Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『カタコンベ』~
side-ミヤコ
「「――クリア!」」
―――『トリニティ』内では殆ど見られない、かなり古い様式の回廊らしき空間に出て、クリアリングを行う。距離も長く、高さもあって、上方には太く長い梁もあって狙撃、奇襲が出来そうなポイントもある。
「上から狙撃できそうな梁が並んでいるな。...地下空間の筈なのに、月明かりみたいな光が差し込んでいるのも不気味だ」
「決して明るいとは言えませんが、暗所ばかりでもないのはこちらとしてはありがたいですね」
サキの呟きにそう返し、振り向いてライトを明滅させて合図を送る。数秒後、私達が出て来た石造のアーチの向こうの暗闇からライトで了解の合図が返って来る。
「――ここも『トリニティ』では殆ど見られない様式ね。イク、
「承知致しました」
―――露払いとしてテンシ総長ら"ソーサーナイツ"が姿を現し、イク副長達が回廊の方々に散る。
「これはまた不思議な空間っすねぇ。ハスミ先輩、連れて来て大丈夫っすよー」
続けて"正義実現委員会"のイチカ先輩と、
「"...回廊か。本当に地下空間とは思えない構造だ"」
「――ことを解決したら、できる限り調べなければね。何も知らない生徒が迷い込んでは危険であることに変わりはない」
「本当に、古文書の通りに...」
「...こんな所があったなんてな」
「えぇ。私達でも、『カタコンベ』の全ては把握できていないことがよく分かるわね」
―――"先生"や百合園"ホストリーダー"、桐藤
―――『アリウス』調査実施についての『トリニティ』内主要組織への共有、調査人員の選定と、物資や確認で二日を掛け、今日を迎えている。
『トリニティ』からは"ティーパーティー"と"ソーサーナイツ"、"正義実現委員会"、"救護騎士団"、"シスターフッド"からそれぞれ人員が送られていて、百合園"ホストリーダー"を指揮官として調査部隊が組織されている。
そして、調査部隊の支援として『シャーレ』からは私達"RABBIT小隊"とアヤ先輩。式典襲撃の際にヒフミ先輩に呼び寄せられた『アビドス』"廃校対策委員会"の皆さんと、そのヒフミ先輩を含む"補習授業部"。
最後に、調査の案内役である"アリウススクワッド"と
―――以上が『アリウス』調査部隊の陣容だ。
「――"ユスティナ聖徒会"の
テンシ総長が戻って来て、スマホの画面を"先生"達に見せる。―――古文書に記された、『アリウス』へ辿り着ける道を示すという"ユスティナ聖徒会"の印。
古文書に記載されていた印と、"シスターフッド"が保有する同組織に関する記録内の内容と照合して聖徒会のそれだと確認は取れている。
その『トリニティ』校章を彷彿とさせる十字形の印を、古文書に従って入った最初の『カタコンベ』の出入口で見付けている。それと同じものがこの空間にも存在している様だ。
「ふむ...だが、まだ進入したばかりで、これだけでは安定したルートとは言えない。『カタコンベ』特有の不定形な構造変化に備えてマーキングは続けよう」
テンシ総長の報告を受けた百合園"ホストリーダー"はそう方針を挙げる。
その背後では、『シャーレ』指揮下の"廃校対策委員会"の皆さんがケミカルライトを柱や壁に括り付けたり、目立つ所にばら蒔いたりしている。
「――空間の汚染度合いは許容範囲内です。埃はありますし、気流もあまりありませんが...およそ地下の閉鎖空間とは思えない程には
離れた所でメディスンさんと共に検査を行っていたミネ団長が戻って来てそう報告を挙げる。
―――今回の『アリウス』調査にあたり、医療担当及び、ルート構築の際の拠点構築。そして、『アリウス』の医療状態を
「成程...拠点を作るには大きな問題はない、ということだね。――しかし、この回廊は中々広いが、進入したばかりで深度は浅いし、こうも天井が高いと上方から侵入されて襲撃される可能性がある。拠点構築には向かないね」
「私もほぼ同じ意見です。ですが、ルート構築の中で拠点構築に向く空間に出会えない可能性もあるかと」
「あぁ。その時はここを候補の一つに入れよう。――さて、マーキングと確認が終わったら進もう。調査はまだ始まったばかりだからね」
ミネ団長の意見に百合園"ホストリーダー"は頷き、肩に提げたバックから『古書館』でコピー――機械では無く、
