天官よもぎは知りたい 作:ミルクセーキ
けど自分が書くとナニカが削れる……
もしかしてこれ作者の精神力犠牲にして、読者の精神力回復する危ない本だったりします?
ある日の放課後
生徒会室には一人の少女の姿があった。
その少女は、書類整理をしているのか、いくつかの書類を手に持ちながら一息ついていた。
そんな生徒会室のドアが開き、また新しい人物が入ってきた。
「かぐや様、お帰りの時間です。」
そう言って入ってきた人物……早坂は元々生徒会室にいた少女……かぐやに頭を下げる。
その姿にかぐやはため息をつきながら、言葉をかける。
「早坂。生徒会室には来ないでと言っているでしょう?もし、私と貴方の間に関係があると思われたら大変でしょう?」
「ですからかぐや様のみのタイミングで来ているんです。今回も他の方のご帰宅は確認済みです。それに最悪庶務君を尋ねて来たって事にすれば良いので」
そう淡々と言い放つ、早坂をかぐやは冷めた目で見つめる。
「だからといって、気軽に来るものじゃ無いですし、そういう油断が命取りなんです。」
そう言ってかぐやは、早坂の格好を上から下に見る。
「大体なんですかその格好は?その格好と良い、爪といい、スカートの丈も」
皆も知っている通り、早坂は本来四宮家の近侍であるが、秀知院学園では、ギャルの仮面をかぶって活動している。
その為か早坂の姿は、制服の襟は外され、爪にはネイルを、スカートは何回か折ってあり、誰が見ても不良ギャル生徒と言った格好になっている。
そのかぐやの指摘は、四宮家の近侍としての意識を問うものであった。
早坂はそのかぐやの問いかけに自分の服を指し示す様にしながら答える。
「この格好は全て校則の範囲内で行ってます。まぁ多少は校則の穴をついてますけど…」
そう言う早坂に対して、かぐやはじとっとした視線を送る。
その視線を受け止めながら早坂は言葉を続ける。
「私たちにとって美貌は
そう言い放つ早坂に対して、かぐやはムッとした表情を浮かべる。
その表情を眺めながら、早坂はかぐやに爪を見せつけるように手を差し出す。
「今、秀知院では軽いネイルが流行ってます。男性に可愛いと思われたいのでしたらかぐや様も嗜んでいた方がよろしいかと」
そう早坂が告げると、かぐやは急にもじもじとしだした。
その顔は薄く赤く染まっており、まさに恋する少女といった様子であった。
「そ……それをしたら会長に……じゃなくて男子に可愛いって思わせられる?」
「よくそのボロの出し方で今までやってこれましたよね?」
早坂は自らの主人がした、誰かに聞かれてしまっては、言い逃れのできない発言に対して、思わずそう口に出す。
普通だったら早坂のその発言に、かぐやから否定の言葉の1つや2つ飛んで来ても可笑しくないが、今の乙女モードのかぐやはそんな事を気にしている余裕が無かった。
「まぁもちろん男子に……」
そこまで言って、早坂はネイルというものが一般的に異性ウケがあまり良くない事を思い出した。
これは一般的に言われている事であるが、自分自身が実際に体験したことでもあった。
「さぁ早く帰って塗りましょう。」
「ちょっと本当に思わせられるの……?」
しかし、かぐやにオシャレをさせたい気持ちを優先した為、言葉を濁す。
いくら乙女モードのかぐやも、その濁し方は流すわけにはいかなかった。
「そうだ。貴方が初めてネイルをして行った時は、男子の反応はどうだったのかしら?」
「私……ですか?」
そう問われた早坂は最近の出来事を思い出す。
早坂が最近流行りのネイルをして行った日。
まず早坂の友人達には、ネイルは好評だった。
しかし、運の悪い事に昼休み、よもぎとの昼食の為に教室を出たところで、風紀委員に捕まってしまったのである。
しかも、その風紀委員というものが伊井野であった。
