Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
今回は十字架と赤が似合う天才少女のメモロビです
~『ミレニアムサイエンススクール』本校内 フリースペース~
side-アヤ
「――岡崎"教授"についてどんな印象を抱いているか、ですか...ふむ...」
―――ノアさんは顎に指を添えて数秒考え込む。
「――頭脳面では正に"全知"にふさわしい天才ですね。尚且つ、
ですが――
~技術棟 会議室~
「――ユメミについて、か。...
人としては――研究活動で
―――ウタハさんはそう答えて微笑む。
~"C&C"本部建屋 談話室~
「――ユメミについてどう思ってるか、だァ?...そうだな。戦闘能力はこのあたしと互角にやり合える時点でキヴォトスでも上澄みだろう。あれだけ戦えりゃ『廃墟』の単身探索も大丈夫だろうさ。それから...あたしは研究活動なんて柄じゃねぇが、アイツの頭は"全知"に、そして
―――ネルさんはそう答えて足早に談話室を出ていく。
~本校内 購買付近のベンチ~
「...ふむ...」
―――スマホにメモした、『"教授"についてどう思っているか』という質問への各人の答えを見ながら小腹を満たすために購買で買ったチョコバーを齧る。
―――個人的な興味で、『ミレニアム』生が"教授"についてどう思っているかインタビューして回り、一通りインタビューを終えた。
様々な分野で高水準の適性、才能を持ち、"全知"に相応しい頭脳の持ち主である。
―――ネルさんが言った通り、多くの『ミレニアム』生が"教授"に対してそんな印象を抱いている様だ。
「..."全知"に相応しい才能を持ち、知識や知見を共有できる程に親しみやすい。しかし、目的に向けて規則を犯してまで突き進む破天荒さも持ち合わせている...ネルさんと互せるだけの実力もあるから危険も冒せるのかしらね。ただ――」
スマホの画面をスクロールして、最後にインタビューしたスミレコさんのインタビューメモを見返しながら彼女の言葉を思い返す―――
―――『ユメミについて?そうねぇ...傍から見てるとヒマリ、リオと幼馴染で親友だとは思えないって時々思うわね。私がヒマリのことを深く理解できてないのも要因かもだけど...ヒマリってば、
「――幼馴染にして親友であるというリオ会長、ヒマリさんとの関係は傍から見ると妙に見えるみたいね。...っと、そろそろ
―――スマホに映る時間を見てそろそろ"教授"の講義――"教授"に頼んで見学の許可を取り付けたものだ――の時間が近いと分かり、スマホをしまって残りのチョコバーを放り込んで咀嚼しながら立ち上がる。
~"特異現象捜査部"部室~
side-ヒマリ
『――さて。本講義では"廃墟"のような遥か過去のキヴォトスに存在した文明について、判明している事実を基に考察していくわ。...この場に居る娘達の中には、私が貸与した"廃墟"探索の成果物をサンプルとしての研究を行っている娘も居るわね。私が見付けた、或いは考察した情報を基に、"廃墟"が
―――本校で一番大きな講義室である『第一講義室』の一角にある監視カメラの映像を映し出す仮想画面。教壇に立ち、ホログラムで『廃墟』についての情報を映し出して講義を始めるユメミの様子が映っている。相変わらず講義は盛況の様で講義室の席は満席。受講者の中にはレンコとメリーの姿と、取材にでも来たのか『シャーレ』"広報員"である『射命丸アヤ』の姿も見える。
「――珍しいね。部長が"教授"の講義を覗き見るなんて」
「...洪水の濁流とて、流れ着くものの中には恵みもありますから。可憐で弱弱しく、清楚で病弱な一輪の花である私では『廃墟』探索は難しいですし」
―――背後からエイミの声がかかり、画面から目を逸らさずにそう答える。
―――この車椅子が私の一部となってから久しく、独自に機能も追加して来たとは言え『廃墟』の様な悪路しかない環境を一人で踏破する事は難しい。その為、リオが"連邦生徒会"に『廃墟』入域許可を取り付ける以前から積極的に
―――閑話休題。
「...覗き見する位なら堂々受講してもいいんじゃない?"教授"の講義は学年、所属不問だし」
「高嶺の花が態々地表に降りるなど...どうせ彼女も私の覗き見には
『――――この"オーパーツ"は
―――ユメミは白に紫のラインが走る外付けSSDデバイスの様な遺物を片手にその機能を説明し―――
「...ほら、見えていたでしょう?気付いても何も言ってこない以上、彼女もこの受講の形を受け入れていると見なしていいでしょう」
「...相変わらずだね...この際だし、聞きたいんだけどさ――部長と"教授"、リオ会長は
呆れた半目で私を見るエイミの視線と質問に答えず、仮想画面から目を離し、エイミとは反対側に目を向ける―――
―――
「――下水道の水と洪水の濁流。その評を改めるつもりはありません。ですが...そんな汚れた水の中にも、
―――写真を見ているとまだ未熟で幼かった過去を思い出し、思わず目を細める。小学生の頃からユメミと揃って興味関心が向くままに危険な所にも入ろうとして、リオが止めようとするけど意思を曲げない私達に折れてついて来て...
