Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
それはともかく襲撃鎮圧後の戦後処理です
~『ティーパーティー会館』 大会議室~
side-セイア
「――では、これより『ゲヘナ学園』との合同会議を始める。議題は皆も知っているだろうが、昨日の『エデン条約』調印式典で起きたことについてだ」
―――会館、大会議室の長テーブル。我が"ティーパーティー"、"正義実現委員会"、"シスターフッド"、"救護騎士団"。『トリニティ』内主要組織の長、幹部が並ぶ右手と、私達からの要請により『ゲヘナ』を代表して出席している羽沼議長、緋色魔副議長、十六夜行政官補佐が左手で並び、一堂に会している様を見回しながら進行の音頭を取る。
「議題に入る前に、昨日起きた事態のあらましを説明しておこう。――昨日『エデン条約』調印式典が執り行われたが、その最中、ハイライトである調印式にて、先日のクーデターに協力した『アリウス』が奇襲を仕掛けて介入し、その『アリウス』の首魁と思しき『魔創シンキ』なる大人が声明を発信した。
――だが、その最中に何者かの狙撃を受けて彼女は負傷。『アリウス』はその報復を図るように、式典開始時点から散発していた警備部隊への襲撃が激化。『トリニティ』単体では事態の悪化を阻止するだけで精一杯な状況と化した。
そこで、事態解決の為に『エデン条約』の締結を試み、『ティーパーティー会館』大書庫で議事録を探し出して、それを以て根拠として強引ながら調印を取り交わして締結を実現した。これで発効された条約により『ゲヘナ学園』からの増援を受け入れて事態を鎮圧した。
――では、続いて各所の被害について報告をお願いする。まずは"正義実現委員会"から聞こうか」
説明に続いて被害報告へと移り、"正義実現委員会"代表として列席しているツルギ、ハスミ、メグムに目を向けて促せばメグムが椅子から立ち上がる。
「――では、"正義実現委員会"から報告させていただく。"ホストリーダー"の説明通り、式典開始時点から自治区内各所で、『アリウス』による一撃離脱を徹底した神出鬼没の襲撃が起きていた。この時点では被害は殆ど無かったが――件の狙撃から状況は一転、一撃離脱ではなく各部隊に対しての苛烈な攻撃へと変化した。
その上で、こちらの応戦、迎撃が激しければ元の神出鬼没さでその場を離脱し、別部隊を襲撃するか死角を突いて再襲撃する手段も取られ、一気に被害が急増。幸い、"救護騎士団"が設置した野戦病院、『ゲヘナ』からの増援のおかげで被害は抑えられたが...最終的に負傷者は委員会実働部隊の内二割強。その内長期入院、療養が必要な重症は三割。伝令や補給担当といった後方人員にも一割程の被害が出た。
――委員会の限界を晒すことになって心苦しいが、『ゲヘナ』からの増援だけでなく、"トリニティ自警団"の協力がなければあの襲撃を抑え込めず、一般生徒にも『アリウス』の魔手が及んでいた可能性がある。この場を借りて"トリニティ自警団"に感謝の意を表する」
メグムが報告を終え、彼女の隣で緊張した様に背筋を伸ばして座っている"トリニティ自警団"代表である『守月スズミ』に目を向けてツルギ、ハスミと共に頭を下げる。
「い、いえそんな...お礼を言われる程のことは...非公認、委員会の皆さんとは志が違う身なれど、この『トリニティ』を守る者として私達自警団ができること、すべきことをしただけですから」
「そう謙遜する必要はないぞ、スズミ。それができる人間はそうそう居ないからな。イチカも自警団には大いに助けられたと言っていた。...つくづく、袂を分かったのが惜しいな」
現委員会の大黒柱たる三人―――
―――閑話休題。
「っと、脱線しかけたな。申し訳ない。――我が委員会と"トリニティ自警団"、そして『ゲヘナ』風紀委員会"、"
――本来我が『トリニティ』で解決すべき事態に対して支援を行った『ゲヘナ学園』に対しても、心より感謝申し上げる」
メグムは『ゲヘナ』に対しても感謝を伝え、ツルギ、ハスミと共に頭を下げる。
「『アリウス』の襲撃には我々も巻き込まれたからな。だが自衛の傍ら、『トリニティ』だけでは解決が厳しい状況であることは目に見えていた。仮に『エデン条約』締結のアイデアがなかったとしても、何かしら『ゲヘナ』の介入を正当化する策は考えていたことだろう。
