天官よもぎは知りたい 作:ミルクセーキ
ある日の朝。
早坂は、少しの眠気を感じながら教室に入り、カバンを机の上にを置く。
その姿は、僅かにだが疲れているように見える。
その理由は昨日の早坂のタイムスケジュールにある。
普段から忙しく働いている早坂であるが、最近は特に忙しく、その中でも昨日は特段と忙しかった。
昨日早坂は、学校から帰った後に接待準備や、突発的なトラブルに見舞われてしまった。
その為、普段でも短いプライベートの時間がなくなってしまい、昨日は倒れこむように寝てしまったのである。
更にはそのせいで、日課になりつつあるよもぎとの報告会も出来ずに眠ってしまった。
それだけでなく、早坂には気になる点もあった。
(昨日は何もする余裕がなかった……それにしても昨日からかぐや様が何やらニヤニヤしてましたが…いったい何だったのでしょうか……?)
そうそれは、早坂の主人かぐやの行動についてである。
昨日から、今日の車の中でもかぐやは、早坂の事をニヤニヤと見つめていた。
それに対して、指摘をしても何でもないと流されてしまった。
早坂は、そんな昨日からの自分の主人の行動について、若干の不信感を抱きながらも、カバンから荷物を取り出しながら1限の準備を進める。
しかし、まだ昨日の疲れが抜けていないのか、早坂の口から思わずため息が漏れる。
「ふぅ……」
「あっ愛、おはよー」
「愛、おは~」
「あっ、おはよー」
そうこうしていると
それに対して、早坂は返事をして席に座る。
「ため息なんてついてどうしたん?」
「んーちょっとバイトでね~」
「また、バイト!?愛頑張りすぎ~」
そんな風に、早坂達は、いつも通りのたわいない会話を始める。
そんな早坂のクラスの入り口に、このクラスではない人物が立っていた。
その人物は、少しの間クラスの中を見渡すと、何かを見つけたようにスタスタと早坂の方に歩き始める。
クラスの面々は、話をしながらもちらちらとその人物の方を珍しそうに見る。
駿河は、その人物に気付いたのか、その人物の方を向いて声をかける。
「あれ?天官くんじゃん?どうしたの?」
「あぁ皆さんおはようございます。」
その人物……よもぎは、そう言うと、その面々に頭を下げる。
早坂は、そのいきなりのよもぎの訪問に驚く。
(何でいきなりクラスに?何か緊急の用事とか……それとも私以外の人物に用事が……?)
早坂は、その頭をフル回転させ、よもぎがやってきた理由を推測し始める。
そんな中、火ノ口はニヤニヤと笑みを浮かべてよもぎに質問をする。
「ん―?もしかして愛しの愛に会いに来たとか―?」
「ちょ、ちょっと三鈴!」
その火ノ口の言葉に早坂は顔を赤くさせる。
一方のよもぎは、顔色一つ変えずに返答する。
「はい。愛しのは良く分かりませんが、早坂さんに用があってきました。」
そう言われた早坂は、愛しのという言葉に引っ張られ少々顔を赤くしながらよもぎの方を見る。
「えっと何の用だし?」
「えぇちょっと。」
そう言うとよもぎは早坂の方を向く。
その様子を火ノ口と駿河は、ニヨニヨと見つめる。
「早坂さん。」
「はっはい!」
早坂は、その少し異質な雰囲気に緊張をし、少し声が裏返ってしまう。
そんな様子に他のクラスの面々も、気になったのか覗き見てくる。
そんな中よもぎは口を開く。
「夏休み僕と一緒に海に行きませんか?」
「はい……はい?」
その瞬間周囲の空気が硬直する。
それは、この話をしている場所だけではなく、クラス全体の空気が止まり、早坂とよもぎの方に視線が集中する。
火ノ口と駿河も、笑っている顔から少しポカーンと呆然としたような顔に変わる。
一方当事者の早坂は、先ほどのよもぎの言葉が頭の中でリフレインしていた。
(一緒に……海……??何かの暗号……?いやというかえっ???)
