Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第24話:動き出す世界

 アレス率いるロワ帝国を退けた僕らはアイル共和国へ帰還する。アレスは宣言通り、アイルの街を半壊させただけで事を済ませて帝国の艦隊を撤退させていった。街には再び平和が訪れ、帝国の撤退に誰もが喜びと安堵の声を漏らしていた・・・。

 

「帝国は宣言通りアイルから身を引いたが油断は出来ねぇな。」

 

カイは自宅のソファで足を組みながらそう呟く。

 

「帝国は他国を侵略して何をしたいのかな?」

「分からない。ただ一つ言えることがある・・・」

 

シルヴァの隣で僕は俯いたままあの時の戦闘で言われたことを思い出す。

 

『精霊の力だけでは俺には勝てない』

 

アレスが去り際に放ったこの言葉・・・水の精霊の力を持ってしてもアイツは殆どビクともしていなかった。それにあの剣の腕・・・かなりの強さだった。

 

「んで?シエル。お前はウンディーネと会った時、明らかに奴を吸収していたな?アレスがチラッと言っていたがテメェの持つその剣が関係してんのか?」

 

ふとカイはウンディーネを吸収したことについて言及し、僕の腰にあるエクスカリバーを指差した。

 

「うん、これは師匠から譲ってもらった剣なんだ。最初は真っ白なただの剣だと思っていたけど、サラマンダーと出会ってからこれが精霊を従えるエクスカリバーだと分かったんだ。」

「エクスカリバー・・・やはり存在していたのかい。」

「婆ちゃん!?」

 

すると僕らの前にカイの祖母が姿を現す。

 

「昔、聞いたことがあるよ。遙か昔・・・神に選ばれし一人の剣士が授かった白亜の剣。世界に迫る厄災を鎮めるべく六体の精霊の力を扱い、見事厄災を鎮めたとな。」

 

カイの祖母はエクスカリバーに纏わる伝説の一端を語り、僕らは息を呑む。あの伝説って本当にあった出来事なんだな。

 

「じゃあシエルが持ってる剣は間違いなくエクスカリバーだって事だよね?」

「間違いない。私が聞いた伝承の特徴と良く似ているからねぇ〜そしてエクスカリバーは人を選ぶと聞いたこともあるよ。」

「それってつまり・・・」

 

シルヴァとカイの視線が僕に向けられる。

 

「シエルは聖剣を扱える人って事だよね!?凄いわよシエル!だったら残りの精霊とも会えるし力を扱える事だって出来るよね?」

「うん、そうなるよね。」

 

腰にあるエクスカリバーを見つめながら未だ湧かない実感を受け入れる。エクスカリバーは人を選ぶ・・・もし師匠がその事を知ってこれを渡したとするなら・・・

 

「シエル。そうなると他の精霊に会う必要があるんじゃねぇのか?師匠に会う為に旅をしているらしいがテメェはそれを授けられた。オレはそう思うぜ。」

「分かってる。僕はどうやら精霊に全員会う必要があるみたいだ。」

「シエルはそう言うと思ったよ!アタシ、付いていくよ!シエルに!」

「ありがとう。シルヴァ」

 

改めて仲間として付いていく決意をしたシルヴァに礼を言う。

 

「面白ぇ・・・精霊に会う旅か。」

「カイ?」

 

するとカイが笑みを浮かべて立ち上がり僕を見た。

 

「おい!その旅、オレも混ぜろ!ついでに帝国の連中もぶっ殺せたらスッキリするからな。」

「い、いいのか?」

「テメェが強いのも分かった。お前と一緒ならオレも強いヤツと戦える。悪ぃ話じゃねぇよな?」

「あら?アンタも言うようになったじゃない。」

 

自ら仲間になることを告げたカイにシルヴァは笑みを浮かべる。

 

「テメェの様な雑魚のお守りをするのがナンだがな。」

「何よ?アタシが弱いって言いたい訳?」

「二人とも喧嘩をしないで!」

 

バチバチに睨み合う二人を何とか仲裁する。仲間になるのは良いけどこの二人いつまでも喧嘩しそうで怖いな。

 

