Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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アリスが既に居る理由を説明する回想です。


File42.M-2~不思議の国(廃墟の底)アリス(AL-1S)

―――約一週間前―――

 

~『廃墟』 自治区境界近傍の廃ビル地下~

side-ユメミ

 

―――ガコン...

 

「――敵影なし。っと...さぁ、出てきて大丈夫よ」

 

 ハッチを開けて顔を出し、小型、簡易の分析機材やキャビネットが並ぶ()()()()()()()()()内に誰も居ない事を確認してハッチから出て、傍の壁にある電灯のスイッチに触れて灯りを点ける。薄暗い開口部に顔を向けて呼び掛ければ―――

 

 

「っしょっと...おぉ、この()()()()()()は初めてだ...!」

「...ふぅ...わぁ、前回の()()()()()()よりも広くて整備されてる...」

「よっと...ユズ、大丈夫か?」

「...ふぅ...思ったより梯子が長かったけど、まだ大丈夫...」

 

―――モモイ、ミドリ、ユズ、マリサ。"ゲーム開発部"の四人がハッチから出て来る。

 

「四人共大丈夫そうね。――ここは私の()()()()()()()()()よ。今まで使ってきたのは中継地点や補給、小休止用の所なの。ここに()()()()()()()()()()だけの物資を貯めていて、探索で見付けた"オーパーツ"や遺物の保管、簡単な分析、研究を行えるように整えているの」

 

 四人共コンディションが大丈夫である事を確認し、()()()()()()()()()について説明する。

 

―――『ミレニアム』入学以来、ふと興味を抱いてから今まで度々()()して探索、研究を続けている『廃墟』。『ミレニアム』自治区に隣接して広がる、()()()()()()()()()()()()()()が多数眠る廃墟都市の領域をそう呼称していて、私以外にも多くの『ミレニアム』生の興味を惹いて()()

―――しかし、()()()()()()()()()()()()()()には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が含まれ、本来の主がとうに居ないにも関わらず侵入者の排除に勤しんでいる。そのおかげで『廃墟』に侵入した『ミレニアム』生の被害が大きくなり、時の"セミナー"からの要請により"連邦生徒会"へと『廃墟』の管理権が移管されて封鎖措置が取られ、今では侵入し得る可能性がある地点は全て封鎖、監視されている。

 

「一ヶ月も過ごせるのか...ここも()()()()なんだな」

「地下じゃないと()()()()()()()もの、仕方ないわ。――さて、あそこのソファで休んでて。ジュースがあるから必要なものの準備ついでに持ってくるわ」

「え、いいの?!」

「...いいんですか?"教授"が貯めているものを...」

 

 部屋の隅、ソファとテーブルを据えた休憩スペースを指差し準備の合間に休憩するよう提案すると、モモイが目を輝かせる一方、ミドリは遠慮がちに確認して来る。

 

「貴女達に振る舞う位なら大丈夫よ。後でちゃんと説明するけど今回は()()()()()()()()()()調()()()()()に向かうから、あまり慣れていない貴女達のコンディションは万全にしておきたいの」

「ユズはまだ大丈夫そうだが、確かにコンディションは万全にしたいな。じゃあ、ありがたく休憩させてもらうぜ」

「あ、ありがとうございます...!」

 

 四人が休憩スペースに向かう様子を確認し、給湯室として整備している小部屋に入る。冷蔵庫から適当な紙パックのフルーツミックスジュースと、チョコのエナジーバーを人数分取り出してトレイに乗せて部屋を出る。

 

「――お待たせ。ついでにエナジーバーでエネルギー補給もしておきなさい」

「おぉ、来た来た!ありがとう"教授"!」

「エナジーバーまで...ありがとうございます、"教授"」

「ありがとな、"教授"」

「あ、ありがとうございます...」

 

―――休憩スペースに着き、テーブルにトレイを置いて四人の向かい側に座り、自分のパックとエナジーバーを手に取り、携帯用のホログラムデバイスをテーブルの真ん中に置く。

 

「――さて。貴女達と一緒にこの『廃墟』の探索を進めているけど、未だに『G.Bible』は見付かっていない。()()()()()であることは判明しているけど、肝心の所在は分かっていないのが現状。ここまではいいわね?」

 

 ジュースを一口飲み、そう切り出すと四人共頷く。

 

