Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第21話:緋色の騎士

翌日・・・カイと老婆の自宅で一夜を過ごした僕は早朝になってリビングへと顔を出した。シルヴァはまだ別室で寝ているようだ。

 

「よく寝れたなぁ・・・ん?」

 

欠伸をしながらリビングに入るとそこにはカイが一人で珈琲を飲みながらソファに座っていた。

 

「カイ、おはよう」

「・・・テメェかよ。」

 

僕を見るや否や嫌そうな表情をしてそっぽを向くも臆すること無く彼の向かい側に腰掛ける。とは言え・・・彼とどう向き合えばいいだろう?怒ってはなさそうだけど話の話題を考えながら暫く沈黙に包まれた時だった。

 

「おい」

 

カイが沈黙を破って話しかけてくる。

 

「お前は騎士だって言ってたが何で始めようと思ったんだ?」

 

そう尋ねられ僕は微笑みながら答えた。

 

「僕には目標としている人がいるんだ。その人は強くて優しい人でいつかその人の様に誰でも助けられる人になりたいと思ったんだ。」

「お前の強さはそこからきているのか?」

「全部が僕の強さじゃないよ。でも、互いに助け合うのが人間なんじゃないかな?」

「そうか」

 

僕の答えにカイは小さく呟きながら腕を組む。

 

「オレはガキの頃、両親が戦争で死んだ。その時はまだガキだったが力があれば助けられたかもしれねぇってつぐつぐ思うんだよ。あんなクソみてぇな悲劇を繰り返しちゃいけねぇってな。」

 

外の景色を眺めながらカイは拳を握り締めて小さく震わせながら更に続けた。

 

「だからオレは一人で戦おうって決めた。誰の手を借りずにあのクソ帝国野郎共をぶっ飛ばす。それがオレがやれる仇討ちでオレの夢だ。力こそが全てを制するんだ。」

「カイ・・・」

 

ロワ帝国に対する憎しみを顕にするカイを見て返す言葉を失う。彼は親の仇討ちの為に力に溺れている。帝国はここまで人を歪ませるのか?僕は彼に何を教えられるのだろう?そう自問自答を繰り返していた時だった。

 

「「ッ!?」」

 

突然、街の方から轟音が聞こえるともくもくと黒煙が空に上がり始めた。結構大きな音だった!

 

「今のは・・・砲撃?」

「まさか・・・クソッ!」

 

血相を変えたカイは直ぐさま薙刀を手にして家を飛び出していく。

 

「あっ、カイ!ちょっと待って!」

 

そんな彼を僕は慌てて追いかけ、黒煙が上がった方へ急いで向かうのだった。

 

◇◇◇

 

中心街・・・いつもなら多くの人だかりで埋めつくられる街並みは今、一発の砲弾によって壊滅していた。炎に燃えながら崩れ落ちる家屋、砲撃の衝撃によって地に伏せている人々、そんな彼らに構うことなく街を歩き出す赤服の軍隊・・・正に地獄絵図そのものの風景であった。

 

「嘘だろ・・・アイルの街が!」

 

戦場と化した中心街へやって来た僕とカイは辺りを見渡して絶句する。

 

「ふざけんなよクソが!テメェらはオレ達からどんだけ奪ったら気が済むんだよッ!」

「カイ・・・」

 

わなわなと震えるカイに僕が顔を向けた時だった。

 

「おい!そこで何をしている!」

「何を・・・してるだと?」

 

僕らの前に帝国兵が現れるとカイは顔を上げ、鬼のような形相で薙刀を振り上げながら言った。

 

「それはこっちのセリフなんだよッ!クソが!!」

 

カイは帝国兵目掛けて容赦なく薙刀を地面に振り落とすと蒼白い斬撃が放たれて彼らに直撃する。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「失せろォ!」

「「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「オラァァァァァッ!!!」

 

その攻撃は一度で止まることはなくカイは帝国兵を次々と薙ぎ倒していった。

 

「「ぎゃぁぁぁぁっ!!」」

「なんて奴だ・・・」

「あのガキ、強いぞ!」

「まだ・・・失せてねぇのかよ?」

 

カイは残った帝国兵に鳶色の目を光らせると再び薙刀を振り上げて身構える。

「この野郎!くたばれ!」

「させるか!」

 

すると彼の背後を狙って一人の帝国兵が斬りかかるもそれを僕が間一髪で受け止め、返り討ちにする。だめだ!完全に力と怒りに身を委ねて周りが見えなくなっている!

