Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第28話:殺人事件

夕食を終え、宿泊している部屋に戻った僕らは一時の自由な時間を過ごした。

 

「ふう・・・お風呂気持ち良かったぁ〜」

 

船内にある大浴場へ行ってきた僕は寝巻きに着替えて部屋に戻って来る。

 

「あら、シエル君。おかえりなさい」

「ルーチェも入って来たのか?」

「うん、アタシと一緒に入って来たわ。」

 

リビングには既にシルヴァとルーチェの姿があり、二人共ソファで寛いでいた。

 

「そういえばカイはどうしたのよ?」

「カイなら一階にジムがあるって話を聞いてそこに一人で向かったのを見たよ。多分その内戻って来るんじゃないかな?」

「あっそ」

 

カイの行方を聞いたシルヴァは急に無関心な素振りを見せる。仲が良いのか悪いのか・・・。

 

「ところでルーチェは何を読んでいるの?」

 

ふとソファで黒縁の眼鏡を掛けながら読書をしているルーチェに顔を向けて尋ねた。

 

「魔導書よ。とは言っても全部記憶してしまっているから趣味で読み返している感じね。」

「そんな分厚い魔導書を全部暗記したのか!?」

「そうよ意外とすらすら覚えられるわ。どう?シエル君も読んでみるかしら?」

 

ルーチェにそう言われて分厚い魔導書を差し出される。辞書みたいだ。

 

「あ、いや僕は良いかな・・・」

「あら、意外と知識を覚えるのは苦手なのかしら?」

「うぐっ・・・」

 

ルーチェにそう言われ、ぐうの音も出なくなる。確かに昔は勉強が苦手だったけど。

 

「そうそうシエル!ルーチェ凄いんだよ!色んな魔法を使えてアタシびっくりしたの!」

「シルヴァちゃんもあの程度の魔法なら直ぐに身につけられるわよ。それに・・・」

 

彼女は微笑むと静かな声でシルヴァに言った。

 

「貴女になら女の魅力も教えられるわ。」

「女の・・・魅力?」

「そう。女は魅力と秘密を身につけることで強くなれるのよ。」

「女の魅力・・・ねぇ。」

「あら?シエル君には分からないわよ?女の魅力はね。ウフフフッ」

 

クスクス笑うルーチェに僕は返す言葉を無くす。え?もしかして馬鹿にされてる?

 

「さっ二人共、折角だし紅茶を淹れてあげるわ。」

「紅茶?」

「そうよ。私こう見えて色んな紅茶の茶葉を持ってるの。」

 

ルーチェはそう言うと部屋に設けられた棚の上にあるポットに自身の持つ茶葉を入れると魔法で出したお湯を注いで割賦に紅茶を注いでいく。やがて部屋中に心地よい香りが広がると自然と気分もリラックスしていくように感じた。うーん。良い香りだ。

 

「さっ、暖かい内に飲んで。」

 

テーブルに割賦が置かれ、それをルーチェに勧められると僕は香りを楽しみながら割賦を口元へ近付ける。

 

「・・・いただきます。」

 

恐る恐る紅茶を口に流し込んだ瞬間、目を見開いて驚愕する。美味しい!ほんのりとした茶葉の香りが口元に伝わってくる・・・紅茶はワースに居た時母上がよく淹れてたけどそれを越えてくる美味しさだ!!きっと母上も欲しがりそうだな。

 

「その表情・・・口に合って何よりだわ。」

「アタシも飲んだけど凄く美味しい!」

「シルヴァちゃんにもそう言って貰って嬉しいわ。」

 

紅茶の味を絶賛するシルヴァにルーチェはにこやかな笑みを浮かべた。

 

「この茶葉何処で手に入れたの?僕、ワースに居た時紅茶を飲む機会はあったけどこんな美味しい紅茶は初めてだよ。」

「これは"イザリア王国"で見つけた茶葉なの。」

「イザリア王国?」

「ローロッパ大陸にある国の事よ。もしかしたら行く機会があるかもしれないわね。」

 

