天官よもぎは知りたい 作:ミルクセーキ
「そう言えばそろそろ期末テストですね。皆さん勉強はされてますか?」
かぐやのその言葉が、生徒会室の中に響く。
その生徒会室には、3年生を除いた生徒会室メンバーがそろっていた。
そのかぐやの言葉を聞いた反応はメンバーによって異なった。
その中でも藤原の反応はかなり露骨だった。
「ぴゅ……ぴゅー♪」
「藤原さん?全然吹けてませんよ?」
藤原は勉強をしていないのかそっぽを向いて掠れた口笛を吹く。
それに対してかぐやは思わずつっこむが、その様子を見ながら白銀が口を開く。
「試験勉強など必要ない。」
「あら?」
その白銀の言葉にかぐやは驚いたような反応をする。
白銀はさらに言葉を続ける。
「そんなもん普段から勉強していれば問題ないんだ。試験前だけ勉強しても意味がないし、一夜漬けは体調を崩す。君らはくれぐれも一夜漬けなんてするなよ?」
(嘘ですね……)
そうよもぎが思った通り、これは嘘である!
この男最近はバイトも休み、一夜漬けどころか、十夜漬けに達しようとしている!
その証拠に、生徒会のメンバーには顔を伏せているため見えていないが、何時もの寝不足からくる、鋭い目つきも5割増しになっている。
その隈の濃さは他の人が見れば、心配してすぐ安静を進めるところである。
期末テスト!
秀智院学園では文理混合のテストが年5回行われる。
白銀は現在そのテストで3回連続で学年1位を獲得!
学年首位の座を盤石の物にしている。
そんな白銀にとって、学年首位の座というものは最大の生命線!
この座は誰にも譲らないと決めている白銀にとって、この座を守るためであれば、噓も駆け引きも一切ためらわない!
そんな気迫漂う白銀の姿に、よもぎは思わず身構える。
そんな中、かぐやは白銀の言葉に続けるように、にこやかに藤原に話しかける。
「そうですね。テストというものは本人の能力を図るために行うものです。無理に一夜漬けをして背伸びをしたところで、本来の自分の点数や成績というものは見えてきません。自然体で受けるのが一番ですよ?」
(これもまた嘘ですね……)
その通り!嘘である!
この女珍しく、本気も本気でテスト勉強に挑んでいる。
しかし、実のところ彼女にとって、本来敗北というものは必ずしも屈辱的なものではない。
彼女は処世術として、敗北を扱う事もあり、周囲に疎まれないように『常に6割』の実力しか出さないようにしている。
だが、そんなかぐやの中でも、勉強に限っては話が変わってくる。
『天才』である四宮が本気を出したところで、まだ一度も勝ったことのない存在が白銀である。
彼女にとって、それは人生唯一の本当の意味での『敗北』であった。
その環境から、人一倍にプライドの高いかぐやにとってその敗北は到底容認できないものであった。
そんな中で話に参加していない石上は、仕事を終わらせ荷物をまとめて、生徒会室から出ていこうとする。
そんな石上にかぐやが声をかける。
「石上君はちょっとは背伸びしないと大変かもしれませんよ?また赤点とって補修にでもなったら……」
「大丈夫ですよ、今回は試験勉強バッチリです。それでは僕は帰って試験勉強でもしますので。」
そう言って石上は、生徒会室のドアに手をかける。
そんな石上に対して、よもぎは声をかける。
「あぁそう言えば、最近発売のモンスタークエスト5。優はやっているんですか?」
そのよもぎの問いかけに、石上は体を180度回して反応する。
「えぇ!よもぎ先輩も気になりますか?今回はグラフィックもBGMも特に良くて、他にも昨日行ったダンジョンのギミックなん……か……は……」
そこまで言って石上は、口元を抑える。
そんな石上によもぎはにっこりと笑みを浮かべて、声をかける。
「優。ゲームもいいですけど、ちゃんと試験勉強もしてくださいね?」
「ハイ……」
そう言って石上はトボトボと歩いて生徒会室を出ていく。
ここまでの会話からわかる通り、先程の石上の勉強しているというセリフは、紛れもなく嘘である!
この男本来だったら、家に帰って新作ゲームの続きを行うつもりでいた!
この試験前に新作ゲームを買う胆力!まるで自分の死期を察したかのような生き急ぎ!
