Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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忍研新イベント解禁されたので初投稿です。

 改めて忍研の絆、実力の高さが分るいい話だった。強引な所もあったけど、才能を見出してそれを活かせる場に引っ張って体感させ、その上で当人に選ばせ、その意思を尊重する。キヴォトスじゃ珍しいタイプの大人だったシャインキャットさん...自己主張がちょっと弱いツクヨだったから相性が悪かったねんな...
 そしてラーメンがまさかカギになるとは。モデル生活への疲れだけでなく、忍研での思い出の証ともなる存在...
 アリスクがまさかのモブ程度の出番だった()サオリも居ないし、ニヤの言動も見るに時系列は最終編前っぽい?
 そして"先生"さぁ...そこで否定しないってことはアンタ見たな???

 ということで、エデン条約編始まります。白鳥は水面を優雅に泳ぎますが、その水面下では足をバタバタ動かしているんです。トリニティみたいですね。


Folder05.~誰がための楽園~
File93.ET-01~白鳥の水面へ~


~???~

side-"先生"

 

「"――ここ、は...?"」

 

―――誰(・)か(・)に(・)呼(・)ば(・)れ(・)た(・)様な気がして目を開けば、そこはヘリの機内ではなかった。

 何処かのテラスらしいけど外の景色はぼやけていて、辛うじて夜らしいとだけは解る。そんな不思議な視界、空間に困惑を隠せない。見回していると―――

 

 

 

 

 

「――あぁ、来てくれたようだね」

「"――!"」

 

―――物静かな、しかし諦(・)め(・)た(・)様(・)な(・)抑(・)揚(・)が(・)無(・)い(・)少女の声色が聞こえて声が聞こえた方に目を向けると、丸テーブルを囲む椅子の一つに生徒らしき少女が座っていた。

 明るい金髪に大きな狐耳を伸ばし、頭上に明るい黄色の正十字形のヘイローを浮かべ、金色で縁取った、脇どころか胸近くまで露出したワンピース型の制服に裾が膨らんだ独立した袖を通し、金色の線が走る白いタイツ、白いハイヒールを履いていて、グラデーションが入った黄色の瞳で私を見つめている。

 

「驚くのも無理はない。本(・)来(・)な(・)ら(・)出(・)会(・)え(・)る(・)状(・)況(・)で(・)は(・)な(・)い(・)にも関わらず、この夢(・)と(・)い(・)う(・)非(・)現(・)実(・)的(・)空(・)間(・)でこうして対面しているのだからね。誰にも聞かれず、記録も残らない...しかし自分の意思で活用できない、扱いにくいが秘匿性に富んだ空間だ。...私自身、こうして上手く呼び寄せられるか分からない所があったのでね。これでも少し驚いているんだ。

――とりあえず、そちらにかけたまえ。夢なら疲れもないだろうが、座って語らうという行為は夢と言えどお互いの距離を縮めるのに最適だろう」

 

 セイアが右手の萌え袖で向かい側の椅子を示し、私は素直に従って彼女の下に歩み寄り、示された椅子に座る。

 

「"夢、か...確かにこの場はそんな雰囲気を感じるけど――そもそも、君は一体?"」

「夢(・)で(・)の(・)出(・)会(・)い(・)は(・)現(・)実(・)に(・)は(・)持(・)ち(・)越(・)せ(・)な(・)い(・)。故に名乗った所で意味はない...が、それでは君が気に入らないだろう。――セイア。『百合園セイア』。この場でのみではあるが、頭の隅にでも覚えておいてほしい」

「"――『シャーレ』顧問、"先生"だ。よろしくね、セイア。...確かに君とは初対面だけど、君は私、『シャーレ』について一方的に知っているみたいだね"」

 

 何処か達観した様で迂遠な表現が多いセイアと自己紹介を交わし、初対面なのに『シャーレ』について詳しい事が気になって尋ねる。

 

「これでも、私は良(・)く(・)も(・)悪(・)く(・)も(・)様(・)々(・)な(・)情(・)報(・)を(・)得(・)ら(・)れ(・)る(・)立(・)場(・)だったのでね。『シャーレ』は設立以来精力的に活動している。その目的や影響についてはある程度知っているとも。...失踪した前の"連邦生徒会長"は大きな置き土産を残したものだ。『SRT』設立に際しても大きな紛糾で世間が荒れたというのに、それ以上に大きな権限を持つ部活動を立ち上げ、それを外(・)から呼び寄せた大人に任せるとは。

