L月*日
今日も、アルハザードへの道を見つける事は叶わなかった。
……忘れられし都、アルハザード
死者さえも蘇らせる秘術があるという、次元断層に沈み、滅んだ魔法王国。
アリシアの為にその秘術が必要なのだが――いまだ、確かな道へ至る事が出来ていない。
今日で何日目だろうか。
今、何年目だろうか。
――私は、後どれだけの時間を生きられるのか。
L月A日
今日、変な物を拾った。
兵藤一誠、ヴァーリと名乗った二人の魔導師。
いや、厳密には魔導師とは違う。魔力はあるが、全く未知の力を使う存在。
おそらく魔法ではない。魔法陣も、呪文の詠唱も無かったからだ。
――落ちたら助からないはずの『虚数空間』から現れた。
しかも、病んでいるとはいえ、私の魔法の直撃を受けて無傷だった。
何者だろうか。
だが、一つ判った事がある。
やはり、『虚数空間』の先には世界がある。
それも、知的生命体が生きている、文明がある世界が。
それが判ったのは大きい。
……私はまだ、頑張れる。
待っててアリシア。もう少しよ。
L月B日
悪魔。ドラゴン。
昨日拾った二人を、今日見付けた人間はそう言った。
物語や伝説の中にしかいない、邪悪な存在。
――見た目は普通の人間なのだが。
そして、今日新しく見つけた二人。
上代徹とオーフィス。
上代徹は人間だ。何の魔力も感じない。
『デバイス』――彼らの言葉で言うなら『神器』も持っていないようだった。
しかし、もう一人。
オーフィス。
昨日の二人も私の理解の範疇を超える存在だと言える。
だが、あの黒い少女。
アレは違う。
存在が、次元が、違う。
L月C日
どうやら連中は、『虚数空間』に対しての知識が無いようだ。
もしくは、『虚数空間』を自由に行き来できるのか。
だが後者にしては、私の言葉を簡単に信じていた。
よく判らない連中だ。
それに、どうしてか、悪魔やドラゴンが人間と仲良くしている。
理解に苦しむ光景だ。
取り敢えず、連中を『時の庭園』に置く事にする。
折角の『虚数空間』の先を知る連中だ。
危険だが、手放すには勿体無い。
……私には時間が無い。多少危険でも、利用しなければならないのだ。
それと、少し目を離した隙に連中がアレと知り合っていた。
アリシアの形をした物。
忌々しい――視界に入るだけで苛々する。
L月D日
どうやら連中も、アルハザードの事は知らないようだ。
それとも、アルハザードとはこの世界での呼び名であって、異世界では別の名前があるのか。
私がその世界を探しているというと、手伝うと言っていた。
会って間もない、赤の他人でしかないのだが。
どうにも調子が狂う。
相当のお人好しのようだ、あの人間は。
しかし、どう利用したものか。
正直、あの悪魔と黒い少女の力は厄介だ。
気分を害しただけで、こちらが消されかねない。
手放すには惜しいが、利用するには危険すぎる。
……さて、どうしたものか。
L月E日
上代徹。あの人間が料理を作っていた。
確かにこの家には料理を作る者は居ない。
以前はリニスが用意していたが、それも遠い昔だ。
それからは、適当な物を用意して食べていた。
とても料理とは呼べないような、適当なものだ。
だからだろう。あんな事を言ったのは。
ただの人間。何の価値も無い男。
まぁ、台所くらいは自由に使わせてやろう。
それに――料理を用意してくれるなら、助かる。
味も悪くなかった、それに――私の身体には、栄養が必要だ。
一日でも長く生きる為に。
あの悪魔と黒い少女は利用価値があるが、ただの人間には何の価値も無い。
どうしてか懐かれているようだが、それを知ろうとは思わない。
そこまで親しくなる必要も無い。
私はアリシアの為、連中は元の世界に帰る為。
利用し合おうではないか。
L月F日
あの悪魔達には、フェイトとアルフを鍛えてもらう事にした。
とりあえずは、だが。
兎に角、何もさせずに置いておくのは勿体無い。
ひとつ、これから先、やろうと考えている事がある。
フェイトとアルフだけでは心許なかったが、あの悪魔達があの人形を鍛えるなら別だ。
今よりも使い物になるだろう。
リニスは甘い――優しさを残した。
戦う技術を授けたが、どうしてもあの人形には戦いの心構えが無い。
自分が傷つく覚悟はあっても、傷付ける覚悟は無い。
――あの二人が本当に悪魔だというのなら、悪魔の本性を授けてほしいものだ。
L月I日
あの悪魔二人と、黒い少女の魔力を測定した。
