Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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UA10000突破にかんしゃぁ~。週1投稿を保つのが精一杯な遅筆さんですが頑張ります。

さて前回に続き、作戦前の各人のやり取りです。


File30-Ab.~終末時計(Zero Hour)五分前②~

~『カイザー』PMC基地 宿舎の一室~

side-アヤ

 

『――何でアビドスに現地入りさせてくれないのよ!アンタだけでネタを独り占めするつもり?!』

「あ~あ~、うるっさいわねぇ。...シノン達から聞いてないの?今の『アビドス』は危険よ。十秒身を晒せば全身砂塗れ、あっという間に前後不覚に陥り、最大で戦車をも吹き飛ばしかねない暴風が吹く程の砂嵐が自治区を脅かしてる。――ネタ云々以前に死ぬわよ」

 

 スマホの通話相手―――"新聞部"のライバルたる"スポイラー"(とは言え現状業績は私が圧倒しているけど)の大声に顔を顰めながら、シノン達"報道部"に伝えた事とほぼ同じ内容を改めて説明して警告する。

 

『状況は聞いてるわ。――でもシノン達は"状況が落ち着いたら現地入りしていい"って言質を取ったって言ってたわよ!"報道部"は良くて私がダメとか不公平よ不公平!!

「だからうるさい。シノン達はあんなでも弁えてるからいいのよ。...そもそも普段引き籠ってて、偶に『ミレニアム』の"ヴェリタス"と協働してネットサーフィンとダークウェブ覗き見、後はちょっとしたハッキングでネタを探すのが主な貴女が態々現地入りするとは思えないんだけど?」

 

 シノン達"報道部"は取材、報道となれば視聴率の為に露骨な編集を行ったりするけど、ある程度情勢や状況を察して抑えたり身を引く理性はある。故に、作戦が終わったらホシノさんに頼んでシノン達は取材で受け入れて貰うつもりでいる。

 しかし、この通話先の"スポイラー"―――『姫海棠(ひめかいどう)ハタテ』は私が『アビドス』に居るというだけで許せないのだろう。作戦会議が終わってこうして宿舎(作戦中もメディア対策に専念するけど、最悪ヘルプに向かえる様にとトオル"理事"にお願いして借りたものだ)に戻ってスマホを見ればハタテからの十数件の不在着信通知が並んでいた。

 

ぐっ...と、兎に角!私にもアビドスのネタを使わせなさい!ここ最近"花果子念報"の購読数が低調でヤバいのよ...このままじゃ()()()()の基準に...!私はアンタの"スポイラー"なんだから、その関係を維持する為にもね!いいでしょ?』

「私としてはスポイラー(競争相手)が潰れることは万々歳なんだけど――」

 

―――ふと、冗談めかして潰れればいいと嘯く脳裏に()()()()が浮かび上がって言葉を切る。ちょうどいい。私の任務を()()()()の危機に見舞われている可哀想な"スポイラー"に―――同じ志を持つ腐れ縁の幼馴染に手伝わせてやろう。

 

『――アヤ?何かあった?』

「――条件を付けるわ。『アビドス』の娘達は色々と事情があって、外部組織の接触を良く思わないわ。しかも、機密だから話せないけど...今()()()()()()()()に向けて動いてるの。その邪魔をする――アビドスの事情なんてお構いなしに強引にでも取材しようとする有象無象のメディア連中を抑え込む手伝いをして欲しいの」

『随分アビドスに肩入れするじゃない。...あちこち飛び回るアンタが一ヶ所に留まるんだから余程なのね。いいわ、何をしたらいいの?』

「主にはメディアの動向監視ね。後は...注意喚起も警告も無視するお馬鹿さんの妨害ね。お得意のハッキングも使っていいけど、足は付かないようにね」

 

 ハタテに手伝うべき内容を伝える。―――普段は『クロノス』自治区内の寮の自室に引き篭もり、前述の通りネットサーフィンやダークウェブ、そしてあの"ヴェリタス"も一目置くハッキング技能で新聞のネタを探しているハタテならメディア界隈の監視は私より容易だろう。

 

『メディアの介入を抑えたいなんて余程ね...いいわ、やってあげる。その代わり!ちゃんと私にもアビドスのネタは寄越しなさいよ!』

「はいはい。そっちもちゃんと仕事しなさいよ」

 

 そう締め括って通話を切る。

 

「...まぁ、大体は踏み込むの日和って()()()()()()()()()()()()()()になってばかりだけど、記事自体は誰でも読みやすい文体だしね。情報は複数の引用元(ソース)を比較することでより磨かれる。購読数はまた私の圧勝でしょうけど、偶には稼がせてあげないとね」

 

 そんな事を呟きながら連絡先を開く―――

 

 


~『カイザーPMC』基地 第二戦車格納庫~

side-ヒナ

 

「――整備の具合はどうかしら?」

「――"副議長"、"風紀委員長"!...砂の除去と整備が想像以上に大変ですが、貴重な経験と思って皆頑張っています。『カイザーPMC』の整備士の皆さんの応援もありますし、作戦決行日までには必ず間に合わせます!」

 

―――格納庫の一部を借り受け、"第二戦車大隊"麾下の整備中隊の中隊長が砂塗れの転輪を片手に持ちながらレミリアの問に答える。

 

