Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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不忍ノ心編、終幕です。


File87.MS-HY~不忍ノ心-伍ノ段~

~『陰陽部本館』廊下~

sideーニヤ

 

「――――ふむふむ。各所の暴動も鎮圧完了、と。現場指揮お疲れ様でした、カホ。事後処理を終えたら諸々取り纏めて報告お願いね」

 

―――夕焼け空が照らす廊下。カホからの報告を受け、事後処理と報告を指示してスマホの通話を切って歩き出す。

 

「"修行部"、"仏道部"、"仙道部"には重ね重ね感謝しなければねぇ。『ゲヘナ』、『シャーレ』、"忍術研究部"の方も()()()()したようだし。...()()()()()()()()はあったけど、八方良しと言えるでしょう」

 

 廊下の右手の枯山水庭園を横目に言ちる。

 

―――『ゲヘナ』要人の視察。"忍術研究部"認可判断。相次いでこの二つの用件が持ち込まれた時、()()()()を思い付いた。

 『ゲヘナ』の要人に『和楽姫』の役を体験させるよう仕向け、一般には祭の演出の一環として見せかけて()()()()()()"魑魅一座"に攫わせる。

 元々()()()()()()()()()()試練の模索も兼ねていた()()()『和楽祭』の試練も体験させ、『シャーレ』と"忍術研究部"に攻略をサポートさせる。

 そして、終点の『桜花展望台』で『和楽姫』を救出し終幕とする。

 

―――『ゲヘナ』の要人達と『シャーレ』は『百鬼夜行』のお祭を体験出来る。

―――"忍術研究部"は忍者の存在を周りに知らしめる事が出来る。

―――"魑魅一座"は不満のガス抜きの一方、勢力としての活動能力を把握出来る。

―――我が”陰陽部"は『和楽祭』の新たな道の模索を果たし、『ゲヘナ』、『シャーレ』との繋がりを築き、"忍術研究部"へ恩を売る事が出来る。

 

―――()()()()()()()()()()()。そう算段を立てて策を講じた。結果として目論見通り上手く行ったのは我ながら良い策を講ずる事が出来たと自負している。けど―――

 

「――それにしても...まさか"魑魅一座"が()()()()()()()()()()()()()()()()()()のはちょっと()()()やったわ。『ゲヘナ』の治安の悪さは噂でよく聞くとは言え、()()()()()()()()()()()()()()程とは...噂だけの先入観でコレは何とかせんとねぇ。まぁ、図らずも"魑魅一座"全体の規模を把握できたのは僥倖――」

 

 

 

 

「――あ、居た居た。ちょーっと時間取っ手いいかな、ニヤ?」

 

―――背後から聞こえた、幼さを感じさせつつ、しかし大人としての貫禄もひしひしと感じさせる声。でも普段とは違って冷たさも感じられて、その()()()()()()()()を察してしまって身体が凍り付いた様に硬直する。出来る限り平静を装いながらゆっくり振り向けば―――

 

「――こ、これは"理事長"。...私に何かご用事で?」

「なーに緊張してるのさ。今回の『和楽祭』についてちょっと()()()()()()があるだけだよ」

 

―――金髪のショートボブに、一対の目玉を飾った大きなシルクハットの様な、蛙のモチーフに見える帽子を被り、白い着物の上に紫色の羽織を重ね、紫の袴風ミニスカート、白いロングソックス、黒の靴を履いた少し小柄な人物―――『百鬼夜行連合学院』専属教師の片割れ、『洩矢(もりや)スワコ』"理事長"が金色の瞳で私を見つめながら歩み寄りながら呼び止めた理由を挙げる。

 

「...言いたいこと、ですか。今回の『和楽祭』は『百鬼夜行』内外の()()()()に、より没入感のあるアトラクションの模索を兼ねたものでしたが...()()()()()()()()()()"理事長"の意見となれば拝聴に値します。何なりと挙げてください――」

 

 

「――"魑魅一座"に『ゲヘナ』の娘達が視察に来るって情報、()()()()()()()()でしょ?」

「...にゃはは。いくら"理事長"といえど、そのようなお言葉はいただけませんよぉ?()()の一つもなしに、まるで()()()()()()かのように決め付けて...私、悲しいです」

 

―――いきなり()()()()()()()一瞬ドキリとするけど、平静を装って抗議を返し、扇を開いて目元を隠しながらよよよと泣くフリを見せる。対する"理事長"は羽織の懐に手を入れ―――

 

―――パサッ...

