天官よもぎは知りたい 作:ミルクセーキ
この小説を書くモチベ以外にも、日常生活において様々な励みになっています!
気付かぬうちにもう7月ですけども、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします!
あ、今回若干短めです。
「かぐや様。何で私が怒っているのかお分かりですね?」
「さぁ?なんでかしら?」
早坂がよもぎからの海への誘いを受けた夜。
四宮家別邸のかぐやの部屋にて、早坂とかぐやは対峙していた。
本日、かぐやは早坂との接触を避けていた。
というのも、帰りについても早坂への連絡なしに、かぐやは早坂よりも早く帰り、早坂にはタクシーで帰させていた。
そして、家に着いてからもかぐやは他の使用人を使い、早坂との接触がないようにしていた。
しかし、早坂もただでは転ばず、こうしてかぐやと顔を合わせる機会を作ったというわけである。
早坂の剣幕に対して、かぐやはにやりと笑いながら口を開く。
「とは言っても本当になにもしていないのよ?私のアドバイスを天官くんが勝手に捉えて実践しただけですから。」
(しらじらしい……!)
早坂は言葉には出さないが、心の中でそう呟いた。
早坂が、よもぎと関わって分かったことであるが、彼は一部ではあるが、世間一般の常識がない部分がある。
それは、人との関わり方や、コミュニケーションという部分に関する常識である。
早坂は、その為によもぎとの会話の中で違和感があるのではないかと推測していた。
そして、早坂が考えつく部分には当然天才であるかぐやも気づいていた。
今回の件は、かぐやがそのよもぎの常識がない部分を使い企てた作戦であった。
早坂は、かぐやに対してまくしたてるように話しかける。
「大体ですね、私は学校では遊んでそうに見えて、男に対するガードが高いというキャラで売ってるんです!今回のでそのイメージが崩れてしまったらどうするんですか!」
「いや貴方の自己プロデュースの内容までは知りませんけど……」
早坂の想定外の言葉にかぐやは思わずツッコミを入れる。
しかし、この点は早坂にとって大きな問題点であった。
それは、ここまで早坂が築いてきた『早坂愛』という人物にほころびが出来る事となる。
そして、そのほころびのせいで早坂とかぐやの関係に直接気付く事はないにしても、何らかの影響が出てしまう事は考えられる。
早坂はさらに言葉を続ける。
「それに、その後の説明もかなり大変だったんですからね!話がねじ曲がらないように新しく噂を作って相殺したり、一人一人の誇張された勘違いを訂正したり!」
「そ、そうそれは……ごめんなさい。」
かぐやはその早坂の剣幕に流石に何も謝らないわけにはいかなかった。
そして、早坂はここでは語っていないものの、他にも困った現象が起きていた。
それは、他の男どもの誘いである。
突然ではあるが、早坂はモテる。
アイルランド人のクォーターとして生まれ、金髪碧眼という日本人離れした美しいルックス。
本人の本心はどうあれ、ギャルとして生活しているため、とても親しみやすい性格をしており、基本的に優しい。
そんな早坂は、遊んでいる男子はもちろん、所謂陰キャの男子にも人気が高い。
しかし、当の早坂には遊んでいるような風貌とは裏腹に男の影がなく、誘ってみてもガードが固いイメージがついている。
その為、親しみやすくはあれど手の届かない、高嶺の花という扱いを受けていた。
一方の天官よもぎ。
こちらの人気はそこまでといったところであった。
一応生徒会に所属しているとはいえ、やはり矢面に立つのは白銀とかぐや。
その為、生徒会庶務天官よもぎという男の存在というものは、あまり知られていなかった。
更には本人のエージェント業務と効率重視な性格に起因して、普段から、必要以上に人と関わる事はしない。
また、成績上位者ではあるが、この学年での目玉はやはり白銀とかぐやの為、あまり周囲の印象には残っていなかった。
その為、知り合いを除くと、一部のミステリアスな部分が好みな人間や、一時期流れた早坂との噂を聞いたことがある人間以外では、同年代でも認知されていない存在であった。
特に男子からは、「あぁいたねそんな名前の奴。でもどんな奴かは知らないよ?」という評価を受ける人間であった。
さて、そんな早坂とよもぎが夏休み海に行こうという話をしており、更にはそこそこ親し気に話していて、早坂もまんざらでもないような表情を浮かべていた状況を見た男子達はこう考えたわけである。
「あれ、あんな目立たないような奴でも行けるなら俺でも余裕で誘えるのでは?何なら付き合えるのでは?」と。
そう考えた猿ども……もとい男子達はやんちゃしている奴を筆頭に早坂にアプローチをかけていったのである。
(考えてもみてください!一人一人その気がない相手の相手をして丁重に断るめんどくささを!)
