Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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パヴァーヌ編二章、アリスのミレニアム巡りです。


File62.M-23~アリス(勇者)ミレニアム(故郷)を愛してる~

~『ミレニアムサイエンススクール』部室棟~

side-マリサ

 

「――アリス、探索クエスト開始です!」

「昨日"先生"とアリス(Alice)を軽く振り回したってのに、相変わらず元気だな」

「ん...まだまだアリスの経験(レベル)は足りません!もっと探索を続ける必要があります!」

 

 部室棟の玄関を出て、アリスの元気一杯な宣言に苦笑しながら頭を撫でる。

 

―――開発工程の都合でアリス共々手空きとなり、アリスの提案で『ミレニアム』を見て回る事になった。昨日ミレニアム(ここ)に来ていたらしい"先生"と、そのガイド役を"教授"から任せられたアリス(Alice)と共に自治区内を見て回っていた筈だが、アリスの好奇心はまだ治まらないらしい。

 

「――で、何処に行くつもりだ?」

「昨日はスミレ先輩や"特異現象捜査部"、他にも色んな人達と出会えました。まずは――『ゲヘナ』自治区方面の境界に行ってみたいです!」

「あそこか...分かった。『ゲヘナ』がすぐ向こうだが治安はいいしな。少し遠いからモノレールで行くぞ」

 

 アリスの提案に頷き、最寄りのモノレール駅に向かって歩き出す―――

 

 

~『第四M-G境界地区』駅前広場~

 

「――おぉ!あのゲートの先が『ゲヘナ学園』ですね!」

「あぁ。つっても『ゲヘナ』も広いから、あの辺りは自治区の端の端だが」

 

―――モノレールで移動すること十数分。『第四M-G境界地区』駅を降りると、『ゲヘナ』自治区へと繋がる幹線道路に跨る検問ゲートと"セミナー保安部"管轄の管理施設の白い建屋、ビルが少ない景色を一望できる高台でアリスが瞳を輝かせる。

 "自由と混沌"を校風とするおかげでキヴォトスでも屈指の治安の悪さを誇る『ゲヘナ』だが、自治区全てで治安が悪いという訳でも無い。他校自治区との境界付近は学校間問題を防ぐ為、基本的に治安維持組織の人員が置かれているし、自治区の端となると暴れる意味が無い閑散とした場所もある。

 『第四M-G境界地区』はそんな場所の一つで、大きな商業施設や工場は殆ど無く、物流の要でもない地区だ。『ゲヘナ』側検問は"風紀委員会"の人員が配置されているが数も装備も最低限で、常に銃声や爆発音が絶えないと言われる『ゲヘナ』としては珍しく、その銃声や爆発音も無く平和だ。

 

「――よし、行くか。有名な店的なものもないし、つまらん場所だが...」

「もしかしたら『ゲヘナ』の方と出会えるかもしれません!行きましょう!」

 

 瞳をキラキラ輝かせるアリスに手を引かれて歩き出す―――

 

 

「――あ!"ゲーム開発部"の二人じゃん!やっほー!」

「――珍しいね、こんな自治区の端に居るなんて。ここは電気屋もゲームショップもないのに」

「おぉ!"C&C"のメイド二人とエンカウントしました!でもメイド服じゃありません!」

「そっちこそ珍しいな。メイド服じゃなくて制服な辺り、プライベートか?」

 

―――検問の方を目指して駅前の通りを歩いていると、"C&C"のアスナ先輩とカリンが私達に気付いて近付いて来る。お互いこの辺りに来る様な意義や用事があるイメージが無い為、尋ねてみる。

 

「アスナ達は()()()()の最中だよ!『ゲヘナ』の情報が欲しいってアカネが言うからさ」

「...アスナ先輩...」

「――あ、コレ言っちゃダメなんだった!ごめーん、聞かなかったことにして!」

 

 アスナ先輩がにこやかに答えるとカリンが半目で先輩を睨み、あっと思い出し様にてへぺろと舌を出し、私達に聞かなかった事にしろと頼んで来る。

 

「...まぁ、『ゲヘナ』の生徒と世間話をして、そこから何か情報が得られれば御の字な任務だから今回はいいけど。任務情報の口外はしないことが基本なんだから、全く...」

「例えミレニアムの生徒(身内)相手でも任務の――重要な情報をバラすのは危険だもんな。漏れた情報は一度拡散しちまえば封じ込めはほぼ不可能だし」

 

