Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第14話:シルヴァの過去

家に戻ると身も心も疲弊したシルヴァをなんとか落ち着かせ、自室で休ませた僕はリビングにてウッド村長からこの村とシルヴァに起こった話を聞くことにした。

 

「本来ならばこの村の事はあまり余所者に話はしないのだが、こんな状況だ。奴らに知られた以上、隠す必要も無いだろう。」

「話して頂けるのですね?」

 

ウッド村長はゆっくり頷くとサラマ村について話す。

 

「先ず、聞こう。この村へ来た時、君は何か違和感を感じなかったかね?」

「違和感ですか?確か・・・」

 

村長にそう聞かれた途端、初めて村へ来た時の景色を思い出す。そうだ!確かあの時、村の至る所に大きな松明が置かれていたような?

 

「恐らく思っていた通りだろう。この村には松明がやけに多いという事を。」

「はい、周囲の森が暗いので最初は明かりを多く灯す為と思っていましたけど・・・何か違う様にも見えました。まるで・・・何かを信仰している様な?」

「その通りだ。この村は精霊"サラマンダー"を信仰しているのだよ。」

「精霊"サラマンダー"!?」

 

精霊・・・それは嘗て神に選ばれたとある剣士が聖剣と共に授かったとされる六つの元素を司る神の使いの名称だ。『創世神話』と呼ばれる文献に登場するものでもあり、精霊は僕らに加護を与える存在として言い伝えられてきた。

 

しかし、そんな精霊の姿を見たものは当然居らず、確かにサラマ村のある火精の森はその一体、火の精霊サラマンダーが眠るとされているが確証は無かった。言わば単なる御伽噺・・・伝説の類に過ぎない。

 

「サラマンダーはこの地に眠る前、嘗てここに住んでいた人々に火を起こす知恵を与えたとされていてな。その神々しい姿を見た先祖達がサラマンダーに惹かれ、信仰し、この村を作ったのだ。村の名前に入れる程にな。」

「精霊の存在が今日まで言い伝えられてきてその信仰と文化を守ってきた・・・そういう事ですね?」

「そうだ。村の至る所にある松明はその名残なのだ。」

 

村長の話を聞いてようやくこの村について詳しく理解する。しかし、問題はあのならず者達とシルヴァの関係だ。

 

「だとしたらアイツらは何者なんですか?」

 

僕は村長へならず者達の正体を尋ねる。

 

「アイツらは"イノクマ山賊団"この村の事を知る数少ない村の外の連中であり・・・シルヴァに深い傷を負わせた奴らだ。」

「シルヴァに・・・深い傷を?」

 

静かに拳をわなわな震わせる村長を見て僕は眉を寄せた。

 

「シルヴァだけでは無い。私も傷を負った。私とシルヴァの大事な家族を奪ったのだからな。」

「大事な家族を・・・?」

 

その言葉を聞いてある事に気付き、棚に置かれた写真に目を向けた。シルヴァとウッド村長・・・それともう一人、女性が一緒に写った写真。そう、ここに来てからシルヴァの母親の姿を見ていないのだ。

 

まさか・・・

 

「どうやら気付いていたようだな。」

 

写真に顔を向けたウッド村長はそう言うと僕に視線を戻し、哀しげな表情を浮かべて言った。

 

「これから話すのはシルヴァにとって・・・我々にとっては忘れてはならない出来事だ。」

 

僕はウッド村長をじっと見つめると彼は静かにシルヴァの過去を語り始める。

 

「あれは・・・シルヴァが産まれる前の話だ。」

 

◇◇◇

 

今から約16年前。当時の亡き村長の後を継いで新たな村長に就任した私は彼の娘であったマーニと結婚する。彼女は厳格な先代村長の娘でありながら朗らかで元気な性格で唯一の幼馴染だった。

 

そんな関係である私達の結婚。村の人々は皆、自分の事のように喜ぶと同時にこの祝福を見られなかった先代村長を惜しんだ。それから間もなくして私達は子宝に恵まれる。それがシルヴァだ。

 

「シルヴァ、貴女はとっても優しい子。その名前はこの森と同じくらい広い心を持って育って欲しいと願って名付けたの。だから困った人が居たら助けなさい。そして誰かに悪いことをされても許してあげなさい。」

「分かった!ママ!」

 

マーニはシルヴァに幼い頃からこの事を口癖の様に言っていた。この森の様に優しく寛大な人になるよう言い聞かせていた。

 

シルヴァはそれに応えるかのように優しい少女へと育っていった。同時に母マーニの様に明るく朗らかで笑顔を絶やさなかった。

 

やがて私と同じ狩人になる事を夢見たシルヴァは日々、弓矢の鍛錬を行いながら偶に狩りへ同行する等、村の一員としても成長していく。

 

そんな我が娘の成長を私はマーニと見守り、楽しい日々を過ごしていた。あの日が来るまでは・・・

 

◇◇◇

 