―――"ゲーム開発部"()()()()()を脱するべくこの娘達が探す、()()()()()()()()()というマニュアル『G.Bible』。プレイ性、ストーリー、グラフィック―――様々な面でユーザーから高い評価を得られる様なゲームを神ゲーと言うけれど、評価はユーザーの腕や感性次第であり、開発者(デベロッパー)はそんなユーザーの意見を取り入れ、より良いものを生み出していくものだ。故に―――『G.Bible』という()()()()()()()()()なんて眉唾物だろうと聞いた当初は思っていた。

 

―――しかし、私が『廃墟』で集めたデータや、過去に『ミレニアム』生が集めたデータの解析や見直しを行った所、()()()()()()()の断片的なリストの中に『G.Bible』に関する情報が見付かった。詳細や所在は結局分からないままだけど、『G.Bible』そのものは確かに実在する物である事は分かった。

 

「そこで、今回からはより中心に近い場所――()()()()()調()()()()()の探索を行うわ。『G.Bible』はデータ媒体だから、今まで通りコンピュータ機器を重点的に狙っていく」

 

 スマホを取り出して『廃墟』全域のマップをホログラムで立ち上げ、方針を説明しながら『廃墟』の中心に近付いた区域をハイライトで強調する。

 

「中心に近い所、か...オートマタやドローンももっと徘徊してそうだな。()()()()()地下を移動するんだろ?」

「えぇ、勿論よ。――"()()()()()()"が居なければもっと楽に行けるんだけどねぇ...」

 

 マリサの問いに頷く。―――『廃墟』の管理権が"連邦生徒会"に移管して以降も積極的に()()しているのは私だけだ。監視部隊の目を掻い潜るべく地下を移動し、セーフハウスをあちこちに設置して来たものの、運悪くバレてしまう事態に何度か見舞われた結果―――"連邦生徒会"は"セミナー"を通して()()を入れつつ、『SRT』の部隊を配置して対策して来た。それも―――()()()()()()()()()()()部隊で、だ。

 

「――確認するけど、()()()()()調()()()()()だからマッピングを行いつつの探索になるし、マリサの懸念通りオートマタやドローンとの遭遇率も上がるはず。――それでも、貴女達は探索に同行する?」

「勿論だよ!廃部を回避するためにも、『G.Bible』は絶対に手に入れなきゃなんだから!」

「お姉ちゃんを放っておくことはできないので...私も一緒に行きます...!」

「...ほ、本当は怖いけど...ここまで来たら『G.Bible』は見付けたい、ですから...」

「――この通り、三人共やる気があるからな。無茶やケガしないように二年生(先輩)として面倒見るべきだろ」

 

 私の念押しの確認に対して四人共頷く。このやる気をゲーム開発に割いて欲しいとも思うけど、こういう手合いは無理矢理やらせてもパフォーマンスを発揮出来ないものだ。()()()()()()()()()らしい『G.Bible』がどんな代物なのかは私も興味があるし、このままできる限り協力してあげよう。

 

「――やる気充分で結構。それじゃあ、休憩を終えたら出発するわよ。貴女達が使う銃の弾薬も一通り備蓄してあるから、追加で補充しておきなさい」

 

 四人の反応に頷き、エナジーバーの袋の口を開けて一口齧る―――

 

 

~『廃墟』複合施設 地下通路~

side-マリサ

 

[...!]

[Gi...!]

[Bi...!]

 

「――前方!オートマタ三体!」

「私がやる!――弾幕はパワーだぜ!

 

ダダダダ!

 

[[[GaGa...?!]]]

 

―――嘗ては工場か何かだったらしい施設の地下。白いオートマタ三体が丁度前方の曲がり角から姿を現し、モモイの前に躍り出て[バレットシャワー・ブルーム]で弾幕を張って纏めて撃破し、曲がり角を曲がって走り続ける。

 

ガシャガシャ...

