Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第三章:海神の槍兵
第18話:アイル共和国


 アイル共和国・・・ブリテン島の東部に位置するこの国は島に存在する三国の中で最も経済が発展した国である。夜になっても街の灯りが消えぬアイルの首都『ロンデン』。雲ひとつない月夜の空の一部を突如、艦の様な影が覆い始めるとその艦長室から一人の影が街を見下ろしていた。

 

「ここがアイル共和国か。」

 

まるで牡牛の様な角を生やした人影は暗闇で姿を隠しながら冷たい蒼い瞳を光らせる。

 

「時期にこの艦もアイルの廃港へ着水するだろう。それにしても・・・奴も人使いが荒いな。"アイル共和国を侵略しろ"などと・・・まぁいい手伝ってやるまでだ。丁度俺もこの近くで用が出来たからな。」

 

書類を手にした人影は再び外の景色に視線を向け、星々が輝く空を見つめながらとある少年の名を呟いた。

 

「騎士として旅に出たと聞いたが恐らくここへやって来るだろう。会えるのを楽しみにしているぞ・・・”シエル”。」

 

今、アイル共和国と一人の少年に強大な力が迫ろうとしていた。

 

◇◇◇

 

「シルヴァ!もうすぐだ!早く!」

「ちょっと!先に行かないでよ!」

 

サラマ村を出て次なる目的地『アイル共和国』を目指していた僕はようやく火精の森の出口まで辿り着き、振り返るとシルヴァが息を切らしながら付いてきていた。

 

「はぁ、はぁ・・・もう!はしゃいで先に行かないでよ!」

「ご、ごめん。出口を見つけてつい興奮しちゃった・・・」

「・・・もう」

 

謝る僕にシルヴァは可愛らしく頬を膨らませると直ぐに笑みを浮かべて出口を見つめる。

 

「ここが森の出口・・・外の世界なんだよね?」

「そうだよ。ここを出たらアイル共和国へ着ける筈だ。」

「なんかワクワクするわ!」

「それは良かったよ。じゃあ・・・行こうか?」

 

そう言うと彼女も頷いて外の世界に出る心の準備を整えた。僕もまだ見ぬ新しい場所。ワクワクが止まらない訳がない!

 

「じゃあ、行くわよ・・・せーの!」

 

シルヴァの声に合わせ、一緒に一歩を踏み出すと僕らは遂に火精の森を出た。その先に広がっている景色に僕らは眼を輝かせ、心が踊る。何処までも広がる青い海、雲一つ無い晴天の空、目の前に広がる広大な緑の丘を下った先には目的地であるアイル共和国の街並みが見えていた。

 

「凄い!この青いのは・・・海?」

「そうだよ。僕達はこれからこの海を渡って色んな所へ冒険に行くんだ。」

「すごい!・・・更にワクワクして来ちゃった!」

 

初めて見る森の外の景色にシルヴァは目を輝かせたまま僕の手を引く。どうやら待ちきれない様だ。

 

「シエル!早く行こっ!」

「うん!」

 

◇◇◇

 

アイル共和国。人口およそ800万人が暮らす大都市であり、その半数近くが海外または隣国からの移民者で占められている。ブリテン島に存在する唯一の共和制国家且つ最も経済が発展しており、海岸沿いの桟橋には多くの貿易船が行き来し、市場には海外の品が多数輸入されるそうだ。

 

「凄い人。サラマ村の何倍の人がいるんだろ?」

「シルヴァ、大丈夫?」

「うん。ちょっとビックリしちゃった。」

 

街の大通りの前までやってくると余りの人の多さに圧倒するシルヴァを気にかける。彼女にとっては村の数十倍・・・いや、数百倍近くいる此処は少し衝撃が強かっただろうか?

