Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜 作:ジャック・オー・ワンタン
僕らは言い争っているエレミアとウィスターの元へ駆けつける。・・・何があったのだろうか?
「何故今日もまた勝手に現場へ出て行ったんだ!何回も言わせるな!医者は後方で仕事するのが本来の姿だ!」
「アンタこそ何回も言わせんなよ!待ってるだけじゃ救えない命があるんだよ!」
「貴様ッ!!」
エレミアの反論にウィスターはわなわな震えるも負けじと言い返す。
「お前がやっていることは”ディザート”と変わらん!お前がオペを怖がったのも危険な場所へ向かって命をちらしたのも少なからず奴にも責任が・・・ぐあっ!?」
刹那、エレミアは大きく腕を振り上げるとウィスターの左頬を殴った。
「エレミアさん!」
その行動に僕らは驚くと殴られたウィスターは床に倒れる。すると彼女は震えると同時に涙を流して怒鳴った。
「オジキをバカにすんなよ!!クソ医者が!!!」
「待ちなさい!エレミアちゃん!」
ルーチェが呼び止めるもエレミアはそのまま一目散に駆け出して走り去っていった。
「大丈夫か?」
「あぁ、すまない。見苦しい所を見せてしまいましたな。」
ウィルダーの手を借りて立ち上がったウィスターは白衣を払うとバツの悪い表情を浮かべる。
「思わず口を滑らせてしまった。あの事は彼女にとってはトラウマだったというのに・・・。」
「トラウマですか?」
「あのチビ医者にトラウマなんてあんのか?」
エレミアにトラウマがあると聞いて僕らは驚く。性格を見る限り、自信に満ち溢れた医者という印象しかないんだけど・・・。
「エレミアはとても優秀で彼女のおかげで命を救われた人は多い。・・・でも彼女自身はまだ完治していないのですよ。」
「完治していない・・・それは病気にかかっているって事かしら?」
「えぇ、”心の病”にね。」
ルーチェにそう答えたウィスターは深く目を閉じ、僕らにエレミアの過去を語るのだった。
◇◇◇
今から約25年前。エレミアはこのアフラン自治区で産声を上げた。当時から既にアフラン自治区の医療は発達しており、赤子だった彼女は順調に育った。しかし、彼女が生まれて間もなくして両親は当時流行っていた黒死病を患ってしまい、特効薬が出来る直前に亡くなったしまったのだ。
生まれてすぐに孤児となってしまったエレミアの親代わりとなったのが実の叔父であり、当時でも腕のある医者として知られていたディザートだった。
「いいかエレミア!医者になるんだったらな待ってるだけじゃいけねぇ!現場に駆けつけて応急処置を施してからオペをすれば助かる患者も増えていくんだ!」
ディザートはそれを口癖に医者としてはあり得ない”現場へ向かう医者”という信念を揺るがさなかった。そんな彼の背中を見て育ったエレミアはいつしか感銘を受け、医療に関する知識だけでなく肉体も鍛えていくようになったのだ。
やがてエレミアが一流の医者として成長するとディザートは彼女をサポートドクターとして雇い、二人で現場に向かい、患者を治療するようにになった。無論、そんな危険な事はしてほしくない私は二人を説得し続けたが口を揃えて”待っているだけじゃ救えない命がある”と言って聞かなかった。
区の皆は助けられた恩もあってか彼らは順調に患者を診ていき、二人はとても楽しそうだった。・・・あの出来事が起こるまでは。
今から約5年前・・・この日はがけ崩れが起こった区間で救助を行っていたディザートは珍しくエレミアを置いて単独で現場へ向かっていた。
「えっ!?応援?」
「はい!ディザート先生がエレミアに来るようにって伝言を・・・」
「分かった!直ぐ向かう!」
応援を要請されたエレミアはいつも通り馬に乗って現場へ駆けつける。この日は十数年に降るか降らないかの雨が降っていたがそれでも彼女は向かった。
「オジキ!大丈夫か?」
「おぉ!エレミア!流石に一人では流石にさばききれなくてな。」
「任せときな!おい!聞こえるか?医者のエレミアだ!ちょっとお腹触るぞ!」
現場に到着したエレミアは慣れた手つきで患者一人一人を診ていく。
「オジキ!コイツは先に搬送した方がいい!失血性ショックの疑いがある。」
「なら先に止血処置をやった方がいい。」
「分かった!・・・よしっ!おい!動ける奴がいたらコイツを早く区長のとこに運べ!オペが必要だ!」
雨が降る中、二人は懸命に応急処置を行い、遂に全ての患者の治療を完了させた。
「よしっ!これで終わりだ!」
「区長の事だ。先に運んだ患者のオペが終わる頃だろう。エレミア。撤収するぞ。」
「あいよ!」
ディザートに頷き、エレミアが片付けに入りる。その様子を彼が微笑みながら彼女の元へ歩き出そうとした・・・その時だった。
突然、ディザートの足元で爆発が起こりエレミアもまた吹き飛ばされ地面に転がる。・・・今の爆発・・・間違いない!!地雷だ!しかも絶賛戦争中の隣区エジィー自治区のものだ!この間の嵐で飛来してきたのか?
