Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~アビドス高等学校 "対策委員会"部室~
side-ホシノ
―――イナバちゃんが胸に着けたボディカムが牢屋らしき鉄格子がズラリと並ぶ部屋が見える窓を映し―――数秒して鉄格子の扉が見えて来る。
『...ここからが独房区画ね。......了解。カメラは"Кролик4"が一時的に止めたわ。――"Кролик3"』
『はいはい了解。...やっぱりシステム周りは金掛けてるねー。"勁牙組"の脳筋っぷりとはまるで違うや』
『口より手を動かしなさい、全く...』
『――ほい解除。見ての通り、ちゃんと手は動かしてるよ』
鉄格子の扉に据えられたナンバーロックをリンゴちゃんが軽口を叩きながらあっさりロック解除する。
『――これより独房区画へ侵入する。いつものフォーメーションで行くわよ』
『――"Кролик2"了解』
『――"Кролик3"了解』
しかし、イナバちゃんが指示を出せば一瞬で真面目な雰囲気を纏い直し、リンゴちゃんを先頭に、その後ろにイナバちゃん、最後尾にセイランちゃんが付いて銃を構えて独房区画へと侵入する。
『――クリア。巡回は居ないねー。今は全部カメラで見てるのかな?』
『ホシノ達のおかげね。――"Кролик4"、カメラは?......了解。――これから"Кролик4"が映像偽装を行う。でも偽装は十分程度しか保たないそうよ。――的確に、迅速に目標と接触するわよ』
『『了解』』
『――偽装開始。行くわよ』
イナバちゃんが合図を出し、誰も居ない独房区画の奥へと足音を立てず足早に向かう―――
「......」
「......」
―――区画の奥。四方からカメラが見下ろす、他の牢屋とは独立した鉄格子の箱の様な牢屋。その真ん中には鉄棒が伸び―――セリカちゃんとネイトちゃんが手錠で左手首を鉄棒に繋がれて座り込んで背中合わせで項垂れている。
『――目標確認』
『肩が微かに上下しているから生きてはいるわ』
『見た感じ外傷はなし。拷問とかはしてないみたいだね』
二人が居る事を確認してリンゴちゃんとセイランちゃんが状態を確認する。
『...寝ているのかしらね。体勢に加えてこの環境じゃよく寝付けないでしょうに...』
イナバちゃんが呟き、映像の視界が
『...ん...っ?!』
『...ぅ...な、何だお前ら?!』
照らされて目を覚ましたのか、二人はゆっくり顔を上げてイナバちゃん達に気付くと揃って驚きの表情を浮かべる。―――よく見れば、やはり眠れていないのか目元にクマが微かに浮かんでいる。
『大丈夫、落ち着いて。私達は"SRT"の"Кролик小隊"。アビドスの味方よ。貴女達の先輩達にお願いされて、安否確認に来たの』
『"SRT"...ミヤコ達の学校ね...』
『...見たところ年上だから、先輩か?...なら、一応信じることはできるな...』
二人はイナバちゃんの言葉を聞いて警戒を緩める。
『本当は今すぐにでも助けたいんだけどね。準備も情報もなくやるには厳しいんだ』
『口先だけでは信用できないと思うけど、どうか勘弁してちょうだい。――さて、確認するわ。誘拐されたアビドスの一年生"黒見セリカ"と"水元ネイト"、で合っているわね?』
『えぇ、合っているわ...』
『合ってるぜ。...にしても、よくここまで来れたな。アタシらを攫ったヤチエとか言う
『確かにセキュリティはよくできてるね。
『......えぇ、了解よ。――貴女達が攫われている間に色々起きたこともあるけど、"Кролик3"の言う通りそれを話す時間はない。――二人共、アビドスの皆に伝えたいことはある?時間がないから手短にお願い』
イナバちゃんは通信を交わして二人にそう尋ねる。
『分かった。...私達は一応無事よ。下手な握り方のおにぎりと水ばっかりだし、全然眠れてないし、身体も髪も洗えていないけど...ホシノ先輩達なら、絶対助けに来るって信じてるから...!』
『攫った犯人――ヤチエのヤツには気を付けてくれ。アタシらが話した感じだと...