とはいえそれは、男子側の都合であり、実際に被害にあった早坂からするとたまったものではなかった。
最終的には、駿河や火ノ口を筆頭とした女子軍団の心無い言葉によって、男子達は崩れ去っていく事態にまで発展した。
いつの時代も、団結した女子に、男子はかなわないのである。
そんな事は置いといて、早坂はため息をつきながらかぐやに話しかける。
「とにかく!この様な事はもうやめてください!私と庶務君はそう言う関係ではないですから!」
「そう?それにしては貴方誘われた時まんざらでもない表情を浮かべてましたけど?」
「それは……!」
そのかぐやの言葉に早坂は顔を真っ赤にして、口ごもる。
その表情からかぐやは勝ちを確信して、早坂に話しかける。
「まぁ?認めないのも勝手ですけど?早く認めた方が楽になると思いますけどね?」
「鏡に向かってしゃべられているのですか?」
早坂はそのかぐやの言葉に思わずツッコミを入れる。
それは、本人には聞こえていなかったのかかぐやは続けて早坂に話しかける。
「それにしても、今日貴方がここに来た理由はその文句を言うだけかしら?それだったらもう下がっても良いわよ?」
「……いえ。本日の本題は別にあります。」
勝ち誇ったように言うかぐやに対して、早坂は務めて冷静に話しかける。
「かぐや様。海に行くのは勿論いいのですが、水着の事は考えておいででしょうか?」
「!?」
水着!
それは、海水浴において必須のファッション。
昔は数が少なく皆似たようなものであったが、現代では様々なデザイン、機能が発表されており、水着と一言で言ってもそれを指すものは数多く存在する。
そして、水着というものは女子が男子を落とす上で必須のアイテムと言えよう!
暑さにより開放的になる、夏の季節。
そんな時に気になるあの子でなくても、女子の水着姿などを見ることが出来た暁には、男子高校生は有頂天!
すぐに陥落してしまってもおかしくないのである!
それを聞いたかぐやは顔を真っ赤にする。
(そうよね!海という事は水着になるという事!会長の水着姿……)
そんなかぐやの頭の中は、白銀の水着姿でいっぱいになる。
そうして徐に視線を下げたかぐやの視線に入るのは己の胸。
その瞬間あるイメージが、かぐやの脳裏をよぎる。
(けど……もし会長がこの胸を見て……)
『なんだ、四宮?随分とお可愛い胸だな?』
「!?!?!?」
(赤くなったり、青くなったり忙しい主人ですね……?)
その想像をしたかぐやの顔は真っ青になる。
無論こんな変態チックな事、白銀は言うわけないのだが、そんなのは妄想しているかぐやには関係ない。
そんな主人を見て、早坂は先ほどの恨みを晴らすかのごとく心の中で愉しんでいた。
そんなかぐやの妄想は止まらない。
(ちょっと待って。今回は早坂も使用人じゃなくメンバーとしてついてくるのよね?)
