ヘビはカエルに食べられる。たまに兎に食べられる。   作:Kkmn

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17.AFO vs 梅雨ちゃん

歯車が狂い始めている。

 

ほんの僅かな違和感だ。忌々しい怨敵(オールマイト)はもはや死体同然。この時点でもう僕の魔王としての第一歩は保証されているようなモノだ。

なのに何故だ。何故僕の心はこんなにもざわめいている?

 

─────SMAAASH!!

 

「ナナちゃんっ…!!私よ!大切なあなたのお友達の梅雨ちゃんよっ!ねぇ!?」

 

何故、この薄汚い蛙のガキに、僕はこうも責め立てられている?

その幾度となく繰り出される蹴りなど、本来ならアリに噛まれた程度の痛みとダメージしかないハズだ。

なのに何故避けれない?何故痛む?何故僕は─────こんなガキにオールマイトを重ねている???

 

「もっとローイン狙えェカエルっ子ォ!!今のハイキックのフェイントはイイぞ!!!」

 

なぜその危機感を感じているのが、コッチの薄汚い野兎ではない?技術とパワーだけならコッチの方がはるかに全盛期のオールマイトに近いはずなのに!

この二匹共、この蛇の脳無の『愛情』による強力なバフを受け続けていたのは分かる!だがそれは僕も同じ…それ以上のハズだ!僕はこの『愛情』を、100%享受しているハズだ。

現にこうして今も、何年ぶりかもわからぬ視感覚が自身に宿って─────!いや、待て。

 

(……視界が、ボヤけている…?)

「回復を」

「────────Hァい""♪」

 

なるほど何故このゴミどもを掴み、個性を奪えないか疑問だったが道理で。この目のせいでこのモブ共の動きを見極められなかったのか。

自身のスーツの裾を握る少女へと命令し、彼女はシャツをめくり脇腹へとキスを落とす。ありとあらゆる疾病と傷を癒す、ついに見つけた究極の治癒の個性。

それによりこの目の僅かな霞みも一瞬で晴れるはず─────……晴れない?

 

─────BOOM!!

 

「…!!」

 

野兎と醜い蛙が示し合し、顔へと回し蹴りを見舞ってくる。それを咄嗟にガード…ガード!?僕が?危機感を覚えガードしたというのか?

こんなゴミ2匹に、ゴキブリにも劣る醜いミジンコ2匹如きに、この魔王たる僕が?

老い、傷つき、ボロボロになった僕ではない。本当の全盛期の姿を取り戻したこの僕が?

 

「こんなことは…こんなことは認められない」

 

この蛇の脳無が持っていた『無敵』はありとあらゆる危害をほぼシャットアウトする強力な個性だ。仮に貫通したとしても威力を9割以上は軽減する、あらゆる防御個性の最上位。それなのに、危機感を覚えた?

つまりこの二匹─────いや、少なくともどちらかは1,000%以上の攻撃をしているとでも言うのか?それではまるで…そう、そんな理をパワーで壊すような真似は。

 

 

そう、まるであそこで血だまりに這い、"不敵な笑み"を浮かべるオールマイトのような─────?

 

 

「……この期に及んで…何を企む、オールマイト!!」

 

何年ぶりかも分からない怒号が口から溢れ、左手に意識を集中させる。『破壊』『パワー圧縮』『乱打』『強肩』『剛腕』『強力』『斬裂』『エアバースト』『解放』『圧力』『発破』『増幅』『無反動』…まだだ、もっと多くの個性を…!

この薄汚い兎と蛙といい!あの気持ち悪い下品な笑みといい!僕が様子見しているモノをまるで自分たちが上手くやっているかのように勘違いしているこのカスども!そんな思い上がりは!そんな勘違いは正さねばならない!

 

「回復の…用意を」

「阿ぁ、い」

 

ここまでの個性を同時に使うのは全盛期でも無かったし、かつてオールマイトと戦った時でもなかった。

いくら反動を抑制する個性があるとは言え、それでもどれだけの負荷が身体にかかるかはわからない。

そして何より、僕が魔王としていずれ支配するこの世界を、その中心となるこの国に甚大な傷跡を残してしまうだろう。

だが!僕は悪くはない。この目の前のゴミどもが、自らを主人公だと勘違いしたゴミどものせいなのだから!