『――記録したわ。必ず伝えるから。......了解。"Кролик小隊"、目標達成。離脱するわよ』
『『了解』』
―――カメラの偽装工作の解除時間が来たのだろう。イナバちゃんは二人に指示を出し―――また映像が
『す、
『
二人が驚く声と共に映像が牢屋から遠ざかっていく―――
『――以上が、安否確認の結果よ』
―――ホログラムで投影された映像が消え、ホログラムで通信を繋いでいるイナバちゃんがそう締めくくる。
「――二人共無事なんだね。うへぇ、よかったぁ~」
「うん...!本当、二人共無事でよかったぁ~」
「完全に無事...って訳じゃなさそうだが、兎に角大きなケガはなさそうでよかった」
「ほっ...二人が無事みたいで嬉しいですね~」
「ん、二人共無事みたいでよかった」
「二人共、無事でよかった..."Кролик小隊"の皆さん、ありがとうございます!」
「無事でよかったです...イナバ先輩、ありがとうございます!」
「二人共とりあえずは無事か...よかった」
「酷いことはされていないみたいでよかったー」
「うん...無事みたいでよかった...!」
おじさんを皮切りに皆安堵の表情を浮かべる。
―――銀行強盗を成功させた翌日。ミヤコちゃんを介してイナバちゃん達が"鬼傑組"拠点の内偵の結果報告と救出作戦の協議を提案して来た。その始めとしてセリカちゃんとネイトちゃんへ接触した結果をさっきの映像で報告された訳だ。
「"二人共とりあえず無事みたいでよかった。――本当にありがとう、イナバ"」
『どういたしまして。...でも、お礼は二人を救出してから改めて受けるわ。今はあくまで二人の無事を確認できただけだから。――それじゃあ、内偵の報告に移るわ。リンゴ』
『はいはい了解。――それじゃ、報告始めるよ』
イナバちゃんは"先生"のお礼を謙虚に受け止め、内偵報告へ移ってリンゴちゃんに説明を促す。リンゴちゃんは頷き、以前制圧した"カタカタヘルメット団"本拠地よりも大きな、嘗ては工場だったらしい大規模な建屋群をホログラムで長テーブル上に投影する。
『まず、"鬼傑組"の戦力について。元々集めていた情報通り、戦争できそうな規模で重火器を保有してたよ。具体的には――機甲戦力として[Pz.Ⅳ J*1]二個中隊相当二十四輌、[Sturmpanzer II*2]一個小隊相当四輌を装備。加えて兵員輸送車として[Sd.Kfz.251 Ausf.D*3]を多数―――"鬼傑組"構成員約四百名を丸っと輸送できる位に装備してるよ』
「...うへぇ。こりゃ正面から相手したくないね~」
「全部『ゲヘナ』の現行車輌じゃん...よくこんなに集めたね"鬼傑組"」
一際大きな建屋が強調され、報告される数に合わせて光点がズラリと並んでいく様子を見て思わず声を漏らす。モエちゃんも報告を聞いて羨ましそうな表情を浮かべている。
一昨日"Кролик小隊"と接触した時に"鬼傑組"が重火器を沢山集めているとは聞いていたけど、本当に学校自治区に侵攻出来る程の強大さだ。『カイザーPMC』は兎も角、おじさん達『アビドス』だけでは到底相手出来ない。
『加えて、攻撃ヘリ[AH4-D]四機、輸送ヘリ[Mi-24]二機も装備してる。――本当、小規模校の自治区位なら落とせちゃいそうだよ』
『これ程強大な戦力を持ちながら、他組織との抗争には今まで出していないのが不気味ね。"マーケットガード"が睨みを聞かせてるせいもあるでしょうけど、ヤチエは何処でこの
リンゴちゃんの報告を聞いてイナバちゃんは悩ましげに唸る。
『戦力についてはこんなところかな。次は――内偵で得られた情報についてだね。
リンゴちゃんは続いて得られた情報についての報告に移る。長くおじさん達を悩ませて来た"カタカタヘルメット団"と"鬼傑組"との関係が明らかにされ、ホログラムで様々な書類を撮影したものが映し出される。―――支援内容の目録、取引日時の記録、支援の中抜きを知った担当者の愚痴メモ―――そして、セリカちゃんとネイトちゃんを誘拐し、二人のスマホをデコイとして押し付けて
