Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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続いてのメモロビはこの二人!


File38.-ML-YS~疫病の姉、貧乏の妹~

~『D.U.外郭』 "便利屋68"事務所~

side-ハルカ

 

「...うん、変わらず元気そうだね」

「そうですね...さぁ、お水ですよ...」

 

 ビル一階の空き部屋。少し日当たりが悪い窓の周りに並べて置いているプランター代わりのバケツや空き箱に詰めた土から生えている雑草達―――[ハコベ*1]や[メヒシバ*2]、[タンポポ*3]、その他諸々の状態を見るシオンさんの言葉に頷き、如雨露で水をあげていく。

 

「...この子達を置けるスペースがあってよかったね」

「えへへ...そうですね。...この子達は逞しいですし、最悪外の邪魔にならない所に移そうとも考えていましたが...」

 

 水やりを進めながらシオンさんの言葉に頷く。―――『アビドス』での活動で得られた稼ぎで、移転前の事務所よりも広く部屋も多いビルに移る事が出来た。おかげで、移転前は空き家でひっそりと育てていた雑草()達をこうして事務所内でお世話する事が可能になった。

 

「...よし、皆に水やりができました」

「じゃあ、上に戻ろっか。朝ご飯もできてる筈」

「はい、行きましょう」

 

 水やりを終え、シオンさんの言葉に頷いて部屋を出る―――

 

 

「――戻ってきたね。朝ご飯できてるよ」

「さぁ、二人も席について。移転後初めての朝食だから、皆で食べないとね!」

「...今までよりも品が増えてる...!」

「くふふ、稼ぎ(実入り)が良かったから食も余裕ができたおかげだね~」

 

―――事務所の居住区画のリビングに戻ると、アル様達がテーブルを囲んで私達を待っていた。そのテーブルには朝食が―――ご飯とお味噌汁、鯖の塩焼きに加えて、移転前までは殆ど並ばなかった小鉢の添え物が二つ並んでいてシオンさんは喜色を浮かべる。そんなシオンさんを微笑ましく思いながら空いている席―――ジョオン"会計士"の隣の二つ空いている席の片方に座る。

 

「ほら、涎垂らしてないで姉さんも座って」

「...あ、うん...」

 

 ジョオン"会計士"に声を掛けられ、口から涎が垂れつつあったシオンさんは慌てて袖で涎を拭って私の隣、ジョオン"会計士"の隣―――いつも通りの席に着く。

 

「それじゃあ――いただきます!

「「「「「いただきます」」」」」

 

―――そして手を合わせて皆で挨拶する。

 

 

「mgmg...美味しい...!」

「ほら姉さん、口にご飯粒付いてるわよ」

「ん...」

 

 瞳を輝かせて一心に食べ進めるシオンさんの口にご飯粒がくっ付いている事を見咎めたジョオン"会計士"がティッシュで拭き取る。

 

「美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど...そんなに早いペースで食べてたら喉に詰まらせるよ。料理は逃げないんだから、落ち着いて味わおう?」

「ご、ごめん...美味しかったから箸が...」

 

 その様子を見ていたカヨコ"課長"が呆れた表情を浮かべて窘め、シオンさんは恥ずかしそうに頬を薄っすら染める。

 

「旗揚げからずっと変わらないわねぇ、シオン。私が見出す前の苦境を考えれば仕方ない所はあるんだけど...」

「...そう言えば、二人をどういう経緯で雇ったか知らないんだよね。"社長"が『居場所がなくて困ってたから二人も雇うわ!』って言ってたことは覚えてるんだけど...」

「あ、それ私も知らな~い。雇って紹介された時の二人は()()()()()()()から、何か辛い事情があるんだろうな~って何となく察して深く聞かなかったからさ」

 