<「こういう砂の付き方なら...」

<「あっという間に...!」

 

<「『ゲヘナ』は[Panther]も装備するようになったか...懐かしいなぁ。私が『ゲヘナ』にいた時は――――」

<「へ~。昔はそうだったんだ...」

 

「いいか?この場合エンジンは――――」>

「「ふむふむ...」」>

 

「砲弾持ってきたぞー!」>

「よし来た!積み込むぞ!作戦に備えて満載にしろ!」>

 

 

 中隊長の背後では、中隊の整備員と『カイザーPMC』付きの整備士達が戦車の整備を進めている。整備員がベテランの貫禄を醸し出す整備士から教わっているやり取りの方が多く、メモを取っている娘も居る。

 

「結構。――作戦は明後日決行。大隊も主戦力として出撃するわ。決行直前に故障で落伍なんてことはないように万全になさい」

「慣れない環境での作業だけど、頑張って」

「了解しました!」

 

 レミリアに続いて中隊長に激励の言葉をかけ、歩き出す。

 

「――想像以上にことが大きくなったわね。まさか『アビドス』だけでは済まない可能性が浮上してくるなんて...」

「そうね。今までは受動的な防衛行動しか取らなかったらしいけど、唐突に能動的な防衛行動を...自治区を更に砂に埋めようとする行動を取っている。...それだけ、今回の行動が『ビナー』にとって何が何でも排除しなければならない脅威になったのかもしれない」

「その可能性は大いにあるわね。『ビナー』は砂漠の()()()()を守るような行動を取っている、とトオル"理事"は言っていた。...まさか()()()()の類が()()を守る筈がないけど、どの道『ビナー』は討たなければ、ね」

 

 レミリアの言葉に頷く。―――私達が『アビドス』に支援を行う理由と目的である"()()の捜索と破壊"。事実であれば建造された時期は二年程前であり、それより遥か昔に産まれた存在であろう『ビナー』が()()を守る為に動くとは考えられない。しかし、どの道『ビナー』は討たなければ私達の目的は果たせないし、周辺の他校自治区への被害も絶対に阻止しなければならない。

 

「...ヒナ、貴女はこれからどうするの?作戦決行は明後日、時間には少し余裕があるわ」

「勿論、基地の防衛戦に加わる。..."風紀委員会"としての仕事はないけど、何もしないのはもどかしいから」

「相変わらずね...『カイザーPMC』の傭兵達も居るし、せめて夜通し戦うなんてことはやめなさい」

「...分かってる」

 

 レミリアにこれからの予定を聞かれ、基地の防衛戦に加わると答えると据わった眼差しで夜通し戦うのは止めろと釘を刺されてしまい思わず苦笑する。

 

「...そういうレミリアはどうするつもり?」

「射撃場で[スカーレット・グングニル(相棒)]の調整をしたら、トオル"理事"かマミゾウ"理事"と少し話をするつもりよ。...あの二人の『アビドス』復興の意思は確かでしょうけど――()()の存在がある以上、もしかしたら本社や理事会(上層部)から何かしら命令されている可能性がある。素直に口は割らないでしょうけど、反応からでも掴めるものはあるわ」

 

 レミリアは作戦に向けた準備の裏で()()を探す為の情報収集を行うつもりらしい。『アビドス』の卒業生だと言う"理事"二人がホシノ(後輩)達を支援し、復興を目指そうという意思や誠意は私も感じられた。しかし―――レミリアの言う通り、本社や理事会から何かしら()()事業を命令されている可能性がある。

 『アビドス』は傍から見れば滅びかけであり、そんな学校の自治区に大企業たる『カイザー』は態々事業を進出させている。『アビドス』が背負う借金、生徒数(人手)が遥かに少ない故に手が届かない治安維持の代行は一見するとなるほど違和感は無い。

―――レミリアは、そしてマコトはその事業の()を探ろうとしている。『アビドス』の娘達とはまだ信用関係が深くないから、()()()も少なくない『カイザー』からアプローチを図るつもりの様だ。

 

「...気取られないようにね。"理事"二人から警戒されたら、小鳥遊ホシノ達生徒達からの信用も失いかねない」

「えぇ、分かっているわ。...じゃあ、ここで一旦お別れね」

 

 話している内に格納庫を出て、『東部トーチカ連絡路』と『屋内射撃場』への行き先を示す案内板の前で足を止める。

 

「オートマタやドローン程度なら問題ないでしょうけど、貴女も作戦に参加するのだから無茶はしないようにね」

「...レミリアこそ、作戦前に不和を持ち込むような踏み込みはしないで」

 

 互いに無茶はするなと釘を刺し、左右に分かれて歩き出す―――

 

 


~『カイザー』PMC基地 『トリニティ』受入宿舎~

side-ヒフミ

 

「――できたわ。どうぞ」

「あ、ありがとうございます...!」

 

 テンシ様が淹れた紅茶を受け取る。赤みの薄いオレンジ色の透き通った色味が見せているカップの底にプリントされた比那名居家の紋章が、()()()()()()()ティーセットである事を示している。