早坂は完全に混乱してしまったのか、口をパクパクと開いたり閉じたりを繰り返している。
そんな異様な雰囲気の中
「あっもうすぐで始業時間ですね。それでは僕は教室に戻ります。また詳しい事はお昼ご飯の時にでも。それでは。」
「あっちょっと待っ!」
そう言い残すと早坂の制止も聞かずに教室を出て行ってしまった。
その場には、止めようとして変な格好で固まってしまった早坂が残された。
周りには、そういうお年頃の女子が集まっていた。
どうなるのかは自明の理だった。
その女子たちは、ガタガタと早坂の方に詰め寄ると矢継ぎ早に質問を飛ばす。
「えっ今の誰?同学年ぽかったけど、どういう関係?」
「い、今の生徒会の天官よもぎ君だよね!?ど、どういう関係なの!?」
「と、というか今のデートのお誘いだよね!もしかして……」
「天官くんって噂には聞いてたけど、どんな人なの?」
「というか早坂さん天官くんの事好きみたいな話あがってたよね?」
「お昼ご飯の時ってもしかして一緒に食べてるの!?」
「えー愛選手今のお気持ちは……」
そんな風に詰め寄っている女子の輪の外で、男子たちも話をする。
「今の奴って誰なの?」
「あー確か天官とかじゃなかったっけ?混院の」
「えっ天官って混院なの?試験の点数良いからてっきり純院かと……」
「……その名前、今の1年の方でなんか聞いたことあるぞ?何だったかは忘れたけど……」
「というかあんな大胆にデートに誘うとか……俺もあれくらいの大胆さがあれば……?」
「あれ、お前早坂さん狙いなの」
「あぁそうだよ悪いか!?今目の前でデート誘われて早坂さんもまんざらでもなさそうな俺の気持ちが分かるか!?」
「顔こえーって。アシュラマンかよ。」
わいわいがやがやとクラス全体のざわめきが大きくなっていく。
そんな中で、早坂はその女子たちの質問を一つずつさばいていくが如何せん数が多いのと勢いがすごい事、それと先ほどの余韻がまだ残っており頭が上手く回らないことから、なかなか効率よくはいかなかった。
(あぁもう!いきなり何なんですか庶務君!恨みますよ……)
そんな事を考え、今日の昼どうしてやろうかと考えながらふと、早坂は輪の外側の方を見やる。
するとそこにはかぐやが早坂の方を向いて立っており、早坂の視線に気づくと意味ありげににやりと笑って自分の席に向かっていく。
(あの主人は……!!!)
そのかぐやの様子から、これの首謀者はかぐやであることを察知した早坂であったが、学内ではかぐやとの関係がバレてしまわないように、話しかけることが出来ないため、その場はグッとこらえるしかなかった。
早坂はそんな主人に対して、家に帰ったらどうしてやろうかと考えつつ、目の前の質問を処理する作業に戻っていった。
そして昼
早坂は、ずんずんと中庭を進んで行く。
あの後早坂は、休み時間になるたびに質問攻めに遭い、それを何とかくぐり抜けて、昼休みを迎えた。
この昼休みでも、昼ご飯を一緒に食べる様子を見たいクラスメイトを撒き、やっとの思いでよもぎのもとに向かっていた。
早坂の足取りは、この状況を作った要因である、よもぎに一言文句を言ってやるという思いで、早くなっていた。
そしてその件のよもぎは、ベンチにゆったりと腰かけていた。
よもぎは早坂に気付くと片手をあげる。
「どうも早坂さん。」
「えぇこんにちは庶務君。早速ですけど朝のは何ですか?」
早坂は、そのよもぎの様子に、内心イラっとしながらも務めて冷静に話しかける。
よもぎは、その質問に対して口を開く。
「朝の事ですか……えぇっとあれは昨日の事なんですけど……」
そう言ってよもぎは昨日の生徒会室での話を始めた。
「うわぁぁぁぁぁん!!!石上くんの馬鹿ぁ!!!」
(何事?)