そう考えると、かぐやは早坂の胸元らへんを見ながら口を開く。
「早坂……」
「はい。どうされましたかかぐや様?」
「貴方、当日ダイビングスーツとか着ときなさいよ。」
「かぐや様に人の心とかないんですか?」
しばらくして、かぐやの部屋の中に様々な種類の水着が運び込まれてきた。
「取り敢えず、色々な水着を用意しておいたのでこの中からお選びください。」
「えぇ分かったわ。」
気を取り直して、かぐやは、早坂が用意した数多くの水着の中から気に入ったものを探そうと物色し始める。
そんなかぐやに早坂は声をかける。
「かぐや様は、どんなものが良いとかの希望はあるのですか?」
そう早坂が声をかけると、かぐやは早坂の方を向いて、自慢げに口を開く。
「もちろん!会長を悩殺できるようなものが良いわね!」
「悩殺ですか……」
そのかぐやの言葉に早坂は思わずオウム返しで反応してしまう。
「えぇこのナイスバディとそれに合う水着を使って、会長を悩殺してあげるのよ!そうすれば夏の解放感に誘われて会長は哀れにも私の前で跪いて告白をしてくるでしょうね。」
「はぁ……」
そのかぐやのプランを聞いた早坂はかぐやの体を頭の先から足の先まで見る。
そして、口元に手を置きながら口を開く。
「ナイスバディ(笑)」
「どうやら、すぐにでも家の近侍をやめたいらしいわね?」
そう言うと、かぐやは早坂の方を見る。
その眼はかぐやが生徒会に入る前の、氷のかぐやと言われていた時のような眼であった。
その眼に早坂は、これ以上煽らないようにしようと心に決めると、一つの水着を手にとってかぐやに差し出す。
「失礼しました。それならばこれなんかはどうでしょうか?」
「これは……?」
そうして早坂が手渡したのは、黒いビキニタイプの水着であった。
「はい、そちらは一般的に三角ビキニといわれるものですね。黒とビキ二という関係性は抜群の物ですし、それに何よりこれはパッド入りです。」
「なるほど……」
パッド!
それは、俗に偽乳ともいわれる、胸にする詰め物である。
これをしていると一見胸があるように見せることが出来、男子を誘惑するにはもってこいの代物!
他にもヌーブラと呼ばれるものもあるが、パッドはヌーブラと違い、肌に直接付けることなく、水着入れることによって簡単に調節が可能!
更に肌につけるものではないため、いざというときに剝がれてしまうという心配もない!
今回早坂が持ってきた水着のほとんどが、パッドを入れたり、ヌーブラを付けて胸を盛るタイプのものであった。
主人の悩みは本人に聞かず、言われずとも解決する。
これが出来た近侍というものなのである。
一方その水着を持ったかぐやは顔を赤くする。
「でもこれ胸元が大きく開いてない?ちょっと破廉恥すぎるというか……」
「いやまぁ、そう言うのがコンセプトの水着なので……」
そう早坂が伝えるが、かぐやは流石に恥ずかしいのか、その水着を置く。
「早坂!他になんかいいやつとかはないの?」
「そうですね……これなんかどうですか?」
そう言って早坂はまた新たにもう一つ水着を取り出した。
「これは、ワンピースタイプの水着です。これなら胸元も大きく出てませんし、そこまで破廉恥な印象は与えないかと。」
「これなら……」
そう言ってかぐやは水着を持ちあげる。
早坂は決まりかと思い、ホッと一息をつく。
しかし、次の瞬間かぐやは大きな声を上げる。
「は、早坂!これ!これ!」
「どうしたんですか?さっきまで気に入ってたみたいですけど?」
「だってこれ後ろほぼ裸じゃない!」
そうかぐやが言う通り、今回早坂が提示した水着は前が大人しめな物の代わりに後ろが大きく開いており、背中が見えるようになっていたデザインであった。
その様子に早坂は思わずため息をつく。
「かぐや様あのですね?会長さんを悩殺したいんじゃなかったんですか?」
「そうよ!悩殺したいのよ!けどもう少し大人しめの水着というか、もう少し肌面積の少ない奴が……」
「甘い!」