 畏れ多さに緊張しながらも一口飲めば、マスカットの様な香りと共に爽やかな味わいが口の中に広がる。正に上流階級の方々が嗜む様な高級品だと()()()()()私でも理解出来てしまい、更に緊張感が高まってしまう。

 

「...お、美味しいです...!」

「そう?普段はイクが淹れてくれるから、こうして自分で淹れるのは少し久しぶりだったんだけど...口に合ったなら良かったわ。――これで、緊張は解れそう?」

「...あぅ...」

 

 普段到底飲めない高級品を味わう緊張感もあって只美味しいとしか言えなかったけど、テンシ様は嬉しそうに微笑み、しかし続いた問に対して思わずビクッと肩を震わせてしまい、何も答えられずに俯いてしまう。

 

―――『ヒフミ。ちょうどいい時間だし、軽くお茶にしましょうか』

 

―――作戦会議を終えた後、テンシ様に付いて廊下を歩いていた時に突然お茶に誘われた。最初はその意図が分からなかったけど、どうやら私が抱えている緊張に気付いていたらしい。

 

「...そう、ですね...『アビドス』の皆さんに助けられて、その恩を返したいという気持ちは揺らいでいません。でも...正直に言うと怖いんです。作戦会議前に見せられた、『ビナー』が暴れる様子を捉えた資料映像。そして、今起きている砂嵐...あれだけのことができるような存在を相手に、()()()()()()は何ができるのかって...」

 

 胸の内に抱える緊張を吐露して俯くと、カップを持つ手も微かに震えて赤みの薄いオレンジ色の透き通った液面が同じ様に揺れる様子が見える。自治区を砂に埋めてしまいそうな勢いの砂嵐を生み出せる様な存在に対して、果たして私は何が―――

 

 

 

―――スッ...

 

「――テンシ様...?」

 

―――カップを握る手が優しく包み込まれ、顔を上げるとテンシ様が優しい微笑みを浮かべて私を見つめていた。

 

「――こんな状況で緊張しない訳がないわ。私もまさか『ゲヘナ』が同じ様な行動を取るとは思ってもみなかったし、学校自治区が――『アビドス』が()()()()()に直面するなんて誰が予想できるかしら?

 私だって、こう見えて緊張しているの。相手は謎が多い()()()()の類。しかも自治区を滅ぼし得る程の力の持ち主よ。資料映像で見せていた武装、そして今起きている砂嵐以外にどんな武装、攻撃手段を持っているのか...でもね――」

 

 テンシ様は言葉を切り、数秒瞑目して確かな決意を宿した赤い瞳を見せる。

 

「――()()()()()()()()()。イク達"ソーサーナイツ"の皆も居るし、"砲術委員会"も居る。"風紀委員会"や"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"という『ゲヘナ』の上澄みの戦力まで居るし、『アビドス』を良く知る生徒達と大先輩二人だって居る。勿論――ヒフミ、貴女もね」

「...それだけの方々が居る中で、何も取り柄がない()()()私なんかが――」

「――そんなこと言わないの。ちゃんと貴女にも取り柄はあるわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がね。傍から見てると不安になることもあるけど、危険を前にしても臆さない心の強さは周りの心も奮い立たせる大事な要素よ。...懐かしくなるわね。あの子も小さい頃は...

 

 テンシ様が挙げた、私なんかより余程高い実力を持つ方々と比べて取り柄なんか無いと否定しそうになると、テンシ様は私の手を包む力を少しだけ強くしながら私が持っているらしい取り柄を挙げ、何処か懐かしむ様な表情を浮かべて何か呟く。

 

「...テンシ様達と違って、私は基地で防衛に専念します。それでも...私はちゃんと貢献できるでしょうか?」

「勿論よ。後方を――帰る場所を守ることも大事な役目だし、銃を撃つ以外にもできることは沢山あるわ」

「...ありがとうございます、テンシ様。少し、緊張が和らいだ気がします」

 

 テンシ様の答えを聞いて、不思議と緊張が緩んだ気がしてお礼を述べる。

 

「力になれたなら幸いよ。――さぁ、飲み終わったら行きましょうか」

「はい!」

 

 テンシ様は頷いて包んでいた手を離す。―――残っていた温もりは、私の緊張と共に消えていく気がした。

 

 


~『カイザーPMC』基地宿舎 "便利屋68"の部屋~

side-カヨコ

 

「は~、サッパリしたわ。あの砂嵐のせいでいつにも増して姉さんの髪が...って、カヨコ戻って来てたのね。作戦会議、お疲れ様」

「...お疲れ様、カヨコ」

「二人もトーチカでの防衛戦、お疲れ様。もうすぐコーヒーが頃合いだけど飲む?」

「勿論いただくわ。姉さんも飲むでしょ?」

「うん...カヨコが淹れるのは美味しいから」

 

 コーヒーメーカーの前で出来上がりを待っていると、シャワールームからタオルで髪を拭きながらジョオンとシオンが出て来る。お互いを労い、コーヒーを飲むかと問えば揃って即答する。

 

「...相変わらず、オートマタやらドローンやらはまだまだこの基地に向かって来てる感じ?」

「そうね。相変わらずあちこちから散発的に、数体の群れで向かって来てるわ。大群じゃないのはありがたいけど、警戒を緩める余裕は全然ないわね」

 

