天官よもぎは知りたい   作:ミルクセーキ

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難産過ぎるー!
暑さで脳がゆだりそう……


四条眞妃は相談したい

「グスッ……」

 

秀智院学園の廊下を一人の少女が泣きながらトボトボと力なく歩いている。

その少女……眞妃は、涙を流すまいと堪えるが、そんな気持ちとは裏腹に涙が止まらない。

 

(あーもう!腹立つわね!早く止まりなさいよ…)

 

そんな事を考えながら歩いていると眞妃は反対側から誰かが歩いてくる気配を感じた。

咄嗟に泣いてる姿を見せないように俯きながら、横を通り過ぎる。

するとその人物はすれ違う瞬間眞妃の顔を覗き込む。

 

「あれ?四条さんですか?」

 

その聞き覚えのある声に眞妃は恐る恐る顔を上げる。

そこには、不思議そうな顔をしているよもぎの姿があった。

一方のよもぎは、相手が眞妃さんである事を確認すると同時に、その泣き顔に驚く。

 

「ど、どうしたんですか四条さん?だ、大丈夫ですか?」

 

「だ」

 

「だ?」

 

そのよもぎの問いかけに、眞妃は堪えていた涙をぼろぼろとこぼして口を開く。

 

「だい"じょーぶな"わわげない"でじょ"う"」

 

「!えっと……とりあえず場所移しましょう!」

 

よもぎはその眞妃の泣き顔に驚きつつも、このままでは色々と勘違いされると勘付き、場所を変える事にした。

 

 

「えーっととりあえずここで大丈夫ですかね……」

 

「……」

 

よもぎは取り敢えず前回相談をしたベンチの所に眞妃を連れてきた。

途中で眞妃は泣き止んだが、そこからずっと下を向いてよもぎについてくるだけだった。

そして、ベンチに座るも眞妃は黙ったままで何も喋らない。

しばらく無言の時間が続いた後によもぎが口を開く。

 

「……何か飲み物買ってきますね?何が良いとかありますか?」

 

「……冷たい紅茶」

 

「了解しました。少し外すので待っていて下さい。」

 

そう眞妃に伝えるとよもぎは、自販機の方に歩いて向かっていった。

眞妃はよもぎが離れたのを確認すると、顔を上げる。

その顔は真っ赤に染まっていた。

 

(は、恥ずかしい……!)

 

前回よもぎと初めて会った時も、眞妃は泣き顔を見られているが、その時とは状況が大きく異なる。

その時は、よもぎと初めて顔を合わせたが、今ではもう相談しあった仲である。

なんなら、最近はメールでちょくちょく連絡を取り合っている仲でもある。

そんな知っている相手に泣き顔を見られるのと、特に知らない相手に見られるのでは恥ずかしさのレベルが大きく異なる。

更に、今回は前回よりも酷く泣いてしまった。

そんな事も相まって、眞妃は恥ずかしさのあまり、途中から顔を伏せてしまっていたのだ。

 

(でも天官が離れてくれたお陰でこうして、落ち着かせる事が出来るわね……)

 

そんな事を考えながら眞妃は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

そして、よもぎが戻ってくるまでに赤くなった顔を戻そうと、手うちわで顔を仰ぐ。

 

そうこうしていると、よもぎが戻ってきた。

戻ってきた、よもぎの片方の手にはペットボトルが2本が握られていた。

しかし、もう片方の手には、タオルに包まれた何かが握られていた。

よもぎは、眞妃の近くまだ来ると、2本のペットボトルのうち一本……紅茶の入ったペットボトルを差し出した。

 

「お待たせしました四条さん。こちら紅茶です。」

 

「えぇありがとう。」

 

すっかり顔をいつもの調子に戻した眞妃は、平然とそのペットボトルを受け取る。

 

「あ、それと……」

 

そう言うと、よもぎはもう片方の手に持ったものを眞妃に対して差し出した。

とっさに真紀はそれを受け取る。

それはひんやりとしており、中を見ると保冷剤が入っていた。

 

「途中で保健室によって貰ってきました。それで目元を冷やしてください。そのままだと赤く腫れになってしまいますから。」

 