そして、そのままゲームをやりまくって試験では赤点を取る!これが石上のやり方である。
しかし、今回に限ってはよもぎに釘を刺された事から勉強をしようと、心に決める。
まぁその勉強が長続きするかどうかは、別の話である。
藤原たちはそんな風に出ていった石上に呆れた目を向けながら、話をもとに戻す。
そんな中で、話は藤原の苦手教科の話に移って行った。
「私国語がどうしても苦手で。後、母親の影響で外国語とか得意なんですけど、スラングとかが出てきちゃうのでテストだとあんまりなんですよね……」
そう言って藤原は困ったような表情を浮かべる。
そんな藤原に白銀とかぐやは声をかける。
「藤原書記は言語習得の段階が普通の人間とは異なるからな。普通の勉強法では効率悪いかもしれんな。」
「勉強量が必ずしもテストの点数に反映されるわけではありませんからね?いっその事勉強をしないで本番に臨むという方法もありますよ?」
嘘である!
「そうだな……俺も試験前は勉強をしないで3日くらい勉強せずに座禅組んで精神統一をしている。効くんだわぁこれが。」
嘘である!
(すごい平然とでたらめを……)
この噓の応酬によもぎは内心、かなりドン引きしている。
白銀とかぐやが、この様な嘘をつき続けるのは理由がある。
それこそは
試験というものは、ペンを持つ前に始まっている。
『今回は勉強していない』などの、周囲に勉強をさせないための心理戦!
『範囲が変わったらしいよ』みたいな、出題傾向のデマの流布!
偏差値77の秀智院学園において、成績を気にしない人間など存在していない!
誰もがその自分の持てるすべての力を用いて、己の事情を突き通すのは当然の道理!
秀智院学園にとっての試験というものは、智謀の限りを尽くして行う仮想戦争なのである!
そして、そんな中藤原は白銀のかぐやの嘘を聞いて、少し考え込んだ後、にぱーと擬音の付きそうな笑顔を浮かべる。
「なるほど分かりました!私勉強しません!」
ここまでくると噓に聞こえるが、ところがぎっちょん
藤原自体の成績というものは平均的である。更に学習意欲も高いため、性格や若干不思議ちゃんな気質を除くと、優秀な人材という事が出来る。
そんな藤原は、だからこそ秀智院学園TOP2の言葉を疑わない。
その為、白銀とかぐやの足の引っ張り合いに巻き込まれて、順調に順位を落としていっている。
そして、そんな中藤原は、パソコンで仕事をしているよもぎに質問をする。
「よもぎ君は試験勉強どうしてますか?前回は会長とかぐやさんに続けて3位とってましたけど……」
その藤原の質問によもぎはパソコンの操作の手を止めて答える。
「僕ですか?僕は特段変わった事はしてませんよ。まぁお二人が言う通り自然体で取り組むのがなんだかんだでリラックスできて良いと思いますよ?」
そう言うよもぎは3人の方向を向いて、ニッコリと微笑む。
しかし、かぐやと白銀はその目の奥が笑っていない事に気づいていた。
藤原はそんなよもぎの答えを聞いて安心したような顔を浮かべる。
「なんだ〜!よもぎ君もそう言うなら安心ですね!」
「えぇ。後はしっかりとした睡眠も大事ですよ?さっき御行も言っていた通り、一夜漬けは身体に悪いですから。しっかり寝て体調を整えるのも良い成績を取るコツです。」
さて、聡明な読者諸君は、もう気づいている事だろう。
その通り!これも嘘である!