 

「――お祭中に偶然"魑魅一座"の一団の暴動を見かけて、近場に誰も居なかったから()()鎮圧してね。その時に()()()()()()してみたら、コレが出てきたんだ。――あんたは()()()()()()んじゃないかな?他人のものっぽくしようとしてるけど、この字は紛れもなく()()()()()だしさ」

 

―――私の足元に放り投げられた、()()()()()()()()()()を見てまた心臓がドキリと跳ねる。そこには()()"魑魅一座"に()()()()()()内容が記されている。間違いない―――私が"魑魅一座"を動かす為にしたためた手紙だ。何故暴動に持ち込んでいたのだろうか。普通は証拠隠滅で焼くなり破り捨てるなりする筈だろうに。

 

「...確かに、私の字にも見えますが..."魑魅一座"に字の真似が上手い方でも居たのでは?」

「...()()()()()()()()()だと思うけどなー。まだはぐらかすんだ?じゃあ――」

 

 

「――これを見て、まだ自分は無実だと言える?」

「――っ...?!」

 

―――"理事長"がまた羽織の懐に手を入れ、取り出して放り投げた写真を見て思わず肩を跳ねさせてしまう。『渦巻映画村』ステージ待機所の人気の居ない裏手側を映す監視カメラの画像。『和楽姫』役を攫う際の変装用にと"守矢衆"の制服を隠したゴミ集積ボックスを映している画角の端に白い制服の袖―――()()()()()()()がチラリと見えている。

 

「昨日、映画村のスタッフと打ち合わせしたでしょ?その後、あんたがこの写真の所に向かった所を見たって証言もある。...さぁ、これでも自分は無実だって言い張れる?」

 

 "理事長"が金色の瞳で射抜く様に見つめて来て、思わず視線を逸らす。―――ここまで証拠を示されては言い訳、無実の主張は絶望的だ。

 

「――沈黙は肯定と受け取るよ。...あんたも色々大変なのは理解してるよ。『ゲヘナ』の娘達の視察への対応。"忍術研究部"認可の是非..."陰陽部"は一応生徒会だしね。政治的なアレソレはやらなきゃいけない。ま、()()()なら今回の()()()()()は評価してくれるだろうさ。世の中綺麗事ばかりじゃやっていけないし」

「...そ、そうですか...」

 

 "理事長"は小さく溜息を吐いて私の()()()()()を少し擁護する様な意見を挙げ、安心から少し肩を脱力させる―――

 

 

「――でも、それはそれとして。あんたなら、()()()()()()()()()()()()はよーく分かってるね?」

 

―――一転。"理事長"の問にビクリと肩を震わせる。今回私が講じた()には()()()()があった。策謀家として勿論それへの対策も講じていたけど―――()()()()()()()()()()()()()()、"魑魅一座"が一丸となって()()()()()()()()()()()()なんて()()()()()()で対策が破綻してしまった。

 "理事長"が態々私の下に来たのは―――

 

「――お祭は誰もが心から楽しむべきもの。そこに政治やら策謀やらが介在しちゃいただけない。この『百鬼夜行』の長きに渡る()()()()()()()()()()()()()を贖う為にもね。

――あんたはそんなお祭に、『和楽祭』に()()()()()()()

 

 "理事長"は私の目の前に歩み寄り、()()()()()()()()微笑みを浮かべながら肩に手を置く―――

 

 

 

 

 

 

「――()()()だよ、ニヤ」

 

 


~『食楽通り』 屋台通り~

sideーミヤコ

 

「ぎにゃぁぁぁぁ...」>

 

「――今、何か聞こえませんでしたか?」

「そう?私は聞こえなかったなー。気のせいじゃない?」

 

―――微かに()()()()()()が聞こえた気がして隣を歩くモエに尋ねるけど、彼女はそう返してリンゴ飴を舐める。

 

