スレイヤーズ ぶれっしんぐ   作:神坂なつめ

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連続投稿はここまで。後は逐次投稿します。


ちょっと待て 何であたしを知っている

朝。めぐみんを連れて、あたしは宿の食堂へと顔を出す。するとそこでは既に、あたしの旅の連れが食事をとっていた。

 

「おはよう、ガウリイ」

「おう。おはよ……」

 

振り返りながら答える彼は、そこで言葉を詰まらせる。彼は軽く咳払いをした後、テーブルの上の香茶を一口啜り、至って真面目な表情であたしに言った。

 

「リナ。大概のことには目を瞑ってやるが、児童誘拐はいかんぞ?」

「誰がそんな事するかああああ!」

「誰が児童ですか! 誰がっ!!」

 

あたしとめぐみんが激しく突っ込む。

 

「ああ、いや、冗談だ冗談。リナだってさすがに、この手の犯罪は犯さないだろ?」

「あったりまえよ! って言うか、他の犯罪なら犯すっての!?」

「じゃあ聞くが、おまえさんが清廉潔白な生き方をしてたと、胸を張って言えるか?」

 

ぐっ。ガウリイのくせに、なかなか痛いところを突いてくる。

 

「それからこの子、おそらく14、5歳だろ?」

「え? めぐみんの年齢、一目で当てた?」

「自分で言うのもなんですが、歳より若く見られて困っているというのに……」

 

めぐみん、なんだかあたしも悲しくなるので言わないで。

 

「いやだって、出会った頃のリナも、こんなもんだったじゃないか」

「そりゃあまあ、そうだけど……」

 

そうなのだ。あれから数年で、あたしの背も少しは伸びたものの、それでもめぐみんよりかは少し高い程度。下手をしたら、15歳当時のあたしよりも背が高いかもしんない。……ふんっ! 悔しくなんか、ないやい!

 

「でだ。結局その子は誰なんだ?」

 

ガウリイの疑問に、めぐみんが強く反応した。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。では聞くがよい! 我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操りし者!」

「ほー」

 

めぐみんの演技がかった名乗り上げに、ガウリイは軽ーい感心の声をあげる。この態度にはめぐみんも些か機嫌を損ねたが、ガウリイだったら、まあ、こんなもんだろう。

 

「オレはガウリイ=ガブリエフ。リナの旅の仲間で保護者みたいなもんだ」

「……保護者?」

「自称よ、自称。ガウリイにとっては子供みたいな時に出会ったからね」

 

とはいえ、15歳なら充分大人だと、今でも思う。

 

「それでめぐみんは、どういった経緯でリナといるんだ?」

「実は昨夜、盗賊に囚われていたところを助けてもらったのです」

「……なんだ。また盗賊いじめか」

 

ガウリイは諦めたように言うが、人間、諦めが肝心である。

 

「それでまあ、めぐみんは仲間と散り散りになったって言うから、ついでに捜してあげるって事になったのよ」

 

あたしがそう説明すると。

 

「リナ。いくらもらったんだ?」

「別に、依頼を強要してお金をせしめたわけじゃないからっ! いや、まあ、助けたお礼にもらったアイテムが、思いの外いいものだったからってのはあるけど」

 

とはいえ、あたしにだって親切心はあるのだ。

 

「ふーん。オーガの目にも涙ってやつか」

「だぁれがオーガよ、誰が!」

 

まったく、人を何だと思っているのだ。

 

「それよりも、リナ」

 

ガウリイが急に真面目な顔になる。な、何よ?

 

「メシ、食わないのか?」

「ほぼほぼ、おまえのせいじゃあああああ!!」

 

すっぱあああああん!