この男、ここまで散々嘘をついて相手を騙そうとする白銀とかぐやにドン引いておきながら、自分自身もその手法を用いるという3枚舌で有名なイギリスもびっくりの身の変えようである。
(まぁ嘘は言ってませんよ嘘は。自然体で受ける事が大事なのも睡眠が大事なのも事実ですから。)
そう心の中でよもぎは呟くが、明確な嘘をついていない分他の2人よりも悪質である。
当然、かぐやと白銀はこのよもぎの攻撃に反応をしめす。
(流石はエージェントという所ですか……
(よもぎも仕掛けてきたな……それにしても嘘を言わないとは中々に悪辣だな……まぁ俺は引っかからんが四宮が万一引っかかってくれれば御の字といったところか……)
こんな事を思っているが、他の2人もどっこいどっこいどころか仕掛けている数で言えばよもぎよりも圧倒的に多い。
まさに人のふり見て我がふり直せ、である。
そんなこんなで生徒会室はそんな陰謀渦巻く魔境になっているのであった。
そしてその日の夜。
よもぎは自室の椅子に腰掛けながら、恒例となっている早坂との報告会という名の愚痴大会を行っている。
そんな愚痴大会の中で話題は試験勉強の話題にシフトして行った。
「そういえば早坂さんは、試験勉強とかはしているのですか?」
「私は、まぁそこそこにしているといった形ですね。学内でのイメージを壊すわけにもいかないので。」
この言葉の通り、早坂は学校のテストではそこそこの点数を取れるくらいにセーブしている。
本来の早坂はかぐや程という訳には行かないが、中々に優秀な成績を取る事が出来る。
しかし、早坂は学校の中で『そこまで頭の良くない明るいギャル』として擬態をしている。
そんな早坂がいきなりテストで良い点を取ってしまうと周囲から不審がられてしまうし、注目が集まる事によって近侍である事が露見してしまう事も考えられる。
その為早坂は、前回のテストでも手を抜いて114位という成績をおさめていた。
そんな中、疑問を感じた早坂は、よもぎに質問をする。
「そういえば庶務君は前回のテストも3位でしたけど、今回も?」
「えぇまぁ。目指すのは1位ですけどね。」
その質問によもぎは淡々と返す。
早坂は、その答えにまたしても疑問を抱いた。
「庶務君はどうしてテストで良い成績を取りたいんですか?エージェントして目立たないように活動していたと思うんですが……」
その早坂の疑問は最もだった。
よもぎは早坂と出会った時よりも他人と関わって情報を得るようになったとはいえ、よもぎが目立たないように活動していると早坂は感じていた。
そんなよもぎにとってテストは、普通だったら赤点さえ取らないように立ち回れば良いはずである。
それなのに前回は2年全体で3位という注目を受ける順位をとっており、今回も好成績を目指すと言ったよもぎの発言はいつもの態度と、矛盾していると言える。
(それにこれでもっと庶務君の事を知る事が出来るかもしれないですし……)
前回の車であった件から早坂はよもぎの事について知ろうと、最近は様々な事についてよもぎに質問をしている。
今回の質問もそのような事情が起因となったものであった。
「確かにエージェント業務の障害になってしまう事も考えられますから、本来だったら手を抜いた方が良いですよね……でも」
よもぎはその早坂の質問に、背もたれに体重を預けながら目を閉じる。
『そう言うなら俺にも勝てるだろう?』
『無駄だというのなら次回は本気でやってみろ。』
『それで俺よりも良い成績を取れたのなら、今後も手を抜けばいい。』
『さぁどうするんだ天官!』
「……」
「庶務君?」
早坂は、いきなり電話ごしに黙ってしまったよもぎに対して、声をかける。
しばらくへんじがないため、(もしかして寝落ちしてしまったのかまさか何かあったのでは?)と早坂が心配し始めた所でよもぎが口を開く。
「約束をしたので。本気で行うと。」
「約束……ですか?」
「えぇまぁ他には意地ですかね。もう絶対に負けたくはないので……」
そう言うよもぎの顔は、電話の向こうの早坂には見えないが獰猛な笑みを浮かべていた。
しかし、早坂はその力のこもったよもぎの声色というものを初めて聞いて驚いていた。
そんな驚いている早坂をよそによもぎは言葉を続ける。
「もう良い時間ですね。それでは僕はこれから勉強があるのでこれで失礼します。」
「あぁはい……えっと頑張って下さい。」
「はいそれでは。おやすみなさい。」
そう言って電話が切れる。
早坂は電話が切れた後もボーッとしていた。
そんな早坂の頭の中に先ほどのよもぎの声がリフレインする。
『もう絶対に負ける訳にはいかないので……』
その瞬間早坂は咄嗟にパンっと頬を叩き、その言葉を早く忘れるように急いでベットに潜る。
そのベットから覗く耳が真っ赤であった事は、早坂本人も知らない話であった。
一方電話を切ったよもぎは、スマホを机に置き、上を向いて一息つく。
そのスマホをおいた机の上には、大量の紙が乱雑に置かれている。
その紙の中には、数学、国語、理科、社会……様々な科目の単語や計算式というものが書かれていた。
よもぎはその机の上に視線を戻すと、その紙1枚1枚に目を通し始める。
カメラアイ!