 カリンの愚痴る様な言葉に頷く。―――クリエイターでもあり、ゲーマーでもあるが故に、SNSとかでの炎上は避けるように心掛けているからカリンの懸念はよく解る。インターネットでの情報の拡散速度は凄まじいが、"人の口に戸は立てられぬ"なんて諺もある通り、インターネット成立以前から存在する私達の口と言葉での情報拡散も侮れない。

 

「――!アリスも『ゲヘナ』の方々とお話したいです!ニュースやネット上では治安が悪いとばかり言われている『ゲヘナ』の生徒がどのような方々なのか、アリス気になります!」

「好奇心旺盛だねー。いいよー!一緒に行こっか!」

「いいのか?」

「さっき言った通り、重要な任務でもないから。話せそうな『ゲヘナ』生らしき娘を見かけたら世間話をするだけ。成果はなくてもいいってアカネは言ってたしね」

 

 アリスの提案をアスナ先輩はあっさり受け入れ、カリンに確認を取ると彼女も同意する。

 

「――あ!あそこの二人見て!角っぽいの見えるし、多分『ゲヘナ』の娘じゃない?」

 

 アスナ先輩が指差す先を見れば、側頭部に団子を結い、パーマが掛かった長いピンクの髪の頭上に角らしきものが伸びた生徒と、一般的な『ゲヘナ』の制服を着た、白いショートヘアに黒く短い角を伸ばした生徒の二人が談笑しながら歩いている様子が見える。歩いて来ている方角的には『ゲヘナ』側からだが...

 

「『ゲヘナ』生全員が角を持ってる訳じゃないんだから見た目で即断は...いや、()()()()()()()()なら信じられる。話しかけてみよう」

「はい!会話イベント開始です!」

 

 アスナ先輩、カリンに続いて私達も『ゲヘナ』生らしき二人の下に向かう。

 

「――やっほー!こんにちは~!」

「こんちは~!その制服『ミレニアム』の娘?!あたし『ミレニアム』の娘とちゃんと話すの初めてかも!」

「どうもこんにちは。私達もここに来るのは初めてだけど、こんな自治区の端で『ミレニアム』の娘に出会えるなんてね」

 

 アスナ先輩が挨拶して話しかければ、二人もにこやかに挨拶を返す。ピンクの髪の方はテンションの高さが先輩と波長が合いそうだ。...頭をよく見れば、角に見えたものはヘアバンドだ。カリンが言っていた通り、『ゲヘナ』生全員が角を伸ばしている訳じゃなさそうだ。

 

「私は『一ノ瀬アスナ』!」

「――『角楯カリン』。よろしく」

「"ゲーム開発部"の『霧雨マリサ』だ。よろしくな」

「アリスは『天童アリス』です!マリサと同じく"ゲーム開発部"部員(パーティーメンバー)で、勇者を目指す者です!」

「あたしはキララ!『夜桜(よざくら)キララ』だよ!皆よろしくー!」

「私は『旗見(はたみ)エリカ』。よろしくね、四人共」

 

 ピンク髪の生徒―――キララと白髪の生徒―――エリカと互いに自己紹介を交わす。

 

「それで、あたしらに何か用?」

「んー、特にないよ。ちょっと気になったからお話してみようかなって!」

「『ゲヘナ』の娘達との関わりは少なくてね。最近のニュースとか、噂話でも聞ければと思って話しかけたんだ」

「んー、最近のニュースか~。エリカちゃん、何か知ってる?」

 

 エリカは頬に指を添えて首を傾げ、エリカに何かないかと尋ねる。

 

「私も特には知らないかなぁ...あ、でも――『ゲヘナ』の雰囲気が最近()()()()()()()()()()気はするかな」

「――()()()()()()?」

 

 エリカの言葉にカリンが瞳を一瞬光らせる。

 

「うん。ゲヘナ(ウチ)の"風紀委員会"がやってる不良とかヤバい部活動の鎮圧の頻度と徹底振りが最近すごくてさ。普段は()()()()()()だって見逃してる暴動とか喧嘩すら鎮圧してるんだよね」

「いつもは()()()()()()()()()()()()()()()()()地区とかが最近静かだと思ったら、そういうことか~」

 

 エリカが()()()()()()()()について話すとキララは納得した様に頷く。―――"風紀委員会"の活動が普段と比べて活発化している。治安維持組織なら不良鎮圧は当然だろうが、その活動が活発化しているという事は―――

 

「生徒会――"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"は何か告示したりしてないのか?」

「あたしらそういう政治には興味なくってさ!"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"のマスコットがイブキちゃんとフランちゃんだってこと位しか知らないよ。

