Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『シャーレ』オフィスビル 射撃場~
side-ミヤコ
「...!」
―――最後のターゲットの頭部を撃ち抜く。放たれた銃弾は頭部ターゲットの真ん中辺りをを撃ち抜き、パネルが倒れる。
『――"Torment"コース終了。スコア集計中......完了。"月雪ミヤコ"さん、個人新記録達成です』
アナウンスが流れ、ヘッドセットを外し、[RABBIT-39式短機関銃]を机に置いてレーン備え付けのタブレットに表示された詳細な結果を見る。
「――ターゲット撃破率九十八パーセント...やはり、あのターゲットは
ターゲット撃破率を確認し、残る二パーセント―――最終セクションでパネルを一枚
「...毎朝挑戦していますが、中々撃破率百パーセントには届きませんね。...最終セクションのあの構成は一体誰が考えたのでしょうか...」
―――『シャーレ』指揮下に配属されて以来、ビル内の射撃場で毎朝最高難易度の"Torment"に挑戦しているけど、未だに最終セクションの百パーセント攻略が出来ていない。
グルグル回るパネル、バタバタ起きたり倒れたりを繰り返すパネル、FPSゲームの煽りよろしく上下するパネル...一体誰が考えたのか問い詰めたくなる程にランダムで奇怪な挙動を取るパネル達を撃破しなければならないけど、必ずパネルを一枚撃破し損ねてしまう。
小隊メンバーの三人も最終セクションは百パーセント攻略ができておらず、全ユーザーの結果を見ても百パーセント攻略はまさかのゼロパーセント、ノルマ達成率も一割以下と目立つ程に低い。
「...実戦であんなパネルの挙動は有り得ないでしょうが、やはり百パーセント攻略は成し遂げたいですね。また明日――」
「――おはよう、ミヤコ」
「――!イナバ先輩...!おはようございます!」
―――背後から聞き慣れた声の挨拶が聞こえて振り向けば、憧れの人―――イナバ先輩が居て、姿勢を正して挨拶を返す。
「ふふ、朝から射撃訓練なんて精が出るわね。――今日の"当番"の一人は私よ。『アビドス』での活動のおかげか、シフトが随分先になる程に人気になるなんてね..."当番"は初めてだから、よろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします...!」
―――今日の"当番"の一人がイナバ先輩だなんて知らなかった。緊急の依頼が無ければ、毎朝射撃場で射撃訓練を終えてから部室に向かい、その日の"当番"や予定を確認するから気付けなかった。
でも―――"Кролик小隊"が課されている『ブラックマーケット』の監視と犯罪捜査も『アビドス』での活動以来多忙な中で、『シャーレ』"当番"として来てくれたのは素直に嬉しいし、憧れの人を前にして緊張してしまう。
「作戦中じゃないんだから...そんなに肩肘張らないで、気楽に行きましょう」
「う...す、すみません...」
緊張で固くなっている事を苦笑するイナバ先輩に指摘され、俯いてしまう。―――どうしても、
「...!」
「――大丈夫よ、ミヤコ。先輩を前にして緊張するのはよくあること。怒ったりなんかしないわ。それに、貴女は真面目な娘だしね。少しずつ、緊張を解しましょう?」
―――頭に手が置かれる感覚を感じて視線と共に少し頭を上げると、優しい笑みを浮かべたイナバ先輩が私の頭を撫でていた。くすぐったくも心地良い感覚で不思議と緊張が解れていく。
「...はい...ありがとうございます、イナバ先輩...」
頭を撫でられる感覚に目を細め、お礼を言う。
...あぁ、懐かしい感覚だ。
~『D.U.第一商業区』 複合ショッピングモール~
ワイワイ...
「......」
多くの買い物客で賑わうホールを一人歩く。左右を見れば多種多様なお店があるけど、私の興味を惹くものは無い。
―――中学二年生としての一年間は後半に差し掛かっている。そろそろ進路を―――どの高校に入学するかある程度決めないといけない時期だ。クラスメイトは次々進学先を決めていて、教室ではどの学校に行くか、一緒の進学先だとか、進路の話題が増えている。
そんな中―――私は進学先がまるで決まっていない。何なら
―――逃避していたって意味は無い事は既に自覚している。でも、私は何をしたいのかが未だに見出せない。進学するなら、適当に決めた進学先で適当に過ごすよりは―――
「...っ?!」
キャァァ...!!
