだ聖堂内に留まっているというなら、何故留まる必要があるのかしらね」

 

 ヒナの言葉に頷き、そう言ちりながら古聖堂に目を向ける。

 

「...あの声明。『トリニティ』が隠していたらしい、統合成立時に起きた出来事についても驚くべきことだけど...妙なのは、あの言葉からは()()()()()()()()()()()()()()。あの時点ではまだ糾弾に留まっていたように感じたわ。ゲヘナ(こちら)に対しては理不尽に巻き込んだって謝罪までしていたし」

「ふむ...声明で挙げたことが事実なら、『アリウス』が『トリニティ』に対して強い憎しみを抱いていてもおかしくない。でも...『魔創シンキ』は奇襲で介入した上でマコト達を人質にして式典を止めさせ、自身の声明を発表する場を作った。あの声明を以て『トリニティ』に何を求めるつもりだったのかしら――」

 

「――緋色魔副議長、空崎委員長。『ティーパーティー会館』にて条約締結を行った要人の皆様が合流しました」

 

―――指揮所に詰めているハスミ副委員長が歩み寄って来てそう報告しながら後ろに目を向けた先にはマコト達や"RABBIT小隊"達護衛戦力の面々も並んでいる。

 

「――レミリア、ヒナ。包囲の指揮ご苦労」

「えぇ。貴女もお疲れ様、マコト。――"ティーパーティー"、"連邦生徒会"の皆。締結への協力に心より感謝するわ。これで状況を鎮圧に移行できる可能性が見えてきたわ」

 

 マコトの言葉に頷き、セイアや八雲連邦生徒会長、"先生"に謝意を示す。

 

「君達も、古聖堂に立て籠もる『アリウス』への包囲の指揮に感謝する。締結前は堂々と協力出来ないが故に包囲が薄い箇所が生じてしまって苦労したことだろう」

「"条約は既に発効済。これで『トリニティ』と『ゲヘナ』は正当な理由で協力できる。これから私達も指揮と各所への増援に合流するよ"」

「――ありがとう、『百合園セイア』、"先生"。これで包囲の維持から反撃も――」

 

 

『――ひ、ヒナ委員長!レミリア副議長!広場出入口方面の警戒部隊から緊急報告です!』

 

―――唐突にアコの大きな声がインカムに入って鼓膜を揺らし、ヒナ共々眉をしかめる。

 

「アコ、少しうるさい。...何があったの?」

『出入口に繋がる道路を――』

 

 

<―――ドォォォン!!

「「――?!」」

「な、何だ?!」

「"外からだ!"」

 

―――報告を遮る様に砲撃の様な爆発音がテントの外、広場出入口方面から聞こえ、マコト、"先生"達と共にテントの外に駆け出す―――

 

 

ギャリリリ...!

ドォォォン!!

「「「「グワーッ?!」」」」

 

―――広場に繋がる道路を受け持つ警戒部隊が砲撃で吹き飛び、周りの娘達が轢かれるの避けて散り散りに逃げて出来た包囲の穴から一輌の[Crusader Mk.I(巡航戦車)]が私達の数メートル先で包囲陣の中に突入する瞬間を目の当たりにする。

 

「あれは...!」

「――"正義実現委員会"の装備更新でお役御免になったが、治安悪化を受けて各クラスに配備された自衛用戦車だ」

「...『ゲヘナ』では無理な施策だな。配備した所で暴動や強盗に使われるだけだ」

「そんな呑気に感心してる場合じゃない...!警戒部隊を攻撃したということは――」

 

「キエェェェェェェ!!!!」

 

―――音を聞きつけて飛んできたのか、ヒナと同様包囲の最前線に付いていたツルギ委員長が目を剥いて舌を出しながら狂声をあげて[ウィンチェスターM1887(ショットガン)]二丁を構えながら[Crusader Mk.I(巡航戦車)]へ真正面から吶喊し―――

 

ギャリリリ...!

