Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜 作:ジャック・オー・ワンタン
「きゃあああああっ!」
甲板で始まったシルヴァとヴィーナの戦闘・・・しかし、開幕して直ぐにシルヴァの悲鳴が聞こえると彼女は地面に転がって倒れてしまう。
「その程度なの?」
ヴィーナはそう嘲笑うように言うと剣を片手にシルヴァの前へ歩み寄る。それでも僕達は手を貸すことなく固唾を呑んで見守っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・黙ってよ。アタシは・・・白翼の騎士団の射手(いしゅ)よ!」
自らの役職を名乗ると颯爽とした足取りでヴィーナと距離を取る。
「なっ!?」
その速さにヴィーナは驚いて呆気に取られているとシルヴァはいつの間にか既に彼女の背後へ回っていた。
「しまった!?」
「今よッ!」
そしてシルヴァは弓ではなく腰に装備していた短剣を抜いて勢いよく横殴りに振った。
「”森林一閃(フォレストダガー)”ッ!!」
一瞬、緑色の閃光が走ると彼女の短剣の斬撃が具現化してヴィーナへ迫る。・・・あれは剣雷?いや、でも全く違うように見える。
「ぐっ!?・・・がはっ!!」
そんな僕の静かな驚きを他所にヴィーナは剣で跳ね返そうとするが間に合わず直撃を受けると地面に転がって倒れた。
「アイツ。短剣使えたのか?」
ふと隣に立つカイが僕にそう尋ねてくる。
「確か、僕と会って間もない時に激昂してたシルヴァが使ってたかな?」
「どういう状況だよ・・・。」
僕の答えにカイは冷や汗を流す。イノクマとの因縁があったし多くは語らない方がいいだろう。
「にしても今の攻撃何なんだ?明らかにいつものシルヴァの戦闘だと見ねぇものだぞ?あの閃光みたいなのは・・・」
エルデは先程の緑の斬撃に付いて触れるとルーチェがその答えを出した。
「あれは・・・魔法ね。」
「「魔法!?」」
ほぼ同時に声を上げた僕とカイ、エルデは一斉にルーチェを見る。
「エルフ族は元々魔力が高い種族。それはシルヴァも例外ではないわ。」
「でもシルヴァは魔法を・・・」
「えぇ。これまで一緒に旅をしてきて使ったことは無いわね。でも、明らかに彼女は近接戦で使用した。・・・無意識にね。」
「無意識に?」
ルーチェの解説を聞いて再び視線をシルヴァへ戻す。もしかしてシルヴァって弓よりも短剣・・・近接の戦闘の方が向いているのでは?
「「はあああっ!」」
そうこうしている内にシルヴァとヴィーナの戦いも終盤に入る。互いに得物を振り上げすれ違うと辺りにキーンという斬撃の音が響く。・・・そして。
「ううっ・・・」
「ぐっ・・・」
ほぼ同時に膝を付いてその場に蹲った。・・・シルヴァ。
「シルヴァ!」
真っ先に僕はシルヴァの元へ駆け出すと彼女を抱きかかえて介抱する。
「シエル・・・。アタシ・・・。」
「怪我はなさそうだね・・・あっ!」
幸い目立った外傷は無かったが彼女の顔を見た途端、言葉を失う。なんと彼女は傷を受ける代わりにその長いポニーテールの髪がバッサリ斬られ、短いボブの髪型になっていた。
「あはは・・・髪、結構斬れちゃった。アタシ、不格好になっちゃったよ。」
「そんなことないよ!カッコいいよ!」
「えっ?・・・あ、ありがとう。」
僕にそう言われたシルヴァは視線を逸らして華奢な白い頬を赤くする。
「あーあ。引き分けじゃない。」
するとヴィーナが不服そうな顔で立ち上がってシルヴァの前まで歩み寄る。僕らと対して歳は変わらないが流石は十二神騎と言ったところか直ぐに体制を立て直したようだ。
「アンタ。結構やるじゃないの。見直したわ。」
「な、なによ・・・。十二神騎だからって偉そうに。」
「アンタこそ・・・フフッ。」
二人は張り合うも直ぐに笑いを零す。
「次はアタシが勝つから覚悟しなさい!」
「それはこっちのセリフよ!」
互いに認め合いつつも素直になれないシルヴァとヴィーナを僕らは優しく見守る。