時は流れ、今から約2年前。いつもの日常が一変した出来事が訪れる。

 

「シルヴァ、シルヴァ!起きなさい!」

「うーん」

 

いつものように起きないシルヴァをマーニが叩き起こす。

 

「ふぁぁ〜おはよ・・・ママ。」

「はぁ・・・貴女は相変わらず呑気ね。」

「エヘヘ」

 

ため息を吐く母にシルヴァは笑みを浮かべる。

 

「もう、だらしないわね!そんなので獲物が狩れるの?今日は近所で弓の鍛錬でしょ?」

「うわっ!?そうだった!!」

 

その一言で一気に目を覚ましたシルヴァは慌ててベッドから起き上がって支度を始める。

 

「わぁ!遅れる遅れる!!」

「ほら、走らないの!もう・・・」

 

部屋を急ぎ足で行き来する娘を見てマーニは思わず笑みを浮かべた。まるで昔の自分の様だ・・・と。

 

「そうだ!パパは?」

「とっくの昔に狩りに出かけたわよ。貴女を起こしてって頼まれたけど結局、起きなくて頭を抱えていたわ。」

「あうぅ〜ごめんなさい。」

「ほら!謝る暇があったらさっさと支度!」

「はーい」

 

力無く返事したシルヴァは黙々と支度を始め、ようやく出かける準備を済ませた。

 

「よし!じゃあママ、行ってきます!」

「気を付けるのよ・・・とは言っても村の中だし心配は無さそうね。」

 

手を挙げながら颯爽と家を出る娘にマーニはいつものように手を振って見送る。寝坊する彼女を起こし、こうして見送るのが彼女の日課になっていた。

 

「さっ、今日も頑張りますかッ!」

 

娘を見送ったマーニは気合いを入れると一度、手を止めていた家事に専念し始める。そう、ここまではいつもと変わらぬ日常だった。

 

「はっ!」

 

陽の光が空の天辺まで昇りつめた頃・・・シルヴァは近所の弓場で黙々と弓を引いて鍛錬を行っていた。その視線の先にある的には数本の矢が刺さっており、どの位置も中心近くに刺さっていた。

 

「シルヴァちゃん上達したね!的もしっかり得てるし凄いよ!」

「えへへ!頑張ったでしょ?これからもっと上達してパパやママに引けを取らない狩人になるんだもん!」

「頼もしいな。シルヴァちゃんの弓の引きは村長に似ているからな。期待してるぞ?」

「へへっ!任せてよ!」

 

シルヴァは自身を褒めてくれた監督に胸を張って自慢げな表情を浮かべる。

 

「さて、そろそろ村長も戻ってくるな。今日は月に一度のお参りだ。」

「お参りってサラマンダーの?」

「サラマンダー様だ。この村はサラマンダー様の与えてくださった知恵で繁栄してきたからな。感謝を伝えなければいけない。」

「そうよね。パパ達、いい獲物捕まえて来てるかな?」

 

そう、ウキウキした気分に浸り始めたその時。突然、村の入口で一発の銃声が鳴り響く。

 

「な、何よ!・・・今の音。」

「あれは・・・シルヴァ!直ぐにママの所へ帰るんだ!」

「えっ?でも・・・」

 

銃声を聞いた監督の言葉にシルヴァが困惑した瞬間、村へ恰幅のいい男が多くのならず者達を引き連れて入ってくる。彼こそが彼女の運命を狂わせたイノクマだ。

 

「ガハハハハ!遂に見つけたぞ!ここがサラマ村か!」

 

イノクマは高笑いをするとこちらを見てくる村人達を他所に我が物顔で村を見渡す。

 

「おい!誰なんだお前たちは!」

「誰って?そんな聞き方ねぇだろう?俺はお前らの神様に会いに来たんだぜ?」

「何?」

「ここに祀っているんだよなぁ?火の精霊・・・サラマンダーを!」

「な、何故それを!?」

 

サラマンダーの名を口にしたイノクマに村人は驚く。

 

「当たり前だろ?俺はサラマンダーから『永遠の命』を貰いに来たんだ!どんな願いも叶えるらしいからな!」

「貴様・・・ッ!」

「そしてお前達に告げる!今日からここはこの俺様、"イノクマ"様のシマだ!光栄に思えよ!グハハハハ!」

 

イノクマは自ら村の支配権を主張すると手始めに彼の部下達が次々と畑や民家に侵入し始めた。

 

「おい!何をするんだ!」

「あぁ?俺のシマになったんだ。貢物を頂くのは当然だろうが!」

「貴様・・・ッ!勝手に土足に入り込んで好き勝手をするなッ!」

 

怒りを顕にした村人が抵抗しようとした瞬間、再び銃声が児玉するとその村人は地面に倒れて腕をかばいながら倒れた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

「なっ!?なんて事を・・・」

「抵抗すんじゃねぇよ!死にたくなかったら大人しくしやがれ下僕共!」

 

