Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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前回のあらすじ:セリカとネイトを助けたらビナーがキレて追って来たので強烈な一撃を与えて撃退したら超デカい砂嵐を起こした件。


File30-Ab.~終末時計(Zero Hour)五分前①~

~『カイザーPMC』基地外縁 西側トーチカ~

side-ノノミ

 

...サァァァ...

 

『――ノノミ。正面、オートマタ多数』

「了解で~す!――全弾発射~!

 

バラララ...!

 

 上階の監視所に詰めているシロコちゃんの通報を受け、今まで以上に濃い砂煙の中に見えたオートマタの影複数に向けて銃座にマウントした[リトルマシンガンV]の弾幕を浴びせる。

 

[[Gi...?!]]

[[...?!]]

[[GA...?!]]

 

 嘗ての『アビドス』が製造していたオートマタと、その中にチラホラ混ざっている()()オートマタが弾幕に捉えられて次々と倒れていく。

 

「――ふぅ...全滅を確認。シロコちゃん、他に敵は居ますか?」

『今のところは確認できない。小休憩と弾薬補給は今のうちにやるべき』

「そうしましょうか~。...交換よし。皆さん、私は小休憩に入りますね~」

「はいよ。その間の警戒は任せとけ!」

 

 シロコちゃんの提案に頷き、[リトルマシンガンV]の弾帯を交換してからトーチカに詰めている傭兵の皆さんと警戒を交代してトーチカに据えられたベンチに向かう。

 

「――お疲れ様、ノノミ。これでも飲みなさい」

「――姉さん!わぁ、ありがとうございます~☆」

 

―――横から聞き馴染みがある声が聞こえて振り向けば、私にプカリスウェットのボトルを差し出す姉さんが居て、お礼を言いながらボトルを受け取る。

 

「ふふ、どういたしまして。...隣、失礼するわ。――それにしても凄い砂嵐ね。十秒でも外に出ると()()()()()になってしまう程に舞い散る砂。まだ午前十時だと言うのに()()()()()()()程の濃さなんて」

「度々砂嵐は起きますが、これ程の規模は私達も初めてですね~。...マミゾウさんが言っていた、()()()()()()()()()()()()()()もきっとこんな感じだったんだろうとも思います」

 

―――『まさかビナー(アレ)がこれ程の砂嵐を起こすとはのぉ...規模は()()()()()()()()あの砂嵐と同等かそれ以上。よりにもよってお主らに()()()()()()絶望を味わわせかねない状況になるとは...』

 

 一口飲み、隣に座った姉さんの言葉にそう返しながら――辛そうな、心底申し訳なさそうな表情を浮かべたマミゾウさんの言葉を思い出して俯いてしまう。

 

―――"便利屋68"の皆さんがセリカちゃんとネイトちゃんを救出し、これまでの行動パターンを破ってまで猛追して来た『ビナー』を撃退した翌日。朝起きたらカーテンを開けても陽の光が一切入らない程の砂嵐が起きていて驚いた。

 姉さんが言った様に、()()()()()()()()()()()()()()()()()程の量の砂を撒き散らす砂嵐の中での徒歩移動は危険だと判断した"先生"やマミゾウさんが車で私達を学校へ送迎してくれた。

 

―――しかし授業所ではない状況だと判断して本来"先生"とホシノ先輩、アヤネちゃん、ミヤコちゃんだけで行く事になっていた『カイザーPMC』からの招集に便乗して私達も基地へ向かい、こうして基地防衛に参加している。

 サクヤ姉さん達"風紀委員会"と"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"戦車部隊の皆さん。そして『トリニティ』から支援に来たヒフミちゃんと"砲術委員会"、"ソーサーナイツ"の皆さんは『カイザーPMC』の格納庫と宿舎に受け入れられ、今行われている防衛戦にも参加している。

 

「...それに、この砂嵐にも関わらず攻めてくる壊れたオートマタやドローンも気になるわ。確か...数十年前の『アビドス』で製造、運用されていたモデルの他に、出処不明の()()オートマタも居るのよね?」