 アル様の呟きを聞いたカヨコ"課長"とムツキ"室長"がジョオン"会計士"とシオンさんを雇った経緯を知らないと揃って口にする。...確かに、私もお二人を雇った経緯を詳しく知らない。私達は数日の差はあるけど、大体同じタイミングでアル様に誘われて"便利屋68"に加わっている。ムツキ"室長"はアル様と幼馴染だから心配で(その反面面白そうな、悪戯っぽい表情も浮かべていた気がする)ついて来たと言っていたし、カヨコ"課長"の経緯についても私は詳しく知らないけど―――()()()()()()()()()()()()()()*4と感じていて聞いた事は無い。

 

「あら、ちゃんと話してなかったかしら...シオンとジョオンから話したこともなかった?」

「えぇ、別に聞かれなかったし」

「...私も、話したことはない、筈...」

 

 アル様の問いにお二人は揃って否定を返す。お二人の方から経緯を話した事も無いらしい。ジョオン"会計士"はいつも通りの涼しい表情を浮かべているけど、ムツキ"室長"が言っていた事に加えてあの時は警戒心が強かったし、シオンさんは今よりも不安げな雰囲気を纏っていた様に思う。

 

「...じゃあ、話してもいいかしら?とは言え、食事を彩るような楽しい話じゃないし、二人が嫌なら話さないけど」

「私は構わないわ。不利益は特にないし、皆ならイジることはないでしょう」

「...私も、大丈夫」

 

 アル様がお二人に尋ねると揃って話しても大丈夫だと答える。

 

「分かったわ。...あれは、私が"便利屋68"起業を志して社員集めをしてきた時だったわ――――」

 

 

―――約一年前―――

 

~『ゲヘナ学園』自治区~

side-アル

 

「今のところは順調ね...でも、もう二人くらいは人が欲しいわねぇ...」

 

 相も変わらず銃声や爆発音が耐えない自治区内でも珍しく静かで平和な隅っこの地区。その通りを一人歩きながら呟く。

 静かではあるけど、その理由が数年前にこの地区で起きた大きな暴動の結果廃屋や廃墟が多く生まれ、しかしその後風紀委員会や万魔殿(上の組織)が更に増えたテロや強盗、その他諸々の暴動(ゲヘナの日常)の対応に追われ続けたせいで復旧が後回しにされ続けているからというものだ。

 住人やお店が無い訳ではないけど少ないし、それ故に得るものも大して無いから不良も寄り付かないおかげで静かで平和になっている。

 

―――()()()()()()()()()()を探していないのはこの地区だけで、人が少ないからそういう人材が見付かるか怪しいけど、もう少し粘りたい。

 

―――常識、規則に縛られない生き方。即ち()()()()()な生き方を目指すべく、『ゲヘナ』の校則で禁止されている()()()()()()()の実行を決め、経営に必要な人手を探して回っている。

 

 偶に悪戯を仕掛けられるけど、何だかんだ私の意向に従ってくれる幼馴染のムツキ、無愛想だけど本当は優しい先p...三年生のカヨコ、そして"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"の面々に虐められていた所を助けたら凄まじく懐かれたハルカ。

 既に各人の役職は決めてあるけど、それは起業が成った時に明かすつもりだ。私を含め四人...これでも会社は回せると思うけど―――呟いた通り、後二人位は欲しい。

 

「お金の扱いが得意な娘が欲しいのよねぇ...三人の中だとカヨコが得意だけど専門的じゃないし――」

 

―――ポツッ...

 

―――ザァァァァ...!

 

「――雨?!さっきまで晴れてたのに...!」

 

 頬に当たる雨粒の感覚で空を見上げた瞬間、いつの間にか晴れ空を覆っていた曇天から一気に雨が降り始め、慌てて近くの空き家の軒下に駆け込む。

 

「なんてついてない...通り雨だったらいいけど――」

 

 

 

 

「――アンタも災難ね。十中八九、そんな願望は通らないわよ」

「――っ?!

