Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『カイザーPMC』 作戦会議室~
side-"先生"
「――皆集まったな。では、これより
私達と『カイザーPMC』の各部隊の隊長達が一堂に会する会議室の真ん中に鎮座するテーブルの上座に座るトオルの音頭で会議が始まる。
―――"便利屋68"と傭兵達の襲撃を凌いでから三日経ち、その後始末も終わって少し落ち着いた頃。トオルの呼び掛けで私はホシノとアヤネ、ミヤコを連れて『カイザーPMC』を訪ねている。トオルの音頭の通り、
「――まず、"先生"の為に今回の作戦目標である幹線道路について説明しておく」
トオルがテーブルのコンソールを操作すると、テーブルのディスプレイに大きな道路とその周辺の地図が浮かび上がる。幹線道路であろうその道路は、『アビドス』とその隣の他校自治区の境界上に跨っている。
「この辺りは『アビドス』自治区境界近傍で、『アビドス』外へと陸路で繋がっている幹線道路を中心とした物流拠点となっている。自治区の大半が砂漠に埋もれてしまった今、この幹線道路が唯一マトモな陸路の物流網を構成して
またコンソールを動かすと、道路と周りの倉庫や工場が砂に覆われていく。
「――だが、
「"空輸じゃ一度に運べる量に限界があるし、陸路が寸断されて孤立しちゃったら大変だね"」
「そうだ。――だから、今回の作戦には是非とも"対策委員会"と『シャーレ』にも協力してもらいたい。お前達の実力はよく分かっているからこそ、それに頼りたい」
「トオルさんにはマミゾウさん共々お世話になってるからね~。その恩を返せるいい機会だし、喜んで手伝わせてもらうよ。アヤネちゃんも、ミヤコちゃんも大丈夫だね?」
ホシノの言葉に二人は頷く。
「協力に感謝する。...さて、長きに渡って『アビドス』の脅威で在り続けているこの
「"教授...?"」
「『岡崎ユメミ』さんのことですね。現役学生でありながら、『ミレニアム』最高学位である"全知"取得者としての頭脳を見込まれ、前"連邦生徒会長"からの要請で教職に就いた...と聞いています」
「生徒でありながらも教師...うへぇ、すごい娘なんだねぇ」
「"へぇ...機会があったら会ってみたいね"」
ミヤコの説明にホシノと揃って驚く。『ミレニアム』は技術者や研究者を志す生徒が集う学校らしいけど、かなりの天才をも擁しているとは凄い学校だ。
「...しかし、『カイザーPMC』と『ミレニアム』が協力関係にあったとは初耳ですね」
「
――さて、長らく
――名称は『
――まぁ、要するにAIで自律稼働する古代兵器の類だな」
トオルが説明しながらコンソールを操作し、『アビドス』を訪ねた初日、アヤネから説明を受けた際に見た写真に写っていたものと同じ姿―――『ビナー』の全体像のホログラムがテーブルのディスプレイに浮かび上がる。
「"『ビナー』..."」
「古代兵器...うへぇ、すごいものなんだね~」
「――だが、残念なことに名前以外に新たな情報は殆ど得られなかった。武装の名前も判明したが、性能はこちらで得ている情報以上の追加情報は特に無かった。結局、現状でもこの『ビナー』が『アビドス』に居る理由や目的は不明だ」
トオルはそう言って残念そうな、申し訳無さそうな表情を浮かべる。古代―――遥か昔に造られたものなら、情報が得られなくても仕方ないだろう。未知の古代兵器なんてロマンある存在だけど、この『ビナー』は『アビドス』を滅ぼそうとしている脅威。撃破、もしくは撃退しなければ『アビドス』は完全に砂漠に埋もれてしまう。
「――次に、武装についてだ。と言っても、先程言ったように性能に関しては新たな情報は無い。"先生"の為に復習もかねて説明する。
