Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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百花繚乱水着イベが解禁されたので初投稿です。ナグサもキキョウもワカモも...いいストーリーやった...
【報告】リアルが仕事やゲームリリースなど諸々多忙になりそうなので、しばらく投稿が安定しないかもです。

前回のあらすじ:鍵(・)、動きます



File66.M-25~全(マクロ)の為の個(ミクロ)、個(ミクロ)の為の全(マクロ)

~『ミレニアムサイエンススクール』医務室~

side-ミドリ

 

「――重度の外傷および骨折、内出血等の内傷も確認されませんでした。『才羽モモイ』さんの命に別条はありません。後は彼女の意思次第でしょう」

「本当ですか...!よかった...!」

「...よ、よかった...モモイが無事でよかった...!」

「よ、よかった~...」

 

―――医務室に詰めている校医さんの診断結果を聞いてユズちゃん、マキちゃんと揃って安堵のため息を吐き、ベッドに―――頬にガーゼを貼り付け、ヘッドホンも外して静かに眠るお姉ちゃんに目を向ける。普段は騒がしいお姉ちゃんがこうして静かなのは少し不思議な感覚を覚える。

 

「私は隣のオフィスに戻りますが、皆さんは?」

「私達も部室に戻ります」

「あたしも一緒に行くよ。ヴェリタス(ウチ)の部室は吹(・)っ(・)飛(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)っ(・)た(・)し...アリスちゃんも気になるしさ」

「分かりました。容態の急変等ありましたら、"ゲーム開発部"部室の方に連絡しますので対応をお願いします」

「はい...本当に、ありがとうございました...!」

 

 校医さんにユズちゃん、マキと揃って頭を下げ、お姉ちゃんの下に向かう。

 

「...お姉ちゃん、早く目を覚ましてね。ずっと目を覚まさないんじゃ、アリスちゃんもますます不安に思うだろうから」

「...早く、目を覚ましてね。モモイが居ないと...その、寂しいから...」

「早く目を覚まして元気になってよ、モモ」

 

 お姉ちゃんの頭をそっと撫で、二人と一緒に医務室を出る。

 

 

「――あ、マリサからトークが来てる」

 


 

マリサ@ゲ開

 ミドリ、モモイはどうだった? 

 こっちはアリスがネル先輩に鎮圧された  

 すぐに目を覚ましたが、自分のやったことに戸惑ってる感じだ 

 モモイが気絶したことが特にショックみたいでな 

 保安部の聴取を切り上げてから、ずっと部室に籠ってる 

 とりあえず、部室棟の共用ホールで待ってるから来てくれ 

 

ミドリ@ゲ開

 分かった 

 お姉ちゃんはまだ目を覚ましていなけど、無事だよ 

 ユズちゃんとマキちゃんも連れてそっちに向かうね 

 


 

「――よし...アリスちゃん、ネル先輩に鎮圧されたって。でも、目を覚ましてから自分のやったことに戸惑ってて、今は部室に籠ってるみたい」

「流石"約束された勝利の象徴"だね。アリスも流石の頑丈さだけど...やっぱり、あの瞳はおかしかったんだ」

「うん...それに、あの機械的な口調は『廃墟』で見付けた初対面の時に似ていた」

 

―――マリサからの『モモトーク』に返信を打ち、スマホをしまって二人に情報を共有すると、二人は眉を八の字に曲げて悩ましげな表情を浮かべる。

 

「確かに...アリスちゃん、一体どうしたんだろう...」

「...あの変(・)な(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ン(・)はア(・)リ(・)ス(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)が(・)触(・)っ(・)て(・)初めて動いた。あたし達はポートや端子も見つけられなかったのにさ」

「...『廃墟』で初めて出逢った時は、人間に限りなくアンドロイドみたいだなって思ってた。...アリスちゃんを信じたいけど、もしかしたら...」

 

 アリスちゃんがどうして私達を攻撃したのか、ユズちゃん、マキちゃんと考えながら廊下を歩いて行く―――

 

 


~部室棟 共用ホール~

side-"先生"

 

「"――マリサ"」

「――お、"先生"とミヤコが先に来たか。聴取お疲れさん。モモイはまだ目を覚ましてないが命に別条なし。見舞いに行ったミドリ達ももうすぐで戻って来る筈だぜ」

「"分かった。モモイが無事でよかった。...アリスの状況は?"」

「...ずっと部室に籠ってる。何度か声をかけたが、すすり泣きしか返ってこない。トークでも報告したが、アリス自身は記憶がないらしくて無自覚だったみたいだが...それでも堪えてるみたいだ」

 

―――"セミナー保安部"からの聴取を終え、"ゲーム開発部"の部室がある部室棟の共用ホールに入ると、ソファでスマホを見ていたマリサが私とミヤコに気付いて立ち上がり、アリスとミドリ達についての状況を説明して頭を掻く。

 

―――アリスがネルによって鎮圧され、モモイの搬送について行ったミドリ達を除いて私達は"セミナー保安部"からの聴取を受けた。私はミヤコと共に聴取を受けたけど、その間にマリサと、搬送中に意識が回復し元(・)に(・)戻(・)っ(・)た(・)アリスの聴取が終わったとトークで報告を受け―――アリスは自身がやった事を覚えておらず、かなり大きな精神的ショックを受けていたと知った。