 そして、それ程大きな権限をいきなり渡されながら私利私欲のまま濫用せず、全く異なる世界から来訪したが故に完全初対面である私達キヴォトスの生徒相手でも無私を貫いている...キヴォトスにも数は少ないものの教師という存在は居るが――"先生"、君はとりわけ先生(教師)として真摯であるようだね」

「"...私は私ができることをしているだけだよ。先生(教師)としての職責を放棄するなんて言語道断だし、生徒が笑って過ごせるようにすることが私の先生(教師)としての喜びだからね"」

「...笑って、か...」

 

 セイアは私の返答を聞いて目を伏せる。―――薄々勘付いていたけど、私を褒める為に態々夢を通して呼び寄せた訳では無いようだ。

 

「..."先生"。君は――もしも未(・)来(・)を(・)知(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)た(・)ら(・)、どうしたい?どう利用したい?」

「"――良い未来ならそれを目指す努力をするし、悪い未来なら回避する為に手を尽くす。...それが、君の悩みかな?"」

「...核心を突くにはまだ早いよ。夢は時間も不定形だが、それでも折角の邂逅だ。...もう少し、話そうじゃないか」

 

 セイアは目を開いて私をジッと見つめて問いかける。そう答えて逆に問い返せば彼女は少しムッとした様に答える。―――指摘はしないけど、どうやら未(・)来(・)を(・)知(・)る(・)事(・)に何かありそうだ。

 

「次の質問だ。――未来を知る力を得たとして、もしも...何(・)も(・)干(・)渉(・)で(・)き(・)な(・)い(・)無(・)力(・)な(・)状(・)態(・)に置かれていたら、君はどうする?た(・)だ(・)一(・)方(・)的(・)に(・)未(・)来(・)を(・)知(・)ら(・)さ(・)れ(・)る(・)ことに、君は耐えられるかい?」

「"――答えとしては、諦(・)め(・)ず(・)に(・)良(・)い(・)未(・)来(・)を(・)引(・)き(・)出(・)す(・)可(・)能(・)性(・)を(・)探(・)す(・)――になるかな。...水を差すようで申し訳ないけど、私からも質問していいかな?"」

「...ふむ。一方的に答えを引き出すよりは、お互いの疑義を解消する方がいいだろうか。――分かった。答えられることなら答えよう」

 

 セイアが挙げた次の質問にそう答え、彼(・)女(・)の(・)悩(・)み(・)を見出す為に逆に質問したいと尋ねる。セイアは僅かに眉を上げ、頷く。

 

「"ありがとう。...ここまでの二つの問は、未(・)来(・)を(・)知(・)る(・)こ(・)と(・)に関わるものだったね。私が一つ気になったのは――"」

 

 

 

 

「"――セイア。君は...知(・)ら(・)さ(・)れ(・)た(・)未(・)来(・)は(・)絶(・)対(・)で(・)あ(・)る(・)と信じているのかな?"」

「...!」

 

―――ほんの僅か、ほんの一瞬。でも確かにセイアは驚(・)い(・)た(・)様(・)に(・)目を見開いた。でもすぐこれまで通り達観した様な表情に戻す。

 

「...本来認識できないものを認識できてしまう。一度や二度であれば偶然、まぐれだと流してしまうだろう。だが――何(・)度(・)も(・)、何(・)十(・)回(・)も(・)同じ結果になれば...それは偶然、まぐれではなく確(・)実(・)な(・)も(・)の(・)だ。

 勿論、結果を変えようと私なりに足搔いてみたさ。だが...何(・)を(・)し(・)て(・)も(・)示(・)さ(・)れ(・)る(・)結(・)果(・)は(・)変(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)。そういう事実を示されては、未(・)来(・)は(・)変(・)え(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)絶(・)対(・)的(・)な(・)も(・)の(・)だと認めるしかないだろう?だが...」

 

 セイアが諦めた様な、どうする事も出来ないと言いたげな表情を浮かべながら私の問に対しての答えを挙げていると、何(・)か(・)に(・)引(・)き(・)寄(・)せ(・)ら(・)れ(・)る(・)様(・)な(・)感(・)覚(・)と共に視界がぼやけて来て、背後でドアが開く様な音が聞こえて来る。

 

「...どうやら時間が来てしまったようだね。夢は時間も不定だからいただけない。不十分ではあるが、ある程度君の考え方を知ることができて良かったよ。それに対してお節介を焼くが――理想を追い求め過ぎるのは危険だ。前を見過ぎていては足元を掬われかねないのだから」

「"忠告ありがとう、セイア。じゃあ、お返しに私からも意見を送ろう。君は未来視、未来予知のようなものを持っているみたいだけど...例え最(・)悪(・)な(・)未(・)来(・)を見せられたとしても、それは最(・)善(・)を(・)諦(・)め(・)る(・)理(・)由(・)に(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)と思うんだ。君が否定的な理想論ではあるけど――人(・)の(・)意(・)思(・)は侮れない力を持っているからね。それに――"」