―――レーザー光線『アツィルトの光』。『ビナー』の主武装であり、重戦車の装甲を一瞬で溶かし、岩塊や高層ビルすら数秒で溶かす威力を有している。
―――VLSミサイル『
―――そして、『浄化の嵐』。地中潜行による衝撃や、『ビナー』自身がその体躯で暴れることで巻き起こされる砂嵐だ。これこそが、『アビドス』の砂漠化を進行させている攻撃だ」
トオルが説明する度に、ホログラムの『ビナー』の口が開いてレーザー光線が迸り、背中や側面から次々ミサイルが放たれ、そして『ビナー』が潜ると砂嵐が発生する。
「――このように『ビナー』の武装面は対軍を想定したものと言えるだろう。装甲面は、少なくとも通常の戦車砲程度では傷一つ付かないことは判明している。尤も、神秘を込めた銃砲弾を用いればまた違うだろうが...生憎
「神秘の強さならおじさんとモコウ先輩かな~?危険な相手だけど、『ビナー』に攻撃を通す手段は探っておきたい所だね~」
「...俺個人としては後輩達に――これからを担う生徒達に危険なことはさせたくないが...そう贅沢も言っていられない状況だ。今回の作戦ではお前達に
「うへ、喜んで受けさせてもらうよ~。『ビナー』さえ――『アビドス』の砂漠化を進める元凶をどうにかできれば復興の道が開けるからね~。モコウ先輩も二つ返事で引き受けてくれる筈だよ」
トオルの言葉にホシノは素直に頷く。『アビドス』復興はトオルとマミゾウは勿論、ホシノ達にとっても悲願だ。協力しない理由は無いだろう。
「――重ね重ね感謝する。次に、『ビナー』の行動パターンについてだ。『
トオルは次の話題へと切り替え、コンソールを操作してホログラムを『ビナー』を中心に広がる砂漠と、そこに隣接するまだ無事な区域へと場面を変える。
「まず、『ビナー』は
砂漠化した領域の端を通って無事な領域へと抜けていく矢印が走ると、『ビナー』はそちらを見るだけで何もしない。
「だが、砂漠の中心――嘗て『アビドス砂漠』として観光地でもあった
砂漠に別の矢印が侵入し、砂漠化した領域の中心へと走っていくと―――『ビナー』はその矢印に向かって
「これだけ聞けば砂漠の端にでも新たに輸送路を構築すればいいだろうと思うかもしれないが...この辺りに『アビドス』外と接続できる道路を敷設可能な適地は件の幹線道路以外にはない。そして、『ビナー』の脅威判断には
――しかし、AIと言えども体躯や武装による物理的限界はある。複数箇所で『ビナー』の脅威判断となる行動を同時に行えば、『ビナー』は優先順位を構築して対処に当たるようだ」
砂漠に様々な方向から矢印が侵入すると、『ビナー』はそれらを見回す。
「この優先順位はあくまで推測だが、まず最優先は
矢印の一本が中心領域へ走っていくと、他の矢印を無視して『ビナー』は攻撃を行う。
「中心領域に近付けさせたくない...ということは、そこに何か守るべきものがあるのでしょうか?」
「何もないのに防衛行動を取るというのもおかしな話だしな。中心領域には――嘗ての『アビドス砂漠』には、当時の俺達でも存在を知らなかった何かがあるのだろう。だが、それの調査は『ビナー』をどうにかした後だ。――続いて、これらの情報に基づく作戦説明に移る」
トオルはミヤコの問いにそう答え、次の話題へと切り替える。
「まず、部隊を二つ編成する。『ビナー』を誘引する"陽動部隊"と、『ビナー』が居ない隙に幹線道路の砂を除去する"解放部隊"だ」
ホログラムにビナーに近付く赤い凸マークと、幹線道路に向かう青い凸マークが浮かび上がる。
「"陽動部隊"は砂漠の中心領域へ向かい、『ビナー』を誘引する。そして、攻撃を加えて『ビナー』が"解放部隊"に意識を向けないように引き付ける。
だが、想定以上に強力であると判断すれば、脅威度が低い侵入者――"解放部隊"を先に