 シオンと一緒にソファに座ったジョオンは私の問にそう答える。

 

―――基地を取り巻く状況は殆ど変わっていないらしい。濃霧の如く視界不良の砂嵐の中、オートマタやドローンは数体でグループを形成してあちこちから基地へ接近して攻撃を仕掛けている。頻度は少なく、グループも小規模だから基地外縁のトーチカで食い止められているけど、警戒を緩める余裕が無い何とも絶妙なタイミングで仕掛けて来ている様だ。

 

「...でも、『ゲヘナ』と『トリニティ』からの支援部隊が居るおかげで人員に余裕はできてる。今頃トーチカに居る"社長"からしたら特に"風紀委員長"と"副議長"が出張っているのは気が気じゃないだろうけど、今は味方でいるのが本当に心強い」

「『ゲヘナ』の支援はこの前の『柴関ラーメン』爆破事件に絡む出来事の償いでって解釈できるけど...何だって『トリニティ』まで『アビドス』を支援するんだか。私達と『アビドス』の娘達だけで"鬼傑組"相手は厳しかったからかなり助かったけど...どうにも裏を勘繰っちゃうわね」

 

 ジョオンは眉を顰めて『トリニティ』が支援している事への疑念を吐露する。

 

―――ジョオンの疑念は理解出来る。『ゲヘナ』同様()()()の一角たる『トリニティ』。在籍する生徒は有数の企業や資産家、格式高い名家の子女が多く、校内で流れるお金も凄まじいと言う。しかし、格式高く高貴さもある校風の水面下ではドロドロとした政争が日々繰り広げられていて、特に"ティーパーティー"を構成する分派間のそれは酷いなんて噂されている。

 事実、『トリニティ』側の支援部隊の()()()代表らしい『比那名居テンシ』は"ティーパーティー"を構成する分派の一つ"サンクトゥス分派"の"ホスト()()"を務めている、といつかのニュースで知っている。―――()()とは言え、"ティーパーティーホスト"の一人が直接出向いている以上、"ティーパーティー"の政治的な意図の存在を勘繰ってしまう。

 

「...確かに、『トリニティ』側の意図が読めないのは不安だね。政争、権力闘争...『ゲヘナ』と違う方向で日常的に争う『トリニティ』が何故――」

 

 

 

 

「――ふ、二人共...そうやって疑い続けるのは、よくない...と思う」

 

―――ふと、シオンがおずおずと手と共に意見を挙げる。

 

「...その心は?」

「えっと...私は、ジョオンとカヨコ程頭は良くないけど...遠目で見た、『トリニティ』側の代表の娘と()()()()()を被った娘は、信じていい気がする。...『トリニティ』なんて行ったことないけど、あの二人は...そういう政治?とかの()()()()は持っていない――()()()()()()()()()って、感じられた。だから――」

 

 シオンは一度息を吐き―――

 

「――せめて、作戦の間は信じるべき...だと私は思う。私でも、今の『アビドス』はヤバいって分かるし...爆破されちゃったけど、『柴関ラーメン』なんて美味しいラーメン屋さんがある『アビドス』は滅ぼさせたくない。だから...作戦を成功させる為に、不和は作りたくない...」

 

 シオンは理由を話し終え、緊張を吐き出す様に息を吐く。普段の姿からは想像出来ない、珍しくハッキリした主張にジョオンと揃って一瞬固まり―――

 

「...シオン...珍しいね。そんなハッキリした主張を挙げるなんて」

「..."社長"みたいなこと言うじゃない、姉さん。お昼に何か変なもの食べた?」

「た、食べてない...!ハルカからお昼に出たデザートのプリンを譲ってもらっただけ...!」

 

 ジョオンの茶化しに顔を赤くしてシオンは言い返す。―――本当に珍しい。普段はハルカと揃ってあまり自己主張せず、意見も挙げず"社長"や私達に従うシオンがこうして主張するなんて。

 

「...でも、シオンの言う通りだね。最早『ビナー』は討たなきゃいけない状況になってしまった。作戦を成功させるには、一緒に参加する娘達との間に不和をもたらすのは悪手。...ジョオン、シオンの言う通り作戦の間は『トリニティ』の娘達を信じてあげよう」

「...作戦は絶対に成功させなきゃいけないものね。珍しい姉さんの主張だし、ここは言う通りにしておきましょうか」

「...ありがとう、二人共...!」

 

 ジョオンと揃って主張を受け入れると、シオンは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「...ちょうどコーヒーも頃合いだね」

「相変わらずいい香りね。...そうだ、作戦会議の結果を教えてくれる?私達"便利屋68"の配置はどうなるのかしら」

「トーチカに居るムツキとハルカには"社長"が教えるだろうし、教えておこうか。私達は――――」

 

 コーヒーをマグカップに注ぎながら、作戦会議で決まった私達の配置を伝える―――

 

 


~『カイザーPMC』基地 射撃場~

side-ミヤコ

 

―――ガチャン...!

 

「――!」

 

―――タタタ...!

