Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜 作:ジャック・オー・ワンタン
翌日。エレミアと邂逅した僕らはシルヴァを彼女に預けて土の精霊についての聞き込みを行った。しかし、規模の少ない地域とあってか知る人はおらず、皆、口を揃えて「御伽噺だろう」と言っていた。
「ちっ、収穫ナシか。」
暫く聞き込みを行ってからカイは愚痴を零す。
「仕方ないわ。アフラン自治区は50年も前に出来た地域。最近人が集まったばかりだし国ですらないわ。」
「アフラン自治区そのものの歴史が浅いから伝承とかは無いってことだよね。」
「どうする?一応アフラン大陸には他にも地域があるだろ?そこへ行くか?」
カイの提案にルーチェは首を横に振って却下する。
「ダメね。他の自治区はかなり距離があるしその道中でシルヴァみたいに誰かがもし倒れたら対処できないわ。」
「ちっ・・・八方塞がりじゃねぇか!」
ルーチェから放たれたリスクを聞いて僕達は打つ手が無くなる。・・・どうしたらいいんだろう?そう思っていた時だった。
「お困りのようですな。」
誰かに声を掛けられて振り返るとそこには白衣を着た年老いたエルフ族の男が立っていた。・・・誰だろうか?見た感じエレミアと同じ医者であるのは確かだけど。
「貴方は?」
「私はウィスター。医者でありここアフラン自治区の区長です。」
「まさか区長サマがじきじきに挨拶とはな。」
「区外から人が来るのは久しぶりなものでね。歓迎しまずぞ。」
ウィスターと名乗った男は笑みを浮かべて僕らの来訪を快く受け入れてくれる。
「話は聞きましたよ。精霊をお探しなんですか?」
「はい!もしかして区長さんはなにかご存じですか?」
「いや、私も分からなくてな。力になれずすまない。」
ウィスターもまた精霊の情報を知らないことを告げ、申し訳なさそうに頭を下げる。・・・区長ですら知らないなら打つ手はもう無いだろう。
「いえ、シルヴァが・・・僕らの仲間がここの医者に救われただけで十分ですので!」
「ここの医者?誰か診察したのですか?」
「はい・・・えっと確か・・・」
僕がエレミアの名前を出そうとした時だった。村人の男が焦った様子でウィスターの元へ駆けつけた。
「区長!大変です!エレミアが魔物が現れた現場にまた向かいました!!」
「あの馬鹿!何をしている!!」
それを聞いたウィスターは頭を抱えて呆れた表情をする。
「あのすみません・・・魔物って?」
「あぁ!ここから少し先にある砂漠で水を運んでた連中が魔物に襲われてな。偶然通りかかった騎士が独りで対処してるけど怪我人が出たんだ。」
「・・・私達も行きましょう!」
事情を聴いてそう言ったルーチェに僕は頷く。
「僕達も魔物を倒しに行きます!場所はどの辺ですか?」
「ここを出て西の方だ!」
「やっと暴れられるな!腕が鳴るぜ!」
魔物退治が出来ると聞いてカイは笑みを浮かべる。
「行こう!区長さんはここに!」
「え、えぇ!くれぐれも気を付けて!」
こうして僕らはエレミアと騎士がいる現場へと駆けつけるのだった。
◇◇◇
「医者のエレミアだ!聞こえるか!・・・ってこんのっ!」
その頃、魔物が出た砂漠の中では重症の患者から順番に声を掛けているエレミアが得物のメイスで迫る魔物を吹き飛ばしながら対処に当たっていた。
「はああああああっ!!」
その傍らでは一人の騎士が束ねたマゼンタの長髪を靡かせながら魔物と得意の格闘術で戦っていた。
「おい!アンタ・・・ウィルダーだったか?大丈夫か?」
「問題ない!アンタこそ早くここを退け!」
「そうしてぇのは山々だが患者がいるんだよッ!」
ウィルダーにそう答えながらエレミアは近付いてきた魔物を再びメイスで吹き飛ばす。
「うっ・・・ごふっ」
「・・・ッ!おい!」
すると重症患者が突然血を吐い始める。エレミアは直ぐに容態を確認して深刻そうな表情を浮かべた。
「くそっ。”魔物(モンスター)病”か!魔物に付いていた細菌が体内に入って即座に腫瘍となったのか!早く区長の所に連れて行かねぇと!それよりもまず・・・」
エレミアは点滴を取り出そうとするが再び魔物が彼女に迫って来る。
「くっ!」
突然のことに反応できず迫る魔物を見つめることしかできなかった・・・次の瞬間。
「おらっ!」
一人の影が目の前に現れると手にしていた薙刀で魔物を切り伏せて見せた。
「ッ!?お前達は!!」
ウィルダーはいつしか出会った一行を見て目を見開く。そこには二人を助けに駆け付けたシエル達の姿があった。
◇◇◇
「ウィルダーさん!?」
現場に到着するや否や思わぬ人物の姿を見て、僕は驚いた。アルステルでノアールと戦って以来の再会だ。という事は・・・たまたま通りかかった騎士ってウィルダーのことだったのか!!
