Chevalier『シュバリエ』〜約束の騎士達の物語〜   作:ジャック・オー・ワンタン

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第7話:初めての会合

ワース城 玉座の間、国王の君臨するこの階までやって来た僕とテルはレッドカーペットが敷かれた長い廊下を歩いて二人の門番に快く部屋の扉を開けてもらうと大きな広い部屋の片隅に高そうな壺が置かれた部屋が出迎える。

 

見慣れてしまったこの部屋に入った僕とテルは玉座の前で跪くとそこには玉座に深々と座る男と隣に立つ美しい女性の姿があった。僕とテルの両親、ワース王国国王と女王ルシェルである。

「父上、お待たせ致しました。兄上とテル、只今参りました。」

「まあまあ、そう畏まるでない。親と子の会話だ。忙しい中、集まってもらってすまんな。シエル、テル。」

「あ、いえ、とんでもございません。父上!」

 

父上の言葉に僕は再び頭を下げる。

 

「もう、シエルったら頭を上げなさい。父上も言ってるでしょ?親と子の会話だって。」

「は、はい」

 

母上にクスクス笑われながらようやく頭を上げて父上を見た。

 

「ゴホン、早速本題に入るがお前達をここへ呼んだのにも理由がある。特にシエル、お前には是非聞いて欲しい話だ。」

「は、はい。何でしょう?」

「例の件に付いて話されるなら私からお伝えしましょうか?」

「ん?あぁ、そうか。ならばテル、任せたぞ。」

 

自分が代わりに話すと言い始めたテルは立ち上がるとキョトンとする僕に話し始めた。

 

「兄上、私と父上が『ウェールズ王国』と外交をしているのはご存知ですね?」

「うん、その話は何度か聞いているよ。」

 

テルが出した国の名前を聞いて、頷く。ウェールズ王国・・・それはワース王国の北西部に位置する隣国でブリテン島にある三国の内の一国のことだ。

 

僕は実際に行ったことは無いがテルは幼少期の頃から何度もこの国へ行っている事もあった。七年前、師匠が討伐した"王殺しのロキ"に襲われたのもこの国へ向かう途中の出来事だったのだ。

 

「それでウェールズ王国がどうかしたの?」

「はい、初めに申し上げると実はウェールズ王国国王夫妻が近々、こちらへ来訪される予定なのです。」

「随分急だな・・・つまり、国王夫妻の護衛を僕がしたらいいのか?」

ウェールズ国王夫妻がワースへやって来ると知り、護衛の任務を任されるのであろうと察する。国境近くは森に囲まれており、魔物も少なからず出る地帯だ。他国の要人となれば将軍である僕が直々に兵を指揮して護衛をする事になるだろう。

 

「いいえ、違うわシエル。」

 

しかし、母上は首を横に振って否定する。

 

「えっ?護衛じゃないのですか?」

「護衛の方は既にフォルスへ頼んであるから心配は要らん。」

「それじゃあ・・・僕は何を?」

 

護衛以外に何か用があるのか?眉を寄せているとテルが思いがけない事を告げた。

 

「兄上には国王夫妻との会合に出席して頂きます。」

「えっ!?」

 

口を開けて驚いてしまった。僕がウェールズ国王夫妻と会合を!?なんでまた? いや、軍のトップだから出る権利はあるけども・・・。

 

「な、なんでまた僕が?テルが出席出来ないのか?」

「私達も出席しますよ。ただ兄上にも出て頂きたいのです。」

「驚かせてすまないな。実はウェールズ王国夫妻がお前に会いたいと言い出してな。ただ、お前もフォルスが代わりに色々しているとはいえ忙しい。だから予定を予め把握しておいていたのだよ。」

 

父上の話を聞いて僕は納得する。でも、なんでまた全く面識が無いウェールズ国王夫妻が僕に会いたがるのだろうか?将軍として活動している事はテルを通じて向こうにも伝わっていると思うけど・・・

 

「シエル、貴方は国を守る兵士の上に立つ身なのだから折角だし挨拶なさい。将軍も他国の人と付き合わないとダメよ?」

「う、うん」

 

母上にそう言われ、恐る恐る頷く。まぁ、将軍の前に僕は王子だしそりゃそうだよな。

 

