Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『ミレニアムタワー』 "セミナー"会議室~
side-"先生"
「――ユウカ、『シャーレ』の皆を連れて来たわよ~」
「ありがとう、エレン。――"先生"、急な依頼発信にも関わらず応えていただきありがとうございます」
「"内容は書いていないけど、
「ふふ、流石"先生"ですね。...今回は、『シャーレ』のお力を借りることができるか否かで難易度が大きく変わりますから」
―――"セミナー保安部"のエレンの案内で会議室に入ると、ユウカは私に気付いて微笑み―――疲れを隠せていない微笑みを浮かべて頭を下げ、ノアも安心した表情を浮かべる。
要請件名:任務支援
要請者:ミレニアムサイエンススクール 二年生 早瀬ユウカ
要請文
我がセミナーは現在、早急に解決しなければならない問題に直面しています。外部に漏れてしまった場合、多方面に多くの影響を及ぼすリスクがある為、詳しい説明は我がセミナーにて行います。請け負う余裕がありましたら、どうかお力添えをお願いします。
―――"ゲーム開発部"の依頼を遂行してから『シャーレ』オフィスビルへ帰還してから一週間が経った。今朝、業務のルーティンワークとして相変わらず大量に届く要請書を確認、分類していたら見付けたユウカからの要請書。普段なら事情や内容を把握しやすい文面なのに、詳しい話は"セミナー"でしたいと機密性を気にする文面が気になり、アヤとハタテを留守番に残して"RABBIT小隊"を連れて"セミナー"へとやって来ている。
「...本当にありがとうございます。――さて、これで全員ですね」
ユウカは頭を上げ、会議室を見回す。私も改めて会議室を見回せば―――
「――『シャーレ』が来るかもしれねぇとは聞いてたが、マジで来るとはな。呼び寄せた理由はあたしらも知らねぇが、また『シャーレ』を呼ぶってこたぁよっぽどだな」
―――座面に胡坐を掻く様に座り、頬杖を突くネルを始め"C&C"のエージェント五人が左側の椅子に並んで座っていて、ネルは不思議そうに眉を上げる。どうやら彼女達もユウカに呼ばれて来たらしい。『ミレニアム』最精鋭のエージェントチームまで呼び寄せるなんて―――一体何があったのだろうか。
「『シャーレ』の皆さんはこちらに。――エレン、
「はいは~い」
ユウカに促され、"C&C"の向かい側の椅子に座る。それを確認しユウカはエレンにそんな指示を出し、エレンは慣れた様に会議室の外に出る。ユウカはそれを見送り、リモコンを手に取って幾つかボタンを操作すると照明が全て灯り、全ての窓に真っ黒で分厚いカーテンらしきものが降りる。どうやら外部に漏れては不味い情報を明かすつもりみたいだと察し、気を引き締める。
「――では、皆さんを集めた理由を説明させていただきます。単刀直入に申し上げれば――皆さんには、
ユウカが上座の席に座り、手元のパソコンを手早く操作すると、机上のホログラム投影装置から生徒―――ピンク色の長いツインテールの頭上に歯車を左右が棘の様に鋭く伸びた円が囲むピンク色のヘイローを浮かべ、"セミナー"の白を基調とした制服とジャケットを纏う、華奢にも見える細身の肖像ホログラムが投影される。
「――『黒崎コユキ』。
このタワー内に設けている『反省部屋』に軟禁、監視していたのですが――昨日、部屋に施していたセキュリティを
「――なんだ、
ネルは拍子抜けした様に、つまらなそうに尋ねる。
「それが...今回の脱走はいつも通りとは言えないんです。――本題の前に、"先生"向けにコユキについて説明しておきますね」
「"ありがとう、ユウカ。...ここまで聞いた話だと、脱走を図るのが日常茶飯事で厄介な生徒みたいだね"」
コユキの事をよく知らない私向けにユウカが説明してくれる様で、謝意を伝える。
「えぇ、本当に厄介な後輩ですよ。――コユキには唯一無二と言える才能があります。それが――どんな暗号システム、物理的暗証番号でも、
「...マジで?電子戦やる身としては垂涎ものの才能なんだけど」
「"すごい才能だ...アスナの直感を、暗号やパスワードの突破に特化させたようなものなんだね"」
コユキが持つ才能の説明を受け、小隊で電子戦を受け持つモエと共に驚いた反応を返す。ハッキングには詳しくないけど、それでもコユキが持つ才能の無法振りが相当のものである事は分かる。事実であれば、パスワードやロックを掛けていてもあっという間に解除されて情報を抜き取り放題になってしまうだろう。
「コユキ本人はこの才能を自覚していないのですが、それ以上に厄介なのが――自由気ままで
「"