「たまげたな!まさか未来視(フューチャーアイ)の天騎士が居るとは!あれから強くなったのか?」
「再会の言葉は後だ!カイ!手を貸してもらうぞ!」
「指図すんな!最初(ハナ)からそのつもりだッ!」
カイとウィルダーは互いの背中を預けると次々と魔物を倒していく。
「エレミアちゃん。これを。」
そんな中、ルーチェは杖を掲げてエレミアと患者たちを障壁魔法で覆っていく。
「ありがとよ!これで治療できるぜ!」
彼女のおかげで治療に集中できるようになったエレミアは得物のメイスを置いて患者と向き合う。・・・ルーチェは障壁を張るのに集中している。今、この二人を守れるのは僕だけだ!
迫る魔物と対峙した僕はエクスカリバーを抜いて風の精霊シルフの力を解放した。
「烈風の斬撃(ヴォン・スラッシュ)!」
放たれた緑の風を纏う斬撃は竜巻となって砂漠を駆けるとそのまま魔物達を巻き込んで殲滅していく。
「すげぇな!なんだあれ!?」
「あら、興味があるのかしら?あれが精霊の力よ。」
「・・・ッ!?」
精霊の力を目の当たりにしたエレミアは治療しながらその力を目に焼き付ける。やがてカイとウィルダー魔物を殲滅すると辺りに襲ってくる魔物の姿は無くなっていた。
「よし!治療を終えた!おい!この患者から先に運べ!帰ってからオペをする!」
「分かった!カイ!ウィルダーさんもお願い!」
こうして僕達は魔物を殲滅すると襲われた人たちを救助して自治区へと帰還するのだった。
◇◇◇
「にしてもびっくりした。ウィルダーさんが居たなんて。」
怪我人をエレミアに任せた僕達はシルヴァのいる病室に戻ってウィルダーとの再会を喜ぶ。
「んで?なんでアンタはここに居たのよ?」
ベッドに寝たままのシルヴァはウィルダーを見ながらそう尋ねた。
「砂漠で修行をしていた。アフラン大陸はよく修行する為に訪れるんだ。」
「そしたら魔物に襲われてるザコ共とチビ医者に出くわしたってことか。」
カイの言葉にウィルダーは深く頷く。・・・チビ医者ってエレミアのことか。
「そういえば騎士団を結成したらしいな。」
「えっ?どこでその情報を?」
「これだ」
僕らの騎士団結成を知っていたウィルダーは新聞を出すとその記事を僕は見つめる。
記事には『白翼の騎士団。オラルド王国マルケイルにて結成!団長はシエル。十二神騎アレスと一戦交えた期待の新星!』と書かれていた。うわ・・・けっこう名前が大々的に載ったなぁ。でも、師匠は絶対これを見てくれているだろう。
「凄い!シエル一躍有名だね!」
「あぁ!団員のオレ達も鼻がたけぇな!」
「あ、ありがと・・・」
新聞に名前が載ったことを喜ぶシルヴァとカイに苦笑する。・・・これだとワースとウェールズの人達にも知られちゃうな。
「そう言えば船はどうしたんだ?」
「流石にここまで来れないから船大工に船番を任せて沿岸部で待機させてる。」
「そうか。なら、心配はいらないな。」
ウィルダーは微笑みを浮かべるも少し残念そうな顔をする。・・・船を見たかったんだろうな。あの顔は。
「だから!何度言ったら分かるんだ!」
「・・・?なんだ?」
ふと、廊下から声が聞こえてきた為、僕達は病室のドアを開ける。そこには手術を終えたばかりのエレミアがウィスターに叱責を受けているのだった。
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