――ほら、この写真見て見て!すっごく可愛くて、十一歳と十二歳で飛び級進学してる頭のいい子達なんだよ!」

「わ~、二人共可愛い~!」

「おぉ!このイブキという子は角と翼、尻尾...悪魔の要素の全てを持っているんですね!そしてこのフランという生徒の翼...!虹の七色のクリスタルの翼なんて初めて見ました!」

 

万魔殿(生徒会)を大して知らないのにマスコットのことはよく知ってる...これが『ゲヘナ』か」

「"自由と混沌"...自分の目的、やりたいことが優先される校風だからこそ、なんだろうね」

 

 キララがカリンの問いにそんな返答を返し、スマホを弄ってアスナ先輩とアリスに見せ、写っているであろう『イブキ』と『フラン』なる生徒を見て黄色い声をあげるアスナ先輩と、興味津々に瞳を輝かせるアリスを横目に、カリンとそんな会話を交わす。

 ()()の危機を回避する為に必然的に"セミナー"に反抗する事になったが、それ以前から"セミナー"が『ミレニアム』を運営する生徒会である事はよく知っていた。だが、目の前の二人―――キララとエリカは万魔殿(自分の学校の生徒会)を大して知らない。『ゲヘナ』は噂通り、()()()()の校風なんだろう。...万魔殿(生徒会そのもの)よりイブキとフラン(生徒会のマスコット)の方をよく知ってるのは異質な気もするが。

 

「『ミレニアム』には、この二人みたいなマスコットは居ないの?」

「あ!それあたしも気になる~!」

「マスコットかー。うーん...可愛い後輩は沢山居るけど、マスコットと言われると難しいね。――三人は知らない?」

 

 エリカの問にキララが便乗し、アスナ先輩は悩ましげに首を傾げ、私達に問を振る。

 

「いや、いきなり聞かれても...」

「マスコット...そういうのは居ないと思うが...」

「――はい!アリスが所属するゲーム開発部(パーティー)のモモイとミドリは可愛いと思います!...これです!前にゲーセンでアリスがこっそり撮ったものです!」

 

 唐突な問い掛けに私はカリンと揃って分からないと答えるが―――アリスはそう声を上げてスマホを弄り、満面の笑みでその画面をキララ達に見せる。

 

「わぁ、可愛い~!これ双子?!」

「パーソナルカラーはそれぞれピンクと緑、制服も...少し違うけど、ヘッドフォンと尻尾のアクセがお揃いなのは双子感があっていいね」

 

 キララは瞳を輝かせ、エリカは微笑ましいものを見る様に目を細める。モモイとミドリはゲーム開発部(ウチ)のメンバーでは一番小柄だが、モモイは行動力はあるが発想は破天荒だし、ミドリは大人しそうに見えて卑しい所もあるから、可愛いという印象が持たれるのは意外だ。

 

「『ミレニアム』も可愛い子達が居るんだね!余裕ができたらちゃんと『ミレニアム』を見て回りたいな~」

「普通に見て回るだけならいつでも歓迎するよ。...『ゲヘナ』みたいにすぐ銃に物を言わせようとするならすぐに鎮圧するけど」

「...ゲヘナ(ウチの学校)の治安が悪い自覚はあるけど、皆が皆すぐ暴力に訴える訳じゃないよ。『アニマ旧市街地』みたいな場所もあるし」

「――知らない名前が出て来たな」

 

 ミレニアム(ウチの学校)に興味を持ったらしいキララの言葉にカリンがそう返すと、エリカが少しムッとした表情を浮かべて反論する。『アニマ旧市街地』―――『ゲヘナ』自治区の一部なんだろうが、聞いた事が無い地名を聞きとめる。

 

「銃声は絶えないけど『ゲヘナ』じゃトップクラスに平和な場所の一つだよ。『地霊寮』っていう寮に所属する子達の結束力が高くて、自発的に"風紀委員会"と協力して治安維持してるからね。『百鬼夜行』の自治区境界に近くて、百鬼夜行(向こう)の文化もちょっと混ざってるから観光しても楽しいよ」

「異なる学校の文化(バイオーム)が混ざってる地区...!アリス、気になります!」

 

 エリカの説明を聞いてアリスが興味津々に瞳を輝かせる。確かに、違う学校の文化が混ざっているというのは興味深い。ゲーム開発のインスピレーションが浮かぶかもしれないし、行ってみたい所だ。

 

「お互い興味ある場所ができたね!じゃあさ、モモト交換しようよ!『ミレニアム』の子は初めてだし!」

「いいね。ニュースやネットに出ない穴場とか知れたら嬉しいし」

「いいよー!交換しよう!」

「はい!アリスもID交換したいです!」

 

 キララの提案にエリカが頷き、すぐにアスナ先輩とアリスが食い付き、それぞれスマホを突き合わせて『モモトーク』のIDを交換し合う。

 