 

―――最後のターゲットパネルが立ち上がり、即座に狙い澄まして[RABBIT-31式短機関銃]の引き金を引く。放たれた銃弾はパネルの頭部に全てヒットし、パネルが倒れる。

 

『――"ターゲットキル"上級訓練終了』

 

 アナウンスが流れ、[RABBIT-31式短機関銃(相棒)]を下ろして頭上のディスプレイに映された結果を見る。

 

「...評価は"S"。撃破率九割五分、でも急所命中数は着弾総数の八割。もう少し――」

 

 

「――悪くない結果ね。腕は全く鈍っていないようで何よりよ」

「――イナバ先輩!」

 

―――背後から先輩の声が聞こえて振り向けば、調整を終えたらしい[インヴィンシブル・ストライク]を携えたイナバ先輩が居た。

 

「隣、失礼するわ。...確かに急所命中が低めだけど、調整で充分補える範疇ね。そもそもそのサブマシンガンは狙い撃つより弾幕を張ることを重視しているものだから、それを考えれば充分いい腕よ」

「あ、ありがとうございます...!」

 

 レーン備え付けのタブレットで詳細な結果を確認、分析したイナバ先輩(憧れの人)に褒められるとやはり嬉しくなり、思わず口角も上がってしまう。

 

―――作戦会議終了後、昼食を取った午後。トーチカでの防衛戦に加わる前に[RABBIT-31式短機関銃(相棒)]の調整を済ませておこうと思い立ち、調整後の試し撃ちを兼ねて『SRT』の射撃訓練に近い"ターゲットキル"上級訓練コースに挑戦して今に至る。

 

「...じゃあ、私も試し撃ちがてらやってみましょうか。レーン借りるわよ」

「はい、どうぞ」

 

 机に置いていた[RABBIT-31式短機関銃(相棒)]の予備マガジンと予備の銃弾を回収して下がり、イナバ先輩が代わりに立って予備マガジンを置いてヘッドセットを装着し、タブレットで名前登録とコース設定を行う。

 

『――ゲスト登録、優曇華院イナバ。"ターゲットキル"上級訓練開始。ターゲット展開まで3...2...1――START』

 

―――ガチャチャ...!

 

「...!」

 

―――タタタ...!

 

―――次々パネルが立ち上がった瞬間[インヴィンシブル・ストライク]を即座に構えて狙い澄まし、灰色のパネルの中に紛れている撃破(キル)目標である黒いパネルの急所を撃ち抜いて撃破していく。

 

 

―――ダァンッ...!

 

<「――射撃止め。...相変わらずの狙撃技術ね。大口径故の反動によるブレ、セミオートも相まった比較的悪い精度の[RABBIT-39式対戦車ライフル(対戦車ライフル)]でもこの命中率と集弾率..."WOLF1"もきっと成長振りに驚くわ」

<「あ、ありがとうございます...!」

<「...やっぱヤベェなあの娘。あれで『SRT』の一年だろ?」

<「さっきまで調整してたボルトアクションもヤバかったが、それよりデカいセミオート対戦車ライフルでもこれ程か...」

 

―――少し離れた所に据えられた狙撃用レーンではミユさんがセイラン先輩と共に[RABBIT-39式対戦車ライフル(対戦車ライフル)]の調整を行っていて、その轟音の様な射撃音と傭兵の方々の野次馬が驚きの声を挙げる雑音があるにも関わらず、イナバ先輩は冷静に的確にターゲットキルを進めていく。パネルを撃破する弾数も最低限で、マガジン内の残弾も把握して適切なタイミングでリロードしていて、訓練の段階が進むのも私より速い。

 

「...(やっぱり凄い人だ。訓練用でも充分高性能で音を明瞭に拾う故の雑音の多さでも動じない――)」

 

 

―――ガチャン...!

 

―――タタ...カチッ...

 

―――微かに聞こえた。[インヴィンシブル・ストライク]の弾が尽きる音が。いつの間にか最終段階まで進んでいて、しかしその最後のターゲットパネルはまだ倒れていない。

 

 最終段階は複数の人質を盾にした敵勢力を想定したもので、撃破出来なかった場合は灰色のパネルが―――人質が倒されてしまい結果に影響してしまう。この灰色のパネル(人質)が倒されるまでの猶予が()()()()()()()()()に短く、私だけでなく、記録上では傭兵の方々でもクリア出来た方は殆どいない。故に、ここでマガジンを交換すればタイムロスに―――

 

 

「――!」

 

―――パンッ...

 

―――イナバ先輩の判断は早かった。即座に[PL-15K(サイドアーム)]を()()()()()()()()()で抜いて撃つ。銃弾はパネルの頭部ど真ん中にヒットし、パネルが撃破判定を貰って倒れる。

 

『――"ターゲットキル"上級訓練終了。新記録達成。ゲストとして結果を記録します』

 

「...凄い...!」

「...()()()()残弾カウントを逃したわ。パネルだから良かったけど、相手がヘルメットやフェイスガードで防護していたら...」

「...!」

「そんな申し訳なさそうな顔しないで。称賛は素直に嬉しいから」

 

 アナウンスが新記録達成を報じ、私が素直に称賛する一方でイナバ先輩は厳しい表情を浮かべて自身のミスを反省していて、称賛は良くなかったかと思っていたら先輩はフッと微笑んで称賛を受け取ってくれる。...自分に厳しく、しかし他者への気遣いが出来る先輩へ益々憧れが強くなる。私もいつか先輩みたいに...!