 

 セイアの言葉を受けて椅子から立ち上がりながら言葉を続ける―――

 

 

 

 

「"――例え結果を変えられなかったとしても、や(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)後(・)悔(・)よりや(・)っ(・)た(・)後(・)悔(・)の方が前を向きやすい。諦めることは簡単だけど、後から巻き返し、取り返しが効かないことが多いからね"」

 

 そう言い残してセイアに背を向け、開かれた扉に向けて歩き出すと共に意識と視界がぼやけていく―――

 

 


~秘匿セーフハウス 寝室~

side-セイア

 

「...ん...」

 

―――夢から現実へと戻り、目を開くと寝室の天井が視界を占有する。右に目を向ければ、彼(・)女(・)が換気の為にか窓を開けていて、そよ風がカーテンを揺らしている。

 

 

<トントン...

 

ドアがノックされる音が聞こえ、反対に目を向ける―――

 

ガチャ...

 

「失礼いたします――目を覚まされたんですね、セイア様」

「あぁ、ついさっきね。窓は君が開けたのかな――『メディスン』」

「はい。お天気も良いですし、換気も療養環境の維持には必要ですから」

 

―――ドアが開き、ウェーブがかかった金髪のショートボブに赤いリボンを飾った黒いナースキャップを被り、頭上に赤いヘイローを浮かべ、赤いリボンタイを留めた黒いセーラー服と赤いスカートを纏い、白いタイツと黒いブーツを履いた小柄な生徒―――"救護騎士団"所属の一年生『米良湖(めらこ)メディスン』が入室し、起きている私に気付く。

 やはり換気の為に窓を開けていたようで、私の言葉に頷きながら『失礼致します』と断りベッドの右側に回ってカーテンを一度開けてから窓を閉める。その様子を見守りながら気になった事を尋ねるべく口を開く。

 

「――確か、今日はミ(・)ネ(・)が担当ではなかったかな」

「"団長"は、今朝発生した"正義実現委員会"の鎮圧活動で多くの怪我人が出たので、その現場指揮に当たっています。ですから、私が代わりに来たんです」

 

 メディスンの答えに成程と合点する。"救護騎士団"団長として組織全体を統括する立場だが、今もなお積極的に現場に出向いて治療よちは負傷者を増やす吶喊(救護)を行う彼女らしい事だ。

 

「なるほど...一日位は来(・)な(・)く(・)と(・)も(・)私は気にしないんだがね。あれこれと説教を度々されては辟易するからね」

「...お言葉ですが、そのような物言いはダメですよ。"団長"が聞いたら迷わず強(・)度(・)が(・)高(・)い(・)救(・)護(・)に出ますよ」

「ちょっとした冗談さ。気を悪くしたなら謝罪しよう。君達の誠心誠意の対応、協力には感謝しているからね」

 

 メディスンは私の言葉を聞いて眉を顰めて忠告し、微笑みながら謝罪する。

 

―――メディスンの上司でもある彼(・)女(・)。三年生(私と同学年)であり、"救護騎士団"の現"団長"である『蒼森ミネ』が私(・)の(・)頼(・)み(・)―――私(・)が(・)意(・)識(・)不(・)明(・)の(・)重(・)体(・)と(・)見(・)せ(・)か(・)け(・)て(・)の(・)存(・)在(・)の(・)秘(・)匿(・)を引き受けた対(・)価(・)が、今私が世話になっているこのセーフハウスでの滞在と、ミネ自身、メディスンによる交代制での定期的な診察だった。

 内装は華美に飾らず最低限。一切の不足無く揃えられた医療機器。彼(・)女(・)らしく、常に清潔を徹底しているのは流石だが―――それ以前に、彼(・)女(・)が(・)こ(・)う(・)い(・)っ(・)た(・)セ(・)ー(・)フ(・)ハ(・)ウ(・)ス(・)の(・)類(・)を(・)保(・)有(・)し(・)て(・)い(・)た(・)事には驚かされたものだ。私のセーフハウスでは現(・)在(・)進(・)行(・)形(・)で(・)疑(・)心(・)暗(・)鬼(・)が(・)悪(・)化(・)し(・)て(・)い(・)る(・)親(・)友(・)に見付かるリスクが大きいから今回は有難かったとは言え、"救護騎士団(医療従事者)"としての活動が最優先なれど、"ヨハネ分派"首長(ホスト)の(・)格(・)に(・)相(・)応(・)し(・)い(・)人(・)物(・)であると改めて実感した。