 アリスのショックからの回復を優先し、マリサだけが聴取を受けて二人は先に部室に戻るとも報告を受け、私とミヤコも聴取が終わったらアリスに話しかけてみようと思い立って今に至る。

 

「"かけがえのない仲間を攻撃したんだ。ショックを受けない訳がないよ"」

「自身にはその時の記憶がなくとも、仲(・)間(・)を(・)手(・)に(・)掛(・)け(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)のは事実だと解ってしまうことも尚更辛いでしょう」

「...ったく。こんなに二年生(先輩)としても、仲間としても不甲斐ないことになっちまうのは初めてだ。..."先生"もアリスに声をかけてみるか?私でダメだと梨の礫かもしれないが」

「"結果が駄目でも、話しかけることで何かが変わるかもしれない。早速行ってみよう"」

「私はマリサ先輩とここで待っています。ミドリさん達が来たらそちらに合流しますね」

「"分かった"」

 

 マリサとミヤコにそう返し、"ゲーム開発部"の部室へと向かう―――

 

 

―――コンコン...

 

『...グスッ...グスッ...』

 

―――"ゲーム開発部"部室のドアを軽くノックし、ドアに耳を当ててみるとアリスの啜り泣きが聞こえて来る。"ゲーム開発部"との交流が始まってから、好奇心旺盛で元気溌剌なアリスがこうして一人で籠っているのは初めて目の当たりにした。私達を攻撃し、モモイがその余波で気絶してしまった事が本当にショックだったのだろう。

 

「"――アリス、"先生"だよ。話しておきたいことがあってね。辛いなら無理に反応しなくてもいい。...モモイは一先ず無事だよ。まだ気絶から目覚めていないけど、命に別条はない"」

『...グスッ...本当、ですか...?モモイは、無事なんですか...?』

「"...!うん。モモイは無事だよ"」

 

 モモイの状況について話すと、啜り泣きが治まって涙声が確認する様に尋ねて来て一瞬驚き、重ねてモモイは無事だと答える。

 

『...よかった、です...グスッ...アリスのせいで最(・)悪(・)な(・)こ(・)と(・)になっていたら...アリスは...アリス、は...』

 

 アリスは安心した様な声色でモモイの無事を喜ぶも、すぐ涙声に戻ってしまう。

 

「"...マリサから聞いてるけど、私達を攻撃したことをアリスは自覚していないんだね?"」

『グスッ...はい...あの謎(・)の(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ン(・)に(・)触(・)れ(・)た(・)時から、ネル先輩に担がれていることに気付くまでの間の記憶がないんです...まるで――違(・)う(・)セ(・)ー(・)ブ(・)デ(・)ー(・)タ(・)が(・)一(・)時(・)的(・)に(・)ロ(・)ー(・)ド(・)さ(・)れ(・)た(・)ように...』

「"...!そっか。それなら、自分がやってしまったことを自覚出来ずに戸惑って当然だね"」

 

 アリスの答えを脳裏に書き込む様に記憶する。

 

―――これは貴重な証言だ。アリスらしいゲーム的な表現だけど、ア(・)リ(・)ス(・)自(・)身(・)と(・)は(・)違(・)う(・)存(・)在(・)が(・)一(・)時(・)的(・)に(・)表(・)面(・)化(・)し(・)た(・)とアリスは感じている様だ。

 傍から見れば妄言とも捉えられるけど―――私は知っている。『G.Bible』を求めて『廃墟』を探索していた時、ア(・)リ(・)ス(・)に(・)呼(・)び(・)掛(・)け(・)る(・)様(・)な(・)何(・)か(・)が(・)居(・)た(・)事を。その導きで『G.Bible』を手に入れる事が出来たけど、そのア(・)リ(・)ス(・)に(・)呼(・)び(・)掛(・)け(・)た(・)存(・)在(・)は消えてしまった...と、あの時は思っていた。

 アリスの証言、『G.Bible』捜索中にアリスに起きた不可解な事象―――私から見た情報が少なくて推測の域を出ないけど、もしかしたらアリスの中には―――

 

 

―――スタスタ...

 

「――!」

「"...!"」

「...!」

 

―――視界の端、廊下をこちらに向かって歩いて来るマリサとミヤコ、そして合流したらしいミドリ達三人を捉え、以前暇な時間にミヤコから習った、でも我ながら拙いハンドサインで"アリスと会話中"と伝える。

 ミヤコがハンドサインの意味に気付き、マリサ達に静かにする様にとハンドサインを示し、マリサ達は足音を出来る限り静かにして近付いて来る。

 

『..."先生"は、アリスが悪くないと信じてくれるんですか...?』

「"さっきの証言の真偽はまだ判断できないけど、私は――先生(教師)としてアリス(生徒)を信じるよ。アリスの故意じゃない。ア(・)リ(・)ス(・)の(・)中(・)に(・)居(・)る(・)別(・)の(・)何(・)か(・)が(・)君(・)の(・)身(・)体(・)を(・)動(・)か(・)し(・)た(・)...だから、アリスは――"」