「...カリン、どうする?」

「私達も交換しておこう。何気ない世間話でも、一般人だからこその視点で見えるものもあると思う」

 

 私もカリンと共にID交換の輪に加わる。

 

「――よーし、これで皆交換したね!」

「ぱんぱかぱーん!初めて『ミレニアム』以外の友達ができました!アリス、嬉しいです!」

「よかったな、アリス」

 

―――少しして交換が終わり、アリスは満面の笑みで喜ぶ。私も頬を緩ませ、頭を撫でてやる。

 

「あたしもアリスちゃん達と友達になれて嬉しいよ!――じゃ、あたしらはそろそろ行くよ!この辺りに穴場のアクセショップがあるって聞いててさ。そこを探してるの!」

「...そんなショップあったっけ。最近できたのかな」

「だったらアスナ達も手伝うよ!ビルも少ないし、すぐに見付かる筈!」

 

 キララ達の目的を聞いたカリンが首を傾げるが、アスナ先輩は手伝いを提案する。―――私もこの辺りで新しい店が出来たなんて話は聞いていないが、()()()()()()()なら見付かるだろう。

 

「なら、私達とはここでお別れだな。アリス(コイツ)が色々見て回ってるのに付き合ってるんでな」

「はい!アリスは『ミレニアム』に編入されてから日が浅いので、色々なものを見てレベルを上げたいんです!」

「ふふ、好奇心旺盛なんだねアリスは。『モモトーク』も交換したし、『ゲヘナ』に来たかったら連絡して。予定が合ったら案内してあげるよ」

「トークしたかったらいつでも歓迎だよ!あたしら帰宅部で暇な時も多いからさ!」

 

 アスナ先輩、キララ達と別れると告げ、エリカとキララがそう言って微笑む。

 

「アリスと仲良くしてくれると部員としても、二年生(先輩)としてもありがたい。よろしく頼むぜ。――じゃあ、またな」

「また会いましょう!」

「「またねー!」」

「ふふ、またね二人共」

「またね、二人共」

 

 四人と手を振り合い、駅の方へと足を向ける―――

 

 

 

 

「いい子だったねー、アリスちゃん。じゃ、あたしらもショップ探し再開しよっか!」

「うーん...()()()()()()()にある気がする!」

「そんな適当に...情報も殆どないのに」

「アスナ先輩の()は確実だ。先輩が示す方向に従えば――ん?リーダーからトークが...」

 

 


~『サウザンド電気街』~

 

「――ここが『サウザンド電気街』。パソコンのパーツ、周辺機器やゲーム...色々揃えられるし、新しいのが入荷するのも早いし、大きなゲーセンもある私達の行きつけの場所だ。状況が状況だったし、アリスにはまだ紹介してなかったからな」

「おぉ!人が沢山居ます!」

 

―――再びモノレールに乗って『ミレニアム』本校方面へ戻る途中で下車し、テナントビルが左右に並び、生徒やら住人やらが行き来する通りで足を止めて紹介する。

 最新のパーツや機器、ゲームの入荷と告知が早く、筐体の更新や新規入荷も早い大きなゲーセンもあり、"ゲーム開発部"としても、ゲーマーとしても便利且つ暇潰しにも最適な電気街だ。私もモモイに紹介される形でここを知ったが、今では入用な物があったり、ゲーセンで遊ぶとなれば迷いなくここを選ぶ位にお気に入りとなっている。

 

「ここに来たのは紹介だけだが...どうする?ゲーセンで少し遊んでいくか?」

「――はい!アリス、折角来たなら遊んでいきたいです!」

 

 ゲーセンで遊ぶ事を提案するとアリスは瞳を輝かせて頷く。

 

「じゃあ行くか。確か『メタルバレット』の新しいタイトルが――」

 

 

 

 

「――そこの二人、ちょっと待ちやがれ」

 

―――歩き出そうと足を動かした瞬間、背後から聞き覚えがある声が私達を呼び止める。振り向けば、ネル先輩が人混みを抜けてこちらに近付いて来ている様子が見える。

 

「おぉ、ネル先輩とエンカウントしました!」

「――珍しいな。こういう電気街に繰り出す印象はなかったんだが」

「あん?あたしが来ちゃいけねぇ理由でもあるのかよ。――まぁ、そこのチビに用がなきゃ来てなかっただろうが」

 

 ネル先輩はそう言ってアリスを見据え、アリスは不思議そうに首を傾げる。

 

