Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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ビナー討伐戦、後半です。


File33-Ab.~アペプを討て②~

~『カイザーPMC』医療棟 病室~

side-セリカ

 

パパパ...

ズゥゥン...

 

「...まだ、やってるみたいね」

「相手はあの『ビナー』だ。速攻で終わるようなタマじゃねぇだろ」

 

 カーテンを開けた窓から見える、オーロラが揺れる夜空を眺めている私の呟きにネイトはそう返す。

 

―――夕方頃。砂嵐で何も見えなかったけど、慌ただしい騒音が聞こえて来て何が起きたか軍医さんに聞いたら、『ビナー』がこの基地を目指して前進を始めて、明日決行する予定だった『ビナー』討伐作戦を前倒しで発動し、参加部隊が大急ぎで準備を始めていると教えてくれた。

 最初は急な作戦の発動で皆ちゃんと動けるか不安だったけど―――夜に差し掛かった頃に突然砂嵐が晴れ、今も見えているオーロラが揺れる夜空が現れた。どうして砂嵐が晴れてオーロラが現れたのか分からないけど、砂嵐が晴れたおかげで『ビナー』をしっかり相手取れる筈だ。

 でも、『ビナー』は謎が多い古(・)代(・)兵(・)器(・)の類。果たして皆は『ビナー』を討伐できるのか―――何か危(・)険(・)な(・)目(・)に遭っていないか。気になり続けて眠る事も出来ず、こうしてネイトと一緒にオーロラが揺れる夜空を眺めている。

 

「...皆、大丈夫よね?軍医さんの話だと『ゲヘナ』と『トリニティ』からの支援部隊も居るらしいから、それだけの大戦力も参加してるなら...」

「油断はできねぇぞ。『ビナー』は確か、大規模集団を相手取ることに特化した武装を持ってるだろ?それにビナー(アイツ)は古(・)代(・)兵(・)器(・)の類...アタシらが知らねぇ攻撃手段を繰り出してくる可能性もある」

「そうね...もどかしいわね。皆戦ってるのに、私達だけこうしてベッドで寝てるしかできないなんて...」

 

 そう呟いて俯き、布団の中で手を握り締める。―――幹線道路解放作戦では『ビナー』に装甲車を吹き飛ばされ、その後は"鬼傑組"に誘拐されて、その"鬼傑組"の手で砂漠に放り捨てられて...ずっと大変な目に遭い続けていて何か貢献出来た記憶が無い。

 

 今もきっと、先輩達や"対策委員会"の皆が戦っている中で私は―――

 

 

―――ギュッ...

 

「――ネイト...?」

 

―――布団の中でネイトに手を握られて、彼女を見る。

 

「――そう自分を卑下するんじゃねぇ。アタシらが遭った災難はどうしようもねぇってのは皆分かっている筈だ。アタシらができるのは――誘拐されて囚われて、その後砂漠にほっぽり出されて『ビナー』に襲われて...ケガして疲弊したこの身体をしっかり癒して、皆に元気な姿を見せてやることだ。まだ治り切ってねぇこの身体で戦っても足手纏いにしかならねぇしな」

「...でも...」

「戦うだけが全てじゃねぇ。そうだな...しっかり治して、ラーメン皆に食わせてやろうぜ。トオルさんの話じゃ店は吹き飛ばされたらしいが、"大将"なら諦めねぇだろうしな」

 

 ネイトはそう言ってニカッと笑う。―――ネイトの前向きな所はあの時から変わっていない。その姿で何度励まされただろうか。

 

「...そうね。『アビドス』と言えば『柴関ラーメン』だものね。――分かった。身体をしっかり治して、厨房に立てるようにしましょうか」

「あぁ。"大将"にゃ及ばずとも、アタシらの最高のラーメン作って作戦成功を祝ってやろうぜ」

 

 ネイトの言葉に頷き、お互い笑い合う―――

 

 


 

―――『...静かだ。この竹林は元々静かな方だが...違和感を感じる程に静か過ぎる』

 

―――見知らぬ――だが何(・)故(・)か(・)自(・)分(・)自(・)身(・)の(・)様(・)な(・)親(・)近(・)感(・)を(・)感(・)じ(・)る(・)――誰(・)か(・)の視点。

 