 

 

 

 

 

 

「――その何(・)か(・)が、ア(・)リ(・)ス(・)と(・)同(・)一(・)存(・)在(・)で(・)あ(・)る(・)可能性があるとしたら?」

 

―――マリサ達とは反対側の廊下から、初めて聞いた声が私の言葉を否(・)定(・)す(・)る(・)様(・)な(・)言葉を掛けてくる。振り向くと―――

 

 

 

 

「――こうしてお会いするのは初めてね、『シャーレ』の"先生"。『ミレニアムサイエンススクール』三年生、生徒会"セミナー"現会長、『調月リオ』です」

 

―――スラリとした長い黒髪の頭上に赤いグラデーションの∞に似た造形を黒い円が囲うヘイローを浮かべ、白いタートルネックインナーの上に黒いジャケットを重ね、短い黒いスカート、タイツ、ヒールを履いた、大人びた生徒―――名前やその行動の影響を話に聞いていた『調月リオ』その人が、赤い瞳に揺(・)る(・)が(・)な(・)い(・)決(・)意(・)の様な眼差しを宿して私を見つめていた。

 

 

side-ミヤコ

 

「"――"連邦捜査部『シャーレ』"顧問、"先生"。私もミレニアム(この学校)で君についての話は聞いていたから会えて光栄だよ、リオ会長"」

「こちらこそ、知己を得られて嬉しいわ。それから、リオで構わないわ」

 

「...あれが...『ミレニアム』公式サイトに載っていたので姿と名前はある程度見知っていましたが...」

「あぁ、"セミナー"の現会長様だ。私も直に姿を見るのは初めてだぜ...」

 

 "先生"と挨拶を交わすリオ会長―――まさかの人物の来訪に驚く私の呟きにマリサ先輩も驚いた表情を浮かべて頷く。

 

「"――それで、リオは私達に用があるのかな?"」

「...正確には、今この部室に籠っている生徒に、ね。――『天童アリス』。我が『ミレニアム』一年生であり、現在は"ゲーム開発部"所属部員。しかしこの学籍は巧(・)妙(・)な(・)偽(・)造(・)であり、その正体は――『廃墟』にて発見、保護されたアンドロイドと(・)思(・)し(・)き(・)存(・)在(・)『AL-1S』」

「...な、なんで...?!」

「そ、それを知ってるんですか...」

 

 リオ会長が淡々とアリスさんの素性を諳んじると、ミドリさんとユズさんが驚いた表情を浮かべる。

 

「..."教授"と同級生で親友ならあり得るな。『廃墟』調査の情報を共有しているとかやってるなら、アリスの素性について知っていておかしくない」

「...貴女の言う通りよ。反りが合わないこともあるけど、『AL-1S』を見付けたことについては、貴女達とユメミに感謝しなければね」

 

 リオ会長はマリサ先輩の言葉に頷き、"ゲーム開発部"部室のドアに目を向ける。

 

「"――アリスはまだ、自分がやってしまったことによるショックから立ち直れていない。"セミナー"での聴取は後にしてくれるかい?"」

「そう悠長なことをできる余裕はないわ。『AL-1S』がここ『ミレニアム』を――それどころかキ(・)ヴ(・)ォ(・)ト(・)ス(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)す(・)ら(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)可能性がある以上、可能性の段階で対処しなければならないの」

「...え...?」

「あ、アリスちゃんが...?」

「...おいおい、冗談キツいぜ」

「いやいやそんなゲームの魔王とか、とんでもないラスボスみたいな言い草は...」

 

 "先生"のアリスさんを気遣う言葉に対してリオ会長が淡々と告げた言葉に、"ゲーム開発部"の三人とマキさんが驚きや困惑した表情を浮かべる。

 

―――アリスさんが持つ、[光の剣:スーパーノヴァ(レールガン)]を容易に取り回せる身体能力、十数本のゲームを通しでプレイして一睡する必要も無い疲労知らず、そして―――"ヴェリタス"部室での騒動の原因となった、謎(・)の(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ン(・)を(・)触(・)れ(・)た(・)だ(・)け(・)で(・)起(・)動(・)さ(・)せ(・)た(・)未知の能力。何も知らない人から見たら冗談だと思えるだろう。しかし、私達は―――

 

「――冗談?『AL-1S』と直(・)に(・)接(・)し(・)て(・)き(・)た(・)であろう貴女達が、能(・)力(・)の(・)一(・)端(・)を(・)見(・)て(・)き(・)た(・)で(・)あ(・)ろ(・)う(・)貴女達が冗談だと否定するのかしら」

「...そ、それは...」

「...っ...」

「...確かにアリスの怪力やら疲れ知らずは普通じゃないが...」

 

―――リオ会長の指摘を受け、マリサ先輩達は言葉を詰まらせる。

 

「――本題に入るわ。"ヴェリタス"部室の全壊および、生徒複数人への攻撃。『ミレニアム』における潜在的脅威とみなし、『天童アリス』改め『AL-1S』の引き渡しを貴女達"ゲーム開発部"に要求します」

