もしガルパンの舞台が80年前だったら 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
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結局、みほは戦車に乗ることに承諾した。
翌日には、収容所の隣にある陸軍の練兵所に志願者が集められた。
みほは士官に連れられて、此処へやって来た。
「ここにいる連中は、合衆国に忠義を尽くすために兵役に付けるか?という質問にYESと答えた連中だ。
そのうち、財産を没収されていたり、何らかの事情があったりした婦女を集めた」
士官の女性はみほを先導しながら冷淡な物言いで告げた。
「婦女?ということは、私が・・・指導するのは、女の子たちという事です・・か?」
「そうよ、かき集めた収容所の女子で、戦車部隊をつくるのよ。お笑いね」
と茶毛の士官は笑った。
みほは全く笑えなかった。
途中、彼女はみほによれよれの下士官用のつなぎ(M1938)を渡した。
そして、「これを着て来い」と命令した。
なんでも、みほは軍属扱いになるそうで、それなりの格好をしなければならないそうだ。
それにしたって、米軍のつなぎにはおしゃれというものがない。
みほは全くドイツ国防軍に愛着など持っていなかったが、パンツァーヤッケのほうがこの制服よりよっぽどましだとは思った。
みほは着替え終わり、士官を待った。
しかし、彼女がいつになってもやってこないので仕方なしに探しに出かけた。
木造の兵舎は、やはり収容所と同じく急造されたらしい。
みほが歩くとぎしぎしと音を鳴らした。
そんな折にふとみほが窓の外を眺めると、人が一人倒れていた。
彼女はあわてて外に出て、倒れている少女の肩をゆすった。
「あ、あの!!大丈夫ですか!?」
とみほは彼女に問う。
脱走してきたのだろうか・・・?ともかく、こんなところに居たのが見つかったのでは
彼女の身も危ない。
みほは軍隊時代を思い出して、すぐさま応急手当の準備をした。
まず、体に外傷はないかと確かめるため腹部に触れた。
すると
「うう、くすぐったい・・・」
と彼女はうめき声の様なものを上げた。どうやら息はあるようだ。
「大丈夫ですか?」
「・・・眠っていただけだ。朝は何故やってくるのだろう・・・・」
そう言うと少女はむくりと起き上がった。
しかし、低血圧なのか足取りがふらふらとしていて大変危険だ。
「付き添いますから・・・」とみほは彼女の肩を持った。
兎も角、この娘を収容所へ返してやらないと。
もしも、無断外出をしているところを見られたら
どんな目に合うか。
そのためにはとにかくここから収容所へ戻してやらなければならなかった。
このままあの士官が戻ってくる前に・・・・
しかしそんな時に限って、そういった憂慮は的中してしまうものだ。
「おい、ニシズミ。そんなところで何をしている?」
さっきの士官が戻って来てみほの名前を呼んだ。
彼女は冷や汗をかいた。
「あ、あのこれは・・・」
「ん?おい、誰だそいつは?」
と赤毛の士官は眉を潜めて言う。
みほはその質問に焦った。
何か、良い案はないか。そして彼女は思い付きで
「・・・・し、志願兵です!ここに迷い込んでいました!!」
と嘘をついた。
しかし士官はそんな事を信じる様子はさらさらないようで、
「ふっ!そんなウソ誰が信じるモンですか。おい!衛兵!こいつらを捕まえろ!」
と大声で叫んだ。
みほはもはやこれまでか、と覚悟したその瞬間
「アリサ!!」と怒号に近いような声が響いた。
それを聞いた士官は背筋をピンと伸ばし、恐る恐る首を回した。
”アリサ”とはどうやら彼女の名前らしい。
アリサは顔面蒼白になりながらその声の主を確かめた。
彼女を呼び止めたのは、やはり制服に身を包んだ米陸軍の将校であった。
しかし、アリサと違っていたのはその襟に二本の線で象られた階級章が付いている事であった。
「アリサ!一体何の騒ぎなの?」
「ケイ隊長・・!こ、これは志願兵が迷い込んでいて・・!」
「・・・・アリサ。貴方に課せられた任務はなんだったの?」
「はっ!!志願兵を集結させ、それらに任務を説明することであります!!」
「そう!そのとおりよ。じゃあやるべきことはわかるわね?」