 夜の竹林――『アビドス』じゃ一切見られないものなのに、何(・)故(・)か(・)す(・)っ(・)か(・)り(・)見(・)慣(・)れ(・)た(・)竹(・)と(・)竹(・)林(・)だ(・)と(・)分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)――を歩きながら竹の枝葉に殆ど占拠された夜空を見上げながら誰(・)か(・)は何かを呟く。

 

―――今回の夢(・)ら(・)し(・)き(・)イ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)は今(・)ま(・)で(・)よ(・)り(・)鮮(・)明(・)だ。

 

 

―――『ってぇ...ゆびきった...』

―――『わぁ...きずがあっというまに...すごいねモコウ!』

 

―――物心着いた子供(ガキ)の頃から、私の治癒能力は群を抜いて高かった。紙で指を切った程度の切り傷なら十秒も要らず治る治癒能力は、家が隣同士ですぐに仲良くなった幼馴染のユメから羨ましがられたものだ。

 

―――『モコウ?!』

―――『イテテ...よし、治ってきたな...』

―――『またあなたは無茶を...!』

 

―――その治癒能力に任せてよく無茶をして、度々ユメに怒られた。だが、それでも治癒能力に任せた無茶は偶にやってしまう。

 

―――『じゃーん!モコウ見て見て!一見カバンに見えるこちら。展開すると~?』

―――『...折り畳み式のシールドか。ハンドガンホルスターと小物入れ付きとは偉く高機能だが...』

―――『何度しかってもモコウはいつも、いっつも無茶してケガしてばかりだから...マミゾウさんとトオルさんにお願いして取り寄せてもらったのが今朝届いたの!貯金(お金)ゴッソリなくなったけど、それでモ(・)コ(・)ウ(・)を(・)護(・)れ(・)る(・)なら安い買い物だよ!』

―――『...アビドス(学校)の予算使ってたらぶん殴ってたぞ。お前の戦闘スタイルをどうこう言うつもりはないが...おっちょこちょいなお前がそれを使えるか不安だな』

 

―――何度しかられてもつ(・)い(・)つ(・)い(・)無茶をしてしまう私を見かねたユメが、今も相棒として使っているシールドを装備してタンクとして前に出る様になっても治癒能力に任せた無茶は中々改められなかった。

 

―――何もかも足りない『アビドス』で、無茶をしなければ突破出来ない局面には度々直面する。復興を志すユメを支える為なら、無茶は上等だが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――治癒能力を何度も発動して来たせいか。それとも別(・)の(・)要(・)因(・)なのかは分からないが、恐(・)ら(・)く(・)私の神秘由来のこの治癒能力を使うと、今も見ている様な―――知(・)ら(・)な(・)い(・)筈(・)な(・)の(・)に(・)心(・)底(・)馴(・)染(・)む(・)様(・)な(・)情(・)景(・)を(・)見(・)る(・)誰(・)か(・)の(・)視(・)点(・)の(・)夢(・)を高確率で見る。

 

―――知(・)ら(・)な(・)い(・)筈(・)の(・)竹(・)林(・)。

 

―――竹林の奥地にある、よ(・)く(・)見(・)慣(・)れ(・)た(・)馴(・)染(・)み(・)あ(・)る(・)と(・)感(・)じ(・)ら(・)れ(・)る(・)和(・)風(・)の(・)屋(・)敷(・)ら(・)し(・)き(・)建(・)物(・)。

 

―――その屋敷に住んでいるらしい、これまたよ(・)く(・)見(・)慣(・)れ(・)て(・)馴(・)染(・)み(・)あ(・)る(・)と(・)感(・)じ(・)ら(・)れ(・)る(・)三人の――一人は最近一緒に作戦で共闘したヤツとよく似ている――住人とのやり取り。

 

 

 

 

 

 

―――そして、空(・)を(・)飛(・)ん(・)で(・)三人の内一人と色(・)と(・)り(・)ど(・)り(・)の(・)光(・)る(・)弾(・)を(・)撃(・)ち(・)合(・)う(・)情(・)景(・)―――

 

―――私は知らない筈なのに、何故か見(・)慣(・)れ(・)て(・)い(・)て(・)馴(・)染(・)み(・)が(・)あ(・)る(・)と感じる情景を、治癒能力を使った後で眠ると度々見て来た。

 

―――今まではぼんやりしていたり、断片的で短かったりしたが...今見ている情景は結構鮮明だ。何を言っているのかは不鮮明で聞こえないが、誰(・)か(・)が見ているこの情景は今までよりハッキリしている。

 

―――『...ん...?空に何か――』

 

―――誰かは足を止め、竹の枝葉の隙間から見える夜空に目を凝らす。夜空をよく見れば―――

 

 

 

 

~『アビドス』砂漠 装甲車落下地点~

side-モコウ

 

ボォォッ...!!