「わぁ...!色んな屋台があるね!『ゲヘナ』じゃこういうの全然見れないからワクワクする!」

「『ゲヘナ』では露天商売をしようものなら、例え()()()()()()()()()不良達が襲って商品を根こそぎ奪っていきますからね。...通りの左右にこれだけ屋台が並んでいる光景は新鮮です」

 

 私達の少し前をフランさんと共に歩くイブキさんの言葉にイロハ先輩が頷く。彼女達は私達と同様()()姿()だ。

 

「――これが祭というものか。銃声、爆発音などなく、料理の匂いが鼻をくすぐり、呼び込みや人の喧騒で賑わう...しかも、今回は『和楽祭』でのトラブルに巻き込んだ詫びとして、この()()()()()()()()()()()。無論、この程度では()()()()()()()()()()()()()()()()()"陰陽部"の()()は許せるものではないが...折角の祭は楽しまねばな」

 

―――イロハ先輩の隣を歩く、私達と同様に浴衣姿のマコト議長はそう言って左右の屋台を見回す。

 

―――『トラブルはありましたが、和楽祭はこれにて終了です。重ね重ね、多大なご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。

――さて。後夜祭として、夕刻より食楽通りにて屋台縁日が行われます。折角の機会ですから、今回のトラブルへのお詫びの一環としてこちらの[縁日全無料券]と共に皆様に浴衣を用意させています。祭と言えば浴衣。暴動も鎮圧されたので、何の作為もなく祭の雰囲気を楽しめると保証します』

 

―――フランさん、イブキさんを助け出したタイミングで"魑魅一座"が各所で起こしていた暴動も鎮圧され、『百鬼夜行』に平穏が戻った。"陰陽部"本部に戻るとカホ副部長が事後処理で多忙なニヤ部長に代わって謝罪し、そのお詫びとして夕方から行われる縁日に際しての便宜を図ってくれた。ニヤ部長との会談を終えたマコト議長は先程の言葉通り、全面的に許すつもりは無いみたいだけど、これら提示されたお詫びを受け入れて今に至っている。

 

 浴衣は雑誌や映像で見かける位で実際に着るのは初めてだけど―――それ以上に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()[縁日全無料券]なんて破格の待遇を私達へ提供した事に驚いた。多くの祭を催し、その収益は『百鬼夜行』運営に大きく貢献している筈だけど...マコト議長ら『ゲヘナ』要人への歓待と考えれば相応しいのかもしれない。

 

「――あ!あそこの射的屋さんの景品!『ニンペロ様』の大きなぬいぐるみだ!」

「わぁ、ホントに大きい!イブキ、あれ欲しい!」

「...二人共、射的は初めてだよね?私がやり方を教えてあげるよ。無料券のおかげでいくらでも挑戦できるし、頑張ろっか」

「...大丈夫かな。部長射的得意じゃないし、普段も[ミチル流オーバーフローショットガン]だから狙い撃つなんてしないのに強がって...」

 

―――イブキさんとフランさんが射的の屋台に並ぶ景品の中に欲しいものを見付け、ミチル部長が二人を連れて屋台に向かう。その様子を見送りながらヌエ先輩は呆れたように頭を掻く。

 

「――イブキとフランが楽しめるならレクチャーが上手く行かずとも構わん。最悪、このマコト様が取ってみせるからな」

「...貴女は貴女で不安ね。[唯我独尊(スナイパーライフル)]を使っているとはいえ、実戦は最近やってないでしょう?」

 

 マコト議長の言葉に対してレミリア副議長が半目で彼女を見ながら指摘を挙げる。

 

「確かに、議長就任以降はお前程実戦は経験していないが...偶にはイブキとフラン(可愛い後輩達)に格好いい所を見せたい時もある。

 『和楽祭』では私も救出に向かうつもりでいたんだがな...ニヤ部長に"下手に万魔殿議長(生徒会トップ)が出ても余計に混乱を齎すでしょう"と引き留められてな。"忍術研究部"、『シャーレ』が居なければ引き留めを振り切って救出に向かっていたところだ。――忍者はフィクションだと思っていたが...『和楽祭』では確かに実在していた。二人を助けてくれたこと、感謝しよう。