 

「――お目覚めでしたら、い(・)つ(・)も(・)の(・)診(・)察(・)を行いますがよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わないとも」

「分かりました。――まずは心音を診ますね」

「分かった」

 

 窓を閉め、カーテンを畳んだメディスンは私の傍に歩み寄って診察の是非を尋ね、素直に頷くと棚からカルテを取り出して事前の記入を行い、ストラップで提げた後にポーチから聴診器を取り出しながらの言葉に頷いて寝間着をたくし上げる。

 

「......深呼吸をお願いいたします」

「あぁ」

 

 聴診器が心臓の位置にあてがわれ、普通に心音を聞いた後深呼吸を求められ、素直に従う。

 

「――異常なし、ですね。...では、こちら体温計です。計測と並行して診察も行いますね」

 

 聴診器を離した彼女はそのまま首に提げ、ベルトに付けたポーチから体温計を取り出してこちらに差し伸べ、体温計を受け取って左脇に差し込む。その間に彼女はカルテを再度手に持つ。

 

「就寝前と比べて、自覚できる異常はありますか?」

「特にはないね。相変わらず気(・)怠(・)さ(・)はあるが」

「...気怠さ、ですか。"団長"は精(・)神(・)的(・)な(・)も(・)の(・)に(・)起(・)因(・)す(・)る(・)と推測していましたが...セイア様ご自身で原因を自覚していますか?」

「...まぁね」

 

 メディスンの問に曖昧な答えを返す。―――夢で出会った"先生"は私(・)の(・)特(・)異(・)な(・)才(・)能(・)を見抜いたが、普通であれば信じられないだろうし、気味悪がられるかもしれない。"救護騎士団"に所属しているならその程度は目の前のメディスンも受け入れるかもしれないが、今の状態は私(・)自(・)身(・)で(・)解(・)決(・)す(・)べ(・)き(・)も(・)の(・)だ。私(・)の(・)特(・)異(・)な(・)才(・)能(・)の存在が周囲に広まって余計な混乱を招いては、締(・)結(・)間(・)近(・)の(・)条(・)約(・)にも悪影響を及ぼしかねない。

 

―――ピピッ...

「――測り終わったみたいだ。微熱のようだね」

 

 左脇で体温計が測定終了のアラームを鳴らし、体温計を抜いてディスプレイに映る体温を確認してからメディスンに差し出す。

 

「確認します...[37.2℃]...はい、微熱ですね。気怠さの原因の一つかもしれません。――念の為、解熱剤を出しておきます。体温計も合わせて置いておきますので、熱が上がったと感じたら一度測り、高いようでしたら解熱剤を服用してください」

「あぁ、分かった。...君が処方してくれる薬はいつも副作用の影響が小さくて助かるよ」

 

 メディスンの提案に頷き、カルテを閉じて部屋の隅に置かれていたらしい彼女のバックパックの下に歩いてく後ろ姿を見守りながら謝意を示す。―――メディスンは一年生でありながら"救護騎士団"での薬剤処方や薬剤、薬品類の管理全般を任される程に薬への深い知見を持っている。彼女が選ぶ薬や、彼女が手掛ける調剤は副作用が他と比べても小さく、私(・)の(・)特(・)異(・)な(・)才(・)能(・)が発現して以来病(・)弱(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)この身体への負担が軽い。

 

「...薬に頼る必要がない状況まで快復させるのが役目ですから。その過程で患者を苦しませるなんて、救護騎士団(医療従事者)としてあってはならないことです」

「ふふ、頼もしいことだ」

 

 解熱剤を用意し、ベッド傍のサイドテーブルにその袋と紙コップを置きながらメディスンは謝意にそう返し、団長(ミネ)に似て常に職務に忠実な姿だと微笑む。

 

「お水はいつも通りこちらの冷蔵庫に用意してありますので、お薬の服用以外でも飲みたくなったらどうぞ」

「あぁ、助かるよ。...そうだね。寝起きだし、一杯貰えるかな」

「分かりました」

 

 冷蔵庫は私の手も余裕で届く位置にあるが、メディスンが居るから少し楽をしようと頼んでみると彼女は表情にも口調にも不満を出さず素直に冷蔵庫から水のボトルを取り出して紙コップに注ぐ。

 

「――どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

 紙コップを受け取って一口飲めば、冷たい潤いが喉を通って気分を冴えさせる。

 

「――気怠さ以外に自覚できる症状、異常はありますか?」

「...特にはないよ」

「そうですか...分かりました。では、診察を終了します。私は隣の別室で待機していますので、何かありましたらコールボタンを押してください」

「あぁ、分かった」

 