「攻撃を抑える...『ビナー』に対してどのような攻撃が有効なのか不明な現状では難しいですね」
「そうだ。だから、まず優先すべきは『ビナー』の誘引だ。無理に攻撃はせず、
トオルはアヤネの言葉にそう返し、ホログラム上では
「そして、"陽動部隊"が『ビナー』を引き付けている間に、『
『ビナー』が遠く離れた隙を突く様に
「砂さえ除去すれば、領域外となって『ビナー』が襲ってくることはない筈だ。除去が完了したら、"陽動部隊"は砂漠外へ離脱。これを以て作戦成功とする」
「続いて、各部隊の人員配置だ。"陽動部隊"にはホシノ達"対策委員会"と『シャーレ』を配置する。目的は誘引である為、機動力確保の為に移動手段はヘリと装甲車のみとする。その為、"先生"含め防御力には難があることに注意しろ。――"先生"、非常に危険な前線での指揮となるが大丈夫か?」
「うへぇ、これは重要な役割だね~。でも、おじさん達だけなら連携も充分できるし、引き受けるよ~」
「"確かに危険な役割だけど...私は私にできることをやるよ。『アロナ』も居るから生存性については大丈夫だしね"」
「――分かった。"陽動部隊"の配置はこれで確定とする」
私達は"陽動部隊"に配置され、ホシノと共に受け入れる。トオルが頷いてコンソールを操作すると、
「次に、"解放部隊"には、"対策委員会"以外の生徒達の中で参加可能な者、『
「これはネイトちゃんやアヤちゃん達に頑張ってもらわなきゃだね~。『ビナー』相手よりはマシだと思うけど、油断大敵だね」
トオルの言葉にホシノと隊長達が頷き、
「"解放部隊"も確定だな。――配置は以上だ。質問はあるか?」
「――"解放部隊"は如何にして砂の除去作業を行うつもりでしょうか?『カイザーコンストラクション』から重機と操作員が派遣されることは聞いていましたが、この規模ですと予め担当区域を決めた方が宜しいかと思われます」
「それについては本会議終了後、『カイザーコンストラクション』からの派遣人員も集めて改めて協議、決定する。
だが、重機操作に長けているとは言え、民間人であることに変わりはない。"解放部隊"に配置される護衛部隊はその点も留意してくれ」
工兵部隊の隊長である工事用ヘルメットを被った"
「――他に質問はあるか?」
トオルの問いに皆沈黙で返す。
「ないようだな。――相手は謎が多い存在だ。作戦中に想定外のことが起きる可能性も充分にある。諸君らには
――作戦開始は明日〇九三〇とする。それまでに各人各隊準備を整え、作戦に備えて英気を養うように」
―――会議室に、私達の返事が響き渡った。
~『アビドス高等学校』校舎 屋上~
side-ホシノ
「――ここに居たか」
「皆準備を終わらせて一旦下校したから、後は私達だけだよ~」
夕暮れの屋上で夕陽と景色を眺めていると、モコウ先輩とユメ先輩の声が聞こえて来て振り向く。
―――『カイザーPMC』での作戦会議を終え、"対策委員会"や生徒の皆に明日の作戦について伝え、諸々の準備を終えて時間は夕方に差し掛かっている。夜は『柴関ラーメン』で決起集会を行う予定で、十中八九"大将"が
「...ホシノちゃん、何か悩んでる?」
「...いよいよ『ビナー』と――この『アビドス』の砂漠化を進行させている
私の右隣に来たユメ先輩の問にそう答えながら屋上からの景色―――夕暮れの街並みのすぐ先に広がる砂漠を眺める。欄干を握る手が微かに震えているのが自分でも分かる。
―――"アビドス生徒会"が残した記録や
「...古代兵器の類だから仕方ないが、新たに得られた情報が名前くらいで未だに
モコウ先輩も左隣に立ち、そう言いながら私と同じ様に景色を眺める。
「――だが、人間、一人じゃ手が届く範囲は狭い。だが、頼れる手があればあるほどその手はどこまでも届く。ホシノには私達が――仲間が、頼れる大人達が一緒に、傍に居るだろ?