ルーチェから茶葉の入手先を聞くと同時にまだ知らぬ場所が沢山ある事を思い知らされる。

 

「ふう・・・いい湯だったぜ。」

 

するとカイが全身に湯気を放った状態で戻って来た。

 

「アンタ、今戻って来たの?」

「悪ぃのか?」

「ううん、寧ろ静かで良かったけどね。」

「ケッ、よく言うぜ。オレはもう寝る。じゃあな!」

 

カイはそう言うと僕らを背にして自身の寝室へ入っていった。

 

「何よ!相変わらずムカつくわね!」

 

去っていくカイにシルヴァは舌を出しながら悪態をつく。本当に君らは仲が良いのか悪いのかよく分からないな。

 

「ウフフッ、本当に賑やかね貴方達。」

「そのせいで僕は手を焼いてるよ。」

 

クスクス笑うルーチェに苦笑する。こうして時間も忘れながら過ごした僕らは夜が更けると各々寝室へ入り、床に就く。

 

誰もが一時の平穏を過ごせると思っていた船旅。しかしそれはとある事件が起こったことにより打ち砕かれるのだった。

 

◇◇◇

 

「ん・・・うーん」

 

寝室で床に就いて眠ってから数時間が経ち、ふと目が覚めた僕は布団の中で寝返りをひとつ打ってから半身を起こした。

 

どのくらい眠ったのだろうか?寝室の小窓を覗くと外はまだ暗闇に包まれており、夜明けまでまだまだ時間がある様に思えた。

 

「久しぶりに質のいいベッドで寝たせいかよく眠れたな・・・」

 

余りの心地良さにすっかり目が覚め、仕方なく部屋のリビングで剣の手入れなりしようかと考えベッドから出ようとした・・・その時だった。

 

「きゃああああああああああ!!!!」

「ッ!?」

 

突然、部屋の外から悲鳴が聞こえてくる。悲鳴!?それも上から聞こえた様な・・・待てよ?上?・・・まさか!?嫌な予感を感じて飛び起きるとエクスカリバーを片手に寝間着姿で急いで寝室を出る。

 

「シエル!」

「カイ!」

「な、何何何!?今のって悲鳴よね!?」

「えぇ、嫌な予感がするわ。」

 

騒ぎを聞きつけたのかシルヴァ達も各々の寝室から出てくる。

 

「悲鳴は多分、上から聞こえてきたよ。」

「上?上ってカス共の部屋か?」

「兎に角行きましょう!何かあったのは間違いないわ!」

 

僕らは頷き合うとそのまま宿泊部屋を飛び出して慌ただしくなった船内を他所に悲鳴が聞こえてきた三階・・・貴族専用の部屋があるフロアへ向かった。

 

「あっ!あそこ!」

「あれか?」

 

階段を上がると既に廊下では貴族達が遠くから何かを見つめており、その奥にある扉の前で駆け付けた船員達と崩れ落ちる女性船員の姿があった。

 

「あの?どうしたんですか?」

「うん?何だね君達は?」

「僕らは下の階に止まっていた騎士です!悲鳴が聞こえたので駆け付けました。」

「騎士の方でしたか!いや、それが・・・」

 

騎士であることを船員に伝えると女船員が震えながら声を上げた。

 

「・・・ううっ、嫌、嫌ぁ!」

「大丈夫か?お前はもう休め!」

 

蹲る女船員を他の船員達が介抱すると僕らはドアが開いている部屋の前に立って中を見た。部屋は貴族専用の娯楽室と思われ、ダーツやビリヤード台が置かていた場所だったが・・・

 

「ッ!?これは!」

「おい!これはシルヴァに見せるな!」

「分かってるわ!」

「ふえっ!何よ!?見せたっていいじゃない!」

 

余りの衝撃的な光景を見て、刺激に弱いシルヴァが見えないよう僕とカイが彼女の前に立つ。これは流石に見せられない。だって・・・再び娯楽室に目を向け、顔を顰めた。

 