 メディスンは診察終了を宣言してカルテを閉じ、このセーフハウスに滞在してから何度も聞いた言葉に頷く。

 

「――では、失礼いたします」

 

 メディスンは頭を深々と下げ、バックパックの下に向かってそれを背負ってから部屋を出て行く。

 

「...ふぅ...」

 

―――メディスンを見送り、紙コップの中の水の残りを一気に飲み干して息を吐きながら窓に目を向けて晴れ空を見上げる。

 

「...や(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)後(・)悔(・)よりや(・)っ(・)た(・)後(・)悔(・)、か...」

 

 夢での別れ際に"先生"が私に送った言葉の一部を反芻する。

 

―――高校生となり、百合園家(私の家)の伝統通りに"ティーパーティー"は"サンクトゥス分派"に属してから発現した私(・)の(・)特(・)異(・)な(・)才(・)能(・)―――未(・)来(・)予(・)知(・)はずっと私の精神(心)に重くのしかかっている。

 最初は戸惑いながらも、示された未来が悪いものなら変えようと試みた。予知で見えた人物に接触してみたり、現場を推測してそこで行動を起こしたり―――

 

―――だが、何をしても見(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)未(・)来(・)そ(・)の(・)ま(・)ま(・)の(・)結(・)果(・)ばかりが起きてしまい、いつしか行動を起こす事をやめてしまった。しかし、私の未(・)来(・)予(・)知(・)は私(・)自(・)身(・)が(・)望(・)ま(・)ず(・)と(・)も(・)一方的に変(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)未(・)来(・)を見せ付けてくる。

 

 

―――『エデン条約』締結会場として修復中の『通功の古聖堂』が、調印式典の最中に崩(・)落(・)す(・)る(・)瞬間。

 

―――混乱の最中、ガ(・)ス(・)マ(・)ス(・)ク(・)を(・)付(・)け(・)た(・)見(・)慣(・)れ(・)な(・)い(・)生(・)徒(・)達(・)を引き連れて攻撃を行う、白(・)の(・)イ(・)ン(・)ナ(・)ー(・)の(・)上(・)に(・)赤(・)い(・)コ(・)ー(・)ト(・)を(・)纏(・)い(・)、長(・)い(・)銀(・)髪(・)を揺らす青(・)い(・)瞳(・)に決意を宿した大(・)人(・)の(・)女(・)性(・)。

 

―――そして。古聖堂からト(・)リ(・)ニ(・)テ(・)ィ(・)全(・)体(・)へ広がった混乱と戦火。その炎の中では―――ト(・)リ(・)ニ(・)テ(・)ィ(・)生(・)同(・)士(・)が(・)撃(・)ち(・)合(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 

―――"ティーパーティー"として、"サンクトゥス分派"首長(ホスト)として『エデン条約』締結に向けた諸々の協議や折衝でナギサを支えたり、時には反対してみたりしても、示(・)さ(・)れ(・)た(・)未(・)来(・)は(・)変(・)わ(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。だが―――

 

「――『エデン条約』を提案した前"連邦生徒会長"の 失(・)踪(・)。それによる混乱を治めてみせた『シャーレ』の"先生"。彼が来てから...示(・)さ(・)れ(・)た(・)未(・)来(・)に(・)変(・)化(・)が(・)見(・)え(・)た(・)」

 

―――『エデン条約』締結の場で、ガ(・)ス(・)マ(・)ス(・)ク(・)を(・)付(・)け(・)た(・)見(・)慣(・)れ(・)な(・)い(・)生(・)徒(・)達(・)と、それを率いる大(・)人(・)の(・)女(・)性(・)により混乱が起きる展開は変わらない。

 

 

―――しかし、見(・)知(・)ら(・)ぬ(・)礼(・)拝(・)堂(・)の中。大(・)人(・)の(・)女(・)性(・)と『シャーレ』の"先生"が相(・)対(・)す(・)る(・)未来が見え、混(・)乱(・)と(・)戦(・)火(・)に(・)包(・)ま(・)れ(・)た(・)ト(・)リ(・)ニ(・)テ(・)ィ(・)の(・)未(・)来(・)が(・)消(・)え(・)た(・)。

 初めてだった―――一(・)方(・)的(・)に(・)示(・)さ(・)れ(・)た(・)未(・)来(・)が(・)変(・)わ(・)っ(・)た(・)のは。故に、このセーフハウスの世話になってから積極的に『シャーレ』の"先生"について情報を集めた。