「カイの気持ちは分かったよ。それなら大歓迎だ。これから宜しくね!カイ!」

「フッ・・・余り足を引っ張んじゃねぇぞ!」

 

僕が差し伸べた手を握って握手を交わしたカイはそのまま自身の祖母へ顔を向けた。

 

「婆ちゃん悪ぃな。オレ、旅に出るよ。」

「ええ、行っといで!アンタも世間を見て回る歳だ。私の事はいいから帝国の奴らも懲らしめて来な!」

「ありがとう!」

 

旅立ちを後押しする祖母にカイは頭を下げる。彼の表情には一切の曇りは無く、同時に帝国を打倒するという海よりも深い思いが秘められていた。

 

◇◇◇

 

そして翌日・・・

 

「じゃあな婆ちゃん。身体壊すなよ。」

「分かってるよ。」

 

海猫が空を飛び交う朝、カイは祖母に微笑んで別れを告げる。

 

「お婆さん。お世話になりました。」

「また来る機会が会ったら来るわね!色々とありがとう!」

「えぇ、お前さん達もまた来ておくれ。」

 

僕とシルヴァは世話になった礼を言って老婆と握手を交わす。

 

「じゃあな婆ちゃん。行ってくる!」

 

こうしてカイの祖母に見送られた僕らは出発すると賑やかになり始めたアイルの街まで歩き出す。

 

「それで?次の目的地は決めてるの?」

「まだ決めてないんだ・・・」

 

シルヴァに次の目的地を聞かれ、僕は苦笑しながらそう答える。色々あったせいか次の目的地を決めていなかったしなぁ・・・。

 

「だったら"オラルド王国"へ行ってみんのはどうだ?」

「オラルド王国?」

 

するとカイが次の目的地としてオラルド王国を提案する。初めて聞く国の名前だな。

 

「ああ、アイルの港から"ローロッパ大陸"行きの船がある。そこにオラルド行きの便があるからそれに乗るといい。」

 

ローロッパ大陸への船旅・・・それは此処ブリテン島を離れ、新天地に向かうことを意味していた。

 

「海を渡って新しい大陸に行くってことよね?凄い!ワクワクして来た!」

「ローロッパ大陸か・・・うん!決まりだ!オラルド王国に行こう!」

 

僕は目を輝かせながら次なる目的地をオラルド王国に定める。

 

「港までの道はオレが知っているから案内してやる。」

「ありがとうカイ!」

「よしっ!行こ行こ!!」

「ちょっとシルヴァ押さないでよ!」

「ごちゃごちゃうるせぇぞ!!」

 

そんな会話をしながら僕らはオラルド王国行きの船がある港まで歩を進める。こうして水の精霊ウンディーネの力を得たと同時にカイを二人目の仲間に加えた僕は次なる目的地へ旅立つ。

 

師匠と会う為に始めた騎士の冒険・・・それはいつしか精霊を探す旅へ変わり始める。師匠は何故、僕にエクスカリバーを授けたのか?

 

その答えは彼女に会ってから聞く事になるだろう。

 

◇◇◇

 

「以上がアイル共和国侵略作戦の報告だ。」

 

薄暗い艦長室・・・そこではアレスが伝声器の様なもので何者かと連絡を取り合っていた。

 

『何故、十二神騎とあろう貴様がアイル共和国の侵略を失敗する?』

「とんだ邪魔が入った。それだけだ。」

『任務の失敗の責任はどう取るつもりだ?』

「言っておくが俺は"ゼウス"様から派遣された立場だ。治外法権でお前も国も俺を咎めることは出来ん。」

 

苛立つ通話に対しアレスはそう答える。

 

『・・・フッ、まあいい。アイルの首都に被害を与えただけでも良しとしよう。』

「それよりアイルで興味深い人物を見つけた。」

『興味深い人物だと?』

「そうだ」

 

アレスはそう言って兜の目から青い瞳を光らせた。

 

「いずれ俺達の脅威となり得るが手中に収めれば力になる。」

『・・・面白い。ソイツに手こずったのなら許そう。それで?誰なんだ?』

「聖剣"エクスカリバー"に選ばれた少年だ。まだ若いが実力は確かにある。既に二体の精霊の力を得ている。」

 