担任に頼まれていた仕事を片付けて、生徒会室に向かっていたよもぎの横をものすごいスピードで、藤原が駆け抜けていく。
よもぎは、そのいきなりの様子に何が起こったのかと不思議に思いながらも、よもぎは取り敢えず生徒会室に向かう。
そして、よもぎがドアを開けるとそこには何故か石上の事を慰めているかぐやと白銀の姿があった。
よもぎは、その様子にたまらず話しかける。
「遅くなりました……えぇっとこれは……?」
「あぁよもぎか。いや実はな……」
そう言って白銀はよもぎに対して説明を始めた。
その説明によると、まず最初は皆で生徒総会についての話し合いを行っていたらしい。
しかし、藤原の話した夏休みというワードから、話し合いの内容は生徒総会の話から、生徒会メンバーでの夏休みの過ごし方にシフトチェンジしていったそうである。
そして、そこで石上の提案により、生徒会メンバーで花火大会に向かう話が出たのである。
しかし、その日程は藤原の旅行の時期とぴったり重なり、その事に対して藤原はいけないという話だったが、石上がそれでも他のメンツで行くという話をしたところ、藤原が除け者にするんだと怒り、生徒会室を飛び出していったらしい。
その事について石上がショックを受けていたが、白銀とかぐやがそれを慰めるという状況によもぎが来たというわけである。
因みに白銀とかぐやがこんな風に石上を慰めている理由は、白銀は藤原を使ってかぐやとの予定を作ろうとしたが、ことごとく藤原に予定が入っており、一緒に出掛ける話に持っていけなかったため、藤原の予定に対してフラストレーションがたまっており、それに対してズバッといってくれた石上に感謝の気持ちを持っているためであった。
その話は置いておいて、説明を受けたよもぎはなるほどとばかりに手を叩く。
「あーだから藤原さんが、優への恨み言を言いながら、廊下を爆走していたんですね。」
「えぇ……」
その藤原の奇行に、石上はどん引いている。
そんな中で、かぐやはよもぎに尋ねる。
「天官くんはどうですか?花火大会8月20日なんですけど……」
「8月20日ですか……」
そう呟くとよもぎはスマホのカレンダーアプリを眺め始める。
しかし、その行動は所謂ポーズであり、その言葉を聞いた時からよもぎの言うセリフは決まっていた。
「うーん。今のところ当日にならないとなんともって感じですね……」
「そうか……」
そう呟く白銀は少し寂しそうであった。
エージェントであるよもぎにとって、何時何が起こるか、何時いきなりミッションが入るか分からない為、遠くの日程よりも近々の日程の方が明確になっている。
そんなよもぎは、8月20日という少し遠い日程に関しては、不明としか言えないのである。
そして、寂しそうにしているのは白銀だけでなく、石上やなんとかぐやも少し悲しげな顔をしていた。
その視線に晒されたよもぎは、焦ったように話題を変える。
「あーでも!前に言っていた海に行くという話の時は予定開けれますので。」
「海……ですか……?」
そのよもぎの発言に石上を始めとして、生徒会の面々は首を傾げる。
その視線によもぎは困惑しながら答える。
「あれ?海に行くみたいな話してませんでしたっけ?ほら体調が悪くて僕が早めに帰った日。優はいなかったですけど四宮さんと御行は一緒にいたと思うんですけど……」
(そうだ!まだこの手があった!)
その時、白銀に電流走る。
夏休みの予定!
それこそは、夏休みと言うものを華やかなものにするのか、それとも地味なものにするのかにとって、大事なもの!
予定さえあれば、異性とのバーベキュー!花火大会!海水浴!青春の醍醐味といっても良いほどの恋愛イベントを享受することが出来る!
しかし、予定がないとそれは一変、灰色の夏休みを過ごすことになる。
涼しい部屋で一人、宿題を片付けたり、意味もなく掃除をしてみたり、外に出たとしてもバイトやコンビニ程度で終わる夏休みを過ごすことになる!
もちろんそれでいいという人間も一定数存在するが、絶賛青春をしている白銀とかぐやにとってそれは許容できるものではなかった。
更に、その中での最もハードルが高い異性とのお出かけという面も、夏休みの初めの方にしておくことで、ハードルをを大幅に下げることが出来るのである。
なぜなら、その時行った面子で次に行く所を考えるという出来事に派生しやすいからである。
その為にも、夏休みの最初に気になるあの子がいるグループと出かけることは、想像以上の意味を持つのである!
……まぁそんな事を考えずに誘ってしまえばいいのだが、そこは頑固な2人。
自分から誘うという事は絶対にしたくなく、どうにか話の流れを誘導しようと画策するのである。
その為に先ほどまでは藤原をどうにかしようとしていたが、ここで現れたのがよもぎであった。
白銀とかぐやは2人揃って、考えをめぐらす。
(あの時の話はほぼ諦めかけていたが、ここでよもぎが話題に出してくれた時がチャンス!)
(この流れに乗れば、会長と海に……!)
