もしガルパンの舞台が80年前だったら 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
ーー1940年5月15日 フランス セダン南方ストンヌ
遠くにマース川を望む名工風靡なストンヌ。
小高い丘の街は今、しかし不似合いな戦野と化している。
遠くには砲声が響き、平野には戦車のエンジン音がおどろおどろしく鳴る。
そしてそれを聞くのは、そんな戦場には似合わぬうら若き少女たちーー
「・・・友軍からの支援要請です。グロースドイチュラント連隊はすでに我々の南方で戦闘を始めております」
大隊副官であるエリカは無線で大隊長車にそうやって語り掛けた。
それに対して、大隊長はⅡ号戦車のキューポラから身を乗り出して双眼鏡を構えた。
そして、一通り見回すと凛々しい声で「このまま前進し、敵機甲部隊の側面を突く」
と隊の部下たちに告げた。
無線通信を受けて、大隊の車両たちは中隊ごとに動き出す。
「第Ⅱ中隊。進発します」
「第Ⅳ中隊、右翼から展開します」
まほはそれを無表情に見守る。彼女はドイツ国防軍に在って、唯一の女性エース。
12両撃破のスコアを持つ才媛であると同時に、女性のみで編成された装甲大隊の大隊長だ。
精鋭部隊として編成された同隊は現在、第10装甲師団の指揮下に組み込まれて、ストンヌ攻略に投入されている。
それを構成する装甲兵たちは皆、彼女が育てた生え抜きで、ポーランドの戦場でも見事に活躍して見せた。
そして陸軍大国であるフランス陸軍を前にしてもそれは変わらない。彼女らは大隊長の号令一で見事な戦術機動を見せる。
だが、そんな中でも一つの中隊がなかなか行動しない事にまほは気が付いた。
「どうした第Ⅰ中隊。第Ⅲ中隊を先導せよ」とまほは言う。
「は、はい!全車前進!」
第Ⅰ中隊長は少しとぼけた様子で前進命令を出す。
それに続いて、混成の戦車部隊はやっと発進した。
それを見て、大隊副官のエリカは苦言をこぼす。
「・・・みほは大丈夫でしょうか?隊長」
「あれは戦車道では、私に勝るとも劣らない。戦場でも大丈夫なはずだ」
「しかし、ポーランドでのこともあります。万が一も」
「万が一はあり得ない。エリカ。中隊を並進させろ」
まほはやはり凛々しく、それでいて冷たい声色で言い捨てた。
それはつまり、この話をこれ以上するなという意思表示でもある。
エリカはもはやそれ以上何も言うまいと、彼女の命令に従った。
ーーー
西方から迎撃に現れたフランス装甲部隊は、最新鋭のB1bisを装備していた。
これは、当時のドイツ軍戦車や牽引砲では貫通させることが困難な重装甲戦車でまさにこのストンヌ攻防戦の切り札として投入されていた。
既にグロースドイッチェラント連隊と第10装甲師団は戦闘状態に入っており、
遅れて第10装甲師団に合流したまほの大隊は北側からフランス機甲部隊を攻撃する任を与えられていた。
「奴らの戦車は正面からでは貫通が不可能だ。後方へ回り込み、後背ないし側面の装甲厚が薄いところを撃て」
とまほは各中隊長に厳命していた。
フランス戦車との交戦情報は未だ乏しく、くわえて未確認の大型戦車まで居るとなると警戒しないわけにはいかない。
しかし彼女は不確かながらも提出されつつあった友軍の交戦レポートを読み漁って暫定ながらフランス戦車との戦闘構想を練っていた。
そして大隊は西進しているとさっそく敵の戦車大隊と遭遇した。
これは、やはりストンヌ防衛の為投入されたフランスの機甲部隊でグロースドイッチェランド連隊の攻撃を跳ね返していた。
まほの大隊はそれの側面を突くように突入した。
しかしやはり重戦車を装備する敵と正面から撃ち合うのは分が悪く、
最初に接敵した第Ⅱ中隊は小競り合いの後後退した。
これに勢いづいたフランス部隊は追撃にソミュアs35と装甲車から成る追撃中隊を投入し、第Ⅱ中隊を追った。
しかし、これはまほの策略であった。
フランスの追撃中隊はいよいよ敵を追い詰めたかと思うと突如十字砲火を受けた。