 会談中ニヤ部長から聞いていたが、"忍術研究部"は部活動としての認可を求めているそうだな。イブキとフランを助けた礼として"万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)"が口添えしてやろう。()()()()()()()()()()イブキとフラン(当事者)の主張があれば、他校の人間の主張と言えど一考の余地がある筈だ」

「...そりゃどうも。胡散臭い噂が多い"陰陽部"の部長のことだから、今回の件で認可に繋がるか不安だけど...忍者冥利に尽きるよ」

 

 マコト議長が"忍術研究部"認可への口添えを宣言し、ヌエ先輩は懸念を示しながらもお礼を返す。

 

「胡散臭いか...確かに、ニヤ部長の笑顔には怪しい所があったな。まぁ、最悪『シャーレ』の権限があればゴリ押しもいける筈だ。――『シャーレ』と言えば、"先生"はどうしたんだ?この浴衣に着替えた時には既に居なかったが」

「"先生"は――」

 

 


~『守矢庵』 応接間~

side-"先生"

 

「――さぁ、どうぞ。我が『百鬼夜行』唯一にして百年以上続く老舗『魍魎酒造』の逸品『風神』だ。私のお気に入りの銘柄でもあってね。今季は特にできがいい」

「"――ありがとう。いただくよ()()()"」

 

―――午前中の出迎えでも見かけた、白と青の巫女服風の制服を纏った"陰陽部"部員が料理を並べ終え、退出したタイミングで彼女が懐に隠し持っていたらしいお酒を小ぶりな黒茶色の瓶からグラスに受けながらお礼を述べる。鼻を突く香りは()での日本酒、それも高品質な純米酒のそれだ。

 学園都市故に厳しい規制が敷かれている中、日本酒のそれと言えるお酒を造っている酒造会社があるなんて『百鬼夜行』にはますますシンパシーを感じられる。

 

「では、教職(同業者)との新たな出会いを祝し――」

「"『シャーレ』、『百鬼夜行』の良好な関係の存続を願って――"」

 

 

「「"――乾杯"」」

 

―――グラスを掲げ、乾杯の音頭を取ってグラスを軽く当てて一口飲む。米由来の甘味の後に風が吹いたようなスッキリした後味が喉を通り過ぎていく。

 

「"――これは...本当に美味しいね。()でもこんなに美味しいお酒にはありつけなかったよ"」

「口に合ったようで何より。――『百鬼夜行』外の教職(同業者)を招くのは本当に久しぶりでね。魍魎酒造(先方)に無理を言って取り寄せた甲斐があった」

 

 私の反応を見て彼女は安心した様に笑う。

 

―――『...貴方が"シャーレ"の"先生"か。――"百鬼夜行連合学院"専属教師"学院長"、"八坂(やさか)カナコ"である。知己を得られて光栄だ、シャーレの"先生"よ』

 

―――紫がかった青いボリュームあるセミロングに注連縄風のヘアバンドを締め、頭上には()()()()()()()()()()()()()()を浮かべ、赤い着物の上に紅葉模様のオレンジ色の羽織を重ね、黒い袴を履き、威厳ある雰囲気を纏った初対面と異なり、今はそれとは反対にフランクで優しい雰囲気を纏っている『八坂カナコ』"学院長"。

 ニヤ曰く、『百鬼夜行』の現体制構築の立役者にして、銃社会であるキヴォトスでも通用する近接戦闘術―――所謂武術の大家でもあり、先程料理を並べて退出した娘が所属している"陰陽部"直属の精鋭特務部隊"守矢衆"は彼女が直に鍛え上げたという。

 

「――本来なら"先生"達『シャーレ』、『ゲヘナ』の娘らには()()()『和楽祭』を楽しんでほしかったんだけどね。ニヤの奴...」

「"――やっぱり、"魑魅一座"の暴動は単なる偶然じゃなかったのかい?"」

「..."先生"は勘付いていたか。詳しい事情を知ってるのはニヤだけだろうけど、状況や得られた証拠を見るに私の推測はほぼ正しいだろう。...『和楽祭』を体験する一環として『ゲヘナ』の娘らに『和楽姫』を演じさせ、情報を流して"魑魅一座"をけしかけて攫わせる。

