Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第1話:オーディンと王子

オーディンがワース王国を訪れてから約半年が経った頃、ワース城が一望できる海岸では今日も木剣がぶつかり合う乾いた音が響いていた。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

貴族服を身に付けたまだ幼い少年が海岸の上を滑るようにして後退すると再び木剣の柄を両手で握り締め、目の前に立つオーディンへ果敢に挑む。

 

「はっ!」

 

彼女もまた少年の一撃を木剣で受け流すと彼と鍔迫り合いになり、木剣の刃をキリキリと鳴らした。

 

「はぁ、はぁ・・・よし!今日こそは師匠に勝てる!」

「ほう?やけに今日は威勢が良いな。シエル!」

 

オーディンは少年に笑みを見せると機敏な動きで後退し、彼と距離を取る。あの日、シエルの手を取ってから彼女は剣術を彼に教える事を決め、こうして稽古を付けているのだ。

 

「シエル、強くなったな。半年程前は私を相手するのがやっとだったのに今では動きも掴めて良くなっている。・・・だが!」

 

剣の腕が上達してきたシエルを見て、オーディンは手加減することなく木剣の刃を青白く光らせると、白い稲妻を発生させながら剣の柄を両手で握り締めた。

 

「うわっ!?師匠が本気出した!でも僕、負けないもん!」

 

シエルもまた剣の柄を強く握り締め、彼女の様に上手くいかないものの木剣の刃に白い稲妻を発生させる。

 

「ほう?それも出来るようになったか・・・楽しみだなッ!」

 

オーディンは満足げに笑みを浮かべて跳躍し、空高く飛び上がると剣を左手に持ち替えて勢いよく振り落とした。

 

「これでどうだッ!!!」

「ふ、防げるもん!」

 

それでも強気な姿勢を崩さなかったシエルは臆することなく刃で守りを固めるかの様に剣を逆手に持ち、防御体勢を執る。

 

「あ、あれ?わわっ!!降りてくるのが速い!」

 

しかし、思った以上に高速で降下してくるオーディンにシエルは思わず防御体勢を崩してしまうとその隙に攻撃されてしまいシエルは砂浜に転がりながら倒れ、手から木剣を滑り落としてしまった。

 

「あっ!しまっ・・・」

 

傍らに刺さった剣を取ろうと四つん這いになりながら動いたその瞬間・・・彼の目の前に華奢な白い脚を露出したオーディンが立ちはだかり、そのまま木剣の切っ先を突きつけられてしまった。

 

「あっ!」

「そこまで!勝者団長!」

 

すると審判役をしていたフリッグが声を上げてオーディンの勝利を宣言する。

 

「あーあ、また負けちゃった。」

 

負けたシエルは悔しそうに頬を膨らませてその場に座り込んだ。

 

「残念だったなシエル。また私の勝ちみたいだ。」

「師匠ずるい!あの動きは分かんないよ!」

「分からない動きを予測するのが戦いというものだ。」

「そうだけど・・・」

 

正論を言われ、不貞腐れたシエルにオーディンは砂浜に刺さった木剣を手にすると彼に手渡す。

 

「シエル、前にも伝えた筈だ。強くなるのはゆっくりでいい。焦らなくてもいいんだ。」

「僕は早く強くなりたいんだ!強くなって皆を見返して褒めて貰いたいんだもん!」

「それだけを理由に強さを求めるなと教えた筈だぞ?」

「そ、そうなんだけど・・・」

「焦らなくていい。君はもう十分強い。後は流れに乗ってそのまま成長していけばいいんだ。」

 

オーディンはシエルに励ましの言葉を伝えながら膝を付いて彼と同じ目線になると見慣れた彼の瞳を見て自然と笑みが浮かんだ。

 

「団長の言う通りですよ。シエル様」

「フリッグ姉さん。」

 

先の試合の審判をしていたフリッグもシエルに声を掛け、彼の前に歩み寄った。

 

「団長も仰っていましたけど強くなるのに焦らなくても良いんです。なんなら私だってまだ団長に模擬戦で勝った事が無いんですよ?それにシエル様はまだ私よりも若いんです。これからじゃないですか?」

「フリッグの言う通りだな。シエル、君はまだ子供だ。そんなに焦らなくても自然に強くなれる。」

「師匠、フリッグ姉さん・・・」

 

シエルは二人を見て笑みを浮かべ、元気よく頷いた。

 

「うん、分かったよ!僕、焦らないように頑張るよ。」

「ああ、君はそれでいいんだ。」

 

元気を取り戻したシエルにオーディンも微笑む。

 