「はい。大半は砂漠をフラフラと彷徨っていていますが、偶に校舎がある地区に迷い込んだりして、私達や『カイザーPMC』で討伐を行ったことも何度かあります」

「ふむ...彷徨うだけの存在が、今は何か意志を持ったようにこの基地を攻めているのはおかしいわね。数十年前のものだと言うのなら既に中身は酷く劣化していて、辛うじて残ったプログラムに従ってるだけでしょうに...」

 

 姉さんは顎に指を添えて今の状況を考察する。―――私達もこのオートマタやドローン達の攻撃はおかしいと感じている。謎の多い()()オートマタは兎も角、大半の旧い『アビドス』製オートマタやドローンは劣化した中で辛うじて残ったプログラムに基づくルーティンを繰り返しているだけに過ぎない...と、『カイザーPMC』の調査で判明している。

 そんなオートマタやドローン達が、今は明確に―――偶然敵と判断したのではなく、明らかに『カイザーPMC』基地を目標に攻め寄せている。まるで―――

 

 

「――何か()()()()で、プログラムにこの基地への攻撃命令が追加された...のでしょうか?」

「まさか......いえ、否定できないわね。『ビナー』は謎が多い()()()()の類でしょう?高度なAIも搭載しているなら...ハッキングして命令を追記、改竄して操ることも可能かもしれない。私達から見ても旧式なら、()()()()からすれば余裕でしょうし」

「...なら、どうして...『ビナー』は今まで見向きもしなかったオートマタやドローンすら操って攻撃しているのでしょうか?今起きている砂嵐だけでも充分過ぎる程『アビドス』への脅威、攻撃になっているのに...」

「...そうね......私が『ビナー』なら――」

 

 

 

 

「――自身の堅牢な装甲を正面から撃ち抜く性能を持つ兵器を有する敵勢力は早期に潰したいわ。傷を回復している間にオートマタやドローンを操り、波状攻撃で基地を制圧できれば脅威は大きく減るもの」

 

―――プカリを一口飲んだ姉さんはそう予測を立てた。

 

 


~同基地 作戦会議室~

side-"先生"

 

「――諸君。現在の逼迫した状況にも関わらず集まってくれたこと。そして昨夜から発生しているオートマタによる攻撃に対する防衛戦への参加についても――心より感謝する」

「儂も同様に――『アビドス』の先輩として皆に感謝したい。特に、"鬼傑組"含む()()()()()()合同部隊撃退に大いに貢献しただけでなく、今も留まって防衛戦に加わっている『ゲヘナ』、『トリニティ』両校の支援部隊には誠に感謝しておる――ありがとう」

 

 会議室に集まった面々を―――『アビドス』からはホシノとアヤネ。『シャーレ』からは私とミヤコ、モエ。協力者のアヤ。『SRT』からはイナバとリンゴ。『ゲヘナ』からはヒナとレミリア。『トリニティ』からはテンシとヒフミ。"便利屋68"からはアルとカヨコが来ている―――見回し、トオルはマミゾウと揃って頭を下げる。

 

「この砂嵐では帰還も厳しいし、今の状況に陥った『アビドス』を放置して帰るなんて後味最悪でしょ。..."ファウスト"もまだ私達を扱き使うつもりみたいだし、ね。今朝、ティーパーティー(私達の責任者)に連絡して支援継続の許可は得てるから安心してちょうだい」

「私達も同意見よ。状況は()()()()()()合同部隊の襲撃以上に最悪だもの。――学校自治区が()()()()()()状況を見捨てることなんてできないわ。こちらも同様に許可は得ているから安心して」

 

 トオルとマミゾウの礼を受け、レミリアとテンシは揃って見捨てるつもりは無いと答える。

 

「――それから、『SRT』の協力にも感謝したい。"鬼傑組"は襲撃に合わせて卑劣な罠を仕掛けていたが、"連邦生徒会"の懐刀たる諸君らが居なければ、『アビドス』単体では救出は厳しいものになっていただろう」

「"鬼傑組"の罠に早期に気付けなかった上に、最終的に救出を成し遂げたのはそちらの"便利屋68"。感謝される程の貢献はできていないと思うけど...私達の方こそ感謝したいわ。『ブラックマーケット』にのさばる犯罪組織へ一撃を与えるチャンスを作ってくれたのだから。少なくとも『アビドス』制圧作戦の失敗で"鬼傑組"はしばらくマトモな活動はできない筈よ」

