Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜 作:ジャック・オー・ワンタン
第10話:火精の森
月の光が眩しく輝く森の夜道。普通ならこんな時間帯に歩くと危機感が漂う筈だが今の僕はそれよりも好奇心に駆られてずんずん歩いていた。
「やっと騎士(シュバリエ)として旅に出れた。ワクワクするな!」
手にしているカンテラと月の光を頼りに進みながらそう声を漏らす。
「旅をするには師匠の様に仲間を集めないとな。どんな人と出会うんだろう?僕にも仲間を集められるかな?」
まだ出会わぬ旅の仲間も想像しながら騎士になった最初の旅路を噛み締める。せめて仲間は自分を含めて十人くらいかなぁ?多すぎず少ないし。
「・・・っと、分かれ道かな?」
暫く歩くとY字路に別れた道と古びた看板が現れ、それぞれ進んだ道の行き先が記されていた。右側はワース王国の東部にある『アイル共和国』。左側はワース王国西部にある『ウェールズ王国』か。
「成程ね・・・。地図に描かれた場所を見るとここから近いのはアイル共和国かな?ウェールズはディナ達の国だし・・・いや、今は気にしたらダメだ。」
ふと、許嫁であるディナのことを思い出しそうになり首を横に振って気を取り直す。騎士として旅をすると決めた以上、今は家族や彼女の事は忘れないといけない。
「取り敢えず今はアイル共和国へ向かおう。そこから港で船に乗るなりして他の大陸へ渡ることにしようかな?」
地図とコンパスを鞄にしまい、アイル共和国を最初の目的地に選ぶ。
「アイル共和国は実際に行ったことが無いけど貿易が盛んな国って聞いた事があるな。そこで色々旅に必要な物を集めて本格的に騎士としての活動を始めようかな?よし!それじゃあ行こう!」
こうして最初の目的地アイル共和国を目指す為、右側の道へ進む。夜がかなり更けた時間帯・・・僕の騎士として過ごす最初の夜はここから始まろうとしていた。
◇◇◇
月の光が届かなくなるほど空に木々が生い茂った森の中・・・宵闇の荒れた道をカンテラの光だけを頼りに進んでいく。
ワース王国とアイル共和国の国境にあるこの森はその昔、聖剣に選ばれたとある剣士に仕えたとされる神の使徒"精霊"なるものが存在する神聖な場所だと言われ、ワースではこの森を『火精の森』と呼んでいる。神聖な森という事もあってかここに来ることはあまりなかった。
「少し眠くなってきたな。でも、こんな所で迂闊に休めないし開けた場所を見つけたらそこまで行こうか。・・・ん?」
徐々に誘われる眠気に耐えながら足を進めていると月の光が差し込む開けた場所へ辿り着く。そこには月光を水面に照らすため池があり、休むには最適な場所だった。
「森の奥深くにこんな場所があるなんて!何はともあれ休む場所が見つかって良かったな!」
ようやく見つけた安息の場に胸を撫で下ろし、池の近くまで歩くと傍にカンテラを置いた。
「さて、テントとかは流石にないから今日はこの岩の上に寝転がるしかないかな?」
旅を始めたとはいえ、流石に野宿する道具を持っていなかった僕は辺りを見渡して大きく平らな岩に目を向ける。この大きさなら十分横になれそうだ。
「早速だ、休ませてもらおうかな?」
背伸びをしてリラックスし、休もうと横になろうとしたが背後で獣の呻き声の様なものが聞こえ、咄嗟にその場から距離を取って後ろを振り向いた。
「なんだ、岩か・・・」
目の前にある岩の影を見てそう呟く。呻き声は気の所為の様だ。ん?岩の影?・・・待てよ?岩ってさっき横になろうとしてたあの岩しか無かったような?
刹那、岩と思っていた影が鮮明になる。それは僕よりも数倍の背丈を誇り、やがて月の光でその姿が顕になると太い木の棍棒を持った魔物・・・トロールが唸りながらこちらを見つめていた。
「げっ!?」
冷や汗をかいて目を見開いた直後、トロールは雄叫びを上げ、容赦なく棍棒を振り落としてきた。
「うわっ!!」
間一髪それを躱すも棍棒が振り落とされた地面に大きなクレーターが出来る。・・・な、なんちゅう威力!?
「くっ!や、やるのか!」
トロールはこちらに身体を向け、再び雄叫びを上がると僕は腰にある白亜の剣に手をかけ、月の光で白銀に輝くその刃を光らせる。
この剣は幼い頃、師匠から授かった剣だ。一見、白亜一色の綺麗でシンプルな装飾だが、その刃はまるで鏡のように輝く白銀であり、初めて鞘を抜いて見た時は思わず見とれてしまいそうになるくらいだった。
今や大切な得物となったその剣を柄を両手で握り締め、トロールと相対する。正直、大型の魔物との実戦経験は少ない。でもログレスで将軍をやっていたし腕も磨いてきた。抜かりはない・・・けど、油断は禁物だ!
トロールは雄叫びを上げながら棍棒を再び振り落としてくると僕はその攻撃を躱しながら宙を舞う。トロールは僕を見上げ、目を見開いて驚くも構わず刃を青白く光らせ、白い稲妻を纏った。
これは剣士が最も会得するのが難しいとされる『剣雷』と呼ばれる剣術の一種で剣の内にある魂と自身の内にある魔力を共鳴させて繰り出す技だ。
「はぁぁぁぁぁあっ!!」
剣雷を纏った僕はトロールの眉間へ目掛けて剣を勢いよく振り落とす。直撃を喰らったトロールは光の刃に眉間を斬られると巨大な身体を震わせながら仰向けに倒れた。
「よしっ!」
着地して、剣を構えたまま倒れたトロールを見て一安心する。これで奴を倒せた・・・と思っていた時だった。
「なっ!?」
眉間に傷を付けられても尚、トロールは身体を動かすと再び起き上がって棍棒を片手に持つ。しまった!斬り込みが甘かったのか!?
「くっ!」
体制を立て直したトロールが再び僕へ棍棒を振り上げてくる。まだまだ諦めない!そう、心に言い聞かせ剣の柄を両手で握り締めて身構えた瞬間・・・背後からまるで風の様な速さで矢が飛んでくるとそれはトロールの眉間に見事、命中する。
「何?」
眉間に矢が刺さったトロールは今度こそ白目を向くと棍棒を手放して倒れ、ようやく沈黙した。何とかこの場は凌いだけど・・・今の矢は何処から飛んで来たんだ?自分の後ろから飛んできた矢を見て首を傾げる。誰が矢を放ったのだろうか?
「ちょっとアンタ!」
そんな時、僕を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこには先のトロールを仕留めたであろう弓を手にしながらこちらを見ているエルフ族の少女が立っていた。