「ギエッ...」

 

―――速度を落とさない[Crusader Mk.I(巡航戦車)]にそのまま正面から轢かれ、[Crusader Mk.I(巡航戦車)]は勢いそのまま古聖堂を目指して疾走していく。

 その後には制服や髪、翼に履帯の跡を付けたツルギ委員長が、白目を剥き、ヘイローも消えて潰れた大の字の様に倒れていた。

 

「...おい、轢かれたぞ?!速度重視で軽い[Crusader Mk.I(巡航戦車)]と言えど戦車は戦車だ。流石にこれは――」

「――いえ。()()()()であればツルギは《《すぐに回復》します》。ほら、既にヘイローが点滅し始めています」

 

 マコトが青ざめた表情を浮かべる一方で、ハスミ副委員長は落ち着いた表情でツルギ委員長を見下ろしながらそう説明する。―――確かに、彼女の頭上でヘイローが明滅し始めていて、よく目を凝らせば指先も微かに、ピクピクと動いている様子が見える。

 

「ア゙...ア゙ァ...」

 

「...噂で聞いたことがある。『剣先ツルギ』はどれだけ撃たれようが()()()()()()()()()()()()()。ゾンビみたいな回復力を持っている、と。――まさか、本当だったなんて」

「その回復力がツルギの強みですからね。委員会トップクラスの戦闘技能と相俟って、彼女単体で戦況を大きく変える。――"トリニティの歩く戦略兵器"たる所以です。...今回は止めらなかったようですが。普通の生徒なら、ツルギのあの顔を見て怖がって戦意を喪失するのですが...まるでツルギなど眼中に無いように轢いて突き進んで行きましたね」

 

 見ている内にヘイローもハッキリしていき、ゾンビよろしく呻き声すら零し始めた様を見て驚いた言葉を零すヒナに対してハスミ副委員長はそう返し、妙だと言いたげな表情を浮かべて古聖堂の方に目を向ける。

 

「"...そうだ![Crusader Mk.I(巡航戦車)]は――"」

 

 

ドゴォォン!!

 

―――砲撃とは違う、()()()()()()()()()()()様な轟音。最前線の包囲陣に穴が空いていて、古聖堂の正面大扉の辺りに土煙が巻き上がっている。

 

『こちらアコ![Crusader Mk.I(巡航戦車)]が()()()()()()()()()()()()!アリウスの迎撃もお構い無しに正面から...!』

「――アコ、()()()()()。準備して」

「――こちらも合わせて反撃に転じます。...まさかの展開ですが、敵迎撃網に穴が空いたのです。塞がれる前により広げなければ」

 

 続け様にアコがそんな報告を挙げ、ヒナが即座に返した指示に合わせてハスミ副委員長も同意の意見を挙げる。

 

「――それが良いだろうね。[Crusader Mk.I(巡航戦車)]の駆り手が何者か、敵か味方か分からないのが不安要素だが」

「...そ、そうだな。怒涛の展開続きで混乱しているが――反撃のチャンスであることは確かだな」

「"――なら、急いで反撃に移ろう。正面大扉、[Crusader Mk.I(巡航戦車)]が開けた突破口に制圧射撃を仕掛けて敵部隊の再編を阻止。準備が出来た部隊から順次突入開始!"」

 

 百合園"ホストリーダー"の言葉にマコトが頷き、"先生"が指示を出して各人が動き出す。

 

「...全く、まるで予想外の展開ね。[Crusader Mk.I(戦車)]で包囲の輪を押し通って正面から吶喊するなんて...一体どんな()()()()()なのかしら」

 


~『通功の古聖堂』内 式典会場~

side-アズサ

 

ガコン...!