「初期の頃と比べるとかなり支援が潤沢になっていますね...あの本拠地にあった対空砲やテクニカルは強化された支援の一環だったとは」
「"支援して供した火器がマーケットで転売されてやがった"..."組長の命で内偵を忍ばせたら幹部共が中抜き、転売して豪勢な暮らしをしてやがった"..."誘拐の犯人偽装ついでに連中を潰すらしい。清々するぜ!"...こっちとしてはありがたい話だったけど、こんなメモの愚痴を見ると大変だったみたいだね」
書類やメモを見てミヤコちゃんとシロコちゃんがそんな感想を漏らす。
―――おじさん達も何となく分かっていたけど、やっぱり"鬼傑組"がおじさん達を追い出す為に"カタカタヘルメット団"を支援してけしかけていた様だ。でも、おじさん達が尽く撃退し、書類を見ると更に支援を強化しても何も変わらないから誘拐の際についでに潰す事にしたらしい。"鬼傑組"は―――"組長"ヤチエは上手い事自分達の手を汚さずおじさん達を利用して潰す事に成功した。全く、如何にも策謀家らしいやり方だ。
『アビドスに巣食う不良集団の中だと一番規模が大きかったから支援したみたいだけど、結果は皆知っての通り。質までは読めなかったみたいだね。――さて、次はきっと驚く情報だよ。最近起きたって言うゲヘナ"風紀委員会"の攻撃に絡むものなんだけど――』
リンゴちゃんは次の報告に移る。物言いは少し茶化しているけど表情は少し真剣に見える。ホログラムの画像を切り替えると―――
「"風紀委員会"下部組織"情報部"内の
「食材納品のミスとして偽装して爆薬を設置、"風紀委員会"が展開して監視を始めたタイミングで『柴関ラーメン』爆破。それを以て"風紀委員会"の攻撃を誘発させる...?!う、嘘...あの騒動が"鬼傑組"のせいだったなんて...!」
「私達への精神的揺さぶりと、依頼を蹴って寝返った"便利屋68"への報復も兼ねていたとは...」
「"これは...ヤチエが取引を持ち掛けて私とホシノを引き離したのは指揮者と戦力を欠かせることで壊滅を狙ったのかな。実際戻って来た時は危ないところだったし..."」
―――新たに映し出された書類やメモは、最近起きた"風紀委員会"の攻撃が"鬼傑組"が裏で工作して起こしたものだと分かって皆驚きの声をあげる。おじさんもテーブルの下で思わず拳を握り締める。
『この情報はゲヘナにも伝えたのだけど、ちょうど"
イナバちゃんは『ゲヘナ』にも情報を伝えた事を補足する。―――あの攻撃での初対面しか見ていないけど、あの横乳を晒した服でプンプン怒る様子が容易に想像出来てしまう。それに、
「"鬼傑組"の情報網の広さと扱いは恐ろしいですね~。"便利屋68"は指名手配されている組織ですから、"風紀委員会"を動かし得ると分かっていて利用したのでしょうか...」
『"教官"曰く、あの時
ノノミちゃんの言葉にリンゴちゃんはそう答える。―――確かに、本命は"先生"だったとは言え、あの"行政官"は"便利屋68"の逮捕を行おうと必死だった気がする。おじさん達と戦闘を繰り広げようとしてまで。委員会の指揮を代行していた事もあっただろうけど...あれは私怨も含んでいた様に思う。だとすれば―――"風紀委員会"に潜んでいた
『――さて、漁れた情報の中で目立つものはこの位だね。誘拐された二人絡みの情報と、あの大戦力の運用計画に関わる情報は碌に得られなかったんだ。――今回の内偵で得られた情報は
情報は"組長"ヤチエが
リンゴちゃんはそう締め括って申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「多分、"組長"ヤチエとしてはすっぱ抜かれても構わない程度の価値しかない情報なんだろうねー。逮捕の為の証拠としては利用できるけど――マーケット内に居る限りは