―――突如モール内に響く沢山の銃声。続く悲鳴、怒声。何かが割れ、壊れる音。目の前の人の群れも驚きや困惑の表情を浮かべて私の方に―――モールのメインエントランスに向かってもみくちゃになりながら走り出して来る。
「きゃっ...?!あの、やめ...押さnぐぅっ...?!」
―――私は人の波に呑み込まれ、抵抗虚しく流れに流されながら転び、人の足が倒れた私を絶え間無く踏みつけていく。
「ぐっ...ぐぁ...ぁ...!」
治まらない痛みに私は意識を手放し―――
「...ぅ...ぐ......ぁ、れ...?」
―――意識が覚醒して鈍い痛みに耐えつつ起き上がれば、辺りに人は居らず。商品や買い物かご、ガラス片が大量に散乱している。自身のパーカーを調べれば、ポケットに入れていた筈の[
「...誰も、居ない...?私は確か――」
「...?!」
―――突然の銃声。瞬間、私の周りで銃弾が着弾して跳ねる。銃弾が飛んで来た方を見やれば―――
「おい!こっちだ!逃げ遅れが居たぞ!!」
「ちょうどいい!捕まえろ!『ヴァルキューレ』共を抑える人質にするんだ!!」
「撃て撃て!気絶させてでも捕まえろ!」
「...っ...!」
―――銃を構えてこちらを指差し私の下に迫るフルフェイスの黒いヘルメットを被った不良―――"ヘルメット団"団員数人が見え、口々に叫ぶ言葉の意図に気付いて咄嗟に走り出す。
チュウンッ...
私の周りで銃弾が跳ね、掠めていく。怖いけど振り向く訳にもいかない。ひたすらに走り続ける―――
「くそ、どこ行った?!」
「中学のガキのくせに速い...!」
「探せ!少なくともモール内からは逃げられねぇ!」
「......!」
―――私の目の前、身を潜めているコインロッカーの扉越しに私を捜し回っている声が聞こえて来て、息を止めて出来る限り静かにする。
タッタッタ...ガシャ...ガシャ...タッタッタ...
「っ...はぁぁ...」
十数秒経ち、足音と銃が揺れる音が離れていき、深呼吸して息を吐く。
「何とか凌げたけど...ここからどうしたら...このまま隠れていても...」
ロッカーの中で呟く。―――"ヘルメット団"から逃げるのに必死でちゃんと見えていなかったと思うけど、少なくともモールには私以外の客が居ない様だった。それは即ち―――
"ヘルメット団"は私を人質に取ろうとして追い掛けて来た。あの人数から銃を撃たれながら逃げられたのが奇跡だけど...自分の銃は何処に転がってしまったのか手元に無く、反撃する手段も無い。尤も仮に反撃する手段があった所で、"ヘルメット団"が何人居るのかも分からない以上無謀でしかない。
「...うぅ...怖い...」
―――恐怖で身体が震え始め、音を出さないように自分で抱きしめる様に腕で包んで身体を縮こませる。隠れていてもいずれ見付かってしまう事は分かっている。でもここからどうしたらいいのか―――
「この辺りは大丈夫そうね..."Кролик小隊"、前進するわよ」
「「「了解」」」
「...っ!」
ガタッ...!
「あっ...!」
―――ロッカーの扉越しに遠くから聞えて来た足音と声に驚いて肩が跳ね、大きな音を立ててしまう。
「...!音が聞こえた。各員警戒」
「...あのロッカーエリアね」
「っ...っ...!」
ガタッ...ゴト...