「昨日、C&C(ウチ)のウカビが()()()()()()らしいじゃねぇか。...00(リーダー)としちゃC&C(身内)を負けっぱなしにする訳にゃいかねぇ」

「...あぁ、確か"先生"とアリス(Alice)と歩いて回ってる時にウカビと出会して、ゲームでボコボコにしたって言ってたっけな」

「はい!ウカビは確かに強かったですが、ユズと比べればアリスにも勝ち目はありました!」

 

 ネル先輩の言葉を聞いて、アリスが昨日"先生"達と歩いて回っていた事を話していた事を思い出せば、アリスも頷く。ウカビが()()()でゲームを遊んでる事は知っていたが、アリスが強いと名言する位の腕前があるとは意外だった。だが、ネル先輩が来たという事は―――

 

「ネル先輩...まさかアリスに()()()()するつもりか?だがここでおっぱじめるのは――」

「――任務でもねぇのに暴れる訳ねぇだろ。その分別はあるつもりだ。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のがスジってもんだろ。――アリス、あたしと()()()()勝負しろ。ウカビの分も含めて今度こそ勝つ...!」

 

―――私の懸念をネル先輩は否定し、目的を明かしてアリスを見てギラリと瞳を輝かせる。どうやらネル先輩は()()()()アリスに勝つつもりの様だ。だが、ネル先輩の腕前は―――

 

「勝負であれば受けて立ちます!ですが...本当にゲームでいいんですか?ネル先輩のゲーマーとしての腕前(レベル)は――」

「うるせぇ!...前の祝賀会の時はコンディションが悪かっただけだ!あたしは"約束された勝利の象徴"――最強のエージェント"00(ダブルオー)"だぞ。負けっぱなしのままじゃいられねぇ...!」

 

 心配そうな表情を浮かべるアリスに対してネル先輩はそれでも()()()()アリスに勝つと息巻く。ゲームでは勝てない事を結構気にしてる様だ。『ミレニアム』最強も子供じみた負けず嫌いを発揮するとは、先輩もちゃんと人間なんだと実感出来る。

 

「...分かりました!アリス、受けて立ちます!」

「よーし、その意気だ!――マリサ、お前は見届け役だ。あたしが勝つ所、ちゃんと見とけよ!」

「あぁ、分かった。...()()()()()()()()()()か、楽しみにしてるぜ」

「言っとけ!その予想をすぐにひっくり返してやるからな!」

 

 アリスはネル先輩が折れないと判断して挑戦を受け入れ、見届け役を任された私はそう軽口を叩きながらゲーセンへと向かう―――

 

 

~ゲームセンター『サウザンドプレイス』店内~

side-セリカ

 

―――ウィィン...

 

―――ポスンッ...

 

「――っしゃぁ!」

「やった!()()()()なんてすごい...!流石ネイト!」

 

―――『サウザンドプレイス』というゲームセンターの一階。クレーンゲームブースの一角に据えられていた『モモフレンズ』グッズの筐体で『Mr.ニコライ』のぬいぐるみがアームから解放され、取り出し口へと落ちる瞬間を見届け、ネイトはガッツポーズして、私は喜びながらネイトの()()()()を褒める。

 

―――今日の"柴関ラーメン"キッチンカーはここ『サウザンド電気街』の駅前広場で構える予定だ。でも、道中渋滞や事件に巻き込まれる事無くスイスイ進んでしまい、開店予定時間よりかなり早く着いてしまった。

 時間までどうしたものかとネイトと頭を付き合わせ、電気街という『アビドス』では縁遠い街に来たのだからと少し見て回る事にして、このゲームセンターに惹かれて入店した。

 クレーンゲームブースに入り、ノノミ先輩のお気に入りキャラである『Mr.ニコライ』のぬいぐるみが景品の一つだったこの『モモフレンズ』グッズの筐体を見付け、お土産としてゲット出来ればいいなという軽い気持ちで、クレーンゲームは初めてだというネイトが挑戦して今に至る。

 

「こういうクレーンゲームはアームの力が弱いとか、落ちにくい構造とかで金を溶かす狙いがあるってネットでみたが...まさか一発でゲットできるなんてな」

「でも、これでお土産が一つ手に入ったわ。生徒全員は流石に無理そうだけど...せめて委員会の皆には用意してあげたいわね」

「だな。ノノミ先輩はMr.ニコライ(コイツ)でいいとして...そういやこの筐体、『ペロロ』のグッズが()()()()()な」

 

 ネイトが頷きながら筐体に目を向ける。―――確かに、筐体に掲示された景品のラインナップには『ペロロ』のぬいぐるみやキーホルダーがあるけど、筐体の中には『ペロロ』のグッズは()()()()()()()()()

 