 

「――っ?!」

 

―――消(・)し(・)飛(・)ん(・)だ(・)右腕から熱を―――だがまるで癒(・)す(・)様(・)な(・)感(・)覚(・)も同時に感じて意識が覚醒する。右腕を見れば―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アツィルトの光(レーザー砲)で右(・)腕(・)共(・)々(・)消(・)し(・)飛(・)ん(・)だ(・)ジャケットと制服のシャツの袖は無いが、ま(・)っ(・)さ(・)ら(・)で(・)傷(・)一(・)つ(・)無(・)い(・)右(・)腕(・)が見えた。

 

 

「――は...?何で右(・)腕(・)が(・)再(・)生(・)して――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――モコウッ!!」

 

ギュゥゥッ...!

 

「ぐぇっ...?!――ゆ、ユメ...?!」

 

―――突然背後から誰かに抱き締められ、振り向けば今にも泣きそうなユメの顔が見えた。

 

 

「バカバカバカッ!!モコウのバカッ!!何で私達を生身で庇ったの??!!奇跡的に逸れたけど右(・)腕(・)を(・)丸(・)ご(・)と(・)な(・)く(・)し(・)て(・)...!」

「ぐ、苦し...そりゃお前らを護る為で...正直アツィルトの光(あのレーザー砲)を真正面から受けたら全(・)身(・)消(・)し(・)飛(・)ん(・)d「モコウの大バカッ!!そんなことされて護られても全然嬉しくないッ!!!!」絞めるな絞めるな...!飛ぶ...!意識が飛ぶ...!」

 

 ユメとミヤコの前に躍り出て突き飛ばして庇った理由を説明していると更に強く抱き締められて意識が飛びかける。

 

「バカッ...!!モコウは大バカだよ...!!直前で誰かが『ビナー』の側頭部を攻撃したおかげで奇跡みたいに逸れたけど...っ腕が...右腕がッ!!」

「っぐぉ...その右腕...よく見ろ...私もまさか...こうなるとは思ってもみなかったが...」

「何を言って...!...言っ......て......」

 

 意識をどうにか保ちながら再(・)生(・)し(・)た(・)右(・)腕(・)を見ろと指摘する。ユメは私の右腕に目を向けたのか呆然として―――

 

 

 

 

 

 

 

「――腕がッ?!何で再生してるの??!!確かになくなっていたのに??!!」

「あだだ...!!そんな強く掴むな...!!」

 

―――即座に私の右腕に飛び付く様に掴み、関節とは逆方向に引っ張られかけて痛みを感じて止めろと声をあげる。だが、痛覚もあって指も普通に動く。―――どうやら本当に完(・)全(・)に(・)再(・)生(・)し(・)た(・)らしい。

 

「あ、ごめん...!でもなんで...?確かに右腕は丸ごと...」

「...私が知りたい。身(・)体(・)の(・)欠(・)損(・)なんてこれが初めてだ。...まさか欠(・)損(・)も(・)再(・)生(・)す(・)る(・)なんて我ながら恐ろしくなるな」

 

 戸惑って声を震わせながら手を離すユメにそう答えながら改めて右腕を動かす。―――腕の関節も、指も五本全て普通に動く。

 

「...でも...よかった...!モコウが腕を失ったままだったら――」

 

 

 

 

「...ぅ...ん...?」

「――はッ?!ミヤコちゃん、大丈夫?!」

 

―――背後でミヤコの呻き声が聞こえ、ユメが咄嗟に私から離れてミヤコに駆け寄る。私も再生した右腕の確認を止めて―――

 

 

 

 

 

 

[GRRR...!!]

 

 

「...あ、ヤバ――」

 

―――顔を上げると忌々しそうに二対の眼光を強めた『ビナー』が私を見下ろして唸り声を漏らしているのが見えて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ドォォンッ!!

 

[GAA?!]

 

―――ゴォッ...!