「――母さんッ...!」

 

―――大扉を破壊し、正面の出入口を塞ぐ形で擱座した[Crusader Mk.I(戦車)]の操縦手ハッチをこじ開けて車外に出て、その正面の演台の傍でユメコ()()()達と、迎撃を止めてまで母さんを守ろうとしている『アリウス』の皆に囲まれた母さんを捉えて駆け寄りながら声をあげる。ここを襲撃した面々の中に居たサオリ達の姿が見えない事も気になるけど、それ以上に―――目を凝らせば狙撃された左肩に巻かれた包帯が見えてしまい、本当に撃たれたんだと心がズキリと痛む。

 

「ま、待ってくださいアズサちゃん...!」>

「っぐ...ちょっと胸が上手く...誰か手助けを...!」>

「何やってるのよハナコ!ヒフミ、キクリも手伝って!」>

「えぇ、すぐに...!」>

 

「...来てしまったのね、アズサ」

「なんであんなことをしたんだ?!聖園ミカのクーデターが失敗した時の次善の策が、あんな過激な――()()()()()()()()行動」だなんて!

 

 私の後ろでヒフミ達が[Crusader Mk.I(戦車)]から出て私の後を追おうとしているやり取りが聞こえる中で母さんに吼える。

―――聖園ミカが画策したクーデターが失敗した時の策はこちらから聞いても母さんははぐらかして答えてくれなかった。次善の策が何なのか分からないまま『トリニティ』へ潜入し、私は―――

 

「...こうするしかなかったの。『トリニティ』内に未だに私達を攻撃する意思、意図を持つ者が存在しているなら、こちらから動くしかない。今の『トリニティ』が知らない歴史――あの時のことを明かすことで、私達を脅かす勢力、何者かについて広く気付いて欲しかった。...だけど――」

 

 "母さん"はそう答え、自身の左肩を見て残念そうに目を伏せる。

 

「――総意ではないのでしょうけど、こんな形で意思を示されたのは残念よ。...サオリ達は、"私を撃った下手人を炙り出す"と息巻いて自治区内に繰り出したけど――流石にこれ以上留まるのは危険。ユメコちゃんが居るとは言え、ね。...これが『トリニティ』の答えなら、こちらも相応の答えを示すしかない。――アズサ」

 

 母さんは左肩を一瞥して小さく息を吐き、一転していつも浮かべていた優しい微笑みを浮かべて私を見つめる。

 

「――貴女は貴女の道を往きなさい。ミカのクーデター支援を決めた時に、貴女をサポーターとして『トリニティ』に送り込んだのは――ミカが来る以前から、()()()()()()()()()()()()()()()()に興味を持っていたから。

 ()()()()でも自分の意思を曲げなかった。そんな強い芯を持った子なら、()でも自立して()()()()()を歩める。私はそう感じたから、ミカのクーデターを利用して貴女を送り出した」

...っ...芯が強いなんて、そんなことは...私は、母さんのおかげで...だから...っ...!」

 

 母さんが言わんとしている事を察し、喉から出かかった言葉を飲み込もうと反論を図るけど、抵抗するように言葉が詰まる。

――母さんはそういう人だ。自分自身よりも私達を大事に想い、身を粉にして私達に色々な事を教え、支え。積極的に動き回って危険な局面にも億さず私達の前に立って身を晒す。その背中は、微笑みはどれだけ頼もしくて――同時に()()()()()()()()()()か。

 母さんは私に、これからも『トリニティ』の二年生として生きていて欲しいのだとは私自身も察している。途中から私と聖園ミカのサポーターとして加わったルイズも、母さんの意思を汲んでいたからあんなメッセージを残して戻って行ってしまった。

 

「――『アリウス』を、故郷を。そして私達を忘れろとは言わない。ただ――その思い出、記憶を糧にして前を向いて未来を目指してほしいの。

――貴女は強い子よ、アズサ。"Vanitas vanitatum, et omnia vanitas."――"Plenitudo plenitudinum, et omnia plena."世界は虚しいことばかりではない。諦めなければ、明るい未来は必ず――」

 

 

 

 

「――待ってください!」

 

「――!」

「...ひ、ヒフミ...?!」

 

―――突然聖堂内に響くヒフミの声。驚いて振り向けば、私の後ろには私に追いついたらしいヒフミ達四人が立っていた。ヒフミは黄色い瞳で私―――の先、母さんを見つめている。