必死に息を殺し、震えを抑えようとするけどもう遅い。足音がどんどん近付いて来て、恐怖と震えが更に強くなってより大きな音を立ててしまう。
「...このロッカーじゃない?」
「ふーむ...大きさ的には人が入れそうだねー」
「ペット的な動物の類の可能性もありますが..."Кролик1"、どうしますか?」
「...開けて確認するわ。各員、警戒を巌に」
「ひっ...!」
扉の取っ手が引かれてロックが動き、開くと同時に外の眩しさが視界一杯に広がり、小さく悲鳴を零して腕で目を覆う―――
「...生徒?見たところ中学生ね...」
「ありゃ...逃げ遅れちゃったのかな?まさか
「まさか本当に人が隠れていたとは...」
「――大丈夫、な筈がないわね...ごめんなさい、驚かせてしまったわ」
―――銃声では無く声が聞こえ、恐る恐る腕を目元から離せば、明らかに"ヘルメット団"とは違う―――頭に長い兎耳を伸ばし、制服にハーネスやポーチを装備した四人の高校生らしき生徒達が驚いた表情で私を見下ろしている様子が見える。
―――そして、私の目の前でしゃがんで目線を合わせる―――ヘッドギアを装備した薄紫色の長い髪に白く長い兎耳が伸び、頭上には赤いヘイローを浮かべ、襟元に赤いネクタイを締めたワイシャツの上にポーチ付きのハーネスを装備し、ハンドガンのホルスター、マグポーチが付いたベルトを締めたオレンジがかったピンク色のミニスカート、黒い脛当て、黒いブーツを履いている―――リーダーらしき生徒は申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「...あな、たは...?」
「――イナバ。『優曇華院イナバ』よ。『ヴァルキューレ』ではないのだけど、
「...は、はい...み、ミヤコ...『月雪ミヤコ』、です...」
リーダー格の高校生―――イナバさんの問に小さく頷き、未だ柔がない緊張で声を震わせながら名前を告げる。
「ミヤコ、ね。――ミヤコは、"ヘルメット団"の襲撃に巻き込まれて逃げ遅れて、このロッカーに隠れてたのね?」
「はい...っ...」
状況確認の問に頷き、脳裏に"ヘルメット団"から逃げた時の状況を思い出して身体を震わせる。―――あの時はよく逃げられたと思う。自身の手に銃は無く、相手の方が人数が多かった中で―――
「...怖かったでしょう?――でも、もう大丈夫。私達があなたを安全な所に送るから」
「...!」
―――優しい笑みを浮かべ、私の頭に手を置いて優しく撫でる。少し擽ったくも、優しい手付きは緊張と恐怖を和らげていく。
「...少し安心できたみたいね。――さて、連中に見付かる前に脱出しましょうか。自力で立てる?」
「...ぅ...」
ロッカーから這い出る事は出来たものの、そこから立ち上がる力が出ない。味方に会えた事の安心感で腰が抜けてしまったらしい。
「...危険な状況から逃げ延びて、私達が来るまでこうして隠れていたものね。なら――失礼するわよ。っと...!」
「わ...!」
イナバさんは立ち上がれない私を右腕で抱え上げる。何度か経験があるのか、その動きには手慣れている気がする。
「...これから脱出するけど、
「分かりました...」
「ふふ、素直でいい娘ね。――"Кролик小隊"、脱出に移るわよ」
「「「了解」」」
[
「「「待ちやがれ!!」」」
「――後方、"ヘルメット団"三人!」
「私がやるよ!――そーれ!お団子の代わりに弾を食べなよ!」
―――リンゴさんが振り向きざまに[
「――スナイパー撃破。"Кролик4"、『ヴァルキューレ』の状況は?」
続けて、徐に[
「――"公安局"が増援として到着!間も無く突入して鎮圧に入るとのことです!」
「――突入は少し待って貰って。この娘をモールの外に出して保護してから突入するようにって伝えて」
「了解しました!」
レイセンさんの報告に対してイナバさんが私をチラリと見て、突入を少し待つ様にと伝え、レイセンさんは頷いてインカムに触れる。