「!?」
その早坂の大きな声にかぐやはビックリする。
そんなかぐやをよそに、早坂は話し続ける。
「いいですか?水着を使って男を悩殺するには、胸とか肌とかを見せるのが一番効果的なんです!それだというのにかぐや様は変に恥ずかしがって……」
「しょうがないじゃない!恥ずかしいものは恥ずかしいんだから!」
「いいんですか?これだと会長さん胸が大きいだけの破廉恥女に取られて行きますよ?」
その早坂の言葉にかぐやは妄想をする。
夕暮れの夏の海辺。
そこに並んで座っているのはかぐやと白銀ではなく、顔が藤原似の谷間を強調した水着を着た女と白銀だった。
その2人はかぐやが見えていないような素振りして、楽しそうに話し始める。
そして、2人はかぐやの前でキスを……
「許さない……皮を剥いでマリアナ海溝にでも沈めてやる……」
「いや怖ッ」
早坂はそのかぐやの変わりように思わず後ずさりをする。
その状態のかぐやは早坂の方を向いて口を開く。
「早坂……」
「は、はい。」
「何としても会長を悩殺する水着を見つけるわよ……」
そうして、かぐやの水着選考会が始まったのであった。
「なかなか決まらないわね……」
「そうですね……」
(大半はかぐや様が気に入らないからなんですけどね……)
早坂はそんな事を思いながらも、水着を探し続ける。
選考会が始まってかなりの時間が経ったが、まだかぐやの求める水着は見つかっていなかった。
そんな中で、かぐやが徐に立ち上がる。
「どうされたんですかかぐや様?」
「少し外の空気を吸ってくるわ……」
そう言うとかぐやは、一人で部屋から出ていく。
そうして、早坂は部屋に一人残された。
(はぁ……取り敢えず片付けていきますか……)
早坂はため息をつきながらも、かぐやに反対された水着を片付け始める。
そうして居るうちに、早坂の視界に一着の水着が飛び込んできた。
それは、かぐやが最初に胸元が空き過ぎという理由で、却下した黒のビキニだった。
「これは……」
早坂はその水着を手に取る。
そうして少し考えた後立ち上がり、姿見の前でそれを体に合わせてみる。
その姿は黒い水着と、金髪がとてもあっており、とても似合っていた。
早坂はその自身の姿を見ながら、ひとりの男の姿を思い浮かべていた。
(彼なら何でも褒めてくれそうですけど……というかあの人そう言う視線全然向けてこないですし……でも……)
「これなら……」
「これなら……何です?」
「!?」
その言葉に早坂は驚いて振り返る。
そこにはニヤニヤと笑みを浮かべたかぐやが立っていた。
そんな状況に早坂は、顔を真っ赤に染める。
「何やら水着を持って姿見の前で合わせてたみたいですけど……」
「いやこれは……」
その問いかけに早坂の顔はどんどんと赤くなっていく。
「それで……何がこれならなんですか?」
「さ、さぁ早く水着を決めましょう!」
そう言うと早坂は、手に持った水着を乱雑に置き、恥ずかしさを誤魔化すように手当たり次第に、色々な水着を物色し始める。
しかし、その顔は相変わらず真っ赤であった。
その様子を見て、かぐやはふと思う。
(それにしても早坂随分様子が変わったわね……)
(そうそれはきっと……)
「ど、どうしたのですかかぐや様?」
そう言う早坂はまだ何か言ってくるんじゃないかとかぐやの方を見つめる。
その様子にクスリと笑って、かぐやは早坂に返答する。
「いえ。さっさと選んでしまいましょう。」
そう言うと、かぐやは一つの水着を持ち上げ、その瞬間顔を真っ赤にする。
「何よこれ!ただの紐じゃないの!」
「あぁそちらは、スリングショットという水着です。それを着れば男はイチコロですよ?」
「こんなの痴女じゃないの!?そ、そんな言うなら貴方が着ればいいでしょ!?」
「嫌ですよ!そんなの着るの痴女しかいないですよ!」
「じゃあなんで持って来たのよ!」
その夜四宮家別邸には夜遅くまで、少女たちの話し声が響いていたそうである。
次話 白銀御行は泳げない