Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜 作:ジャック・オー・ワンタン
「怪我人を運ぶぞ!!」
アフラン大陸の砂漠地帯に位置するアフラン自治区・・・渓谷地帯との境目にて落石災害に遭った傷病者が次々と運ばれていた。落石の数は計り知れず巻き込まれた者は皆、アフラン自治区へ綺麗な水を届ける最中だった。
「ああっ・・・い、痛い!」
「我慢しろ!自治区に戻れば医者に治療して貰えるぞ!」
救助した者はそう怪我人に声を掛けるがそれも焼け石に水状態だった。
「ちくしょう!コイツの出血が止まらねぇ!こりゃあ運んでる途中に・・・」
誰もが手の施しようがなく、諦めかけた・・・その時だった。
一頭の馬が砂漠を駆け、彼らの前で止まるとその上に乗っていた褐色肌のハーフフット族の女性が砂漠に降り立つ。
女性はハーフフット族特有の小柄な体ながらも慣れた手つきで馬に積んでいた道具を取り出して颯爽と傷病者も元へ駆け出す。
羽織っている白衣を靡かせながら。
「おい!聞こえるか?医者のエレミアだ!分かるか?もう大丈夫だ!」
エレミアと名乗った医者はこの短時間で瞬時に容体が重い患者を見極めると素早い動きで薬草や鎮静剤、止血の処置を終えて見せる。
「エレミア!集落で大人しく待てって言っただろう!?」
救助を行っていた一人の男がエレミアにそう呼びかけるも彼女は聞く耳を持たず淡々と応急処置を終わらせていく。
「エレミア!!聞いているのか!!」
「うっせーなぁ!!」
怒鳴り声を上げた男を睨んだエレミアは彼らを一人ずつ見て口癖のように言う。
「素人は黙ってろ!!”待ってるだけじゃ救えねぇ命がここにあるんだよ!!”」
その気迫に怖気付いた男達は遂に黙り込むと彼女の働きをじっと見守る。
「コイツ、血圧が下がってんな。タイムリミットはもって10分か?・・・おい!コイツは優先的に運べ!町に戻ったら区長にオペをさせる!」
「えぇ!?いや・・・しかし。」
「ぐずぐずすんな!!時間がねぇんだよ!!」
「あ、はい!」
またもエレミアの気迫に負けた男達は言われた通りに重症の患者を運んでいく。そして・・・最後の患者の応急処置を無事終えて見せた。
「うっし!コイツで最後か。」
「エレミア!次の落石が起こる前に避難するぞ!」
「あいよ!」
こうしてエレミアは道具を片付けると患者を介抱する男達の背を追ってこの場を後にするのだった。
◇◇◇
ヴィーナと別れてから数日後・・・
「見えてきた。あれがアフラン大陸だ!」
陽が頂点に達した雲一つない空の下・・・青い海を悠々と渡航するエール・ブランシュ号の甲板からエルデが見えてきた大陸を指差した。
「着くのはいいけど・・・なんか全体的に黄色いね。」
「アフランは砂漠地帯だからな。一筋縄で入り込めば命の保証がねぇ。あとシエル。気を付けろ。」
カイはアフラン大陸の環境を説明すると同時に険しい顔をして言った。
「ここはあの十二神騎の根城がある大陸だ。喜望峰からは遠く十二神騎がこんな砂漠に来る可能性は低いがくれぐれも気を付けろ。」
その言葉に僕だけでなく皆の気が引き締まる。・・・そうだ。アフラン大陸には土の精霊ノームが眠っているものの同時にここは十二神騎の拠点喜望峰がある大陸でもある。ミネルバやヴィーナ、ユピテルの様に僕に危害を加えない者なら問題ないがアレスの様な騎士が居てもおかしくはない。
「シエル君。無いとは思うけどゼウスが出てくる可能性も捨てきれないわ。」
「うん。分かってる。エルデ。上陸準備を!」
「ああ!」
エルデに指示を送り、僕らは遂に四体目の精霊が眠る地・・・アフラン自治区を目指して上陸する。