「――エイミ。講義が終わったら少し外出します」
「了解。...付き添いは?」
「正門近くに用があるので大丈夫です」
―――ふと
~『ミレニアムタワー』 "セミナー会長"オフィス~
sideーリオ
「...少し休憩しましょうか」
―――ふとキーボードを叩く指を止めてデスクの時計を見れば、作業を始めてから既に二時間近く経っていた。気が緩んでしまったのか、少しの疲労由来の眠気と喉の渇きを覚え、席を立って給湯室でコーヒーを淹れる。コンビニでも売っている様な安い粉末コーヒーを保温ケトルのお湯で溶かしてマグカップに淹れ終え、デスクに戻る。
「......」
コーヒーを啜り、プライベート用のタブレットを手に取って画面を点け、アルバムアプリを立ち上げる。下へ下へ―――
―――"セミナー会長"オフィス出入口前。私が"セミナー会長"に就任した時の写真。普段は殆ど着ない"セミナー会長"専用の制服を纏い、ユメミが撮影したものだ。
「...この時からヒマリと、『ミレニアム』入学以来の友人であるチヒロとの確執ができてしまったわね。...今思えば、ユメミも"無名の司祭"について調べていたからこの時から彼女は...」
ユメミの『廃墟』
そんな中―――ユメミだけは素直に私の"セミナー会長"就任を祝ってくれてこの記念写真を撮ってくれた。私の行動が私自身を孤独にさせる事は理解していたし覚悟もしていたけど、ユメミが純粋に祝ってくれたのは不思議と安心感を覚えた。
「...ユメミだけは私を気に掛けてくれた。おかげで、
ユメミが私を気に掛けてくれている事に安心感を覚えつつスワイプする―――
―――当時の『ミレニアムプライス』会場の一角。ユメミの
「...まさか自分で火器を設計してしまうなんてね。[
苦笑しながら思い返す様に呟き、スワイプして次を映す。
―――そして、今より少し小柄で幼さもある中学校進学して間も無い時に撮った写真が画面に映る。学校内にあった機械作業場で、
「...あの時はユメミ共々らしくもなく驚いたわね。ユメミ共々興味関心が向くまま、危険な所に突っ込もうとしていた彼女がまさか、ね...」
―――ヒマリは生まれた時から車椅子を足としていた訳ではない。私達が中学校に入学してすぐ、ヒマリは
ヒマリは気丈に振る舞い、いつもの様に足を動かそうとして、しかし幾ら足を動かそうとしても殆ど動かず―――病院で
―――当初は市販の車椅子を購入していたものの、ヒマリが腰を落ち着けられる型が見付からず度々買い替えていた。その様子を見かね、私とユメミは―――
既に天才的頭脳の片鱗を発現し始めていて、私とユメミが
「...あの時程の驚きと喜びはなかったわね。恐らく途中でバレてもヒマリは喜んだでしょうけど...ユメミが居なければ、あんなに上手くことは進まなかったわね」
―――こうして過去を思い返すと、
―――最後の一枚、お気に入り登録している写真。デスクにも飾っている、入学式での記念写真だ。この後各々目指す道を違えてしまったけど、幼馴染、親友としての繋がりは今も消えていない。
「――そういえば、
―――写真を眺めていると、ふと脳裏に
「...スケジュール的には三時の休憩で大丈夫そうね。午後の会議が終わったら行きましょうか」
―――アルバムアプリを閉じてタブレットの電源を消してデスクに置き、仕事用パソコンでスケジュールを確認しながら呟く―――
~『ミレニアムサイエンススクール』本校正門前大通り カフェ『千の揺り籠』~
side-ユメミ
「――あら?」
「...!」
「――おやおや」
―――本校正門前の大通り。少し目立たない所にあるカフェ『千の揺り籠』の出入口前でリオ、ヒマリと出会す。
―――講義の後、フリーな時間が出来たので何をしようかと思案して思い付いたのが『千の揺り籠』でのおやつタイムだった。研究活動だったり、アリスに絡む一連の騒動で長い間行けておらず、外向けの宣伝も殆どしないスタイルだからこうして直接出向く他に確かめる術は無い。
―――故に、直接確かめる為に出向く思考に至るのは兎も角、リオ、ヒマリも
「――まさか二人もここに来るなんてね。私は最近行けてなかったからちょっと行ってみようかって来たんだけど」
「...私も貴女と同じよ」
「...この天才病弱美少女ハッカーが下水道の水と洪水の濁流と動機を同じくするとは...まぁ、この状況は作為なき偶然でしょう」
私とリオの動機を聞いたヒマリは呆れた様に瞑目して息を吐く。しかし、その声色には