「"映像だと少し弱っているようにも見えたしね...それじゃあ、二人を救出する為の作戦を考えよう"」
"先生"はモエちゃんの言葉に頷き、救出作戦の協議へと切り替える。
『――まず、前提として派手な戦闘は厳禁よ。"マーケットガード"は"鬼傑組"含む暴力組織の
「となれば潜入が最適かな~?幸い、そういう作戦の専門家が居ることだし」
そう提案してイナバちゃん、ミヤコちゃん達『SRT』の娘達を見回す。正面から突入して戦う事が出来ないならこっそり忍び込んで二人を助けるしか無いだろう。特殊部隊を養成している『SRT』の娘達が居るならおじさん達だけでやるよりずっと成功率は高い筈。
『それがいいわね。人員としてはまず私達"Кролик小隊"。――それから"RABBIT小隊"にも今回は参加してもらうわ』
おじさんの提案にイナバちゃんは頷き、参加メンバーとしてミヤコちゃん達"RABBIT小隊"を指名する。まさか指名されるとは思っていなかったのか、四人揃って驚いた表情を浮かべる。
『私達だけじゃちょっと手が足りないからねー。昨日の銀行強盗で潜入任務の勘は少し戻ってるだろうし――一緒にSRTの正義を成したくない?』
「...勿論です!イナバ先輩達と一緒に任務を遂行できるなんて...!」
「まさか指名されるなんてな...だが、先輩達の実戦を直に見られるチャンスだし、勿論参加させてもらうぞ」
「潜入任務に長けた先輩達と一緒なら安心だねー。きっと二人を助けられるよ」
「す、少し緊張するけど...頑張る...!」
リンゴちゃんの問に四人揃って頷く。やっぱりミヤコちゃんは特に嬉しそうだ。
『受けてくれてありがとう。――次に、アビドスからはホシノとモコウに参加してもらいたいわ』
「――うへ、おじさんとモコウ先輩に?」
「――私とホシノにか?潜入任務なんて経験はないぞ」
続いてイナバちゃんはおじさんとモコウ先輩を指名し、モコウ先輩は何故だと言いたげに眉を上げる。―――先輩の言う通り、おじさん達は最前線で戦うタイプだ。モコウ先輩は高い再生能力を活かして、おじさんは盾の守りと[
『無論、必ず成功させるつもりで臨むけど――潜入がバレて迎撃される可能性はゼロではない。その場合に備えた切札として二人にも参加して欲しいの。作戦前に最低限潜入任務のノウハウは教えるけど...それでも作戦に影響を及ぼすと自分で判断するなら提案は取り下げるわ』
「なるほどな...万が一
「勿論、おじさんも参加するよ~。潜入任務は実質初めてだけど、二人を助ける為にも頑張るからさ~」
理由を聞いて納得し、モコウ先輩と揃って快諾する。
『ありがとう、二人共。――そして、作戦指揮者として"先生"にも参加して欲しい』
「"わ、私も?――あぁ、そうか。"シッテムの箱"でのオペレートがあればより成功率は上がるね"」
最後に"先生"も指名され、"先生"は驚くけどすぐに納得した表情を浮かべる。―――敵味方の状態を詳細に把握し、死角や遮蔽越しでも位置を割り出し、どんなセキュリティでも破って干渉出来、限界はあるけど銃弾を防ぐシールドを展開出来る"シッテムの箱"と、それらの機能を十全に扱えるOSアロナちゃん。そして―――それを元に的確な指示を出せる"先生"。確かに、救出作戦を確実に成功させるなら必要だろう。
『私達は学校での演習でしかみていないけど、それだけでも"シッテムの箱"と"先生"の指揮の組み合わせの強力さは理解できたわ。作戦を確実に成功させる為にも――どうか参加をお願いするわ』
「"――イナバ、頭を上げて。勿論、喜んで参加させてもらうよ。万が一失敗してしまっても――"先生"として、
『――ありがとう、"先生"』
イナバちゃんは頭を下げてまで"先生"に参加を頼み、"先生"はイナバちゃんの頭を上げさせて参加を快諾する。
『――救出作戦への参加者は以上よ。参加者各位は明日午前までに、装備を準備して"