 

「...後ろから近付いてる。撒いたと思ったのに...!」

「――ユズ、()()は装填してあるわね?」

「は、はい...!」

 

 しかし背後からオートマタ数体の足音が聞こえて来て、ミドリが表情を顰める。一番後ろを走って殿を受け持つ"教授"がユズに確認すると、ユズは[にゃん's ダッシュ]に装填した弾を確認する。

 

「モモイ、マリサは前方警戒!後方警戒はミドリ!ユズは――追撃して来るオートマタの姿が見えたら、私の合図で撃ちなさい」

「「「「了解(...!)!」」」」

 

 "教授"の指示に頷き、通路を走り続ける―――

 

 

 

 

[[[...!]]]>

[[[[Gi...!]]]]>

 

「――後方、オートマタ多数!」

「――今よ、ユズ!」

「はい...!――覚悟してください!」

 

―――ミドリの通報を受けて数秒後、"教授"の合図でユズが[にゃん's ダッシュ]から弾を撃ち出す音が聞こえ―――

 

 

―――ブゥンッ...!

[[[...!]]]

[[[[Gi...!]]]]

 

―――榴弾や発煙弾とは違う音が聞こえ、オートマタ達の足音が聞こえなくなる。

 

「――よし、予測通り[EMP弾]は効果的ね。ユズがグレネードランチャーを相棒にしていて運が良かったわ。一発で全員纏めて制圧できたし、よくやったわユズ」

「あ、ありがとうございます...」

 

 "教授"は振り向く事無く[EMP弾]の効果を確認し、ユズを見て微笑みながら褒める。

 

―――『ユズ、貴女に使ってみてほしい弾があるの。対オートマタ、ドローン用に造ったはいいんだけど、機材の都合でグレネードランチャーの[40mm弾]規格だから試す機会が無くてね...』

 

―――休憩を終え、弾薬や携行品の補充を行っている時に、"教授"がユズに持たせた[EMP弾]。試作品でさっき撃ったもの含めて三発だけだが、効果は充分ある様だ。

 室内では銃声は尚更響く。そのせいで遠くを徘徊するオートマタやドローンに気付かれる事が道中何度かあり、さっき使った[EMP弾]は出来る限り静かに、一発で制圧するにはこの上無く最適な装備だ。残り二発しか無いのが悔やまれる。

 

「――"教授"、前の方に出口っぽい開口部があるよ!」

「ふむ...さっきのコンピュータから抽出できた()()()()()には破損していて載ってなかったわね。――モモイ、マリサは先行してクリアリング!ミドリ、ユズは後方警戒!」

「「「「(り、)了解(だぜ)!」」」」

 

―――モモイが通路の出口を見付け、"教授"の指示に了解と答えてモモイの反対側を並走する。走ることおよそ百メートル―――

 

 

―――ババッ...!

 

「――クリア!」

「――クリア!」

 

―――通路を出た先。別区画に繋がるらしいゲート的な物が道を遮るロビーの様な空間の左方に出て、[バレットシャワー・ブルーム]を即座に構えて空間をザッと見回し、敵影が無い事を確認して右方をクリアリングしたモモイと揃って報告する。

 

「――後方敵影なし、です」

「て、敵影なし...!」

「皆、ありがとう。――ミドリとユズはそのまま通路を警戒して。さて...」

 

―――ミドリとユズは"教授"の指示でそのまま通路側の警戒を継続し、私とモモイは教授の下に合流する。

 

「...これって、ゲート?」

「見た所はそうだな...区画番号はすっかりすり減っちまって読めないが」

 

 無人になってからかなりの年月が経っているのだろう。素材が凄いのかゲートとしての役割はまだ果たしているが、塗装は酷く劣化していて剥げ落ちていて、区画番号は描かれていたらしい痕跡だけを遺していてまるで読めない。

 

「...ゲートはゲートでも隔壁の役割もありそうね。この先は地図データが破損していてまるで分からない――」

 

 "教授"が一歩近付いてゲートに触れる―――

 

 

 

 

―――ウィィン...

 

『――センサー反応を検知。...未確認人物五名。スキャン開始』

 

...シュィィン...