「あ、ありがとう……」

 

そのよもぎの気遣いに、また少し涙が出そうになりながらもそれをグッとこらえて、そのタオルを目元のところにあてる。

そんな様子を見ながら、よもぎは眞妃の隣に座り、手に握られたココアの入ったペットボトルを開ける。

 

「それでどうしたんですか?また、相談がありましたら聞きますよ?」

 

「……それなら聞いてもらってもいいかしら。」

 

そう言って眞妃は話し始めた。

 

「最近あの二人の距離がどんどんと近くなってているのよ……」

 

「2人というと柏木さんと田沼君ですか……?」

 

その相談内容というものは前回の内容と一緒で田沼と柏木カップルのことについてであるらしい。

しかし、眞妃の様子から察するに、前回や最近のメールであった付き合ってしまったことに対する相談とは違うものであるらしいという事をよもぎは悟った。

 

「そうよ!あの2人最近ボランティア部とかいうの作っちゃって!翼君はともかく、渚はそう言うの興味なかったでしょうに……!」

 

「あぁ……」

 

(そう言えば、駅前で御行と四宮さんが手伝ってた赤い羽根募金……あれもボランティア部の活動でしたっけ。)

 

よもぎは、少し前に見かけた白銀と四宮の行動について思い出していた。

思い返してみるとその時にも、田沼と柏木は一緒に行動していた。

 

(確かに仲良さそうにしてましたね……)

 

「……どうしたのよ?ボーっとしちゃって。」

 

「あぁいえ。それでも四条さんは、そんな風になっていても前に進むんですよね?ほら前に言ってたじゃないですか。学生のおままごとみたいな恋は長くは続かない。結局は自分の隣に来てくれればそれで良いって。」

 

「うぅ……」

 

そうやってよもぎが声をかけると眞妃の眼はどんどんと潤んでいく。

よもぎは、今回そこに相談内容があることを悟った。

眞妃は、手に持ってたタオルで目元をぬぐうと堰を切ったように話し始めた。

 

「確かにそうは言ったけど!そう言うわけにはいかなくなったのよ!」

 

「と、言うと?」

 

「こないだ2人のデートを見ていたんだけどね……」

 

「ちょっと待ってください」

 

よもぎはそう言って眞妃の話を遮る。

遮られた眞妃は、少しむっとした顔をしてよもぎに話しかける。

 

「なによ?何かあったの?」

 

「いえ、その見ていたって尾行したってことですか……?」

 

「そ、そうよ!何か文句ある!」

 

(なぜこの人は自分から傷つきに行くんだろうか……?)

 

その眞妃の行動に納得できない、よもぎは心の中で首をかしげる。

色々と気を使えるよもぎにも、乙女の恋心というものは理解できないようである。

 

「すみません。続けてください。」

 

「そ、そう?なら続けるけど……」

 

よもぎはとりあえず、表面上納得したことにして話を促す。

眞妃は気を取り直して話を再開した。

 

「それで、2人はショッピングモールに行ったり、そこのカフェに入ってなかよ……く……喋っ……たり……?」

 

そんな話を続けている中でその時の様子を思い出してしまったのか、眞妃は壊れた機械みたいにセリフを詰まらせる。

そんな眞妃に対して、よもぎは落ち着かせるように、紅茶を飲むことを勧めたり、立って気分転換することを勧めたりしながら話を聞きだす。

 

「その内容を要約すると、2人がそのデートで手をつないでデートしている事から、自信がなくなってしまい、更に今日2人がより仲良くしている姿を見て、心が折れてしまったと。」

 

「えぇそうよ!丁寧な解説どうもありがとう!」

 

眞妃は、若干自棄になりながらそうよもぎに向かって言う。

そんな様子を眺めながらよもぎは眞妃に対して問いかける。

 

「それで、四条さんはどうしたいんですか?」

 

「は、はぁ?ど、どうしたいって……」

 

眞妃はそのよもぎの言葉に首を傾げる。

 

「まず、2人が仲良くしている事は付き合っているんだから当然です。」

 

「付き合って……」

 