 

「っ...?!あれは――"雨雲一号"と"二号"か?!」

 

―――『ビナー』の頭部にロケット弾数発が着弾し、『ビナー』は怯んだように頭を軽く仰け反らせる。その左右を見慣れたヘリ―――"雨雲号"二機が飛び去って離脱していき―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ザザッ...!

 

―――ガチャガチャ...

 

「「「「「――先輩ッ!!」」」」」

 

―――私達の周りに装甲車が次々止まり、ホシノ達や元"カタカタヘルメット団"の奴ら―――セリカとネイトを除いた『アビドス』の全員が駆け寄って来る。

 

「――モコウ先輩!何バカなことをやってるんですか!!普段私に無茶するなって言っておいて――何自分自身は命(・)を(・)投(・)げ(・)捨(・)て(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)無(・)謀(・)な(・)こ(・)と(・)をやってるんです――かッ!」

 

ガィンッ!

 

―――ドォォン...

 

―――ホシノがオッドアイに怒りを宿して私に詰め寄り、飛んで来たミサイルを横目で見てシールドで弾き飛ばす。

 

「まさか、あんな無(・)謀(・)な(・)こ(・)と(・)をやるとは皆さん思ってもみなかったみたいですよ~♣少なくとも...『アビドス』の娘達は皆モ(・)コ(・)ウ(・)先(・)輩(・)の(・)無(・)謀(・)な(・)行(・)動(・)を見ていましたよ♣」

「...流石にあんな行動は、ユメ先輩とミヤコを守ろうとしたとは言えありえない。とりあえず...インカム繋ぎ直してみるべき」

「シロコお前、何言って――」

 

 珍しく据わった半目でノノミに見下ろされ、続くシロコの言葉に促されてインカムを弄って回線を繋ぎ直すと―――

 

 

 

 

『――やっと繋がりましたか。こちら"Aten3"、"雨雲一号"のアヤネです。モコウ先輩――作(・)戦(・)成(・)功(・)の後でお(・)話(・)し(・)し(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)ので、逃げないでくださいね。

 ビナーは私達"アテン"と"セベク"参加の『ゲヘナ』、『トリニティ』の皆さんでもう暫く制圧して抑えておきますので、早くすべきことをやって復帰してください。では――』

 

―――初めて聞いた、凄(・)ま(・)じ(・)く(・)冷(・)や(・)や(・)か(・)で(・)淡(・)々(・)と(・)し(・)た(・)声色のアヤネの通信を聞き、一方的に切られて呆ける。

 

「――そりゃアヤネちゃんも怒るよ。モコウの行動がどれだけ無謀で、最悪皆(・)を(・)ず(・)っ(・)と(・)悲(・)し(・)ま(・)せ(・)る(・)結(・)果(・)をもたらしかねないものだったか...分かった?」

「...あぁ、分かった。よーく分かったよ!!」

 

 シールドの小物入れに備えた応急キットでミヤコのケガを処置するユメの言葉を聞いて、よく分かったと声をあげながら立ち上がり―――

 

 

 

 

「...状況が状況だから今は手短に済ませるが――バカなことして悪かった」

 

―――『アビドス』の皆に頭を深々と下げる。

 

「――二度とあんな無謀なことはしないでくださいよ。先輩はまだまだ必要なんですから」

「作(・)戦(・)が(・)成(・)功(・)したら、セリカちゃんとネイトちゃんにも話して謝ってくださいね?」

「ノノミに賛成。後はアヤネのお(・)説(・)教(・)からも逃がさないから、覚悟して」

 

「...正直、私が気絶していた間の状況はまだ全て理解できていませんが...どうか、無謀なことはやめてください」

「ミヤコちゃんの言う通りだよ。私だって、幼馴染は失いたくないんだから...!」

 

 

「...あぁ全く...この上なく最高の仲間だな、お前ら」

 

 皆の言葉を受けて見回す。元"カタカタヘルメット団"の奴らも言葉は無いが、決意を宿した目を私に向けている。ハッと鼻を鳴らして笑い、運良く傍に落ちていた[不死鳥の羽根(相棒)]を拾い、砂を払って携える。

 

 

 

 

 

 

「――改めて、全(・)員(・)で(・)生(・)き(・)て(・)『ビナー』を討つぞ。お前ら、力を貸せ!」

 

「「「「「はいッ!!」」」」」

 