「はい。過去には"誰だって情報公開は早い方がいい"と、前述の才能で抜き出した
「試験内容のリークですか...先にバラされてしまっても、結局内容が変わってしまうのであれば事前の対策や勉強も無意味になりかねません。独占せず公開している点から、コユキさん的には善意も含んでいたのでしょうが...普通であればそもそも試験内容を無断で抜き出して無断で公開するなんて行動はしませんね」
コユキの倫理観の低さによる問題行動の例を挙げられ、ミヤコが成程と頷く。―――
試験内容を抜き出し、自分だけで独占して対策するならその個人が横着を図ったとして対応出来るだろう。でも―――コユキが取った行動はそれより酷い、
「コユキの才能と性格の厄介さはご理解いただけましたね。――では、本題に入ります。この場に居る皆さんは既にご存知かもしれませんが、一昨日――今回の脱走判明の前日、我が"セミナー"の
即座に会見を行って謝罪と対策を表明する裏で我々は調査を行い、関連するシステムや書類データに施していたセキュリティが解除状態であったことを確認。監視カメラや侵入の痕跡を辿った結果、コユキの手によるものだと判明し――『反省部屋』からの脱走も付随して明らかになりました」
―――『"先生"。午前中にミレニアムで起きた債権乱発事件ですが、"セミナー"が謝罪と対策を発表したので、世間での混乱はすぐに収束しそうです。一応記事は挙げますが、正直拍子抜けなネタでしたね。
ですが――私の記者としての勘が、
―――一昨日の午前中。アヤが"ネタの香りがしました!"と唐突に『ミレニアム』に飛んで行き、テレビで債権大量発行の事件の報道を見てこれがアヤが嗅ぎ付けたネタだと察し、午後に戻って来た彼女からの報告を思い返す。今、私達が説明を受けているコユキの捕縛依頼―――これがアヤの勘が働いた依頼になるのだろう。
「あの事件との繋がりがあるってのは分かった。――だが、これじゃあたしらが必要な理由にはならねぇぞ。――"白兎"のチビは
「...コユキ――"白兎"は、『オデュッセイア海洋高等学校』に所属するクルーズ船『ゴールデンフリース号』に逃げ込んだと判明しています」
ネルの問いに対し、ユウカはそう答えながらパソコンを操作する。コユキの肖像ホログラムの隣に、海上を航行する豪華客船と思しき船の空撮写真が展開される。この船が『ゴールデンフリース号』の様だ。
「――成程...これは、"セミナー"だけで捕縛しての解決は厳しいですね。...この船は確か...もしかして債権を勝手に発行したのは...」
「――
ユウカの返答を聞いたミヤコは考え込む様に少し俯いて小声で何か呟き始め、アカネが納得した様に頷く。『オデュッセイア海洋高等学校』。校名通り、海に関わる学校の様だ。
「――"先生"向けに簡単に説明しますと、この学校は複数の大型船舶を中心に構成された学校で、一部港湾を自治区として保有していますが、基本的には常に海上を航行している学校です。中核を成す大型船舶を守るための艦船も多数保有しており、海上戦力は連邦構成校でも有数です。ですが――この『ゴールデンフリース号』は少し
「"
「はい。『ゴールデンフリース号』には『プレイラウンジ』と呼称される大規模ゲーム場――と銘打つキヴォトスでも一、二を争う規模のカジノがあり、この収益で『オデュッセイア』生徒会に依らない独自の運営を行っています」
「ほー、よく知ってるじゃねぇか」
呟きを止めて顔を上げたミヤコが、私向けに『オデュッセイア』と『ゴールデンフリース号』についてそれぞれ説明すると、ネルが感心した様にミヤコを見る。
「先輩方――我が『SRT』の"Кролик小隊"が何度か調査した経験があったので、後学の為に聞いていただけです。それから...推測の域を出ませんが、ここまでの情報からコユキさん――"白兎"の目的が分かりました」
ミヤコがネルの言葉に謙遜を返し、続けてコユキの目的が分かったと明かすと私含め皆驚いた表情を浮かべる。
「まず、『ゴールデンフリース号』が生徒会に依らない独自運営を行える程の莫大な収益を得られるのは、
しかし――VIP権力の行使には
「外部の乗船客にそんな特権を...それを餌にすることで乗船客に大量のお金を落とさせているって訳ね。コユキの趣味は確か...まさかあの娘...!ミヤコちゃん、説明を続けて」
ミヤコが最初に『プレイラウンジ』に敷かれたランク制度を説明すると、ユウカが察した表情を浮かべ、ミヤコに説明を促す。