「その上で手をつなごうが、キスをしようとそれは恋人同士何ですから当たり前ですよ?」

 

「キ、キス!?」

 

「もしかしたら、それ以上の事を見かける可能性というものもあります。」

 

「それ以上……」

 

「そんな中で、四条さんは田沼君と付き合いたいんですから、それだけのダメージは当然のことで……四条さん?」

 

よもぎは、ふと隣に座っていた眞妃の様子をうかがうと、眞妃は真っ白になって燃え尽きていた。

その様子は今にも風に吹き飛ばされてしまいそうだった。

 

「そ、そんなに言わなくてもいいじゃない……」

 

「す、すみません、言い過ぎました。」

 

その眞妃の様子によもぎはバツが悪そうな顔をする。

眞妃はそのよもぎの様子を見ながら、観念したように口を開く。

 

「でもそう、全部貴方が言った通りよ。あんなに仲の良い2人の様子を見てしまったら、諦めてもいいかなって思ったのよ。翼君はもちろん渚も大事な友達だしね……2人が幸せになるならそれで……」

 

「四条さん……」

 

よもぎはその悲しそうな顔にかける言葉が見つからなかった。

 

「でも……」

 

そう言って顔つきを変え眞妃は話し始めた。

 

「貴方に色々言われて、改めて言葉にされると沸々と諦めてたまるかって気持ちが湧き上がってきたのよ。確かに渚は仲の良い友達よ?でもそれはそれ、これはこれ。やっぱり翼君の事は諦めてやらない。」

 

そう話す眞妃の顔は、いつものような強気な顔だった。

そのまま眞妃はよもぎに話しかける。

 

「ありがとう。話を聞いてもらっちゃってまた助けられたわね。」

 

「……そうですか。僕は何もしていないですけど四条さんが良かったなら僕も良かったです。」

 

そう言ってよもぎは、眞妃に対して微笑む。

そんな顔をしているよもぎに真紀は、文句を言うように言葉をかける。

 

「でも、あんなに言うことはなかったんじゃないかしら?私じゃなかったら立ち直ってないわよ?」

 

「はい……気を付けます。」

 

そうやってよもぎは言っているが、実はよもぎは半ば狙ってこれを行っているのであった。

よもぎは眞妃がこれくらいでへこたれる人間ではない事を、前回の相談の様子であったり、普段の連絡から知っていた。

そして、よもぎはこれくらい言ったことによって眞妃の負けん気を刺激できるという事を狙って行っていた。

 

よもぎはそんな様子を一ミリも表には出さず、手元のココアを飲み切るとそのからのペットボトルを持って立ち上がる。

 

「それでは相談にも乗れたようなので、僕はこの辺で失礼します。」

 

「あぁちょっと最後にいいかしら?」

 

眞妃はそう言って、よもぎの方を見やる。

その目線は先ほどまでの視線とは違い、真剣なものだった。

その様子によもぎも、体に力が入る。

 

「何かありましたか?まだ別の相談が?」

 

「いえ、違うわ。1つ質問があるの。どうして私の相談にここまで乗ってくれるのかしら?」

 

「あーそれは……」

 

その眞妃の質問によもぎは少し声を詰まらせる。

その様子に真紀の視線はより鋭くなる。

 

「もしかしてそれは、貴方が()()()()()()なのに関係しているのかしら?」

 

そう眞妃が言った瞬間、眞妃は周囲の温度が1、2℃下がったような錯覚に陥った。

よもぎの視線も先ほどまでのまでの物よりも険しいものになっている。

 

「なるほど……気づかれましたか……」

 

「えぇ?四条家を舐めないでもらってもいいかしら?というかまぁ何となく変なのは初日から感じていたけどね?」

 

眞妃は四宮家の親戚という事もあって、そこまで目立たないが国内随一の御令嬢である。

そんな彼女の近くにいる田沼や柏木といった人間は、要はその家と本人の審査に合格した人間であると言えるのである。

そして、よもぎがエージェントであることは早坂に知られており、その情報は四宮家にも伝わっている。

そして、幾ら四宮家と四条家が仲が悪いと言っても、その情報というものは親戚間である、2つの家の間で共有されたものであった。

その為、眞妃が調べればすぐによもぎがエージェントであることは分かってしまうのである。

 