「...!」
―――目の前の横道から"ヘルメット団"団員が三人躍り出て来るけど、イナバさんが即座に[
「相変わらず見事な早撃ち。
「"Кролик3"、私語の暇があるなら索敵しなさい!」
「はいはい!――って言っても、もうすぐ出口だよ!」
口笛を吹いて感心するリンゴさんに対してセイランさんが窘めるけど、リンゴさんは調子を変えず前方を指差す。―――"ヘルメット団"団員の姿は見えず、メインと違って小さいものの、多くの人が忙しなく動き回る様子が見て取れる、ガラスの両開きのドアが見える。
「...外に出られるわね。もう少しよ、ミヤコ――各員警戒!」
「「「了解!」」」
イナバさんは私を見て微笑み、一転して真剣な表情を浮かべて号令をかける。表情を真剣なものに切り替えたリンゴさんが先に扉を開けて左右を警戒し―――
「――クリア!」
「――脱出を確認。"Кролик4"、『ヴァルキューレ』へ報告!」
「了解しました!――こちら『SRT』"Кролик小隊"、逃げ遅れた
―――リンゴさんに続いて私達も扉から外に出て、レイセンさんがインカムに触れて通信を繋ぐ。十数秒後、前方で忙しなく動き回る『ヴァルキューレ』らしき生徒達が部隊ごとに動き出す。
「――"Кролик小隊"、逃げ遅れた民間人の捜索及び保護に感謝する。...逃げ遅れたのはその娘だけか?」
「えぇ、私達が見つけられたのはこの娘だけよ。――さっき"Кролик4"が伝えたけど、鎮圧に移って大丈夫よ『カンナ』"班長"」
―――『ヴァルキューレ』生を引き連れて私達の方に歩いてきた、
「そうか...一人だけでも見つけられて保護できただけでもありがたい。時間が惜しい。お礼は改めて――"機動第一班"、行くぞ!」
カンナさんは私を一瞥し、引き連れている『ヴァルキューレ』生達に向かって号令を掛け、私達が出て来たドアへと走り出す。
「――さて、『ヴァルキューレ』のテントに行きましょうか。ミヤコ、そろそろ歩けそう?」
「...多分。大丈夫、だと思います...」
カンナさんを見送ったイナバさんの問に小さく頷く。―――イナバさん達と出会した時と比べれば、かなり緊張も恐怖も和らいだ気がする。
「じゃあ、下ろすわよ。...っと...」
イナバさんはゆっくりしゃがみ、私を下ろす。一瞬足が震えたけど、転ぶ事無くアスファルトに足を付ける。
「...大丈夫そうね。ミヤコ――」
「――よく頑張ったわ。避けられない銃撃戦もあったけど、貴女は怖がらずにじっと耐えた。――強い娘ね、ミヤコは」
―――イナバさんに抱き締められ、頭を撫でられながら褒められる様な言葉を掛けられる。
―――こんなの初めてだ。ただ抱えられて、余計な迷惑を掛けないようにとじっとしていただけなのに。イナバさんは心から喜んでいる様に感じられる。
―――なりたい。
―――イナバさんみたいな、強く優しい、皆の前に立てる様な人に―――!
「...あの、イナバさん」
「――どうしたの?」
「...私、今の学校を卒業したら――」
~『SRT特殊学園』屋内訓練場~
「――スモーク!」
スモークグレネードのピンを抜いて投げ、ルート上の敵射線を遮る様に煙幕を張る。
「――GO!」
煙幕展張を確認し、
『――"Bチーム"、脱出ポイントに到達。認定試験を終了する』
―――脱出ポイントととして設定されていた小部屋に駆け込み、"教官"の試験終了宣言が響く。それを聞いて、四人揃って息を吐く。
「...サキさん、大丈夫ですか?」
「なんとかな...ランダムとは言え、救出、護衛対象がVIPになるとは運がない...」
「サキが運んだおかげで火力が減っちゃって危ない所はあったけど、任務は成功したからこれは行けたんじゃない?」
「...判断するのは"教官"達だし、そんな楽観的な判断は...」
サキさんはマネキンを下ろしながら答え、続くモエさんの楽観的な判断をミユさんが窘める。