 

「...全ターゲット撃破(キル)。急所命中弾は九割六分。タイムも我ながら速いわね」

「...先輩の動きはいつ見ても参考になってばかりです。利き手ではない左手で一発必中させるなんて...」

「あくまで緊急の手段よ。私も一発で決まるとは思っていなかったし」

 

 私の言葉にそう答えながらイナバ先輩はヘッドセットを外す。緊急でも、盾にされた人質を解放するには猶予はあまり無い。そんな外せない場面で決められるのは流石だと思う。

 

<「――少し、よろしいでしょうか」

<「あ、貴女は...」

<「『トリニティ』、"ソーサーナイツ"の『永江イク』です」

<「...SRT(ウチ)のミユに何か用かしら?」

 

―――ふと、狙撃用レーンの方から会話が聞こえて来て目を向ければ、『トリニティ』生だと一目で分かる白い制服に同色のサーコートを羽織った生徒がミユさんとセイラン先輩と話している姿が見えた。あの紫色のショートヘアは確か...

 

「..."ソーサーナイツ"副長の『永江イク』ね。確かトーチカの防衛戦に加わっているって比那名居テンシが言っていた筈だけど...」

 

<「後ろからそちらのミユさんの狙撃を拝見していましたが、同じ狙撃銃を使う者として興味が湧きまして」

<「...狙撃勝負でもするつもり?」

<「...はしたないという自覚はありますが、その認識で合っています。勝負で何か求めるつもりはありませんし、勝負は無理でも傍で見学させてもらいたいのですが...いかがでしょうか?」

 

「...どうやらミユさんと狙撃勝負をしたいようですね。...いいんでしょうか。明後日作戦を決行すると言うのに...」

「いいんじゃないかしら。気を張り詰め続けていたら疲れるし、多少は遊びがあった方が士気も保てるわ。まぁ、結局ミユが受け入れるかどうかだけど...」

「...そうですね。初対面で、しかもイナバ先輩達と同じ三年生の方が相手ですから...」

 

<「...分かりました。勝負、しましょう...!」

<「ミユ、大丈夫なの?無理して受けなくても...」

<「...私も、強くなりたいですから。初めてご一緒する方なら、その動きから得られるものもあるかもしれませんし...」

<「...そう。貴女がやりたいならとやかくは言わないわ。でも、無理だけはしないで」

<「はい...!」

<「お受けくださりありがとうございます。お互い、この勝負が良きものとなるよう励みましょう」

 

 様子を見ていると、ミユさんが頷いてイクさんが[L117]を携えて隣のレーンに立つ。―――どうやら勝負を受けるつもりらしい。

 

「...ふふ、ミユも成長しているわね。『アビドス』が、『シャーレ』がいい影響を与えたのかしら。せっかくだし、私達も見学しましょうか。『永江イク』の狙撃技能には興味があるし」

「...そうですね、行きましょう」

 

 イナバ先輩の提案に頷き、狙撃用レーンに向かって歩き出す―――

 


~『カイザーPMC』基地 屋内試験場制御室~

side-"先生"

 

『――照準システムは充分だ。どれだけ離れていようとこれなら()()()自信がある』

『了解しました。――"L.A.R."のシステムテストを終了します』

 

―――オペレーターがテスト終了を宣言し、"L.A.R."を載せた[ゴリアテ]が待機姿勢を取って駆動音が小さくなっていき、コックピットハッチが開く。

 

「"――お疲れ様、トオル。"L.A.R."の動作確認は順調みたいだね"」

『――"先生"、来ていたのか。マミゾウはどうした?』

『"司令部で防衛戦の全体統括と、発電機や電源車の搬入の指揮を執ってるよ"』

 

 コックピットから降りて来た黒い作業ツナギ姿のトオルに声を掛け、制御室(こちら)を見上げる彼の問にそう答える。

 

―――『"先生"、ちとトオルの様子を見に行ってくれぬか?見ての通り指揮で忙しいのでな...そろそろシステムテストが終わる頃合いじゃ。適当にスポドリでも持って行っとくれ。試験棟にはそのIDカードで入れるから安心せい』

 

―――司令部でマミゾウに頼まれ、こうして制御室から様子を見ていたけど、トオルの大柄な体躯は[ゴリアテ]のコックピットでは少し狭そうだったけど、機器操作には一切淀みが無く[ゴリアテ]を始めとした兵器の搭乗には慣れているのだと実感出来た。

 

『そういうことか...搬入が終われば電源の増設と"L.A.R."への接続だな。――出力百パーセントを実現する為の電源車や発電機の外付け増設。しかしこれでも撃てるのは()()()()。『ミレニアム』の"エンジニア部"の技術の一部を借りて尚これとはな..."エンジニア部"の面々は更なる小型化を目指して息巻いていたが』

「"...トオル。話せたらでいいんだけど、どうして『ミレニアム』と協力してるのか教えてくれる?『カイザー』程の企業ならL.A.R.(レールキャノン)の開発は単独でできそうだけど..."」

 

 制御室に歩いて来るトオルにそう尋ねてみる。―――レールキャノンである"L.A.R."をこうして形に出来るのは『カイザー』と、実際に見た事はまだ無いけど科学技術を主体とする『ミレニアム』位だろう。『カイザー』単独でも実現できそうなのに、何故協力関係を築いているのか...