 

 続くトオルの『SRT』への感謝を受けてイナバは感謝される程の貢献はしていないと謙遜しながら逆に感謝を伝える。"鬼傑組"はマーケットの外で犯罪ネットワークを構築して犯罪活動を行っていたというから、『SRT』としてはその活動を抑え込むチャンスだっただろう。

 

「『アビドス』に協力してくれている。我々としてはこれだけでも充分ありがたい。――さて、挨拶と感謝の言葉はここまでとしよう。現在、『アビドス』が置かれている状況は非常に厳しい」

 

 トオルはそう言って本題に移り、ディスプレイに『アビドス』自治区全域の地図を映し出す。そして地図を覆う様に茶色い靄の様なもの―――砂嵐の表示が追加される。

 

「救出部隊を猛追した『ビナー』は"Light Arrow of Ra(ラーの光矢)"――略称"L.A.R."の一撃を受けて撤退した。が、それから数時間後()()()()方面より()()()()()()()()()()が発生。自治区全域が濃霧の如く砂に覆われている状況だ」

 

 地図の()()()()に巨大な渦巻きが現れ、砂を巻き込んでグルグルと回り始める。

 

「この砂嵐の規模は、嘗て『アビドス』本校と中央地区を砂に埋めた砂嵐よりも巨大だ。"気象班"の観測とシミュレートの結果――」

 

 トオルは言葉を一度切る。よく見ればディスプレイ操作用のリモコンを握る手が震えていて―――

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある」

 

 今の校舎がある地区を砂漠が覆い尽くし、『アビドス』の砂漠そのものも()()()()()()()()()()()()なっていき、そのまま周辺の他校自治区の境界を越えて砂漠が侵食していく様子が地図上でシミュレートされ、私含め皆声も出せずに驚きで固まっている。

 

「――更に、これは現状の()()()()()()()()()状態での試算だ。この砂嵐は十中八九『ビナー』の"浄化の嵐"によるものだと思われる。『ビナー』を中心とした砂嵐である場合、『ビナー』が動けば砂嵐も動く。そうなれば――()()()()()()()()()()()()()()だろう」

 

 地図上で渦巻きがゆっくりと動くと、砂漠が侵食する範囲もそれに合わせて広がっていく。

 

「"――絶対に止めなきゃいけないね。他の学校にまで被害を及ぼす訳にはいかない"」

「"先生"の言う通り、『ビナー』の研究だの情報収集だのと言っている暇はない。――今討たねば、『アビドス』だけの問題では済まなくなる」

 

 トオルは私の言葉に頷いて『ビナー』討伐を宣言し、私含め皆が頷く。―――勿論、『アビドス』を滅ぼさせるつもりは無いけど、他校にまで被害を広げかねない事も大問題だ。一週間とはあくまで試算。『ビナー』の行動次第では早まる可能性もある。故に―――早く討たなければならない。

 

「――だが、『ビナー』だけに全集中とはいかない状況でもある。...アヤ、メディアはどうだ?」

「学校を滅ぼしかねない()()()()()()ですから、そこそこ離れた学校でも()()()()()()()()()()()()()()おかげでちょっとした騒ぎになっています。

 我が『クロノス』は勿論、他のメディアも『アビドス』入りして取材を試みようと動いている、と個人的なコネも通して把握しましたが――"()()()()()()()()()()"と軽く脅しも混ぜて何とか止めています。但し、観測もされているので砂嵐についての報道は『アビドス』の現状は危険であるという注意喚起を図って敢えて止めていません。

 しかし...()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()は何処にでも居るものです。そう言った連中対策で私は引き続き界隈の情報収集と『アビドス』入り阻止を行うので...申し訳ありませんが、『ビナー』討伐作戦への参加は厳しいでしょう」

「メディアの余計な流入を止めることも充分な貢献だ。作戦に余計な妨害要素は入れたくない。引き続きメディア対策を頼む」

「了解です」

 

 アヤのメディア対応の報告を受けてトオルは引き続き対応を続ける様に頼み、アヤは頷く。

 