 

―――突然背後、空き家の壊れかけで開いた扉の方からどこかぶっきらぼうな声が聞こえて来て咄嗟に振り向くと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「...見たところ、私達と同じ学年みたいね。それに、私達と違ってマトモに学校生活も送れてるのかしら?羨ましいことね」

「......」

 

―――少し汚れている様に見えるツインの縦ロールの金髪に金色のヘイローを浮かべ、同じ様に汚れたワンピースを纏う少女が私を見て不快そうな表情を浮かべてそんな言葉を零す。そんな彼女の隣では、汚れている上に手入れも殆どされていないのか青いボサボサの長髪の上に青いヘイローを浮かべ、所々擦り切れた灰色のパーカーを羽織り、同じ様に擦り切れた青いミニスカートを履いた少女が蹲っている。表情は見えないけど―――()()()()()()()()()を纏っている。

 

「...ご、ごめんなさい!まさか人が居たなんて...!」

「別に気にしてないわよ。私達も()()()()()()()()()()()()だけだし」

 

 まさか人が居るとは思わず謝るけど、ツイン縦ロールの娘は声色を変えずに気にするなと返す。二人もこの空き家の持ち主という訳では無いらしい。...なら、汚れているのは何故だろうか。まるで―――()()()()()()()様な雰囲気だ。

 

「な、ならいいのだけど...うーん...まだ止みそうにないし、折角だしお話でも――」

 

 スカウトできる雰囲気じゃないけど、雨宿りの暇潰しに二人とお話でもしようと切り出して屋内に足を―――

 

 

 

 

 

 

「――来ないで。()()()()に遭いたくないならそのまま軒下に居なさい」

「......!」

「――え...?」

 

―――一歩踏み出した瞬間、青いボサボサの長髪の娘の肩がビクッと震え、ツイン縦ロールの娘が語気を強めて私の接近を拒絶する。私を見つめ―――否、睨む瞳には警戒心がありありと宿っている。

 

「...き、急にどうしたのよ...?私はただ貴女達と――」

 

 

 

 

 

―――バァァァンッ!!

 

「――っ?!

 

 

ザァァァァ...

 

 

―――突如背後、空き家の外で轟音が響き、何事かと軒下に出ると、目の前で一気に雨足が強くなって飛び散る雨粒が顔に触れる感触を感じ取る。曇天もより黒くなっている様にも見える。

 

「...今のは雷ね。でもどうして()()()()()...雨雲だったけど、こんな雷雨になる程分厚い雲じゃ――」

 

 

 

 

 

 

...私の、せいだ...私が...()()()()が...雷まですぐ傍に落ちるなんて、私はやっぱり...!」

姉さんのせいじゃない!もっと前向きに考えて!雷が自分のすぐ傍に落ちるなんて――――」

 

―――背後でツイン縦ロールの娘とは違う、まるで自信が無さそうな、弱々しい声が聞こえて振り向けば、俯いたまま肩を震わせるボサボサの長髪の娘をツイン縦ロールの娘が肩を抱いて励ますような言葉を掛けていた。どうやらボサボサの長髪の娘はツイン縦ロールの娘の()らしいけど、容姿に似通う要素は見当たらない。でも、雰囲気は―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は似ている気がする。

 

「ね、ねぇ...大丈夫――」

 

 

 

 

...ひっ...!

「来ないでッ!姉さんがますます...!」

 

―――大丈夫かと声を掛けてまた一歩屋内に踏み出した瞬間、ボサボサの長髪の娘が小さく怯えた声を零し、ツイン縦ロールの娘が[Walther PPK(ハンドガン)]を構えて私に銃口を向けながら声をあげる。

 

「わ、分かったわ!これ以上近付かないから...!」

「...少しでも動いたら撃つわよ。...姉さん、大丈夫よ。所詮通り雨なんだから。じっとしていれば雨雲もコイツも――――

 

 足を止め、両手を挙げて近寄らないと約束する。ツイン縦ロールの娘は[Walther PPK(ハンドガン)]を下ろしてホルスターにしまい、ボサボサの長髪の娘に優しい声色で宥め、励ます様な言葉を掛け続ける。

 