 そして"忍術研究部"も加えて救出に向かわせ、試練を課すことで、周囲には忍者の活躍を見せ付ける。...『ゲヘナ』の視察、"忍術研究部"認可、"魑魅一座"の掣肘。一石三鳥を狙うとは...欲張り過ぎたね。今頃アイツ――もう一人の教職(同業者)に絞られているだろう」

 

 カナコはお酒を一口飲み、呆れた様に今回の『和楽祭』でのトラブルの裏事情の推測を挙げる。

 

「"――もう一人?"」

「あぁ。私とは腐れ縁の友人でもあってね。私の肩書である"学院長"が表なら、アイツは――」

 

 

「――ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった...って、もう始めてるじゃん!しかも昨日買ったばっかの『風神』も開けちゃって...!」

 

―――襖が開き、金髪のショートボブに、一対の目玉を飾った大きなシルクハットの様な、蛙のモチーフに見える帽子を被り、頭上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を浮かべ、白い着物の上に紫色の羽織を重ね、紫の袴風ミニスカート、白いロングソックス、黒の靴を履いた少し小柄な人物が私達と、テーブルに並ぶ料理とお酒を見て声をあげる。

 

「開口一番にそっちの心配かい。――紹介しよう。"百鬼夜行連合学院"専属教師、"理事長"の『洩矢スワコ』だ。私が表なら、コイツは()――普段見えない所で生徒と接している教師の端くれだ」

「どーも、『洩矢スワコ』だよ。色々噂は聞いてるよ、『シャーレ』の"先生"。...よっと...『ミレニアム』じゃサナエがお世話になったね。あの娘はミレニアム(あっち)で元気にやってた?」

 

 スワコは挨拶しながらカナコの隣に胡座をかいて座り、頭の帽子を脱いで傍に置き、『風神』を自らグラスに注ぎながらサナエについてそう尋ねる。

 

「"うん、そうだね。エンジニア部の娘達ともよく馴染んでいて、積極的に手伝いや開発のサポートもやっているから皆から頼りにされていたよ。

 つい先日『シャーレ』の"当番"に来てくれた時も、書類仕事とか緊急の依頼でも大いに助かったよ"」

 

 スワコの問にそう答えると、彼女はグラスに口を付けて一口飲んで喉を潤しながら瞳に安堵の色を浮かべる。

 

「そっか。あの子が元気そうなら良かったよ。...何か言伝とか預かってない?」

「"言伝...あ、そうだ。――『"エンジニア部"での活動が多忙になってしまい、今回のお祭は行けそうにありません。ですが、ある程度落ち着いたら一度百鬼夜行(そちら)に帰省します』...とのことだった。確かに伝えたよ"」

「...忙しいなら仕方ないか。こっちの我儘で、せっかく楽しい時間を過ごしてる時に水を差す訳にはいかないし。...あの子のお気に入りの『和楽祭』だったのに惜しいなー」

 

 スワコの問で以前サナエが"当番"に来た時に、"もし百鬼夜行に行くことがあったら"と頼まれた言伝を思い出して内容を伝えると、スワコは残念そうに目を伏せながらグラスの『風神』を呷る。

 

「スワコは少し過保護だけど、サナエ――『東風谷家』とスワコの『洩矢家』は血縁があってね。()()()()()()()()でスワコと私とで世話をした時期が長かったから、私達にとっては娘同然なんだ」

「"なるほどね...仲がいいならそれに超したことはないよ。サナエと会う機会があったら、二人が心配してたって伝えておくよ"」

「それはありがたい。しつこいと思われるかもしれないけど、それだけあの子を案じていると解ってくれる筈だ。...しかし、酒の進みが普段より速い辺り――やはり()()()()だったみたいだね」

 

 カナコが微笑みながら私の提案を受け入れ、グラスを下ろしながらスワコに目を向けて話題を切り替える。

 

「――"魑魅一座"が()()()()()()()()()のは想定外だったみたいだね。『シャーレ』と"忍術研究部"のおかけで衆人からの違和感なく終わったけど...私としては()()()()()()()()()()()時点で最悪だよ。ニヤに()()()はしたけど、それでも気分は晴れないや」