 

「──────!!下がれカエルっ子!!!あと任せたぞ!!」

「ッ!?ミルコさんっ!!」

 

目の前の野兎が醜い蛙の娘を後ろに蹴とばし一人で飛び込んでくる。ああ、残念だ。

ヒーローが命を賭せば守れると思っていたものを、目の前で粉々に壊してみせてやった時の表情を見て見たかったのだが。

これでは…これから打つ一撃では、このカスも、その後ろにあるものも全て一瞬で吹き飛んでしまうのだから。

 

「誇るがいい。僕の思い通りにならず───────絶望に歪む時間すらなく、一瞬で死ぬのだから。」

「ヤってみろや、キモスーツ」

 

ああ忌々しい。この死ぬと分かってても満面の笑みをやめない野兎の顔を、絶望に沈めながら殺したかったのに。

 

そして僕は左手に集中させた膨大なエネルギーを、その脚のトウガードに向かって放ち─────

 

 

 

「─────死ね、キモスーツ」

 

 

─────VENOOOM!!

 

 

瞬間、腹部に走る激痛。

左手から霧散するエネルギー。

耳朶を打つ冷たい幼い声。

何だ?何が起きた?僕に一体何が起こっている?頭の回転が追い付かない。なぜ放とうとしてた個性が掻き消えた?

この腹部に走る激痛はなんだ?オールマイトでも醜い蛙でも、目の前の兎でもない。では─────?

 

「……『馬鹿を治す個性』は持ってなかっタ、ようだな」

 

声の方に振り返るとそこにいたのは。幼い少女の顔が喜悦に歪み、こぼれた牙から滴る黒い粘液─────恐らくは『蛇女』の個性による毒。

は?何故だ?何故?幾重にも、何回にも渡り心を丁寧にへし折り、何度も調教し、その身体に主従を叩きこんだハズだ。

なのに何故この脳無が─────反抗している??僕に対して100%の愛情を抱いていたのではなかったのか??

 

「混乱してル、な?『ハイスペック』や『高知能』は持ってナいんダろ?だって、賢くなったら自分がやってる事が、どれだけ馬鹿で幼稚か理解してしまウものな」

(─────殺す)

 

この目の前の白い脳無は何をした?何故動ける?何故『無敵』がある僕に毒など注げた?そんな疑問がふつふつと湧いているが、それを凌駕するほどの怒り。

理性のどこかが落ち着くべきだ、と叫んでいるが、この状況で冷静になどなれるわけがない。なってはいけない。

こんな塵芥どもに、"冷静に対処しなければならない"なんてことが、あってはならない!

 

 

「『破壊』『消滅』『剛力』─────は???」

 

─────BOOM!!!

 

 

個性を発動して目の前の喋るゴミを消滅させようとした瞬間だった。その個性を発動しようとした右肩がはじけ飛び、炸裂した。

何が起こったのか理解できないまま、すぐに『再生』をしようとして─────

 

「ないゾ。『無敵』と『愛情』があればいらないと。そういった回復と防御系はわたs…おレに全て、渡してしまッたものなぁ」

 

目の前の醜い白い蛇脳無がチロチロと長い舌を出して煽ってくる。この魔王たる僕を。

殺s─────いや、個性を全て奪い、その上で四肢をもぎ取りむごたらしく殺す!『愛情』はまた上手く使える人間を探せばいい!

そして再度!今度は左肩に個性を集中させ─────。

 

「ばぁか」

 

紅い蛇目を邪悪に歪ませ、目の前の蛇が嗤う。

すると次も再び、先ほどと同じような異常で理不尽な出来事が僕の身に起きる。大量の個性を発動しようとした左肩が、まるでオールマイトの全力の一撃を無防備に喰らったかのように弾け飛び、消し飛んだ。

何一つ理解できない、何故僕の身にこんなことが起きる?こんな事が今までにあったか?

何の『個性』の攻撃を喰らっているんだ?どこから攻撃されている?他のカスども(ヒーロー)が来たのか!?いや、それなら何故探知系の個性があるのにわからない?

そして何故、この攻撃に『無敵』が反応しない!?