「イエス!!マム!!」
アリサはビシッと敬礼をして、すぐさまグラウンドの方へと走って行った。
金髪の大尉はそれを見届けて、ため息をついた。
「ウェストポイント出で、優秀なんだけどねー、どうにも振る舞いに難ありね」
ブロンドの長身。絵にかいたようなアメリカ美女の彼女はそう言って笑う。
「え、えっと貴方が私たちの部隊の隊長さんですか・・?」
「イエス!!貴方達の教導教官を務める陸軍大尉のケイよ!よろしくね」
ケイ大尉は愛嬌のある顔でみほたちに告げた。そして大尉はその乗馬ブーツを誇るかのように胸を張って去って行った。
みほはそれら怒涛の行動を受けて、唖然としていたが
とりあえず命拾いしたことに胸をなでおろした。
「・・・感謝する。この恩は忘れないぞ」
と担がれている少女が言った。
みほは「いえいえ、そんな・・・」と控えめに言ったが
救われた彼女の方は「私の名前は冷泉麻子だ・・・この御恩は必ずかえす・・・」と眠っているのか起きているのか判らないような状態で言った。
みほはそれを見かねて「はぁ、ととりあえずグラウンドまで行きましょう。そのあとどさくさに紛れて収容所へ・・・」
と彼女の手を引いた。
ーーー
グラウンドにはもうすでに志願者たちが整列していた。
みほは麻子と共にその最後列へと並んだ。
まもなく、アリサがげんなりしてやって来て彼らの前で説明を始めた。
さしずめ、ケイ大尉にでも怒られたのだろう。
「えー、諸君は日系人の中から、或いはイタリア系やドイツ系から選ばれた志願兵であるが歩兵としては戦わない。貴方達は女性戦車部隊の訓練を受けてもらうわ」
その説明に志願兵たちはざわついた。
皆そんなことは聞いていないと言う感じでどよめきが広がった。
アリサはそれを静めるためおほん、と咳ばらいをした。
そうして場が静まると、今度は大きな看板に書かれた
図表を使って説明を始めた。
「昨今の列強陸軍では、男子の人員不足を見越して女子戦車部隊を編成する風潮が出てきている。
とりわけ、我が合衆国と敵対状態にあるドイツではすでに一個大隊が編成され、ポーランドやフランスで活躍した、という話も出ている」
「さらにもう一つの敵対国である日本でも、古来からの武術である戦車道を根拠として女性にも、士官に限ってだが戦車兵が誕生した」
「いまや、我々合衆国はこれら敵対国に対して遅れをとっている状況よ。そしてあなたたちはそのための試験部隊に選ばれたのよ」
一通り言い終えるとアリサ少尉は上官たちに敬礼して壇を降りた。
それを受けて今度は同隊を指導する教官であるケイ大尉が登壇し、先ほどのアリサ少尉とは打って変わって明るい声色で話し始めた。
「HEY!私があなた達を指導する教官のキャプテン・ケイよ!
戦車については何でも聞いてね!」
「貴方達は、試験部隊よ。来るべき婦女子のみで編成される戦車部隊を審査するための隊だから心して学ぶように!」
ケイはそのように説明を締めくくると志願兵たちに笑いかけた。
それは一見、非常にフレンドリーな印象を与えたが一方で
志願兵たちに対して質問は許さないかのような威圧感も放っていた。
そして事実、ケイは「質問はないわね」と
大きな声で言うと一切の発議を封じた。
「それじゃあ、貴方達の指揮官を紹介するわね!ミホ!こっちへ来て」
ケイは突如みほの名前を呼んで、次に壇上に呼び出した。
みほはそれに驚いて、目を丸くした。そしてやっと二度目に呼び出されてわたわたとと志願兵の列の前へ出た。
ケイはみほの肩を叩いて、ずいと皆の前に押し出すと
「彼女が貴方達の指揮官のミホ・ニシズミよ。彼女の指示をよく聞くように!」
と紹介した。
みほはそれに対して狼狽え気味で
「へぁわ!?」と素っ頓狂な声を出した。
「よろしくね!ミホ!」
ケイはそう言うと、みほに彼女らを前に何か話すように促した。
みほはおどおどしつつも、何かしゃべらざるを得ずぎこちなく言葉を紡いだ。
「あ、ええっと・・・皆さん志願兵の・・・西住です。よろしくお願いします」
これに志願兵たちはどよめいた。
こんな人に命を預けられるのだろうか、という心配と声がはっきり聞こえなかったからだ。
そして、彼女の資質を疑ったのは米軍の指揮官たちも同じであった。