「でしたら決まりですね。当日は城の玄関前でお迎えに参ります。早朝から剣の鍛錬をなさると思いますが宜しくお願い致しますね?」

「日程はまだなのか?」

「恐らく早くて三日後かと思いますが。本日か明日頃には私が派遣した使者がその件の返答を含めて戻って来ますのでそれ次第ですね。」

「そう、分かったよ。」

 

テルから日程を聞き、僕は頷く。こうして僕は人生初の会合となるウェールズ国王夫妻の来訪に出席することになるのだった。

 

◇◇◇

 

父上と母上、テルと話した僕は玉座の間を出ると自室のある四階へ降りた。

 

「会合か・・・ウェールズの国王夫妻と話をするって事だけど。どんな人達なのかな?」

「おや?どうされましたか?」

 

大きな窓の方へ目を向け、城下町を一望出来る景色を見つめていると突然、誰かに声を掛けられ、視線を廊下の方へ移すとバロワの姿があった。

 

彼は国王側近兼執務室長を若くして務める青年である。二年前に長らく空席であった国王側近に就き、王の護衛や執務をこなす正に文武両道の持ち主。僕も一目置いている人だ。

 

「バロワ、いや・・・それが。」

「ウェールズ国王夫妻と初めての会合、ご緊張されているのですか?」

「ど、どうしてそれを?」

「何故?と聞かれましても・・・テル様の仰っていた使者が私ですので。」

「え?そうなの?」

 

バロワからウェールズへ向かっていた使者が自身であると語る。お前だったのか。道理で正装していた訳だ。

 

「はい、予定が早く済んだのでつい先程戻りました。テル様や陛下も仰っていた通りシエル様にも出席して頂きます。根回しは私が行いますのでご安心を。それでは・・・」

 

少し悪戯っぽく笑みを浮かべたバロワは丁寧に頭を下げると颯爽とした足取りで執務室へ入っていった。

 

「バロワのやつ・・・僕が会合に出席して嬉しそうだったな。暫く朝の剣の鍛錬はお預けらしい。」

 

部屋へ戻ると先のバロワの笑みを思い出すが気を取り直して灯りを付けると窓から既に薄暗くなった広大な海を見つめた。

 

「・・・師匠。僕はいつか必ず近い内にこの海へ出ます。それまで・・・。」

 

海を眺めながら微笑みを浮かべあの日の"約束"を再び思い返す。

 

僕には"夢"がある。それは国王として国を導くのではなく、騎士(シュバリエ)として自由にこの海を渡り、冒険をする事だ。いつかは師匠と再会し、強くなった自分を彼女に見せる。これが"夢"と同時に"約束"でもあった。

 

「兎に角、今はウェールズ国王夫妻の会合だな。何を話すのか分からないけど一通り済んだら父上達に言おう・・・「旅に出る」って。」

 

机へ身体を戻しながら呟くと机の上に置いてある世界地図をじっと眺め、束の間の自由時間を過ごすのだった。

 

◇◇◇

 

会合当日・・・多くの重臣や文官達が城の玄関前に集まる中、僕も正装を着こなして外へ出る。

 

「シエル様、似合っておりますよ。」

「そ、そうかな?」

 

正装を見て、満足気な笑みを浮かべたバロワにやや緊張気味に答える。案の定、昨日までみっちり着付けを教えられた・・・おかげさまで剣の鍛錬が出来なかったけど。

 

「はっはっはっ。前日までにバロワへ着付けも習っておったからな。儂から言う事は無いぞ。世話になったな。バロワ。」

「ありがとうございます。国王陛下。」

 

僕の代わりに礼を言った父上にバロワが頭を下げると母上がクスリと笑った。

 

「来ました!ウェールズ国王夫妻の馬車です!」

 

テルの声が聞こえ、城門へ視線を戻すとフロン達護衛兵を指揮しながらフォルスが馬車を先導し、僕らの目の前で停車する。

 

「陛下、只今ウェールズ国王夫妻がお見えになります!」

「ご苦労だった。」

「はっ!」

 

労いの言葉を受けたフォルスはそのままフロン達を連れて去っていくと馬車の扉がゆっくり開いて正装を着こなした壮年の男性と女性が出てきた途端、嬉しそうな笑みを浮かべて父上と母上の前まで歩み寄った。

 

「やあ!会いたかったぞ!オセオン!」

「はっはっはっ!よく来たな!ガハムレト!」

 