 

あたしは懐から出したスリッパで、彼の頭を思いっきし引っ叩くのだった。

 

 

 

 

 

「さて、めぐみん。あんたの仲間の特徴を教えてくんない?」

 

朝食を平らげ、食後の香茶をひと口すすったあたしは彼女に尋ねる。捜すのを手伝うにしても、何の情報も無ければどうしようもない。

 

「わかりました。まずはこれを見てください」

 

そう言って取り出したのは、掌サイズの紙。そこには、めぐみん他数人の精密な絵が描かれていた。いや、絵と言うよりも、鏡像と言った方が当てはまるくらい本人そのままである。

 

「なに、この絵。どうやって描いたのよ?」

「絵ではありません。魔道カメラで撮影した写真です」

「シャシン?」

 

あたしが聞き返すと彼女は、ああと呟いた。

 

「どうやらこの世界には、この技術は無いようですね。これは魔道カメラという魔道具を使い、景色や風景を写し撮ったものです。主に記念撮影に使いますね」

「つまりこれは、あなたが記念に写し撮ったってワケね?」

 

シャシンには、めぐみんを含めて総勢八人が写されている。

手前中央に十代後半くらいの冴えない男、その右隣がめぐみん、左隣に20歳前後の金髪女性騎士。その三人がしゃがみ、男のすぐ後ろに中腰で立つ、水色の髪の十代後半くらいの女性。

更に後ろには、中央にやはり十代後半くらいの男性騎士と、その両脇に同じ年頃の女性がひとりずつ、そして少し間を開けて、めぐみんの後ろに黒髪で赤い瞳の女の子。その特徴からめぐみんの同郷なんだろう。

 

「はい。魔王討伐時のメンバーで、後日開いた祝勝会の時に写したものです」

「へー、なるほど……って、まっ! ……ンン! 魔王ですって?」

 

思わず大声で聞き返しそうになり、慌てて体裁をとる。幸いにして、食堂には他の客はいなかったが、宿の人だっているし、やはり大声で話すべき事ではない。

 

「そうです、魔王です。我らは魔王を倒した、真の勇者パーティーなのですっ!!」

「ちょ、声が()っきいから!」

 

この子はあれだ。方向性は違うものの、どこぞの正義オタクと同じものを持っている! 今、はっきりと確信したっ!

 

「……すみません、少し熱が入りました。まあ、とは言っても、最後はカズマがサシで倒したのですが」

 

サシで!?

 

「……なんか、リナみたいだな」

 

こらガウリイ、よけーなこと言うな。

 

「それはどういうことですか?」

「いやだって、リナもしゃぶ何とかって魔王を2回も倒してるからな」

「だからそーゆー事を、気安く言うんじゃなああああああいっ!!」

 

すぱああん!

 

と。本日二度目のスリッパがガウリイの頭に炸裂した。

 

「なんと!? リナも魔王を倒した勇者だったのですか!?」

「そんな大層なもんじゃないわよ」

 

軽く溜息を吐き、あたしは言った。

 

「あたしは、自分が手に入れたアイテムが原因で、七つに分かたれた魔王の一体が復活するところを目の当たりにした。だから、死にたくはないから、あたしは戦った。それだけの事よ。

もう一体は、前に倒したのと意識を同調させてたらしいからね。いわばリターンマッチを仕掛けられたって事」

 

はっきり言って二度目の戦いは、今でもあまり詳しくは話したくない。

 

「……リナは、魔王の討伐を公にする気はないのですか?」

「あんたの世界じゃどうだかわかんないけど、こっちじゃ魔王なんて伝説上のものよ。低級の魔族なんかは確認されてるけど、魔王やその直属の部下なんて物語の存在。……少なくともほとんどの人間はそう思ってるし、あたしだってとある伝承に出会ってなければ、同じ様に思ってたでしょうね」

 

とある伝承。それはディルス王国に口伝で伝わっていた、[金色の魔王]の伝承。あたしはそれを基に呪文を組み上げ、そして発動してしまったのだ。すなわち、少なくともそれに相応する何かが存在することの証明になったわけである。

 

「なるほど。つまり魔王討伐なんて口走れば、大ホラ吹きか頭がおかしいと言われるのがオチ、というわけですね」

「そゆこと」

 

めぐみんの頭の回転が早いのは非常に助かる。何しろあたしの旅のパートナーは、1から10まで教えても1割理解すればいいところ、という、頭の中にスポンジが詰まったよーな男だから。

 

「……ま、この話はここまでにして、めぐみんの仲間のことだけど」

「ああ、そうでした。それではまず……」

 