早坂は、そのギャルとしての擬態から風紀委員、特に伊井野から要注意人物として目をつけられていた。
早坂は、その伊井野相手に、校則違反では無いという説明をする事になってしまい、いつもの集合時間よりも遅くなってしまった。
早坂は弁当が崩れない程度の早歩きでいつもの中庭へと向かっていった。
そうして、早坂が中庭に着くとよもぎはスマホを眺めながらベンチに座っていた。
そのよもぎに対して、早坂は急いで話しかける。
「すみません。お待たせしました。」
「いえ、全然大丈夫ですよ?」
そう返事したよもぎの視点は、早坂の手元の所に向かっていた。
そして、その段階で早坂はネイルの異性受けの話に思い至った。
確かに、思い返してみるとクラスメイトの中でも好評だったのは女子だけで、男子からはなんの反応が無いどころか、ちょっと引いたような目で見られたのを思い出した。
早坂は、そのよもぎの視線から、その様な反応をされる事をふと想像した。
(それは……ちょっと嫌だな……)
そう思った早坂は、少しその視線から手元を隠すように手に持っている弁当箱ごと自分の方に寄せ、自然と顔が下を向く。
そんな中でよもぎは口を開く。
「早坂さんその爪大変お似合いですよ。」
「え?」
何かしら否定的な事を言われるかと思っていた早坂は、そのよもぎの言葉に顔を上げる。
その時目に入ったよもぎの視線は、決して引いているような視線ではなく、いつも通りの視線であった。
(そうだこの人そういう人でした……)
早坂はよもぎの褒める事に躊躇がない性格を思い出していた。
とはいえ、急に褒められたものだから早坂は顔を赤く染めてしまう。
「あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、それにお弁当もいつもありがとうございます。それで今日は…」
「やさか…はやさか……早坂?ちょっと聞いてるの?」
そのかぐやの声に早坂はハッとする。
どうやら、以前の事を思い出して、そっちに意識が完全に行ってしまっていたようであった。
「すみません少々ぼーっとしていました。」
「ちょっとしっかりしなさいよ!それでどうだったの貴方がして行った時は?」
「そうですね……」
そう呟いた早坂は、頬を染め、口元を緩ませてかぐやに向かって答える。
「えぇ好評でしたよ?もちろん男性にも。」
「……それならお願いしても良いかしら?」
その早坂の様子を見て安心したのか、かぐやは早坂に対しておずおずとお願いをする。
早坂はそのかぐやの様子にクスリと笑い、すっとかぐやに対して頭を下げる。
「かしこまりましたかぐや様。」
そして次の日
よもぎはいつも通り、生徒会室で仕事をしていた。
そんな仕事をしているよもぎの頭の中は、昨日早坂からされたお願いで埋め尽くされていた。
(それにしても、変なお願いですよね。四宮さんを褒めないようにして欲しいだなんて)
昨日、自分自身に起きた出来事を思い出した早坂は、いち早くよもぎに連絡したのであった。
その理由は、ここで褒める事を止めとかないと、絶対に白銀より早くかぐやのネイルに気づいて、褒めてしまうからであった。
好きな人から最初に褒められるのと、他の人が褒めたのに乗っかる形で好きな人に褒められるのでは喜びが全然違うものである。
その為、早坂はかぐやの事を思って、こうして先に手を打ったというわけである。
そんな事を思いながらもよもぎは仕事を片づけていく。
今日は珍しく、いつも自宅で作業している石上も生徒会室で作業しているため、生徒会室にはタイピング音が2重に響いていた。
「よもぎ先輩ここなんですけど……」
「ん?あぁここは……」
そう言ってよもぎは、石上の使っているパソコンを覗き込んで、アドバイスを行う。
というのもこの生徒会の中で、パソコンを使った事務をしていたのは元々よもぎだけであった。