兵藤一誠はBランク。
ヴァーリはSランク。
予想していたよりも低い。
初めて相対した時の威圧感から、もっと高いと思っていた。
それに『デバイス』――『神器』にも秘密があるのだろう。
フェイト達の訓練の際にも、極力身を守る時だけ使い、攻撃には使用していない。
自己の魔力だけで戦っている。
ますますもって、不思議な存在だ。
――それにしても、あの黒い少女。オーフィス。
アレは何だ。
魔力を測定する事が出来なかった。
暫定するなら、SSSクラス。
既存の最高クラス。
実際はそれ以上だ。
測定できない。
言葉にするなら、人という枠組みを超越した存在。
あの黒い少女をドラゴンだと称していたが、私の知るドラゴンには、ここまでデタラメな個体は存在しない。
そしてどうしてか、あの黒い少女は、ただの人間でしかない上代徹に懐いている。
いつもあの男の後ろを追いかけている。傍に居る。
……理解できない。
L月J日
上代徹が部屋に来た。
食事を摂れ、だと。
研究に没頭するのは、私の悪い癖だ。
長く生きる為には、食事――栄養は必要不可欠だ。
判っているが、焦ってしまう。
未だアルハザードへの道は閉ざされたまま。
目標には近づけていない。その道すら見えていない。
そして、私には時間が無い。
――アリシア。
私の宝物。私の全て。
必ず辿り着く。絶対だ。
だから……もう少し待ってて。
L月K日
どうやら上代徹は、元の世界では相当苦労していたようだ。
まぁ、本人の主観なので何とも言えないが。
それにしても、悪魔、天使、堕天使、ドラゴン――それに、神。
私達が神話と呼ぶ連中が存在する世界。
なるほど、確かにあの悪魔――そして黒い少女は、神話の世界の住人なのだろう。
アレだけの実力と魔力を見せられては、妙に納得できてしまう。
それが事実かどうかはさておき、面白い話を聞けた。
研究に行き詰った時は、こういう話で思考を休ませるのが丁度良い。
それに――神が居るなら、その世界に行くのも悪くない。
全知全能の代名詞である“神”なら、一つの命を蘇らせることも可能だろうから。
……アルハザードへの道が閉ざされたら、悪魔や天使、堕天使達が居る世界に行くのも……。
悪くないかのかもしれない。
――――何を書いているのか。下らない。
最後に変な事を言うからだ。
本当に、下らない。
家族など……私の家族は、もうアリシアだけだ。あの子だけだ。
リニスも、あの人もいない。
もう、私にはアリシアしかいないのだ。
アリシアが、家族が居るから頑張れる。
……その点だけは、同意する。
L月L日
『ジュエルシード』二十一からなる『ロストロギア』。
所持者の“願い”を――歪んだ形ではあるが、叶える道具。
それが、『第97管理外世界』に落ちた。
まだ『時空管理局』の手は入っていないが、あれほどの『ロストロギア』だ、近い内に管理局はあの管理外世界に現れるだろう。
今までのフェイトとアルフだったら、集めるのは至難だった。
だが今は、違う。
なにより、あの赤と白の悪魔も手を貸してくれることになった。
どうやらここ数日で、随分とあの人形に執心しているようだ。
あんな人形に――気に入らないが、利用できるなら利用させてもらおう。
『虚数空間』を安定させ、私の願い――アルハザードまでの道を。
アリシアの命を願うのは……難しい。
アレは願いを歪んだ形で叶える。
もしアリシアの魂――肉体に何かあれば、私は……。
おそらく、これが最期の機会だ。
次は――私の身体がもたないだろう。
なんとしても、成功させなければ。
絶対に……私はアルハザードへと、至る。
L月M日
『時の庭園』には、上代徹とオーフィスが残っている。
上代徹は戦闘には向いていない、オーフィスはその護衛か。それとも単に、離れたくなかっただけか。
……おそらく後者だろうな。
短い間ではあるが、あの黒い少女が物事を深く捉えていない事は理解できる。
強者の余裕。
確かに、私は彼女に何も出来ない。
敵意を向けたなら、その瞬間に殺されるだろう。
だから――あの二人が残った事に、裏は無い。
まぁ、それならそれでいい。
研究をしていれば勝手に料理が出てくる。
『時の庭園』の掃除も、勝手にしてくれる。
なら、それでいい。
それだけだ。
L月N日
身体の調子が良い。
気付いたのはここ最近だ。
――蝋燭の最後の瞬きでなければいいのだが。