「こんなピンポイントでなくなるなんて...いや、確か...」

「セリカ、何か知ってるのか?」

「前にノノミ先輩が話してたこと、覚えてる?私とネイトが誘拐されていた間に、『ペロロ』好きな『トリニティ』の生徒と知り合ったって」

 

 前にノノミ先輩から聞いた、私とネイトが"鬼傑組"に誘拐されていた間の出来事について聞いた時の話の一部を思い出す。私達を見付ける手掛かりを探して『ブラックマーケット』まで入り込み、そこで出会ったとも言っていた筈だ。

 

「...あぁ、そういや言ってた気がするなぁ。...しっかし、こう写真で見ても『ペロロ』はファンができるようには思えねぇな。どれだけコアな――」

 

 

 

 

「だぁぁ!!また負けたぁ!!」

 

―――突然、通路を挟んで隣のアーケードコーナーから悔しそうな大声が聞こえて来る。

 

「――な、何...?!」

 

 思わず頭上の猫耳をピーンと立たせ、アーケードコーナーの方に顔を向ける。でも、ここでは他のクレーンゲームの筐体に阻まれて何が起きたか見えない。

 

「向こうのコーナーからだな。...ちょっと覗いてみるか。ヤバそうだったらさっさと離れようぜ」

「う、うん...」

 

 ネイトの提案に頷いて後をついて行き、アーケードコーナーに向かうと―――

 

 

「――もう一戦だ!次は負けねぇ!」

「うわーん!この()()()()()先輩諦めが悪過ぎます!」

「言ったなテメェ!今度こそぶっ飛ばす!!」

 

―――何かの格闘ゲームの筐体の前。オレンジ色の髪、ホシノ先輩に近い小柄な、メイド服にスカジャンという妙なファッションの生徒がそんな声を上げ、隣に居る床で髪先が届く程に長い青みがかった、『ミレニアム』生らしき黒髪の生徒が泣き言の様な声を上げるのも構わず、オレンジ髪のスカジャンとメイド服の生徒はコインを入れ、画面がキャラクターセレクトに遷移する。

 

「あーあー、売り言葉に買い言葉でまた...次は()()()()()かね」

 

―――その様子を見守る、二人の生徒の関係者なのか、金髪の『ミレニアム』生らしき生徒がやれやれと頭を掻きながらボヤく様に言葉を零す。

 

「...見た感じ、『ミレニアム』の連中っぽいな」

「そうね...聞こえて来る言葉だと、あのオレンジ髪の人が連敗中みたいだけど、かなり諦めが悪いみたいね...」

 

 二人がそれぞれキャラクターを選ぶ中、ネイトと小声で会話を交わす。

 

「...ん?何だお前ら。...あ、もしかしてコイツらのせいで邪魔しちまったか?」

「あぁ、いや。そんなことはねぇ。向こうのクレーンゲームブースに居たんだが、デカい声が聞こえてちょっと気になっただけだ」

「こちらこそ、邪魔したならごめんなさい。...邪魔になりそうならすぐ離れるわ」

 

『3...2...1...Fight!』>

「先手必勝――」>

「はい!見切りました!」>

「はぁ?!テメェ...!」>

 

―――しかし、声が聞こえてしまった様で金髪の生徒が私達に振り向き、掛けてきた言葉にそう返す。その奥の筐体では既にバトルが始まっている。

 

「迷惑になってないならよかったぜ。だが見たところ...ミレニアム(ここ)の生徒じゃなさそうだな」

「ここで出会ったのも何かの縁だな。――アタシは『水元ネイト』。『アビドス』の一年生だ」

「同じく『アビドス』一年生、『黒見セリカ』よ」

「『霧雨マリサ』、『ミレニアム』二年生だ。よろしくな」

 

 金髪の生徒―――『霧雨マリサ』先輩と自己紹介を交わす。やはり『ミレニアム』の生徒だった様だ。この電気街は『ミレニアム』自治区内だから居て当然だけど。

 

「『アビドス』か...確か、砂漠の学校だったか?」

「えぇ。私達はバイトでミレニアム(ここ)に来たんだけど、予定の時間より早く着いちゃったからここで時間を潰していたの」

「バイト?『アビドス』から態々ここまで来るなんてどんなバイトだ?」

 

 マリサ先輩の問いに頷き、事情を説明するとそう言って首を傾げる。『アビドス』は復興への道を歩み始めたばかりでバイトの求人はまだまだ少ない。でも、『柴関ラーメン』の他にも小規模ながらバイトはあるから、傍から見れば『ミレニアム』まで来てバイトをするのは不思議に見えるだろう。

 