――だが、無理矢理ながら『エデン条約』締結を成せたのは大きい。我々としても、『エデン条約』を諦めず、締結に協力してくれた『トリニティ』に対して心より感謝申し上げたい」
「"
羽沼議長はそう言って緋色魔副議長、十六夜行政官補佐と共に頭を下げる。
「こちらこそ、『ゲヘナ学園』の皆様に心より感謝申し上げます。――しかし、『エデン条約』締結は成しましたが、やはりあの無理矢理な締結に対して批判の意見が『トリニティ』内では少数ながら出ていまして。"連邦生徒会"への要請はこれからとなりますが――
「ふむ...締結した事実の証明が最優先だったものね。あんな書庫の間に合わせのセットで、間に合わせの根拠で締結。――『ゲヘナ』では兎も角、『トリニティ』では気にする者も出てくるでしょうね。――私は式典の挙行に賛成するわ」
「委員長に確認は取りますが、恐らく賛意を示されるでしょう。...私個人としては、『トリニティ』が抱える問題もありますし、挙行はすぐである必要はないと愚考しますが」
「キキッ、私も構わんぞ。だが...私も、サクヤと同じ懸念を持っている」
ナギサが謝意に続けた提案に対して三人は賛意を示すものの、懸念があると難色を示す。その言わんとする事を察し、私は頷く。
「――君達の言わんとすることは分かる。それも議題に含まれているが...今は各所の報告を済ませよう。"正義実現委員会"の報告に質問、疑義がある者は居るかな?」
私の言葉に対して沈黙が返る。
「では、次の報告に移ろう。――続いては"救護騎士団"、報告を頼むよ」
「――承知致しました。"救護騎士団"、団長『蒼森ミネ』より報告させていただきます。まず、式典開催にあたり観客、警備を担う"正義実現委員会"、"トリニティ自警団"に様々な要因で負傷者が発生する可能性を鑑み『通功の古聖堂』付近にあった"シスターフッド"管理下の建物をお借りし、野戦病院を構築しました。――我々からの要望に快く応え、病院構築に最適な環境をご用意していただいた"シスターフッド"に心より感謝申し上げます」
私の音頭を受けてメグムに変わってミネが席を立って報告を始める。野戦病院構築の経緯についてそう説明し、"シスターフッド"の列席者であるサクラコとサリエルに顔を向けて謝意を示す。
「――『トリニティ』としても史上初の試み。怪我人病人が出る可能性は十二分にあったからね。我々も休憩所や、ライブ中継の放映会場として一部の施設を解放した。その一環で君達騎士団に貸したまでだ」
「――野戦病院としての整備は偏に"救護騎士団"の皆様の弛まぬ努力によるものです。我々としては、少しでも騎士団の皆様が満足に活動できるような場を選んだだけです」
「――その誠意に我々は大いに助けられました。改めて、野戦病院構築にあたっての会場の貸し出しに心より感謝申し上げます。
――では、報告に戻ります。我々騎士団が受け入れた患者の内、九割以上が"正義実現委員会"、"トリニティ自警団"の負傷者でした。残る一割は鎮圧に巻き込まれた一般生徒や、他観客とトラブルを起こし、負傷した学外生徒などです」
サクラコ、サリエルの返事に対して改めて謝意を示したミネは報告に戻る。―――やはり当然と言うべきか、野戦病院には正実、自警団の負傷者が多く担ぎ込まれた様だ。
「受け入れが始まり、多くは軽傷で簡単な治療、処置を施した後に警備に復帰させることができました。――ですが、件の狙撃が発生してから急速に重傷者が増加。自力移動もできない負傷者まで発生し、騎士団保有の救急車両も総動員し、それでも発生した負傷者の回収漏れを起こさないギリギリの状況となりました」
『魔創シンキ』狙撃の影響による状況の悪化についてミネはそう報告し、自分達の無力を悔やむ様に目を伏せて拳を握り締める。
「――『エデン条約編』締結、発効による『ゲヘナ学園』からの増援に含まれていた同校"救急医学部"の増援により、負傷者の回収、治療の効率は向上しました。
...しかし、それでも尚次々運び込まれる負傷者に対して、ある程度負傷の程度に合わせた優先順位を付けて治療を行わざるを得ませんでした。それにより――最低限の応急処置だけで後回しにされる負傷者も少なからず発生してしまいました。偏に、我々騎士団の力不足によるものです。
――それでも我々は諦めず救護を続け、
「ふむ...一つ聞いていいかな?――"救急医学部"の増援を受けて厳しい状況だったと言うが、最終結果はかなり良好であるように聞こえる。もしかして――"救護騎士団"、"救急医学部"以外に