―――本音を言えば、二人の傍に歩み寄って話を聞いてあげたい。『ゲヘナ』は他校に比べて治安が悪いとは言え、この二人の様子は不良に襲われたとかのそれとは違うものだと感じられる。

 

「...(ボサボサの長髪の娘は、"()()()()()()()()()"って言ってたわね。この通り雨に巻き込まれたことですらあんなに落ち込んでる辺り...本当にボサボサの長髪の娘の()()がこの通り雨を呼び込んだのかしら?)」

 

 二人の様子を見ながら推察する。(背後)の雷雨は未だ雨足が強いままで、遠くで雷が鳴る音も時折混ざる。もしボサボサの長髪の娘の()()がこの雷雨を呼び込んだのだとしたら、随分と強力な不運だ。それを何度も経験すれば、あんな風に自分のせいだとすぐ思い込んでしまうだろう。

 

「...落ち着いた?」

...う、うん...

 

―――数分後。ボサボサの長髪の娘の震えが治まり、ツイン縦ロールの娘の言葉に小さく頷く。

 

「...なら良かった。...本当、どうしたものかしらね...()()()()()を続けてちゃ姉さんの為にもならない...

 

 ツイン縦ロールの娘は安心した表情を浮かべるけど、一転して暗い表情を浮かべて何か呟く。

 

「...ねぇ、私でよければ事情を話してくれない?初対面でこんな提案をするのも失礼だと思うけど...誰かに話したら楽になるかもしれないわ。まだ雨も止みそうにないし、それまでの間でいいから...どうかしら?」

「...アンタには関係ないわ。...そうやって話を聞いて、()()()()()を知った連中は皆、()()()()()()()()()、善意を捨てて突き放してきた。...話したってお互い意味がないわよ」

 

 私の提案を聞いたツイン縦ロールの娘は瞳に宿した警戒心を消さずに否定の言葉を返す。どうやら過去に自分達の事情を話して酷い目に遭った経験がある様だ。十中八九、ボサボサの長髪の娘が持つ()()とやらの事だろう。近付く事も許されない辺り、何度もそういう目に遭って来たのかもしれない。でも―――

 

「――じゃあ、[ワインレッド・アドマイアー(この愛銃)]を置くわ。どんな内容であれ、私は貴女達に危害を加えない」

 

―――[ワインレッド・アドマイアー(愛銃)]を軒下の方に立て掛け、改めて両手を挙げて危害は加えないと示す。

 

「...そうまでして私達の事情を知りたいの?」

「...何だか放っておけないから。せめて、話だけでも聞いてあげたいの」

「...とんだお人好しね。...姉さん、大丈夫?」

「...大丈夫...多分、この人は...悪い人じゃない、と思う...」

 

 ツイン縦ロールの娘は呆れた様な表情を浮かべ、ボサボサの長髪の娘に確認を取り、彼女は少し顔を上げて暗く物憂げな青い瞳で私を見つめてそう答える。

 

「...分かった。――単刀直入に言えば、姉さんは()()()()()()()()()()()()()の。姉さんが居ると居ないとじゃ()()()()()()()()()()()()()()位に強烈な不運をね。...元々寮住まいだったけど、()()()()()()()()()()やら()()()()()()()()()()やら...私と一緒に姉さんが入寮してから明らかに()()()()()()()()()()()ようになって、居場所を失って去らざるを得なかった」

 

 ツイン縦ロールの娘が事情を話し始め、ボサボサの長髪の娘はその時の事を思い出したのか暗い表情で俯く。―――雷の直撃なんて早々起きる事では無い。基本的には避雷針があるし、他に出来る対策もある。...しかし、ボサボサの長髪の娘が齎す()()はそんな早々起きない()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 寮側の対応は薄情に見えるけど―――入寮している他の娘達を守る為には()()()()()を追い出すべきだっただろう。

 

―――そういう対応をされたら、ボサボサの長髪の娘はますます()()()()()に苛まれてしまう問題があるけど。

 