―――今回の"VIP救出、護衛"は認定試験としては難易度が高いものだった。マネキンとは言え、大きさや重量を本物の人間に模して作られている。しかも今回は重ねてVIPが負傷状態という設定で、誰かが運ばなければならなかった。故に、戦力の四分の一が使えなくなってしまう状況になった。
他には"重要情報獲得"か、"敵勢力幹部鎮圧"等があったけど、どの試験が行われるかは試験前の作戦目標開示で明かされる。その為、どの様な作戦になっても対応出来、任務を遂行出来る力がこの試験で求められる。この試験を突破出来たら―――
『..."Bチーム"、試験結果の評価が終わった。作戦会議室にてデブリーフィングを行う』
「――結果が出たようです。行きましょう」
―――"教官"の放送が響き、三人を連れて小部屋を出る。
~『SRT特殊学園』作戦会議室~
「...〈任務遂行、ご苦労だった〉」
「お疲れ様、四人共」
「...!」
―――作戦会議室に入ると"教官"と"試験立会人"の腕章を付けたイナバ先輩が居て、緊張で身体が強張る。
「...〈では、デブリーフィングを始める。"Bチーム"、任務の結果を報告せよ〉」
「...は、はい!今回の作戦で――――」
"教官"の指示に従い、試験での作戦の結果を報告する。VIPが監禁されているポイントへの潜入、救出と脱出ポイントまでの護送。所々で索敵が甘かったせいか不意打ちを食らったものの、損害は最小限に抑えて任務を遂行することが出来た。
「――――報告は以上となります」
「...〈任務遂行、ご苦労だった。――では、試験結果を通達する〉」
報告を終え、頷いた"教官"が続けた言葉に四人揃って緊張で姿勢を正す。
「...〈単刀直入に結果を伝える。――おめでとう、諸君ら"Bチーム"は全チーム中最高の成績で合格だ〉」
「おめでとう。これで晴れて小隊結成よ」
「...やった...!ありがとうございます...!」
「よかった...想定外も幾つかあったが、上手くやれたか...!」
「やったー!」
「や、やった...!」
"教官"は優しい眼差しで合格を宣言し、イナバ先輩も微笑む。合格と分かり、四人揃って歓喜に湧き上がる。
「...〈死角の認識不足、射線の重複、不意打ちでの動揺――新兵故の粗やミスは幾つか見受けられたが、今後実任務に従事していけば改善できるだろうと判断した。他チームが諸君ら以上に粗やミスが多かった中、損害を最小限に抑えて任務を遂行できた諸君らは将来有望だ。
...さて、合格に伴い、諸君らは正規の『SRT』部隊となる。部隊名は――イナバ〉」
「はい。――これが
"教官"に指名されたイナバ先輩が私達の前に進み出て、腕章を一人一人に渡していく。最後に私が受け取り、腕章に銘打たれた部隊名―――
「...!」
―――イナバ先輩が率いる"Кролик小隊"と言語は違うけど意味は同じ―――"ウサギ"を意味する部隊名を見て驚きで目を見開く。
「――流石、ミヤコは気付いたわね。ウサギのように、耳を立てて隈なく情報を集め、軽やかに走って任務を遂行し、離脱する――貴女達ならきっとそれが可能であることを祈って、"RABBIT"のコールサインを贈るわ」
「...〈一応補足しておくが、不服があれば受け付ける。登録された部隊名で以て、これからは任務に従事することになるからな。変えるなら今が最初で最後の機会だ〉」
"教官"が今なら部隊名を変えられると補足する。けど―――
「"RABBIT"...いいじゃんいいじゃん!『SRT』でも優秀な部隊の名前を継げるなんて凄いよ!」
「私も異存はない。先輩達の部隊名の意義と意味を継ぐことは恐れ多いが――この名前に恥じない任務遂行ができるように努力しよう」
「私も、賛成...!」
「――私も異存ありません。"RABBIT"に込められた意義と意味を成せるよう、全身全霊で任務に邁進します」
―――四人揃って"RABBIT"に異存は無いと表明し、腕章を身に付ける。サキさんの言う通り、『SRT』でも優秀な部隊の一つである
「...〈諸君らの意思、確かに受け取った。――"RABBIT小隊"〉」