「モコウの言う通りだよ!ホシノちゃんってば、
「う、うへ...」
ユメ先輩が私の目を覗き込む様に見つめてそう尋ねて来て、思わず視線を逸らしてしまう。
―――『アビドス』に入学して、"アビドス生徒会"として活動を始めた頃。先輩二人から日中の巡視はやっているけど夜警まではやっていないと聞いたのがきっかけだった。当時は今より治安が悪かったから、夜も目を光らせなければならない。―――でも、私が入学する前から激務を重ねていた先輩二人の負担にさせてはいけないと二人には伏せて一人で夜警を始めた。
―――『危なかったな。全く...気付かないと思ったのか?隠していたつもりなんだろうが、身体は――その目元の隈は眠っていないことを正直に示しているぞ。後始末は私がやっておくから、さっさと帰って寝ろ。
――だが、一つだけ言っておく。
―――でも、ある時夜警が私一人だけだと気付いた不良達が私を行き止まりに誘い込み、我慢していたけど深刻化していた眠気で頭がマトモに働かず誘い込まれ、不良達の数の暴力でやられそうになった時にモコウ先輩に助けられ、同じ様な事を言われた。
それからは睡眠も取る様にしたけど、それでも一人で夜警に出るのはある意味癖になってしまったのか、ふと不安になって今でも時々夜警に出てしまう。皆寝静まっているであろう真夜中に出ているのに...やっぱり、先輩達は今でも目聡い。
「私達を休ませたい。けど治安維持の為に夜も警備しなきゃいけないって気持ちはよく解るけど...それで重要な活動に支障をきたしたらそれが皆の負担になっちゃうんだよ?」
「夜警くらいトオル辺りなら頼めば傭兵を派遣してやってくれるだろうし、その
そうやって一人で全てやろうとし続けると――
――何度も言うが、
「...分かりました」
モコウ先輩の言葉に頷き、景色に目を向ける。―――そうだ、私は一人じゃない。先輩達や、委員会の皆、ネイトちゃん達も居る。
―――少し、明日の作戦への不安が和らいだ気がした。
~砂漠領域境界上空 『雨雲一号』機内~
side-"先生"
『――
「"――こちら"陽動部隊"『雨雲』。境界上空で待機中"」
『こちら"陽動部隊"『
"対策委員会"が保有する三機のヘリの内の一機『雨雲一号』の機内から眼下に広がる砂漠を眺めながらインカムでトオルの問に応え、続いてミヤコが応える。
私、アヤネ、ノノミが乗り込んでいる『雨雲一号』の下には、『カイザーPMC』からドライバーと共に借り受け、ホシノ、ユメ、モコウ、ミヤコ、シロコ、セリカが分乗している装甲車二台がエンジンを吹かしながら止まっている様子も見える。
―――準備を終え、『柴関ラーメン』で決起集会を催した翌日。作戦開始時刻の前に私達は準備を終え、作戦開始の合図を待っている。機内では操縦士のアヤネが緊張した面持ちで、
『こちら"解放部隊"『
『こちら"解放部隊"『
続いて、"解放部隊"の砂除去を受け持つ『砂祓』の指揮を執る『カイザーPMC』工兵部隊隊長と、その護衛部隊『砂城』を指揮するネイトが準備完了を伝える。―――全員、準備完了だ。
『――作戦前に改めて訓示する。本作戦の主目標は
――そして、何より
「『雨雲一号』、出撃します!」
『"雨雲二号"、出るよー!』
『"砂走"、砂漠に侵入するよ~』
―――数秒の沈黙の後作戦開始時刻となり、トオルの合図で"陽動部隊"が一斉に動き出して砂漠へと侵入する。眼下では装甲車二台が砂煙の尾を引きながら全速力で走り出している。
「"――アロナ、お願い!"」
『分かりました!――対空、対地レーダー及び、地中振動ソナー起動!索敵情報を"陽動部隊"各隊に共有――リンク完了です!』
『システムリンクを確認したよ!いやー、相変わらず凄いねアロナは』
『システムリンクを確認。現在反応は無し』
アロナに指示を出し、"シッテムの箱"の索敵システムから得られる情報を即時共有出来る様にヘリや端末にリンクさせる。『雨雲二号』を操縦するモエ、『砂走』のオペレートを受け持つミヤコの
『――わわっ?!ミサイル来ます!一、五、十...どんどん来ます!』
「"いきなりか...!できる限り回避を!回避できないなら
「了解で~す☆」
『ミサイルを目視で確認した。派手な歓迎だな、全く...!』
――アロナがシステムを展開してから十数秒。『ビナー』は早速私達を脅威と見做した様で、
―――回避機動を取り始める『雨雲一号』の開け放たれた扉から、白く巨大な蛇、あるいは龍の様な巨躯が砂漠を突き抜ける様に現れ、
という事で次回、幹線道路解放作戦、本格的に開始です。