そこにパソコンが得意な石上が入ってきたことによって、よもぎの一部業務が石上に移動。
その為、現在石上が行っている業務の中には、元々よもぎが行っていた業務も紛れているため、今でもたまに業務の仕方をよもぎに聞くという事が起きたのである。
そんな風に仕事をしていると、白銀と一緒にかぐやが生徒会室に入ってきた。
藤原は、かぐやが入ってきたことに気付いて、手を挙げてかぐやを呼ぶ。
「あ、かぐやさーん。ここの部分何ですけど……」
「あ……はい」
そう言ってかぐやは藤原の手元の資料を覗き込む。
しかし、その姿は手を自分の体の後ろに回した状態で話しかけていたため、はたから見ていても不審であった。
当然その不審点は藤原も気づいていた。
「かぐやさん?後ろに何か隠してます?」
「いえ……何も……」
その藤原の問いに、かぐやは顔を引きつらせながら答える。
よもぎはその態度から、何かしらかぐやが後ろ手に隠していることは確信していた。
そんなよもぎの思考をよそにかぐやは、資料を持って白銀の方に歩いていく。
「会長、これ先日の議事録です。」
「あぁありがとう。」
そう答えて白銀は、その書類を受け取ろうとする。
しかし、かぐやの対応は先ほどまでの手元を隠そうとするしぐさから、白銀に見せつけるような動きに変わっていた。
その様子からよもぎはさりげなくかぐやの手元に視線をやる。
するとかぐやの爪には、淡いピンク色のネイルが施されていた。
よもぎはそのかぐやのネイルと、昨日の早坂からのお願いから何となく察しがついていた。
しかし、白銀はかぐやのネイルに気づかなかったのか何一つ言及することなく、会話を終わらせていた。
かぐやは、そんな白銀の様子に顔をむくれさせる。
さて、本当に白銀はかぐやの変化に気づいていないのだろうか?
(四宮がおしゃれをしてる……)
答えはノーであった。
白銀はそのネイルについて、かぐやと話を始めてすぐに気づいていた。
しかし、それを指摘する事がセクハラになってしまうのではないかとしり込みをしていたのであった。
というのも彼には妹がいるのだが、その妹の変化を指摘した時には、セクハラと言われてしまったのであった。
(とは言え、気づいたからには言った方が良いだろう。妹以上にひどいことを言われるなんてことは……)
そう白銀が決断したところで、藤原が立ち上がり、石上の横を通り過ぎた。
その瞬間石上は何かに気づいたように、パソコンの画面を眺めながら、藤原に話しかける。
「藤原先輩……リンス変えました?」
「え……分かるの!?」
藤原はいきなりの石上の指摘に、つい驚いて振り返ってしまう。
そんな藤原に、石上は淡々と答える。
「えぇ臭いが違ったんで。まぁ今日が蒸れるっていうのもありますが、臭い方がいつもより可愛らしいんですよね。例えるなら赤ちゃんの匂いというか……」
石上のこの発言に周囲の人々は絶句していた。
しかし、それでも石上の言葉は止まらない。
「後よもぎ先輩も今日香水つけてますよね?」
「え?」
「まぁ微かですけど匂ってきたんで。僕はいいと思いますよ?爽やかな匂いなんでよもぎ先輩に似合っていると思います。」
そこまで言ったところで、笑いながら藤原が石上に話しかける。
「アハハ……石上くん……きもー」
(あ、死のう)
その言葉は石上の心の柔らかい所をぐさりと刺していた。
女子との関わりが少ない陰キャの石上にとって、冗談とはいえ女子から笑いながら罵倒されるというものは、かなりクルものがあった。
ましてや、石上のこの発言は、純粋に相手を褒めようとして出てきていたものであったため、そのダメージはより大きいものであった。
石上は救いを求めるようによもぎの方を向く。
「まぁ僕の事は別にいいですけど……年頃の女性のデリケートな話題に気軽に触れるのはあまり褒められたものではないですね。」
(あっダメだ、やっぱり死のう)
石上2度目の死!