「――そこから自地区内の寮やらアパートやらをあちこち回ったけど、私達の事情を聞いて、同情して受け入れてくれるだけ最初はマシだったわ。...実際に()()()()()()()()を目の当たりにしたら追い出されちゃったけど。

 受け入れられて、()()()()()()で追い出されて...それが噂として広まったんでしょうね。ついに私達の姿を見たら門前払いを食らうようになったわ」

「門前払いって...いくら()()()()()()()()()からってそんな対応は...!」

 

 ツイン縦ロールの娘が続ける言葉を聞いて思わず手を握り締める。―――恐らく噂ではボサボサの長髪の娘が齎す()()が誇張されたのだろう。そうでも無ければ門前払いまで悪化する筈が無い。()()から他の娘達を守る意義があるとは言え、ケアもせずマトモな学校生活から追いやるのは酷過ぎる。

 

「...幸い、私は()()()()()()()()みたいだから、何とか稼ぎは得られてる。――まぁ、偶に()()()()()()に巻き込まれて最悪()()()()()()()()こともあるんだけど。...稼いだって、使う前に失うんじゃ無意味だから最近は必要最低限に留めてるわ」

「...それで、こういう空き家で過ごすようになったのね」

「そうよ。こういう空き家に転がり込めれば儲けものだけど...何処かで唐突に、大体は()()()()()()()()()()()()から――()()()()()()()()()()()()()()()()()わ」

 

 ツイン縦ロールの娘は私の言葉に頷き、そう答えてため息を吐く。

信じざるを得ない。

 

「...こんな所かしらね。ほら、聞いたってどうにもならないでしょ?」

「...えぇ。貴女達の事情はよーく分かったわ」

 

 ツイン縦ロールの娘の言葉に頷く。

 

―――()は数字や理論で測れるものでは無い。しかし、どれだけ緻密な作戦や計画を立てようと、いざ実行すると―――唐突に作用して大きな変化を齎しうる不可思議で重要な要素でもある。

 そんなある意味私人間とは切っても切れない()を―――俯いているボサボサの長髪の娘は()()()()()()()()()()齎してしまう。

 

 信じたくないけど―――唐突な雨、そして今も時折響く雷鳴...()()()()と考えてしまう出来事が連続してしまっていると信じざるを得ない。

 

―――しかし。ボサボサの長髪の娘が齎す()()が、仮に異能だとか能力の類であるならば―――()()()()()()()()()()()()()()筈だ。

 また、()()()()()も同様に、上手くいくと強く思えばいい結果によく転がるし、悪いと思い込めば悪い事が起き続けてますます悪循環に陥る。

 

―――能力であろうと、()()()()()であろうと。自分自身の精神(こころ)を強く、前向きに持つ事が出来ればそれに応えてくれるものだと、私は思う。

 

 

―――だからこそ。

 

 

 

 

―――これまで目の前の二人ケアもせず、支えようともしなかった連中に代わって私が...!

 

 

「だから、もう一度警告するわ。――悪いことは言わない。私達なんかほっといて、雨が止んだらさっさと――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ますます放っておけないわ。...貴女も分かってるんじゃない?今のままじゃ何も変わらない。何なら――()()()()()()()()()()って」

「...っ...この場の初対面でしかないアンタに何が分かるってのよ!!姉さんには私しか居ないの!!例えこのまま不運に苛まれ続けようと!せめて私が傍に居てあげなきゃ――」

 

 

「――なるほど、誰もがその娘の()()を恐れて拒絶したから、そうして貴女一人で何とかしようと決めたのでしょう。でもね――世の中一人の力だけでできることは限られるのよ」

「じゃあどうしたらいいのよ?!どれだけ、何度私達が助けを求めて、悉くその手を振り払われてきたか!誰も助けてくれないなら、私しか――」

じ、ジョオン...落ち着いて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だから、()()()()()()()()()()わ」

 

―――サァァ...