『今日にでも、とは行かないのはごめんね。"マーケットガード"もまだピリピリしてる感じだし、何せ相手が相手だから準備は綿密にしないとだから』
「"急がば回れ――こういう時こそ、慌てず焦らず冷静に行動すべきだと思うよ"」
「もどかしい気持ちがない訳じゃないけど、焦って失敗しちゃったら元も子もないからね~」
救出作戦決行が明日になる事をリンゴちゃんは謝るけど、"先生"と揃って仕方ないと受け入れる。大戦力を持っている"鬼傑組"の拠点に侵入する以上、慎重に行かないと失敗してしまうかもしれない。もどかしいけど、確実な成功の為に打てる手は打つべきだろう。
『指名されなかった娘達は校舎で待機、警戒をお願いするわ。...もしかしたら、隙を突いて襲撃を仕掛けてくる可能性もあるから』
「ん、分かった。参加できないのはもどかしいけど、潜入なら人数は少ない方がいい。私達は学校を守って救出の成功を待つ」
「そうだね...分かった!助けた二人を迎えられるように待ってるよ!」
ユメ先輩達は
『ありがとう。――必ず、二人をこの校舎に送り届けるわ。質問、気になる点がある娘は居る?』
イナバちゃんが質問があるかと問い、沈黙が返って来る。
『――無いようね。では、救出作戦参加者は集合に遅れないようにね。"Кролик小隊"、通信終了』
『アビドスの皆、またねー』
リンゴちゃんが軽く手を振り、二人のホログラムが消える。
「"...明日、か。時間はあるし、できることをやっておこうか"」
「マミゾウ、トオルに連絡して作戦参加の旨と...ついでに留守の守りも依頼しておくか。トオルの方は幹線道路解放以来
「それから、可能であれば潜入任務を想定した訓練も少し行いたいですね。私達は教範を修めただけで実戦経験は浅いですが...何もやらずに作戦に臨むよりはいいと思います」
「うへ、いい考えだね~。おじさん達はそういう特殊な作戦は殆どやったことがないし、経験不足でイナバちゃん達の足を引っ張る訳にも行かないしね~」
「後、留守を守る為にも改めて装備や弾薬の確認もすべきだよ。襲撃なんてない方が望ましいけど、可能性は否定できないしね...」
"先生"の言葉を皮切りにこれからの行動方針が挙げられていく。"先生"は頷きながら立ち上がり、おじさん達を見回す。
「"皆やる気充分だね...よし、早速動こうか!セリカとネイトを必ず助け、
~トリニティ総合学園 "ティーパーティー"テラス~
side-ナギサ
「――なるほど、『アビドス』はそのような状況になっていたのですね。『ブラックマーケット』の暴力組織"鬼傑組"による生徒誘拐に対し、救出に向けで動き出そうとしている、と」
「は、はい!...そ、それで...何か支援できることはありますか...?わ、私だけではとてもできることなんて無くて...」
私が纏めた話の概要にヒフミさんは頷き、不安げに黄色い瞳を揺らして尋ねる。―――昨日テンシさんを介して彼女の動向を知り、その水平展開として『アビドス』の状況を知ったのでヒフミさんの話は確認として聞いている。
「――『トリニティ』
「...えぇ。テンシさんの言う通り、『トリニティ』
「そ、そんな...!」
隣で話を聞いていたテンシさんが紅茶を一口啜り、瞑目していた赤い瞳を開いて意見を挙げ、私もそれに頷く。私達の否定的な反応を見てヒフミさんは顔を青ざめさせる。
―――『アビドス高等学校』が嘗て三大校を超える規模の巨大校であったことは情報として知っていたものの、今まで誰も、私含め"ティーパーティー"も殆ど関心を示さなかった。故に、殆ど接点が無い学校に支援を出す事はヒフミさんのお願いと言えども出来ない―――『トリニティ』
「――さて。テンシさん、"砲術委員会"からの要請は知っていますか?」
紅茶を一口飲み、テンシさんに尋ねる。―――昨日"ティーパーティー"に上げられた要請は本来なら許可出来ないものだったけど―――ヒフミさんが得た情報でその有効性が変わった。