ミネの言葉に違和感を感じて質問を挙げる。―――騎士団の無力を悔やんでいるが、"救急医学部"の増援を得ても厳しい状況は変わらなかった。その結果、治療の後回しによる負傷由来の重篤化が発生しなかった。その言葉から考えれば、"救急医学部"とは別に何らかの増援があったのだろうと推測した。ミネは目を伏せて沈黙し―――
「――やはり、そう簡単には隠せませんか。"救急医学部"に続き、御自身の意思で我々の救援に加わって下された『
「...ほう...」
「...随分と大人物が来ていたのだな」
「...何だと...」
「――キヴォトス中で引く手数多の"医神"が来ていたというの?」
―――観念した様にミネが答えると、室内が俄かに騒めく。
―――『八意エイリン』。『百鬼夜行連合学院』卒業生であり、同自治区内で診療所『永遠亭』を構え、営んでいる薬師兼医師。これだけであれば特に騒めく要素にはならないが―――彼女はキヴォトスでもトップクラスの医学、薬学等医療分野全般に関する知識、技能を持ち、彼女により発見された新たな成分や調合、調剤、治療法、病気の定義は数え切れない。これにより彼女一人で医学や薬学...医療界を大きく進歩させた功績から生徒、大人に関わらず医療従事者からは"
"救護騎士団"、"救急医学部"もその例に漏れず彼女が名誉顧問を務めていて、ミネ達も彼女から様々な事を教わっていた様子を過去に何度か見ている。
「...ミネ団長、何故その報告をすぐに挙げなかったのですか?あの状況下で、かの八意先生程の人物が来られていたとなれば、『トリニティ』としては下手に巻き込む訳にはいかなかったのですよ」
「――先生からは『あくまで個人の意思で手助けしているだけだから。他方面に伝えて混乱をもたらすことは望む事ではない』と、来訪についてはできる限り伏せるようにと要望を受けたのです。事実、鎮圧を確認してすぐに『トリニティ』を離れましたから」
ナギサが半目でミネを見つめながら苦言を零すと、対する彼女は毅然とした態度で反論する。―――八意先生程の人物が来ていて、満足に対応出来なかった事を気にするナギサの気持ちも理解出来るが、仮に彼女の来訪に気付いていたとしてもあの状況ではそもそも対応も厳しかっただろう。八意先生はそれも察して来訪を伏せるようにと頼んだのだろう。
「...分かりました。後日改めて八意先生には救援についてお礼をしなければなりませんね」
「そうだね。私達への配慮で伏せていたが、私達を助けてくれたのは確かだからね。――ミネ、"救護騎士団"から他に報告はあるかな?」
「――鎮圧の際に捕虜とした『アリウス』の方々の内、入院治療が必要な方は"正義実現委員会"監視の下で病室に収容しております。治りが順調であれば四日程で退院可能になると思われます。――報告は以上です」
「報告ありがとう、ミネ。...捕虜、か。メグム、捕虜について報告してくれ」
報告を終えたミネの着席を確認し、再び正実、メグムに報告を促す。―――今回の報告に於いて重要な物だ。
「承知した。――では、再び"正義実現委員会"参謀、『飯綱丸メグム』より報告させてもらう。先述の通り、『ゲヘナ学園』からの増援を得て事態を鎮圧したが...報告にあたり、古聖堂で起きた事態について説明しておく必要がある。ハスミ、頼めるか?」
「お任せを。――副委員長『羽川ハスミ』、古聖堂にて起きた事態について報告させていただきます」
メグムの報告が始まるが、そう宣言してハスミに目を向け、彼女は頷いて席を立つ。
「――件の狙撃による混乱を機としてセイア様、ナギサ様ら要人を古聖堂から避難させた後、『アリウス』の部隊は聖堂内に立て篭もりました。
反撃、鎮圧を企図したものの、強力、的確な迎撃火力を前に頓挫。聖堂を包囲して『アリウス』側の反撃、攻勢を阻止することを目指しましたが...当初は『ゲヘナ』側部隊と分かれて包囲を敷かざるを得なかった為一部が薄い不完全な包囲となり、いつ突破されるか不安な状況でした」
「――加えて、先述の自治区内各所での『アリウス』の襲撃激化により増援も出せない状況でもあった。しかし、『エデン条約』締結により状況は大きく変わった」
「えぇ。――条約発効により、『ゲヘナ』との協働に正当性が付与されましたから。『ゲヘナ』側部隊と指揮所を統一。包囲の薄い箇所にも部隊を送って包囲を固める事に成功しました」