―――濃霧の様な砂に覆われている私達は見えていないけど、他校からはディスプレイに映っている様な()()()()()()が見えてしまっているらしい。

 情報を止める事は出来ても、(今回は『ビナー』のせいだけど)自然現象は止められるものでは無い。そして、到底自然現象とは思えない規模での砂嵐なんてメディアからすれば逃せない特ダネだろう。より詳しく状況を知ろうと、直接『アビドス』に向かおうとしたり、問い合わせを図ったりしているらしい。―――アヤの行動は作戦遂行の上でも重要だ。つくづく、彼女の協力を得られて良かったと実感する。

 

「――では、次の問題要素だ。砂嵐の発生から少し遅れる形で、砂漠のあちこちを彷徨うオートマタやドローンがこの基地を狙って集まり、散発的に攻撃を仕掛けている」

 

<『来たぞ!さっきより数が多い...!』

<『全く酷い砂嵐だ!ここまで近付かれないと目視できない!』

 

<『私戦車乗りなのになんで歩兵を...!』

<『機関銃手(ガンナー)任せてるだけありがたく思え!』

<『不良共でももっと避ける動きはするからまだ楽だぞ!』

 

『――そこ、居ましたよ』>

『いつの間に...!ありがとうございます"副長"!』>

 

『死んでください死んでください...!』>

『いっくよ~!全部ぶっ(こわ~)す!』>

 

 ディスプレイに複数の画面が映し出される。基地の外縁に構築されている複数のトーチカに据えられたカメラの映像で、『カイザーPMC』の傭兵や"便利屋68"、"対策委員会"の皆、"風紀委員会"や"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"、"ソーサーナイツ"の面々がオートマタやドローンの迎撃を行っている。

 

「――これは今まで確認されなかった動きだ。大半は数十年前の旧いモデルで保守整備も碌にされておらず、OSやシステムも破損していて辛うじて残ったプログラムに従って彷徨い、目に付いたものを攻撃するだけだった。要するに映画で見る様なゾンビに似た挙動だな。

 だが――現在は見ての通り明確にこの基地を攻撃する為に動いている。広域レーダーは砂嵐で性能が落ちているが、それでも砂漠のあちこちからこの基地に向かっている様子は確認されている。 

 この攻撃が行われた当初、撃破されたが破損が少ない数体を回収して解析をした結果、動き自体はこれまでと変わっておらず、OSやシステムが改善された様子はなかったが――()()()()()()()()()による命令が追記されていた。コードは大半が文字化け、破損していて読み取れなかったが、幾つかのコード片は読み取れた」

 

 新たな画面が立ち上がり、文字化け、空白が多いコードの羅列が並ぶ。その中でハイライトされたコードの一部は―――

 

「"...[attack(攻撃)]、[destruction(破壊)]、[base(基地)]...数字はこの基地の座標かな?"」

「そうだ。...このコードがオートマタやドローンに対して()()()()()()()()()()()()()()()()()で追記されている。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ハッキングによってだ。OSは非常に旧く更新もされていない上に劣化破損しているからハッキングに脆弱ではあるが...カイザーPMC(ウチ)の"情報班"では何も分からなかった。作戦終了後になるが、『ミレニアム』に提供して解析を依頼するつもりだ」

()()()()()()()()()ねぇ...タイミングと状況を考えると――どう考えても『ビナー』が下手人っぽいね。()()()()の類なら、私達が理解できない方法でハッキングできてもおかしくないんじゃいかな?」

 

 トオルの説明を聞いてリンゴが推測を述べる。確かに、『ビナー』は未だ謎が多い()()()()だ。分かっているのは対軍を想定した武装と、高度なAIを搭載している事。ハッキングは今まで見られなかった行動だけど、()()()()であるなら出来てもおかしくない。

 

「確かに、あり得る可能性だな。――だが、今はこのオートマタやドローンによる攻撃という状況が問題だ。砂漠を徘徊しているオートマタやドローンの総数は我が『カイザーPMC』でも把握し切れていない。時間を置いて散発的に攻撃しているのは幸いだが、攻撃が止む兆候は未だに見えない。