 

「でもワクワクが勝ってるかな?こんなに沢山の人が居るなんてビックリよ。」

「そっか。それなら良かったよ。」

 

直ぐに笑みを見せる彼女を見て安堵する。

 

「それにしてもなんで皆、一つの道にいっぱい群がってるの?」

 

シルヴァはふと大通りを指差して首を傾げる。

 

「確か、この通りは商店が多くある場所だった気がする。アイル共和国は海外から色んな物を仕入れているから手に入らないものが無い位だし。」

「へぇ〜商店か・・・気になるかも!」

「じゃあ行ってみる?」

「うん!」

 

シルヴァはこくりと頷くと僕は早速、彼女を連れて商店街を散策する事にした。

 

◇◇◇

 

商店街の通りを歩き出した僕らは人混みの中を掻い潜って並び立つ商店を見ていく。骨董品店に武器屋、新鮮な魚料理を振舞う屋台・・・流石は経済の国だ。色んな店がある。

 

「・・・なんか色んなものがありすぎて逆に言葉が出ないわ。」

「さっきも言ったけどアイルの商店街は海外から色んな物を仕入れているから観光客も多いんだ。”移民で出来た国”なんて言われてる国だからね。」

「移民って・・・他所から人がやってきて住み着くことよね?ルーツはサラマ村と変わらないのね。」

 

僕の説明を聞きながら彼女は自身の故郷と比較しながらそう呟く。そう言えばサラマ村も元はあの森を開拓してできた村だったな。

 

「ん?何あれ?」

 

するとシルヴァは一軒の古びた商店のテントを指差す。よく見るとそこはアクセサリーなどを売っている店舗だった。女の子ってやっぱりああいうお店が好きなのかな?師匠とかヨルズ姉さんはお洒落に無関心だったけどフリッグ姉さんは結構気にはしていたな。

 

「アクセサリー店だね。興味あるの?」

「うん!」

「じゃあ行ってみようか?」

 

僕は彼女の手を引いてアクセサリー店に入るとそこには年季の入った商品棚に色とりどりのアクセサリーが並んでおり、テント内の真ん中にあるカウンターでは一人の老婆が椅子に座りながらうたた寝していた。あのお婆さん。寝てるけど品物盗まれたりしないのか?

 

「意外と色んなアクセサリーが売っているんだな。」

「どれも綺麗だけど・・・沢山あると逆に迷うわね・・・ん?」

「どうしたの?」

 

ふと何かを見つけたシルヴァを見るとそこにはアクセサリーの中でも一際青い光を放つ雫の形を模したネックレスがあった。

 

「これ凄く綺麗なんだけどなんか他のアクセサリーと違って凄く神秘的な感じがするわ。」

 

シルヴァはそう言って雫型のネックレスを手に取るとそれは彼女の掌で海の様に青く鮮やかな光を放つ。確かに他のアクセサリーよりも神秘的で鮮やかな感じが・・・まるで”海を具現化した”様だ。

 

「おや、そのネックレスに興味を持つなんてお嬢ちゃんお目が高いねぇ~」

 

するとカウンターで座って寝ていた老婆が僕ら前までやって来て声を掛けた。ちゃんと起きてはいたのか。

 

「このネックレスは昔、アイルの港から船出する漁師達のお守りとして作られたものなんだよ。」

「お守りですか?」

「えぇ、そうじゃよ。アイルには”水の精霊ウンディーネ”様の加護が付いておるんじゃ。」

「「水の精霊!?」」

 

老婆から出た思わぬ言葉に驚愕する。まさかアイルにも精霊の言い伝えがあったなんて!

 

「あのご婦人。一つ聞きたいのですが。」

「ん?何かね?」

 

精霊の話題が出るや否や僕は尋ねた。

 

「水の精霊ウンディーネはもしかしてアイルにも祀られているんですか?」

「私も母親や祖母から聞いた話だからねぇ~ウンディーネ様が此処に祀られておるかは分からんけど言い伝えは残っているよ。」

 

老婆の言葉を聞いて僕らは顔を見合わせる。アイル村でのサラマンダーに続き、名前と存在が判明した”水の精霊ウンディーネ”。明かされていく彼らの存在は僕らの旅の目的を大きく変えるものになろうとしていた。

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