 

 スワコは愚痴るように少し語気を荒くしてそう答えてグラスの『風神』を一気に呷る。―――カナコの推測は当たっていた様だ。私もイブキとフラン誘拐に()()()()()()"魑魅一座"があちこちで暴動を起こした事態に違和感を感じたけど、まさか仕組まれたものだったとは...本来なら純粋に体験させるべき『和楽祭』に作為を持ち込んだ事をスワコはかなり許せないらしい。

 

「"...スワコはお祭が好きみたいだね"」

「そりゃ大好きだよ。『百鬼夜行』と言えばお祭。絶えない喧騒、屋台料理の安っぽくも食欲唆る匂い、大人も子供も、老若男女も迎え入れる寛容さ――()()()()()()()()()じゃ()()()()()()()()()だろうね」

「...『百鬼夜行』における祭は()()()()()()()()()()()()からね。日常に溶け込んでいるが、重要なものだ」

 

 私の言葉にスワコがそう答え、カナコと揃って()()()()()()目を伏せる。

 

「"――『百鬼夜行』にとってお祭はかなり重要なのかい?"」

「...肴にはならないが少し昔語り、歴史の講釈を垂れよう。――ここ『百鬼夜行連合学院』は『トリニティ』()()()()()年月の歴史を有している。

 だが――その歴史は今"分校"と呼ばれている連合構成校間の()()()()()()()()()()だ。外向けには連合に見せていたが、その内情は構成校間での争いが絶えないものだった。"陰陽部"以前にも"天朝部"や"惣領部"...百鬼夜行(ここ)をまとめ上げようとする組織が立ち上げられたが、いずれも時を経るにつれて出てくる不満に対処し切れず()()()()()()()()。争いに疲れてまとまり、不満が溢れて分裂してまた争い...それを繰り返してきた」

 

 カナコが『百鬼夜行』の歴史について語る。―――歴史すら日本(外の故郷)に似通うものがあるとは。日本(外の故郷)と同様、形や体制を変えて統一を図る政体―――生徒会が生まれては崩壊する歴史を繰り返していた様だ。

 

「でも、私達が学生時代だった頃。世代を超えて戦乱への疲れが溜まってきて、とうとう限界が来た。"いい加減争うのはやめにしよう"――そうして各校の代表が集まって連合体制の構築を模索して、最終的に二つの候補が残った。でも...そこで()()()()あってね」

「"――()()()()?"」

「――"強力な権限を持つ生徒会組織による統治を図る()()()()"か。"各構成校の自治独立を尊重した緩やかな連合を図る()()()()"か。それで真っ二つに割れたんだ。

 話し合いでは折り合いが付かなくなって―――現『ヤマト分校』、嘗ては『ヤマト中央学院』と呼ばれていた学校のトップだったカナコが中央集権派に。現『スワ分校』、旧『スワ高校』に所属していた私が地方分権派にそれぞれリーダーとして付いて、()()()『百鬼夜行』の歴史上最後の大戦争となる『スワ大戦』を引き起こしたんだ」

 

 スワコはそこで一度言葉を切って『風神』をグラスに注いで一口呷る。

 

「大戦については詳しく話すとすっごく長くなるから簡単に話すよ。――戦争は熾烈を極めたけど、最終的にカナコが、中央集権派が戦争に勝った。でも――いざ"陰陽部"に生徒会として強力な権限を持たせようとしたらあちこちから不満がでてきたんだ。中央集権派だった学校からも"その権限は強力過ぎる"って苦言が出てくる程にね」

「...結局、各分校は自分達の上に立つ者――()()()()()()()()()()()()()()()を欲しながら、()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな欲張り者ばかりだったのさ。

 私はスワコと話し合い、妥協案を提示した。それが現体制――"陰陽部"を()()()連合学院生徒会として担ぎ、構成分校には"分校自治委員会"を置いて自治を任せるものだ。体制構築から百年未満だが――今の所は分裂の危機を迎えたことはない」

 