「先輩は『柴関ラーメン』って知ってるか?アタシ達はそこのバイトでキッチンカーを任されていて、あちこち回ってるんだ」

「『柴関ラーメン』?――そういや前に『モモッター』で"美食研究会"の宣伝を見たな。あそこが宣伝するならよっぽどいい店なんだろうとは思ってたが...」

 

 ネイトが私達のバイトについて説明すると、マリサ先輩は興味津々に黄色い瞳を輝かせる。

 

「なら、夕方からこの街の駅前広場でキッチンカーを構えるから来てみない?こっちも商売だから値引きはできないけど...」

「そりゃいい。二人の勝負が終わる頃合いなら夕方になるだろうしな」

 

「――これでチェックメイトです!」>

『K.O.!Player2 Win!!』>

「だぁぁ!!またかよぉ!!」>

()()()()()先輩の攻撃は読みやすいです!さっきと同じ負け方...ちゃんと反省してるんですか?」>

「て、テメェ...!もう一度だ!」>

 

 私の提案にマリサ先輩は頷き、丁度対戦がオレンジ色の髪の生徒の敗北で終わり、しかしまたコインを入れてキャラクターセレクト画面に遷移する様子に目を向ける。

 

「またバトルを...負けず嫌いなんだな」

「あんな見た目だが三年生だし、"約束された勝利の象徴"なんて二つ名を戴く『ミレニアム』トップクラスの実力の持ち主『美甘ネル』って先輩なんだぜ。...見ての通り、ああいうゲームは下手だが」

「同じ位の身長の先輩がアビドス(ウチ)にも居るし、"暁のホルス"なんて二つ名があるから何だか親近感が湧くな...」

「前に『アビドス』に協力してくれた"風紀委員会"の委員長もホシノ先輩と同じ位の身長だったし、小柄な人って結構居るのね」

 

 マリサ先輩の言葉に頷き、上級生(先輩)なのに小柄で、しかし高い実力を持つ人が『アビドス』以外にも居るんだなと感心しながらキャラクターセレクトを行う二人を眺める。

 

「――お?このトークは...意外と早かったな。"アーケードコーナーに居るぜ"っと...」

「何だ?誰か呼んだのか?」

 

 マリサ先輩がスマホを取り出し、少し驚いた様に眉を上げながら『モモトーク』で返信を打ち込む。

 

「まだまだ諦めなさそうなんでな。このままだと日が暮れても状況が変わらなさそうだし、無理矢理諦めさせる為に()()()()を呼んだんだ。近くまで来てたからそろそろ――」

 

 

「――あぁ、居ましたね。連絡ありがとうございます、マリサさん。...あら、初めて見かける生徒ですね。学生証の校章は...確か、『アビドス』のものでしょうか?」

 

―――ブロンドの長髪、同色の瞳の上に黒縁の眼鏡を掛けたメイド服の生徒がやって来て、私とネイトを見て少し眉を上げ、私達の学生証に載っている校章を見てそう予想する。

 

「あぁ、その通りだぜ。アタシは『アビドス』一年生『水元ネイト』だ」

「同じく『アビドス』一年生、『黒見セリカ』よ」

「これはご丁寧に...『ミレニアムサイエンススクール』二年生、"C&C"所属エージェント"03(ゼロスリー)"『室笠アカネ』と申します」

 

 メイド服の生徒―――アカネ先輩と自己紹介を交わす。

 

「ネイトさん、セリカさんですね。『アビドス』の方々と知己を得られて光栄です。...さて...」

 

 アカネ先輩は私達に微笑み、筐体の方に目を向けると一転()()()()()()()()で微笑み、ツカツカと歩み寄る。私達もそれについて行く―――

 

「――よし、コイツに決めた!...おいチビ、そのキャラでいいのか?」

「このキャラクターはプレイヤーの腕に依存した性能です!()()()()()では無理でも、アリスなら使いこなせること、証明しましょう!」

「言ったな?!今度こそ――」

 

 

 

「――こんな所にいらっしゃったんですね、部長」

「」

「――おぉ!アカネ先輩のエントリーです!」

 

―――アカネ先輩が淡々と冷ややかな口調で声を掛けた瞬間、オレンジ髪のメイド服の生徒―――ネル先輩の動きがピシリと凍り付いた様に固まる。あの体型で部長(リーダー)とは...いや、ホシノ先輩も委員長だし不思議な話ではないのか。

 

「...アカネ...なんでここに居やがる...」

「こちらこそ、部長が何処に行かれたのか気になっていたんです。ウカビちゃんから話を聞いて、"ちょっと出かけてくる"と言い置いてフラリと出て行き、そこから『モモトーク』も電話も応答なし。――まさか、このような所で()()()()()()()とは思いませんでした」