 

「うわ、なになに?!」

「な、何だいきなり...?!」

「...な、何が...?!」

「ひぇっ...?!」

「――あら、セキュリティが生きていたみたいね。しかも人体スキャニング方式か...パスコードだと()()()()()()が居るし、人体データはある意味唯一無二だものね」

 

―――突然ゲート上部からアームが伸び、先端に付いた白い球体から青白い光が放たれて正にスキャニングの様に動き出す。私達が突然の事に驚く中、"教授"は球体を見上げて冷静に分析する。

 

『――スキャン結果を分析中......完了。

 

"才羽モモイ"――不適格

"才羽ミドリ"――不適格

"花岡ユズ"――不適格

"霧雨マリサ"――不適格』

 

「ふ、不適格って...私の何がいけないのさー!」

「おう、自分の胸に手を当ててみろ。...冗談はともかく、えらく旧い施設だからな。名前まで分析して当てるのは謎だが、今を生きる私達のデータで通る訳がないわな」

 

―――十数秒してアームとスキャン装置が元の位置に格納され、アナウンスは当然ながら私達のデータが合わないと報告する。モモイのクレームにツッコみながら、現代を生きる私達の人体データで通る訳が無いと理由を挙げ―――

 

 

 

 

 

 

『――"岡崎ユメミ"、()()()()。緊急プロトコルに基づき、対象データをパスとして適用。()()()()()()()()()を起動します』

「――へ?」

「――あ?」

 

―――ガコンッ...!

 

ゴゴゴゴ...!

 

―――"教授"を()()()()だと判断したアナウンスが止むと、まさかの結果で変な声を漏らした私とモモイの目の前でゲートからロックが外れる轟音と、駆動音が聞こえ始めてゲートが下がり始める。

 

「――ゲートが...お姉ちゃん、何をしたの?!」

「わ、私じゃないよ!なんで"教授"で通っちゃったの?!

「私に聞かれても分からん。――"教授"、どうする?」

 

 モモイにそう答えながら"教授"を見る。

 

「劣化でセキュリティの挙動がおかしくなってる可能性もあるけど――開いたなら結果オーライよ。ゲートが開ききったら行きましょうか」

「そ、そんなあっさり...いやでも、この先に『G.Bible』があるかもしれない...」

「確かに所在は未だに分からないからな...入れるなら入って探すべきだな」

 

 ユズの言葉に頷く。―――所在が分からない以上、入れる場所があるなら入って虱潰しに探すしかない。セキュリティが付いたゲートで守られたこの先にあるといいが―――

 

 

~『廃墟』複合施設 最深部~

 

「――クリア!」

「――クリア!...縦にも横にも...こりゃ随分と広いな」

 

―――ゲートの先、少し長い下り階段を下りた先で、モモイとクリアリングを行って苔や植物が茂る広大な空間を見回す。結構深い階層の筈だが、空間は円柱状で地上側に伸びている様で、見上げれば眩い日の光が私達と空間を照らす。

 

「――お姉ちゃん、マリサ!あの真ん中の椅子...!」

「ミドリ?何が――」

「どうした――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

―――ミドリが指差す先。空間の真ん中に据えられた椅子に誰かが座って―――いや、()()()いる様子が見て取れる。

 

「――人...だと?こんな『廃墟』に?」

「――近付いてみましょう。遠目では分からないわ」

「分かった。――ミドリ、ユズも行くよ!」

 

 "教授"の提案に頷き、モモイ達を連れて椅子へと近付く。

 

「――うわ、裸じゃん?!」

()()()()()()は隠せる位に髪が長くて幸いだが...」

「――椅子に銘板があるよ。これは...」

 

―――近付くと、そこには随分髪が長い裸の女の子が椅子に身体を預けて眠っている様に見えた。モモイが素っ頓狂に驚く中、ミドリが椅子に付けられた、少し劣化して文字が不明瞭な銘板を指差す。目を凝らせば―――

 

『AL-1S』

 

「――AL...I(アイ)...あ、違う1(ワン)か...『AL-1S』...?」

「ロボット、機械みたいな名前...というよりは型番か?」

「ロボットって...見た目は私達と全く変わらないのに」

「う、うん...私も、ロボットにはまるで見えない。まるでゲームに出てくるみたいな――()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいに見える...」

 

―――名盤に記された名前、或いは型番を見てそれぞれからそんな意見が挙がる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――なるほどユズの例えが適当だろう。科学技術を専門とする『ミレニアム』でも、目の前の『AL-1S』みたいなアンドロイドが生み出された事は今まで無い。噂話で聞いただけだが、()()()()()()では正にそんなアンドロイドの研究開発を―――

 

 

「...ふむ......『AL-1S』...まさかここでこの名前を見付けられるなんて、ね...