ハスミとメグムは報告を進めていく。―――『ゲヘナ』側は当初、羽沼議長らの警備部隊、儀仗隊だけであったが故に戦力がかなり少なかった事による厳しい初動だったが、大書庫での条約締結が間に合って良かったと実感する。
「――条約締結の為に会館に向かっていた我が『トリニティ』、および『ゲヘナ』、『シャーレ』、"連邦生徒会"要人の皆様とその直衛戦力の合流もあり、反撃も現実的になってきた所で――[Crusader Mk.1]が包囲網に突入、強行突破して古聖堂正面大扉を突き破りました」
「...あれは本当にとんでもなかったな、アレは。正面から轢かれたツルギ委員長がすぐに回復して平然と反撃に加わった姿にも驚かされたが」
「...あの程度なら怪我の内には入らない。私を真正面から見て止まらなかったことには自分でも驚いたが。――メグム。[
眉を顰めるハスミの報告に対して羽沼議長が遠い目でそう言葉を零すと、ツルギは仏頂面でそう答え、メグムにそう促す。―――委員会、ひいては『トリニティ』トップクラスの戦闘能力。銃弾が掠った程度ならすぐに回復する異常な治癒力。相対する者を震え上がらせる顔と所作。"トリニティの歩く戦略兵器"たる所以だが、あの[Crusader Mk.1]は臆する事なくツルギを轢いて古聖堂に突入した。
そんな[
「あぁ、そうだな。――[
「...は、え...?ひ、ヒフミさんが...」
「...ふむ..."補習授業部"だったか。やり方は兎も角、そのような行動を取った理由は一応納得はできるね」
メグムの報告を受けてナギサが愕然とした表情を浮かべる一方、私は納得する。―――"補習授業部"には『白洲アズサ』が所属していて、既に彼女の素性については把握している。そんな彼女が"補習授業部"の面々と共に古聖堂に向かった。やはり『魔創シンキ』は『アリウス』にとってかなり大きな存在である様だ。
―――閑話休題。
「五名については事態鎮圧後、我々支援の為にここに留まっている"先生"が事情聴取と説教の為に五名を"補習授業部"が合宿所として利用していた教室棟に呼び寄せている。...『シャーレ』についても報告すべきことがあるが、それはハスミの報告が終わってからだ」
メグムは"補習授業部"の五名についての動向を報告し、ハスミに報告の続きを促す。
「――では、報告に戻ります。[Crusader Mk.1]の突入を機に包囲から反撃に移行。突破された大扉からの突入を企図しましたが、擱座し乗り捨てられた[Crusader Mk.1]の除去に苦慮した結果突入が遅れ――その間に『アリウス』は閃光弾を大量にばら蒔いて炸裂させ、あの開口部から逃走しました。
我々も開口部に侵入しての追撃を図りましたが、開口部の先にあった地下構造――所謂『カタコンベ』出入口は
――以上が『通功の古聖堂』での事態鎮圧の顛末となります。立て篭もっていた『アリウス』の部隊、その中に居た首魁をも取り逃したのは、突然の事態に少なからず混乱し、状況を利用出来なかった我々の不手際です。――申し訳ございませんでした」
ハスミは報告を終え、委員会のミスだと私達に向いて頭を深々と下げる。
「謝る必要はない。君達はできる限りの努力をしたのだから。あの事態は誰も困惑、混乱するものさ。――メグム。古聖堂で起きた事態により、自治区内での状況はどうなったか報告できるかい?」
「承知した。――さて、古聖堂の部隊が撤退したことが切っ掛けになったのか自治区内各所で襲撃していた『アリウス』の部隊は離脱、撤退へと動きを変えた。
我が委員会、自警団、『ゲヘナ』の部隊は即座に追撃へと移行したが...ハスミの報告と同様、『アリウス』の部隊は逃げ込んだ『カタコンベ』の出入口を爆破して我々の行く手を阻んだ。恐らく、この出入口爆破は『アリウス』側の作戦、式典への介入が失敗した場合のそれだったと推測される」
メグムが古聖堂での事態鎮圧後の自治区内の状況変化について報告を始める。自身が利用した通路や移動手段を塞いだり、破壊して敵の追撃を阻むのはよくある戦術だ。この点について疑問は無い。
「――だが、綿密に計画を練ったとしても、実際に行動すると思っていたより動けないこともままること。部隊間の連携にミスでもあったのか、逃げ込む前に爆破されて逃げる先を失って我々に捕縛された『アリウス』の人間が少数ながら居る。
"ティーパーティー"の許可を得て今朝から事情聴取を行っているが、軒並み黙秘を貫いていて情報は得られていない」
「成程...
