Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第41話:孤高の獣人 エルデ

翌日・・・白翼の船を修繕する青年エルデの手助けをすることにした僕らは彼のいる廃港を訪れた。

 

「驚いた。本当に来るなんてな。」

「コイツはやると言ったらそれを曲げねぇ男だ。兎に角、手伝ってやるよ。」

 

カイはそう言うと少し呆れた様子で僕を指差した。

 

「そういえばルーチェはどこ行ったの?」

 

するとシルヴァはルーチェが居ないことに気付いて辺りを見渡す。

 

「そういえば少し寄り道をしてから来るって言ってたよ。」

「チッ。一丁前のこと言っておきながら遅刻とはな。」

「そんな言い方ないでしょ!カイ。」

「ケッ」

 

ルーチェに文句を言うカイにシルヴァが怒る。また喧嘩になるのかよ・・・。そう思いながら仲裁しようとした時だった。

 

「待たせたわね。皆」

 

ようやくルーチェが到着すると僕はその姿に思わず目を奪われた。紫の作業着にいつものセミロングではなく動きやすさを重視したポニーテール。上は肩と腕が露出した格好をしており、手には買って来たであろう茶菓子と紅茶の入ったバスケットを持っていた。何だろうこの格好・・・なんかドキドキするな。

 

「シーエール?なんでルーチェをじろっと見てるのよ?」

「えっ!?いや!そんなことないよ!?」

 

こちらを見てきたシルヴァに慌ててそう返すが彼女は何処か嫉妬に近い視線を向けてきた。・・・なんでそんな目をするんだ?

 

「やっと来たかと思えばなんだ?菓子なんか持ってきてよ。」

「あら。お節介だったかしら?」

「全然!お節介じゃないよありがとうルーチェ。」

 

お茶とお菓子を用意してきたルーチェにシルヴァは礼を言う。

 

「どっちでもいい。これ以上は時間の無駄だから早くしろ。」

「うん!じゃあ宜しくね。」

 

僕はエルデに頷くと早速、彼の指示で作業を始めるのだった。

 

◇◇◇

 

「その木材は船体の取り付けに使う。そこに置いておけ。」

「分かった。ここでいい?」

「あぁ。続けて舵輪の取り付けとメインマストの組み立てをやってくれ。取り付けは俺がやる。」

「うん!」

 

僕は汗を拭いながらエルデの指示通りに着々と作業をこなしていく。肉体労働だが日々の鍛錬で身体が慣れていたせいか重い木材を運ぶのは朝飯前だ。

 

「おい!そこの青い奴。その木材は反対だ。あと、その持ち方だと加工した部品が壊れる。」

「いちいち細けぇんだよクソが!!あとオレの名前はカイだ!」

 

一方でエルデに注意されたカイは彼を怒鳴り返す。

 

「お前の名前を覚える気はねぇ。言われた通りにしろ戦争屋。」

「テメェ!!」

「カイ!言う事を聞いて!」

「チッ」

 

怒るカイを宥めた僕は直ぐに彼を抑えて溜息を吐く。・・・巻き込んでしまったのは申し訳ないけど喧嘩はないで欲しいな。

 

「おい!エルフの女。それは室内に使う木材だ。」

「いいじゃない!これ重いのよ!あとアタシの名前はシルヴァよ。」

 

今度はシルヴァが注意されると彼女も怒り出す。あぁ、もうやめてくれ。

 

「だから覚える気はないと言っただろ。いいから言われた通りに動け。」

「ムキーッ!何よアンタ!」

「シルヴァちゃん。落ち着いて。」

 

しかし、こちらはルーチェがシルヴァを抑えて事なきを得る。どうやらエルデと打ち解けるのはまだ難しそうだ。気を取り直して僕らは黙々と木材の運搬と組み立てを続けて船の修繕を行っていく。気が付くと陽の光は空の真上辺りまで昇っており、キリがいいところで休憩をとることにした。

 

「はむっ!・・・うーん!ルーチェの買ってきたお菓子、紅茶と合うね!」

「うふふっ。シルヴァちゃんの口に合って良かったわ。」

 

船の傍で腰掛けながら茶菓子を口にしてにっこりするシルヴァにルーテェは嬉しそうに笑うと僕は彼女達の傍で紅茶を嗜む。相変わらずいい紅茶だ。いつか母上にも飲ませてあげたい。

 

「あれ?そういえばエルデは?」

 

ふと、エルデが居ないことに気付いた僕は辺りを見渡して彼の姿を探る。何処に行ったのだろうか?