「...セイアさん、あまり羽目を外さないで下さいね。
「分かっているとも。『アリウス』と我が『トリニティ』の
...とはいえ、不定形な構造変化によって長らく調査を阻まれてきた『カタコンベ』に、より深く進入できるまたとない機会だ。先述の
「...もう、セイアさんったら...」
セイアさんを半目で見た桐藤
「...百合園"ホストリーダー"、何だか楽しそうですね」
「意外でしょうけど――あれが
「"本当はそんな性格なんだね、セイアは"」
私の呟きを聞いたテンシ総長が目を細めて百合園"ホストリーダー"についてそう説明すると、"先生"も少し驚いた様に彼女を見る。
――物静かで達観した様な振る舞いは『トリニティ』特有の校風に適応したもので、本来の性格は全く違う様だ。
「"――とはいえ、『カタコンベ』なんて未踏の空間では何が起こるか分からない。現役の
「私達に任せて。――"ティーパーティー"の重鎮を守る為に、"ソーサーナイツ"は居るのだから」
「"頼もしいね"」
テンシ総長の言葉に"先生"は微笑む。
「――"先生"、セイア。マーキングは終わったぞ。このまま進むのか?」
「そのつもりだ。――道はまだ長い。調査や警戒も都度だから尚更ね」
「"古文書が全て正しいとは限らないからね。警戒しながら進もう"」
「了解しました。――引き続き、私達が先頭でクリアリングを行います」
モコウ先輩達がマーキングを終え、回廊の奥へと歩き出す―――
~『カタコンベ』 何処かの礼拝堂~
side-ミカ
「...!」
―――『アリウス』
朽ちて殆どガラスが残っていないステンドグラスから、『カタコンベ』の地下空間特有の、月明かりのような未知の光が礼拝堂内の、罅や欠けが目立つ石造のベンチや私自身を照らしている。
その最奥、一際大きなステンドグラス――他と同様に大半が割れていてどんな絵が描かれていたのかも分からない――の下に、
カツン...
「――来たか。君なら来ると思っていたよ、ミカ」
―――空間に足を踏み入れ、ヒールが石畳を打つ音が響く。その音で後ろ姿―――サリエルの三対の翼が少し揺れ、こちらに振り向くと
「...鍵もそうだけど、
足を止め、サリエルを見つめながら尋ねる。
―――二日前の朝、朝食の中に仕込まれていたメモに従うか、大人しく収監されているか。二日悩んだ末、セイアちゃん達が『アリウス』調査部隊を準備している喧騒に乗じて私は
更にルート不思議だったのは、
おかげで私は脱獄に成功し、メモに従い、その行先に隠されていたメモと、
―――まるで、
「ミカ。君は偶然から『アリウス』と出逢い、かの者達と関わり、その果てに『アリウス』を助けようとクーデターを起こした。
失敗したとはいえ、
「...嘘じゃないんだろうね。でも...
―――クラスは違うけど同じ三年生であり、入学当初からサクラコちゃん共々構内では
それから、サクラコちゃんが
―――でも私は、
いつ見ても、聞いても、
サクラコちゃんが
「...やはり、君は
――その言い草を聞くに、
サリエルは心底感心した様に目を細め、そう尋ねる。
「状況を考えれば、明らかに『アリウス』絡みでしょ。私じゃなくても察せるよ」
「あぁ、そうだろうね。――こうして来たということは、
「まぁね。じゃなきゃ脱獄した意味がないし」
サリエルの問に頷くと、彼女は目を伏せる。
「分かった。では、君に明かすとしよう――」
~『カタコンベ』~
sideーサオリ
「...なぁ、サオリ。ちょっといいか?」
「...なんだ」
―――先頭で警戒しながら進む"RABBIT小隊"に続いて歩いていると、いつの間にか隣に来ていた『アビドス』の藤原モコウが声を掛けてくる。
数日前に合宿所で出会ったばかりだと言うのに少し馴れ馴れしい雰囲気に少しムッとするが、表情には出さずに彼女に顔を向ける。
「――お前達『アリウス』の校長、魔創シンキは、サオリ達に対してどんな歴史を教えていたんだ?...少し、気になることがあってな。もう一度、確認しておきたい」
「...そのことか。――大体は式典襲撃の時の声明の通りだ。本来、『アリウス』の独立は認められていたのに、『トリニティ』が成立して間もない時に、その『トリニティ』から攻撃された。当時の『アリウス』も必死に防衛して、自治区に入られるギリギリで
それから数百年経った今は、お前達に話した通りだ」
「なるほどな。...やっぱり、どうにも腑に落ちないな」
「モコウ、どうしたの?」