「――えぇ、"
「ちょうど昨日、
「...え?え??」
私達のやり取りを聞いてヒフミさんは戸惑った表情を浮かべる。彼女らしい反応だと思いつつも会話を進める。
「それは結構なことね。――でも、どうやって"砲術委員会"を現地に向かわせるつもり?接点がないってことは、誰も行き方を知らないってことよ」
「生徒を案内として出してもらえるよう交渉するつもりですが――実は、
「...へぇ、どんな娘なの?」
テンシさんは少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、ヒフミさんにそれとなく視線を向ける。
「大人しく、優しい見た目と性格の裏に、
「うぇっ...?!」
私の言葉を聞いてヒフミさんは肩をビクッと震わせて変な声をあげる。しかし敢えてそれを無視して会話を続ける。
「それは随分と
「あぅ...?!」
テンシさんは偶然思い出した
「...ヒフミさん、どうかしましたか?」
「あら...もしかして、
「う"ぇッ?!...え、えっとぉ...その...い、一応あります...た、偶に
漸くヒフミさんの反応に気付いたフリをしてテンシさんと揃って尋ねると、目に見えて冷や汗を流し、目を逸らしながらそう答える。―――これで昨日得た情報の裏付けも取れた。彼女を少し脅迫する形になってしまうのは心が痛むけど、『アビドス』を助けたいというその意思に応える為には必要な事だ。―――ここが『トリニティ』でなければこんな遠回しなやり取りはせず素直に対応できたのだろうと思うけど。
「あら、それはちょうどいいわね。――ヒフミ、その娘に伝えてくれる?"貴女が
「それから..."趣味を楽しむことは結構ですが、危険な行動は慎むように"とも伝えてください。...そう言った危険な行動を見て心配する人も居るのですから」
「...!わ、分かりました...!必ず伝えます!」
テンシさんからのお願いにヒフミさんは力強く頷く。―――恐らくヒフミさんはお願いの意図に気付いた。これで
「ナギサ様、テンシ様。お話を聞いていただきありがとうございました!――失礼します!」
ヒフミさんは深々と頭を下げ、テラスを去る。
「...少し、酷いやり方だったでしょうか」
「『トリニティ』らしくはあるけど、仕方ないわ。
―――ヒフミさんを見送り、罪悪感からそう漏らすと、テンシさんは優しい笑みを浮かべてそう答える。
「...そう言ってもらえると少し心が安らぎます」
「ナギサはヒフミに入れ込んでるものねぇ。そのフォローをするのが幼馴染ってものよ」
「...い、入れ込むなんてそんな...」
「己の譲れない所は一切譲らない芯の強さとか所々似てる所はあるし、そりゃ親近感も湧くでしょうね。――政治もおべっかもない、個人を晒して話せる存在は大事よ?」
「...そう、ですね...」
テンシさんがニヤニヤ笑いながら見つめて来て、誤魔化す様に紅茶を一口飲む。
「そうやって図星だと露骨に誤魔化すのもよく似てるわ。――あぁ、そうそう。さっきの
ニヤニヤした笑みから一転、テンシさんは思い出した様な表情を浮かべてカップを置く―――
―――何気なく漏らした様な、私にとってまるで予想外の宣言を聞いた瞬間、思わずソーサーに置こうとしたカップを大きく揺らしてぶつかった音がテラスから臨める晴れ空に吸い込まれていった―――
~『ゲヘナ学園』 "
side-マコト
「――二人共、忙しい中呼び出してすまないな」
「...用件は何?早く鎮圧の指揮に戻りたいのだけど」
「同時多発とは言え、一般的な不良達ばかりなら
執務室に集まった同級生にして入学以来の親友二人に軽く謝ると、親友の片割れであるヒナが露骨に不機嫌な表情を浮かべて用件を催促し、もう一方の片割れであるレミリアが呆れた表情を浮かべる。相変わらず、ヒナは比較的簡単な仕事でも現場に出張っている様だ。