「...そんな...そんな一方的に...!」

「そ、それは...うぅ...」

 

 リオ会長は"ゲーム開発部"に来訪した目的を告げ、ミドリさんとユズさんは拒否しようとするも先程指摘された事で強く反論出来ずに言葉を詰まらせて俯いてしまう。

 

「...噂通りだな。――はいそうですかと頷けるかよ。アリス本人から碌に聴取もしないで、『ミレニアム』、ひいてはキヴォトスを滅ぼすかもしれないから引き渡せ、だと?――私達がただ命令に従うロボットの類だと思ってるならとんだ思い上がりだな。アリスを...大切な部員(仲間)を魔王呼ばわりされて私達が従うと思ってるのか?」

「私はただ調査の結果と、『AL-1S』が引き起こした事態の結果...事実を基に脅威だと判断しているだけよ。貴女達が持つ"ゲーム開発部"部員としての愛着、仲間意識なんて関係ない――『AL-1S』が世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)力(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)事(・)実(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)が大きな問題にして脅威なのよ」

 

―――マリサ先輩が一歩前に進み、鋭い眼差しで反論するもリオ会長は表情を変えずに反論を返す。

 

「"――リオ。君の言い分は理解したけどやり方が強引だよ。マリサ達にとってアリスは大切な仲間だ。その仲間に対して、一方的に世界の脅威だと告げて反発されない訳がない。事実がそれを示しても、感情としてそれを受け入れられる訳ではないんだ"」

「...理解してもらう必要はないわ。私は『ミレニアム』を、キヴォトス(世界)を――"セミナー会長"として皆を守りたいだけなの。..."先生"は、トロッコ問題をご存知かしら?」

 

 "先生"の言葉に対してリオ会長は一(・)瞬(・)目(・)を(・)逸(・)ら(・)し(・)、すぐに"先生"を見つめて問いかける。"トロッコ問題"―――有名な思考問題だ。

 

「"...外(・)でも有名な思考問題だね。――暴走するトロッコが線路を走っていて、このままだと五人の作業員が轢かれてしまう。回答者は線路の分岐点にいて、スイッチを切り替えればトロッコは別の線路に進むけど、その先には一人の作業員が居る。

――スイッチを押せば五(・)人(・)は(・)助(・)か(・)る(・)が(・)、一(・)人(・)が(・)犠(・)牲(・)に(・)な(・)る(・)。

――スイッチを押さなければ五(・)人(・)が(・)犠(・)牲(・)に(・)な(・)る(・)が(・)、一(・)人(・)は(・)助(・)か(・)る(・)。

――倫理観で見れば前者の選択は功利主義、後者の選択は義務論とされるけど...リオ、君は..."」

「――私はス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)を(・)押(・)す(・)わ。必要なら、私(・)自(・)身(・)を(・)ト(・)ロ(・)ッ(・)コ(・)に(・)轢(・)か(・)せ(・)て(・)ト(・)ロ(・)ッ(・)コ(・)を(・)止(・)め(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)も(・)構(・)わ(・)な(・)い(・)」

「"...そっか。それが、君(・)な(・)り(・)の(・)優(・)し(・)さ(・)という訳だね、リオ"」

 

 どうやら外(・)でも問題はほぼ同じ内容の様で、"先生"の問いに対してリオ会長は"先生"をじっと見つめてス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)を(・)押(・)す(・)と答える。"先生"は頷くけど、その表情は―――

 

「...全(マクロ)の為に個(ミクロ)を犠牲にしようとしているのに、それを優しさと言ってくれるのね。彼(・)女(・)の話、私が集めた情報通りの性格のようね、貴方は。――少し話が逸れたわね。要求を拒否するなら、こちらも相(・)応(・)の(・)手(・)段(・)を取らせてもらうわ。そろそろ――」

 

 

 

 

―――スタスタ...

 

「――悪ぃ。事後処理で少し遅れちまった。...珍しいじゃねぇか。お前が直に呼び付けるなんてよ」

 

―――タブレットの画面をチラリと見たリオ会長の背後の廊下から聞こえて来た足音。その主―――ネル先輩はリオ会長の隣で足を止め、物珍しそうに眉を上げて私達を見回す。

 

 

side-マリサ

 

「ね、ネル先輩...?!」

「な、なんでここに...?!」

 

―――ネル先輩の来訪に誰もが驚きと困惑した表情を浮かべる。このタイミングでネル先輩が、"C&C"のエージェントが来るという事は...!