待機していた第Ⅲ中隊とドイッチェラント連隊の対戦車砲は射程まで引き付けると一気に反撃を開始した。
この数十分の間にソミュアは5両。装甲車は7両が撃破された。
フランス側の中隊長ははじめこそ、大隊主力まで耐えようと考えていたが撃破されてゆく味方を見て戦意を損失し離脱を図った。まほはわざとそれを”西北”へと逃した。
まもなく、B1bisを先頭に敵の大隊主力が到着した。
「第Ⅲ中隊と対戦車中隊は距離が遠くてもいい。当たると思ったら各自の判断で撃て」とまほは命じた。
第Ⅲ、第Ⅱ中隊とグロースドイッチェランド連隊の対戦車隊(3門)は丘の上に簡易陣地ながら陣取っていたので
射程が長かった。無論、有効打になるかはさておき。
一方、攻め手のフランス機大隊はナゼール・デュラック中佐が率いていた。
彼は敵の部隊がこの先でおおよそ待ち構えているであろうことは予見していた。しかし、右翼を進む友軍の第51戦車大隊は速すぎて、
逆に歩兵大隊は遅すぎてどのみち連携は取れないとあきらめていたのでそのまま進むことにした。
まず彼は、眼前の陣地と機甲部隊を撃破することに主眼を置いていた。だから先ほども、後退した敵に対して追撃の中隊を放った。
しかし彼はフランス軍の通信機の不足故に追撃部隊がどうなったかを知らない。
彼は大隊長車のB1に乗り込んで、先頭をひた走った。
暫くすると、道の交差点のあたりで敵の野砲から砲撃を受けた。しかし、流石はB1。
有効射程内でありながら、37mm対戦車砲を跳ね返した。
「全車反転!左手の丘の陣地に突撃!」
ナゼールは車両から身を乗り出して手旗信号で部下に指示した。
これを受けて、大隊は12両のB1を先頭にじりじりと進撃を開始した。
もちろん、火点の位置を割り出したら一気に叩くつもりだ。同時に、後方へ退路確保のためソミュア7両から成る中隊も配している。
万全だ。とナゼールは勝ち誇った気分で居た。
そんな時突如として後続の中隊が襲撃を受けたと伝令が入った。その報を聞いて彼は焦った。
そして退路確保のため配置していた中隊を急遽そちらへ投入することにした。
それと同時に、彼は遭遇戦は避けるべしとの規範に従って正面の陣地に対して強攻することを決めた。
未だに彼は目の前の陣地がFEBA(主戦闘地域前縁)なのかどうかを掴みかねていた。
ーーー 同時刻、西方3キロ地点。
「これで全てか。あっけないものだ」
とまほ。
彼女は敵の後続の中隊6輌を僅か3輛で撃破して見せた。
その殆どはs35で編成されていて、まほ率いるⅡ号戦車たちに対して性能では圧倒していた。
然しながら、未だに通信機を揃え切れていないフランス戦車に在っては、
阿吽の呼吸で起動するドイツ戦車の連携には対応できなかった。
特に、この時のまほの機動はフランス戦車兵たちを圧倒していた。
彼女は部下の二両に、道の左側から足回りを狙って射撃するように命じていた。
そして彼女自身は、止まった敵戦列に突っ込んで撃破するという作戦を立てた。
まず、部下のⅡ号戦車が6輌のs35のうち、先頭に進む車両と最後尾に続く車両を撃った。
Ⅱ号戦車の主砲は55口径20 mm機関砲で、正面装甲に対しては心もとないものであったが
履帯や側面に対しては十分に損傷を与えることができた。
彼女らの放った砲弾はまず先頭車の履帯を破壊し擱座させた。
続いて、第二射を後続の車両へ発射。こちらは機関砲の一発が砲塔回転部に直撃して貫通した。
残りのソミュア4輌はそれに対して右側の畦へ離脱を図った。
彼らにしてみれば、Ⅱ号戦車より砲火力に勝るので
まずは距離を取るべき。と判断したのだろう。
しかしその右側の畦の裏には、まほの車両が潜んでいた。
彼女の駆るⅡ号戦車は突如として、フランス戦車隊に襲い掛かった。
彼らは畦にハルダウンをして敵を迎え撃つ準備をしていた。そして後方への警戒は1輌がしているのみだった。
まほはまず、後方を警戒していた1輌に副砲のMG34で猛射を仕掛けた。
勿論、機関銃ではソミュアの装甲を貫通させることはできない。しかし、車長が頭を出したりスコープで覗いたりするのを阻害できる。
