Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『ミレニアム』自治区 『本校正門前』駅前広場~
side-セリカ
「――ご馳走様でした。噂通り、大変美味でした」
「あ、ありがとうございます!」
―――スープまで一滴残さず飲み干し、丼を置いたお客さん―――金髪を後頭部のシニョンで纏め、頭上にメイドプリムを留めたメイド姿の『ミレニアム』生はそんな単純な、しかし嬉しくなる感想を漏らし、食器洗いの手を止めてお礼を述べる。その服装通り所作は無駄なく丁寧で、服にスープは一切飛び散っておらず、ハンカチで口元を拭く動作も丁寧だ。
―――もうすぐ日が沈んで夜に移ろうという時間帯。今回、『柴関ラーメン』キッチンカーはここ『ミレニアム』のリニアライナー駅の一つ『本校正門前』の駅前広場で構える事が出来た。"美食研究会"の宣伝効果は本当に大きく、ラーメン通のコミュニティでも話題になっているのか、『モモッター』で開店告知をする前から私達を待つ様なお客さんが出て来る程になった。キッチンカー周りに据えたテーブルでも何人かの『ミレニアム』生がラーメンを啜っている。
「こちら代金です。...ふむ...値段よし、味よし。ボリュームよし。これならきっと
「――な、何...?」
「――なんだ?訓練とか言ってるが...」
―――代金を受け取って確認していると突然、傍の電灯に据えられたスピーカーからそんなアナウンスが鳴り響き、麺を茹でるネイトもキッチンカーの外を見る。あちこちの電光掲示板にも青い背景、『ミレニアム』校章の下に大きな白い文字で『防衛訓練中』と表示され、ラーメンを啜る生徒達や道行く人々もアナウンスで一度足を止めるものの、訓練だと分かったのか気にしていない様に再び歩き出す。
「――こちら"
―――しかし、メイド服の生徒はおもむろにヘッドセットに触れて誰かと通信を交わす。どうやらアナウンスされた訓練に関わるみたいだけど...
「――もう少し余韻に浸りたかったところですが、
「――かしこまりました!少々お待ちください!――『柴関ラーメン』、[300カップ]二つ入ります!」
「はいよ!」
―――メイド服の生徒は[300カップ]――最近始めた持ち帰り用注文で、保温性のカップに300mlの容量にラーメンを盛ったもので、ゆっくり啜る時間が無かったり、手軽に食べたいお客さんからは好評だ――を二つ注文し、代金丁度と共に請け負ってネイトに伝える―――
~"セミナー" 司令室~
side-ユウカ
「――ノア、本当にアナウンスして良かったの?『貴女達の襲撃には気付いている』って示すことで機先を制することにはなるけど...」
「それだけではありませんよ。ここ『ミレニアムタワー』で、『ミレニアム』の中心地でいきなり
ノアの答えに納得して頷き、メインディスプレイに映る『ミレニアムタワー』玄関前の広場の様子に目を向ける。
―――広場の各所に展開して据えられた折り畳み式バリケードや[M249]を据えた機関銃陣地。死角、搦手を塞ぐ様に"セミナー保安部"部員と―――"セミナー保安部"が保有する戦車[M4A1(76)W*1]六輌が配置されていて、多くの人員、砲口は広場正面の大通り―――『ミレニアムタワー』エリアへ
「エレン達"保安部"は展開が終わったみたいね。
「私は
"エンジニア部"は直近でのコンピュータ関連の開発品は無し。となれば"ヴェリタス"ですが――"会長"が手ずから押収したハッキングツール[鏡]が該当しました。
"ゲーム開発部"の娘達が見付けたという『G.Bible』はマニュアルだそうですから、"ヴェリタス"が協力していることを鑑みればデータ媒体でしょう。
「成程ね...」
ふと浮かんだ私の問いにノアはそう答え、納得する。―――私自身で調べてもいいけど、もうすぐ