 

「――まさか、"C&C"を使って無(・)理(・)矢(・)理(・)アリスを捕まえるつもりか?」

「――察しがいいわね。そもそも"C&C"は私(・)が(・)立(・)ち(・)上(・)げ(・)た(・)特務組織よ。"セミナー会長"たる私が動員しても不思議ではないでしょう?」

「...リオ、あたしを呼び付けたのはチビ――アリスをとっ捕まえろってことか?見かけてこっちから介入したが、吹っ飛んだ"ヴェリタス"の部室の方で鎮圧したってのに...それじゃ足りねぇってのか?」

 

 私とリオ会長の言葉を聞いたネル先輩は不満そうに眉を顰めて尋ねる。確かに、ネル先輩からすれば"ヴェリタス"の部室で暴(・)れ(・)た(・)アリスを鎮圧してすぐに、改めて捕(・)ま(・)え(・)る(・)ようにと要請されている形だ。先輩からすれば何故捕(・)ま(・)え(・)る(・)ことをあの時点で指示しなかったのかと思うだろう。

 

「――状況が変わったのよ。今までの案件のように、鎮圧して留置場に入れるだけでは済まない事態になり得る可能性があるの」

「...話が見えねぇ。ちゃんと説明しやがれ」

 

 リオ会長の言葉に納得出来ないと言いたげに目付きを更に鋭くしてネル先輩は説明を要求する。

 

「――『天童アリス』改め、『AL-1S』は世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)力(・)を(・)持(・)っ(・)た(・)存(・)在(・)である可能性が高いと、先程"ヴェリタス"で起きた事態で確信した。だから、可能性が現実となる前に『AL-1S』を排(・)除(・)する必要がある。その際に抵(・)抗(・)される可能性を考慮して、貴女を呼んだのよ――エージェント"00(ダブルオー)"」

「...成程、な――」

 

 リオ会長の説明を聞いたネル先輩は頷きながら瞑目し―――

 

 

 

 

 

 

「――お断りだ。お前は相変わらず情報やらデータやらしか見てねぇんだろ。チビは、アリスはな――未熟な癖に"勇者を目指す"とか大口を叩く、向上心あるバカだ。んなバカが世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)す(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)ね(・)ぇ(・)だぁ?...あたしはそっちの方が信じられねぇな」

「...!」

「ネル先輩...!」

 

―――数秒して目を開くと、真っ赤な瞳に確かな光を宿してリオ会長を睨み付ける。その言葉の真意に気付いたミドリとユズが希望が見えた様な表情を浮かべる。

 

「――セミナー会長(私)からの依頼を断るのかしら」

「柔軟性を確保したいって、C&C(ウチら)に依(・)頼(・)受(・)諾(・)の(・)是(・)非(・)の(・)自(・)由(・)裁(・)量(・)を与えたのはどこの会長サマだ?」

「...そう。貴(・)女(・)も(・)そ(・)ち(・)ら(・)側(・)ということね」

 

 リオ会長はネル先輩の言葉を聞いて瞑目する。まるでネ(・)ル(・)先(・)輩(・)の(・)反(・)応(・)を(・)予(・)測(・)し(・)て(・)い(・)た(・)様な澄ました様子で―――

 

 

「――なら、こちらも対処させてもらうわ」

「何言ってやがる。この状況でお前に何が――」

 

 

 

 

 

 

―――カタン...

 

「――がッ...?!」

 

「「「「ネル先輩...?!」」」」

「...?!」

「"ネル...?!"」

 

―――一瞬だった。ネル先輩の丁度頭上にあった換気口の蓋が開いて先輩の背後に音も無く降り立った人影が手刀を打ち込み、ネル先輩は白目を剥き、ヘ(・)イ(・)ロ(・)ー(・)が(・)消(・)え(・)て(・)倒れる。その人影―――

 

「――"00(ダブルオー)"、ネル先輩。この様な形での顔合わせとなったのは残念です。そして――皆様お初にお目にかかります。"セミナー会長"専属メイド、"C&C"エージェント"04(ゼロフォー)"『飛鳥馬トキ』と申します」

 

――――――金髪を後頭部のシニョンで纏め、頭上にメイドプリムを留めた、袖無し、ミニスカ、白いニーパッド付タイツを纏う軽(・)装(・)の(・)メイドが驚きで固まる私達に向き直ってカーテシーで自己紹介する。

 

「"...コールサイン"04(ゼロフォー)"...君が、在(・)籍(・)だ(・)け(・)は(・)確(・)認(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)エージェントか"」

「左様でございます。"C&C"が反(・)抗(・)した場合の備えとして、エージェントとして在籍しながらも、"セミナー会長"の意向を優先して果たす懐(・)刀(・)と(・)し(・)て(・)の(・)存(・)在(・)が私です」

「トキの言う通りよ。物事の確実な遂行において、失(・)敗(・)に(・)繋(・)が(・)る(・)危(・)険(・)リ(・)ス(・)ク(・)は(・)で(・)き(・)る(・)限(・)り(・)排(・)除(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。例えミレニアム生(身内)と敵対することになろうと、私(・)は(・)私(・)の(・)使(・)命(・)を(・)果(・)た(・)す(・)。――改めて要求するわ。『天童アリス』改め『AL-1S』をこちらに引き渡しなさい」

 

 "先生"の言葉に頷いたリオ会長は改めてアリスの身柄引き渡しを要求し、軽装のメイド―――トキは表情を変えずに背中の[Gewehr11(アサルトライフル)]を抜いて私達に銃口を向ける。

 

「...さっきも言ったが、はいそうですかと頷ける訳がないだろ。そっちがやる気なら――」

 

 

―――ジャキ...