銃を手にするイノクマに村人達は黙って作物や物品が次々と奪われいく様子をただ見ることしか出来なくなってしまう。

 

「グハハハハ!抵抗した奴には死んでもらわねぇとな!」

 

彼はそう言うと先程腕を負傷した村人に銃を向けた。

 

「見せしめだ!俺に逆らったらどうなるか教えてやる!」

「おい・・・嘘だろ!?」

「なんてこと・・・!」

 

そして、見せしめに村人を射殺しようとした時だった。突然、風の様に素早い矢が何処からともなく放たれると彼の左肩へ見事命中する。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」

「お頭!!」

「畜生・・・誰だ!小賢しい真似をするのは!!」

 

しかし、イノクマは直ぐに立ち上がり、部下の助けを借りずに刺さった矢を投げ捨てて辺りを見渡した。

 

「アタシよ!」

 

すると村人達を退かせ、眉を寄せながら険しい表情で弓矢を手に武装したシルヴァが彼と相対する。

 

「あぁ?誰かと思えばガキかよ?」

「だったら何なの?それよりアンタ達は何しに来たのよ!」

 

シルヴァはそう言いながら弓を再び構えてイノクマを睨みつける。

 

「随分、生意気な物言いをするんだな?口の悪いガキは俺が直接教えてやる!この村の新しい長が誰なのかな!」

「勝手に村に入ってきて長を名乗るとか・・・笑わせないでくれる?ここはアンタ達の好き勝手していい場所じゃないわよ!アンタなんかアタシが追い払うんだから!」

「テメェ・・・!」

 

シルヴァの言葉にイノクマはわなわなと震え、怒りを燃やした。

 

「・・・どうやら本当に死にてぇらしいな。いいぜ!望み通りにしてやる!」

 

イノクマは容赦なく銃を発砲するがシルヴァは軽やかな身のこなしで回避して応戦する。

 

「ちっ」

 

舌打ちをし、銃が当たらないと分かるとサーベルに武器を変えて飛んできた矢を斬り落とし、互いに激しい攻防を繰り返した。

 

「見えたッ!」

「なっ!?」

 

すると隙を見つけたシルヴァは宙返りしながら矢を放つ。それは命中こそしなかったものの彼を怯ませるには十分なものだった。

 

「これで・・・!」

 

勝機を悟り、地面に着地すると次に放つ矢を汲み、キリキリと音を立てながら狙いを定めた。しかし・・・

 

「シルヴァちゃん!後ろ!」

「えっ?」

 

村人の声が聞こえて我に返った瞬間、彼女は後ろから何者かに殴られてしまう。

 

「・・・ッ!?ああっ!!」

「フッ、馬鹿が!」

 

その背後にはイノクマの部下が銃を片手に立っており、頭を抱えて蹲ったシルヴァを見下ろしていた。

 

「でかしたぜ!へっへっへ!」

「ッ!?しまった!」

 

勝ち誇った笑みを浮かべたイノクマに顔を向けた途端、シルヴァは彼に勢いよく腹部を殴られて吹き飛ばされる。

 

「きゃあああああああっ!!」

「シルヴァちゃん!」

「くそっ!村長達はまだ帰ってこないのか!?」

 

村人の声も虚しく未だ戻らない村長に彼らが焦りを見せる中、イノクマは地面に倒れたシルヴァを容赦なく踏み付けた。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

「おらっ!このクソガキが!おらっ!おらっ!」

「うぐっ」

 

乱暴に殴られ蹴られを繰り返されたシルヴァは再び地面に転がり、傷だらけになるも息を切らしながら懸命に立ち上がろうとするが脚に力が入らず、そのまま崩れ落ちてしまう。

 

「ううっ・・・なんで・・・こんな!」

「チッ、手こずらせやがって!まぁいい、先ずはお前はからだ!」

「なっ!?や、やめろ!その子だけは・・・」

「おっと!それ以上動くな!」

「くっ・・・。」

 

村人達がシルヴァの元に駆け寄ろうとしたがイノクマの部下達が一斉に銃を向け、彼らを退かせてしまう。

 

「生意気に突っ込むからそうなるんだ!テメェみたいな奴は何も守れやしねぇんだよ!何もな!」

「アタシが・・・何も守れ・・・無い?」

「そうだ!だからさっさとくたばるこったな!」

 

イノクマはそう言うと手にしていたサーベルをゆっくり振り上げる。

 

「死ね!」

「そんな・・・アタシ・・・ここで」

 

無常にも振り落とされた刃に彼女は目を閉じ、次にやってくる死を覚悟した。しかし、その刃は両者の間に入った人影が受け、シルヴァに届くことは無かった。

 

「えっ?」

 

自身の無事を確認したシルヴァは状況が読み込めず恐る恐る閉じていた目を開く。

 

「ッ!?・・・ああっ!!」

 

そこには我が娘を守るべく残虐な刃をその身で受け、身体中から鮮血を流すマーニの姿があった。

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