 

「――アズサちゃんの為だと。そうやって一方的に突き放すんですか?!」

「ヒフミ、これは私n「アズサちゃんはちょっと黙ってください!」ひ、ヒフミ...?!」

 

 ヒフミを止めようとするけど彼女らしくない剣幕で遮られ、戸惑いながらも剣幕に押されて思わず押し黙る。

 

「アズサちゃんは確かに芯が強くて頼りになる、私達の大切なお友達です。...『アリウス』についてはアズサちゃんから聞きました。酷く荒れていて、日々を生き抜くだけで精一杯だったと」

「――!」

「――ダメよ、ユメコちゃん。...今はあの娘の話を聞きましょう」

 

 ヒフミの言葉を受けてユメコ姉さんが[SIG Sauer P365 XL(ハンドガン)]を構えようとするけど、母さんが手を翳して制止する。

 

「――でも、そんな時に貴女が現れた。そしてアズサちゃんに、『アリウス』の皆さんに様々なことを教えてくれた。その時のことを話すアズサちゃんはいつもより表情も明るくて嬉しそうで...本当に、大切な方なんだと思いました」

 

 "補習授業部"解散の時の事を語りながらヒフミは私をチラリと一瞥する。

 

「――だからこそ、そうやってアズサちゃんを突き放そうとするのはダメだと思うんです。貴女がアズサちゃんを想うように、アズサちゃんも貴女を大切に想っている。――それを無視してはダメだと思うんです」

「...私を想う姿勢は嬉しく思うわ。でも――人は成長するもの。いつかは自立しなければならない。アズサ、『アリウス』の子達には私なんかの為に動くより、各々のやりたいこと、人生を見付けて欲しいの。本来なら私は――」

 

 

「――それは違う!」

 

―――尚も変わらない母さんの言葉に我慢出来ず声をあげる。

 

「私にはこれからもやりたいことが沢山できた。母さんから沢山のことを教わったおかげだ。でも...我儘かもしれないけど、これからももっと沢山のことを教えて欲しいし――母さんとずっと離れ離れになるなんて嫌だ!」

「――自己犠牲を厭わない精神性は"先生"を彷彿とさせますが...それは後の者に不安を与え、頼られないことで不信や不満を抱かせるものです」

「えぇ、そうです。それに――各々の人生を見付けて欲しいと、自立を願いながら、自分のことを除外させようとするのは矛盾しているでしょう。きっとアズサちゃん達『アリウス』の生徒達を大事に想うが故なのでしょうが...貴女が共に居る人生を求めることも、貴女が重んじている選択ではないでしょうか」

「よ、よく分からないけど...アズサが貴女と離れ離れになりたくないってお願いを否定するのは正義じゃないことは分かるわ!」

 

 私の言葉に続いてキクリ、ハナコ、コハルも賛意の声を挙げ―――ヒフミが一歩前に進み出る。

 

「そうです!アズサちゃんが一人になってしまうのは嫌です。大切な人と離れ離れになってしまう。そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。それがアズサちゃんの為だからって言われても、私は好きじゃないんです!

――私には、好きなものがあります!平凡で、大した個性もない私ですが...自分が好きなものについては、絶対に譲れません!

――友情で苦難を乗り越え。

――努力がきちんと報われて。

――辛いことは慰めて、お友達と慰め合って...!

――苦しいことがあっても...誰もが最後は、笑顔になれるような!

――そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!

 誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!――私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!――ここで終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!私たちの物語――」

 

 

 

 

「私たちの、青春の物語(Blue Archive)を!!」

 

サァァァ...

 

「...空が...」

「あら...どうやら空も私達に賛成しているみたいですね♡」

 

―――ヒフミの朗々とした宣言と共に、銃撃ですっかりステンドグラスが砕けた窓から日の光が聖堂内に差し込む。

 

<ガタン...!