 

「――こっちも全力で抵抗するぞ」

 

―――背中の[バレットシャワー・ブルーム(相棒)]を構え、弾帯端の銃弾を薬室に装填してトキに銃口を向ける。

 

「"マリサ...!流石にそれは――"」

「"先生"、止めないでくれ。アリスを――仲間を世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)存(・)在(・)呼ばわりされて、素直に引き渡せるほど私は寛容になれないんでな...!」

 

 "先生"が止めようとするが拒絶する。―――優しい"先生"の事だ。できる限り荒(・)事(・)は避けたいんだろう。だが、大切な仲間を―――アリスをまた一方的に世(・)界(・)の(・)脅(・)威(・)呼ばわりされてはこれ以上黙っていられない。

 

「...マリサ...っ...私も、一緒に戦う...!」

「...っ...わ、私も...!」

「あたしも忘れないでよ!ミド達程付き合いは深くないけどさ、仲間を世(・)界(・)の(・)脅(・)威(・)だとか魔王呼ばわりされていい気分になる訳ないのはよく分かるよ!」

 

―――そんな私を見てか、意を決した表情を浮かべた二人とマキも私の左右に立って得物を構える。

 

「――"先生"、ご命令を」

「"っ...私は..."」

「..."先生"...?」

 

 私達の後ろではミヤコが"先生"に指示を求めるも、"先生"は迷(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)様な、苦悩に満ちた声を漏らすだけで、ミヤコが戸惑った声を零すやり取りが聞こえる。あの"先生"が悩むのは初めて見た。だが今は―――

 

「――そう。尚も要求に抵抗するというのね」

 

―――ウィィン...

 

[[......]]

 

―――リオ会長は得物を構える私達を見てフッと息を吐き、タブレットを数度タップするとその背後から機械的な駆動音が聞こえ―――一輪タイヤの下半身を持ち、左右に[MPX(サブマシンガン)]二丁と装甲を装備した、胴体に『AMAS』と機体名が記されたロボット二機がリオ会長とトキの前に出て銃口を私達に向ける。

 

「――増援か。その程度じゃ私達は止まらないぜ」

 

 ロボット―――『AMAS』の増援を受けても私の中に燃える怒りと仲間(アリス)を守ろうという決意は揺るがず、[バレットシャワー・ブルーム(相棒)]の引き金に指を添え―――

 

 

 

 

―――ガチャッ...!

 

「――やめてください...!アリスで争わないでくださいっ...!」

 

―――突然部室のドアが開け放たれ、目に涙を一杯に溜めたアリスが泣きそうな表情で私達側とリオ会長側との間に割って入ってそう叫んだ。

 

 

side-マキ

 

「っ...リオ会長...ア(・)リ(・)ス(・)が(・)貴(・)女(・)に(・)つ(・)い(・)て(・)行(・)け(・)ば(・)、これ以上モモイのような犠牲を出さずに済みますか...?」

「アリス?!お前何を言って...!」

「...えぇ。世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)力(・)を持つ貴女をどうにかする為の手(・)段(・)は、既(・)に(・)用(・)意(・)し(・)て(・)い(・)る(・)わ」

 

―――まさかの介入にあたし達が驚く中、アリスちゃんはリオ会長を見て確認する様に尋ね、声をあげるマリサを無視してリオ会長はそう答える。

 

「...なら、アリスは貴女について行きます。ア(・)リ(・)ス(・)が(・)居(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)、モモイが...マリサ達が危険な目に遭わないのなら、アリスは...っ...」

「アリスちゃん、駄目だよ...!まだお姉ちゃんも目覚めてないのに、アリスちゃんが居なくなっちゃったら...!」

「...モモイがアリスのせいで気絶したと聞いた時、とてもショックで...今まで感じたことがない位に胸がとても痛みました」

 

 リオ会長について行く―――自(・)分(・)か(・)ら(・)身(・)柄(・)を(・)引(・)き(・)渡(・)そ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)アリスちゃんをミドが止めようとするけど、アリスちゃんは泣きそうな表情を変えずにぽつぽつと話し始める。

 

「"先生"、マリサ...皆アリスは悪くないと言ってくれて、その優しさは嬉しいです。でも...アリスの中に自分(アリス)が知らない力があって、それが皆(・)を(・)傷(・)付(・)け(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)なら――アリスは、いっそ消えた方がいいです」

「そんなことを言うんじゃないアリス!まだお前が世界の脅威になるって決まった訳じゃ――」

 

 

「――ごめんなさい、マリサ。もう...これはアリスが決めたことなんです。アリスが居なくなればきっと...二度と皆を傷付けることはないですから」

「...っ...アリス、ちゃん...」

「っ...」

「アリス...」

 

 マリサの言葉をアリスちゃんは拒絶し、リオ会長の方へと歩き出す。ミド達はアリスを―――自(・)分(・)か(・)ら(・)リオ会長について行くと決めたアリスちゃんの意思を否定する事が出来ず、言葉を詰まらせる。

 

「...荒(・)事(・)を避けられるなら、こちらとしてもありがたいこと。貴女の重大な決断、感謝するわ」

 