 キ(・)ヴ(・)ォ(・)ト(・)ス(・)の(・)外(・)から来た大人。教師であり、その職責にとことん真摯であり、超(・)法(・)規(・)的(・)権(・)限(・)を持ちながらも私欲で濫用せず、専ら生(・)徒(・)の(・)悩(・)み(・)、困(・)り(・)事(・)の(・)解(・)決(・)の為に利用している。

 滅びかけの『アビドス』の苦境を解決し、『ミレニアム』から発生した世(・)界(・)の(・)危(・)機(・)をも解決した。

 

 そして―――やっと夢を通しての呼びかけに答えてくれた。私自身は任(・)意(・)で(・)他者へと夢を通して呼びかける事が出来るが、答えられるか否かは相手次第という欠点がある。加えて夢で交流出来る時間は不定だ。現実で誰かに起こされたりすると急に打ち切られる場合もある。

 

「――理想を追いかける危うさはあるが...彼の言葉は本(・)気(・)だ。少々迂遠過ぎたのは私の悪い癖だが、私(・)の(・)悩(・)み(・)を(・)見(・)抜(・)い(・)た(・)のは流石先生(教師)というべきか...だが、今回の出会いだけではま(・)だ(・)判(・)断(・)が(・)付(・)か(・)な(・)い(・)。だから――」

 

 

―――私(・)の(・)役(・)職(・)を(・)代(・)行(・)し(・)て(・)い(・)る(・)親(・)友(・)がここ『トリニティ』へ"先生"を呼び寄せた事は、ミ(・)ネ(・)を(・)通(・)し(・)て(・)把握している。『トリニティ』を取り巻く状況から目的は察しが付くが―――

 

 

 

 

 

「――私は君を観測し続けよう、『シャーレ』の"先生"。君が最(・)悪(・)の(・)未(・)来(・)を(・)回(・)避(・)し(・)得(・)る(・)要(・)素(・)となるか、結(・)局(・)未(・)来(・)を(・)変(・)え(・)る(・)存(・)在(・)た(・)り(・)得(・)な(・)い(・)か...どうか、前者であることを願う」

 

 そんな"先生"へ期待する儚い祈りは窓の晴れ空へと消えていく。時間を考えれば、彼は今頃―――

 

 


~"ティーパーティー"会館敷地内~

side-ミヤコ

 

「――着地完了。降りていいよー」

「"分かった。お疲れ様、モエ"」

 

―――ヘリが指定されたヘリポートへと着地し、"先生"がモエを労う言葉を背後で聞き流しながらドアをスライドして開く―――

 

 

―――ザッ...!

 

―――左右それぞれ六名。"ティーパーティー"制式の白いベレー帽を被り、"ティーパーティー"制式の制服の上に裏(・)地(・)が(・)紅(・)茶(・)の(・)様(・)に(・)赤(・)い(・)ケープを羽織り、両手には軽装の篭手を纏い、白いブーツを履き、腰には黒い鞘に納められた直剣を佩いた"ソーサーナイツ"のメンバーが白く塗装された[Lee-Enfield No.4 MkI]で一糸乱れぬ捧げ銃を行って私達を出迎える。

 

「"おぉ..."」

「綺麗な捧げ銃だ。流石精鋭特務部隊だな...」

「――行きましょう」

 

 露払いとして私が先頭に立ってヘリから降り、"先生"とサキ、ミユ、そしてヘリの後処理を終えたモエが後に続く。左右で捧げ銃のまま微動だにしない"ソーサーナイツ"の出迎えの間を歩いて行き―――

 

 

 

 

「――久しぶりね、"RABBIT小隊"の皆、"先生"。ようこそ『トリニティ総合学園』へ」

「――お久しぶりです、テンシ先輩――いえ、テンシ"総長"」

「"本当に久しぶりだね、テンシ。それに"ソーサーナイツ"の皆も、出迎えありがとう"」

 

―――カーテシーで出迎えた"ソーサーナイツ"総長テンシ先輩に対し敬礼で応え、"先生"も微笑みながらテンシ先輩と"ソーサーナイツ"の面々を見回し、先輩が差し出した手を握って握手を交わす。

 

「――ちょっとハズレよ、ミヤコ。今の私は"ソーサーナイツ"ではなく――"ティーパーティー"、"サンクトゥス分派"首長(ホスト)代(・)行(・)として『シャーレ』来訪への歓待を任されているの」

「...そうでしたか。申し訳ございません、テンシ"首長(ホスト)"代(・)行(・)」

「大丈夫、気にしてないわ。...相変わらず真面目ね。それが貴女の美点だけど、『トリニティ』だからってあまり緊張しないでちょうだいな」

 

