Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第40話:白翼の帆船

シルヴァ、カイと別れた僕とルーチェは船工房(ファクトリー)を目指してやや閑静な街を歩いていた。

 

「船工房の辺りは閑静としているんだな。民家しか見当たらないや。」

「ここは船工房に勤める船大工の住居が多い印象ね。彼らはこの辺りに家を建てて船工房へ通勤すると言われているわ。」

 

ルーチェの説明を聞いて僕は納得する。・・・そう言えば彼女とこうして二人で行動するのは初めてかもしれないな。

 

「どうしたの?私の顔をじろじろ見て。何か付いてるかしら?」

「あ、いや・・・何でもないよ。」

「本当にそうかしら?」

「本当だって・・・」

 

少しムッとした表情を浮かべるルーチェを慌てて宥めていると気が付けば船工房の入り口へ辿り着き、堅牢な鉄の門が僕らを阻んだ。

 

「・・・流石は世界一の工房。セキュリティも万全のようね。」

「近くに警備の人は居なさそうだね。これだと中には入れなさそうだ。」

「そうね。残念だけど船工房の見学は諦めるしかないわね。」

「うん」

 

扉を見たルーチェに残念そうな表情で返事する。中に入れないなら仕方ない。このまま街に戻ってシルヴァ達と合流するか。

 

「とりあえず戻りましょうか?」

「そうだね。シルヴァとカイもまだ街を回ってる頃だろうし戻ろうか?」

 

◇◇◇

 

 空が夕焼けに包まれた頃・・・僕とルーチェが街に戻ってしばらくするとシルヴァとカイもまた集合場所に戻ってきた。

 

「そう・・・依頼は無かったのね。」

 

二人からの結果を聞いて僕とルーチェは残念そうな顔をした。

 

「ごめんね二人共。なんか街の人達は騎士に依頼するまでもないらしいのよ。」

「オラルドは船も造れるから軍事力が自然と強くなんのも当たり前だな。まさか魔物討伐すらも軍がやってるなんてな。相当暇らしい。」

 

僕達に謝りながらシルヴァとカイはそう言った。

 

「とりあえず今日はここまでにしようか?それで明日、依頼を探してダメなら一旦アルステルに戻るなりしてもいいし」

「そうね。私達も船工房の中に入れなかったし庁舎に行ったら国の関係者同伴で見学とかもできそうね。」

「オッケー!じゃあ宿に泊まろ?」

「呑気だなテメェは。まぁ確かに疲れたしな。サザエの壺焼きをたらふく喰いてぇ。」

 

カイはニヤリとしながら自身の好物を思い浮かべる。

 

「待ちきれないようね。そろそろ行きましょうか?シエル君。」

「うん、行こうか?」

 

ルーテェに頷き僕は宿を探そうと辺りを見渡した時だった。

 

「ん?」

「どうしたの?シエル。」

「いや、あそこに道が見えてさ。」

「道?街と船工房とは逆方向だぞ?」

 

街と船工房の反対方向にやや整備が行き届いていない道があることに気付き、そちらに目を向けた。

 

「あんな所に道なんてあったのね。」

「でも、見たところ最近使われている形跡はなさそうね。」

「あぁ。どうせ獣道に続くところだ。宿を探すぞシエル。」

 

カイにそう言われるも僕は真剣な表情になり、まるで導かれるかの様にその道へ歩き出す。なんだろうこの感覚・・・誰かが呼んでいるような?

 

「おい!話聞けよカス!」

「シエル!待ってよ!」

「私達も行きましょう。」

 

三人も慌てて後に続くと僕はやや草木が生い茂る道をずんずん先に進んでいくと辿り着いた先に広がっている景色を見て目を見開いた。

 

「・・・ここは」

 

夕焼けに染まる黄昏れの空、大海原を一望できる廃港。そしてそのすぐ先には苔生した何かの工場跡があった。何処なんだろうか?ここは。この辺で呼ばれた気がしたんだけど・・・。

 

「シエル!」

 

するとシルヴァ達もようやく僕に追いついて合流する。

 

「もう!一人で先に進まないでよ!」

「それより・・・何だここは?」

「見たところ何かの工場の跡地の様ね。」

 

三人もまた辿り着いた場所を見渡す。

 

「ただ苔の生えた工場跡か。シエル、テメェ何を感じてこんなとこに来た?」

「なんでだろうね・・・。」

 

カイの問いに僕は両手を力なく上げながら答えた。

 

「ねぇ!待って!あの工場の中に何かあるよ!」

「えっ?」

 

ふと、シルヴァが工場の方を指差すと工場の中から何かが見えていた。

 

「あの形・・・造形的に帆船のようね。」

「なんでこんなところに帆船があんだ?・・・あ、おい!シエル!」

 