数度頷いた"教官"が部隊名を呼び、私達は姿勢を正す―――
「...〈本日付で諸君らを正規部隊配置とする。しばらくはここ『D.U.』を中心に任務を与えるが――訓練課程での学びと経験を礎とし、実戦たる任務で以て更に経験を積み、"Кролик小隊"にも引けを取らぬ――『SRT』たり得る部隊としての成熟を期待する〉」
「――"RABBIT小隊"の加入を歓迎する。貴女達のこれからの活躍に期待するわ」
「「「「了解!」」」」
―――"教官"とイナバ先輩の歓迎の言葉に対し、敬礼を返す。
―――ここからだ。
~『シャーレ』オフィスビル 部室~
side-"先生"
「――――って感じで、ミヤコ達は"RABBIT小隊"として活動を始めたって訳。...ちょっと休憩させてね。...mgmg...」
「"なるほどね...それはミヤコもイナバに強い憧れを持つ訳だ"」
話を一度切り、休憩にとみたらし団子を頬張るリンゴ――今日の"当番の一人だ――を見ながら頷く。
―――部室のソファで今日の"当番"の一人であるイナバと、珍しく特に任務も無くビルで待機中だったミヤコが買い出しで出払っていて暇が出来た合間にと、リンゴの提案で私は"Кролик小隊"とミヤコの出逢い、そして"RABBIT小隊"結成の経緯を聞いている。―――なるほどミヤコがイナバに強い憧れを抱く訳だ。"ヘルメット団"に襲われ、怯えて隠れていた所を"Кролик小隊"に―――イナバに救われた。道中で"ヘルメット団"団員を冷静に捌き、脱出する姿を間近で見ていれば尚更憧れるだろう。更に―――それまで特に夢も無く、故に進路も曖昧だったミヤコに確固たる進路を定める切っ掛けを齎した恩人でもある訳だ。
「mgmg...ふぅ...でしょ?だから買い出しなんて些細なお誘いにも真っ先に乗るんだ。...いやー、あの時のミヤコは可愛かったよ。写真もないのが残念だね」
リンゴは私の言葉に頷きながら懐かしむ様な、惜しむ様な表情を浮かべる。
...ウィィン...
「今より一回り位小柄でさ。ホントに兎よろしくロッカーの中で縮こまってビクビク震えてたんだ。"ヘルメット団"に捕まっちゃう前に保護できて良かったと思うし――あれからまさか『SRT』の門を叩いてくるとは思わなかったよ。
私達が請ける任務の特性上、あの時のミヤコみたいに逃げ遅れた
―――
「私達も勿論だけど、イナバもミヤコのことはしっかり覚えていてさ。それで...ますますミヤコってばイナバにベッタリになっちゃったんだ。
...私も甘い物好き同士でモエに目を掛けてるから人のことは言えないけどさ。イナバとミヤコは群を抜いてたね」
<「ふぅ...あとは買ってきたこれをしまうだけね」
<「そうですね。手早く終わらせて休憩に入りましょう」
「今は落ち着いてるけど、訓練課程の時は凄くてね。任務で居ない時以外は毎朝必ず挨拶して軽く世間話をして、片方が訓練中はもう片方が必ず見学して、お昼は必ずと言っていいほど一緒に食べて...まぁ兎に角機会が許す限りベッタリでね――――」
イナバとミヤコらしきやり取りが給湯室から聞こえるけど、恐らく買い出しを終えて買って来た物を仕舞っているのだろう。気にせずリンゴの話に耳を傾ける。
「――――で、イナバもイナバで迷惑がらずに受け入れるものだからミヤコもますます喜んでさ。傍目から見てもあんな仲の睦まじさは他じゃ見られないくらいだよ。普段物静かであまり表情作らないミヤコが、目に見えて笑顔を見せて饒舌になるんだよ?普段とイナバと一緒の時のギャップが――」
「――随分と饒舌ね、"Кролик3"」
「「」」
「...っ...ぁぅ...」
―――冷淡なイナバの声が聞こえ、リンゴと揃って硬直する。―――恐る恐るリンゴの背後を見やれば、
「――前に同じ内容を"FOX"や"WOLF"とかの他部隊の娘との雑談で話して、ミヤコが止めたのは覚えてるわね?」
「...」
冷や汗を流すリンゴはイナバの問いにコクコクと頷く。