瞬間記憶能力とも言われるこの能力をエージェントであるよもぎは取得していた。
この能力は、見るだけでその見たものを記憶する事ができる能力である。
これはかぐやも持っているものだが、先天性のかぐやと違って、よもぎは後天的に習得したものである。
本来これは、エージェントして一瞬で情報を記憶する為にあるものだが、今回よもぎはテストに出てくる単語や例題を記憶する為に用いている。
更に紙を取る手とは反対の手は、凄い勢いで白紙に書き込みを行っている。
側から見たら気持ちの悪いこのよもぎの作業は、テスト当日まで続いた。
そしてテスト当日
藤原は、教科書をペラペラと見ながら白銀の机の近くに立っていた。
「あ〜緊張しますー!今回成績落とすとお小遣い減らされちゃうんですよー。」
「落ち着け。今更焦ったところでテストの点数は変わらん。」
そういう白銀は、側から見ると全然緊張していないように見える。
しかし!それは見かけ上の話!
この男、本当はゲボ吐きそうなくらい緊張している!
更に謎の震えに襲われて先程からまともにペンも持てていない!
これは彼にしか分からない感覚である。
いつも完璧を求められる重圧を、天才と張り合う為に払われた犠牲の数を、王者防衛の為の労力を。
これらは、挑戦者達が感じている物とは文字通り格が違う。
白銀にとって勉学というものは、唯一自分が天才と肩を並べる為に備え付けた武器である。
もし、勉学でも負けてしまえば、なんでもできるかぐやは遠く見上げるだけの存在になってしまう。
否!そんな事は許されない!
その為に、彼は負けるわけには行かない!
彼女と対等の存在である為に!
こうして、様々な思惑が混ざり合う期末テストがスタートした!!
一学期末定期考査
成績優秀者50名をここに列挙する。
ここに名を連ねるものは、今後も後進の標となるべく、更なる講究を望むものである。 教師一同
一位 白銀 御行 492点
二位 四宮 かぐや 487点
三位 四条 眞妃 486点
三位 天官 よもぎ 486点
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「……」
「流石ですね会長」
この貼り紙を見ながらかぐやと御行は話し始める。
「四宮こそやるではないか。こういうものは時の運もあるしな。次は分からん。」
「そんな事はありませんよ。会長の努力は私の知るところです。やはりまだまだですね。今回の結果も甘んじて受け入れます。」
そうしてかぐやは、白銀に背を向ける。
その瞬間、かぐやはその目に涙を浮かべる。
その通り!これらの発言は全部嘘である!
本当はこの女、目から血が吹き出しそうなほど悔しがっている!
ここが公然の場でなければ地団駄を踏んで、転がり回る所だったが、唇を強く噛むことによって、それを押さえ込んでいた。
そんな様子を隠しながら、かぐやは白銀に話しかける。
「か、会長は嬉しいんじゃないんですか?これで4連覇ですから……」
「いや、正直プレッシャーが大きかったからな、実際のところ安堵しかない。喜ぶ余裕なんかないさ。」
「そう……ですか……」
そう淡々と語る白銀に、かぐやは不思議そうな顔をしながら答える。
そう2人が会話をしている所に、よもぎがやってきた。
「御行1位おめでとうございます。四宮さんも2位おめでとうございます。」
「あら天官くん。天官くんも3位おめでとうございます。私もウカウカしていられませんね?」
「そうだな。よもぎもどんどんと力をつけているからな。足元を掬われるかもしれん。」
「いやいや1点は1点ですし、僕もまだまだ頑張らないといけませんね。」
そんな話を笑いながらした後、白銀はトイレに。よもぎは用があるからと解散した。
そして、白銀はトイレの中でいきなりシャドーボクシングを始める。
「っしゃぁぁぁぁオラァァァァ!見たか四宮ぁぁぁ!!!」
その通り。先程の発言は嘘である!
この男意味もなくシャドーボクシングを始めるくらいには喜んでいる。
一方一人になったよもぎは周りに誰もいない事を確認して、壁を思い切り殴る。
おおよそ人とコンクリート同士がぶつかったとは思えない音を立てるが、それを聞いている人物は存在していなかった。
こちらもまた嘘である!
この男、あの場で暴れ出さなかったのが不思議なくらいに、自分自身に対して憤りを感じていた。
「次こそは絶対に……」
そう呟いてよもぎは壁を殴って赤くなった拳を更に強く握る。
こうして一喜一憂、知謀渦巻く期末テストは幕を閉じたのであった。
本日の勝敗 白銀の勝利
次話 天官よもぎはテストされる