「――お店の前で立ち話も失礼だし、入りましょうか。
「えぇ。...少なくとも、外観は全く変わっていないわね。大通りに面しながら、質素で目立ちにくい外観...懐かしいわね」
「宣伝もまるでしていないというのに、今も続いているとは...」
二人に入店を促し、ドアノブに下がっている、傷と脱色が目立つものの、しっかり『OPEN』と読み取れる手作りのプレートを一瞥して出入口のガラス戸を開ける―――
~店内~
「――お待たせしました。ブラックコーヒー三つ、プレーンパウンドケーキ三つです」
「――来たわね」
「...この香り、手作り感があるケーキ...懐かしいわね」
「昔と何ら変わりはないようですね」
―――昔より更に皺が目立つ、老いたパグ獣人の店主は注文したコーヒーとケーキを私達の前に並べ、カウンターへと戻っていく。
―――『千の揺り籠』は、私達が中学校へ進学する直前に偶然見付けたカフェだ。同じ時間帯、おやつタイムで何か食べたかった私達はこのカフェに入り、このコーヒーとパウンドケーキに舌鼓を打った。以来、中学校に入学してからも、ヒマリの足が不自由になってからも度々足を運んだ。
高校生になってあの頃からより大人びてしまったからか、元々柔和な表情から別の表情に変わった所を見た事が無いせいか、馴染みの客である筈の私達の久しぶりの来店への反応は昔と変わらなかったけど―――それはそれで安心出来る。
「...ん...味も全然変わってない。このコーヒーによく合う甘さも久しぶりね」
「内装も殆ど変わってないわね。...この窓際の席から見える大通りの風景も何ら変わっていない」
パウンドケーキをフォークで一口大に切って口に入れ、懐かしい甘さを感じながら飲み込んでブラックコーヒーの苦味を流し込む。リオもコーヒーを啜りながら頷いて窓から大通りに目を向ける。―――林立するビル。大通りを行きかう車両。歩道を歩く生徒や住人。この景色も変わっていない。
「...懐かしいわねぇ。大通りを歩く『ミレニアム』生を見かけて、『ミレニアム』に進学したいって一緒に決めたっけ」
「元々中学校も『ミレニアム』に近い立地でしたし、『ミレニアム』には劣るものの工学系でしたからね。進学を志すのは自然な流れでは?」
「あら、入試当日に緊張で
風情が無いヒマリの言葉にそう言い返してやると、普段なら私への流麗な罵倒が返ってくるのに、何も言い返さず窓の外を眺める様に見せかけて目線を逸らす。
―――三人揃って勉強はしたけど、ギリギリまで出題範囲を頭に叩き込んでいた周りの同級生達とは違って計画的に対策は進めたし、模試でも合格ラインを余裕で越え続けたから大した緊張は無かった。...試験当日のヒマリ以外は。
「...あの時は心配だったのよ?受験番号的に同じ部屋の筈なのに、貴女だけが十分前になっても来なかったのだから」
「既にスマホの電源は落としてたから連絡手段もなかったし、このままだと欠席で...って不安になってたら、
「...えぇ、えぇ。そうですよ。あの時は緊張でまさか似た番号の部屋だとは気付きませんでしたよ。すぐにリカバリーできるよう車椅子のリミッター解除機能を実装していたのが功を奏しました」
リオと揃って試験開始直前に正しい会場に戻って来た時のヒマリの事を思い返す様に語ると、ヒマリは開き直った様に言い訳をしてケーキを頬張る。―――小学生の時から変わらない、自信や自負が崩されて恥ずかしい思いをすると開き直って言い訳をする反応。
「...本当に懐かしいわね。高校生になってから、こうやって三人で集まって駄弁ることも殆どなくなっちゃったし」
「そうね...私はエンジニアとして。ユメミは研究者として。ヒマリはハッカーとして。各々道を違えてしまってからこうしてプライベートで集まる機会は全然なかった」
私の言葉にリオも頷いて少し目を細める。―――"無名の司祭"や"デカグラマトン"、アリス絡みで情報共有の為に集まる事はあれど、こうしてプライベートで集まる事は『ミレニアム』入学以来殆ど無かった。私自身はプライベートで集まる事も大歓迎だったけど、ヒマリとリオはそれぞれ忙しそうにしていたし、私自身も
「加えて、貴女は"セミナー"入りしてから下水道の水のような女になってしまいましたね。...私とユメミの思い付きに対して、自分で調べたリスクや危険性を説いて止めようとした貴女が、理論と合理性を追及する無感情な人間になってしまうなんて。...