 テンシ先輩は私の言葉にそう指摘を挙げ、私が謝ると先輩はそう言って微笑む。―――テンシ先輩は本来、"ティーパーティー"を構成する諸分派でも特に有力な三大分派が一つ、"サンクトゥス分派"所属である事。しかも首長(ホスト)"の代行を務められる程の地位にある事を忘れていた。

 

 


 

要請書

要請件名:部活動顧問への就任

要請者:トリニティ総合学園 三年生 桐藤ナギサ

要請文

 我が『トリニティ総合学園』において、ある部活動を設立することとなりました。設立に際し顧問を招聘する必要が生じましたが、我が『トリニティ総合学園』には教師が居りません。そこで、"先生"のお力添えをお願いしたく要請を発信させていただきました。

 校外秘の事項も含む為、仔細は我が『トリニティ総合学園』に来訪された際に説明します。『シャーレ』がご多忙な状況に置かれていることは重々承知の上ですが、お力添えをいただければ幸いです。

 


 

―――『内容自体は特段怪しいものではありませんが...記者としての勘が何(・)か(・)あ(・)る(・)と囁いています。私はハタテ共々取材の案件が幾つかあるのですぐにはいけませんが...気になるようでしたら要請を受けてもよろしいかと。

 ですが、"RABBIT小隊"は必ず随行させましょう。トリニティという学校自体がその格式高い雰囲気の裏では正反対にドロドロの権謀術数が犇めく環境です。特に"先生"、貴方はシャーレの超(・)法(・)規(・)的(・)権(・)限(・)を(・)行(・)使(・)で(・)き(・)る(・)存(・)在(・)。それを利用しようと良からぬことを目論む者が現れる可能性があります。ですから、トリニティへ入るなら護衛は必要です』

 

―――昨日、『シャーレ』に届いた『トリニティ』からの要請書。内容自体は特に違和感が無いものだけど、アヤ先輩は新聞記者としての勘で何(・)か(・)あ(・)る(・)と告げ、私達"RABBIT小隊"が護衛として随行する事を提案した。

 "先生"はアヤ先輩の提案を受け入れ、こうして私達が護衛として随行している。『シャーレ』ビルでの留守番はハタテ先輩とユウカ先輩。アヤ先輩は取材を終えたら明日合流する事になっている。

 

「ふふ、皆息災のようで何よりよ。さて、折角初めて来たんだから『トリニティ』の案内を...と、洒落込みたいところだけど――状(・)況(・)が(・)状(・)況(・)だから、このまま要(・)請(・)を(・)出(・)し(・)た(・)本(・)人(・)の下に案内するわ」

 

―――テンシ先輩はそう言って踵を返し、目の前に止まっている白く塗装された明らかに高(・)級(・)そ(・)う(・)な(・)リムジンの下へと歩き出す。

 

「"――態々リムジン(車)で移動するんだね。ここからでも建物は見える距離だけど..."」

「慣れないでしょうけど、そこは容赦してちょうだい。――『トリニティ』生徒会たる"ティーパーティー"として、『シャーレ』という最(・)高(・)ク(・)ラ(・)ス(・)の(・)V(・)I(・)P(・)相手に失礼はできないし、今(・)の(・)状(・)況(・)だと車両移動は護(・)衛(・)の(・)面(・)でも最適なの」

 

 私達もテンシ先輩に続き、"先生"の言葉に先輩がそう返す内にリムジンの傍に着き、傍に付いていた"ティーパーティー"メンバーらしき生徒がドアを開け、カーテシーで私達を迎える。

 リムジンの前後には一輌ずつ[FV510 Warrior*1]が鎮座していて、車体、砲塔側面にペイントされたロゴマークは"ソーサーナイツ"のもので"ソーサーナイツ"の装備だと察せられる。

 

「...おぉ...見た目以上に広いや」

「"連邦生徒会長"もリムジンは使うが...こんなに広くはなかったな」

「わ、私達みたいな人が乗って良いのかな...?」

「護衛とはいえ、れっきとした『シャーレ』メンバーでしょ?それに、護衛なら"先生"(護るべき対象)の傍に付くべきよ」

「"私もこういう車両に乗るのは初めてだから安心して。――失礼するよ"」

 

 車内は広く、向かい合って座れるような広々とした格式高い空間で、ミユが萎縮したような言葉を零すけど、テンシ先輩はそう言って笑いながら車内に乗り込んで座り、私達も"先生"に続いて乗り込み、"先生"の左右に座る。

 外からは"ソーサーナイツ"の面々のものらしき足音が聞こえて来る。恐らく前後の[FV510 Warrior(IFV)]に乗り込んだのだろう。

 

 

―――ブロロ...