「相変わらずだなヒナは...まぁいい。まず、単刀直入に用件を伝える。――『アビドス』と交渉し、明日我が『ゲヘナ』より
「――言ってる意味が分からないのだけど」
「――マコト、どういうつもり?」
ヒナの催促に応えて用件を先に伝えると、案の定二人は互いに顔を見合わせ、揃って怪訝な表情を浮かべる。
「ヒナの催促に応えてやったんだが...まぁ、当然これだけでは分からないだろうさ。――所で、こうして
「...あまり多くの人には話せない厄介事?」
「...最近の出来事を考えれば――『アビドス』絡みかしら?それも
「流石レミリアだな。――『アビドス』についてある
予想通りの反応だと頷き、二人に問い掛けるとレミリアがクリティカルな予想を挙げる。流石
「――まだ存在していたのね。それも
「――一応確認するけど、本当なのね?」
「あぁ、間違いなく本物の情報だ。
「..."鬼傑組"は
「それは分からん。
ヒナの問いにそう答える。存在を知っているか否か、手に入れる事が目的か否か―――それは関係無い。答えた通り、そもそもその自治区を狙う時点で我々としては絶対に排除せねばならない。
「
「それはまだ時期尚早だろう。生徒誘拐の解決に集中している中で、こんな大口径砲弾を撃ち込むような情報を与える訳にはいくまい。――まずはその解決を支援し、親交を深めることから始めるべきだ。余裕が出てきて
レミリアの問いにそう答え、『アビドス』との付き合い方の方針も伝える。―――正直に言えば今すぐにでも『アビドス』に向かって
「それがいい。焦って行動して状況を悪化させる訳にはいかないし。――それで、具体的にどういう編成の部隊を出すつもり?」
「この編成で出すつもりだ。――"鬼傑組"がこの規模の部隊を『アビドス』に向ける可能性があるからな。装甲戦力は必須だ」
ヒナの問に対し、派遣予定の部隊の編成表と、
「これは...全部
「私も気になって情報を探ったんだが...以前、メーカー整備の為に移送したはいいが大規模な不良共のテロでメーカー共々喪失した事件があっただろう。――アレは偽装だった様だ。いつの間にか"鬼傑組"が手を伸ばしていたようでな...詳しい経緯は不明だが、"鬼傑組"は随分と重火器を集めたようだ」
レミリアの言葉にそう返す。―――"鬼傑組"が我が『ゲヘナ』でも水面下で活動している事は知っていたが、まさか装甲戦力をも奪っていたとは思わなかった。
「あの事件ね...爆破された車輌の破片や痕跡が妙に少ないとは思っていたけど、まさか"鬼傑組"が重火器を手に入れる為に手を伸ばしていたなんて。――ますます"鬼傑組"を止めないと行けないわね」
「あぁ。――さて、これだけ説明した上で最初に話した用件を受けない、ということはないな?」
目付きを鋭くするヒナの言葉に頷き、二人に確認する。―――
「――勿論、やらせてもらうわ。
「私も同意見。――この件はアコとサクヤに伝えても大丈夫?」
「あぁ、勿論だ。二人も
二人は揃って用件を引き受けると答え、ヒナが続けた確認の言葉に頷く。レミリアとサクヤは
「――『アビドス』へは
「...アコの独断専行がまさかこういう形で作用するなんてね」
『アビドス』への交渉の方針を伝えると、ヒナはそう呟いて苦笑する。―――レミリアから聞いた時は
「――では、明日万全に動けるように備えておけよ。レミリアはこのリストの部隊に呼び掛けて整備と準備をさせておいてくれ。ヒナはアコとサクヤにもこの件を伝えることと――後始末やら書類やらは後輩達に任せて英気を養ってくれ」
「分かったわ」
「...えぇ、そうするわ」
レミリアは指示を引き受け、ヒナは少し不本意そうな表情を浮かべながらも頷いて執務室を出る。二人を見送り、ホログラムを消して椅子に座る。
改めて決意する様に呟き、受話器を手に取る―――
ということでアビドス、トリニティ、ゲヘナが動き出しました。いよいよ鬼傑組との戦いです。