―――オーロラが揺れる夜空に意気軒昂な返事が響き渡った。

 

 


~『アビドス』砂漠 "セベク"指揮車~

side-"先生"

 

『――こちらモコウ。これより戦闘に復帰する!』

「"モコウ、大丈夫なの?!"アツィルトの光"が撃たれた時に右(・)腕(・)を(・)失(・)っ(・)た(・)って――"」

『――それなら再(・)生(・)し(・)た(・)!何でかは私にも分からないが...多分私の治癒能力の本気か何かだろう!とにかく右腕は無事だ!』

「"さ、再(・)生(・)...分かった。でも、あんな無謀なことはもうしないでね!"」

『ホシノ達からも散々言われたからな。命大事に戦うさ!』

 

『GAA――!!』

 

 モコウが戦闘への復帰を報告し、"アツィルトの光"から庇おうとするなんて無謀な行動はもうしない様にと釘を刺して通信を切り、車載カメラの映像を見る。"アテン"の執拗な攻撃に怒った様に『ビナー』が咆哮をあげ、"アテン"のヘリが散開して距離を取ると同時にモコウ達が乗り込んだ装甲車も散開して走り出す。

 

―――『こちら"Aten3"アヤネです!ビナーがモコウ先輩達に対して"アツィルトの光"で追撃!奇跡的に逸れましたが...モコウ先輩が...モコウ先輩の腕が...っ...!』

 

―――モコウ達が乗り込んでいた装甲車が『ビナー』に吹き飛ばされ、ドライバーの傭兵(この傭兵は落下した装甲車の中に取り残されていたけど、奇跡的にケガは無く回収出来た)以外の三人を助けようと動き出す前に『ビナー』がミサイルを矢継ぎ早に撃って部隊の接近を妨害。そして―――"アツィルトの光"でモコウ達に追撃を掛けた。

 カメラの映像ではアツィルトの光(レーザー砲)が三人から逸れた様子は確認できて一安心したけど―――アヤネが全回線に繋いだ通信で伝えた凶(・)報(・)で場が一瞬凍った様に沈黙した。

 

―――キヴォトスの人間は私が知る常人よりも硬(・)い(・)と思う。生徒ではない大人でも、爆発や銃弾を食らってもそこまで深傷にはならないらしく、ヘイローを持つ生徒はそれに輪を掛けて身体能力が高いと、『アビドス』で指揮を執っていて実感した。

 故に、身体が銃弾の一発二発では大して傷付かない程に丈夫である事は―――死(・)の(・)危(・)険(・)へ(・)の(・)意(・)識(・)の(・)希(・)薄(・)さ(・)に繋がっていると、アヤネが齎した凶(・)報(・)への皆の反応で感じた。アルやヒナ、テンシ―――大人であるマミゾウですら数秒沈黙していた程だ。

 

―――キヴォトスでは外(・)よ(・)り(・)も(・)死(・)が(・)遠(・)い(・)。銃撃戦やら爆破テロやらが日常同然に頻発する故にそう適応したのかもしれないけど、"先生"として―――生徒達(子供達)を教え導く者としては少しでも変えるべきものだと思う。

 銃撃戦や爆発が無くなれば、銃火器を持つ意味も無くなる。"銃火器を持たない者は全裸で出歩く者より少ない"とまで謳われる程に銃社会が馴染んでしまっているなら、変える事は無謀と思える程に難しいだろう。でも、せめて私が"先生"の地位に在る限りは―――

 

 

『――こちら司令部!前線の各隊、聞こえておるな?"L.A.R."用の外付け電源の増設が完了した!これよりチャージを始める!予測の域を出ぬが...用意が整うまでお(・)よ(・)そ(・)二(・)十(・)分(・)!