 故に、オートマタやドローンの迎撃の為に『ビナー』討伐に際しては全戦力は割けない。そもそも『ビナー』の武装は対軍を想定したものだからな。数を頼みにした攻撃は通用しないだろう。――では、このまま作戦会議に移る」

 

 トオルはそのまま議題を作戦会議へと切り替え、ディスプレイの画面を整理して『アビドス』自治区全体の地図のみを映し、机には砂漠に姿を現し、砂嵐を巻き起こして自身の姿を隠す『ビナー』のホログラムを投影する。

 

「――まず、前段として現在『ビナー』が自身を中心に発生させている砂嵐をどうするか、だ。この砂嵐ではヘリは当然、ドローンも飛ばせない。故に初動は地上戦力を向かわせる他ないが――砂嵐そのものの風速は()()()()()()()()()()()()()レベルだ」

 

 ホログラム上で、飛行するヘリやドローンが途中で失速、或いは気流で姿勢を崩されて墜落していき、地上では砂嵐に突っ込んだ戦車が浮き上がって吹き飛ばされる様子が映し出される。

 

「これじゃトリニティ(ウチ)の砲兵も使えなさそうね。委員長(あの子)"砂漠(局地環境)での砲撃諸元収集のチャンスだ"って息巻いていたけど...」

「...空も陸も絶望的ね。それで、どうするつもり?手が出せないからって何もしないのでは論外よ」

 

 テンシのぼやきに続き、レミリアはそう質問を挙げてトオルを見定める様に見つめる。

 

「策は二つある。まず甲案――地上部隊を砂嵐の被害を受けないギリギリまで近付けさせ、可能であれば『ビナー』が居る方角へ攻撃を仕掛ける。この策は、『ビナー』が()()()()()()()()()()()()()()()挙動を取ることに賭けたものだ。

 "大道の劫火"や"アツィルトの光"で以て部隊に攻撃を仕掛けるとなれば、自治区を砂で覆う程の()()()()()()を維持するリソースは流石にない筈だ。『ビナー』が部隊に攻撃を仕掛ければ砂嵐は止む。これが成功すればヘリや戦車の本格投入も可能となる」

 

 ホログラム上で新たな戦車、装甲車の混成部隊が砂嵐に近付き、『ビナー』に向けて攻撃を行うと『ビナー』は砂嵐を止めてミサイルを撃ち出す。

 

「これまでの行動パターンを取ろうとする推測と運に任せて攻撃チャンスを作るってことね。...うーん、人為的とはいえ砂嵐なら...ということは、それが失敗した場合の策が乙案かしら?」

 

 テンシの言葉にトオルは頷く。

 

「そうだ。乙案は――諸君ら生徒での高高度からの空挺降下だ。『ビナー』が発生させている砂嵐は砂を巻き込んだ台風のようなもの。つまり――『ビナー』が居る中心の目は無風で舞い散る砂も少ない筈だ。そこへ直接空挺降下で飛び込み、甲案と同様()()()()()()()()()()()()()()()挙動を利用して砂嵐を止め、戦車部隊とヘリを投入する」

 

 ホログラム上で、砂嵐の遥か上空を大型の輸送機が通過していき、複数の光点が輸送機から飛び出して降下していき、気付いたビナーが砂嵐を止めてミサイルを撃ち出して迎撃を図り、そこに戦車部隊が突入していく。

 

「乙案は確実性が高いが――懸念としては、まず空挺降下によって生徒達を危険に晒すこと。空挺降下の強みは制空権さえあれば後方、直上からの奇襲が可能であることだが、空挺で運べる装備は限られる。ましてやこの作戦では『ビナー』への直接攻撃を仕掛けることになる。身軽な歩兵戦力は兎も角、重火器は降下中に迎撃されて損害を受けかねない。奇襲効果の代償は火力と装甲の乏しさだ。

 そして――現状『アビドス』を起点とした航空機の運用は到底不可能である為、自治区外の――カイザー(我が社)の飛行場と輸送機を借りざるを得ない点だ。知っての通り、『カイザーコーポレーション』は()()()も少なくない大企業だ。実行するとなればカイザー(我が社)でも情報統制は行うが...輸送機を飛ばせば少なからず目立つだろう。『アビドス』の状況も合わせて、()()()()()が出回ってその対応にも人を割かねばならない可能性がある」