私と藤原モコウのやり取りを聞き付けたのか、同じ『アビドス』の梔子ユメも近付いてくる。
「『アリウス』は『トリニティ』に合流せず、独立する。それは当時の『トリニティ』からも認められたことだった。学校が認めたってことは、その時の生徒会長――"ホストリーダー"が認めたってことだ」
「...何が言いたいんだ」
「何で『トリニティ』が
理由として自然なのは、例えば――『トリニティ』に対して『アリウス』が攻撃したから、その反撃で...ということになるが、これなら態々隠す理由にはならないだろ。形としては『トリニティ』の正当防衛になるからな」
「...そういえば、そうだな。私達も、"母さん"から聞いたのは"独立を認められたから、その準備を進めていたらいきなり攻撃された"ということだけだ。...そもそも何故、『トリニティ』は『アリウス』を攻撃してきたんだろうか」
藤原モコウの言葉に納得し、考え込む。―――"母さん"も
攻撃するなら、そうする理由があった筈だ。しかし、『トリニティ』側では『アリウス』のアの字すら隠す程に私達について徹底的に、
「――隠し事とは、大体は
―――私達の下に、『シャーレ』の射命丸アヤがそう言って近付いてくる。
「望んだ結果ではない。周りに知られたら不都合。名誉、地位、組織、社会...理由は如何様にでも飾れますが、根本的には
「それが『トリニティ』が『アリウス』を
藤原モコウが首を傾げて射命丸アヤを見ると、彼女は後方の歌住サクラコと久栗キクリ――"シスターフッド"の人間二人にチラリと目を向ける。
「そもそもですが、『トリニティ』はミッションスクール。宗教が学業、文化、生活に密接に関わっています。そして――『トリニティ』で信仰されている宗教には
数日前、『古書館』なる場所で見付かった『アリウス』に関する古文書の中にあった情報だ。その時の『アリウス』にも、射命丸アヤが言った通り宗教的対立で他校を攻撃していた時期があったと。
「
ですが――宗教や、それに類する思想というものは
「アヤちゃん、それってつまり...」
梔子ユメがまさかと言わんばかりに驚いた表情を浮かべる。
「...ユメさんでも気付けますか。驚くかもしれませんが――歴史上、特に科学より信仰が優先された時代は、
会議なり、強権なりで統一しようとも
「...おいアヤ、それはつまり――」
~『カタコンベ』 何処かの礼拝堂~
sideーサリエル
「――我が『トリニティ』は嘗て千々に分かれていた。現自治区内で広く伝播した啓示は、各々が信じやすい、都合がいい形に解釈され、解釈は教義となって派閥を成した。
各々が自らが正しいと謳い、他者を、他派閥を
―――聖園ミカは困惑しながらも、静かに私の話を聞いている。
「しかし――何百年、何世代に渡る対立を永遠に続けられる程人間は強くはない。そうして厭戦感情や反発が各校で燻り始めた時――統合を提唱した者が居た」
―――『桐藤イスラ』。『フィリウス神学校』の生徒会長にして、『トリニティ』初代"ホストリーダー"。彼女については、『トリニティ』校史の授業で必ず触れる存在。
「イスラが提唱し、銃火を交えないお茶会を通して分かり合える所を共有し合い、当時、『フィリウス』と共に特に力があった『聖パテル学院』、『サンクトゥス神学校』の時の生徒会長『聖園リエル』、『百合園ライア』がイスラと親交を深めたことでとうごの機運は更に広まった――と、学んでいるね?」
私の確認に聖園ミカは頷く。――聖園リエルは特に、目の前の聖園ミカの先祖であり、学校だけではなく
「――しかし、この初代"ホストリーダー"の偉業は
「...シンキ先生のこと?」
「ご明察だ。――当時、千々に分かれて互いに争いあっていた各校の中でも、特に攻撃的であった『アリウス分校』。しかし、魔創シンキの校長就任を皮切りにその攻撃性は
生憎、『アリウス』側の史料がなかったから、彼女が『アリウス』で何をしたかは分からなかったが...その変化は当然ながら各校から疑念の目で見られたのは確かだ。だが、魔創シンキの献身的な、しかし
「...それは、シンキ先生も言ってたね。そんなに詳しくなかったけど、桐藤イスラを手伝って、『トリニティ』成立を陰で支えてた、って」
私の言葉に聖園ミカはそう返す。
「さて、表の桐藤イスラ、裏の魔創シンキの活躍により、公会議で教義や解釈の統一が成され、それを土台に嘗て争いあっていた各校が手を取り合い、遂に『トリニティ総合学園』が誕生した。