僕の視線の先にはビリヤード台の傍で乗船前に出会ったウェールズ王国の貴族である男の亡骸が仰向けに倒れているのだった。

 

◇◇◇

 

 ウェールズ王国の貴族が亡くなった状態で見つかってから暫く経った後・・・事情聴取の為、僕らは現場に居合わせた船員達と一緒に乗務員室へ同行した。

 

「遺体で見つかったのはウェールズ王国の貴族ルーカン卿。当船を利用してオラルド政府に使者として向かう予定だった様ですね。」

「ふーむ、そうか。」

 

船員の報告を聞いた船長は後退した頭を撫でながら掛けている丸眼鏡を上げると僕らを見て謝罪する。

 

「騎士の皆様。船旅の中お騒がせして申し訳ない。船長である私・・・マグカップからお詫び申し上げます。」

「船長さんのせいではないですよ。」

「あぁ問題は貴族をぶっ殺した犯人がいるって事だ。」

 

カイは腕を組みながらそう言ってマグカップ船長達を見た。

 

「は、はい、ルーカン卿ですが娯楽室で一人ビリヤードを楽しまれると仰った後、給仕担当のミラに赤ワインとつまみを希望されたそうです。」

 

事件前の動向を船員が報告すると彼の隣で第一発見者である女性船員のミラが身震いした。一人でビリヤードか・・・公務とはいえ自由な時間を謳歌してたんだな。

 

「それでミラは二階にある食糧庫へ向かったのだったな?」

「はい、その間に何者かが娯楽室へ入り、ルーカン卿を殺害したと思われます。被害者は仰向けに倒れた状態で倒れており、死因は頭部を殴られたことによるものと思われ、傍には血のついたキューが落ちていました。」

 

ミラは懸命に当時の状況を詳しく共有してくれた。

 

「凶器はそのキューで間違いないな。ルーカン卿とミラ以外に人は?」

「居なかったそうです。宿泊されていた貴族の皆様は部屋に篭っていたそうなので・・・」

「そうか・・・おや?」

「船長?どうされましたか?」

 

するとマグカップ船長が自身の胸ポケットを見て頭を抱える。

 

「私とした事がペンを落としてしまった様だ。メモを取ろうとしたのだがね。」

「船長、しっかりして下さいよ。」

「いやぁ、すまない!それよりも・・・」

 

彼は船員に笑みを見せた後、僕らに顔を向けた。

 

「騎士の皆様、巻き込む形で申し訳無いのですが・・・お一つお願いしても宜しいでしょうかな?」

「は、はい。なんでしょうか?」

 

僕はマグカップ船長を見て、彼の依頼を伺う。

 

「もう一度現場を確認して貰った上で乗客と船員の皆様へ代わりに聞き込みをしてもらいたいのです。私は事件の事を記録して参りますのでお願い出来ますかな?」

「分かりました。」

 

マグカップ船長の依頼を快く引き受ける。何であれ犯人を捜さないと殺されたルーカン卿が無念でならない。

 

「まあ、あのカスを殺した奴がここを彷徨いてんならやるしかねぇな。」

「じゃあ決まりね。でも、四人纏めて行動するのは機動性に欠けるわ。ここは現場を確認するチームと聞き込みをするチームに別れましょう。」

「うん、分かったよ。それじゃあ・・・」

 

ルーチェの助言を受け、皆の役割を指示する。

 

「僕とカイが現場を確認するよ。それでいいかな?」

「あぁ、あの現場は野郎で見た方が好都合だ。」

「よし。じゃあシルヴァとルーチェは船内の人に聞き込みをして貰えるかな?」

「オッケー!」

「分かったわ!」

 

僕の決めたチーム分けに各々頷いて了承する。こうしてルーカン卿殺害事件解決の為、僕らは動く事になる。突如始まった悲劇・・・船内では皆が眠れぬ長い夜が続いていた。

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