 

「カイ!落ち着け!周りが見えなくなるのは命取りだよ!」

「うるせぇ!話しかけるな!」

 

カイがそう怒鳴り返した時だった。

 

「そうだ。戦場では周りが見えなくなると命を落としかねない。」

「誰だ!?」

 

何処からかそんな声が聞こえてくると僕とカイは辺りを見渡して警戒すると路地裏から声の主が現れた。

 

「な、なんだ!?アイツは・・・」

 

その姿を見て驚く。僕らの前に現れたのは全身緋色の鎧と顔まで覆う兜を被った騎士の姿だった。

 

◇◇◇

 

「な、なんだ・・・お前は!?」

 

現れた緋色の騎士を見て僕は息を呑む。全身炎の様な装飾が施された緋色の鎧、素顔の見えない兜は雄牛を模した白い角が生えており、羽織っているマント、腰に装備している剣全てが緋色一色であり、正に異形と呼べる風貌だ。

 

それだけではない。彼から放たれている気迫も凄まじく僕とカイは姿よりも気迫に圧倒された。剣を交えなくても分かる。この騎士はかなりの強者であると。少なくとも師匠と互角の強さだろう。

 

「准将!何故こちらに!?」

「少し用が出来た。お前達は持ち場に付け。この二人は俺が相手をする。」

「はっ!」

騎士の言葉に帝国兵達は敬礼すると直ぐ様この場を去っていく。准将という事は彼も帝国の人間・・・それも親玉であることは確かなようだ。

 

「な、なんで・・・テメェがここにいんだよ!?」

 

カイは騎士を見るや否や目を見開きながら彼の正体を口にする。

 

「"十二神騎"が一人にしてロワ帝国准将・・・アレスがよ!」

「十二神騎?」

 

彼の放った言葉に僕は眉を寄せる。

 

「十二神騎ってのは十二の神と星座を冠した名前と鎧を授けられたバケモンの集まりの事だ。その一人が帝国軍に入ったと聞いたことがあるがまさか本当だったとはな・・・」

 

冷や汗をかきながらそう呟くカイを他所にアレスは僕へ顔を向けてくる。な、なんだ?僕をじろじろ見て?見つめてくるアレスに僕も冷や汗をかきながら警戒する。

 

「やはりアイルへ来ていたか。会えて嬉しいぞ・・・"シエル"。」

「なっ!?ど、どうして僕の名前を!?」

 

僕の名前を放ったアレスに衝撃を受ける。コイツ、なんで僕のことを知ってるんだ!?

 

「お前。アレスと知り合いなのか?」

「い、いや・・・知らない。」

 

そう尋ねてくるカイに僕は首を横に振る。こんな人と今まで会った覚えがない。寧ろこんな姿と気迫を放っている奴と一度でも会っていたら嫌でも覚えてしまう。

 

「シエル。お前が知らなくともこの俺が知っている。それだけで十分だろう?」

「お前は一体・・・何が目的なんだ?」

「聞かなくても分かんだろ。アイルを支配しに来たんだぞ!准将ってことは親玉だな!」

 

カイはそう言ってアレスと相対する。

 

「自ら指揮官が出てきてくれて都合がいいぜ!十二神騎だろうが何だろうがオレの手で殺してやる!」

「威勢がいいな。貴様の様な雑兵が俺を倒せるのか?」

「倒せるから威勢張ってんだろうが!!クソ喰らえや!」

 

薙刀を振り回しながら駆け出したカイはそのまま勢いよくアレス目掛けて振り落とす。彼もまた得物の剣を手に攻撃を受け止めた途端、カイは驚愕した表情で交わっている刃へ目を向けた。

 

「な、なんだコイツ!?腕が・・・動かねぇ!」

「どうした?その程度か?」

アレスはそう呟くとカイを突き放し、刃に炎を纏った。

 

「カイ!」

突き放された反動で仰け反ったカイに声を掛けるも時すでに遅くアレスは彼に炎の袈裟斬りをお見舞いした。

 

「散れ。"炎剣(えんけん)焔緋(ほむらび)"!!」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」

「カイ!!」

炎の刃で斬りつけられたカイはそのまま高速で吹き飛ばされると瓦礫に勢いよく身体をぶつけて沈黙してしまう。

 

「嘘だろ・・・」

「哀れなやつだ。戦いは力だけでは無いというのに過信と軽率で突っ込み、己を散らす。」

 

アレスは剣に炎を纏ったまま僕へ顔を向けてくる。つ、強い。剣の動き、技・・・全部に無駄がない。多分、師匠が相手でも負けるんじゃないのか?

 

「シエル。これで邪魔者は消えた。アイルを制圧するついでに連れて行くことにしよう。お前は私にとって必要な存在なのでな。」

「・・・嫌だ。」

 

彼の誘いに僕は即答で断りの答えを出す。仲間を差し置いてこんな得体の知れないやつに付いていくのはまっぴら御免だ。

 

「・・・残念だ。お前はもう少し賢い人間だと思っていたのだが・・・お前は騎士で収まる様な立場では無いぞ?」

 

アレスはそう言うと剣を鞘に収めてマントを翻しながら背を向けて言った。

 

「アイル共和国への侵攻は俺の一存で止められる。もし阻止したければここから少し離れた所にある"水面の洞窟"へ来い。そこにお前の求めているものもある。」

「僕の求めているのも?それは何なんだ?」

「お前の目で確かめるのだな。待っているぞシエル」

「おい!待て!・・・って消えた!?」

 

慌ててアレスを追いかけようと彼は炎に包まれながら姿を消してしまう。

 

「くそっ!何なんだアイツ!・・・そうだ!カイ!」

 

アレスの言った「求めているもの」を気にしながらも僕は気絶したカイの元へ駆け付けて介抱すると戦火の炎に包まれたアイルの街を離脱するのだった。

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