 

「ミルコさま!つユちゃ!こいつ、今、個性つかェない!!」

「─────!!おう!!」「わかったわ!!」

 

野兎の耳がピンと立ち、その蛇の声に喜々として攻勢を再開してくる。

やめろ。お前ら如きが。僕を追い詰めていいはずがないんだ。僕を追い詰めていいのはオールマイトだけだ!!

まるでチャンスが到来したとばかりに調子づくその姿が、許されていいわけがない!

 

 

─────VENOOM!!

 

「『愛情』……解除。それと、もう一個毒。」

 

(─────ハァ?)

 

 

その蛇風情の呟きに────数十年ぶりに、背筋が冷たくなる思いを味わった。

この僕を全盛期に戻した『愛情』が、あの怨敵からの忌々しい古傷を消してくれた。あの不気味で醜い面無しの姿から戻してくれた『愛情』が…解除される?

馬鹿な、一度治した傷を!!?任意で戻すなんてそんなコトができるワケ─────。

 

「洗脳さレたフリしたわたしが言ったハず、だ。全快にハ時間がかカる。って。なのにお前は。バカノように有頂天で、ノコのコこんな所にナ。"バフ"と"少量の回復"でそれッぽく見せテただけなのに。そんなに、嬉しカッたか?」

 

その言葉が終った瞬間、どろり、と目の上から何かが垂れてくる。それが自分の皮膚だと、役立たずの探知系の個性は今更になって仕事を始めた。そしてその現象が、全身で起こり始めていることも。

そしてその全身が溶ける現象が終わればどうなるか。…それは体中から沸き起こる倦怠感や不快感、重さ、あの死体になってしまった感覚が戻ってくる様子に、嫌でも思い知ってしまった。

 

「ケロ。ナナちゃんが残してくれた蛇ちゃんから聞いてたわ。あなた、手で触った相手の個性を奪えるのよね…?ごめんなさいね」

「腕!!!!なくなっちまったなァ~~~~!!!!同情するぜぇ~~~~!!!!」

 

近距離で叫び、殴り掛かってくるゴミ共の叫び。それがどこか遠くの世界の出来事のように感じられる。

それらを無視し、過去の記憶が自然と掘り返されていく。ここまで魔王である自分をコケにした存在が、過去現在一人でもいただろうか?

あのオールマイトでさえ、ここまで自分をコケにしなかった。倒した僕を足蹴に踏みにじるような真似さえしなかった。

それに引き換え、このゴミ共は─────。

 

「殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す─────」

 

もはや生かしておいていい存在ではない。『複腕』を発動させ、潰れた腕の代わりに6本の腕を新たに生やす!そして手始めに今!その醜い異形の脚で僕を蹴っている蛙の個性を奪ってやる!

 

 

「ハァ……学習能力、なシ」

 

─────CRACK!!

 

 

捕まえた!!この魔王を相手どれると勘違いしたモブ以下の雑魚NPCが!その頭を音を立てながら千切り取って─────あ?

なんだ?何故ミシミシという音が、視界の下から、首から聞こえてくる?何故僕の頭に、何かに捕まれたような感覚がある?

そして何故、6本だけ生やしたつもりだった腕が、何十本も背中から生えている???

そして何故その腕が制御できず、暴れ、僕の頭に伸ばされて─────。

 

 

─────CRACK!!CRACK!!CRACK!!CRACK!!CRACK!!CRACK!!CRACK!!

 

「あがああがあがががががっがあああGaGa GaGa?????」

 

 

「!!ミルコさん!」

「わーってるつーの!!ほらヘビっ子も逃げるぞ!!」

 

視界を覆う無数の手、その隙間からあの忌々しい蛇が薄い笑みを浮かべ手を振り、野兎に抱えられている。

何をしていたコイツは…!ゴミが!有象無象が!NPCが!何故こうも魔王を欺く!!

 

「……つゆちゃ、ごメんね。」

「けろッ!?なんで謝るの!それよりナナちゃんの方が…ああ、可愛いお顔もこんなに傷ついちゃって…ぐすっ」

「ヘビっ子先にオールマイト治せ!!あとアレなんだァ!?!化け物がスッゲぇキモい化け物になってんぞ!!」

 

『爆炎』や『火炎』の個性でこの自身から生える蠢く手たちを処分しようとするが────その手たちが『爆炎』や『火炎』を纏って暴れだす!なんだこれは。こんなコトが!僕に起こりうるワケがない!個性が反逆しているとでも言うのか!?