「ん?なんか飛んできてるぞ。」
「えっ?」
するとエルデが夜空を指差すとそこには見覚えのある白い梟がこちらへ飛んできていた。
「ゲッ!?」
刹那、ヴィーナは先程の勝気な性格を影に顰めて真っ青になるのだった。
◇◇◇
「この度は・・・私の妹が大変ご迷惑をおかけしました。」
白い梟が僕らの元へ来た直後、白梟騎士団の船がやって来てミネルバが甲板までやってくると僕らに謝罪の言葉を言った。淡々と謝る彼女の右手には大きなたんこぶを何個も頭に作って泣いているヴィーナの姿があった。
「あ、いえ・・・全然大丈夫です。寧ろお世話にもなりましたから。」
「そうですか。それならいいのですがッ!」
宥める僕に構わずミネルバはキッとヴィーナを睨んだ。
「アンタねぇ!大人しく船に居なさいって言いつけも守れないの?帰ったらお仕置きが必要ね!」
「うえーん!許して!うわああああん!」
僕達に助けを求めながらも虚しくヴィーナは勢いよくミネルバの船へと放り投げられてしまった。・・・うわ怖い。ミネルバさんって他人行儀なイメージがあったけど怒るとあんな風になるんだ。
「あの・・・ミネルバさん。」
するとシルヴァがミネルバへ恐る恐る声を掛けた。
「ヴィーナに・・・その・・・伝言をお願いしてもいいですか?「楽しかった」って。」
その言葉にミネルバは驚きつつも笑みを浮かべて頷いた。
「えぇ。必ずお伝えします。にしても・・・いいご友人を持たれたのですね。」
「えっ?」
それだけシルヴァに言い残したミネルバは僕らに手を挙げて別れを告げるとそのまま自身の船に乗り込み、去って行った。
「行っちまったな。」
「あぁ・・・。」
遠ざかる白梟騎士団の船を見ながらカイとエルデはそう会話する。確かに・・・ヴィーナが居たのが短くも長く感じた。ちょっと寂しさはあるかな。
「あら、シルヴァちゃん。嬉しそうね。」
ルーチェが微笑むシルヴァを見ると彼女は短くなった髪を靡かせながら言った。
「うん。あの子とはまた会えそうな気がするから。」
その言葉と同時に地平線から朝日が昇る。
「さて、船を進めんぞ。」
エルデは背伸びをしながら改めて針路をアフラン自治区へ進める。
果てしなく続く青い海・・・その中でシルヴァはまた一段と強くなった。森で生まれ育った彼女は僕らと長い旅を経て多くの出会いと葛藤、成長を遂げるだろう。それは僕も同じだ。
「・・・頑張ろうね。」
僕は微笑むと船室へ戻るシルヴァの背中にそっと声を掛けるのだった。
◇◇◇
アフラン大陸上空・・・そこにはロワ帝国の空母が進行していた。
「准将。間もなくアフラン自治区上空です。」
「ご苦労だホークアイ少尉。」
報告に来た女性士官に返答したアレスは艦長席から立ち上がると艦橋内に居る兵士に指示を送る。
「目標は”グランデ・キャニオン”の麓だ。降下しろ!」
「はっ!」
「おやおやぁ~遂に作戦を始めるのかい?」
すると艦長席の背後から奇抜な格好をした女性がアレスにそう言ってくる。
「貴様は黙っていろ。カリオストロ。」
「生意気だねぇ!アタシが宰相カグツチの直属の部下ってことをお忘れかい?」
「本来の階級は中佐。だが、宰相直属が一般の艦隊に入った際は二階級特進とみなすルールで俺と対等になったつもりか?」
アレスはカリオストロと呼んだ女性を見て言った。
「ンフフフフ。そうでないと面白くないだろう?それにアンタは宰相に監視されてるってことを忘れちぇいけないよぉ?」
「言ってくれるな。この俺が何をしたと?」
「部外者は信用できないって判断されたんじゃないかい?ンフフ・・・せいぜい頑張るこったね。」
カリオストロはそれだけ言い残すと控えていた自身の部下と共に去っていく。
「宰相の犬風情が・・・!」
そんな彼女の背中をアレスは青く冷たい瞳を鉄仮面の目から覗かせて睨みつけるのだった。
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