 しかし、増設も急拵え故トラブルが起きて伸びる可能性は十二分に有り得る。用意完了が目前になったらこちらから伝達する故、今はでき得る限り戦域にビナーを留めよ!』

「"了解!"」

『"アテン"了解!さぁ貴女達!ここからが正念場、気合を入れ直して往くわよ!』

『"セベク"、了解した!二十分とはなんとも言えない長さだな...』

『...モコウ、復帰しよったか。どうやら五体満足のようで何より。――じゃが作(・)戦(・)成(・)功(・)後、大人(先輩)として言(・)い(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)があるのでな。――必(・)ず(・)生(・)き(・)て(・)帰(・)還(・)せ(・)よ(・)』

『...分かってる。既にアヤネの説教(予約)が入ってるしな。...こりゃ丸一日かぁ...?成功したら祝賀会だろうし、どさくさに紛れて...』

 

―――司令部のマミゾウから通信が入り、『ビナー』の釘付けが指示される。私とアルに続いてモコウが了解を伝えると、マミゾウはアヤネと似た様な釘を刺して通信を切る。...偶然聞こえたモコウの小さな呟きは聞かなかった事にしよう。

 

「"――作戦は次の段階に進んだ。『ビナー』の攻撃は相変わらず苛烈で、周辺から接近するオートマタやドローンの数も減る様子はない。――でも、ここで『ビナー』を押し留れば強(・)烈(・)な(・)一(・)撃(・)を撃ち込める!私は指揮でサポートを続けるけど――最前線で戦う君達全員が要だ。頼んだよ!"」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

―――私からも改めて発破を掛け、皆の意気軒昂な応答が耳を震わせた。

 

 


 

side-ホシノ

 

『――三時の方向からオートマタとドローンの混成グループ接近』

「――あれだね。迎撃開始...!」

 

バラララ...!

 

 シロコちゃんの報告を聞いて見回せば報告通りの方角からドローンとオートマタの混成グループがこちらに迫って来ている様子が見え、[M134(ミニガン)]を撃って弾幕を張る。

 

[[Gi?!]]

[[[GAGA...?!]]]

[[...?!]]

 

 弾幕を受けてオートマタやドローンが次々倒れ、落ちていく。

 

―――『ビナー』との戦闘を再開して十数分が経った。ついさっき何度目かの砂嵐を凌ぎ、『ビナー』がまたミサイルを撃ち始めたタイミングでオートマタやドローンの接近を探知した。

 私達を含めた"セベク"の装甲車数台と"アテン"のヘリ数機で迎撃に移り、私達が受け持つ方面ではこのグループで最後の筈だ。

 

『全オートマタ、ドローン撃破を確認。このまm後方、六時の方向からミサイル三!』

「っ?!間に合わ――」

 

 シロコちゃんの急報を受けて銃座を回すけどこのままだと間に合わない―――

 

 

 

バラララ...!

ドドドォォン!!

 

―――ザザッ...!

 

「――って、あれは...!」

 

―――左後方から弾幕が張られ、ノノミちゃんが銃座に乗っている装甲車が近付いて来る。ノノミちゃんは私に気付いて大きく手を振る。

 

『――間に合いました...!ホシノ先輩、大丈夫ですか~?!』

「ノノミちゃん、助かったよ!」

 

 ノノミちゃんが繋いだ通信に手を振り返しながら応える。

 

『ふふ、どういたしまして☆...この辺りはもうオートマタやドローンは確認できませんね。一先ず小康状態、と言ったところでしょうか?』

「シロコちゃん、索敵情報はどう?」

『...今の所ビナー以外の敵影なし。このままビナーへの攻撃に戻るべき』

「そうしよっか。――『ビナー』のミサイル、発射量が減(・)っ(・)て(・)る(・)ように見えるね」

 

 

[GAAAA!!]

 

 シロコちゃんの提案を受け入れながら『ビナー』の方に顔を向け、双眼鏡でよく見れば背中のVLSセルの幾つかから煙が上がっている様に見え――いや、一つのセルの煙が消えて蓋が開いてミサイルを撃ち始めた。

 

『"デカグラマトン大隊"とゲヘナ"第二装甲大隊"の戦車による砲撃の成果ですね。ですが...どうやら自(・)己(・)修(・)復(・)能(・)力(・)があるみたいで、しばらくするとまた撃ち始めるみたいです』

「――今見えたよ。本当、厄介な存在だね...」

『...でも、修復速度は遅いように見える。戦車の砲撃も結構狙った所に当たるようになってるみたいだし、修復速度を私達の攻撃による損壊頻度が上回れば――』

「――ミサイルは封じられるってことだね。でも、オートマタやドローンは相変わらずいやらしいタイミングで接近するし、『ビナー』は自己修復の速度を理解していて操っているのかもしれない。――これまで通り、基本は『ビナー』を狙って、オートマタやドローンが来たら迎撃。これを繰り返そう。マミゾウさんが言っていた時間までもう少し...皆、頑張るよ!」