「..."教授"、すごく集中してるね」

「普段も今までも飄々としてて、たまに()()()()もする茶目っ気がある人なのに...」

()()()()()()じゃアンドロイドの研究をやってるらしいからな...正に目の前のコイツは――」

 

―――"教授"が()()()真剣な表情を浮かべて『AL-1S』を見つめている様子を見て、モモイ達と顔を寄せて小声で話し合う。"教授"の反応を見るに、()()()でアンドロイドの研究開発を行っているのは事実なのかもしれない。だが、目の前の『AL-1S』が果たしてアンドロイドか否かは現状―――

 

 

 

 

「――見てるだけじゃ埒が明かないわね。まずは...」

 

スッ...

 

「「「"教授"?!」」」

 

―――ふと呟いた"教授"がおもむろに『AL-1S』が座る椅子に近付いて手を伸ばし、モモイ、ミドリと揃って思わず声を挙げる―――

 

 

 

 

―――ポゥ...

 

「――へ、ヘイロー...?!」

「嘘...まさか本当に...?!」

「マジかよ...」

 

―――教授が『AL-1S』の頬に触れた瞬間、頭上にヘイローが浮かび上がりゆっくりと目を開き、私達は驚きで動けないまま様子を見守る。

 ヘイローはキヴォトスで生きる私達生徒である事の証であり、個人の証明でもある。『AL-1S』が何故ヘイローを持っているかはまるで分からないが、確かなのは―――『AL-1S』はキヴォトスに()()()()()()である事だ。

 

 

「――()()()()()()()を確認。内蔵システムチェック......完了」

 

「うわ、喋った?!」

「言葉の機械的な、棒読みの感じ...正に起動して最初の邂逅のシーン。本当にゲームみたい...!」

 

 目を開いた『AL-1S』は機械的な口調でそう言葉を発し、私達を見回す。()()()()―――あのゲートのセキュリティで"教授"は()()()()と判断されていたからそのおかげだろうか。

 

「――状況不明。説明を求めます」

「説明って...私達の方が説明して欲しいよ!うーん...まず、貴女は何者なの?」

「――データ参照......不明。本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認」

「えぇ...自分のことすら分からないなんて。『AL-1S』が貴女の名前なんじゃないの?」

「――データ再参照......不明。本機が保有するデータ内に当該の機体名はありません」

「な、名前すら...」

 

 一通り私達を見回した『AL-1S』がそう説明を求め、モモイが問答するも『AL-1S』という名前が確実なのかすら分からずガックリと項垂れる。

 

「ふむ...名前すら分からない以上、この娘から聞き出せるものはなさそうね。問題は――」

「――コイツをどうするか、だよな。目覚めちまった以上、ここで放置は色々と不味いと思うぜ」

 

 "教授"の言葉に頷き、放置は有り得ないと意見を挙げる。放置していればどう行動するかも分からないし―――何より、裸のままここに放置するのは心情的にやりたくない。だが、このまま連れて行くにしても何処に受け入れて貰うか―――

 

 

 

 

「――マリサの言う通りだよ!ここは『ミレニアム』で...私達"ゲーム開発部"で受け入れてあげよう!」

「お、お姉ちゃん...?!」

「い、いきなりそんなこと...!そもそも生徒ですらないのに...!」

「おいおい、いきなりだな...」

 

―――モモイが決心した様な表情を浮かべて宣言すると、ミドリは驚いた表情を、ユズは顔を青ざめさせる。如何にもモモイらしいが、いきなり過ぎる。ゲーム開発部(ウチ)で受け入れるのは兎も角、そもそもどうやって『ミレニアム』に入れるか―――

 

 

「――それがいいかもしれないわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴女達"ゲーム開発部"ならゲームを通して色々な経験を与えることができるだろうしね。研究室に閉じ込めてあれこれするよりは、校内で自由にさせて多くの経験を与えるべきよ。『ミレニアム』への編入は任せておきなさい。"教授"としての権限と人脈で上手いこと入れてみせるわ」

「さっすが"教授"!じゃあ――私達の学校に行こう、『アリス』!」

「『アリス』――それが本機の機体名でしょうか」

 

―――しかし、"教授"があっさり賛意を示し、目を輝かせたモモイが『AL-1S』を『アリス』と呼んで手を差し伸べ、『アリス』と呼ばれた『AL-1S』は首を傾げて問いかける。

 