アフラン大陸・・・大陸の約6割が砂漠地帯を占めるここは”世界一過酷な大陸”と呼ばれることもある。一面砂漠に覆われ、中心部には砂で出来た巨大な山『グランデ・キャニオン』が聳え立ち、最南端には十二神騎の拠点喜望峰が存在する。
そんな過酷な大陸に上陸した僕らは早速、停泊させたエール・ブランシュ号で作戦会議を始めた。
「ってことで上陸させたのはいいが先ずアフラン自治区はここからかなり距離がある。水や食料は多めに持って行った方がいいぞ。」
エルデは地図を差しながら僕らにそう警告する。確かにこの砂漠だと水があるとは思えない。水と食料は予め用意しておくのが最適だろう。
「俺はここに残る。船が荒らされる可能性もあるしな。」
「賢明な判断だ。エール・ブランシュは任せたぞ。エルデ。」
「じゃあ残りのメンバーでアフラン自治区を目指そうか?」
エルデに船番を任せ、残った四人でアフラン自治区を目指すことにする。
「ねぇ。ちょっといい?」
するとヴィーナの件から髪が短くなり、雰囲気が変わったシルヴァが静かに手を挙げる。
「なんだ?最初(ハナ)から行かねぇ宣言か?」
カイがいつも通りシルヴァに憎まれ口を叩くが彼女は今までと違い、冷静にあることを尋ねた。
「アフラン自治区までオアシスが無いのよね?」
「え?・・・あぁ、そうだが・・・なんでオアシスなんか?」
シルヴァの言葉にカイは驚く。それは僕らも例外ではなかった。森で暮らし続け、世間を知らなかった彼女の口から急にオアシスなんて言葉が出てくるなんて・・・。
「此処に来るまでに調べたの。砂漠がどんな所かって。それでオアシスが砂漠地帯に水がある場所って事を知って。」
そう話したシルヴァの隣でルーチェは優しく微笑む。成程、彼女の根回しか?
「オアシスはここからアフラン自治区まで行くには遠回りになる。わざわざ向かう位ならここで多く持ち込んだ方が良いだろうな。」
「分かった。ありがとう。」
エルデは戸惑いを隠しつつシルヴァに答えると彼女は立ち上がって得物の弓矢と短剣を装備し始める。
「それじゃ行こ。皆。」
それだけ僕らに言うとシルヴァは颯爽とした足取りで準備を始めた。
「おい・・・アイツ、何があったんだ?」
「分からねぇ。ヴィーナと絡んでからあの調子だったが・・・。」
カイとエルデは戸惑いの言葉を漏らしながらもアフラン自治区へ向かう為、各々準備を始めるのだった。
◇◇◇
一方、アフラン自治区の区長宅では区長の怒鳴り声が響いていた。
「全くお前って奴は!危険の「き」の字も知らんのか!!」
アフラン自治区区長にして外科医であるウィスターは机を強く叩いて目の前に立つエレミアを諭した。
「我々医師は救助隊が運んで来た患者を診りゃいいんだ!!安全な場所で待って治療をする!それが医師だ!」
「はぁ・・・相変わらず頭硬ぇな。先生は。」
区長の言葉に溜息を吐いたエレミアは怯まずに反論する。
「待ってるだけじゃ救えねぇモンは救えねぇだろ!現にあの患者の中には失血死になりかけてた野郎も居たんだ!アタシが来なかったら今頃棺桶の中だったぜ?」
「それ以前にお前の安全を・・・」
区長がわなわな震えながらそう言いかけた途端、部屋のドアが開き、一人の看護師の男が焦った様子で入ってきた。
「区長!エレミア先生!急患です!」
「よっしゃ!来た!仕事だ!」
「おい!こら!エレミア!話は終わってないぞ!!」
急患と聞いて張り切るエレミアに区長は立ち上がって止めようとするが彼女は聞く耳を持たずに言い返した。
「アンタはそうでもアタシはもう終わってる!」
「待て!エレミア!」
結局、エレミアはバタンと部屋のドアを閉めると廊下を歩きながら白衣を着直して急患の元へと向かうのだった。
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