 

―――ドアが閉められて十数秒後、微かに複数台分のエンジン音が聞こえてリムジンが動き出す。

 

「――"先生"。相変わらず忙しいであろう最中にも関わらず今回の要請に応えてくれたこと、感謝するわ」

「"困っているなら手を差し伸べる。それが先生(私)の役目だからね。まだまだ人手は足りないけど、留守を任せられる人員も置けるようになったし、ミヤコやアヤ達には本当に感謝しているよ"」

 

 テンシ先輩が"先生"に向き直って謝意を示すと"先生"はそう言って微笑みながら私達を見回す。―――『シャーレ分室』を設置した事も大きいだろうけど、最近ユウカ先輩が正規の部員に就いた事も大きい。予算周りはかなり厳しくなったものの、事務能力の高さには加入早々に助けられている。

 

「そう言えば、公式サイトで『ミレニアム』"セミナー"の会計が正規部員として加入したことが通知されていたわね。『シャーレ』本体も人員が増えつつあるのは良かったわね。...トリニティ(こっち)も噂の『シャーレ分室』を置いて負担軽減に貢献したいけど、今の状況が状況だし...そもそも教師が居ないからねぇ」

「"そう言えば、『トリニティ』には教師が居ないんだね"」

「...過去には何度か検討されたこともあったらしいわ。でも――"先生"も噂で知っているでしょうけど、ここ『トリニティ』は様々な分派が水面下で陰湿な政争を繰り広げている。

 "連邦生徒会"が定義する教師は基本的に生徒会へ介入しない、させないのが基本、通例だけど...政争では何だって利用するのが常。利用したり、利用されたりする可能性は否定できない。だから、結局政争の種になりかねないとして今まで教師、教職が置かれたことはなかったの」

 

 "先生"の言葉にテンシ先輩はそう答える。―――公(・)式(・)の(・)校(・)史(・)と(・)し(・)て(・)公表されている歴史では、『トリニティ』も嘗ては『百鬼夜行』と同様宗派、思想の違いでバラバラに分かれ、互いに争っていた。しかし、現在の生徒会たる"ティーパーティー"の由来となった有(・)力(・)分(・)派(・)の(・)首(・)長(・)達(・)に(・)よ(・)る(・)お(・)茶(・)会(・)を通して宗教観、思想の統一が進み、現在の『トリニティ総合学園』が成立した、とされている。

 しかし、『クロノス』や他のメディアが時々『トリニティ』内で発覚した政争に絡むスキャンダルを報じている様に、真の意味での統一が成された訳ではない。"ティーパーティー"を構成する分派は嘗て独立して生徒会を務めていた存在であり、手を取り合って協力していると見せているその裏では陰湿な主導権争い―――政争が常に繰り広げられている。

 『SRT』での座学ではそう学んでいたけど、テンシ先輩の困った様な表情を見るにそれは事実の様だ。

 

「"――でも、今回こちらに送られてきた要請だと...その事情を無視してまで顧問を置く必要が出たんだね"」

「...私としては顧問を置く必要はないと思っていたんだけどね。でも、代行とは言え今の"ホストリーダー"は『桐藤ナギサ』。彼女の決定には従わなきゃいけない。...っと、そうだわ。"先生"、それから"RABBIT小隊"。彼女――現"ホストリーダー"代行であるナギサに会う前に、貴女達に忠告しておくわ」

 

 "先生"の言葉を聞いてテンシ先輩は思い出した様に私達に向き直る―――

 

 

「――今(・)の(・)ナギサには気を付けて。当人は隠し通せているつもりみたいだけど...幼馴染、親友として解るの。今のナギサ(あの子)は――」

 

 

 

 

 

 

「――か(・)な(・)り(・)追(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)」

 

そう告げた先輩の瞳は真剣で、心から親友を案じているものだった。

 

 

―――to be continued―――

 

 

*1:
イギリスのIFV。機関砲[30mm L21A1 automatic cannon]、ミサイル[MILAN2 ATGM]、機銃[7.62mm L94A1 machinegun]を搭載。乗員2名、歩兵10名を搭載可能




ということでエデン条約編開始です。セイア難しい...救護騎士団にはメディスンをキャスティングしてみました。薬は使いようでは毒になりますし、毒も同様使いようで薬になりますしね。

2025年は今話で最後となります。来年も拙作を何卒よろしくお願いいたします。...気が付けば2026年間近ですよ。時の流れは早い...()

名前:米良湖(めらこ) メディスン
所属校:トリニティ総合学園
学年:一年生
部活動:救護騎士団
装備:HG(L9A1(アトロピン))
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