「――『アリウス』の捕虜収容の際に調査を行いましたが、地下構造が爆破され崩落した箇所を発見しました。この状況から、恐らく――自治区内にある『カタコンベ』の出入口は軒並み爆破されて塞がれている...と、見るべきだと愚考します」
メグムの報告に対して質問を挙げると、ハスミがそう答える。捕虜は当然ながら情報を吐かず、今の所唯一の『アリウス』と繋がる場所である『カタコンベ』の出入口も塞がれた。後者についてはもう少し調査する必要があるが、『トリニティ』としては『アリウス』への対応が厳しい状況にある。この状況を変えるには―――
「――捕虜については"正義実現委員会"に任せる。厳しいようであれば我が"ティーパーティー"から
報告に対して今後の指示を出し、メグムに目を向ける―――
~元"補習授業部"合宿所 教室~
side-"先生"
「"――まさか、君の
「――黙っていてごめんなさい、"先生"。今まで素性を深く尋ねられなかったこともあったけど...明かすことで
「――私も"先生"に謝らないとな。...『シャーレ』の"当番"で
―――"補習授業部"合宿所を今度は『シャーレ』の滞在場所として借りた、その教室。私の向かい側に座る
「"私に謝る必要はないよ、
「居ない筈よ。『ミレニアム』自治区に隣接した学校の自治区出身
「"ふむ...そもそも――『アリウス』出身であることを伏せてどうやって『ミレニアム』に入れたんだい?"」
「――大丈夫ですよ、
「...本当に、どうか他言無用でお願いするわ。...
"母さん"から餞別で持たされたお金は古い物だったから支払いに使えなかったけど...古銭としての価値を見出されて質入れして得た資金がそこそこの額になった。それを使って買えた学籍が先述の、今の私の出身自治区のものなの」
「...そ、そんな事情が...」
「お、思っていたよりとんでもない理由じゃないの...」
「――行動については紛れもなく違法なものですが、『アリウス』の状況を考えればそうするしかなかったとも考えられますね。...えぇ、我々の心の内に留めておきましょう」
―――キクリが言った通り、私が見聞きしてきた『アリウス』への反応を考えれば、違法な手段を使ってでも別の学籍を得た方が『アリウス』には迷惑をかけないだろう。
「"――
「..."母さん"。『アリウス』の校長である『魔創シンキ』。あの人のおかげね。"母さん"は――」
「――失礼します。"アリウススクワッド"に対する事情聴取が終わりました」
「"――お疲れ様、アヤ、"RABBIT小隊"の皆"」
―――教室の扉が開き、ミヤコ達"RABBIT小隊"とアヤが入ってきて、その後に"アリウススクワッド"――『ティーパーティー会館』で交戦していた中に混じっていた精鋭四人が続く。
―――『"...トリニティに対してではなく、私達シャーレに対して降伏する、か..."』
―――『どうしますか?"先生"が望むのであればトリニティへ引渡しますが』
―――『"...いや、ここはシャーレとしてその四人を受け入れよう。勿論、色々聞かせてはもらうけどね"』
―――条約発効により『ゲヘナ』の増援を得られた事で部隊運用に余裕が生まれ、襲撃から離脱、逃走に移った『アリウス』を追跡する遊撃部隊として"RABBIT小隊"と"便利屋68"を自治区内で走り回らせ、鎮圧が進む中で舞い込んだ"RABBIT小隊"からの報告。
何故『シャーレ』に対して降伏したのか。それについて把握する為にも事情聴取を行っていた。今はその報告を聞こう。
「――"アリウススクワッド"の皆さんはそちらに。同郷の人間が居る方がまだ心が休まるでしょう」
「...配慮に感謝する」
「――聴取お疲れ様、皆」
「――サオリ、皆。大丈夫だったか?」
「うん。普通に色々質問されただけだったよ」
「――では、"RABBIT1"より聴取結果について報告されていただきます」
アヤに促されて"アリウススクワッド"の四人が