<「突入!」

<「あれは...!」

 

―――同時に、擱座した[Crusader Mk.I(戦車)]を退かしたらしい包囲部隊が聖堂内に突入する喧騒が背後から聞こえて来る。

 

「――潮時ね。...アズサのお友達。名前を教えてくれる?」

「『阿慈谷ヒフミ』です!」

「『浦和ハナコ』です」

「『久栗キクリ』と申します」

「し、『下江コハル』よ」

「ヒフミ、ハナコ、キクリ、コハルね。覚えておくわ。――どうか、アズサとこれからも仲良くしてあげて。芯が強い子だけど、少し抜けてる所があるから」

 

 母さんはヒフミ達を見回して微笑み、片手を軽く挙げる。

 

「待って、母さん!まだ――」

 

カラカラカラ...!

 

―――母さんの合図を受けた『アリウス』の皆が私達に向けて何かを転がす。

 

 

「――フラッシュバンッ!!」

 

カッ―――!

 

―――転がされた物体の正体を把握して咄嗟に声を上げて伏せた瞬間、幾つものフラッシュバンが炸裂する。

 


~『トリニティ』自治区内 裏手の広場~

side-サオリ

 

「――集まれたのはこの四人だけか」

 

―――『トリニティ』の何処か分からない裏路地の中に有った小さな公園...とも言いにくい、ベンチが二つとゴミ箱が一つだけの広場。姫――アツコ、ミサキ、ヒヨリ。"アリウススクワッド"だけが集合地点に集まれたと察して心中に陰が差す。

 

「...会館から離脱はできたけど、そこからが駄目だった。――あれが、『エデン条約』とか言うので増援に来た『ゲヘナ』の連中なんだろうね」

「そうだと思う。...何処に逃げようと、迂回しようとしても――『カタコンベ』の出入口がある場所に()()()()()()()()んだもの。あの()()()()()()()()()()の生徒...かなりのやり手だね。『ゲヘナ』生なら、トリニティ(ここ)の土地勘は碌にない筈なのに」

「わ、私の所には()()()()()()()()が追撃して来ました。連携が私達と同等かそれ以上に凄くて、気が付いたら散り散りにされて私だけに...皆、どうなったんでしょうか...」

「クソッ...!『エデン条約』締結を阻止できなかっただけでここまで崩されるとは!」

 

 三人の報告を受けて自分の無力を痛感して傍の壁に拳を打ち付ける。

 

―――母さんを狙撃した下手人探しの為に『ティーパーティー会館』なる、ティーパーティー(トリニティの中枢)の建物を探していたら、まさか私達の介入で中断された筈の『エデン条約』を締結する動きを取るとは思ってもみなかった。

 締結を阻止しようと動いたが、交戦していた五人がかなりの精鋭でこちらの突破を許さず、条約は締結された。

―――何もかもが失敗し、一旦離脱して仕切り直しを図ったが、まるで条約締結を待っていたかの様に『ゲヘナ』の連中が迅速に『トリニティ』内に展開し、加えて通信妨害も強力に行われる状況へと陥り、それぞれ率いていた部隊の皆も散り散りになってしまったのが今の状況だ。

 

「...リーダー、これからどうするの。通信も妨害が酷くて殆ど繋がらないし、皆の状況も――古聖堂の状況も分からない」

「『トリニティ』が『ゲヘナ』から得た増援のおかげで『カタコンベ』の出入口周りも警戒されてる。...この辺りには出入口がない筈だし、どうしたものかな」

「も、もう手詰まりじゃないですか!うわぁぁん!もうおしまいですぅ!折角新しい雑誌を拾えたのに!」

「落ち着け!...唯一あるのは、この封緘指示だけだ。だが合図は――」

 

ザザ...ガガ...