―――アリスちゃんがトキ(C&Cのメイド)の傍を通り過ぎてリオ会長の下で足を止め、リオ会長はアリスちゃんに謝意を伝える。

 

「――『AL-1S』の身柄引き渡しを確認。撤収するわ。トキ、貴女は殿を」

「イエス、マム」

 

―――AMAS(ロボット)が踵を返して動き出し、指示を受けたトキ(C&Cのメイド)が一歩進み出て私達を阻む様に立ちはだかる。その後ろでアリスちゃんは踵を返して歩き出し―――

 

 

 

 

「――さ(・)よ(・)う(・)な(・)ら(・)、皆。も(・)う(・)叶(・)わ(・)な(・)い(・)願(・)い(・)ですが、アリスは――勇(・)者(・)に(・)な(・)り(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)です」

 

―――足を一度止めて私達に振り向き、一筋の涙を零しながら別れを告げてリオ会長と共に歩き出す。

 

「...マリサ...どうしよう...」

「...アリスちゃん...っ...」

「...クソ...アリスが自分で行っちまった以上は...いやでも...」

 

 それを、あたし達は止める事も出来ずに見送る―――

 

 


~ゲストハウス~

side-ミヤコ

 

「――――以上が今日『ミレニアム』にて起きた事態の顛末です」

『――ありがとうございます、ミヤコさん。...まさかアリスさんが...確かに只人とは思えない力が端々に見えたことはありましたが、世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)可能性があるとは何とも壮大なスケールで』

 

―――気絶したネル先輩の搬送や"C&C"への事態の報告、諸々の事後処理を行っていたら夕方になり、今日は『ミレニアム』内で夜を明かす事となった。以前借用したゲストハウスの部屋をあてがわれ、私は『シャーレ』でサキ、ハタテ先輩達と共に留守を守るアヤ先輩と電話を繋ぎ、事態の顛末を報告している。

 その報告を終えてアヤ先輩は謝意を述べ、アリスさんが持つ力の強大さが信じられないと言いたげな声色で感想を零す。

 

「...正直、私も未だに信じられません。あのアリスさんに世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)可能性があるなんて...」

『好奇心旺盛、笑顔を絶やさず"勇者を目指す"と向上心も高い。――そんな性格の彼女に対し、いきなり魔(・)王(・)堕(・)ち(・)の可能性を突き付けられてはアリスさん自身も、周りもショックは大きいでしょう』

「そうですね..."先生"もまさかの事態の推移に戸惑っていたようですし」

『――その"先生"は今どちらに?こういう報告は"先生"が自らやりがちだと思うのですが』

「..."先生"は、『少し一人にさせて欲しい』とゲストハウス近くの公園に出ています。...初めて見ました。あんなに思(・)い(・)悩(・)む(・)"先生"の姿は」

 

―――部室棟でリオ会長と相対し、アリスさんの引渡しを巡るやり取りで"先生"が浮かべていた表情を思い返し、私も思わず眉を顰め、スマホを握る手に力を込めてしまう。

 

―――生徒の言葉、情報をよく聞き、その上で自身の"生徒の味方"としてのスタンスに従って何かしら判断を下して来た"先生"。

 マリサ先輩がリオ会長の欲求を拒否し、銃火を交えてでも抵抗する姿勢を示した時。私は"先生"に判断を、『シャーレ』としてどう動くか判断を仰いだ。でも、あの時の"先生"は―――私が『シャーレ』指揮下に就いてから初めて迷(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)、苦(・)悩(・)し(・)て(・)い(・)る(・)様な表情を浮かべていた。その表情に私は戸惑って自己判断で動けず、結果アリスさん自らがリオ会長に身柄を引き渡す顛末となってしまった。

 

―――『"いざとなったら、ミ(・)ヤ(・)コ(・)自(・)身(・)の(・)判(・)断(・)で(・)動いていいからね。その結果がどうなろうと――責(・)任(・)は(・)私(・)が(・)持(・)つ(・)から"』

 

―――"先生"から何度かそう言われてきたのに。"先生"があんな表情を浮かべるのが予想外で、動く事が出来なかった。あれではSRTの生徒(特殊部隊の兵士)失格だと、自責の念が強くなる。

 

『...大人と言えど、悩む時は悩むんでしょうねぇ。――"先生"はどんな形であれ、困っている生徒に対して出来る限り寄り添おうとします。それがアビドスの問題、"ゲーム開発部"の廃部危機解決に繋がりましたね。そうですねぇ...私個人の推測になりますが、"先生"は何(・)か(・)を(・)犠(・)牲(・)に(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)選(・)択(・)を迫られているのではないでしょうか』

「何(・)か(・)を(・)犠(・)牲(・)に(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)選(・)択(・)...」

 

 アヤ先輩が挙げた推測を聞いて、リオ会長が"先生"に問い掛けた『トロッコ問題』を思い出す。

 

――スイッチを押せば五人は(キヴォトス)は助かるが、一人(アリスさん)が犠牲になる。

――スイッチを押さなければ五人(キヴォトス)が犠牲になる(滅びてしまう)が、一人(アリスさん)は助かる。

 