かぐやと白銀はよもぎの方を見ながら口を開く。
「そう言う話もありましたね。まぁよもぎ君からの案ならせっかくですし行きましょうか。私も場所のセッティングならしますし、ねぇ会長?」
「あぁそうだな。せっかくよもぎが乗り気だし皆で行くか」
(何か既視感がある光景ですが……)
よもぎは、その光景に既視感を覚えながらも石上に話を振る。
「優はどうですか?海一緒に行きません?」
「海ですか……?」
そう呟いた石上は頭の中で妄想を広げる。
青い海、白い砂浜
男女のキャッキャウフフ
男女でのバーベキュー
そして、星空のもと海をバックに2人は熱いキスを……
「すみません……ちょっと僕は不参加で……」
「あ、そうですか……えっと大丈夫ですか?」
よもぎは、急に気持ち悪そうな顔になった石上を心配する。
石上はそれに大丈夫と返した後、ヨタヨタとソファーまで歩き、座り込んだ。
その様子を横目に見ながらも、白銀は倒れた理由を何となく察したため、そっとしておくことにした。
そんな中で、かぐやはよもぎに尋ねる。
「それじゃあ石上君は不参加という事で……それで天官くん?いつ頃予定とかはあるのかしら?」
「はい。出来れば夏休みの初週とかがありがたいです。」
「分かりました。それではその辺りで場所をセッティングしておきますね。……そう言えば初週って」
『私夏休み入ってすぐ一週間ハワイに行ってくるんですよ~』
白銀とかぐやの脳裏には先程の藤原の言葉が蘇ってくる。
暫く考えた後かぐやは口を開く。
「……藤原さんには後で私から言っておきますか。」
「頼む」
藤原不参加決定!
そこで白銀は口を開く。
「それでは、俺と四宮とよもぎの三人か……ちょっと少ないな。あと一人くらい誰か。」
「あっそれに関しては一人誘いたい人がいるので、その人誘っても大丈夫ですか?皆さんも知っている人なので。」
その言葉に白銀は驚いた顔をする。
「よもぎが誰かを誘うなんて珍しいな。誰なんだ?」
「あぁそれは早坂さんですよ。前にも世話になりましたし、個人的に仲もいいので。」
その言葉に白銀の脳裏に金髪の女子生徒が浮かび上がってくる。
(なるほど……あれ?これってもしかしてデートの丁度いい理由づけにされてないか?)
絶賛早坂とよもぎの仲を疑っている最中の白銀は、そんなことを邪推する。
しかし、そのよもぎの提案を切って捨てるほどの確証を得ていない白銀にその言葉を拒否する力はなかった。
「まぁそれなら納得だな。それじゃあ参加は俺、四宮、よもぎ、早坂の4人か。楽しくなりそうだな。」
そう言った白銀は窓の外を見上げる。
その姿はとても爽やかで、どこかにいる白銀フリークが見かけたら卒倒しそうなものであった。
(四宮と海、四宮と海、四宮と海、四宮と海、四宮と海……)
まぁ心の中はそこまで爽やかなものではなかったみたいだが。
「という事があって、今回早坂さんを海に誘ったのですよ。」
「なるほど……」
その話を聞いて早坂は取り敢えず事の経緯は納得した。
そのままよもぎは、話し続ける。
「こうすることで、早坂さんは自然な形で四宮さんとの旅行についていくことが出来るでしょう?そうすれば御行に感づかれることなく、四宮さんをサポートできるはずです。」
(まぁそう言うことでしょうね……)
その言葉は、早坂の予想と大きく外れたものではなかった。
しかし、問題はそこではなかった。
早坂は、話しているよもぎを問い詰める。
「誘った理由は分かりました。それではなぜ、あんな衆目の前で誘ったりしたんですか!?」
「へ?いや実は四宮さんから、そういうことなら早めに伝えた方が良いと言われて、電話でにしようとも思ったのですが、昨日はお忙しかったのか出られませんでしたし。後、四宮さんに、『人とどこかに出かける約束を人前でしない方が不自然』というアドバイスをしてもらったので、従ってみたんですけど……何か違いましたか?」
(あの主人は……!!!)
早坂はその怒りから震えそうになる体を落ち着かせながら、話しかける。
「いや、間違いじゃないですけど……今度からはあんな人前で誘ったりはしないでくださいね?」
「は、はい。すみませんでした。それで……どうですか?」
そのよもぎの問いかけに早坂は、返事をする。
「……まぁ行きますよ。」
「何か怒ってます?顔が赤いようですが……」
「別に!怒って!ません!」
そう言う早坂はであったが、よもぎ目線では完璧に怒っているように見えた。
その怒りは、よもぎが飲み物をおごることによって収まったのであった。
本日の勝敗 よもぎの敗北 (早坂に飲み物をおごることになったため。)
次話 かぐや様は悩殺したい