実際眞妃は、よもぎと最初に会ったときにその情報というものは知らなかったが、その後家に戻ってからすぐに違和感から調査を開始。その情報にたどり着いたというわけである。

それを知った眞妃は、よもぎにこの質問を投げかけたのである。

 

そんな眞妃の思いを知らないよもぎは、その顔を崩さずに眞妃の事を見つめる。

 

「それでどうなの……?何であなたは私の相談に乗ってくれているのかしら?」

 

その問いかけに観念したようによもぎは話し始める。

 

「……最初話しかけて相談に乗ったのは確かに、エージェントとして情報を集めるために行った事です。」

 

「っっ!」

 

その言葉に真紀は少し悲しそうな顔をする。

しかし、そんな様子をよそによもぎはさらに言葉を続ける。

 

「それでも……それ以外で相談に乗ったのはエージェントとしてではなく、貴女の力になりたかったからです。そのまっすぐな思いを応援したいと思ったので、僕はあなたの相談に乗りました。……最初の事は謝ります、すみませんでした。」

 

「……」

 

そう言ってよもぎは頭を下げる。

そのままよもぎは眞妃からの、言葉を待つが何も言われないことを不思議に思う。

すると眞妃は先ほどと変わって、呆れた顔をしてよもぎの方を見る。

 

「貴方ねぇ……正直にべらべら話すエージェントがいてたまりますか。」

 

「それは……って信じてもらえるんですか?」

 

その眞妃の言葉によもぎは不思議そうな表情を浮かべる。

眞妃にとって、先程のよもぎの話を信じる道理というのはどこにもない。

その為よもぎは、信じられないと思いながらも言い訳をしていたため、驚きを隠すことが出来なかった。

 

「まぁね。これでも私人を見る目はあるのよ。貴方はこういうところで嘘をつく人間ではないと、今までの関わりの中で知っているわ。だから私は貴方を信じる。」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

その眞妃の、無茶苦茶な論理によもぎは開いた口が閉じない。

更に眞妃は続けて言う。

 

「それに話しているあなたの眼は噓をついている人間の眼でも、媚びへつらってくるような眼でもなかったわ。そう言う点でも私は貴方を信じるわ。」

 

そう言う眞妃は自信ありげな顔をしている。

そんな眞妃の様子によもぎは何か言おうとするが、何も言うことが出来ずにしばらくして観念したように息をつく。

 

「分かりました。取り敢えず信じてもらってありがとうございます。」

 

「えぇ。これからも貴方は私の相談相手でいなさいよ、よもぎ。」

 

眞妃はそう言ってよもぎの方を指さす。

よもぎは突然名前を呼ばれたことに驚きながらも、眞妃に話しかける。

 

「分かりました……それにしても僕そんなに分かりやすいでしょうか?」

 

「分かりやすいよりなにより、貴方エージェント向いてないわよ。馬鹿正直に話すし、エージェントであることもすぐに認めるし、普通ならもう少し粘ったりするところでしょう?」

 

「いや僕だって人は選んで、対応しますよ?というか四条さんもそうですし他の人も、察知能力の高い人がこの学校多いんですよ。」

 

「眞妃でいいわよ……」

 

「はい?」

 

よもぎは思わず眞妃に聞き返す。

 

「だから眞妃でいいわよ名前。私もよもぎって呼ぶし。」

 

そう言う眞妃の顔は、かぐやが良く藤原に向けている顔であるとよもぎは感じた。

 

「分かりました眞妃さん。」

 

「それで良いわ」

 

その呼びかけに満足げにうなずくとペットボトルの紅茶を飲み干すと眞妃は勢いよく立ち上がる。

 

「それじゃあ私は行くわね!今度また相談乗ってもらうから!」

 

そう言って眞妃はその場を去っていった。

 

一人残されたよもぎは、その走りゆく背中に向かってぽつりと呟く。

 

「エージェントに向いてないですか……」

 

その一言は誰の耳にも届かなかった。




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