 

「アイツか?なんかあの船の甲板に上がって一人で居んぞ。」

 

カイが船の甲板を顎で指しながらそう言うと僕はそちらに顔を向け、考えるよりも先に甲板へ続く梯子に手をかけた。

 

「あっ!シエル!どこ行くのよ!」

「ちょっとね。皆はここに居てよ。」

「なんなのよ~」

「放っておけ!またアイツの趣味だ。」

 

シルヴァとカイの言葉を他所に僕は甲板へ上がるとそこには青い空と海を静かに見つめるエルデの姿があった。

 

「こんなところに居たんだ。皆と一緒に居ないの?」

「・・・一緒にいて何になるんだ?俺はお前達と一緒にいる意味はねぇ。」

 

僕の言葉にエルデは冷たい口調でそう返してくる。

 

「意味はあると思うよ?」

「何故そう言い切れる?お前に俺の何が分かんだ?」

 

彼の鋭い眼が僕を睨む。しかし、その眼は何処か寂しさがあるように見えた。まるで無理して孤独を抱えている・・・そんな感じがした。

 

「僕に君の事は分からない。でも、こうしている内は”仲間”だよ。」

「・・・意味が分からねぇな。なんでそれだけで仲間と言える?」

「言えるよ。僕はそう思ってるから。」

 

僕の答えにエルデは眉を寄せて言った。

 

「じゃあ・・・俺が”獣人”だと言ってもか?」

「獣人?」

 

獣人・・・確か月の光や感情が高ぶると獣に変身する種族だったっけ?獣化すると獣の力と同時に肉体が強化されるが自我を失い、敵味方問わず暴れてしまうらしい。

 

そのような特性があったことから獣人は昔から迫害と差別の対象になっており、今では滅多に見ない種族となっている。

 

獣人の存在は幼い頃に師匠から聞かされていた為、知っていたが実際に出会ったのはエルデが初めてだ。

 

「獣人は迫害と差別の対象だ。俺も昔は肩身の狭い暮らしをしてきた。そんな時に見つけたのがこの船・・・エール・ブランシュ号だ。」

 

エルデはそう言って白翼の帆船・・・エール・ブランシュ号の甲板の床を撫でる。この船・・・文字通り”白翼”って船名だったのか。

 

「俺は船工房で造船技術を学び、ここで静かに暮らしながらエール・ブランシュ号を独りで直してきた。いつかコイツをまた海に連れ出すのが夢なんだ。でもそんな夢を誰かに言ったところで馬鹿にされるだけだ。お前もお前の仲間もどうせそうなんだろ?俺が獣人だと言えば・・・馬鹿にすんだろ?」

「獣人だから・・・何なの?」

「・・・は?」

 

キョトンとするエルデの隣に僕は深々と腰を下ろす。

 

「そんなこと些細なことじゃない?獣人だからとか僕はそんなこと全く思ってないよ?」

「お前、俺が怖くないのか?俺は急に獣になる種族だぞ?」

「その時は僕が君を止めるよ。そもそも獣人だからとか僕から言わせれば関係ないよ。」

「お前・・・」

 

唖然とするエルデに構わず僕は自分の思っていることを告げる。

 

「この世界には色んな人が居るよ。肌の色、耳の長さ、更には言葉や種族が違う人もいる。でも皆同じ等しく”人”なんだ。生まれつき落ちこぼれだって肌の色が違ったって何かしら障がいを持っていたって良い。皆”人”として生まれてきたんだ。生きる価値がある。それ以上もそれ以下も無いって思うよ。」

 

そう言うとエルデに顔を向けて微笑んだ。

 

「だから獣人だからとか気にしなくていいよ。君を悪く言う人が居るなら僕が倒す。」

「おい待て!そこまでする義理はお前に無いだろ?」

「あるよ。だって君はもう”仲間”だから。」

「・・・ッ!?」

 

その言葉にエルデは目を見開いて驚くと何処か嬉しさと呆れが混じった笑みを浮かべた。

 

「フッ・・・お前。面白い奴だな。初めてだ・・・他人に対してそう思ったのは。じゃあここからも手伝ってもらうぞ。この船・・・エール・ブランシュを一緒に直す。約束だぞ?」

「うん!勿論だよ。」

 

僕とエルデは固い握手を交わし、結束を深めていく。白翼の船、エール・ブランシュ号の修繕はまだ始まったばかりである。

 

 

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