「――"先生"からの指示により、『アリウス』部隊の索敵、追撃の為の遊撃部隊として動いていた我々"RABBIT小隊"は、裏路地の奥にあった小さな広場付近で"アリウススクワッド"を名乗る『アリウス』生、『錠前サオリ』、『秤アツコ』、『戒野ミサキ』、『槌永ヒヨリ』の四名と接触。『シャーレに対して降伏する』との意向を受け入れ、四名を逮捕しました」
ミヤコは"アリウススクワッド"の四人を一瞥して報告を続ける。
「まず、"アリウススクワッド"が『シャーレ』に降伏した理由ですが――『アリウス』首魁、『魔創シンキ』の指示によるもの、とのことでした」
「――こちらが証拠です」
アヤが私に一枚の紙を差し出す。そこには―――
『カタコンベ』への帰還が困難である場合、"連邦捜査部"『シャーレ』麾下の部隊、人間を見付けて当該組織に対して降伏すること。
「"...成程。――ミカが『アリウス』と繋がっていたなら、彼女を介して『シャーレ』について知っていてもおかしくないか。だけど、何故態々『シャーレ』に対してと限定したのか..."」
手書きの命令が記されていて、式典への介入が失敗した場合の策を講じていたと分かる。だけど、何故『シャーレ』に対してと指定しているのか。
「――古聖堂で発信された声明。あの内容が事実であれば、『トリニティ』の人間に捕まった場合
私の疑問に対してアヤが意見を挙げる。―――『トリニティ』成立時、独立を認められた筈の『アリウス』が攻撃され、長く時が経った今も『トリニティ』内の何者か、或いは勢力に攻撃されている。『魔創シンキ』はそんな『トリニティ』が秘める悪意の存在を懸念して『シャーレ』に目を付けた。推測の域を出ないけど、理由としては納得出来る。
「――報告を続けます。『アリウス』が式典に奇襲を仕掛け、介入を図った目的ですが...『アリウス』が『トリニティ』から受けた仕打ちについて、式典を利用してキヴォトス中に拡散させる。その圧力を以て『トリニティ』が隠してきた歴史、真実について向き合わせ――『アリウス』への攻撃についての首謀者特定、攻撃や陰謀の阻止、独立の再承認を実現する為に話し合いを図る。...という説明を『魔創シンキ』から受けたとのことでした。
他には以前、クーデターの際に得られた情報を裏付けるものだけでしたので口頭では省略します。詳細はこちらにまとめてあります。――報告は以上です」
「...奇襲を仕掛けた上で、真偽はさておき
「"母さん"は争いを好まない人だからな。避けられないなら戦うこともあるが...基本的には話し合いを願い、その為に努力するような人なんだ」
報告を終えたミヤコからバインダーを受け取る横で、『アリウス』が式典を襲った目的についての報告を受け、ハナコが何故か私をチラリと見ながらそんな分析を挙げ、アズサが『魔創シンキ』についてそう補足する。
「...ですが、その様な人物の下で育ったと言うには、戦闘能力がかなり高いように見受けられます。『トリニティ』では勿論、銃社会であるキヴォトスでは教養として射撃訓練や基本的な戦術を学びますが――『アリウス』のそれはまるで違う。
ミカ様のクーデターの際も、式典の時も...『トリニティ』の教練とも異なる、高度に訓練された動き...それは、『魔創シンキ』校長の手によるものなのですか?」
キクリが目を細めて"アリウススクワッド"の四人を見据える。争いを嫌い、話し合いや説得をまず目指す様な人物が、自衛の為と理由付けするには過剰な程の高度な軍事訓練を行う。確かに矛盾したものだ。矛盾を解消するとすれば―――『魔創シンキ』以外に
「...姫、どうする?」
「――話していいんじゃないかな。『シャーレ』の人達なら、『アリウス』について話しても信じてくれそうだから。アズサ、
「あぁ。大丈夫だ」
「えぇ、私も大丈夫よ」
キクリの問に対して"アリウススクワッド"の四人はお互いに顔を見合わせ、アズサと
「――キクリちゃん、だったね?確かに私達の戦闘技能は"お母さん"、『魔創シンキ』校長の手によるものじゃない。勿論、"お母さん"も自衛の為に戦う術を教えてくれたけど...実は――」
ということで次回は『アリウス』の過去についてその一端が明かされます。