「あっ、団長・・・そろそろお時間ですね。シエル様を城に届けましょう。」

「えぇ・・・もう、お城に戻らないといけないの?」

 

フリッグの言葉を聞いてシエルは嫌そうな顔をする。

 

「大丈夫だ。城にいる間は私もそばに居る。」

「えぇ〜師匠の船でいいよ。」

「ダメですよシエル様。お城に帰らないと国王様も女王様も心配されます。」

「・・・はぁい」

 

嫌々ながらもシエルは服に付いた砂を払ってオーディンから渡された木剣を腰につけて立ち上がった。

 

「じゃあ師匠!早く行こ!」

「あぁ、行こうか。」

 

シエルと手を繋いだオーディンはフリッグへ顔を向ける。

 

「それじゃあフリッグ。シエルを連れて行く。ヘーニル達が戻ってきたらそう伝えてくれ。」

「了解です。昼には戻ってきて下さいね。」

「あぁそれじゃあ行ってくる。」

 

◇◇◇

 

私はオーディン。ラグナロク騎士団団長であり、普段は船で海を航海して旅をしている。だが、時には休むことも必要と考え、ワース王国を訪れたのを切っ掛けに一人の少年と行動している。それがワース王国第一王子シエル。私にとっては恐らく最初で最後に受け入れる剣の弟子だ。

 

「ねーね、師匠」

「どうした?」

 

城へ向かう道中、シエルに話しかけられる。まだおぼつかない足取りを見ると可愛く見えてくる。

 

「僕、まだ強くなって皆を見返したらどうしたいかまだ決めてないんだ。父上の後を継ぐとか・・・色々あるかも知れないけど。」

「そうか・・・」

 

シエルの放った苦悩に私は哀しげな表情で彼の顔を見る。出会った時からここまでで感情を表に出すようにはなったがまだ年相応の無邪気さはない。

 

「着いたか・・・。」

 

そうこうしている内に目的地に辿り着くと私は動かしていた足を止め、目の前に聳え立つ白亜の城・・・ワース城を見上げた。ここはワース王家が住む城であり、数少ない国の名物でもあるが城を目にした途端、足を竦めたシエルを気にしながらも私は門番と軽く挨拶し、城の敷地内へ入った。

 

「ふむ、今日は女王陛下は花壇に居ないか。そうなると玉座の間に居るのだろうな。」

 

城の玄関の直ぐ近くにある花壇を見てそう呟く。ここでの私の一日はまず、早朝にシエルをここまで迎えに行くと自分の団で引き取って剣を教える。

 

それが終わるとここでいつも花壇の手入れをしている女王にシエルを渡して船へ戻るというものだ・・・が今日は居ない様だ。何かあったのだろうか?若しくは今日は玉座の間に?

 

「今日は多分、上に居ると思う。」

「やはり玉座の間か。ならばそこまで送ろう。早速城へ・・・」

 

シエルに顔を向けて城へ入ろうとした時だった。

 

「おやおや?誰かと思えば騎士のオーディンでは無いか。」

 

突然背後から声を掛けられて振り返るとそこにはシエルよりも少し幼い少年が多くの文官達を連れながら不敵な笑みを浮かべていた。

 

「はうっ!?」

 

彼らを見た瞬間、シエルは怯えて私の後ろへと隠れてしまう。・・・タイミングが悪いな。まさか彼と帰って来る時間が被るとは。

 

「情けない"愚兄"が。まさかその汚い土足で城に上がろうとしたんじゃないよな?」

 

自分を見て隠れたシエルに少年は冷たい視線を向けると顔を顰めて不機嫌そうな態度を取り始めた。彼の名はテル・ワース・・・ワース王国第二王子にしてシエルの弟である。

 

「テル様、このような野蛮な者と話してはなりません。」

「そうです。あんな出来損ないの王子など放っておけば良いのです。」

「・・・そうだったな。行くぞお前達。」

 

文官達の言葉を聞いたテルは真顔になるとこちらに見向きもせず颯爽と城の中へと入って行った。文官の言い方が気に食わないが難は去ったようだ。

 

「師匠・・・もう嫌だよ。」

「シエル・・・。」

 

今にも泣きそうな表情をするシエルを見て、顔を曇らせる。普段は純粋無垢な表情をしているシエル・・・しかし、彼の心の奥底にはとても8歳の少年が経験するには辛すぎる事情が存在しているのだった。




今週は初回の為、二話連続投稿となりました。
こちらは毎週日曜20時より、投稿予定です。
※突発的な休載もある為ご了承ください。
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