 

『確かにレールキャノン――電磁投射砲の原理を形にする点だけは我がカイザー単体でも可能だっただろう。ビナーの装甲を神秘の効果抜き、物理だけで貫徹する手段としてすぐ候補に挙がった。だが――原理の実証の次、実用化はカイザーを以てしても厳しかった。我がPMCの開発部門だけでなく、別部門の科学技術に長けた連中と協働しても、実用レベルまでの小型化と莫大な消費電力の効率化はすぐ限界を迎えてしまった――』

 

―――ウィィン...

 

―――制御室のドアが開き、トオルが入ってくる。

 

「"――お疲れ様。細やかだけどこれを"」

「――ありがとう。...話の続きだが。『ミレニアム』、"エンジニア部"と接触したのは偶然だった。...一年程前のことだ。部の予算が枯渇し、なりふり構わない資金獲得の為に企業をも回っていた彼女達がPMC(ウチ)にまで来てな。レールキャノンの小型化と電力効率化について軽く話したら凄まじく食いつかれてな。資金提供の見返りに――部の予算枯渇の元凶である"()()()()()()()()()()()()"開発技術の一部を提供すると提案された」

「"う、()()()()()()...ロマンが凄いけど、そんなの形にしようとしたらそりゃ幾らお金があっても..."」

 

 続く話の中で、"エンジニア部"が作ろうとしているらしい物のスケールの大きさに言葉が出なくなってしまう。それは部の予算も枯渇するだろう。いや、部所か『ミレニアム』の校内予算そのものでも厳しいんじゃないだろうか。

 

「..."先生"ならいつか『ミレニアム』にも足を運ぶだろうから言っておく。俺が学生の頃からだが――『ミレニアム』の連中は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()生徒が大半だぞ。研究や目標が絡んだ時の暴走度合いは『ゲヘナ』の不良と同等だと思う。

 故に『ミレニアム』で活動する部活の予算は常に配分で争うし、その部内でもまた配分でぶつかる。今の『ミレニアム』は幸い史上最高の逸材らしい"セミナー会計"が居るおかげで回っているらしいが...それでも学校財政は相変わらず火の車だろう。

...特に、今も昔も"エンジニア部"は輪を掛けて部内予算なぞ知ったものかというレベルで青天井の開発を行う。なりふり構わない資金獲得で企業にまで頭を下げて回るのはどうかと思ったが...流石に金を動かしたり大々的に協力するのは『カイザー』の風聞的に不味いと、PMC(ウチ)個人との技術協力に留めた」

「"なるほど...それで開発されたのが"L.A.R."なんだね"」

「あぁ。――流石、キヴォトスでも一歩二歩先を行く『ミレニアム』の技術だ。小型化は進展したが...電源については見た通り、カイザー(こちら)の技術と開発期間が足りず無理矢理電源を外付け増設しなければならなかった。"エンジニア部"の技術で()()()()レベルまで小型化すればまだ解決できたが、過度な小型化は寧ろ『ビナー』への――大型目標への効果を減ずると判断して現在の100mm砲弾を撃てる規模で抑えた結果があれだ」

 

 トオルは話を締め括り、彼と共に制御室の窓から見える[ゴリアテ]の頭上に搭載された"L.A.R."を見下ろす。

 

「今回の作戦が成功すれば、"L.A.R."のデータは"エンジニア部"にとっても価値があるものになるだろう。"エンジニア部"との繋がりから"教授"との接触ができて『ビナー』の情報も得られた。...『ミレニアム』は間接的だが、まさか()()()が『アビドス』に協力することになるとはな」

「"でも、おかげでセリカとネイトは救出できたし、『ビナー』を討つ為の戦力も強化された。――トオルの配置は作戦の要。上手く行くことを祈るよ"」

「――やるさ。嘗て砂漠で戦車を相手取った時よりも狙いやすい大型目標だ。必ず当てる」

「"...トオルとマミゾウの学生時代が気になるね"」

「作戦が終わったら酒の肴にでもして話そう。――そろそろマミゾウの所に行くか。"先生"はどうする?」

「"私も司令部に戻るよ"」

「分かった。――では、後は任せるぞ」

「了解しました。――お疲れ様です、"理事"、"先生"」

 

 プカリを一口飲んだトオルと共に制御室を出る―――

 

 


~『カイザーPMC』基地 共用休憩ホール~

side-ホシノ

 

「――そうか。"L.A.R."が出力全開でなくともビナー(アイツ)の装甲をぶち抜いたのは凄かったが、アレが出力百パーセントなら...だが、それでも念押しは必要だな。私達は『アビドス』が抱え続けてきた問題の当事者だし、ビナー(アイツ)と正面から相対するなら望むところだ」

 

―――午後の夕方に差し掛かる頃。トーチカでの防衛戦を他の娘達と交代して戻って来たモコウ先輩とユメ先輩に、作戦でのおじさん達"対策委員会"の配置を説明し終え、モコウ先輩は納得した様に頷く。

 