これも、学内や
「...『アリウス』の存在。シンキ先生の献身が全く記録されていないこと。――貴女は、それを知っているんだよね?...『アリウス』に何があったの?」
聖園ミカはそう答え、瞳を細めて私を見据える。
「――教義、解釈の統一により『トリニティ』は生まれた。現構成各校の
――だが、果たしてこの世に
聖園ミカ。君とて、締結された『エデン条約』には内心反対だった筈だ。それがあのクーデターの
「...何が言いたいのさ。貴女も私を糾弾したいの?」
私の言葉に対し、聖園ミカは不機嫌そうに眉を顰める。
「そんなことは毛頭ない。――君が罪を認め、主が赦されても、
そこに政争や派閥争いで理不尽に罪を捏造し糾弾することも、然るべき審理を省いての処罰などあってはならない。...尤も、君が犯した罪については
「...本当、変な人だねサリエル。後でちゃんと、その提案とやらも聞かせてよ」
聖園ミカは私の言葉に表情を変えずに釘を刺す。
「あぁ、後で話すとも。――さて、先程言った通り、万人が皆等しく心から受け入れられることなど、ありはしない。賛成した百人の内、一人や二人は裏で不満や反発を抱く者がどうしても出るものだ。
この不満や反発を拾い、妥協点を見出すことも指導者、為政者に求められる資質だと私は思うが――しかし宗教、信仰というものは、本質的に
――そうした不満は、成立したばかりの『トリニティ』の水面下で確かに燻っていた。そうなるのも当然だ。長らくお互いに教義や解釈を押し付け、容れなければ異端呼ばわりで攻撃して来た間柄だったのだから。そんな連中が、『争うのはやめて、お互いに手を取り合って一つに纏まろう』と言われて素直に従うだろうか?」
「...まさか...」
一度言葉を切り、聖園ミカを見つめる。私が言わんとすることを察したのか、戸惑ったような、信じられないと言いたげに瞳が揺れる。
「気付いたようだね。――成立したばかりの『トリニティ』の水面下で燻る不満は徐々に大きくなっていった。だが、そんな時だった――」
side-ミカ
―――サリエルの顔に笑み、愚行を嘲るような笑いが浮かぶ。
「――『アリウス』が『トリニティ』に加わらず、独立することは公会議でも承認されていた。だが...『トリニティ』が"連邦生徒会"立会いの下で成立を承認された一方で、『アリウス』は一学校としての独立の再承認を当時の"連邦生徒会"に
それは、不満を燻らせていた者達からすれば、『トリニティ』内に残る異分子に――体よく石を投げやすい存在に見えた」
「...おかしいでしょ。会議で承認したのに、そんな理由で...」
自分の声が震える。―――『アリウス』が攻撃された理由があまりにも酷過ぎて言葉が出ない。
「更に酷いのは、『アリウス』を見た者達は小賢しく、桐藤イスラが立ち上げた"ティーパーティー"にバレないよう、水面下で『アリウス』に対する攻撃の機運を広めていったのだ。――"『トリニティ』に
明かされた動機に呆然としていると、サリエルは更に笑みを深める。
「――"ティーパーティー"が気付いた時には、既に『トリニティ』中が声高に『アリウス』への攻撃――
時の"ホストリーダー"桐藤イスラが、この事態を目の当たりにして内心どう思っていたのかは分からない。分かっているのは――『アリウス』に対する
「っ...嘘じゃんね!ナギちゃんのご先祖様が、そんな判断を下すなんて――」
「ただ一人の意思と、多数派の意思意向のどちらが優位だと思う?桐藤イスラでなくとも、ここで反対し、宥めてた所で反発され、最悪――"ホストリーダー"が
私の反論にサリエルは笑みを崩さずそう返す。
「"ホストリーダー"の承認を得た『トリニティ』は、以前までの争い合っていた間柄とは思えないように団結して準備を進め、手始めに――『トリニティ』への編入予定で先んじて来ていた、元『アリウス』の生徒達を
サリエルが淡々と告げる経緯に言葉が出ない。
「記録によれば、特に"パテル分派"所属生徒の活躍は凄まじかったようだ。『トリニティ』成立以前から特段過激で、当時『ゲヘナ』とも度々戦端を開いてた武闘派の武力は、聖戦でも遺憾なく発揮された。
『カタコンベ』の不定形な構造変化を大兵力で踏破して突き進み、必死に防衛し、不利を悟って退こうとして逃げ遅れた『アリウス』の生徒を捕らえて
「...え?」