 

―――声を荒げるツイン縦ロールの娘と、彼女の剣幕に驚きつつも宥めようとして手を伸ばすボサボサの長髪の娘に対してそう断言した瞬間、背後で雨音が一気に消えていき、雲まで晴れたのか、開かれたドアの前に立つ私の影を陽の光がハッキリと浮かび上がらせる。

 

「...雨が...」

「...!」

「実は私、起業すべく人材募集中でね。スカウトできそうな人材を探していたの。――貴女達は()()()()わね。ちょうど二人、しかも一人は()()()()()()()()と来た」

 

 雨が晴れて陽の光が差し込む様子に揃って驚く二人に微笑み、目的を明かす。ボサボサの長髪の娘は兎も角、ツイン縦ロールの娘が話していた"()()()()()()()()"という話。――"会計士"が欲しかった私にとって是が非でも欲しい人材だ。

 

「――正に貴女達は私が求めていた人材にピッタリ。是非とも雇いたいわ」

「...ジョオンは兎も角...私も、いいの?()()()()()以外にできることなんてないのに...」

「ね、姉さん...?!」

 

 ボサボサの長髪の娘が私を見てそう尋ねると、ツイン縦ロールの娘―――ジョオンと呼ばれた娘が驚いた表情を浮かべる。

 

「勿論よ!貴女の妹だけ雇って貴女だけを雇わないなんて差別はしないわ。――それに、()()()()()ことしかできないなんてことはない筈よ。私達と一緒に貴女の取り柄を探しましょう?」

「...ジョオン、この人について行こう。...この人は噓を吐いてない。本気で、私を雇おうとしてる...」

「...姉さん...」

 

 ボサボサの長髪の娘の問いに力強く頷くと、彼女は賛意を示してジョオンを誘う。ジョオンは警戒心と疑念の眼差しで私を見つめ―――

 

 

「...こんな私達を雇いたいなんて、本当にお人好しね。――約束して。仮に()()()()()()()()の影響を受けても、私達を突き放したりしない?」

「約束するわ。"社長"として、雇った社員の面倒を見るのが責務だもの。どれだけ不運な目に遭って苦境に陥ろうとも――雇った娘達だけは決して見捨てないわ」

 

 呆れつつも()()()()()()()表情を浮かべるジョオンの言葉に頷き、約束すると宣言して二人の下に歩み寄って手を差し伸べ―――

 

 

 

 

「――私は『陸八魔アル』。これから貴女達の上司になる者にして――かけがえのない仲間になる者よ」

「――『依神シオン』。ジョオンは私の双子の妹。...不運しか齎せない私だけど、よろしく...」

「――『依神ジョオン』、シオン姉さんの妹よ。...姉さん共々、お世話になるわ」

 

―――お互い自己紹介を交わし、二人は私が差し伸べた手を握り、手を引いて立ち上がらせる。

 

「――さぁ、雨も止んだし行きましょう!」

「...だ、大丈夫かな...歩いてる途中でまた雨が降ったら...」

「そうやって悪い方向に考えるから良くないことが起きるのよ。"雨はもう降らない"――そう強く思えば()は応えてくれるわ。仮に雨に降られても――"次は大丈夫"って前向きに考えればいいわ」

 

 空き家の外へ出て、軒下に立て掛けておいた[ワインレッド・アドマイアー(愛銃)]を回収して歩き出し、後ろをついて来るシオンの自信無さげな言葉にそう返す。"上手くいく"―――そう前向きに考えれば運も応えて前に向くものだ。

 

「...前向きに...分かった。...雨は降らない...雨は降らない...大丈夫...