上代徹の料理を食べ始めてからだから、単に栄養を摂っているからだろう。
今までの生活環境を考えると、あながち間違っているとも言えない。
それにしても、誰かに話し掛けられるのには、慣れない。
フェイトもアルフも、私を前にしたら黙っていたから――余計にそう思う。
上代徹。あの男は、よく私に話しかけてくる。
何も無くても、挨拶はしてくる。
私を畏れもせず、怖がりもしない。
まぁ、同じ人間だ。
悪魔と知り合っているのだから、私よりも胆力はあるのかもしれない。
不思議なものだ。
ただの人間。ただの、普通の人間のはずなのに。
――アリシアの事を話すと、否定されなかった。
死者を蘇らせる。
その禁忌を否定しなかった。
どういうつもりだろうか。
それとも、あの男の元の世界は、その禁忌が禁忌ではなかったのか。
……もしかしたら、という思いがある。
アルハザード。
忘れられし都。
『虚数空間』の向こう側から現れた悪魔とドラゴン――そして、人間。
その世界が、と。
……バカらしい。下らない考えだ。
L月O日
上代徹が、オーフィスに英語を教えていた。
喋れないのか……少し意外に思う。
間違っていた箇所があったので教えると、礼を言われた。
あの黒い少女は寡黙だ。
話した事など、数度あるかどうか。
ありがとうなどと言われると、どうにも落ち着かない。
アレは、規格外の存在だ。
バケモノという言葉すら当て嵌まらない。
だからこそ――礼など言われても困る。
今日も、上代徹と話した。
研究に行き詰っているからか、下らない会話も悪くない。
『インテリジェントデバイス』の説明も、半分も理解できていないようだったが、話すと喜んでいた。
妙な男だ。本当に。
だが、あんな顔をされるのは悪くない。
私にとっては基礎とも言えない初歩の初歩の話だったのだが――聞き上手なのだろう、あの男は。
会話が苦痛ではなかった。
だが、もう少し頭が良ければ、と。
なんとなく、そう思う。
L月P日
『ジュエルシード』の一つ目を確保した。
それに、『第97管理外世界』に居る魔導師とも接触したようだ。
『ジュエルシード』の確保は良い情報だが、魔導師との接触は、もう少し控えてほしかった。
まぁ、管理局の魔導師ではないようだが。
聞いた限り、民間――しかも、素人だろう。
フェイトでも相手に出来るレベルなら、あの赤と白の悪魔なら問題無い。
『時空管理局』が介入してくる前に、数を集めておきたい。
L月Q日
上代徹に料理の才能は無いのだろう。
というよりも、経験が少ないのか。
記憶の中のリニスの料理の方が美味く感じる。
だが――用意される食事というのも悪くない。
研究に集中できる。
上代徹は相変わらず話し掛けてくるが、邪魔はしてこない。
邪魔にならない範囲で話し掛けてくる。
それと、あの寡黙な黒い少女も、上代徹の前ではよく話している。
……何度も思うが、妙な関係だ。
何故あんな規格外の存在が、たかが一人の人間にああまで懐いているのか。
L月R日
気晴らしに身体を動かすのも悪くない。
今日は、上代徹に魔法を教えるついでに身体を動かした。
というよりも、あの男は魔法の才能など無かったが。
そもそも、魔法を使えなかった。発動する事すらできなかった。
『デバイス』の扱いも素人そのもの。
強さを隠していると言った風でもなかった。
まぁ、私もそれほど戦い慣れている訳ではないが。
――やはり普通の……ただの人間か。
オーフィスもこの世界の魔法に興味を示していた。
しかしというか、やはりというか。
『デバイス』が壊れた。
あの少女の魔力に耐えられなかった。
――推定SSSクラス。それでは足りないな、やはり。
魔法を発動したではなく、魔力を込めただけで壊れた。
いったいあの少女の魔力は、どれほど強力なのか。
L月S日
『ジュエルシード』の二つ目を確保した。
早いペースとは言えないが、確実に確保しているのは大きい。
最近は身体の調子も良い。
以前のような焦燥感も感じない。
不思議と、落ち着いている自分を感じる。
――らしくもなく、フェイトを褒めていた。
一言だけだったが。自分が信じられない。
気の持ちようだけで、こうも変わるものなのだろうか。
……アレは、アリシアを模した、ただの人形なだけなのに。
まぁ、褒めることで効率が上がるなら、これからも褒めてあげよう。
私の役に立ちなさい、フェイト。
プレシアさんは……ツンツン。デレが無い。(ぉぃ