 カナコはやるせなさそうに息を吐いてグラスの『風神』を呷る。―――カナコは指導者として支持者を纏める一方で、中央集権で以て『百鬼夜行』を平和に出来ると信じていたのだろう。でも、反発を受けてスワコが推していた地方分権も受け入れて妥協せざるを得なかった。その結果『百鬼夜行』は今の所荒れていないから、彼女からしたら憮然とする顛末だろう。

 

「この"陰陽部"が最初に布いたのが――"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為のお祭の自由開催"なんだ。お祭の賑わいと活気から()()()を生み出し、血に塗れた歴史が積み上げた恨みつらみ、遺恨が生み出す()()()を跳ね除ける。――百鬼夜行(ここ)()()()()()()()による悪影響も抑え込めるし、お祭は『百鬼夜行』にとって重要なものなんだ。――長ったらしい話になったけど、分かってくれた?」

「"――よく分かったよ。『百鬼夜行』の歴史にもシンパシーを感じるし、お祭の重要性もよく解った。...スワコが()()()()()に文句を付けたくなる訳だ"」

 

 スワコにそう答える。―――『百鬼夜行』でのお祭は内外の生徒や観光客を楽しませるだけではなく、()()()()()()()()()()もある様だ。そこに政治的な作為を差し込んだニヤに対してスワコが文句を付ける理由が理解出来た。

 

「策を講じるのは別にいいんだよ。ただ――やるなら()()()()()()()()()()やるべきだったね。敵を欺くには味方からって言うじゃん?ニヤは()()()()()()()()()()()に相対すると狼狽えちゃって粗を見せるのは相変わらずだね、全く...」

「今や『百鬼夜行』から()()()()()()()()トップに就いた()()()の薫陶を受けていたとは言え、策謀家としてはまだ粗いようだねぇ...」

 

 二人はやれやれとため息を吐いて『風神』を呷る。

 

「――改めて"先生"。『和楽祭』では"忍術研究部"共々助かった。『シャーレ』の実力は高いようだね。その実力を充分発揮できるように、私達も手貸そう――『シャーレ分室』として、ね」

「私達は基本、生徒の意思を尊重して任せてるからねー。"守矢衆"鍛えてるカナコは兎も角、お祭がないと私は結構暇だからさ」

「"――ありがとう。後日設置申請の書類と、『シャーレ分室』用の端末、マニュアルを送るよ。申請を通して端末、機能のテストを行ったら『シャーレ』"百鬼夜行分室"の設置完了になるからね"」

 

 カナコが改まって礼を述べ、『シャーレ分室』設置の受け入れを宣言する。スワコも頷いて賛意を示す、それを受けてわたも礼を述べ、後で必要なものを送ると伝える。―――これで『シャーレ』本体の負担が少し和らぐ。この二人なら『シャーレ分室』の権力を濫用することはないだろう。

 

「分かった。――では、改めて乾杯でもしようか。今頃"忍術研究部"、『シャーレ』、『ゲヘナ』の娘らは後夜祭の縁日を楽しんでいるだろう。私達は私達で大人の楽しみに興じようじゃないか」

「『風神(お酒)』はちょっと残り少ないけどねー」

 

 カナコがそう提案しながらそれぞれのグラスに『風神』を注ぎ足す。

 

「"――教師(同業者)との出会いを祝して"」

「――『シャーレ』、我が『百鬼夜行』の良き関係構築を願って」

「――作為はあったけど『和楽祭』の成功を祝して」

 

 

 

 

 

「「「"――乾杯"」」」

 

―――夜の黒が夕焼けを追いやっていく空を横目に、乾杯してグラスがぶつかる快音が響く。

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで、『百鬼夜行』教師陣の二人の顔見せです。
さて、次回はとある生徒視点での小ネタ回です。ヒント:『シャーレ』ビル一階にあるお店

名前:洩矢(もりや) スワコ
卒業校:百鬼夜行連合学院 スワ分校(旧:スワ高校)
役職:『百鬼夜行連合学院』専属教師"理事長"
装備:HG(南部十四年式拳銃(洩矢の鉄銃))

名前:八坂(やさか) カナコ
卒業校:百鬼夜行連合学院 ヤマト分校(旧:ヤマト中央学院)
役職:『百鬼夜行連合学院』専属教師"学院長"
装備:SR(三八式歩兵十(風神様の神徳))
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