「私からも一つ確認を...既に決まったことなので変更までは望みませんが...室内の防衛は既存のままで大丈夫ですか?」
「『押収品保管室』はこの司令室とオフィスに挟まれた場所にある。このエリアは階層の中心にあるし、セキュリティも私やノアみたいな
『――こちら"
「――こちら"
『...ちッ...はいはい、分かってますよーだ』
―――インカムにアスナ先輩の報告が入り、メインディスプレイの隅に投影したタワー屋上を映す監視カメラの映像を見れば、銃を携えて警戒する様に歩くアスナ先輩と彼女について行く、足取りすら気怠そうなウカビちゃんの姿が見える。
司令室に詰めているアカネが改めて
「ウカビちゃんは相変わらずみたいね...」
「はい。相変わらず隙あらばサボろうとする娘ですが、反抗されない程度に締め付ければしっかり働いてくれます。...アスナ先輩ではサボりを抑えるには向かないと思いますが、戦端を開けばウカビちゃんも――」
『――こちら"
―――インカムにタワーから少し離れたビルの屋上に設置した
「...あの装甲車と戦車は...!」
「装甲車は保安部が最近整備に出したもの。戦車はリカちゃんの[イビルアイΣ]ですね。[
『もうこっちからも見えてるわよ~。正面突撃なんて勇気ある娘達ねぇ。――AT班、小隊各車、射撃用意!』
ノアがエレンに状況を問うとそんな返事が返り、映像でもエレンの号令一下[Mk135 SMAW]を装備した
―――それでも、[
『もうちょっと引き付けて~。...さて、そろそろ射程に――』
『――あら?』
「――え?」
「[
―――突然だった。[
「なっ...何が起きたの?!」
『こ、こちら"第一戦車小隊"二号車!
―――声をあげて状況説明を求めると、一輌の戦車の乗員が悲痛な声で報告を上げる。その内容が意味する事は―――
「...やられましたね。[
「――リカね...!いきなりやってくれるじゃない...!」
―――辛うじて五体満足で無事だったらしいエレンの指揮の声がインカムに入る中、ノアが言わんとする事を察して思わず歯軋りする。
映像では、[
~『ミレニアムタワー』近郊~
side-ウタハ
「......このビルは外れだね。センサー、カメラに感なし」
「ふむ...残る
『――こちら"RABBIT4"。現在索敵中です...[
―――広告掲示仕様に扮した索敵ドローンを飛ばし、コンソールの画面で映像を確認するヒビキが作戦会議でピックアップした
―――『
―――『そ、そうですね...私なら...』
―――作戦会議でのチヒロの指摘と、ミユがタワー周辺のビルや電波塔をピックアップしていくやり取りを思い返す。
私とヒビキ、ミユの役割は"C&C"の狙撃手"
『――こちら"RABBIT3"。
「――こちらウタハ。こちらはまだ――」
『――こ、こちら"RABBIT4"...!カリン先輩を発見しました!タワーよりほぼ真南、一二〇〇メートルのビル屋上です...!』
「タワーからほぼ真南一二〇〇メートル...あのビルかな......居た...!こっちでもカリン先輩の姿を確認!」
―――オペレーターを受け持つモエにまだ見付かっていないと報告を挙げようとした瞬間、ミユからカリンを見付けたと報告が入る。ヒビキがすぐにドローンを飛ばすと、画面上に映るビルの屋上でうつ伏せで[
「――こちらウタハ。"
『お、見付かったんだね!――"RABBIT3"了解!』
モエに改めて報告を挙げ、通信を切る。
「位置取り的にはタワー正面の大通りの警戒も兼ねているみたいだね。ビルの高さもミユが居るビルと同じ位かな」
「少し手間取ったが、見付かったなら作戦通りに行こうか。――ミユ、そちらの位置取りはどうかな?」
『――こちらもポイントを変えました。支援狙撃は可能です...!』
「分かった。――さて、