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「ねぇ、アンジー。正直、ミホは指揮官の器なのかしら」
ケイは訓練監督用の天幕で、折り畳み椅子に腰かけながら角谷に単刀直入に尋ねた。
角谷はその天幕の中から訓練の様子を伺っていた。
彼女はこの戦車大隊の責任者である。俗に”会長”と呼ばれているがその実は米軍との連絡役に過ぎない。
そして、体の良い捨て駒でもある。
「いやー、私の見立ては間違っていないと思うんだけどねー。でも、彼女以外に適任者は居ないと思うんだ」
「オーライ。わかったわよ。アンジーがそう言うなら信じるわ。どのみち、責任は貴方がとるんだもの」
「話が早くて助かるよ」
「でも、天秤に乗せるには重すぎない?いくらあなたが責任を取ると言っても、失うのは数十の女の子の命よ。お金や時間と違って彼女らは生きている」
ケイは優しい口調ながら、鋭く角谷にそう言った。
この作戦、つまり収容所に収容されている日系人の身分と財産を保証する代わりに
戦車兵として従軍させるというプログラムの発案者は角谷なのだ。
正直、人道家として高名なケイはそれらの作戦に懐疑的であった。
日系人とはいえ、アメリカ合衆国民のそれも若い少女たちであることに変わりはない。
それら民間人を訓練して、そのまま戦場に送り出すという行為には彼女は反対だった。
だが、それに角谷はよどみなく答える。
「さぁね、私にもどうなるか。かーしま。干し芋」
ケイはそれに対して表面上では笑顔で接した。
しかし腹の底では、民間人を戦場に送りこもうとする軍の上層部と角谷を嫌悪した。
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一方、みほは志願兵たちをそれぞれの部隊に振り分けた。
そして適当に名前を付けた。
会長と、その補佐たる2人を”カメさんチーム”。歴史好きで、よくわからんことをずっと言っている4人組を”カバさんチーム”。
元々はバレーのチームだったらしいが収容所入りで公式戦に出られなくなってしまった4人組を”アヒルさんチーム”。
そして若年のメンバーで構成されたチームを”ウサギさんチーム”。最後に、みほが直率する”あんこうチーム”。
とりあえずは、集まった志願兵をこの5チームに振り分けた。
みほは、あんこうチームのメンバーを編成する際に大変驚いた。なぜなら、そのメンバーには五十鈴華と武部沙織が含まれていたからである。
「みほばっかりに嫌な思いはさせられないからさ!それに、戦車に乗るとモテるんだってよ~!!」
と沙織。
「みほさんが行くなら私も行きます。それに、このままでは五十鈴家の財産が没収されてしまいますので・・・」
と華さん。
みほは最近沈みがちだった気分が晴れたものの、彼女たちを巻き込むまいと説得した。
しかし、彼女らの決意は固いようでいくら言っても志願を止める様子はなさそうだった。
そして、操縦手には何時か助けた冷泉麻子が就いた。
「恩は返すと言ったな。それに、おばあの体をいたわるためにももっと良い場所に移してもらわなければならないしな」
それらに加えて、みほはあと一人装填手が必要だった。
そんな時に現れたのが秋山優花里であった。
彼女は、いわゆるミリタリーオタクで最初日系人歩兵部隊の方へ志願しようとしていたらしいが
拒否され、こちらへやって来たという。
「に、西住殿ですか!?あの20輌撃破のスーパーエースの!?」
と彼女はみほを見て驚いていた。
どうやら、彼女は過去のみほを知っている人物らしい。
こんなアメリカのはずれにまで過去の名前がついて回るとは。
然しながら、軍事知識に乏しい同チームにあってみほの補佐に付けるだけの見識がある彼女の存在は大変貴重であった。
みほは皆を前に「どうぞよろしくお願いします!」と素っ頓狂な調子で頭を下げた。
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間もなく、軍事教練が始まった。
座学はアリサが。戦車の戦術についてはケイが担当した。
そしてもちろんそれらの訓練を指揮するのはみほである。
車両はほとんどが鹵獲車両や海外の車両で、整備については特殊な技能を持つ人間で固めた整備班を設置することになった。