アレスの報告に通話相手は微かな笑いを零す。

 

『成程。それはいい。ならばアレス。貴様はソイツの拿捕を行え。』

「言われなくてもそのつもりだ。だが補給が必要になる。一度本国に立ち寄らせて貰うぞ。」

『好きにするがいい。』

 

アレスと話していた通話相手はそのまま回線を切って伝声器は沈黙すると彼は窓に広がる空を見て呟いた。

 

「シエル、次に会った時には必ず・・・」

 

◇◇◇

 

 一方、世界中のあらゆる情報を報じる新聞社『ワールド・タイムズ』はロワ帝国自らが流してきたある情報を号外として急遽発行した。

 

『十二神騎兼ロワ帝国軍アレス准将率いる艦隊、アイル共和国への侵攻に失敗。阻止したのは騎士である聖剣を手にした一人の少年。ロワ帝国はこの少年に多額の懸賞金を懸けることを検討。』

 

この内容は多くの人々の目に留まり、新たなる騎士(シュバリエ)の台頭に歓喜を齎すと同時にロワ帝国軍の士気を高めるものとなった。

 

そしてこの情報はとある海域を進む一隻の黒い船の船員達にも伝わった。

 

「ねえねえ!これどう見てもシエルちゃんだよね〜?」

 

ヨルズは酒の入った瓶を片手に銃の手入れをしていたヘーニルに声を掛けた。

 

「お前、またこんな昼間っから酒飲んでんのか?てか何の話だ?」

「ご存知ないのですか?ヘーニル副団長。今朝、突然号外として流れてきた記事の件です。」

「ん?なんだ?」

 

ヘーニルはバルドルとフリッグから新聞を渡されて記事の内容に目を通す。

 

「これって・・・あっ!!コイツ!あの坊主か!?おい!オーディン!!見たかよ!この新聞!」

 

新聞を見た途端、ヘーニルはあちこちに置いていた銃の手入れ用の道具をばら撒きながらと一人の女性の前まで駆け付けると彼女もまた新聞の内容を見て嬉しそうに微笑んだ。

 

「ああ、今見ている。シエルで間違いないだろう。」

「・・・と、言うことはアタシ達に会いに来てるんだね!シエルちゃん!凄いよ~!」

「はい、私も驚きです。シエル様、団長とのお約束しっかり果たしに来られるのですね。」

 

ヨルズとフリッグは嘗て幼かった少年の成長に嬉しさを見せると新聞を見終えた女性は羽織っている襟付きのコートを風に靡かせた。

 

ラグナロク騎士団団長にしてシエルの恩師である伝説の騎士オーディン・・・愛弟子である彼と別れてから七年の歳月が経った今でも彼との約束を覚えていた。

 

「来たか・・・シエル!!」

 

オーディンは満足気な笑みを浮かべ、約束を果たす為に騎士となった愛弟子の旅立ちに心を躍らせた。

 

「しかしあの坊主。いきなりあのアレスとやり合うとは無茶しやがる。」

「うぅ〜でも大丈夫だったのかな?ヨルズお姉さん心配だよぉ〜」

 

新聞を見ながらヘーニルとヨルズはアレスと戦ったシエルを心配する。

 

「大丈夫ですよヨルズ船医長。シエル様はどんな困難でも乗り越えるお方です。」

「自分もそう思います。しかし相手が十二神騎のアレスとなると目を付けられたということでしょうか?」

「ああ、それに関しては私も胸騒ぎがする。」

 

バルドルの言葉にオーディンは笑みを消すとヘーニルに顔を向けた。

 

「ヘーニル。針路を"アフラン大陸"へ移して貰えないか?」

「まさか"奴"の所に行くのか?」

 

オーディンの指示にヘーニルもまた笑みを消した。

 

「アレスの親玉はあの人だ。下手をすれば対立になりかねないが出来れば穏便に済ませたい。」

「了解だ。対立だけは避けてくれよ?SSR級の騎士団が小競り合いを起こしただけで各国がピリピリしだすからな。」

「分かっている。」

 

何処か不穏な空気に包まれながらもオーディンは”ある人物”に会うために準備を進めるのだった。

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