「――了解」
ミユの配置完了も確認し、カリンが居るビルに向けて走り出す―――
~『ミレニアムタワー』近郊裏路地 [CMH-MT006]埋設ケーブル点検口~
side-ハレ
「――マキ、見付かった?」
「うーん、中々......あ、これ...じゃないや。チヒロ先輩はこの点検口で
―――[アテナ3号]で周囲を警戒する傍ら、[CMH-MT006点検口]のハッチを開けて何十本も並ぶケーブルやコードを掻き分けて
―――『現"セミナー会長"の体制になって以来、タワーの司令室から自治区全域のセキュリティやシステムへのアクセス、指令が可能になっているわ。例えば自治区境界ゲートに不審車両が近付けば、タワーからでも即座に封鎖できるレスポンスの速さも特徴ね。
――でも、タワーから全域にアクセスできることは、
―――作戦会議でチヒロ先輩が私達に課した役割を思い返す。記録として、以前チヒロ先輩が"セミナー"からの依頼でセキュリティ更新を請け負った事は知っていた。でも―――その依頼の中で
[CMH-MT006点検口]は『ミレニアムタワー』へと合流する通信回線系統のケーブルやコードを点検するハッチの一つだ。チヒロ先輩曰く、このハッチを通るケーブルやコードの中に
「――あった!よーく見ると確かに"ヴェリタス"の刻印があるからこのケーブルだよ!」
―――マキが声をあげ、ハッチの中に突っ込んでいた上半身と共に一本のネット回線ケーブルを引っ張り出す。
「それで、このケーブルの接続部に...これだね!――接続オッケー!」
「――こちらコタマ。
『HQ了解。作業に集中し過ぎて通行人に通報されて見付かる、なんてことはないように警戒は緩めないようにしなさい。侵入と撹乱は貴女達に任せるけど、もし
コタマ先輩がHQ――"ヴェリタス"の部室だ――に報告し、チヒロ先輩が報告を受け取り、仮に私達では侵入が難しい場合の指示も受け取る。
「――[アテナ3号]、そのまま周辺警戒。この路地に人が入って来たら教えてね」
〈――イエス、マスター〉
「さーて、一発かまそうか!」
「――リンク開始」
[アテナ3号]に周辺警戒を指示し、私達はそれぞれの端末をケーブルのポートに繋ぐ―――
~『ミレニアムタワー』正面広場~
side-アヤ
『――第一段階、"
「久方ぶりの実戦だが――[サンダーアイズ]の改善点も洗い出したいんでな。ちょいと付き合え!」
「ここまで上手く奇襲が嵌るなんてな...!よし、行くぞ!弾幕はパワーだぜ!」
「――"RABBIT2"、行きますよ!」
「"RABBIT2"了解!あぁもう、なるようになれ!」
「ただいま『ミレニアムタワー』!ただいま私の古巣!タカネさんが帰ってきたよヒャッハー!」
―――"セミナー保安部"が構築していた防衛陣地を突破し、[イビルアイ∑]が[
「私達はこのまま待機でいいんだよね?」
「現状はこのままでいいでしょう。"ヴェリタス"が”セミナー"のシステムのある程度の攪乱に成功したら――私とお二方の出番ですよ」
装甲車の陰に潜み、ミドリさんと共に[
―――『"戦闘部隊"の目的はあくまで"セミナー"側が展開する部隊の陽動と戦力漸減としましょう。恐らく我々がタワー屋上からの侵入を図ることには気付くと思いますが、その迎撃を図る戦力をできる限り減らすことが狙いです』
―――作戦会議でミヤコさんが挙げた提案を思い返す。幾度かの取材を通して"C&C"エージェントの精鋭部隊としての強さはよく知っている。故に、本命である
「――"セミナー"側の戦車の操作を乗っ取った上での奇襲。狙撃手への攻撃による横槍阻止。システム侵入からの攪乱。"セミナー"メンバーの対応力は未知数だけど、初動で一気にこれだけ仕掛けられては指揮や対応能力も飽和するでしょうね」
[
『――こちら"RABBIT3"!"