『はい!』

『了解...!』

 

 二人の元気な応答が返って来て、装甲車は『ビナー』の方へと方向を変える―――

 

 


~『アビドス』砂漠 "セベク"指揮車~

side-"先生"

 

『――こちら"デカグラマトン大隊"。部隊損耗率がもうすぐ二割nドゴォンッ!..."独立機動中隊"の[ゴリアテ]二輌目か殺られた!"自走防空中隊"は健在だが弾薬僅少!不味いな...!』

『――こちらゲヘナ"第二装甲大隊"。部隊損耗率は一割未満だけど、各車の弾薬僅少。特に榴弾は各車緊急用を除いて五(・)発(・)未(・)満(・)よ』

『――こちら"Aten1"!全機ロケット弾、ミサイルが尽きたわ!機銃はまだ大丈夫だけどビナーの装甲は...』

『――こちら"セベク"のモコウ。各車[M134(ミニガン)]の弾薬僅少。何なら数台尽(・)き(・)て(・)い(・)る(・)。各々の銃の弾薬はまだタップリだが...ビナー相手に銃撃戦は流石に無謀だろう』

 

―――インカムに続け様に各隊の弾薬僅少報告が入る。

 

――マミゾウから"L.A.R."へのチャージ開始の通達が齎されてからもうすぐ一(・)時(・)間(・)が経とうとしている。どの部隊も弾薬が少なく、弾切れを起こしている車両や機体も増えている。

 

「"了解。...不味いね。予定時間の倍(・)以(・)上(・)経っているせいで弾薬が足りなくなっている"」

『ごめんなさい、"先生"...現在のリソースでは"クラフトチェンバー"へのアクセスも厳しいです』

「"アロナはよく頑張ってるよ。...しかしどうしたもの――"」

 

 

 

 

 

 

『――こちら司令部のマミゾウじゃ!遅れてすまぬ!"L.A.R."のチ(・)ャ(・)ー(・)ジ(・)完(・)了(・)!い(・)つ(・)で(・)も(・)撃(・)て(・)る(・)ぞい!』

 

―――全通回線でマミゾウの報告が入る。ちょうどいいタイミングでの報告だ。

 

「"よし来た!皆、『ビナー』を――"」

 

 

 

 

 

 

 

 

[GRR...!!]

 

『な、ぇ...?!び、ビナー潜行!!』

『はぁ?!このタイミングでか?!』

『まるで狙ったみたいに...!』

『な、なんですってーー?!ど、どどどうするの――』

 

 

 

 

 

 

「"――皆、潜(・)行(・)後(・)の(・)砂(・)嵐(・)の(・)回(・)避(・)、及びビ(・)ナ(・)ー(・)の(・)再(・)出(・)現(・)を(・)警(・)戒(・)するんだ!"」

 

―――動揺する皆を落ち着かせる様に指示を出す。

 

『"先生"?!何を言って――』

 

 

 

 

...ゴォォッ...!

 

『砂嵐発生!!あわわ...か(・)な(・)り(・)巨(・)大(・)です!』

「"皆回避を!――大丈夫、私(・)を(・)――いや、ト(・)オ(・)ル(・)を(・)信(・)じ(・)て(・)!"」

『あの砂嵐程じゃないがそれでもデカいな...!皆、今は"先生"の指示を信じて従え!』

『アビドスを砂に埋めかねなかったあの砂嵐より遥かに小さいけど、それでもこの規模は不味いわね...!イク、索敵情報はしっかり見なさい!』

『ヤバいってヤバいって!気流に捕まる前に全速力で離れて!』

『全車、全速力で距離を取って!あの規模の砂嵐でも戦車は吹き飛ばされかねない...!』

 

 砂嵐が発生した事で私の指示の意図を追及する暇は無くなり、皆砂嵐の回避に専念し始める。

 

『な、何でこっちに来るのよーー?!もっと速く!何か機体が危(・)な(・)い(・)揺(・)れ(・)方(・)してるわよ?!』

『うっひゃぁ凄い砂嵐だ...!分かってるだろうけどお互いの距離も気を付けてよ!』

『――前方、ドローン...いえ、砂嵐の気流に巻き込まれて吹き飛んだわ。砂嵐の軌道までは制御できないのは僥倖ね』

『ひぃん、こっち来てるよぉ!』

「――"先生"、砂嵐から離れるから運転少し荒れるぞ!」

「"分かった!回避は君に任せるよ!"」

 

