Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第63話:侵略と再会

 エレミアの過去を聞いて僕達は言葉を失う。人の命を救う医者がその使命を成し遂げられなかった。それも自分を医者の道に進めててくれた叔父なのだから尚更胸が痛かっただろう。

 

「さっきから気になったんだが・・・オペってなんなんだ?」

 

するとカイがウィスターにそう尋ねる。確かここの医者がこぞって言ってたな。なんのことだろうか?

 

「オペと言うのは医療手術のことです。患者に麻酔をかけ、痛みを無くした状態で体内を開いて治療する方法です。まだ世界には広く伝わっていない施術ですが。」

「腹を開けて治療すんのかよ!?」

 

オペの意味を知ったカイは目を見開いて驚く。

 

「兎に角、エレミアがああやって現場に行くのは叔父であるディザートの受け売りなんです。彼女の信念も全て彼から受け継ぎました。」

 

”待っているだけじゃ救えない命がある”

 

これを掲げている彼女の信念は揺るがないだろう。恩師であり、叔父が貫いたものだから。僕はふと顔を上げるとエレミアが辿った廊下を歩き出す。

 

「シエル。何処に行くんだ?」

「エレミアと話してくるよ。二人でね。」

「そうか。任せたぞ。」

 

僕を呼び止めたウィルダーは納得して頷く。・・・一度、彼女と話してみよう。僕に何かできるかは分からないけど話をすることくらいならできる筈だ。

 

◇◇◇

 

病棟の裏にある墓地・・・ディザートと書かれた墓標の前にエレミアの姿があった。

 

「ここに居たんですね。」

 

僕が声を掛けると彼女は直ぐに墓標に顔を向き直して佇む。

 

「・・・先生・・・区長からアタシの事聞いたのか?」

「大体ね。」

「・・・チッ。余計なこと話しやがって。」

 

ウィスターに愚痴を零しながらエレミアは僕に尋ねた。

 

「なんでアタシの所に来た?」

「話でもしたら何か変わるかなって思って。」

「・・・余計なお世話だ。」

「騎士は”余計なお世話が売りだから”。」

 

僕がそう言うとエレミアはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「面白れぇ屁理屈を言うじゃねぇか。気に入ったぞ。」

「献花していいかな?区長さんに貰ってきたんだ。」

「・・・好きにしろ。」

 

エレミアの言葉に甘えて僕はウィスターから預かってきたサボテンの花を献花する。心地よく吹く風、静寂に包まれる中彼女はふと尋ねてきた。

 

「なぁ。アンタ騎士に聞くのも野暮だが・・・世界にはどれだけ医者が居るんだ?」

「えっ?」

「海外の医療に興味があってな。機会があれば触れたいと思ってんだ。」

 

彼女の問いに僕は困惑する。医者か・・・これまで会って来たのが師匠の船に居たヨルズとバルドル。最近だと隔たりなき医師団の面々くらいだ。

 

「そうですね・・・。僕がこれまで出会ってきた医者は皆、癖が強かったです。」

「癖?」

「はい。でも全員共通点がありました。」

 

僕はエレミアを見て言った。

 

「”絶対に人を助ける”という意思です。」

 

その言葉を聞いて彼女の目が大きく開いた。

 

「叔父が言ってたのとおんなじだ。医者が絶対に捨てちゃいけねぇのは”誰かを助ける意思”だってな。でもアタシは・・・」

「・・・エレミアさんはまだ貫けると思います。」

「えっ?」

 

落ち込むエレミアに僕は献花したサボテンの花を綺麗に並べ直しながら続けた。

 

「確かにディザートさんは死んじゃいました。でも・・・それがエレミアさんのせいだけじゃないって思うんです。今も世界は争いが止まないです。僕は野心に突き動かされて争いを仕掛けてくる人達を沢山見てきました。」

 

僕は騎士として旅をした思い出を振り返る。

 

「ディザートさんが死んだ理由の大きな原因はその人達が遺した”無責任な遺物”だと思うんです。だからこそ僕ら騎士が居る。平和や安寧なんて甘い時代はまだ来ない。だからこそ前に進むべきじゃないですか?」

「シエル・・・」

 

僕の言葉を聞いてエレミアは静かに俯くが表情は先程よりも和んでいる様子だ。どんなに腕のいい医者でも人を救えないことだってあるだろう。騎士も同じだ。師匠もそんな経験を経て強くなったのだから。

 

「落ち着いたら区長さんに謝りに行きましょうか?僕が一緒に行くので。じゃあ、また・・・」

 

微笑みながらそう言って立ち去ろうとした・・・その時。空が一気に薄暗くなり始め、ゴーっというけたたましい駆動音が聞こえ始めた。

 

「ッ!?なんだ!?・・・おい、なんだあの馬鹿デカい戦艦は!!」

 

僕らが上を見上げるとエレミアは恐らく初めて見るであろう大型の空飛ぶ軍艦に顔を引き攣らせた。・・・この戦艦。見覚えがある!!確か・・・ロワ帝国の・・・ッ!!アイツなのか!?

 

「シエル!チビ医者!!」

 

するとカイが焦った様子で病棟から出てくる。

 

「カイ!あれって・・・」

「あぁ!帝国の戦艦だ!そして・・・」

 

カイは顔を顰めながら奴の名を口にする。

 

「アイルに来たアレスの座乗艦で間違いねぇ!」

 

◇◇◇

 

「准将!アフラン自治区の区民全員を拿捕しました!」

「ご苦労。」

 

空をロワ帝国の軍艦に覆われたアフラン自治区の広場には捕らわれた区民達と区長ウィスター、ルーチェ、ウィルダー・・・そして緋色の十二神騎アレスの姿があった。

 

「さて、アフラン自治区の区民が居たのは当然だがまさかとんだ珍客が居るとは。」

 

アレスはそう言ってシルヴァ達を見つめる。

 

「シエルの仲間達と未来視の天騎士・・・。」

「お前が緋色の十二神騎のアレスか?何が目的だ?」

 

ウィルダーは放たれる気迫に冷や汗を流しながらもアレスに尋ねる。

 

「見えているのではないか?俺が今から何をするのかを。」

「見たくもない未来は始めから見ない性分だ。」

「そうか・・・それで?」

 

アレスは次にルーチェに顔を向ける。

 

「何故貴様が此処にいる?」

「あら?悪いかしら?言っておくけど此処を荒らすようなら”あの人”が目を瞑っていられなくなるわよ。」

「今の貴様と同じように今の俺はロワ帝国准将だ。”あの方”の掟は関係ない。」

 

ルーチェにそう反論したアレスは剣を手にすると刃に炎を纏った。

 

「そういうことだ。悪いが部外者は此処で殺す!」

「や、やめろ!せめて・・・私の身柄一つで勘弁してくれ!」

「区長一人で済むならそうしたが我々がやっているのは”侵略”だ!行くぞ!」

 

ウィスターの言葉を一蹴したアレスは勢いよく地面を蹴ってルーチェとウィルダーに斬りかかる。

 

「やれるか!」

「えぇ!」

 

二人は互いに頷き、応戦を試みようとした時だった。

 

「なっ!?」

 

双方の間に人影が入るとアレスの剣を水を纏った剣で受け止める者の姿が顕わになると彼は鉄仮面越しから覗かせた青い眼を見開いた。

 

「貴様は・・・シエル!?」

「アレス!」

 

シエルはすぐにアレスを退かせて剣を構える。今、彼らの再戦が幕を開こうとしていた。

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