「本当に凄い規模だねぇ...でも...モコウ、ホシノちゃん。幹線道路解放作戦の時みたいな無茶はしないでね?」

「そりゃ難しい注文だな...私だって出来れば無茶はしたくないが、今回はビナー(アイツ)を討たなきゃならないからな」

()()()()()()()()を信じたいけど、『ビナー』は未知の()()()()ですからね...昨日撃退した時の一撃だけでもあんな砂嵐を起こして、今もオートマタやドローンまでけしかけています。――あの時より強力な一撃を与えたらどうなるか...」

 

 ユメ先輩の言葉に対し、モコウ先輩と揃って難しい表情を浮かべる。―――『ビナー』は今まで見せなかった行動ばかり取っている。砂漠を彷徨うオートマタやドローンへのハッキングと、嘗て『アビドス』本校を呑み込んだ時以上に巨大で強力な砂嵐の発生。明後日決行する作戦でも何をして来るか分からない以上、望まずとも無茶な行動を取らざるを得ない状況に陥る可能性がある。

 

「それでも...無茶をして()()()()なっちゃったら作戦が成功した後に出てくる色々なやることに参加できないんじゃ意味がないよ。――私達だけじゃない。『ゲヘナ』、『トリニティ』の娘達だって居るんだから、一人二人で無茶なんてしなくても皆で力を合わせれば...!」

「...その『ゲヘナ』と『トリニティ』からの支援、よく受け入れましたね。委員長()()を任せたのは自分ですけど、相変わらず...」

 

 ユメ先輩の言葉で今もトーチカでの防衛戦に加わっていたり、作戦準備を行っている『ゲヘナ』、『トリニティ』からの支援部隊を『アビドス』に受け入れる判断を下したのがユメ先輩だと思い出し、呆れた半目で先輩を見つめながら言ちる。

 

「ひぃん、そんな目で睨まないで...た、確かに連絡を受けたアヤネちゃんの報告を聞いた時は驚いたよ。でも...対策委員会(私達)カイザーPMC(トオルさん達)だけじゃ相手が厳しい戦力を相手にする可能性があったし、何より――支援を差し伸べてくれた()()()()()を信じてみようって思ったの」

「...その善意の()を気にしないのは流石というか相変わらずというか...来てくれたのが見知った連中が多かったから良かったが、これからはもう少し慎重に判断してくれ」

「わ、分かった...今度からは気を付ける...」

 

 モコウ先輩に諭され、ユメ先輩は素直に頷く。こうしてあっさり他人を信じ過ぎるのは問題だとつくづく感じる。私が入学する前もよく騙されてモコウ先輩が後始末をしたって聞いているし、私が入学してからも度々騙されていた。でも―――

 

 

「――まぁ、その優しさといつでも前向きなのがお前のいい所だ。そのおかげで、私も何だかんだここまでついて来れたしな」

「そうですね...偶にお気楽だなって呆れることもありますが、こっちも前向きになれましたから」

「ひぃん...ホシノちゃん相変わらず言葉の棘が...」

 

 モコウ先輩に続いてユメ先輩の良い所を褒めようとして、つい棘を含んだ言い方をしてしまって先輩は項垂れる。入学当初からユメ先輩に対して辛辣な言い方ばかりだったおかげで中々その時の癖が抜けない。

 

「――兎に角、明後日は気を引き締めてくれよ。"対策委員会"総出で『ビナー』と正面から相対するんだからな」

「勿論油断なんてしないよ。セリカちゃんとネイトちゃんの分も頑張らないとだから」

「AIが感情を理解するのか分かりませんが...状況としては『ビナー』は()()()()()と例えていいと思います。作戦中にまた知らない行動を取る可能性は充分にあるので、油断なく臨みましょう」

 

 話題を変えたモコウ先輩の言葉にユメ先輩と揃って頷く。今の『ビナー』は何を仕掛けて来るか予想出来ない。何をされても対応出来る様に、気を引き締めなければ。

 

「...あ、そうだ!私ね、作戦が終わったら二人に――」

 

 

―――ビーッ!ビーッ!

 

「「「――?!」」」

 

()()()()()()()()()()()()()!!()()()()()()()()()()()()した!!――緊急事態だが、"サン・シップ"作戦を前倒しで発動する!!参加部隊、人員各位は出撃準備せよ!!繰り返す――』

 

―――突如警報が鳴り響き、続いてトオルさん自らのアナウンスが響く。

 

「――どうやら痺れを切らしたみたいだな。行くぞ」

「ひぃん...いきなり過ぎるよぉ...!」

「弱音を吐いてないで行きますよ!」

 

 戸惑った表情を浮かべるユメ先輩を立たせ、モコウ先輩に続いて格納庫に向かって駆け出す。

 

―――まさか『ビナー』から動き出すとは予想外だ。でも、前向きに考えれば『ビナー』を討つ機会が早く来たとも取れる。

 

―――『ビナー』は今ここで討つ。そして、長らく『アビドス』を脅かした最大の脅威を祓う―――!

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで少し長くなりましたが、作戦前のやり取りでした。前倒しだけど遠足の始まりだ!

あ、それから活動報告でちょっとしたお知らせがあります。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=319121&uid=187500
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