「前向き、ね...その方が雰囲気も暗くならないものね。――それで、どういう会社を起業するつもりなの、"社長"さん?」

「ふふ、よく聞いてくれたわ!私達が立ち上げる会社は――――」

 

 


~『シャーレ』オフィスビル 部室~

side-"先生"

 

「――――まぁ、起業して最初の依頼で見事に()()()()()()が作用して、本来なら楽だった筈なのに()()()()()()()()になって"社長"は白目を剝いたわ。結局報酬も殆ど得られなかったし。――それでも、約束通り"社長"は何が起きても私達を突き放すことはしなかったわ」

「"なるほど...アルは君達にとって本当にかけがえのない恩人なんだね"」

 

―――キーボードを打つ手を止め、ジョオンは身の上話を締め括る。改めてアルとジョオン達"便利屋68"の面々の絆の強さを実感しながら頷く。

 

―――今日の『シャーレ』"当番"はシオンとジョオンの依神姉妹だ。"便利屋68"がここ『D.U.外郭地区』に事務所を移転した翌日―――即ち今日が"当番"を予約していた日で、残る四人は今日付の依頼遂行に向かっている。

 

―――『もし、シオンが便利屋68(こっち)の依頼遂行について行けなかったことを気に病んでたら――"そっちはそっちで"当番"をしっかりやり遂げなさい"って私が言ってたって伝えてあげて欲しいの。ジョオンも居れば大丈夫だと思うけど...私の言葉もシオンに前を向かせる一助になる筈だから』

 

―――脳裏にアルが電話で伝えてきた言葉を思い返す。二人が『シャーレ』に来た当初、シオンは明らかに落ち込んでいた。ジョオンがフォローしてもあまり改善せず、どうしたものかと悩んでいたら掛かってきたアルからの電話。渡りに船だと彼女の言葉をシオンに伝えたら、"社長がそうしろって言うなら...うん、頑張る...!"と前向きになってくれた。

 

―――このやり取りからも、アルが二人にとってどれだけ大きな存在であるかが解る。所属生徒の起業(校則違反)を犯しているけど、そうまでして立ち上げた"便利屋68"は彼女に大きな恩があり、また彼女を慕う依神姉妹達五人の掛け替えの無い居場所になっている。

 

「...ジョオン、今大丈夫?...ここの項目は、どうしたらいい...?」

「あぁ、そこは――――」

 

―――私達の会話に混ざらず、たどたどしくもパソコンで作業を進めていたシオンが頃合だとジョオンに教えを乞う。ジョオンは素直に快く応え、シオンの傍に椅子を寄せて教え始める。―――そんな姉妹の関係は見ていて微笑ましくなる。

 

―――シオンが持つ()()()()()()()()()()力。その影響を一番傍で受け続けてきたであろうジョオン。"会計士"を務められる程に得意なお金稼ぎで努力して、結局()()()()()()()()羽目にあっても尚―――シオン()の傍を離れず、アルに見出されて雇われる()()を共に享受した。

 他人のせいで自分が大きな迷惑を被っているのに、決して八つ当たりせず妹として傍に居続け、支える―――ジョオンはシオンにとっても掛け替えの無い、素晴らしい妹だろう。

 

「...わぁ、こんな簡単に...!流石ジョオンだね」

「これくらい基本的なものだけど...まぁ、褒められると悪い気はしないわね」

「...えへへ。...いつもありがとうジョオン」

「......な、何よ急に。...ど、どういたし――」

 

 

 

 

―――カシャッ...

 

「...へ?」

「...は?」

「"...ん?"」

 

―――ジョオンのアドバイスに対しシオンがお礼を述べ、ジョオンは戸惑い、恥ずかしそうにしながらも返事を返そうとした瞬間。微かに()()()()()()が聞こえ、私含め揃って硬直して音が聞こえ方に目を向ける―――

 

 

 

 

 

 

「――仲睦まじい姉妹のツーショット、いただきました!いやぁ、普段ネガティブな表情ばかりのシオンさんも、気難しい表情か営業スマイルが多いジョオンさんもこんな表情を浮かべるんですねぇ。これはいい広報材料に――」

 

―――部室の出入口側。スマホのカメラをこちらに向けて構えた、いつの間にか帰って来ていたらしいアヤ。スマホを下ろし、いいネタを得たと言わんばかりの笑顔でそう宣言し―――

 

 

 

 

 

―――チャキッ...