「...そうかもしれません。リオ会長が突き付けた可能性が現実になるとすれば...」

『――世界(キヴォトスの全生徒)を守る為に、大切な生徒一人(アリスさん)を排(・)除(・)するか。

――大切な生徒一人(アリスさん)を守る為に、世界(キヴォトスの全生徒)を滅(・)ぼ(・)す(・)か。

 何とも壮大なスケールの話ですが...生徒を大切に想う"先生"だからこそ、即断即決とはいかないんでしょう』

「...私は...どうしたらいいんでしょうか。今の"先生"に、私はどう声を掛けたら...」

 

 私自身答えが出ない問いに、通話先のアヤ先輩も言葉を詰まらせる―――

 

 

 

~ゲストハウス付近の公園~

side-"先生"

 

「"......"」

『..."先生"...その...』

「"...こんなに決断に詰まったのは何時以来かな...考えても考えても、私自身の心が反論をぶつけてくるんだ"」

 

―――夕焼けのオレンジを夜の濃紺が追いやり始めている空の下。私以外誰も居ない公園のブランコに座り、ずっと無言で思考の坩堝に嵌りっぱなしの私を心配したらしいアロナの声に言葉を零す。

 

―――マリサ達がリオの要求を拒否して抵抗する姿勢を見せた時も、一触即発の状況でアリスが自らリオの要求に応えた時も、私は動けなかった。

 

―――リオが挙げたアリスの特異性と、排(・)除(・)しようとする意思は否定出来ない。『廃墟』探索、それ以降の"ゲーム開発部"での活動で、その只人とは思えない力や能力を目の当たりにして来たからだ。"ヴェリタス"の部室で見せた、謎(・)の(・)ド(・)ロ(・)ー(・)ン(・)に触れただけで起動した能力―――あれがド(・)ロ(・)ー(・)ン(・)以(・)外(・)で(・)も(・)使(・)え(・)る(・)と(・)す(・)れ(・)ば(・)、コユキの才能以上に脅威になる。

 

―――マリサ達のアリスへの想いと、アリスが悪くないと信じている事も否定出来ない。『廃墟』でアリスを見付けてから、"ゲーム開発部"部員として受け入れてからゲームや部活動を通してアリスは人格を形成し、"勇者を目指す"と息巻く感情豊かな娘になった。そんな彼女が―――大切な仲間が世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)と言われ、彼女達が怒らない訳が無い。

 

―――世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)脅(・)威(・)として見れば、キヴォトスの全生徒を守る為にアリスを排除しようとするリオの覚悟は理解出来る。子供(生徒)が背負うには大き過ぎる覚悟だけど、背負おうとする覚悟は否定出来ない。

―――掛(・)け(・)替(・)え(・)の(・)無(・)い(・)大(・)切(・)な(・)仲(・)間(・)として見れば、世界を滅ぼし得る脅威である可能性なんて関係無くアリスを守ろうとするマリサ達の意思も理解出来る。アリスは自らの意思でリオについて行ったけど、それでもとマリサ達が諦めない事も否定出来ない。

ガコン...

「"全(マクロ)の為の個(ミクロ)か。個(ミクロ)の為の全(マクロ)か。...先生(教師)は生徒の意思、覚悟に寄り添う味方であるべきだ。でも...この状況では一方に味方をすれば他方の意思、覚悟の否(・)定(・)に繋がる。...私は――"」

 

 

 

 

―――スッ...

 

「――教職として一際職務に真摯な貴方でも、選択に詰まって悩むのね」

「"...ユメミ...いつの間にここに?"」

 

―――右側から差し出された缶コーヒーに気付いて見上げると、ユメミが意外だと言いたげな表情を浮かべて私を見下ろしていた。

 

「ここに来たのは偶(・)然(・)よ。何か普段とは違う貴方を見かけて、気になったの。...っしょっと...」カシュッ...

 

 ユメミはそう答えながら右隣のブランコに座り、コーラのプルタブを開けて炭酸飲料特有の快音が小さく鳴る。

 

「――"ヴェリタス"で起きた事態と、リオが動いたことは把握してるわ。...あんなに静かな"ゲーム開発部"の部室は初めて見たわ」

「"...掛け替えのない仲間を世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)脅(・)威(・)呼ばわりされて、でもそのアリス自身が自らリオについて行ってしまって...ショックは大きいだろうね"」

 

 ユメミは既に事態と顛末を把握している様だ。コーラを一口飲むユメミを見ながらそう返す。

 

「...世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)得(・)る(・)脅(・)威(・)を(・)排(・)除(・)す(・)る(・)か、掛(・)け(・)替(・)え(・)の(・)な(・)い(・)仲(・)間(・)を(・)守(・)る(・)か...どちらかを選べば他方の否定に繋がる難しい問題ね。――ねぇ、"先生"」

「"...何かな?"」

 

 ユメミが改まった様に私に呼び掛け、私はユメミに目を向ける―――

 

 

 

 

 

 

「――大団円のハッピーエンドは嫌いかしら?」

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで、次回から反撃の準備です。

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