まさかの言葉に呆ける。―――"ユスティナ聖徒会"。『トリニティ』成立前から中立的に振る舞い、信仰していた原点に近い教義や戒律に反する者を過激に弾圧していた。そして、『トリニティ』成立からすぐに、"シスターフッド"として再編された組織でもあった筈だ。
「まだ"シスターフッド"として再編される前の"ユスティナ聖徒会"も、『トリニティ』成立を承認し、宗教面で『トリニティ』を支えると宣言していた。
だからこそ、聖戦を行う者達は"ユスティナ聖徒会"の行動をまるで予測できなかった。尤も...聖戦を決定した時に聖徒会は
サリエルは言葉を切って呆れたように息を吐く。
「兎に角、『ユスティナ』の翻意で『トリニティ』の攻勢は一気に崩された。元々数に任せて突き進んでいただけの軍勢だ。そして、聖徒会は『カタコンベ』について熟知していた。逃げた先で聖徒会のシスター達に攻撃され、攻撃を逃れても不定形な構造変化に揉まれて行方知れずになった者も多く居た。
最早『アリウス』を攻撃できない。そう判断した『トリニティ』の軍勢は撤退を始めた。『トリニティ』成立の水面下で燻っていた不満や反発の解消の為に行われた理不尽な攻撃は、こうして失敗に終わった」
サリエルは目を伏せる。
「――だが、話はこれで終わらない。『アリウス』への聖戦が失敗に終わった。これを如何に処理するか。その結果は、今を生きる我々も知っている」
「...その処理を、
サリエルの言葉に対してそう尋ねる。―――ナギちゃんの性格や振る舞いが、
そんな人物が、『アリウス』への攻撃が失敗した事を隠すとは思えない。サリエルは目を僅かに開いて笑みを浮かべる。
「――学校や
「...!」
―――『初代"ホストリーダー"桐藤イスラは、トリニティ成立後間もなく体調を崩し始め、後事を二代目"ホストリーダー"となる百合園ライアに託して引退。卒業してすぐに亡くなった』
その言葉でハッと思い出す。―――
「...気付いたようだね。桐藤イスラが期間を全うできなかった。これがある意味悲劇となってしまった。
後を継いだ二代目、百合園ライアは政治力はあった。しかし、自ら公務を行えるだけの体力がなかった。その為、様々な派閥から政治が出来る者を集めて運営を図った。それで"ティーパーティー"は回ったが――その裏で進む
"ホストリーダー"が表に立てないことを利用し、『アリウス』への聖戦の失敗を、百合園ライア、"ティーパーティー"に対しては『カタコンベを踏破出来ず、攻勢が頓挫して失敗』として報告した。百合園ライアはその身体故に『トリニティ』で留守を守っていて実態を知らなかったことも大きい。こうして裏で、『アリウス』に関わる記録を徹底的に隠匿、破棄された。この作業を行っていたのが――」
「――今の"シスターフッド"を生み出した者達。『トリニティ』側に残った"ユスティナ聖徒会"の人間だ。その中には、我が天城家の先祖も居た。再編の名を借りて、
「...そんな...」
―――"シスターフッド"としての再編の実態を知って愕然とする。別に信心深い訳じゃないけど、政治的中立を謳う組織が、嘗ては政治的活動に大きく関わっていたなんて知ってしまえば驚きもする。
「まだ驚くべきことはあるぞ。――記録の抹消を行い、後世の詮索を断とうとしたが、それでも安心できない者達が居た。その思いを抱く者達が集まり、"トリニティ福音派"を秘密裏に設立した。そして、
「
サリエルはそう言うと目を伏せて俯き、やがて肩が小刻みに震え始める。そして―――
―――サリエルらしくない笑い声が礼拝堂内に響く。
「何とも滑稽な話だろう!かつて好きなように石を投げていた感覚が抜けきらず、体よく石を投げられる相手を見付けて聖戦などと嘯き、その果てに予想外の裏切りで崩されて結果は失敗だ!
その失敗を伏せるだけではなく、子々孫々にまでその失敗の尻拭いをさせようと宣う!それが『トリニティ』の名誉の為だと!笑わせてくれる!」
「...なんで笑うのさ。その密命にはサリエルも従ってるんでしょ」
私の言葉に対し、笑い声を治めたサリエルが私に向き直る。
「あぁ、そうだとも。――我が天城家は代々"トリニティ福音派"の
「...目的?」
サリエルは目を伏せる。
「――『トリニティ』が秘して来た罪を贖うため。『アリウス』との遺恨を断つため。その為に、私はここまでことを進めて来た。君を呼び寄せ、真実を明かしたのは、
ということで、真実の一部開示です。トリニティ統一の影にはこのような事実があったんですねぇ。