そう言って説明してくれたことをまとめると。

シャシン手前中央の男が、リーダーのサトウ・カズマ。先程めぐみんが言っていた、魔王を倒した人物でもある。とてもそうは見えないけど。

めぐみんは飛ばし、左側の金髪女性騎士がダクネス。ただしこれは偽名で、本名はダスティネス・フォード・ララティーナという貴族のお嬢様らしい。そして剣術はまるっきしの防御特化で、おまけにドMとのこと。なんとも癖の強い……。因みに向こうの世界では、苗字が先で名前が後にくる人が多いらしい。なのでサトウ・カズマも、カズマが名前ということだ。

さて、そのカズマの後ろにいるのが、例の女神アクア。昨晩の話で多少説明されたけど、それ以外の特徴として、幸運値は最低で頭も非常に悪いらしい。クエスト、日常共にやらかしが多いみたいだ。

後ろのメンバーは別のパーティーで、男性騎士がマツラギ。カズマと同じ異世界人とのこと。特典の魔剣で戦うらしい。

左右にいるのがクレメアとフィオ。ただしどっちがどっちかは憶えてないそうだ。でもまあ仕方あるまい。どちらも可愛いが、如何せんありがちな顔である。

そして最後のひとりがゆんゆん。あたしが睨んだとおり、めぐみんと同じく紅魔族の少女で、ぼっち属性の自称めぐみんのライバルらしい。……露出度高めの黒い服で自称ライバルって……いや、深くは考えまい。少なくとも、()()とは違ってまともな姿だし。

 

「それで、こっちに来てるのはめぐみんを含めた手前四人、サトウ・カズマのパーティーメンバー、って事でいいのね?」

「はい。店主のウィズやバニルは、光の中に入っていなかった様ですので」

 

ふむ。

 

「りょーかい。それじゃ、まずはこの村で聞き取り調査といきましょうか」

「この村でですか?」

「そ。見つかったらめっけもんってのもあるけど、一緒に飛ばされたなら、意外と近くにまとまってるかも知んないでしょ?」

「なるほど、一理ありますね」

 

めぐみんは感心した様に頷くが、やがて戸惑った表情を浮かべる。

 

「あの、先程からガウリイが、ぽけーっとしているのですが……?」

「ああ、ガウリイはいいのよ。どうせ懇切丁寧に説明しても、ほとんど理解しないから」

「おう、気にしなくていいぞ」

「あんたはちょっとくらい、憶える努力をしなさいっての!」

 

ぺしり!と、ガウリイの頭を軽くはたく。

 

「なんだか、アクアよりもひどい気がします」

「いやまあ、普段は動く置物だけど、戦いに関しては超一流だから」

「確かに、戦闘の邪魔をしない、と言うか頼りになるのなら、そこはアクアよりも優れているところですね。……いえ、アークプリーストとしては、物凄く優秀なのですよ?」

 

それはわかっている。制約付きで蘇生可能な世界とはいえ、全てのプリースト……上位という意味だろうアークプリーストだろうと、蘇生の術が扱える者はごく一部だろう事はさすがに想像に難くない。まあ、めぐみんが言うとおり本当に女神ならば、それも納得ではあるが。

 

「ま、ガウリイは難しい話になると、自分で考えようとはしないから、普段は無視してて構わないわ」

「わかりました」

 

呆れた声で返事をするめぐみんに、あたしは苦笑いで返したのだった。

 

 

 

 

 

それから私達は村中の人々に、めぐみんの仲間を見なかったか聞いて回った。それこそ外れにある畑でまで。しかしそれらしい情報は入ってこなかった。

村だけあってそれほど広くはなく、お昼頃にはほとんどの人から話を聞き終えている。

 

「やっぱりこの村にはいないのでしょうか……」

 

めぐみんは沈んだ声で言った。

 

「さっきも言ったけど、見つかったらめっけもん程度のもんだからね。まあとりあえず、ここの飯屋で今後の方針でも決めましょうか」

「……そうですね。落ち込んでる場合ではありません」

 

あたしの意見に、めぐみんも気を取り直して応えた。そう、それでいい。

あたし達は村に一軒だけの飯屋へと入る。……そういえば、ここはまだ聴き取りを行ってなかったわね。

 

「いらっしゃいませ」

 

店内から、若い男性の声が迎える。

 

「!? この声は……!」

 

え、めぐみん?