「小学校の頃から、好奇心のままに危険な挑戦にも挑もうとする私とヒマリを止めようとして、色々調べて説得しようとしていた健気な貴女がまさか、あんな性格になっちゃうなんてねぇ...」
―――『ふ、二人とも待って!あなた達が行こうとしてるあの場所...ほら、こんなに危険なものばかりよ。だから行くのは...!』
―――『ここまで来たのよ!今さら諦めるつもりはないわ!』
―――『そうですよリオ!危険ならすぐに逃げればいいんです!...怖いなら、リオはここで待っていてもいいんですよ?』
―――リオは昔から理論や合理性を追及する性格では無かった。私とヒマリの思い付きに振り回され、危険な目に遭って一緒に逃げ回って。それを避けようと本やインターネットで拙いながら情報を集め、当時のリオなりに説明して私とヒマリを止めようとしてくれた。
「...ことを起こす前に色々調べる癖が、『ミレニアム』に入学して"無名の司祭"の存在に触れてから悪化してしまったと、自分では思っているわ。...言い訳になってしまうけど、"セミナー"に入ってからは貴女達だけじゃなく、
リオは私達に向き直って頭を下げる。―――アリスに絡むあの一連の騒動。
「...世界の全てが理論理屈、合理で成り立っている訳ではありません。不可解なものを暴き、理論を生み出すのが研究者の目的ではありますが――人間の感情程不安定で解明できない要素は存在しないでしょう。感情は時に理屈を超えた行動のきっかけにもなりますから」
「そうね。
「...えぇ。これからは理論理屈だけじゃなく、他者の感情も考えていくわ」
私とヒマリの言葉にリオは頷く。
「反省してすべきことを解っているなら結構。――じゃあ、後は面倒な話はなし!プライベートの集まりなんだからそっち方面で楽しまなきゃ!」
リオの言葉に頷き、パンパンと手を軽く叩いて話題の切り替えを提案する。―――久しぶりにプライベートで集まれた。楽しまなければ損だろう。
「...っていってもどうするの?私は"セミナー"が多忙でプライベートなんて...」
「昔話に花を咲かせるでもいいのでは?例えば...リオが好きだった小学校の図工の授業で粘土細工を作った時。貴女が
「あぁ、それも懐かしいわねぇ。一人だけ時間がかかっていて、どんな作品かと思ったら...」
「...アバンギャルド君が万人受けしないのが未だに不思議よ。その名の通り
私とヒマリの言葉にリオは理解出来ないと言いたげにため息を吐く。
「アレが万人受けすると未だに考えているあたり、貴女の芸術的感性は下水道の水ですよ。...芸術と言えば、ユメミはやたら十字架を推していましたね。勿論今現在もですが。粘土細工でも、絵画でも...十字架がない作品は一つもなかった。時には皆で作る作品にすら入れようとするんですから、止めるのが大変でしたよ」
「えー、いいじゃない十字架。あれ程シンプルなのに印象的なシンボルもないでしょう?そういうヒマリだって、芸術となれば自分の肖像ばかりだったじゃない」
「...そう言えば貴女は肖像ばかりだったわね。担当教員から肖像以外の作品を造れと言われても中々曲げなかったし」
「天地万物に求められし超天才美少女である私の造形を皆に共有し、より世に広める為に多く作品を生み出して何が悪いんです?」
お互いの芸術的感性へのこだわりがぶつかり合い、お互いに睨み合う―――
―――しかし、相手の感性を理解出来ないのはお互い様だと気付き、こうして意見をぶつけ合う懐かしさもあって二、三秒で我慢出来ずにお互い吹き出す。
ということで、岡崎ユメミのメモロビでした。何だかんだ仲がいい三人です。
さて次回は―――うごあつ程ではないものの、まだ暑さも厳しいので夏判定と見なしてとある水着イベントをやります。
感想、評価、お気に入り、栞、ここすきは大歓迎です。作者が喜びでわっぴ~します。