『...園...せず......楽...堕...』

「...サッちゃん、通信機が何か拾ってる」

「まだ作戦中だ、姫。...一体何だ?」

 

 ヒヨリを窘めながら、小さな封筒に仕舞われた封緘指示を取り出そうとしているとアツコからそんな指摘が入る。作戦中に相応しくない呼び方を咎めながらコートのポケットから通信機を取り出し、チューナーを弄る。この辺りは幸い通信妨害の圏外ギリギリなのだろう。どれかの回線が妨害をすり抜けて―――

 

『――全部隊に告ぐ。"楽園は堕とせず"。繰り返す―――』

 

―――通信が明瞭な回線に繋がり、ユメコ姉さんの声でそんな通達が数度繰り返されて通信が切れる。

 

「...!」

「――封緘指示の開封合図だね」

「ちょうどいいタイミングで通信を拾えたね」

「は、早く開けましょう!」

 

 ヒヨリに急かされながら通信機をポケットに入れ、封筒の封を切って中身を取り出す。中には一枚の紙だけで―――

 

「...こ、これは...!――ダメだ...!通信が繋がらない!」

「...どういうこと?こんな命令を態々...」

「こ、こんな命令をお母さんが出す筈がありません!...でも、この字は間違いなく...」

「...サッちゃん、皆――」

 

「――こっちだ!一瞬声が聞こえた!」>

「"RABBIT小隊"、警戒を厳に!」>

 

―――指示内容に戸惑い、通信機も何も通信を拾わず更に困惑している中で、()()()()()()()()()()()()()部隊の声が小さく聞こえて来て、揃って押し黙る。

 

「ど、どうするんですか?!ここは行き止まりですよ?!逃げ道の先から声が聞こえてきましたし...!」

「...何とか突破するしかない。こんな指示を残した母さんに理由も聞きたいし」

「交戦して突破するしかないか...会館での戦闘でかなり消耗されられたが、まだやりようは――」

 

「――皆、ここはお母さんが残した指示に従おう」

 

―――小声でどうするか話し合っていると、仮面を外したアツコがそんな提案を挙げてミサキ、ヒヨリと揃って呆然とする。だが、アツコは何か決意した様な眼差しを赤い瞳に宿している。

 

「姫、何を言っているんだ...?!」

「リーダー、声が大きい...!――でも、私も素直に賛成できない」

「こ、こんな命令に従ったらおしまいです!きっと酷いことをされるんです!」

 

「また聞こえた!こっちだ!」>

 

 ヒヨリの大きな声が届いてしまったのか、さっきと同じ声が聞こえて来て押し黙る。

 

「三人共言いたいことがあることは分かってる。でも――今は私の提案に従ってほしい。...この指示の真意を知るには、まず従う事が必要だと思うの」

「...分かった、姫を信じよう。だが――指示の対象ではなかったら突破するぞ」

「...姫が、リーダーが言うなら従う」

「...ここで私が反対してもそれこそ酷い目に遭うだけですよね...うぅ、拾った雑誌を読んでからでも...って、そんな時間もなさそうですね...うわぁん...」

 

―――時間的余裕が無い事。アツコが挙げた理由がもっともだとも思い、賛成を示すと二人も賛意を示す。その間にも足音がこちらに聞こえて来る。その方向、広場唯一の出入口に目を剥けると―――

 

 

「動くな!"連邦捜査部"『シャーレ』だ!」

「武器をその場に下して手を上げてください!」

 

 

 

 

「――あぁ、従おう。"アリウススクワッド"は()()()()()()()()()()()()()降伏する」

 

―――まるで奇跡の様に指示にあった対象の人間。兎の耳を象った飾りを付けた四人の生徒と相対し、[アリウス製アサルトライフル]を足元に下して両手を上げると、兎の耳を飾った四人は揃って目を点にして降伏の意思を示した私達を見つめる。

 

 

―――to be continued―――

 

 




 ということで事態収束です。救急医学部にはお燐をキャスティングしました。...はい、死体繋がりです。火車が攫って運ぶのは本物の死体、葬儀中の死体ですが。
 さて、次回は戦後処理です。

~登場生徒紹介~
名前:火焔猫(かえんびょう) (リン)
所属校:ゲヘナ学園
学年:二年生
部活動:救急医学部
装備:SMG×2(MP40(ペイシェントキャリアー))
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