「そうだよ!『AL-1S』の"1"を見た目が似てる"i(アイ)"に置き換えて『ALIS』――だから貴女は今から『アリス』!」

「――肯定。機体名『アリス』を登録。本機は現在より『アリス』となります」

 

 モモイが名付けた理由を挙げると、『AL-1S』――『アリス』は名前を受け入れる。

 

「お姉ちゃんがらしくもなくそれっぽいネーミングを...でも、『AL-1S』なんて型番よりはいいかも」

「いい名前ね。()()()と名前が被ってしまうけど、世の中名前被りは二、三人居るって言うし、大丈夫でしょう。私からも説得しておくわ」

「いい名前だが――ユズ、"部長"として判断してくれ。"教授"が認めた以上『ミレニアム』編入は確定だが、ゲーム開発部(ウチ)で受け入れるかどうかはお前次第だ」

 

 モモイが名付けた『アリス』という名前に賛意を示しつつ、ユズを見て判断を仰ぐ。―――モモイ、ミドリと共に"ゲーム開発部"に入った当初、ユズは"部長"でありながら、内気で引っ込み思案な性格故に判断を私達に委ねがちだった。部長会議にも私かモモイ(実態は()()()()私が出てばかりだが)を代理に出してばかりで、それでは部の運営に問題が出るだろうと、特に強気なモモイを抑えつつ、最終的な判断は部長(ユズ)が行う様に心掛けている。

 

「...状況を知ってるのは私達だけ...なら、私達が受け入れてあげるべき、だよね。...わ、分かった...!――"教授"。『アリス』は、私達"ゲーム開発部"で受け入れます...!」

「――分かったわ。貴女の判断を尊重しましょう。さっきも言ったけど、編入は任せておきなさい」

「さっすがユズ!分かってるじゃん!」

「ユズちゃん、ありがとう...ここに放置するのも、誰かに任せるのも少し不安だったから」

「いい判断だぞ、ユズ」

 

 ユズが下した判断を私達は受け入れる。―――こうして時々ユズに判断を仰ぐ事で、部長(組織の責任者)としての自覚と、自己評価の向上に繋がる筈だ。

 

「――さて、『G.Bible』は結局見つからなかったけど()()()探索はここまでね。裸の上丸腰のアリスを連れながらは流石に厳しいわ」

「確かに、こんな無防備だと守るのも厳しいな...部員を得られることを成果とすべきか」

「部員が増えるなら万々歳だよ!――アリス、立てる?」

 

 モモイがアリスの下に歩み寄り、手を差し伸べる。

 

「――四肢の状態は良好。アリス、椅子から――」

 

 

 

 

 

 

ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

 

「――け、警報?!」

「――な、何だ?!」

 

―――アリスがモモイの手を取って椅子から立ち上がり、"教授"が着ていたジャケットを羽織らせた瞬間、突如空間に鳴り響く警報。驚きながらも咄嗟に銃を構えて―――

 

 

 

 

『――()()()()の移動を確認。緊急プロトコルに基づき、()()()()()()()を起動します。繰り返す――――』

 

「い、隠滅シーケンス...?!」

「よく分からないけど――()()()()()()()()()なのは確かだよ...!」

「ミドリの言う通りだ。嫌な予感がするぜ...!」

 

―――警報に混ざって不穏なアナウンスが繰り返され、困惑しながも私は耳を澄ます。何か起きるとすれば、この空間か、()か―――

 

 

...ゴゴゴ...

 

 

「――マリサ、聞こえた?」

「――あぁ、一瞬だったが聞こえたぜ"教授"。何かは分からんが――()()()()なのは確かだ」

 

―――警報、アナウンスの中で微かに一瞬()()()()()()()()()()()()を聞き取り、"教授"も同じ様に気付いたのか私に尋ねて来て、眉を顰めて頷く。

 

「マリサ、"教授"?何を――」

 

 

 

 

「――私の経験則だけど。多分()()()()()()()わ。私とマリサが聞きとめたのは、()()()()()()()()()()。アリスが居た痕跡か、()()()()()()()かは分からないけど――アリスが動くことに合わせてこの空間を()()()()()()()()()システムのようね」

「――み、水に沈む...?!