「――ミヤコが話しても大丈夫だと受け止められるようになるまで、他人にバラさないようにとも約束したこと、覚えてるわね?」
「...」
鋭く目を細めたイナバの次の問にもリンゴはコクコクと頷く。イナバは糸目状態で笑みを浮かべ―――
「――申し開きはあるかしら、"Кролик3"?」
「――後輩の可愛いところは、共有したいじゃん?普段物静かで表情作らないミヤコにもそういう可愛げがあるんだって、知って貰いたかったんだよ。...分かるよね?」
「――そもそも約束を破った時点で有罪、よ...!」
「お‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟??!!」
―――イナバはリンゴの頭に対してアイアンクローを仕掛け、リンゴは白目を剥いて凄まじい悲鳴をあげる。
「"うわぁ...痛そう..."」
「...あの..."先生"...」
「"...ミヤコ?"」
アイアンクローで悲鳴をあげながら足をバタバタさせるリンゴを見ていると、傍にミヤコが寄って来る。余程聞かれたくなかったのだろうか、まだ顔が恥じらいで赤い。
「...その...リンゴ先輩から聞いたことは...」
「"...大丈夫。他の人に話したりなんてしないよ。寧ろごめんね、そういう事情があったなんて知らなかったとは言え..."」
「...秘密のままにしてくれるのであれば構いません。約束を破って勝手にバラしたリンゴ先輩に非があるので...」
「あ‟あ‟あ‟あ!!ギブギブギブ!!」
微笑みながらミヤコの要望を受け入れて謝罪すると、ミヤコはリンゴに非があると言ってギブアップ宣言を出すリンゴを見る。
「プライベートとは言え、情報担当なんだからある程度分別は付けなさい。せめて、秘密にして欲しいと言われた情報は伏せるように。――いいわね?」
「分かった!!分かったから離してイダダダダ!!」
「...全く...ミヤコに謝ったらよしとするわ」
イナバは呆れたため息を吐いてリンゴの頭から手を離す。
「あ‟ぁ...た、助かった......ごめんねミヤコ。"先生"にも、ミヤコにも可愛げはあるんだって知ってもらいたくてさ...」
「...悪気がないことは解っています。これからは、ちゃんと約束を守ってくださいね」
「イナバの
頭を擦ったリンゴはミヤコに向き直って謝罪し、ミヤコも素直に受け入れる。
「ちゃんと反省してくれればいいんだけど..."先生"、報告が遅れてしまったけど買い出しは終わったわ」
「"ありがとう、イナバ、ミヤコ。――さて、そろそろ業務に戻ろうか。イナバとミヤコは買い出しに行ってたし、休んでいても構わないよ"」
「いえ、大丈夫です。
「私も大丈夫よ。机上業務とは言え、人手があればその分早く、効率的に進められるでしょうし」
イナバから報告を受け取り、机上業務の再開とイナバとミヤコの休憩を提案するけど、二人はまだ大丈夫そうで、業務に加わるつもりの様だ。確かに見たところ二人共元気そうだし、人手は多いに越したことは無い。
「"――分かった。それじゃあ皆で仕事に取り掛かろうか"」
「了解。パパッと終わらせちゃいますか」
「机上業務も
「了解しました。先輩二人も居ますし、頼もしいですね」
ソファから立ち上がり、三人と共にデスクに向かう。
「"...!"」
パソコンでソフトを開いて作業を始め、チラリとイナバとミヤコを見ると―――
「...イナバ先輩、その項目は――――」
「なるほどね...ありがとう、ミヤコ。...その項目の計算合ってる?関数を確認してみて」
「...!前の作業のフォーマットが残っていました。ご指摘ありがとうございます、イナバ先輩」
―――隣同士の席で、お互いにアドバイスをかけたりやり方を教え合う様子が見え、リンゴが語った通りの仲睦まじさを実感する。
―――
ということで、イナバ...と実質ミヤコの掘り下げになっちゃいました。思ったより過去回想が長くなって...まぁ、メインは東方キャラ生徒とブルアカ生徒の繋がりの掘り下げみたいな所があるので多少はね?