 

「何名様で……ってめぐみん!?」

「カズマ!」

 

そう。そのお店のウェイターは、めぐみんのシャシンに写っていた冴えない少年だった。

と、めぐみんが駆け出し、カズマへと抱きついた。

 

「ちょ、めぐみん!?」

 

彼女の行動に慌てるカズマ。なるほど、結構ヘタレと見た。しかしめぐみんのこの行動、やっぱり彼の事……。変わった趣味でやんの。

 

「よかった……。無事だったのですね」

「あ、ああ。暗くなってからこの村にたどり着いて、ここで飯を食った後にエリスが使えないことがわかったんだけど、ここの店主さんがいい人でさ。労働で返してくれればいいって」

 

この村は、輸送用の荷馬車が通るような大きな街道からは離れているが、旅人が通るような小さな街道の途中にあるので、よそ者に対してもある程度慣れている部分がある。排他的な村でなかっただけでも、相当運が良かったと言えるだろう。

 

「それより、めぐみんの方こそよく無事だったな。転移直前には、爆裂魔法撃った後の様になってたのに」

「いえ、実は盗賊団に囚われていました」

「なっ!? 本当に大丈夫なのか!? その、怪我だけでなく、色々と……」

 

最後の方はごにょごにょと、よく聞き取れない様に口を濁すカズマ。あたしの非常に性能のいい耳でも聞き取れやしない。めぐみんはくすりと笑う。

 

「カズマが心配するようなことはありませんよ。非常に腹立たしいことではありますが、今回ばかりはこの体型に感謝、と言ったところです」

「そ、そうか」

 

ほっと胸を撫で下ろすカズマ。をや? もしかしてこの二人、すでにデキてるのか?

 

「そしてその私を助けてくれたのが、こちらのリナです」

 

そう言って右手を差し出す仕草で、あたしを紹介するめぐみん。

 

「……え、リナ?」

 

聞き返しながらあたしへと視線を移すと、カズマは急に硬直した。一体なんだというのだ。

 

「……カズマ?」

 

めぐみんが不安そうに尋ねる。そして。

 

「な、リナ=インバース!? それにガウリイ=ガブリエフも!?」

 

……は?

 

「ちょっとあんた、なんであたしやガウリイの名前知ってんのよ?」

 

あたしは、良くも悪くも名前が知れ渡っているし、何処ぞのエセ賢者の偽物が手配書をばら撒いたせいで、悪い方に誇張された絵だったとはいえ、顔も多少は知れている。ガウリイも同様だ。

しかしそれは、あくまでこの世界での話。けれど彼は、異世界からの来訪者なのだ。昨日の今日で、あたし達の素性を知っているとは考えにくい。

 

「おお! 閣下と同じ声だ!」

 

閣下? 何モンだ?

 

「いやでも、俺の知ってる服装と違うな。それに[魔血玉(デモン・ブラッド)]のタリスマンも無いし……。あ、ひょっとしたらルーク=シャブラニグドゥを倒した後か!」

 

なっ!!?

 

「どうして[魔血玉(デモン・ブラッド)]やルークの事まで知ってんのよっ! しかもっ! ルークの中に眠っていたものの正体まで……っ!」

 

ルークの魂に[赤眼の魔王(ルビーアイ)]が封印されていたことを知っているのは、魔族の一部を除けばあたしとガウリイ、そして、あたしから事情を聞いた黄金竜の長老ミルガズィアさんと偏食エルフ娘のメフィだけである。それが何故……。

しかし彼の答えは、そんなあたしの疑問をも吹き飛ばすほどとんでもないことだった。

 

「いやだって、俺のいた国で物語になってるから」

「「はあああああああっ!?」」

 

あたしのみならず、めぐみんも同時に声を上げた。って、一体どういうことなんじゃあああああっ!




リナの身長ですが公式(原作者のイメージ)では147センチとなってますが、初めての回答では155センチだったそうなので(こちらの世界の西洋人基準なら、かなり低い)、本作の独自設定として出会った頃(15歳当時)が147センチ、現在(18歳くらい)で155センチとしました。
このファンによると、めぐみん(おそらく14歳時点)の身長が148センチなので、ポテンシャルとしてリナよりかは背が高くなる可能性がありますね。食事事情も改善されてますし。
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