 インカムに次々入る、必死に砂嵐を回避する様子に続いて指揮車のドライバーの傭兵からこの指揮車も回避機動に移ると報告される。数秒後に車両が右に左に揺れ始める。

 

「"っと...!アロナ、『ビナー』の位置は追えてる?!"」

『はい、ギリギリソナーの範囲内なのでどうにか追えています!地中をグルグル動いているみたいなので、出現の機を伺っているみたいです!』

「"モコウ達の二の舞は避けたいからね。しっかり追い続けて!"」

『はい!』

 

 揺れに耐えながらアロナに尋ねつつ画面を見る。確かにソナーの範囲ギリギリの位置で『ビナー』らしき反応がグルグル周回する様に動いている様子が見て取れる。

 

『――砂嵐の威力が落ち始めました!間もなく消失します!』

 

...ザァァ...

 

―――アロナの報告を聞いて顔を上げ、カメラの映像を見れば、砂嵐の強風が治まっていく様子が見えた。案の定、風で巻き上げられた無数の砂が舞い散っていて視界は悪い。

 

「"皆、警戒を厳に!アロナ、『ビナー』から――"」

 

 

 

 

『前方約三百メートル先に大きな振動を検知!ビナーが――』

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォン...!

 

[GYY...!!]

 

カァァ…!

 

『び、ビナー口内に高(・)エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)反(・)応(・)?!これは――』

『『『『『"先生"?!』』』』』

 

 アロナが『ビナー』の出現と同時に"アツィルトの光"のチャージを始める様子が見て取れる。視点的に明らかに指揮車(私)狙(・)い(・)だ。それに気付いた皆の声がインカムに入る。けど―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"――これでいい。マミゾウの言葉を信じるなら、この状況は当(・)て(・)や(・)す(・)い(・)筈だよね――――トオル"」

 

 

 

 

...イィィンッ...

 

...バゴンッ...

 

[――――]

 

 

 

 

ズゥゥゥンッ...!!

 

 

―――呟いた瞬間、『ビ(・)ナ(・)ー(・)』の(・)頭(・)部(・)が(・)穿(・)た(・)れ(・)た(・)様(・)に(・)吹(・)き(・)飛(・)ぶ(・)。頭(・)部(・)を(・)喪(・)失(・)して発声すら出来なくなった『ビナー』は数秒硬直した後横に倒れる。

 

 

「"――『ビナー』の頭(・)部(・)消(・)失(・)!全部隊――攻撃開始ッ!!"」

 

『ほ、"砲術委員会"の皆さん、お願いします...!』

『全部撃て![M134(ミニガン)]がダメになったら自分の銃を撃て!』

『全車両、撃て!徹甲弾でも構わない、全ての砲弾を撃ちなさい!』

『"アテン"全機攻撃!!機銃も全部撃ちなさい!!』

 

ドドドドド...!!

 

―――戦車部隊の砲撃、[M134(ミニガン)]や銃の弾幕、"アテン"のヘリによる攻撃、十数秒遅れて『トリニティ』"砲術委員会"のものらしい砲撃も次々着弾する。

 

 爆炎、銃弾の曳光、衝撃で巻き上がる砂煙が『ビナー』の全身を包み込み―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[――――――――]

 

『...ビナーに一切反応は検知されません...オートマタやドローンも動きが止まっているようです。こ、これは...!』

「"...うん、これは――"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"――"先生"より司令部及び全部隊へ。『ビナー』の完(・)全(・)停(・)止(・)を確認。撃(・)破(・)成(・)功(・)と判断する!"」

 

『『『『『やっ――――』』』』』

 

―――頭部を完(・)全(・)に(・)喪(・)失(・)してピクリとも動かない『ビナー』を確認し、報告を挙げると、インカムに皆の歓声が混ざり合った音が一瞬聞こえ―――ノイズキャンセリングが働いて無音になった。

 

 

 

―――それでも、皆の喜びは車内からでもハッキリ感じられた。

 

 

―――to be continued―――

 

 




ちょこっと当作品の今のところの根幹的要素もチラ見せしながら『ビナー』討伐完了!
さて次回は―――荒事(異変)が終わったらやることは一つだよなぁ?
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