「――了解です。モモイさん、ミドリさん、行きますよ」
「分かった!...空を飛ぶなんて初めてだから、ちょっと緊張するね」
「作戦の本命は私達。失敗しちゃったら『G.Bible』は開けない...頑張らなきゃ...!」
「あまり気負い過ぎないように。私も屋上で一緒に戦ってサポートしますから。――では、失礼しますね。...っしょっと...!」
「わわ...!」
「わっ...!」
―――モエさんから"
―――『屋上にも迎撃戦力は配置されるだろうから大きな効果はないと思うけど、屋上への侵入はハレ達のハッキングでタワーのレーダーやカメラが使えない状況になったタイミングでお願いするわ』
―――作戦会議で決められた私達の動きを思い返す。"セミナー"側の対応力を飽和させる為のハッキングはタワーに備えられたレーダーやセンサー、カメラと言った監視機器の制圧も目的だ。私達が屋上に向かう事に気付き、屋上に増援を送られてしまってはモモイさん達の侵入が厳しくなる。故に、屋上に予め配置された戦力だけを相手取れる様にハッキングの成功に合わせて此方も動く。
「アヤ、ホントに大丈夫なの?」
「えぇ、平気ですよ。お二方は小柄ですしね。――では、行きましょう。目を瞑り、口は開かないようにお願いしますよ」
モモイさんの気遣いにそう答え、二人が目を閉じた事を確認し、姿勢を低くして背中の翼を広げ―――
「~~!」
「...!」
―――タワー屋上を見据えて飛び立つ。二人が強烈な風で身体を縮こませて耐える様子を確認しながら飛んで行く―――
~『ミレニアムタワー』屋上~
「――到着しました。大丈夫ですか?」
「...うん、大丈夫。風がすごくて目を開けてられなかったけど...ここが...」
「...私もなんとか大丈夫、です...ここが...」
高度が高度故に少し強い風が吹くタワー屋上に降り立ち、二人の状態を確認してから降ろし、二人も屋上を見回し―――
「――ふふっ、アカネが言ってた通りに来たね!...ん~?あの翼...何処かで見たような...ま、いっか!――こちら"
「...本当に来たんだ。こっちも備えてるって分かってて来るなんて、ね...ちっ...警戒言い訳にしてサボりたかったのに...」
「...あやや、よりにもよって"C&C"ですか。対応を考えれば精鋭を置くのは当然ですが...」
「誰かしら迎撃しに来るのは覚悟してたけど...まさか"C&C"が居るなんて...!」
「二人だけみたいだけど...それでも精鋭の"C&C"が...!」
―――メインの一際大きな換気口の裏側からメイド服の生徒二人―――"
「――あ、ちょっと待って!アカネが貴女達と話したいみたいだから、ホログラム出すね」
『――ごきげんよう、クロノスの新聞記者、射命丸アヤさん。そして"ゲーム開発部"の才羽モモイさん、ミドリさん。"C&C"、コールサイン"03ゼロスリー"室笠アカネでございます』
「――どうもお久しぶりです、アカネさん。先日の取材はありがとうございました」
「...ど、どうも...」
「...どうも、初めまして」
―――アスナさんがそう言って銃を降ろしてヘッドセットに触れれば、二人の前に立つ様にアカネさんのホログラムが現れ、カーテシーで挨拶する、それに対して私達も一度銃を降ろして頭を下げる。
『ふふ、翌日に掲載された記事のおかげで
動機はどうあれ、ミレニアムに所属する生徒が行政組織を攻撃するなどあってはならない事態。――即刻攻撃を中止して退くのであれば、罰則は多少軽くなるでしょう。今後の学校生活を少しでも平穏に過ごしたいのであれば、降伏をお勧めいたします』
アカネさんは挨拶を切り上げ、眼鏡の下の瞳を少し細めて降伏勧告を行う。
「――今更退けないよ!『G.Bible』は私達"ゲーム開発部"の
「...本当はこういうことはしたくなかったんです。でも...
「――『シャーレ』は現在、"ゲーム開発部"の依頼を遂行中でしてね。今回の
―――そんな降伏勧告に対してモモイさんとミドリさんは一歩も引かずに勧告を拒否し、私も退くつもりは無いと宣言する。
『...左様でございますか』
私達の返答を聞いたアカネさんは瞑目し―――
『――ならば、私達も請け負った依頼を遂行するまでです。"C&C"、"
「りょーかい!任務を開始するよ!」
「...はぁ、面倒臭い...大人しく退いてくれればよかったのに...よっぽど、痛い目をみたいってことだね...!私のサボrゲフンッ!...
「――私が前衛を受け持ち、できる限り引き付けます。隙を見てお二方は侵入を。ポイントは覚えていますね?」
「うん、バッチリだよ!でも、最初は私達も一緒に戦うよ!ミドリ、いつも通りサポートお願いするよ!」
「うん、分かった。――相手は精鋭二人、気を付けて...!」
―――眼差し鋭く目を開いたアカネさんの指示を受けて"C&C"のお二方は銃を構え、私達も銃を構える。
ということで、セミナー襲撃の開幕でした。
このまま戦闘に移ると二万字も見えそうなので、本格的な戦闘は次回を待て!