 

 アカネ先輩はネル先輩の問に淡々と答える。どうやらちゃんとした断りも無く、勝手に外出してここに来ていたらしい。

 

「...あ、()()()()()訳じゃねぇ。ウカビがこのチビにボコボコにされたから、その()()()()を――」

「ウカビちゃんから話を聞いていたなら、"確かにボッコボコにされたけど、寧ろ清々しいんだよね。だから悔いはないよ"と彼女が言っていたこと、覚えていますね?」

 

 アカネ先輩がピシャリと、冷ややかに言い訳を潰すと、ネル先輩は何も言い返せず赤い瞳を逸らす。部員がゲームで負かされ、その雪辱を果たす為にゲームを挑んだらしいけど、アカネ先輩の言葉と、ここまでの諦めの悪さから推測すると、多分()()()()()()()()が動機なのだろう。

 

「――ご自分の我儘で、他の方のプライベートを束縛するような部長には()()()です。反論、拒否は一切受け付けませんので悪しからず」

「なっ?!ま、まだあたしは――」

 

―――ガシッ...!

 

「――アリスちゃん、マリサさん、そして『アビドス』のお二方。この度は我が"C&C"の部長がご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。さぁ、行きますよ部長」

「クソッ!離しやがれ!まだ勝負は――」

 

―――アカネ先輩はネル先輩のメイド服の襟を掴み、私達に深々と頭を下げて謝罪し、ネル先輩がジタバタと抵抗するのも構わず引き摺って出て行く。

 

「...これなら、先んじて呼んでおくべきだったなぁ。アリス、大変だっただろ?」

「いえ、()()()()()先輩が()()()()アリスとしては簡単なバトルイベントでした。マリサが気に病む必要はありません!――それで、この方達は...?」

 

 引き摺られて行くネル先輩を見送り、マリサ先輩が長い黒髪の生徒―――アリスという名前の娘に声を掛けると、アリスは問題無いと答え、私達に不思議そうな目を向ける。

 

「『アビドス高校』一年生、『水元ネイト』だ。バイトまで時間があるから暇潰しでここに来たんだが、あの引き摺られてったヤツの騒ぎを聞き付けて様子見に来たんだ」

「同じく『アビドス高校』一年生、『黒見セリカ』よ。ネイトと同じバイトで、一緒に暇潰しでここに来たの」

「『アビドス』...!『ゲヘナ』の方々に続いて新たなる学校(勢力)生徒(所属員)とエンカウントしました!――アリスは『天童アリス』と言います!『ミレニアムサイエンススクール』一年生、"ゲーム開発部"の部員(パーティーメンバー)にして勇者を目指す者です!」

 

 私達の自己紹介を聞いたアリスは明るい青の瞳をキラキラ輝かせ、自己紹介を返す。少し言葉遣いが不思議だけど、子供っぽさがある元気な娘だ。

 

「あぁ、私もアリスと同じ"ゲーム開発部"所属だ。よろしく頼むぜ。――さて、と。()()()()()()()も連れてかれたし、折角出会った縁だ。二人のバイトの時間まで、一緒に遊ばないか?ここは私にとって行きつけの一つなんでな。色々案内もできるぜ」

「――!アリス、ネイトとセリカと遊びたいです!」

 

 マリサ先輩がそんな提案を挙げると、アリスが更に瞳を輝かせて食い付く。

 

「――ネイト、どうする?」

「確かに時間にゃ余裕はある。...あんな純粋な目を向けられちゃ無下にはできねぇしな」

「...そうね。うん、ネイトならそうするよね」

 

 ネイトに確認すれば、予想通りの答えが返って来る。

 

「――分かったわ。たっぷり時間がある訳じゃないけど、一緒に目いっぱい楽しみましょう、アリス」

「アタシらはこの手のゲームは今までほぼ無縁でな。色々教わるだろうが、素人なりに楽しませてもらうぜ」

「――はい!」

 

 私達の賛意を受けてアリスは満面の笑みを浮かべて頷く。

 

「よかったな、アリス」

 

 マリサ先輩もニカッと笑い、アリスの頭を撫でる。

 

「はい!今日だけでも『ゲヘナ』、『アビドス』の方々と知り合えました。アリス――」

 

 

 

 

 

 

「――この『ミレニアム』が、故郷が大好きです!」

 

 そんな満面の笑みでの宣言が店内の喧騒に吸い込まれていく―――

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで、アリスの探索でした。書きたいこと書いてたら長くなっちまった()
さて、次回―――"鍵"が開かれます。

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