「分かりました。一昨日の事件で公表された債権の発行量であれば、お金に換えれば相当な額になるでしょう。コユキさんは恐らく――債権をお金に換え、その資金で以て『ゴールデンフリース号』でカジノに挑み、"Sランク"を獲得。"セミナー"、『ミレニアム』の介入すら"Sランク"のVIP権力で跳ね除けるつもりです。――"セミナー"、『ミレニアム』から追われることもない
「――盗んだ
「"状況は理解したよ。私達『シャーレ』も依頼を受領する。ミヤコ達も構わないね?"」
ミヤコが推測の説明を終えると、ネルはガシガシと頭を掻いて依頼の受領を宣言し、私も『シャーレ』として依頼を受領すると宣言し、ミヤコ達に確認すると四人揃って頷く。
「――ありがとうございます。コユキは『ミレニアム』の
「...あぁ?聞き捨てならねぇな。あたしらにとって捕り物なんざ慣れた任務だぞ。『シャーレ』抜きでも――」
「――"岡崎研究室"、試験場天井の爆破による天井倒壊および機材破損」
―――ユウカの言葉に対してネルは目に見えて不満を浮かべ、『シャーレ』の手は要らないと抗議すると、ノアが遮る様に、淡々とユメミの依頼に応えた時の乱入騒動での被害を挙げ、ネルの抗議がピタリと止む。
「――『ミレニアム』外のとある企業からの依頼による捕縛任務中、目標が居る部屋の上階床を爆破。その余波による複数階層、部屋の
ノアが次の言葉を紡ぐと、アカネが糸目でネルを見つめ、ネルはバツが悪そうに視線を逸らす。恐らく、"セミナー"
「――○月○日、自治区内コンビニでの強盗事件発生。"C&C"緊急展開。
―――しかし次に挙げられた被害を聞いた瞬間、今度はアカネの表情が固まる。そこからノアは淡々と、過去に遡りながら"C&C"が対応した事件と対応結果、付随する被害について挙げていく。
その全てに
「――――まだまだ開示できますが、ご理解いただけましたか?」
「...ちっ!分かったよ!騒がねぇように静かにやれってんだろ。だったら『シャーレ』に見せつけてやるよ――"C&C"は
「――承知致しました。爆破だけが私の取り柄ではないこと、証明してみせましょう。...ですが、私達が普段取り得る手段を抜きにしても
ネルは舌打ちして開き直った様に宣言して私達を見回し、アカネも同様に澄ました表情で宣言し、私達に期待を込めた眼差しを向ける。
「"――こちらこそ、君達の活躍をサポートできるように手を尽くすよ。よろしくね"」
「――"C&C"の皆さん、今回はよろしくお願いします。条件は厳しいですが、任務成功を導けるように私達も全力を尽くします」
「私達からすれば"C&C"も先輩だ。学びを得るつもりでサポートできるように全力を尽くそう」
「アカネ先輩の爆破が見れないのはちょっと残念だけど、騒ぎを起こすとマズい条件下だしねー。『ミレニアム』の特務部隊のやり方から勉強させてもらうね」
「"C&C"の皆さんから学びを得られるように頑張ります...!こ、今回はよろしくお願いします...!」
対する私達もそれぞれ宜しくの挨拶を返す。―――"セミナー"
「――改めて、明日はよろしくお願いします。...さて、『ゴールデンフリース号』に乗り込むに辺り、皆さんには
ユウカが私達に頭を下げ、頭を上げると何処か
「"――
「――カジノ船ってなら、確かにこういう制服じゃ場違いだわな。あたしらは他の潜入任務で
「...確か、『ゴールデンフリース号』の
~ブラックマーケット
side-リンゴ
『...〈我々『SRT』へ任務が依頼された。依頼主は『ミレニアム』生徒会"セミナー"。依頼内容は――"『オデュッセイア』所属のクルーズ船『ゴールデンフリース号』にて
―――通信デバイスの投影装置で投影されたホログラムの"教官"の前で整列する私達に対し、"教官"は任務の内容を明かす。
「――護衛対象についての情報は?」
『...〈現状不明。任務開始日である明日、
「...依頼の出所や正当性の真偽は?」
『...〈
イナバが質問を二つ投げ掛け、対する"教官"の返答を聞くと眉を顰める。―――兵士としては、課された任務に粛々と従事すべきだけど、本音では意見したいのだろう。かく言う私も、そして間違いなくセイランもレイセンも同じ事を―――内容の曖昧さに疑念を抱いている。"重要人物の護衛"という任務そのものは偶に請ける事があるけど、現地に向かわないと護衛対象について把握出来ないというのは不安要素が多い。
何せ、『SRT特殊学園』は"学園間を跨いでの広域犯罪や政治的問題が絡んだ事件への介入、解決"を目的として設立された学校だ。『シャーレ』みたいな超法規的権限は無いけど、それでも煙たがられる存在だし、私達"Кролик小隊"は『ブラックマーケット』で活動しているから犯罪組織からも少なくない恨みを買ってるだろう。