 

「――今すぐ、その写真を消しなさい。じゃないと――今日は()()()()()を獲ることになるわよ」

 

―――頬を赤らめるジョオンが[Walther PPK(ハンドガン)]をアヤに向けて構える。

 

「...じ、ジョオン...?別に写真位――」

「姉さんが良くても私が良くないのッ!」

 

 シオンが落ち着かせようと声を掛けるけど、ジョオンはそれを遮って自分の都合が悪いと返す。

 

「"...アヤ、ジョオンが嫌がってるし流石に――"」

「――広報には使いませんが、()()()()()()()()()()()点は譲れませんね。――人が己の()を曝け出す瞬間というのは中々得られないものです。故に、情報として価値も高い」

「...その写真で私を脅そうっての?」

「さぁ、どうでしょう?」

 

 アヤを諭そうとするけど、そんな理由を挙げて写真を残す事は譲ろうとしない。それを聞いたジョオンが尋ねると、アヤは思わせぶりな表情で肩を竦め―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いいわ。自分の意思で消さないなら...()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

ガタッ...!

 

「おっと...!実力行使に出るならば、ここは逃げるしかありませんね!」

 

ダッ...!

 

―――ジョオンは椅子を蹴飛ばしてアヤに向かって走り出し、アヤもすかさず部室から出て逃げ出す。

 

「...せ、"先生"...どうする?」

「"...被害が大きくなる前にどちらか捕まえて止めようか。...アヤにはまず追いつけないだろうから、ジョオンを止めよう"」

「...分かった。...でも、たかが写真一枚でなんであんなに...?普段は積極的に撮ったりするのに...」

 

 二人して部室に残され、戸惑うシオンの問にそう答えて立ち上がり、ジャケットに袖を通しながら歩き出す。シオンも同様に立ち上がり、首を傾げて呟きながらついて―――

 

 

―――~♪

 

「"...ちょっと待って。『モモトーク』が..."」

 

―――スマホから『モモトーク』の着信通知音が鳴り、足を止めてスマホを取り出す。

 


―――今日―――

 

A88@文々。新聞

 "先生"! 

 折角なので写真共有しておきますね!  

 教師としてはこういう光景は微笑ましいでしょう?  

 


 

―――トークの下には、先程撮ったらしき写真が載せられている。ネガティブさが無い、素直に嬉しそうな微笑みを浮かべるシオンと、恥ずかしそうに頬を赤らめるジョオンが向き合う微笑ましい情景。シオンはこういう表情を浮かべる事が出来ると解って安心出来るけど、ジョオンがこういう表情を浮かべるイメージは無い。―――アヤが言っていた()()()()()()()()瞬間というのはこういうものなのだろう。そして、ジョオンのあの反応は自身の素を他人には見せたくないという事。そんな写真を私にも()()()共有するなんて―――

 

 

 

 

「"――アヤ...()()()()()()()つもりか!これは是が非でも止めないと...!"」

「..."先生"?」

「"――シオン、急ごう!このままじゃアヤだけじゃなく私も大変なことになりかねない...!"」

「わ、分かった...!」

 

 シオンは戸惑いながらも頷き、早足で歩き出した私について来る―――

 

―――To be Continued―――

 

 

 

*1
ナデシコ科ハコベ属の一年草。春の七草にも数えられている。近縁種が多様な地這い性の植物。食用、飼料にも向く

*2
イネ科メヒシバ属の一年草。花ではなく小穂を作り、大量の種子をばらまく

*3
キク科タンポポ属の多年草。根が残っていれば再度成長するしぶとさが特徴。ニホンは春のみ、セイヨウは一年中花を付ける

*4
掘り下げがあまり無くて書きようがないとも言う()




という事で、依神姉妹でした。別でそれぞれの掘り下げはやる...かもしれない。最後のオチは皆さんのご想像にお任せします。

シオンがこれまでの話含めて食べてばっかりな描写が多いのは個人的な趣味要素です。いっぱい食べる君が好き。
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