これに混乱した相手の車両は主砲を頓珍漢な方へと発砲してしまった。
その隙にまほは一次停車し、主砲の20 mm機関砲を発砲した。
Ⅱ号戦車の砲で貫けるところは限られていたが、まほは交戦レポートから
車体シャーシと砲塔の間がフランス戦車の弱点であることを見抜いていた。
そしてまず第一射でその車両の砲塔の間を正確に射貫いた。
敵戦車は砲塔内で弾丸が跳ねまわって、弾薬に引火しキューポラから炎を上げて爆発した。
まほは再び発進命令を出した。彼女の車両は蛇行後退しながら射撃を躱し、他の車両にも直撃打を与える。
それを見た2輌の部下たちも駆けつけ挟撃の形となった。
そうなっては、もはや敵に勝ち目はない。
フランス戦車のことごとくは炎上し、そうでなくとも擱座した。
まほは撃破スコアに4輌のソミュアを加えることとなった。
ーーーー
「隊長。敵のB1が退いていきます。奴らは、後続と友軍部隊を失って撤退してゆきました」
エリカがまほに無線で申し上げる。
まほは追撃戦を行うか?という質問に対して「師団長からの命令はあくまで撃退だ」と言って一度停止命令を出した。
しかし、彼女自身はまだ退き時ではないと思っていたし、肝心の重戦車も撃破できていなかった。
そのために、妹である西住みほ率いる第一中隊に敵の連絡線と退路の遮断を命じていた。
これは師団長から追撃の許可をもらった時すぐに攻撃に移れるようにするためだった。
「第Ⅰ中隊長。敵の退路は?」
「戦車はすべて撃破しました・・・・でも」
みほは無線越しに弱弱しく言う。
「どうした?中隊長。問題か?」
「車両を捨てた敵兵が、近郊の簡易陣地で行動を阻害しています。しかし、陣地には付近の民間人も逃げ込んでいます。降伏承諾の許可を」
とみほは言った。
しかし、現在の第10装甲師団にもグロースドイッチェランド連隊にも捕虜を受け入れる余裕はなく、
加えてまほはそんなことより時間が惜しかった。
そうこうしているうちに、師団司令部より追撃の許可が下りた。
まほは逃げるB1を前にして焦っていた。
「不許可だ。捕虜は取らない。第一中隊は榴弾で陣地を破壊後、すぐさま敵の後方へ回り込め」
「で、でも敵は生身です。降伏を受け入れれば、陣地を捨てると言っております」
みほは反目する。
まほはしびれを切らして、みほの待機する地点へ急行した。
みほはフランス側から民間人を逃がす時間を欲しいと言われ、それを承諾しようとしていた。
しかし、まほはそれに割って入ると「それはフランス軍が後退するための時間稼ぎだ。みほ、敵の陣地に榴弾を撃ちこめ」
と命じた。事実、この陣地を超えてゆかねば後退する重戦車部隊を叩けなかった。
迂回してもよかったが、そうなると川や自然障害で機を逸しかねない。
「で、でもお姉ちゃん・・!」
「私の事は隊長と呼べ。もう一度命じる。第一中隊長はすぐに敵陣地に対して砲撃を行い、敵退路の遮断を行え」
まほはにべもなくそう告げた。
みほはそれにおどおどして答えることができない。まほは彼女に将たる才が無いと分かった。
戦車戦など、人を率いるときはその限りではないのだがどうにもこういった場面では彼女はなよなよしい。
まほは目を閉じて「わかった」と告げる。
「現刻を持って、貴官の指揮権を一時的に引き受ける。第一中隊は即刻目の前の陣地を攻撃せよ」
まほは第一中隊へ命じる。
「お、お姉ちゃん!!」
みほはまほの腕にしがみついて抗議する。
しかし”大隊長”たる彼女はそれを聞き入れない。
みほは自分の息が逸り、視界がぐらぐらした。
響く砲声と叫び声。木々はその惨劇におののくかの様に戦いだ。
みほはその後の事をよく覚えていない。
資料にも、新聞にもその惨劇については一切触れていない。
世間に知られるのは、ただ西住まほがスザンヌで5輌もの敵戦車を撃破した、という殊勲のみだった。
これが軍の都合の良い印象操作であることは明らかであった。
結局、みほはそれら一切の事に嫌気がさして逃げ出してしまった。
確かなのはそれだけだった。