まずは動かす前に座学である。
「良い?この場合、戦車を稜線や穴へ車体を隠し砲塔だけ出すことを”ハルダウン”という。あるいは、この行為自体を”ダックイン”という」
アリサは連日、このように熱のこもった講義を行った。
座学では基本的な操縦方法から、戦車の基礎戦術。加えて無線機の使い方、歩戦連携の作戦。加えて砲照準の計算方法などだ。
アリサは流石ウェストポイント出という事もあり、流ちょうにそれらの事を教授した。
しかしながら、それを受け取る生徒の側には学習状況に差があった。
カバさんチームなどは流石に歴史に通じているだけあって作戦術や兵器操縦に関しては高い適性を見せた。
一方で、ウサギさんチームなどはほとんどが授業中に寝てしまうなどまるで身についていなかった。
「ちょっと貴方達!?授業をちゃんと聞きなさいよ!!」
アリサはよく講義の際に激怒した。
しかし、ウサギさんチームなどは「えーアリサさんの授業が分かりにくいからですよー」と
それに反目する姿勢を見せたりしたのでそれがさらに彼女の神経を逆なでした。
続いて、ケイが監督する実際の操縦課程では
座学とは打って変わって、どのチームも高い適性を見せた。
車体が狭くとも、少女の小柄な体つき故に難なく操縦することができたり
男子が操縦するより操作にムラが無いなど良い点も発見された。
ケイは演習場の丘の上から、訓練を眺めて指揮官であるみほにその出来を尋ねた。
「ミホ。彼女たちの様子はどう?」
「・・・・おおむね、問題はなさそうです。戦車の操縦を覚えるのも早く、その他の事項も実演すればすぐに習得できております」
「そうね、ウチの戦車兵たちにも見習わせたいぐらいだわ。ミホは各チームをどう見てる?」
「・・・・みんなとても才覚があると思いますが、やはり運動をしていたアヒルさんチームは優秀ですね。
行軍や砲弾の積み込みなどが最も早く、また反射神経に優れます。車両は89式ですが、斥候として難しい任務にも対応できると思われます」
「次に、カバさんチーム。固定砲塔の為、火力が高いです。3号突撃砲なんて一体どこで手に・・・、なんてことは一旦置いておいて、
彼女たちは戦史や兵器に対する造詣が深く、地形利用などにも秀でていますね。狙撃などにも」
「その次は、カバさんチーム。私も乗り慣れた38Tを駆るチームでバランスが取れていますね。ただ、河島さんの命中率が・・・」
みほはそこまで言って、同じテント内に河島が居ることに気が付いた。
しかし、気まずすぎて振り返れなかった。
河島は顔を真っ赤にしていた。
「ウサギさんチームは・・・・やはり練度が低く、
各種の戦術もおぼつきません。しかし、チーム内での連携とやる気では負けていません」
「それだけだと困るのよねー」
「・・・あと、私のチームであるアンコウチームは非常に優れております。操縦・装填・砲撃・通信共に、
慣れないながらも、十分実戦に応えるだけの練度を有しております」
「まだまだ、一線級の部隊までには程遠いですが、私が何とか訓練して見せます」
ケイはそれを聞くと笑顔になって、頷いた。
そしてみほに「訓練期間は半年よ。それまでに、精鋭へ叩きあげなさい」
と肩を叩いた。ケイは教官の任も帯びていたが、自分の大隊も持っていたため
ずっとは監督できなかった。
それから数日後。いよいよ体力錬成が始まった。
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※注釈
〇ウエストポイント
合衆国の士官学校。エリート校
アリサの出身校。
〇アメリカ組の前歴
・アリサは南部の伝統ある軍事将校の家系の出。
祖父は南北戦争時代、南軍の将軍。父は第一次世界大戦で殊勲賞を得た現役の陸軍大佐。
少尉
・ケイはバージニア工科大学からROTC課程を経て将校に。
最初は別の分野へ進もうと考えていたが、戦争が始まり志願して現役将校へ。
大尉
・ナオミはノートルダム大学のスポーツ選手だったが、
戦争開始と共に志願で将校へ。
中尉
〇ROTC
・アメリカの大学に設置されている予備士官錬成プログラム。
これをこなして大学を卒業し、志願すると将校として軍に勤務することができる。