父上もまた嬉しそうな笑みを浮かべると男性と互いに握手を交わした。

 

「ルシェル!こんにちは!」

「元気そうね。マロリー」

 

母上は女性もまたハグを交わし、こちらも仲睦まじい様子を見せる。この二人がウェールズ国王夫妻で間違いないようだ。

 

「お?おおっ!テルではないか!久しいな!」

「久しい・・・って一週間前にそちらへ赴いたばかりですよ?」

「おや?そうだったか?はっはっはっ!」

 

男性は僕の隣に立つテルとそんな会話をして高らかに笑った。どうやらこの人も父上と同じく物忘れが多そうだ。

 

「うん?おや?」

「あら?」

そして、二人の視線は僕へ向けられるとこちらまで歩み寄って挨拶してくれた。

 

「もしや・・・君がシエル君かね?」

「あ、は、はい!初めまして。ウェールズ国王様!!」

「こちらこそ会えて嬉しく思うよ!私がウェールズ国王ガハムレトだ。宜しくな!」

「は、はい!」

 

ガハムレトと名乗ったウェールズ国王の差し出した手を僕は握り返し、固い握手を交わす。

 

「妻のマロリーよ。会えて嬉しいわ。シエル君。」

「はい、初めまして。ウェールズ女王様」

 

マロリーと名乗ったウェールズ女王とも握手を交わし、互いに挨拶を終える。

 

「そうだ!実は皆に会わせたい者が居るのだよ。」

「会わせたい者?今日は二人だけではないのか?」

「ほら、そろそろ出てきなさい。」

 

キョトンとする父上にウェールズ国王は馬車の方へ呼びかけると馬車からもう一人降りてきくるとその姿に僕はドキリとなって思わず心を奪われそうになる。馬車から現れたのは綺麗なドレスに身を包んだ僕と同じ年頃の美少女だった。

 

「ガハムレト・・・その者は?」

「彼女は私の娘、ディンドランだ。」

「お初お目にかかります。ワース国王様、ワース女王様。ウェールズ国王王女のディンドランと申します。ディナとお呼びください。」

 

ディンドラン・・・又の名をディナと名乗った美少女はスカートの端を両手に持ってお辞儀する。なんだこの子・・・すっごく可愛い!!

 

「おお!お前に娘がおったのか?テルは知っておったのか?」

「ええ、一度話をされた事があります。ディナ様も来られたとは思いませんでしたが。」

「すまんなテル。急遽彼女も来させたのだよ。自分も行きたいと言って聞かんのでな。」

 

表情は変わってないものの思わぬ来訪者にテルも驚きを見せた。テルはともかく父上はウェールズ国王に娘が居ることを知らなかったのか。

 

「構いませんわ。宜しくね。ディナちゃん。」

「はい!ありがとうございます!女王様」

 

母上に微笑んだディナはそのまま歩き出した時だった。

 

「あっ!」

 

履いていたハイヒールが落ちていた小石に食い込ませてしまったのかディナはバランスを崩して転んでしまう。

 

「ッ!?危ない!!」

 

咄嗟に身体が動いた僕は颯爽と彼女の元までやって来ると身体を支えてそのまま地面に倒れてしまった。

 

「・・・ううっ、はっ!?ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

僕に抱き抱えられたディナはこちらに目を向けて声を掛ける。

 

「あ、は、はい・・・大丈夫・・・」

 

目が合った途端、互いに赤面して黙り込んでしまう。近くで見たけどやっぱりこの子、もの凄く・・・か、可愛い!!

 

「兄上!」

「ディナ、大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。」

 

駆け寄ったテルとウェールズ女王にそう答えた僕はディナの手を取って立ち上がる。

 

「あーあ、汚れたか。」

 

転んだ際に自分の服が泥で汚れているのを見る。まぁ、ディナが怪我をしなかった事を考えたら安いものかな?結構近くてドキドキしたけど。

 

「二人とも無事で何よりだ。シエル、仕方がない。着替えて臨むとしようか?」

「あ、はい。」

「さて、ディナに怪我も無かった事だ!ガハムレト、早速城に入ろう!」

「うむ、そうさせて貰おうか。」

 

父上はそう言うとガハムレト達を連れて城の中へと入っていく。

 

緊張しながら臨んだ始めての会合・・・いつしか少しときめきを感じるものへと変わっていくのだった。

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