「『アビドス』としてはそういう噂で人が寄り付くのは避けたいかな~。アヤちゃんにもっと苦労をかけちゃうし、『ビナー』をどうにかして討たなきゃいけないのに戦力を集中できないのは問題だよねぇ」

 

 乙案を聞いてホシノが否定的な意見を挙げる。―――現在の『アビドス』には三大校(ゲヘナとトリニティ)の部隊まで居る。そこに加えて『カイザー』が外部拠点から『アビドス』に向けて戦力を動かしたと見られればメディアは挙って集まるだろう。その対応で人を割かねばならないのは対『ビナー』戦力を少なくさせる事にも繋がる。

 

「やはり、乙案は厳しいか。ここは甲案での前段作戦を――」

 

 

 

 

 

 

「――トオル"理事"、甲案の()()()()を提案するわ。内容は――――」

 

―――テンシが挙手し、甲案の追加修正を提案する。その内容に皆耳を傾け―――

 

 

 

 

「――――では、各隊の配置はこれでいいな?」

「『アビドス』としても異存ないよ~。いやぁ、ホログラムで見ても壮観だねぇ」

「...『ゲヘナ』としても問題ない」

「同じく『トリニティ』としても異存ないわ」

 

―――ホログラムに映る部隊配置を確認し、皆頷く。

 

「分かった。...念の為確認するが、本当に大丈夫なんだな?」

「えぇ。――()()は久しぶりだけど、()()()()()()()()()為なら手加減無用よ。イク(腹心)をどうやって納得させるかの方が余程難しいわ」

 

 トオルの念押しの確認に対しテンシは冗談も交えて大丈夫だと頷く。

 

―――テンシの提案を受け入れた事で前段作戦は決まり、その後の後段作戦である『ビナー』討伐作戦の内容と配置もとんとん拍子で決まった。

 

「そうか。――では、本作戦は総括して"サン・シップ*1"と命名し、前段作戦を"マンジェット*2"、後段作戦を"メセケテット*3"と命名する――」

 

 トオルは席を立ち、作戦名を命名する。

 

「――嘗て、『ビナー』はアビドス本校を砂嵐に飲み込み、そこから自治区をどんどん砂の中に飲み込んだ。そして今――あの時より更に巨大な砂嵐を発生させて『アビドス』全体を砂漠に飲み込もうとしている。ホシノ達現『アビドス』生の復興に向けた努力を、『アビドス』卒業生としての俺とマミゾウの支援を、そして苦境に手を差し伸べてくれた諸君らの善意を砂に攫われる訳にはいかない

―――だが、作戦にあたっては人命を第一とする。成功したとて、その後待っている後処理――そして復興に向けたあれそれに加われないのでは無意味だ。『アビドス』、我が『カイザーPMC』だけでなく、『ゲヘナ』、『トリニティ』、そして間接的だが『ミレニアム』も――()()()までも協力している。これで作戦失敗は有り得ないと確信している。故に――諸君らには"()()()()()()()()()"の成功条件を課す。全力を賭して、だが命を大事にして作戦に臨んでほしい。作戦決行は明後日とし、それまでに必要な準備、整備、訓練を怠らないように。――以上、解散」

 

―――トオルの訓示で会議は締め括られ、各々席を立つ。

 

―――to be continued―――

 

 

*1
太陽の船。太陽神ラーが一日を旅する為に使う船。昼と夜で姿が異なる

*2
[Mandjet]太陽の船が昼のエジプトを飛ぶ姿。

*3
[Mesechet]太陽の船が夜間冥界を飛ぶ時の姿。夜、ラーが相手取るのは...




という事で作戦会議でした。少し短いですが切れがいいので。次回、作戦前の各人のやり取りです。

メタい話ですが、『ビナー』が行ったのはデカグラマトンが行う()()の弱体化版です。あくまで『ビナー』の強みはその本体の攻防性能の高さにあるので、せいぜい今回のような旧いモデルのオートマタやドローンに対して簡単な命令を与えるのみです。
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