「そ、そんなまたゲームみたいな展開が...?!」

「ヤバいじゃんそれ?!()()()()()も脱出できてないのにこんなところで溺れ死ぬのはヤダー!!」

 

―――"教授"が挙げた()()()()()()()()を聞いたモモイ達は顔を青ざめさせる。確かに推測が事実なら本当にヤバいが―――

 

 

「――()()()()()()()()できればいいんだろ?見ろ――天井のあの光は明らかに日の光だ。つまり――()()()()()()()()()()()()()()()()()。"教授"、確か高所移動用で"グラップリングランチャー"を一つ持ってきてるよな?」

「――えぇ。モモイが背負っているバックパックにあるわ。......あぁ、なるほどね。それなら()()()()()()()()()()

「ふ、二人ともなんで冷静なの?!早く脱出しないと――」

 

 

 

 

 

 

「――今からあの天井に()()()()()()()()()()()()()。普通ならどうしようもない距離だが――()()()()()()()()の出番だ」

 

―――"教授"が納得した様に微笑む一方で困惑しっ放しのモモイ達に振り向き、スカートのベルトに提げた()()()()()()()を―――両手で包める程度の大きさの茶色い八角柱。その上面に陰陽玉と八卦図を誂えた―――"ミニ八卦炉"を手に持ってモモイ達に見せる。

 

―――あれは『ミレニアム』入学直前だったか。自治区にやって来た『香霖堂』の露店で見出した"オーパーツ"。一目見た私はこの"ミニ八卦炉"に()()()()()()を感じ取り、言い値ですぐに買い取り、今までかけがえの無い相棒として私と共にある。

 "ミニ八卦炉"は()()()()をエネルギー源として、小は()()()()()()、大は()()()()()()()()()()()()()()()()()にまで自在に威力を変換出来る機能を持つ。

 ()()神秘、と言い置いたのは―――古巣の"エンジニア部"で機能や機構を解明するべく色々な方法や機材を用いた事があったが―――()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。"エンジニア部"の連中はまるで解明できない"ミニ八卦炉"の謎を解明してやろうと息巻いていたが、無理矢理弄って相棒に何か不具合が起きてダメになってしまうのは嫌だからこうして常に手元に置ける様にしている。

 

 ...事ある毎に"ミニ八卦炉"の解析をせがまれる事にウンザリして、丁度よく"ゲーム開発部"に転部できる機会があったなんて理由は無い。決して無い。

 

―――閑話休題。

 

「――()()()()を出したのは、ミニ八卦炉(コイツ)を手に入れたばかりの時に限界を試そうとしたっきりだが――あの火力ならこんな廃墟の天井程度は余裕でぶち抜ける筈だ。穴をぶち抜いたら、グラップリングを掛けて一気に地上まで脱出するって算段だ。――時間が惜しい。頼む...私を信じてくれ」

「――分かった。マリサがそんなに自信満々なら信じるよ!ダメだったら何処までも憑くからね!」

「...私も、マリサを信じる...!今まで何度も、マリサの自信に救われてきたから...!」

「お姉ちゃん、ユズちゃん...二人も信じるなら、私も信じなきゃね。――マリサ、お願い...!」

「――あぁ、任せろ!」

 

―――モモイ達が賛意を示した事を確認し、数歩前に出て"ミニ八卦炉"を両手に構えて天井の方向へ向ける。

 

「――私達はマリサの後ろに。発射の衝撃が飛んでくる可能性があるから、しっかり身構えて」

 

 "教授"の指示でモモイ達が私の後ろに移動するのを気配で感じ取り―――手を通して()()()()ミニ八卦炉(相棒)に流し込む。

 

 

―――キィィィン...!

 

―――ミニ八卦炉(相棒)の上面が八卦図に合わせて八分割に分かれて浮かび上がってクルクル回り始め、その真ん中に白い光球が現れ、私が流し込む神秘に合わせて少しずつ大きくなっていく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ぶち抜けッ!!」

 

[マスタースパーク]

 

 

 

 

~『廃墟』 複合施設付近の廃ビル~

side-ユメミ

 

バラララ...