更に周囲からの攻撃は止まらない。
「普段から藤原さんの臭いをかいでいるんですか?」
「私そんなに匂いますかね……?」
「あっいや……」
その怒涛の攻撃に、石上は言葉にならない反応しか返すことが出来ない。
石上のライフポイントはとっくに0になっていた。
石上はそのまま死んだ魚のような目をしながら、よろよろと立ち上がり白銀のもとに歩く。
「会長、死にたいので帰ります。」
「お、おぅでも死ぬなよ?」
そう言って白銀はトボトボと歩いて生徒会室を出ていく石上を見送った。
しかし、この出来事によって白銀はかぐやをほめることに、大きなハードルが生まれてしまっていた。
一方よもぎは、先ほどの石上の反応を思い返していた。
(爽やかな匂いですか……最悪な事態は避けられましたけど少し気を付けないといけないですね……)
というのも、今回よもぎから匂いがしたのは、よもぎのエージェント業に起因している。
よもぎは、この前日本業の方の仕事をいくつか夜に片づけていた。
そうしてそのような仕事をしていると。
その匂いの中には、おおよそ一般人が嗅ぐことの無い様な匂いというものも存在している。
普段だったら、しっかりと匂いを落とすために様々な方法を使うが、この前日の仕事は、一気に複数の仕事であった事や、中々にえぐい仕事もチラホラあったことからか、匂いがかなりきついものになってしまっていた。
その為、よもぎは今日、応急処置であるカモフラージュ用の香水をつけることによって対策をしていた。
しかし、その香水というものは、強い匂いによってかき消すというものではなく、組織が開発した、匂いが対消滅のように成分同士の相性によって消える香水であった。
とは言え、完全に匂わなくなるわけではなく、若干の匂いというものはついてしまうが、気にならない程度の物であった。
今回石上が気づいたのが、その匂いだったから良いものの、アウトな匂いに気づいてしまったら色々とまずいことになってしまう。
その為、よもぎは、このフィードバックは本部の方にしておこうと心の中で決めた。
そんなよもぎが考えをまとめている中で白銀は思考をめぐらす。
(よし、四宮に爪のことについて知らせるのはやめとこう。もし四宮にキモイなんて言われたら立ち直れない……)
そこまで考えたところで、白銀はかぐやの方を見る。
そこには、シュンとしてしまっているかぐやの姿が映った。
そのかぐやの姿で、白銀は思い至る。
(あぁそうか……全部言い訳か……俺は結局四宮をほめるのが照れ臭いんだ……)
その件のかぐやの心は沈んで行っていた。
(結局爪には気づいてもらえないし……でも気づかれない方が良かったかも……私なんかがおしゃれをしてもしょうがないし意味がない……私は可愛くなれない……)
そのかぐやの想いに比例するようにかぐやの顔がけわしくなる。
そんな様子を黙ってみていたよもぎは、少し考えた後にかぐやに話しかける。
「四宮さん?」
「……あっはい?」
「そのつ……」
「四宮!」
「!?」
白銀はよもぎの発言を遮ってかぐやの名前を呼ぶ。
これは白銀もとっさの出来事であったが、何となくよもぎのその言葉を続けさせるわけにはいかないと思ったのである。
かぐやは、突然の意識外からの問いかけに体を硬直させる。
「あのーその……だな」
白銀は勢いで名前を読んでしまったことでその後の言葉に詰まる。
しかし、ふと視線を感じその視線の方を見ると、よもぎが意味ありげにかぐやの手元と白銀のの顔を交互に見ていた。
そこで、白銀は腹をくくり言葉を紡ぐ。
「そ、その爪……似合ってる……と思う。」
「!あ、ありがとうございます……」
白銀は語尾が小さくなりながらもその言葉を絞り出した。
その言葉にはいつものような自信満々の雰囲気はなく、おどおどとしたものであった。
一方かぐやの方もいつもの所だったら、「あら、そんな事を言うなんてもしかして会長私の事が……」などと恋愛頭脳戦を仕掛けるところだが、そんな余裕もないのか顔を赤く染めて黙りこくる。
生徒会室に、気まずい様なそれでいて甘酸っぱい様な雰囲気が広がる。
因みにこんな内容に興味津々であるだろう藤原は、自分の匂いについて考えることに夢中で一部始終全然見ていなかったため、正気に戻った後に変な雰囲気に首をかしげるのであった。
本日の勝敗 石上と藤原の敗北 (女子にキモイと言われた為、自分の気になるシーンを見逃したため)
次話 四条眞妃は相談したい