いやそんなこと今まで一度たりとも無かった、弱り切った時さえもそんなこと無かったはずだ!

 

「あレは…聞かれてるけど言ッてもいいか…。神経毒の一種。個性を司る部分の神経の働きを阻害して破壊する毒。でもアイツ、『再生』も『解毒』も全部わタしに渡しタから。」

「ケロ、それ知ってるわ。確か10年前くらいに見つかった新種の蛇が持ってたのよね?1度噛まれたら死ぬまで『個性』が暴走して最終的には疲労で死に至るって言う…」

「おっかねェな。お前ンなもんアタシとキスするときに出すなよ」

 

─────"個性"を破壊する毒?ああ、ああ!そんなもの!僕が全盛期だった頃にあればどれだけ面白い玩具になっただろうに!僕が隠れてさえいなければ、"友人"が絶対に情報を提供してくれてただろうに!!

ああ、カスが、NPCが、モブが。僕が調子付いたばかりに、年甲斐もなくはしゃぎ喜んでしまったばかりにこんなコトに…!

理不尽だ、許されない。僕の身だけにこんなコトがあってはならない。何故僕にだけこんな不幸が。

 

 

「────────いいか?だから、アタシとオールマイトがこうするから、カエルっ子がそのオールマイトの力で─────」

「すまない。君のような少女に、こんな重荷を…」

「ソれで、やろう。つゆ、ちゃ。バフするから」「ええ、キスね。」

 

 

蠢く手の向こう側。生き残っている…否、暴走している探知の個性が辛うじてそんなゴミどもの会話が聞こえてくる。

やはりバカだ。何でもいい、この暴走している腕のどれか一つでも掴めれば個性が奪える。

そうなれば人質にでも何なりと、あの忌々しい蛇に『愛情』をさせる手段がまだ残っている!

 

 

「─────歯ぁ食いしばれよぉ!!!フロッピィィィイイ~!!!!」

 

 

!!来る!どのゴミが来るかは分からないが、所詮全盛期のオールマイトに及ぶ奴は一人もいない!それは『愛情』のバフ込みでも同じことだ!

オールマイトはまだ回復しきれていないだろう、十中八九バフを受けた野兎が飛び込んでくる!そうなれば個性なしの僕でも、今のオールマイトと同程度の身体能力がある僕なら十二分に対応できる!

 

─────SMASH!!!

 

何かが激しく殴打された音。…?ビルの床を蹴った音ではない。まさかもう既に僕は殴られた?いや、そうではない?では何だ?今の音は一体何なのだ?

 

 

 

「……オールマイトの全力、ミルコさんの全力をスリッピングアウェイで勢いに変えて」

 

 

 

待て。この声はあの醜い蛙の娘だ。どこ─────いや、何故真上から聞こえる!何故僕が反応できない速度を出している!?

 

 

 

「ナナちゃんの『愛』と、()()()()()()()()()()()()─────全部あなたに叩き込むわ」

 

 

 

待て。違う。そうか、僕はとんでもない思い違いをしていた。

何故その発想に至らなかった。何故何度も同じシチュエーションに遭遇しておきながら。

その度に何度も煮え湯を飲まされ続けていながら。

何故当代ワンフォーオールの継承者であるオールマイトが死にかけている場面に遭遇しておきながら。

 

 

何故─────僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()を忘れていた???

 

 

「おぉぉおオオルマィトぉォォォオオッぉOOOOおおお!!!!!!」

 

 

 

 

 

「─────踵半水無月輪(フロッピールナアーク)!!

 

 

 

 

 

ああ、この感覚は良く覚えている。あらゆる理を全て上から粉砕してしまう、圧倒的な力の奔流。

 

─────そうか。僕はまた、死ぬのだ。

 

身体と背後のビルが完全に消滅する感覚を覚えながら、消えゆく意識の中でそう呟いた。




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どういう展開がいい?

  • スーパー梅雨ちゃん無双
  • 主人公ちゃんがひたすらえっちぃ目に
  • スーパーミルコさん無双
  • ひたすら百合百合
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