首を傾げる皆を他所に再び歩き出した僕は廃工場へ近づくと中にある帆船を見つめる。シルヴァ達もまたその後に続き、その帆船を見て息を呑んだ。

 

「やっぱり帆船だったわね。でも凄く古そうじゃない?」

「あぁ、ざっと二、三十年前のものか?」

「でもこの帆船・・・何処かで見たことがあるわね。」

 

帆船を見て、三人はそう呟く。半分近く破れたマスト、割れた船の窓・・・状態を見るからにしてとても海を渡れるほどのものでは無さそうだ。

 

船体には所々天使の様に白い翼の装飾が施されており、船首には白いグリフォンの顔の彫刻が付けられていた。

 

何だろうこの船・・・一見凄く古くて長い航海を終えた感じがするんだけど・・・とても不思議な感覚が漂ってくるが僕は船がこう訴えているように見えた。

 

”私はまだ航海できる”と。

 

「なんかこの船・・・見ているとちょっとワクワクするわね。」

「あぁ、この感じは長い時間旅をしてきたんだろ。」

「シルヴァとカイもそう思っているんだ。」

「なんとなくそう思うだけだ。」

 

シルヴァとカイもまた船から何かを感じている様子を見せる。

 

「ルーチェ。さっきこの船を見たことがあるって言ってたけど本当なの?」

「えぇ、でも何処だったかしら?確か・・・」

 

船を見たことがあると言ったルーチェが自身の記憶を辿ろうとした時だった。

 

「おい!そこで何してやがる。」

 

冷たい男の声が聞こえ、そちらへ顔を向けるとそこには僕やカイと同じ年頃の青年が真新しい木材を幾つか軽々と片手で抱えながら立っており、その見た目はやや長めの赤い髪、鋭い鳶色の瞳・・・

 

汚れや塗料が付いた赤い作業服を身に付け、耳はシルヴァの様なエルフ族とは違う形状をしていた。この人は誰だろうか?木材を担いでいる感じからしてこの船の所有者だろうか?

 

「誰だお前ら。この船に用でもあるのか?」

「あら、拝観料が必要だったかしら?」

「茶化してんじゃねぇぞ・・・お前。」

 

青年はルーチェをギロっと睨みながら担いでいた木材をその場に降ろす。

 

「随分喧嘩腰だなテメェ。」

「当たり前だ。余所者に喧嘩売られたら買うって言われなかったか?」

「上等だ!望みどおりにしてやるよ!」

「カイ!」

 

青年に殴りかかろうとしたカイをシルヴァが制止する。

 

「ふん。野蛮な連中だな。どうせこんな俺を笑う為に見物しに来たんだろ?」

「ちょっと!そこまで言ってないじゃない!」

「喧嘩売られてる自覚がないか?お前。」

「何よ!アンタねぇ!」

「シルヴァも落ち着いて」

 

今度はシルヴァが青年に怒り出し、僕が制止するとそのまま青年に頭を下げた。

 

「勝手に君の船を見てしまって申し訳ない。・・・でも、あの船から不思議な力を感じてつい・・・」

「不思議な力?何を言っているんだ?」

「信じてもらえないかもしれない。でも僕には分かるんだ。あの船はもう一度海に出たい。そう思っているんじゃないかって!」

 

僕の言葉に青年は目を見開いて静かに驚く。

 

「あの船君だけで直してるの?」

「だったらなんだ?お前には関係ない。」

 

青年は顔を背けてそう答えた。

 

「そうかもしれない。でも、あれを見ていたら放ってはおけない。良かったらさ・・・僕達にも手伝わせてよ。勝手に船を見たお詫びにさ。」

「シエル!?」

「正気か!?」

「いいから!」

 

僕の言葉に驚くシルヴァとカイを黙らせて再び青年を見るとルーチェがそれに同意する。

 

「シエル君のいう事には一理あるわね。人は多い方が早く片付くと思うわ。その感じだと船工房の力は借りたくなさそうだしね。」

「どう・・・かな?」

 

恐る恐る青年に船の修理協力を申し出ると彼は暫く黙り込んだ様子を見せ、再び口を開いた。

 

「どうやらお前達二人はあの船の価値が分かっているようだな。」

「歴史は知らない。でも・・・あの船は普通とは違うって分かるんだ。」

「そうか・・・後ろの二人は気に食わないがお前達は信用できそうだ。」

 

青年はシルヴァとカイに目を向けた後、僕を見て頷いた。

 

「いいだろう。だったら力を貸してもらうぞ。」

「ありがとう。僕はシエル。騎士として旅をしているんだ。こっちはルーチェで後ろにいるのがシルヴァとカイ。皆、僕の仲間なんだ。」

 

僕が自己紹介すると青年もまた木材を再び担いで名乗った。

 

「・・・エルデだ。ここで船大工をしている。宜しく頼む。」

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