瞬時に何処が埋めた地雷かを理解するもエレミアの関心は直ぐに別の方へ向かった。
「・・・ッ!?オジキッ!!」
地雷が直撃したディザートを見たエレミアは一目散に駆け寄ると血まみれになって倒れている彼に駆け寄った。
「脈がある!オジキ!分かるか?エレミアだ!・・・くそっ!地雷の爆発で器具がおしゃんになったか!畜生!」
先の爆発で使えなくなった医療器具を放棄するとエレミアはやや焦った様子でディザートを区へ連れて帰る。
「おーい!区長!」
「エレミア!?・・・ッ!!ディザート!!何があった?」
戻ってきたエレミアはウィスターに事情を話すと医者達と共にディザートをストレッチャーに乗せてオペ室に搬送する。
「・・・うっ・・・エレミア・・・」
「喋るな!アタシが治す!」
そう言ってエレミアは笑みを浮かべると瀕死状態の叔父(ディザート)の手を握り、オペを始める準備を行う。
「麻酔は?」
「投与完了!バイタル映します!」
「オッケー!区長!サポートを!」
「分かった!落ち着けよ!」
魔法で稼働するモニターを見て、ウィスターがそう言うとエレミアは頷いてオペを開始する。傷ついた箇所、地雷の破片が刺さっている箇所を順調に治療していき、繊細なオペを着々とこなしていく。
「よし・・・後は・・・」
大方手術を終え、安堵しかけた時だった。
「異常発生!血圧低下しています!」
「なっ!?」
けたたましく鳴り響くモニターを見てエレミアに焦りが見え始める。
「心拍停止!」
「くそっ!!DCセット!アドレナリン用意してくれ!」
「はい!」
オペ室のメンバーに指示を送ったエレミアは焦りを見せながらも心肺蘇生法で心拍の回復を試みる。
「オジキ!戻って来い!オジキ!!」
「ショック行います!離れてください!」
医者の一人がショックをディザートへ行う。
「心拍回復の兆候・・・ありません。」
「畜生!!諦めるかッ!!!オジキ!!」
戻らない心拍を懸命に戻そうとエレミアは胸骨圧迫を必死に行う。
「オジキ!アタシはまだ・・・まだ・・・アンタに教わってねぇことがいっぱいあるんだ!アタシ一人じゃ・・・まだなにも出来ねぇよ!!!」
だが、多くの医師達は全員諦めの様子を見せ、口を閉ざす。彼女のサポートをしていたウィスターもまたその一人だった。もう彼は助からないのだ。
「アドレナリンを追加!もう一度DCセットするぞ!・・・早くしろッ!!!」
涙目になりながら俯く医者達にエレミアが怒鳴るようにそう言うとウィスターが胸骨圧迫を行っていた彼女の手を止めた。
「エレミア・・・もう・・・これ以上は・・・。」
ウィスターの言葉にエレミアは動きを止めると自身の手元に大粒の水滴・・・涙が降りかかる。
「あぁ・・・ああ・・・」
その場に座り込み、もう目を覚まさない恩師であり最後の家族の顔を見る。
「ああああっ!!うわああああっ!!!ああああああっ!」
そして・・・オペ室にエレミアの叫び無く声が響くと多くの医者達もディザートの最期を悲しんだ。皮肉なことにエレミアの医者人生で初めて救えなかった命が彼ディザートだった。
この出来事の後、彼女がオペ室に入り、メスを持つことは無くなるのだった。
一周年記念 外伝作成予定!誰の活躍(過去)を見たい?
-
オーディン
-
ローズマリー
-
オーガイ
-
ゼウス
-
その他