 

「――ひのふの...四機ね。流石に()()()()()()()()には気付くか。ま、あそこは今頃水の底でしょうけど」

 

―――双眼鏡で複合施設の方に飛んでいく"連邦生徒会"所属のヘリ四機を確認し、そう呟きながら双眼鏡を下ろす。

 

―――マリサが"ミニ八卦炉"から撃ち出した七色に煌めく極太レーザーは予想通りに天井を貫き、地上への開口部を生み出した。すかさず"グラップリングランチャー"でロープを張り、ホイストで地上へと脱出を果たした。

 しかし―――『廃墟』を封鎖、監視する"連邦生徒会"と『SRT』の部隊は()()()()()()()()で、即応部隊を送り込んで来た。近付くヘリの音に気付き、私はアリスを抱え、"ゲーム開発部"の面々を率いて全力疾走でこの廃ビルに逃げ込んだ。

 

「――ユズ、大丈夫か?ほら、水だ」

「はぁ...はぁ......んく...っぷは...大丈夫...落ち着いてきた...」

「...っぷは!...あんな全力疾走いつぶりかな...アリスは大丈夫?」

「――肯定。アリスのコンディションに大きな変化はありません」

「確かに肩で息すらしてない...()()()()()()()()()()()()()()お姉ちゃん以上にスタミナがあるんだね」

 

―――私の後ろでは、"ゲーム開発部"の娘達が水分補給して休憩している。全力疾走は誰でも身体に堪えるけど、アリスだけは何ともない様に振る舞っている。やはり―――()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

「――皆、大丈夫?」

「まだ息が上がってること以外は、皆大丈夫だ」

「なら結構。――恐らく姿は隠せたから、徒歩で移動するわよ。幸い、このビルも地下階層があるみたいだし」

 

 四人のコンディションを確認し、移動を提案しながら四人の右奥に見える地下へ伸びる階段を見る。―――少しの間とは言え、地上に姿を見せた以上"連邦生徒会"と『SRT』の監視部隊にも見られた可能性がある。一所に留まっていては見付かる可能性も高まるから、できる限り早く移動したい。

 

「――確かに、さっさと移動して撤収するべきだな。万が一アリスまで見付かれば『ミレニアム』だけの問題じゃ済まなくなるだろうし」

「マリサの言う通りよ。アリスは現状未所属で、この『廃墟』で見付かった娘。"オーパーツ"()()()()()()()()()よ」

「だから、早く撤収して『ミレニアム』に編入してゲーム開発部(私達)で受け入れなきゃってわけだね。――分かった!新入部員は守ってあげなきゃ!」

「まだ編入もされてないのに気が早いよお姉ちゃん...でも、見付かる前に移動するのは賛成」

「...私も落ち着いてきたから、大丈夫。――見付かる前に移動しよう」

「――皆大丈夫そうね。じゃあ、早速移動するわよ。モモイ、マリサは前を、ミドリとユズは後方。私はその間でアリスを直衛するわ」

「「「「了解(...!)!」」」」

 

 四人共私の提案を受け入れ、配置を示して階段に向かって歩き出す。

 

 

―――『G.Bible』は見付からなかったけど、アリスを見付けられた事は()()()()()()大きな成果だ。()()()()()()()()()()()()()に大きな一石を投じるだろう。それに―――

 

 

 

 

「...(『AL-1S』――"()()()()()"に関する情報の中で何ヶ所かに見受けられた名称。専門で研究している()()も、研究に進展が齎されるならこの娘の『ミレニアム』編入を認めるはず。()()()にすら隠している情報もあるみたいだけど、この娘が居たあの空間、『廃墟』そのものの由来...もしかしたらこの娘は――)」

「――視線を検知。アリスに何かありましたか?」

「――どうやって貴女を上手いこと編入させようかって考えてるだけよ」

 

―――階段を下りた先の地下通路を歩く中、私の視線に気付いたアリスにそう誤魔化して思考を切り替え、どうやって『ミレニアム』に編入するか思案する。"ヴェリタス"―――いや、()()に頼もう。アリスの存在は()()にとっても()()()()()()ありがたい筈だ。

 

「――"教授"、アリス!ちょっと遅れてるよー!!」

「――あぁ、ごめんなさいね。...アリス、少し歩を速めましょうか」

「――肯定。移動速度を上げます」

 

―――考え事をしていたら歩みが遅くなっていたらしい。モモイの呼びかけに応え、アリスと共に足を速める―――

 

 

―――to be continued―――

 

 




という事で、ゲーム開発部、教授とアリスの出逢いの回想でした。次回から元の時間に戻り、()()に触れると思います。
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