正当な手段で出された依頼らしいけど、私達を取り巻く状況を考えれば巧妙に偽装された、
『...〈諸君らの懸念は理解する。護衛任務ならば傭兵や便利屋でも遂行できるし、任務としては事前に把握すべき情報が足りない。だが――これは"連邦生徒会長"が
但し、私からも本任務への疑念を挙げた際に"連邦生徒会長"から言伝を預かっている。――"
「――"連邦生徒会長"が承認した以上、受けなければなりませんね。"Кролик小隊"、本任務を受領します」
"教官"も少し眉をひそめて私達が抱く疑念に理解を示すけど、この任務が
『...〈"教官"として――教師としても、諸君らの正義と信念に沿う行動を期待する。――以上、通信終了〉』
"教官"は優しい眼差しを浮かべながら敬礼を返し、ホログラムが消える。
「――こりゃちょっと厄介な任務だね。『ゴールデンフリース号』での任務自体は二、三回従事してるけど、
「そうね。船舶関連で『オデュッセイア』と『ミレニアム』間に交流はあるけど、『ミレニアム』が潜入任務を行う理由が分からない。...強いて挙げれば、一昨日の
「あー、あの事件か。債権がお金に変わってて、『ゴールデンフリース号』に流れてるかもだから、その追跡と回収で...いや、どうだろうね」
敬礼を解き、頭を掻きながらイナバと任務について話し合う。―――考えれば考える程、不安と疑念が強くなって来る。それだけ、今回請けた任務の不透明性は高く、悪意ある罠の可能性も排除出来ない。でも―――
「――請けた以上は、遂行するのが兵士でしょ。"連邦生徒会長"と"教官"は任務遂行の是非を私達に一任してくれたし、実際に『ゴールデンフリース号』に乗り込んで件の護衛対象と接触してみれば何か分かるかもしれない」
「セイランの言う通りですね。現状把握できる情報で分からないなら、現地で情報を得て考えるしかないでしょう」
「――私達の正義と信念に問う為にも、そうするしかないわね」
「――ま、そうするしかないかー」
―――セイランとレイセンの言葉にイナバと揃って頷く。『SRT』として、三年生として、任務を請けた以上土壇場で退くつもりは無い。情報が足りないなら、踏み込んで情報を探る―――何度もやって来た事だ。
「じゃ、パパッと準備して明日に備えますか。...入るかなぁ、
「常日頃お団子食べてるからでしょ。好物とは言え飽きずに毎日毎日...」
「...
「――それじゃあ、定常任務以外は明日に向けての準備を。カジノ船だからと言って、浮かれたり喧騒に呑まれたりしないように」
イナバの音頭に対し、三人揃って敬礼を返す―――
~『ミレニアムタワー』"セミナー会長"オフィス~
side-リオ
『――――ということで、明日にはコユキは捕縛されると思います。...まさか、債権をカジノに使おうとしている可能性があるとは思いませんでした』
「報告ありがとう、ユウカ。――元手の入手方法は兎も角、それを賭事で増やそうとするのは全く合理的ではないわね。でも、彼女がその手段を取ろうとしているのなら早急に止めなければならないわ。それも――他校自治区に逃げ込んでいるなら、学校間問題にならないように静かに、且つ迅速に」
作業の手は止めず、ホログラムのユウカに目を向けてお礼をの述べる。―――ユウカは相変わらず優秀な娘だ。単に"C&C"を投入するだけではなく、他校自治区内へ入る為、"C&C"の
「――行動の責任は"セミナー会長"として私が負う。講じ得る手段は全て使って、被害を最小限に抑えて"白兎"――コユキを捕縛しなさい」
『了解しました。――では、任務に向けた準備を進めるのでこれで失礼します』
ユウカは一礼し、ホログラムが消える。それを見届け―――コンソールを操作してカーテンを下ろし、出入口をロック、ネットワークの隔離―――オフィスの機密性を上げる。
「――まさか、カジノでお金を増やして、それで得た権力で立て籠もろうとするなんてね。『反省部屋』に軟禁されいて束縛されていることへの反発なのだろうけど――軟禁の理由を未だに自覚できていないのは致命的ね。同様に無自覚な才能を無自覚に行使しているおかげで、『ミレニアム』の
そんなことを呟きながらキーボードを叩き、
―――ユウカ達には申し訳ないけれど、一昨日の
「――私は結論を出した。...貴女達はどんな結論を出すのかしらね」
―――デスクに置いている、『ミレニアム』入学式で記念に撮った一枚の写真。カメラに向かって微笑んでピースサインを挙げる私。その隣で車椅子に座り、
ということで、原作とは異なるバニーチェイサー編、始まります。
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